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雇用調整施策・支援

column
望ましいFIREムーブメント | 人事制度運用支援

望ましいFIREムーブメント

 年末、高校のクラス同窓会に出席した。今回はZOOMを使って、リモートで開催された。毎回、一人一人の近況を聞くのを楽しみにしているが、最近は、親の介護や子供の就職、結婚等がメインだが、今年、大半が定年を迎えるため、定年後にどこで働くのか、どんな生活をするか等、自らの今後のキャリアを語る同級生も少なくなかった。  いつのころからか、「FIRE」という言葉を耳にするようになった。「FIRE」と言っても、ドナルド・トランプ氏の「You are fired!」ではなく、「Financial Independence, Retire Early」の頭文字をとったもので、経済的な安定を確立して、早期にリタイアを実現しようという取り組みを言うものだ。 FIREはいまやムーブメントになっている新しい生活スタイルで、日本でも若い世代を中心にFIREへの関心が高まっていると言われている。  我々の20代の頃も、若いうちから猛烈に働いて、早期にリタイアして、自由に余生を楽しむことを目指している人々は、いるにはいたが、ごく少数だった。少なくとも、さきほどのリモート同窓会で集まった友人たちの中には、早期リタイアして、悠々自適に暮らしている同級生はいない。  そのFIREがムーブメントになり、多くの若い世代がそれを目指している背景には、何があるのだろう。その一つは、過去と比べて、今の若い世代の将来に対する期待が、過去と比べてずいぶん異なる事にあるように思う。かつては、日本でも経済成長が続き、毎年、賃金が上がり、それに合わせて、日々、社会も個人の生活の質も向上していく感覚があった。もっと頑張れば、もっと豊かになるという事を実感できていることは、励みになるし、働くモチベーションにもなる。  ところが、我が国では、バブル経済崩壊後、しばらくすると、デフレが進み、GDPもこの20年、400~500兆円あたりで横ばいを続け、経済成長が鈍化したままで、その結果として、個人の給与水準の上がらない構造が続いている。国税庁の民間給与実態統計調査でも、10年以上の間、平均年収400万円台前半の水準で推移し続けている・・。  こうした社会環境の中で、働くことに対する喜びを見出そうとしても、なかなか活力が湧き出てこないというのも、わかる気がする。いっそのこと、早く経済的に自立して、後は、好きなことをして暮らしたいという気持ちがでてくるのも自然な事だ。  さらには、ここ10年の株価の上昇トレンドをみると、まとまった金融資産をうまく回せば、それなりの利子が確保できそうに思える事や、YouTuberなど、個人がネットメディアに発信することで、世界を相手に、巨額な収入を得られる仕組みが出現したことも、いわゆる会社勤めをやめて、好きなことをして生きていきたいという風潮を後押ししているのかも知れない。  FIREムーブメントには、賛否両論あり、シニア世代には、否定的な意見を持つ人も少なくないようだが、  個人的には、若いうちから猛烈に自分を磨いて、働き、いずれFIREを実現しようという想いを持つことは悪いことではないと思っている。むしろ、若いうちから、やる気も将来の見通しを持たず、ほどほどに仕事をして、将来のあてもなく、漫然と生きるよりは、よっぽどよいと思う。  ただ、FIRE実現後の人生は、いま、それを目指している人の思い通りではないように思う。起業して株式を公開し、若くしてリタイアをした私の友人、知人達も、しばらくして、また、ビジネスの世界に戻って来ている。多額の資産の利息だけで、生活するのも、しばらくは良いかもしれないが、いずれ飽きるのが人間だ。 人生100年時代の後半を、自分の能力、スキルも磨かずに、のんびり生きることには、やがて耐えられなくなってしまう事だろう。  生活費を切り詰め、ほどほどに働きながら、収入の大半を貯金に回して、こじんまりとした余生を目指すFIREというのもあるかもしれないが、どうせなら、豪快なFIREを目指してほしい。多くの若い世代が、将来のFIREを目指して、猛烈に働くことは、沢山の価値が社会に生み出されることになり、世の中にとって、明らかにプラスだ。そして、経済的自立を得た後も、会社からリタイアしても、人生のリタイアはせず、自分らしいやり方とペースで、社会に貢献し続けるFIREを目指すのであれば、多いに歓迎したい。

二つの時限爆弾 | 雇用調整施策・支援

二つの時限爆弾

 日本の大手企業の人員構成は企業の歴史が色濃く反映しています。代表的な人員構成は50歳台が少し多く、バブル期採用の40歳台社員が非常に多く、30歳台社員が少なく、20歳台社員が極端に少ないという構成です。年齢別の人員構成では45歳以上社員に大きなコブがあり、逆に30歳台20歳台が非常に少ないという歪な構成です。企業の業績が低調な中で最近の人事問題として深刻さを増してきているのはこのバブル期大量採用世代の問題です。これはすでに20年以上前から指摘されてきた問題です。バブル崩壊後のリストラブーム当時では、団塊の世代問題という50歳台の高齢社員の人数が多すぎ、そのため50歳代社員の削減が大きな人事問題でした。この時すでに突出した年齢層の社員が存在することが企業の人事管理上大きな問題であることが認識されていましたが、その後の20年間でバブル期大量採用世代の問題に抜本的な改革が行われずに来てしまったために、ついにこの歪な中高年社員偏在問題が顕在化深刻化しています。 そもそも短期業績がよいからといって新卒正社員の採用を大量に行うことは人事理論上全くナンセンスですが、ついにこの大量採用世代が企業の中核的存在としての年齢層となり、人件費の高騰化や管理職社員の余剰、活性化の阻害など極めて深刻さを増しています。バブル期の経営者が仕込んでしまった時限爆弾です。この問題のインパクトは非常に大きいとともに、今後10年〜20年長期にわたりこの問題に悩まされることが容易に想像されます。現在の業績低迷期にこの時限爆弾が爆発しかけてきており、さらには65歳までの雇用義務化が追い打ちをかけます。この爆弾処理は大規模な人員削減を行うか、年齢に関係のない人事制度にするか、企業が飛躍的に成長するかのいずれかの解決策しかありません。現在の経営者は過去の経営者が仕掛けた時限爆弾に対しての処理を求められているとも言えます。  この時限爆弾とともに、静かに進行しているもう一つの時限爆弾があります。すでに導火線に火が付き始めていますが、現時点では前述の時限爆弾処理もあり、あまり真剣に議論されていません。もう一つとは10年後20年後に企業の中核を担うコア人材が不足するという大問題です。バブル崩壊後新卒採用は抑制傾向にありました。特にリーマンショック後は新卒採用をストップした企業も多く、歪な構造がより一層悪化してしまいました。業績低迷時でも一定の新卒採用を行わなければ企業の中長期的発展は望めません。短期的視点で人件費抑制のために新卒採用を大幅に縮減すること自体も人事理論上は問題があります。新卒社員を大幅に抑制し続けている企業は、企業活力が次第に衰えるとともに、将来を担う人材を調達していないという点で、あまりにも短期的な視点と言わざるを得ません。不足している年齢層は中途採用すればよいと言う企業は、新卒から企業のコア人材を育成が必要でないと言っているようなもので、自社独自のビジネスモデルやマインドを軽視していると言わざるを得ません。  この同時進行している二つの時限爆弾を同時処理することが、将来の企業の継続的な繁栄の基盤となります。短期的、損益的視点で新卒社員採用を軽視する経営者や人事部門は将来に責任を持っていると言えません。まずは単純に将来20年後までの自社の人件費や人員構成のシミュレーションを定量的に目の当たりにすることが必要です。感覚的な議論ではなく目に見える形で将来の姿を数字として直視しなければ将来への経営責任を果たしているとは言えません。知らないうちに次の世代の経営者に対して新たな時限爆弾をセットしているとも言えます。