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column

グローバルキャッチャー

 わが国の人口動態は極めて悲観的だ。生産年齢人口の比率は2020年の約60%から次第に縮小し、2050年には50%あまりに低下する。国力を維持するためには労働力の確保が喫緊の課題であるが、女性の働き手の増加は概ね天井を打った。あとは、高齢者により長く働いてもらうか、外国人の労働者の力を借りる以外に打ち手がない。
 他方、わが国企業のイノベーションは他の先進国に比べて遅れていると言われる。新しい発想を生み出すには人材の多様性が欠かせないが、総合職中心の年功序列・長期雇用の雇用慣習はむしろ、組織の同質性を助長する。この同質性を壊す施策の旗手は女性の社会進出だが、外国人の雇用も人材多様化の強力な一手になる。
 いずれの側面を見ても、わが国の健全な発展のためには、外国人雇用を格段に増やすことは避けて通れない課題だ。

 

 この状況に直面し、行政は、特定技能制度を導入したり、高度人材(高度専門職)制度を整えたりして、外国人にとって働きやすい環境を整備しようとしている。これまで、「技能実習制度」という耳に聞こえの良い言葉で安い労働力を確保しようとしてきた歴史があったが、今後は、そうではなく、本質的に外国人の知恵と技能を借りる方向に舵をきったと思える。
 長く外国人の受入に消極的だったため、こうした行政措置については運用に慣れておらず、ちょっと腰が引けているのではないかと訝りたくなる面もあるが、法律を変えてでも何とか外国人を誘致しようとする姿勢は評価できる。

 

 さて、企業の側はどうか。医療・介護や建設の現場ではすでに数多くの外国人労働者を受け入れているが、深刻な人手不足は解消されていない。また、ICTにかかわる業界においても外国人を登用しようとする動きが活発になってきている。なにしろ、わが国の大学や大学院が輩出する人材だけでは、ICT技術者の需要を満たさないという事情があるのだ。
 ところが、多くの企業において、外国人を雇用する土壌が整っていない。まずは何よりも言葉の問題である。英語で話すことを苦手とする社会的事情は、ここ数十年まったく変わっていないのではないか。世界に目を向けると、第二外国語であれ英語を使って生活する人の数が15億人、全人口の約2割である。母国を離れて仕事をしようとするような人は、ほとんど英語を話す。一部のサービス業を除いて、仕事をするのにまず日本語を覚えなさい、というのはグローバルスタンダードから見れば無体な話だ。

 次に、人事管理の問題。わが国に少なからず残っているのが、年功序列の慣習である。この仕組みの下では外国人の安定雇用は無理だ。年功序列には、若年の時代に相対的に低い報酬を甘んじて受け、中高年になってからその分高い報酬を受けて、生涯収入でペイするという性質、つまり、「賃金の後払い」がある。もともと長期雇用を前提としてないであろう外国人の若年層が、これを受け入れるはずがない。
 良い例は、ICTの領域でスポットライトが当たっているインド人だ。この国の人々は、仕事に対する姿勢が日本人と少し違うと言われる。報酬をはじめとする労働条件が有利である限りにおいて雇用されるが、相対的に良い条件の雇い主が現れれば、躊躇なくそちらに鞍替えする。日本人が考えるほど雇い主に対するロイヤリティは高くないと考えるべきだろう。だから、長期雇用と年功序列の制度・慣習をそのままに、インドの優秀なICTエンジニアを雇い入れ長く働いてもらおうというのには無理があるのだ。

 

 出張先の関西のホテルで朝食をとったときのこと。欧州人や中国人の客と、英語や中国語を操って朗らかに談笑するサービススタッフがいた。尋ねてみるとベトナム人だ。業務指示は日本語で受けるのだそうだ。サービス品質も語学力もたいしたものだ。これを見て思った。私たちは、ビジネスマンとして内向きに過ぎないか。経済の先進国だと高を括っていると、もはや危険水域に立ち至ってしまうのではないか。
 昔、果敢に対外進出を志し、見知らぬ土地に出て行って働くことにあこがれた高度経済成長時代があった。今は、多くの外国人を受け入れるために、やはり、グローバル化を図らなければならない時代だ。私たちは、世界の労働力を受け入れるキャッチャーとして雇用の在り方を根本から考え直し、私たち自身の内なるグローバル化を進めなければならない。

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