急成長するスタートアップほど陥る「役割の歪み」―成長を止めるのは人ではなく組織OSである
「優秀な人を採用したのに期待したほど活躍しない。」 「管理職を増やしたのに、結局、自分のところに相談が集まる。」 急成長するスタートアップの経営者から、このような相談を受けることが少なくありません。 一方で、こうした課題を抱える経営者ほど、組織や制度の整備には慎重で、「制度を整えると、大企業のようにスピードが落ちてしまうのではないか。」ということを懸念しています。 この感覚は自然なものです。スタートアップは、制度ではなく、優秀で意欲的な人材の裁量とスピードによって成長してきました。 その強みを失いたくないと思うのは当然でしょう。 しかし、会社の成長を止めるのは制度ではありません。本当の課題は、事業の成長に対して「組織OS」の整備が追いついていないことです。 組織OSとは、役割や責任・権限の体系、評価や育成の仕組みなど、事業戦略を継続的に実行するための組織の土台です。 そして、その不備が最も分かりやすく現れるのが「役割の歪み」です。 役割の歪みとは、組織の成長に対して役割・責任・権限の設計が追いつかず、意思決定や組織運営が個人依存になった状態を指します。 本来、組織とは、個人の能力や経験に依存していた仕事を、役割と仕組みに置き換えるものです。誰か一人の経験や判断に頼るのではなく、組織として知見を蓄積し、再現できる状態をつくることで、人が入れ替わっても事業は成長し続けます。 創業期のスタートアップでは、人数も少なく、経営者が組織全体を直接把握できます。一人ひとりが役割を越えて動くことが成長の原動力となるため、この段階で厳密な役割設計は必ずしも必要ありません。経営者自身が組織設計の代わりを担っているからです。 しかし、組織が拡大しても「人が何とかする」という前提のままでは、やがて限界が訪れます。 特に200~300名規模になると、経営者が全社員を直接把握し続けることは難しくなり、管理職を介した組織運営が必要になります。 そのときに、役割や責任・権限が曖昧なままだと、「あの人しかできない」「最終的には社長が決める」といった状態が組織のボトルネックになります。 この問題は管理職層で顕著に現れます。 優秀なプレイヤーを管理職に登用しても、成果責任や権限が整理されていなければ、任せたくても任せられません。また、多くのスタートアップではマネジメントを体系的に学ぶ機会が少なく、管理職層が十分に育たないという課題もあります。 では、経験豊富な管理職を中途採用すれば解決するのでしょうか。実際にはそう単純ではありません。役割や意思決定の仕組みが整っていない組織では、他社で成功した管理職であっても十分な成果を発揮できないことがあります。マネジメントは個人の能力だけで成立するものではなく、機能するための組織基盤が必要だからです。 つまり、「社内では育たない」「外から採用しても活躍しない」という現象は、人材の問題というより、役割設計の問題なのです。 重要なのは、制度で人を管理することではありません。経営者が担ってきた意思決定を、組織の仕組みとして再現できるようにすることです。そのためには、事業戦略から逆算して役割を定義し、その役割に責任と権限を一致させる必要があります。そして、それぞれの役割を担う人が自律的に判断できる状態をつくることが重要です。 スタートアップは、人が会社を成長させます。しかし、会社がさらに成長するためには、「人が会社を動かす」状態から、「組織が会社を動かす」状態へ移行しなければなりません。 役割の歪みを放置したままでは、会社の成長は経営者個人の能力や時間を超えられません。一方で、組織OSが整備された会社は、経営者が現場を離れても、自ら意思決定し、学び、成長し続けます。 成長の壁を越えられるスタートアップと、越えられないスタートアップを分けるのは、人材の優秀さだけではありません。組織を支える「OS」を構築できているかどうか。その違いが、企業の未来を大きく左右するのです。





