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column

Page One

 「新年度から導入する新しい人事制度について説明します。」
人事制度を大幅改定する時には、社員の納得を得るために丁寧に説明する必要がある。美しく編集したパワーポイントの資料を指し示しながら、人事部長の説明が続く。
「最初のページは新しい制度の概要を示しています…」

 最初のページには、たいてい、「新制度方針」や「新制度概要」が記される。新しく導入する制度の根本的な考え方や、眼目となる部分について述べる重要なページだ。
 
 X社の「新人事制度概要」にはこんなことが書いてあった。
‐わが社は人を大切にする会社。社員の雇用を絶対に守るという方針は変わらない。
‐わが社は、「主力製品に資源を集中し、我が国最高レベルの技術力を磨く」という戦略を
掲げた。新人事制度はこれを支えるものだ。
‐だから、新人事制度を通じて社員の専門能力を高め、卓越した競争力を構築する。
‐社員の一人ひとりが、自分のキャリアを自律的に組み立てていくことが制度の眼目だ。
‐人材育成には最も力を入れることとし、積極的なローテーションを実施する。
‐個々人のライフイベントに寄り添い、多様な働き方を可能にする。残業の削減を徹底。
‐職場や仕事の異動がないコースと、あるコースとを設け、自由に選択できるようにする。
‐給与は競合他社に負けない水準とし、職務に応じた、メリハリのある処遇を実現する。
‐希望する者は、70歳まで働ける制度にする…云々

 戦略を支える良い人事制度だ。しかも、現代のキーワードが数多く織り込まれているではないか。きっと、働きやすくて良い会社になるぞ・・と感じる。しかし、待てよ。よく考えてみるとわかりにくい所があるではないか。
積極的にローテーションをしながら他社を凌駕する高い専門性が養えるのだろうか? ライフサイクルに応じた手厚い休業制度で空いた穴は、誰がカバーするのだろう? 事業領域を絞る戦略なのに、皆が自分のキャリアを勝手に組み立てて 、辻褄が合うのか? 社員のほとんどが転勤しないコースを選んだら、仕事は回るのかなあ? 我が国最高レベルの技術力に、60歳超えの高齢者が貢献できるだろうか? 去年並みの賞与出るかなあ…?

 Y社の「新人事制度概要」には少し違うことが書いてある。
‐当社の、人を大切にするという方針は変わらない。
‐わが社は、主力製品に資源を集中し、社員の専門能力を徹底的に伸ばして他社を凌駕する。
‐社員の一人ひとりが、自分のキャリアを自律的に組み立てていくことが制度の眼目だ。
‐多様な能力開発の仕組みを整え、社員の志を支える。自らのキャリアプランに沿う仕事を選べばよい。
‐就くべき仕事が見つからない者、専門性が会社の戦略に馴染まない者、45歳を超えて志す能力を身に着けられない者には、リスキリングの機会を与える。
‐それでも貢献の場が見いだせない場合には、社外のキャリアを追求できるよう、会社が全力で支援する。
‐給与は職務と成果に応じて支給する。
‐プランどおりのキャリアを進み、社業に貢献できる限り、何歳まで働いてもよい。リタイアメントは自分で決める。

 人事制度の設計において、背骨になる考え方は重要だ。時代を代表するさまざまなキーワードを研究することは意義のあることだが、会社の進むべき道をはっきり意識して制度の方針を説き起こしていくプロセスは、もっと大切だ。
「釈然としないが、まあ、いいっか!」と、X社では、いつものとおりの日常が回っていくだろう。Y社では、人が去り、そして、人が集まるだろう。

以上

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