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調査・診断(組織分析)

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外部視点評価を過信するな(アセスメント活用の勘所②) | 人材アセスメント

外部視点評価を過信するな(アセスメント活用の勘所②)

 管理職の登用試験として使われるアセスメント(アセスメントセンター方式)は、シミュレーション演習下の候補者たちの言動をアセッサーという専門家が観察・評価する。それが登用試験として効果的なのは、「入学評価」つまり、まだやったことのない管理職の必要な能力をもっているかどうかの見極めができるからだと、前回書いた。  社内評価は、環境要因や情状、主観も影響するし、どうも能力評価が正しいかどうかもあやしい。だから客観的で正しいであろう外部視点評価を使う、ではないことに留意したい。あくまでも、社内評価=現状職務での能力発揮に対して、アセスメント=「未経験の職務」の能力発揮可能性を測定できることの効用、ということだ。  ことさらにこう書くのは、ときに、アセスメントの結果だけで管理職の登用判断を行っている会社もあるからである。アセスメントは、管理職能力発揮可能性を診るには信頼性の高い、しかも相対評価でない絶対評価の手法ではあるけれども、そこには、すぐれた効用とともに限界もある。だから、テストとして合格点クリアだけで登用者を決めるという単純な運用をすることにはリスクがある。   よくなされているように、社内評価(人事考課を含む経営の評価)の高低とアセスメント結果の高低を二軸にとって、4象限にプロットし、ギャップある象限の人たちを個別詳細に検討するといった総合的な判断は、最低減必要なことである。そのポイントは、ギャップの原因を、総合点だけではなく、ディメンションごとに検討することだ。たとえば、オペレーショナルな能力(情報理解力、分析力など)と経営的能力(戦略立案力、視座の高さ、人材育成力など)にわけて見る。  前者は、現状職務と今後になう管理職務でも通底するから、ギャップがあれば気になるところだ。【社内>アセスメント】であれば、その人には専門性や業務習熟の面で強みがあるのかもしれないし、【社内<アセスメント】であれば、現状職務や職場とのミスマッチに起因するのかもしれない。後者の経営的能力は、現状職務では求められていないことも多いから、アセスメントならではの能力評定判断として優先できるが、権限移譲して管理職務を一部担わせているような場合、その社内評価とのギャップがあれば、その理由についての検討が必要だろう。  とくに、注意が必要なのは対人能力である。そこに、アセスメントという手法の限界があるからだ。アセスメント・ディメンションは、①思考系能力(課題解決や方針・計画を策定する力) ②対人系能力(他者を理解し動かす力) ③資質・姿勢(達成志向や自律一貫性) の3カテゴリーに分かれている。うち、①と③は、かなり正確に測れるけれども、②の評点には注意が必要なのである。  なぜか。シミュレーション演習のなかでは、対人行動は「演じる」ことができるからである。演習のなかに、「面接演習」というものがある。アセッサーが厄介な部下役となり、部下面談をやってもらうものだが、試験として観察されているわけだから、実はハラスメント満々の人でもそれをおくびにも出さずに、正しい部下コミュニケーションを演じたりする。本性を見たいアセッサーは、ことさらに嫌な態度で応えるのだが(まれにそれが昂じて、リアルに喧嘩になってしまうほど)、思考力の高い人であればなおのこと、効果的な演技に徹する。  逆に、アセスメントでは対人系能力の評点が低い人が、実は、日常業務ではたいへんな「人たらし」で仕事の成果を出していたりする。この対人能力も、アセスメントではたいへん見にくい。シミュレーションのなかで、人をたらしこむ必要もないし、そもそも、個々人の行動発揮から保有能力を測るアセスメントでは「他者を動かし、他者を巻き込んだ」行動発揮は、見ようがないからである。  もう一点、留意すべきアセスメントセンター方式の限界がある。アセスメントは、モチベーション=内発的動機を無視していることだ。内発的動機は、思考力とくに創造や発想、企画に関わる能力の原動力であることが認知科学領域では定説である。しかしアセスメントは、アウトプットされた行動から思考力を推察するものだから、アタマのなかのメカニズムは見られない。思考力を駆動する内発的動機をもつ人の強みには関知しないのだ。  たとえば、目の前の仕事が大好きで、なんとかお客さんに喜んでもらいたい、価値提供したいとエンゲージされ、日常業務では高い能力を発揮している人が、「あなたは、〇〇工場に工場長として赴任しました…」というシミュレーション・ケースに臨んだとき、持ち前のモチベーションの高さが再現できなくても不思議ではない。結果、思考力の評点が低く出ているとすれば、そのギャップは慎重に検討すべきだろう。  ゆえに、アセスメントの効用(と限界)を正しく理解し、社内評価や社内での職務状況とのギャップを併せ、総合的な登用判断を行うことが必要なのである。 *アセスメント活用の効用と留意について提起する3回シリーズ。 ■「登用の失敗」はなぜおこるか(アセスメント活用の勘所①) ■外部視点評価を過信するな(アセスメント活用の勘所②)今回 ■VUCAリーダーをどう見極めるか(アセスメント活用の勘所③)2025年5月予定 本コラムの筆者が登壇! ぜひご来場ください。詳細はこちら 【対面型セミナー】「失敗しない管理職登用判断の方法」 ~人事が知っておくべきアセスメント活用のポイント~

会社の魅力の育て方 | モチベーションサーベイ

会社の魅力の育て方

 「いま、みなさんが大学生だったとして、御社のどこを魅力だと感じて入社しますか」 人事制度変革をご支援する中で、クライアントの特徴、その企業らしさを言語化するために、ワークショップでこのような質問を投げかけることがあります。  とある中小企業のお客様のなかに、「若い時に戻れるなら、同じ業種の大手企業へ入社したいなぁ。そっちのほうが給料も高いし、休みも多いし。」と発言される方がおられました。ほかの参加者もこの発言に影響を受けてしまい、「うちの会社は給料が安い」「シフト制で休みが少ない」など、他社と比較し劣っている点を次々と挙げられました。「アットホームで社員同士仲が良い」「地域密着のビジネスで転勤がない」といった良いところも挙げられましたが、ほかの企業と比べて突出している点ではないとの意見が出て、それ以上、魅力について掘り下げることができず、結局、自分たちの会社に特徴や魅力がない、という意見にまとまってしまいました。  たしかに、多くの中小企業は、給料や休日休暇など、処遇面で大手企業に見劣りしてしまうことが多いです。独自のビジネスモデルを持っていない場合は、なおさら自社の魅力を問われても、どう説明したらよいか、難しく感じてしまうのでしょう。  ただ、地方の小さな町村での地域おこしの成功事例と比較するとどうでしょうか。  村や町は、自然豊かな美しい景色、おいしい食べ物なども魅力として訴求していますが、それらはどこの地域でも素晴らしく、差別化要因になりにくいものです。成功事例で共通的に紹介されていたのは、その地域のことを四六時中考えているキーパーソンがいて、その人の姿と熱意にひきつけられた生産者や事業者が、思いをともに行動を続けていることでした。住民たちは、日本の中で最も素晴らしい地域だから推しているのではなく、地域の魅力について自分に問い直し、仲間同士で話し合い、エンゲージメントを高め、活動の力に変えていったのではないでしょうか。  会社の魅力を見出し育てる、エンゲージメント向上についても、同じことが言えると考えます。  社員一人一人が、自分がなぜこの会社に入社したのか、どうしていまも辞めずに働き続けているのか、定期的に問い直し、相互に対話を重ねることで、エンゲージメントは高まります。そのうえで、所属企業の魅力を問われれば、社員は、自社の魅力を社外の方に語ることができるでしょう。もちろん、労働条件を改善することも有効ですが、毎年、際限なく労働条件を改善できるわけではありません。労使一体となり、会社の魅力を言語化し、育てていくために、定期的にエンゲージメントスコアを把握し、スコア結果について話し合い、場を設けることは、エンゲージメントを高め、その企業らしさを作っていくものだと、私は考えています。

なんのためのエンゲージか | 調査・診断(組織分析)

なんのためのエンゲージか

  20年以上前、多国籍企業で働くようになって、エンゲージメントという言葉を知った。毎年、エンゲージメントサーベイの結果が国別にフィードバックされ、自国の数字改善に向けた行動の報告・共有・実践を強いられるという行事には辟易しつつも、多国籍の経営を統制する単純でオペレーショナルな手法にはなるほどと感服。各国従業員の「心情」の定量把握として、社員満足度とかモチベーションではなく、あくまでも組織成果に結果する(といわれる)エンゲージメントレベルを測るという点も、さすが業績指向のスタンスとして新鮮に感じた記憶がある。    当時、我々が受けていたサーベイでは、エンゲージメントレベルは以下の4つの総合設問で測られていた。 ・I speak highly of my organization's brand and services. ・I would recommend my organization as a great place to work. ・I feel motivated in my current job. ・Overall I am satisfied with my current job.    それに対する相関性を診るための設問群が、Global & Local Sr. Leadership 、Recognition & Reward、Culture、Work Environment、Immediate Manager といったカテゴリーで用意されていた。5,6年前から、日本でもエンゲージメントの大事さが喧伝されるようになって、そのサーベイもさまざまに提供されているが、だいたい構造はこの頃のものと変わらない。何がエンゲージメントを高めるかについても、ドライバーはすでに明らかになっている。その具体表現は論者や研究者、サーベイ会社によって異なるものの、結局のところ、従業員がいだく3つの「実感」に集約できる。   有意義感 貢献実感 成長実感    ひらたくいえば、 ①目の前の仕事の意義(会社にとっての/社会にとっての/自分のキャリアにとっての)がわかっていて ②承認や報奨で自身のなしえたことの価値が確認でき、③仕事を通じての成長が実感できている、ということである。ゆえに、これら実感を喚起できれば、エンゲージメントは高まる。    さて、冒頭「組織成果に結果する(といわれる)エンゲージメントレベル」と書いた。人々が、エンゲージされて働くことで、高い意欲と主体性をもって目の前の業務に臨み、パフォーマンスを上げ、組織の生産性向上に資する、とされる。ひいては、企業価値(=経済価値)向上につながるゆえに、今年始まった人的資本情報開示でも、KPIの一つとしてエンゲージメントレベルを記載する会社は多い。    要は、「皆が自ら頑張って働き成果あげてくれる」から、いうことだが、その限りではエンゲージメントの効用としてずいぶんと矮小なのではないか。たとえば、中国語で「頑張れ」を「加油」というがごとく、良い燃料を入れることで機械を最大稼働するかのような印象だ。機械ならぬヒトが働くとは、決められた業務を遂行するのではなく、やるべき業務を考えだす=業務創造にこそ本領がある。そうした、人が「考え、創り出す」行動こそをドライブするのがエンゲージメントだ、と考えたほうが腑に落ちるし、元気がでる。    実際、組織論や人材マネジメント論の領域では、エンゲージメントの向上が創造性発揮に直結する原理はあきらかにされていないものの、エンゲージメントが創造性発揮に寄与する可能性が、多くの研究者に指摘されている。また、エンゲージメントの語源、仏語の「アンガーシュマン」は、サルトルの自由と創造に関わる言及によってよく知られている。サルトルは、アンガージュマンを通じて、人間は自由を行使し新しい価値や意味を生み出し、社会を変革していくべきだと主張した。ここでは、自由な意思をもつ人々を創造へむけ駆動する鍵としてアンガージュマン=エンゲージメントが語られていたように見える。    資本主義社会の発展とは、差異の創出(=イノベーション)により駆動されるものとシュンペーターは言ったが、企業において差異を生み出すのは、モノでもカネでもなくヒトという資源。ヒトが差異を創出するための、つまり人々が創造性を発揮するための鍵がエンゲージメントとしたほうがダイナミックだし、それこそが人的資本経営のKPIにふさわしい。    エンゲージメントが従業員の創造性を喚起するものだとすると、先の3つの実感のなかで、「有意義感」こそが、もっとも重要になるはずである。発達心理学でいう「人は目標の意味に共感し意欲を持つとき最大に能力を発揮する」からだし、そもそも創造という行為は、役割とか任務といった受け身でできることではなく、「みずから成したいと思う目的への没頭」がなければ始まらないからだ。    やるべきことの意義を自分事として確信することが、創造性発揮にむけ人々をエンゲージする。であれば、イノベーションのためには、会社の目的、事業の哲学、仕事の意味を、人々を触発し得るものとして提示できるか否かが、まず問われてくるだろう。エンゲージメントサーベイは、その検証の第一歩なのである。    

従業員満足度の真実 | 調査・診断(組織分析)

従業員満足度の真実

 人的資本開示における代表的な項目である従業員満足度は、企業価値向上のための重要な指標の一つとされています。経営者も人事部も、企業価値向上のための一つの重要な指標としてとらえ、従業員満足度向上を目指していることでしょう。  従業員満足度が高いことが企業経営にもたらすメリットは多岐にわたります。仕事に対してのモチベーションが高ければ、効率的に働く傾向があり、生産性の向上が見込めます。顧客満足度の高さにも影響を与え、リピート率を上げることに繋がれば業績も上がります。また、満足度の高い従業員が多くいることで職場の雰囲気もよく、チームワークが強化される可能性も高いです。その先には、心理的安全性が確保された職場において安心して意見を言える環境が整い、新しいアイデアを出し合い創造性やイノベーションの促進にも繋がる可能性も高くなります。そのほかにも、離職率の低下やウェルビーイングの実現にもつながり、企業にとってはいいことずくめです。    それゆえに、従業員満足度が高い=望ましい人事施策が講じられている会社である、ととらえるのが一般的でしょう。  しかし、現実はそんなに単純なものではありません。経営計画を達成するための人事制度改革が、逆に従業員満足度を下げることもあります。  例えば、超高齢化している会社が若手の確保や成長を重視した施策を講じるとともに、高齢層の処遇を適正化することで従業員満足度が低下することがあります。早期定年制を導入し、高齢層の退職を促すと、特に高齢層からの不満が増加します。選挙と同じで票をもっているのは高年齢層が多いので、従業員満足度は大きく下がり得るでしょう。 また、実力主義を導入することで、ハイパフォーマーは満足度が上がりますが、アベレージパフォーマーやローパフォーマーは不満を抱く可能性があります。実力主義に大きく舵をきればきるほど、会社として投資対象にしたい人とそうではない人に歴然とした差が生まれるので、そこから漏れる人は不満をもちます。2:6:2の理論でいえば、半分以上の人が不満に転じる可能性があります。    従業員満足度は、冒頭に記載したとおり、重要な指標であることは確かです。従業員満足度が常に高い状態が続いている場合、企業が必要な改革を怠っている可能性もありえます。重要なのは、満足度の高低ではなく、経営計画を達成するための人事施策をしっかりと講じて、組織に浸透させていくことです。実力主義を導入して、ローパフォーマーが厳しさを感じていなければ、運用がうまくいっていないのではないかと疑わなくてはなりません。人事施策を講じたら、どの層にどのような影響が出て然るべきかの予測を立て、継続的に調査を行い、適宜調整を加えていくことが不可欠です。    企業が真に持続的成長を遂げるためには、従業員満足度を適切に管理しながら(単に高いことだけを目指すのではなく)、柔軟かつ迅速に改革を進める姿勢が求められます。これこそが、変動する市場環境においても競争力を維持し続けるためのキーポイントです。

イノベーション人材をどう発見するか  | 人材アセスメント

イノベーション人材をどう発見するか 

 数年前からほとんどの企業の中期経営計画には、「イノベーション」という言葉が書かれ、期首の社長メッセージでもイノベーションの要請は常套句のように頻出する。しかしいま、日本企業でイノベーションが続々起こっているという状況とは程遠い。掛け声だけで終わっている要因の一つは、イノベーション創出の、もっとも基盤的な手が打たれていないからではないか。基盤とは、イノベーションを駆動する人材の確保・育成であり、そのための人的投資の戦略。イノベーションの起点になる新しい発想は、人々の頭のなかからしか生まれないからだ。  たとえば、国が提起し、各企業が濃淡はあるものの一斉に取り組みつつある「人的資本経営」には「イノベーション」が見えない。契機となった人材版伊藤レポートが斬新だったのは、「資本市場の力を借りて人事・人材変革を起こす」との目論見。投資家が着目するのは、収益性のみならず成長性だから、そこに資する人事戦略、つまりイノベーションのための人的資本経営こそが勘所のはずだが、多くの企業は、国から例示された定型一般的な指標情報の開示に留まり、女性管理職比率や働き方改革といった「雇用面のSDGs」遵守、いわば「守り」は見えるが、「攻め」(=イノベーション)のストーリーは一向に見えない。  「攻め」のための人への投資とはなにか。製造業でいえばR&D人材への投資、業種の違いを超えていえば、DX人材への投資はひとつの鍵になるものだが、それだけではVUCA時代の成長にはつながらない。未来が予測不能に変化するのであれば、会社のどの部署、どの機能であっても、同じことをやっていることがリスクだし、成長もない。新商品・新事業開発の職務はもちろん、営業職や管理職であっても開発的に新しいことに臨む能力が求められ、またどの仕事であっても「前提を鵜呑みにせず自分の頭で考える」能力が共通して必要になる。  イノベーションの基盤であり起点になる、こうした能力開発への投資が攻めの人的資本経営の橋頭保だとすれば、まず最初にやるべきことは、社内のイノベーション人材を発見することではないか。こうした「新しい領域を切り開く能力」は、階層と分業で合理的効率的に組まれた企業組織では原理的に見えなくなってしまうからだ。多くの企業では、誠実と協調を旨とし、役割とルールに従い、組織として成果を出すことが行動原理であり、出る杭はうたれ、斬新な発想や価値観の異質性は捨象される。そうした根強い協働スタイルによって、持っていたかもしれない人々のイノベーティブな能力は身を潜め、摩耗していったかもしれない。まず、現有のイノベーション人材リソースを把握し、新たな調達や効果的育成を計画化するとよい。  では、日常の仕事ぶりや人事評価では分からない、隠れたイノベーション人材をどう見極めるか? イノベーション人材に必要な思考力とは、正しい答えに到達する収束的思考ではなく、VUCA状況のなかで、俯瞰し様々に発想し仮説化する発散的思考力。そうした思考力レベルの、第三者視点による評定には3つの方法がある。 ① 行動から思考力を「推察」する(=シミュレーション演習によるアセスメントセンター方式で「創造性」 や「変革指向」といった思考系ディメンションに着目する)  ② 過去の経験から思考力を「判定」する(=インタビュー・アセスメントにより定性的に判定する) ③ 思考力そのものを「評定」する(=正解のない問いに対する回答を評定する)  ひとつめのセンター方式アセスメントは、「思考=頭の中でどう考えているか」は見れないので、発揮行動からの「推察」にとどまり、二つ目のインタビュー方式は、例えば、創造性を発揮するような仕事経験が一切なければ、創造力は判定し得ないといった限界がある。有効性が高いのは三番目の思考力そのものの評定である。これは、自身の考えを結論だけでなく、どう考えていったかを含めて書きだした文章を解析する方法(Think Aloud Assessment)だ。  ここで使われる、「正解のない問い」とは、たとえばこんなものだ。  下記は、武将・伊達政宗が残した言葉と言われています。これは、彼のある苦い経験、あるいは成功体験に基づいているとします。その具体的体験をあなたなりに想像し、できるだけ様々な可能性を書いてみてください。 「大事の義は、人に談合せず、一心に究めたるがよし」(意味:大切なことは人に相談せず、一人で悩みぬいた末に結論を出すほうが良い。)  この答を、結論だけではなく思考プロセスを含めて、文章として書かせる。そこで、どれだけ発想を広げ、推論し、仮説をつくれているかを評定する。この方式が変わっているのは、制限時間を設けないことだ。好きなだけ考えて書いてもらってよい。ときに次々にいろいろ思いついてやめられなくなる人がいる。問いの答えを考えること自体が面白くなってしまうのだ。つまり、内発的動機付けが働き、たくさんの言葉を書き連ねてしまう。  内発的動機付けが創造性発揮のエンジンであることが創造性研究で明らかになっていることを考えれば、この方法の妥当性はあきらかなのである。 ※この手法=Think Aloud Assessmentについては、 下記当社セミナー・外部イベントにて詳しくご紹介をいたします。 ・2024年10月17日開催 : 当社主催セミナー 「イノベーション人材をどう発見するか?」 ・2024年11月  6日開催 : 日本の人事部主催 HRカンファレンス

「登用の失敗」はなぜ起こるか(アセスメント活用の勘所①) | 人材アセスメント

「登用の失敗」はなぜ起こるか(アセスメント活用の勘所①)

 きっちりと成果を出し、職務遂行能力にも問題ないと判断して、管理職に登用してみると、どうにも困ったマネジャーだったということがある。なんであんなヤツを上げたんだ、と人事部が経営から非難される、いわゆる管理職への「登用の失敗」。その原因は、名プレーヤーは必ずしも名監督ではない、というありふれた警句そのものにある。  つまり、卒業評価≠入学評価であるのにも関わらず、卒業評価だけで昇進を決めてしまうからだ。在籍等級でのパフォーマンスが高いけれども、管理職としてやれるかどうかはわからないのに上げてしまうということである。じっさい多くの会社の昇進運用は、卒業評価だけに終始しているように見える。  『日本の人事部 人事白書2024』(株式会社HRビジョン)によれば、管理職登用に際して重視する要件は、①これまでの実績・成果(75%)、②保有している能力(60%)、③人柄(50%)。名プレーヤーであれば当然、①実績・成果は申し分ない。問題は、②保有能力である。  それを、何で見るか。『JMAM 昇進昇格審査 実態調査2022』(株式会社日本能率協会マネジメントセンター)によれば、審査内容のトップ2は、「人事考課」(87%)と「上司推薦」(81%)。人事考課の結果は、現在の等級における能力評価であって、管理職能力の有無やレベルは示さない。管理職業務は経験していないし、評価項目も管理職能力ではないからだ。上司推薦では、「こいつは、管理職もできそうだ」という上司の判断はあるだろうが、客観性には疑問がある。  半数程度の会社が、テストも行っているが、「面接試験」(58%)や「論文・レポート試験」(46%)、「社内知識試験」(42%)といった社内基準の試験がほとんどで、意欲や知識は見て取れるものの、管理職に必要な能力を客観的に測定するものとは言えない。昇進に際して、管理職能力の多寡、つまり管理職ができるかどうかの可能性判定をしないで決めている会社がじつに多い。  やるべき入学評価とは、卒業できる(=当該等級での必要能力を持ち結果も出している)候補者たちの、管理職という「未経験の職務」の能力発揮可能性を判定することだ。その方法として、一番確かなのは、実際に管理職務をやらせてみることである。たとえば、上司(課長)の視点にたって自組織の課題を設定させ、1年間のPDCA実践による課題解決を課し、役員面接などで「課題の妥当性と実践の成果」を判定する審査プロセスを組めばよい。  ただこの方法は、もっとも効果的実践的ではあるものの候補者の負荷はもちろん、上司や人事部にとっての負荷が高い。端的に試験によって、管理職能力の発揮可能性を見たいということであれば、アセスメントセンター方式の能力評価を行えばよい。この方法は、まさに、「未経験の職務」の能力発揮可能性を診断するための専用ツールであり、管理職の職務状況をシミュレーション演習として用意し、候補者全員が同じ状況下での行動発揮を課せられ、その行動を観察・分析することで、保有能力レベルを判定する。  アセスメントセンター方式とは、第二次大戦中に諜報員の選抜試験として開発されたといわれる能力判定手法。社会心理学者クルツ・レビンの方程式B=f(P・E)を原理とし、行動(B)は、環境(E)と個人の能力・資質(P)の関数であるから、シミュレーション演習によって環境を固定し、そこでの行動を観察・分析すれば保有能力の評定ができるというコトワリである。  さきの昇進昇格審査実態調査によれば、約3割の企業がこの試験を行っている。昔から、昇進審査としてのアセスメントの精度は定評あるものの実施企業数がまだ少ないのは、ここに書いたような「登用の失敗」の原因にそもそも気づいていないか、あるいは、わかってはいても、試験と言いながらも、1~2日間の研修形式で行い、アセッサーという専門家たちが観察して評価するための手間と費用がかさむことがネックになっているのかもしれない。  しかし、能力測定手法においてもDX化は進んでいる。「未経験の職務」の能力発揮可能性を診断する原理とITC技術の融合により、自社の状況や要件や制約に即した「入学評価の道具」は、いかようにでも設計できるのである。 *アセスメント活用の効用と留意について提起する3回シリーズ。 ■「登用の失敗」はなぜおこるか(アセスメント活用の勘所①) 今回  ■外部視点評価を過信するな(アセスメント活用の勘所②) ■VUCAリーダーをどう見極めるか(アセスメント活用の勘所③) 本コラムの筆者が登壇! ぜひご来場ください。詳細はこちら 【対面型セミナー】「失敗しない管理職登用判断の方法」 ~人事が知っておくべきアセスメント活用のポイント~

エンゲージメント向上 ~会社と従業員が離婚しないために~ | モチベーションサーベイ

エンゲージメント向上 ~会社と従業員が離婚しないために~

 「エンゲージメントの向上」に注目している企業が多いようです。エンゲージメントが向上すると企業経営にプラスの影響をもたらすと言われ、関心が寄せられています。  そもそも「エンゲージメント」とは何か。「エンゲージリング」という言葉には馴染みがありますが、これはいわゆる婚約指輪です。この場合、結婚の約束の意味で用いられています。それでは企業活動においてはどうでしょうか。会社と従業員の関係で言えば、会社は、この人はどういう人なのかを知り、一緒に仕事したいと思えるかを考えます。従業員は、就職活動の際には企業研究をし、自分が生き生きと働くことができるかどうかを検討します。それらがマッチングした時に入社が決まり、会社と従業員は結ばれ、苦楽をともにすることになります。入社は「結婚」と言ってもいいかもしれません。  ただ、残念なことに、離婚ということもあります。有名人が離婚した際の報道で「価値観の違いが原因だった」と報道されることがよくあります。結婚生活がうまくいくか、いかないかは夫婦が歩み寄り、互いの価値観を理解し、同じ方向を向いて一緒に人生を進んでいけるか否かという点が重要なのです。  これが企業と従業員の関係でも当てはまります。従業員が会社のビジョンに共感し、それに向かって組織と従業員が一体となってお互いに成長し、貢献しあえる関係、まさにこれがエンゲージメントの根幹と言えます。  組織から一方的に貢献、成長を求め、そのための機会を与えるだけでなく、従業員からも貢献したい、成長したいという意欲を見せる、つまり双方向の関係を見つめる必要があるのです。この関係性がうまく機能するときに、従業員は意欲的に生き生きと仕事に邁進し、仲間や会社に深く思い入れを持つようになるのです。  エンゲージメントが向上すると「従業員が辞めない」「生産性向上」「自らが積極的に働く」結果、業績が向上すると言われています。採用関連でも、エンゲージメントの高い組織では、たとえその会社を退職しても、退職者が転職クチコミサイトにネガティブな投稿することは、エンゲージメントが低い組織に比べて少なくなると予想されます。また、注目されているリファラル採用も、従業員が会社に対して貢献意欲があれば「この人は会社にとって力になる」と思うような人材を推薦してくれるでしょう。    このようにエンゲージメント向上は企業にとって、とても重要な観点です。注目されているのも大いに頷けます。しかし、エンゲージメント向上だけに着目していればいいわけではありません。 弊社のH Rデータ解説「労働者の就労に対する意識(年齢階層別)~時代で変わる「働く目的」、やはりお金が一番?~」 https://www.transtructure.com/hrdata/20210316/ にもあるように、労働者の大半が「お金を得るため(=金銭的報酬)」に働いているのが現実です。「給与はいらないので働かせてください!」なんて言う人はおそらく存在しないでしょう。いくら働きがいを感じ、働くことが楽しい状態であっても、給与を切り離すことはできません。エンゲージメント向上と同時に、適正な給与や福利厚生、職場環境等、組織から与えるものについても綿密に検討し、従業員を幸せにする手立てを考えることで、企業と従業員は結びつきを強め、互いの成長が図れるのではないでしょうか。

なんとなく辞めたい若手 ~複眼的情報が若手の不必要な離職を防止する~ | 人事アナリシスレポート®

なんとなく辞めたい若手 ~複眼的情報が若手の不必要な離職を防止する~

 20代の離職率が高いという相談は常に多い。また、個人的にも、近頃20代から30代前半くらいまでの知人から退職・転職活動に関するアドバイスが欲しいとの相談がやたらと多い。  彼らの話をよくよく聞くと、背景には2つの誤解があった。1つ目の誤解は、組織人事分野のコンサルタントという職業が、なぜだか転職支援のプロだと思われているということ。人事=採用という図式が彼らの頭の中にあるようだ。転職支援を生業にしているわけではない事実を伝えつつも、幸いにして労働市場に関する知識はそれなりに持っているので何らかの役に立てればと、引き続き話を聞くこととする。  2つ目の誤解は、今の会社を辞めさえすれば、全ての不安や不満が解消されると思ってしまっていることである。  彼らのほとんどは大学を卒業後に入社をした会社で若手社員として奮闘している。学生時代の就職活動では入社後に企業で叶えたい夢を語らねばならないため、試行錯誤しながらやりたいことを探し、作文し、面接でアピールしているうちにその会社に受かりさえすれば未来が明るいような気がしてくる。  しかしながら、入社後数年が経つと自らが選択した業界・職種・企業の良いところも悪いところも見えてくる。企業にとっての強みと弱みは背中合わせの関係にあることも多いが、「なんとなく辞めたい若手」にとっては悪い点ばかりが見えてしまったり、客観的に見ればさほど悪い状況でもないものの、重大な欠陥のように見えたりしてしまう。  限られた世界の中で日々奮闘している社員にとって、視野が狭くなってしまったり、入ってくる情報に偏りが生じてしまうことは仕方ない側面もある。その結果、自らがとんでもない窮地に立たされているかのように錯覚し、本当は続けたかった仕事を辞めよう、辞めさえすれば不安が解消される、と思ってしまう。  情報の偏りを是正するだけで離職を踏みとどまったケースがある。小売業で働くある若手社員の主訴は「職場がすごく高齢化していて、若い人の意見が全然通らないし、アイデアが形にならない。」とのことであった。  そこで、まずは企業の従業員の平均年齢を調べてみた。すごく若いわけではないものの、本人が悲観するほど高くなく、一般的な水準だと推測できた。その後、全国の民間企業で働く労働者の平均年齢、都道府県別の平均年齢、業種別の平均年齢、企業規模別の平均年齢も調べてみた。驚くことに、当該企業の平均年齢はいずれの属性で調べた平均年齢よりも若いことが分かった。  世の中と比べて異常な高齢化をしている訳でもなく、むしろ若干若いくらいだとの事実を伝えた。併せて、日本の高齢化の程度・スピード、将来の予測情報を提示し、小売り業各社がターゲットとする市場(顧客)も同様に高齢化している旨を伝えてみた。事業規模の維持・拡大のため経営の方向性として中高年~高齢者を対象としたプロモーションに舵を切っている可能性が考えられないか、そのことが上司の方向性と本人のアイデアや意見との乖離を生んでいる可能性がないか、尋ねてみた。  主観的情報だけでなくあらゆる外部指標と比較をして客観的に観測したり、それを踏まえて上司の意見の背景を推察したりすることにより、不安感がずいぶん軽減されるようである。  もちろん定年まで見届けた訳ではないので、再度離職を考えるタイミングが来るかもしれないが、勢いに任せて偏った判断を下してしまうことは免れたのではないかと思う。  継続的なメンタルチェックや業務負荷に対する考慮、ワークライフバランスの考慮等、離職率に悩む企業が講じるべき施策は様々あるが、自社のあらゆる数字が外部に比べて優良であることを積極的に発信することが、漠然と未来を悲観する若者の離職防止に役立つかもしれない。

コロナ後の職場はどう変わる? 対面会議の活用案 | モチベーションサーベイ

コロナ後の職場はどう変わる? 対面会議の活用案

 コロナ渦の収束がいまだ見えぬ中ではあるが、コロナ後の働き方について人事の皆様に伺うことがある。もともとリモートワークが不可能な事業形態の会社は別として、「リモートワークと出社の組み合わせ」のハイブリッド型を志向されているというご返事が多い。原則的に職場復帰を志向しているGoogle社のような企業はむしろ少数派のようだ。  ハイブリッドの働き方を前提とすると、コミュニケーションの方法も、Web会議と対面会議の組み合わせになっていく。その時、何を対面でやり、何をWebでやるかというのは判断が悩ましい。  最後は参加者それぞれの好む方法で、というのが正解だとは思うが、それでは整理がつかないので、対面会議の位置づけを、コストと効果の観点から考えてみよう。  まず、対面コミュニケーションは今や高コストな手段と捉えられるようになった。交通費に時間、体力を使うし、頭髪から服装、匂いまで全身の「身だしなみ」に気を遣う。そうなると、対面会議はコストがかかるのだから、ここぞという場面で行おうという心理が働く。  では何が「ここぞ」という場面になるのか。効果の観点から、「対面」にできて、「Web」ではむずかしいことは何だろうか。  相互に意見を出し合う目的の発散型の会議は対面に一定の優位性があるようだ。オンライン教育の専門家から以前伺った話では、ブレインストーミングなどのクリエイティブなセッションは対面の方が向いているという。  また、情報量の豊かさという点では対面はWebより優位にある。人間は、相手の声のみならず口の動きや顔の表情も含めた複雑な情報を認知している (※)ため、お互いに多くの情報を交換したい場合は対面にした方が良い。  このような特徴を踏まえ、以下のような条件に当てはまるときは対面会議を優先してはどうだろう。   ・互いの関係性がまだそこまで近くないこと   ・テーマに関する意見が定まっておらず、さまざまな情報を交換したい場合  たとえば、初めてのお客様との商談や新しく一緒になった部下とのミーティング。これらは、コストをかけても対面で実施すべき「ここぞ」という場面ではないだろうか。 そして長年のお付き合いのある大切なお客様との定例的なミーティングは、参加の負荷が最小限に抑えられるWebミーティングが合理的ではないだろうか。  筆者は営業として日々いろいろなお客様のお話をお伺いしているが、この1年半、Webでしかお会いできていないお客様も多い。そのようなお客様には、上記の条件に従って、コロナが明けたらぜひ訪問させていただき、さまざまな情報を交換させていただきたいと願っている。 ※田中 章浩,「顔と声による情動の多感覚コミュニケーション」,Cognitive Studies, 18(3), 416-427. (Sep. 2011)

タレントマネジメントの導入 | 人材アセスメント

タレントマネジメントの導入

 最近、クライアントの担当者との会話で、タレントマネジメントについての話題になることが増えた。このタレントマネジメントは、多様な人材が在籍する大手企業を中心に導入が進んでいるが、タレントマネジメントを行う理由とは何だろうか。  タレントマネジメントは、自社のタレント(社員)に、自身が保有している能力やスキルを最大限に発揮してもらうことにより企業成長につなげていく取組みで、採用~配置、育成、評価等々の人事施策を戦略的に行うことを指す。人材の流動化が激しいアメリカで、優秀な人材の定着を目的として1990年代に考案されたと言われている。  かつて日本は大量採用が主流で、企業はできるだけ多くのポテンシャル人材を獲得することに注力していた。入社すれば定年までその企業に在籍する終身雇用制度が一般的であったため、入社後にじっくりと時間をかけて企業が求める人材へと育成していく余裕があった。  しかし現在は、労働人口の減少により、企業が求める経験やスキル、素養を備えた人材を採用することが必要になってきている。このタレントマネジメントを活用すれば、募集するポジションの人材要件や配属先のタレントの傾向を確認できるため、採用活動を今までより円滑に行うことができる。また、個々人のスキルや思考、価値観を把握することで、誰をどのポジションに配属すれば生産性が上がるのかが分かり、最適な人材配置が可能になる。  また、雇用形態や働く環境の多様化も導入理由の一つだ。今は転職することが普通になり、ひとつの企業のために働くという考え方が薄れ、業務委託やフリーランス、あるいは副業なども普及してきた。企業はいっそう自社の方向性や経営ビジョンに共感し、成長を支えてくれる人材を確保することが必須となっている。そこで人的資本となる社員の思考や価値観を把握し、企業が求める人材の発掘や定着に生かすため、タレントマネジメントに注目が集まるようになっているのだ。  一方、タレントマネジメントシステムを導入してもうまく機能しない、期待した効果が得られないと悩む企業も少なくない。 タレントマネジメントを行う際に注意しなければならないことは何だろうか。何よりも重要なのは、「タレントマネジメント」を自社に取り入れることによって何をしたいのかを明確にしておくことだ。社員をデータベースで管理するからと情報だけ蓄積しても、活用しなければ宝の持ち腐れとなってしまう。また、その目的を理解できなければ、個人情報を集めるということに不信感を持つ社員、なかなか情報を提供しない社員も出てくるだろう。そのため、タレントマネジメントの目的をできる限り開示して、社員にアナウンスする必要がある。自社の組織課題を整理した上で、取得した情報を何に活用するのか、データを蓄積し、どのように管理していくのかを考え、それによって何を成し遂げたいのかを明らかにする。そして人事、現場、特に経営陣としっかりと事前にコンセンサスを取り、計画的に実施していくことが大切だ。

働き者と改革の不一致 | モチベーションサーベイ

働き者と改革の不一致

 「何でそんなに働くの?」と知人(男性)に聞いてみた。 「いやぁ、仕方ないよね」と彼は言う。しかしその表情は誇らしげにも見えた。  彼は企業に勤める会社員で、新入社員の頃からとにかく仕事にほとんどの時間を費やしており、中堅になった今でもその姿勢は変わらない。特に悲壮感が漂っているわけではなく、むしろ、仕事に人生を費やしている自分に誇りを持ち、楽しそうにさえ見える。まさに「働き者」だ。  働き方改革という言葉が浸透して久しいが、彼にとっては改革なんて何のそのといった風情だ。彼の会社も、働き方改革に関する何らかの施策は講じているはずである。「それなのになぜ?」と思うほど働いている彼をきっかけに考えると、そこには施策と労働者個人の噛み合わなさがあるのである。  そもそも働き方改革は、人口減少に伴う労働力不足を解消するために始まった。  先の働き者の知人の話で大きく関連するのは、長時間労働の是正であろう。 筆者の知る企業で取り組まれているこの課題の改善施策としては、ノー残業デーの導入、業務の精査からパート・アルバイトの方に可能な限り広い業務を担ってもらう、年次有給休暇の計画的付与、作業管理の徹底などがある。他にも、徹底した例だと決まった時間になるとパソコンが強制シャットダウンされるといったものもある。  こういった施策によって、長時間労働が改善されたという実例も世の中には多く存在する。しかし、全てが全てうまくいっているわけではない。それは個人の「働き方の価値観」と嚙み合っていないからだと筆者は考える。  日本の戦後高度成長期からバブル時代まで、働けば働いた分だけ見返りがあった時代に「男はとにかく仕事に全てを捧げる」という考え方が存在し、(対になるのはもちろん「女性は家庭を守る」である)そういった働き方をする男性会社員から「モーレツ社員」だとか「企業戦士」などの呼称が生まれた。そして、そういった社員を企業も求めた。 現在男性だけでなく女性も活躍し、プライベートと仕事のバランスを取った働き方が求められるようになった。働き方の価値観は非常に多様になっている。  施策と労働者個人の噛み合わなさとは、働き方改革のための施策の意図と、個人の「働き方の価値観」が一致しない事に起因する。いくら企業で改革のために新しく施策を断行したとしても、その意図と社員の価値観が一致していないと元々想定した通りに変化はしない。  社員はひとりひとり異なる考え、バックボーンを持っている。働き方に関しても同様である。みんながみんな「プライベートと仕事をしっかり両立したい」と考えているわけではないだろう。中には「自分はとにかく仕事に生き、仕事に死にたい」という思いを抱いている人もいる。そういった「とにかく仕事」という価値観や「プライベートを充実させたい」という価値観など、多様な考え方が尊重されるような組織・制度作りを加速させる必要がある。

コロナがきっかけ | 調査・診断(組織分析)

コロナがきっかけ

 新型コロナウイルス感染症は収束どころか「第3波」の到来が、日増しにはっきりしてきました。厚生労働省の12月17日付発表では、全国の新規陽性者数は3,211人と、1日の新規陽性者が過去最多を更新し、また同じ12月17日の東京都の新規陽性者数は800人を超えて822人となり、過去最多となっています。  このようなコロナ感染拡大の状況をきっかけとして、ワークスタイルの変革に取組んでいる企業がますます増えています。各社の取組みポイントは、リモートワークにおける業務の効率化、社員一人ひとりの行動の把握をシステムの構築とともに可視化する点です。Web会議などのITツールを使用し、上長と部下がキチンと話し合って、やるべき業務を週・日単位でシステムに登録し、その進捗を部内で共有、確認されていくといった仕組みです。実装されれば、部内の全員の仕事が見える化され、リモートワークでの日々の業務内容やプロセスも把握できるし、成果物も明確になります。ただ、評価の視点としては、特に部下とのコミュニケーションでは、以下のSTARの意識が必要で、それぞれの事実を確認することが大事となります。   ■Situation(状況) :どのような状況だったか?   ■Task(役割)    :どのような役割だったか?   ■Action(行動) :どのような行動をしたか?   ■Result(結果) :その行動/言動によって得られた結果は?  一方、今後のリモートワークを主眼に置いた働き方に合わせて、ジョブ型人事制度の導入を検討している企業も増えています。 一般社団法人 日本テレワーク協会も、7月1日に「経営・人事戦略の視点から考えるテレワーク時代のマネジメント改革」についての研究成果レポートを発表し、「テレワーク時代のマネジメント改革日本型の人事制度」を改定し、欧米で主流の「職務範囲が明確で成果に応じて評価されるジョブ型」への移行へ言及していて、2020 年以降、「ジョブ型」の人事制度や職責や成果に基づいた報酬制度への移行に関する議論がより一層活性化するだろうと予測しています。  グローバルの視点に立った場合、日本の「終身雇用」や「年功序列」は極めて特異な制度と言われています。企業活動の範囲が日本にとどまらず、世界中に広がっている現代において、ジョブ型雇用の浸透は時間の問題ともいえるでしょう。 さらに、前出のコロナの影響もあり、直接仕事のプロセスを見ることが難しいテレワークやリモートワークなどへの対応や新しい働き方が普及しつつあります。 働き方の変化に伴い、「メンバーシップ型」から「ジョブ型」へ、人事制度を見直すきっかけになるかもしれません。  ただ、「ジョブ型」のメリットの中には、専門的なスキルや知識を持った即戦人材を採用できる、成果にコミットしやすい、評価体制が確立しやすい等々がある反面、デメリットとしては、事前に職務範囲を定義することが難しい、契約外の仕事を依頼できない、予想外の業務が発生した際に担当者がいない等々があるのです。このメリット・デメリットを比較しながら、さらに「メンバーシップ型」でも課題のあった部下の育成や上司のマネジメントスキルの向上、働き方改革での自律型人材の育成課題をクリアにしていかなければなりません。  人材育成の課題を含めた長期的な人材戦略をしっかりと持たずに、「ジョブ型」への安易な設計・導入を進めていくのはリスクがあることを忘れてはいけないのです。