©️ Transtructure Co.,Ltd.All Rights Reserved.

MENU

©️ Transtructure Co.,Ltd.All Rights Reserved.

人事制度

column
評価票を公開せよ(評価品質を高めるために③)  | 人事制度

評価票を公開せよ(評価品質を高めるために③) 

 「正確な測定」のための施策として、評価項目設計、評価スキルの観点でのポイントを二回にわたって提起してきたが、今回は、評価運用の勘所について書く。  「二次評価という言葉自体が今後存在しなくなる」と、10年以上前に当社創業者・林明文が書いたが、いまも二次評価(さらには三次評価すらも)を運用する企業は少なくない。二次評価という仕組みには、俯瞰した視点での調整、つまり組織的なバランスをとる機能はあっても、一次評価者の評価を是正し、ひいてはその評価スキルを高める効用はない。つまり、「正確な測定」の実現には効かない。  一次評価は絶対評価であり、その被評価者の行動事実を目にしていない二次評者には、一次評価の正確性を判断し得ないからだ。一次評価者による評価を二次評価者だけがチェックするという閉じた関係の中では評価品質を上げることはできない。評価の運用施策において、確実に評価品質の向上に資するのは、「評価票」を公開することだ。  一次評価者同士の評価会議を行い、自身がつけた部下評価を公開し相互検証する施策である。ときに、評価会議、評価者会議という言い方で、「評価調整」の会議を行う場合もあるが、それとは異なることにまず注意してほしい。それが組織としての相対的な評点調整を行う、つまり組織的な二次評価機能であるのに対して、ここで推奨する評価会議は、絶対評価としての一次評価が妥当であるかどうかを確認し、おかしければ修正するために行う。  進め方はシンプルで、評価者が順次、自身がつけた部下評価について「なぜ、こう評価したか」を話し、それが妥当かどうか評価者同士で議論する。冒頭、評価基準や等級別要求レベルを改めて確認したり、事前に評点データを集計し評価者ごとの評点分布を共有することもある。ただあくまでも、部下のAさん、Bさん、Cさんの①行動事実が、②評価基準に照らして、③妥当な評点であるのかを、ひたすら相互検証することが眼目だ。  つまりこの場で検証されることは、三つある。 評価対象となる行動事実自体の妥当性  例えば、推測や主観で事実把握がされていないか、成果にひきずられた行動判断ではないか、評価対象でない行動を含めて見ていないか、等。 評価基準自体の解釈の妥当性  例えば、できているかできていないかの基準の理解が間違っていないか、何を評価するか(問題の発見なのか課題の発見なのか、等)の理解が間違っていないか、等。 評点の妥当性  客観的にみて評点が妥当か、在籍等級レベルと上位等級レベルが混同されていないか、たまたまの行動発揮ではなく、期中通しての評価になっているか、等。 このプロセスのなかで、一次評価vs二次評価者という閉じた関係では顕在化し得なかった評価スキルのばらつきが是正され、評価品質は向上する。同じ一次評価者たちによるオープンな相互検証を行うからこそ、自己流でないあるべき評価の観点が共有され、「正確な測定」が組織的になされるということである。  この方式には、副次的な効用もある。評価項目の文言があいまいで、「できた」「できない」の基準が読み取れないことが、よくある。たとえば、勤務態度を評価する項目に「つねに規律を守り、誠意と責任感をもって業務遂行する」という文言があったとして、これだけでは、一回でも遅刻をしたらダメなのか、事前に理由を連絡しての遅刻ならOKなのか、二回まで許されるのか、判断はつかないし、その基準は会社によっても異なるだろう。評価会議のなかの検討で、たとえば当社においてはこうだ、という暗黙の基準が顕在化されれば、以降それが基準として共有され、評価のブレが減ることになる。  評価会議とともに、有効なもう一つの運用施策が、目標設定会議だ。目標の品質問題は、実に多くの会社で聞かれる悩み事だが、同様に、期首に実際の部下目標を公開し相互検証することで、目標設定の三原則(1.上位目標連動性 2.等級妥当性 3.表現妥当性)を「個別具体的に実際に」確認・是正することができる。  これらの施策は、容易にお分かりになるように、評価者たちにとっても、人事部にとっても時間的負荷は高い。しかし、手間をかけるだけの評価品質向上効果は確実にある。もちろん、そのためには、目的たがわず、きちんと会議をコントロールし上記の三つの検証に臨まなければならない。例えば、「彼はリーダーシップを発揮していたのでリーダーシップの評価をA評価としました」と言った説明になっていない説明は決して認めない。会議が紛糾しようとも声の大きい上位者の「印象評価」は断固拒否するといったことが極めて大事なのはいうまでもない。 ■「評価品質を高めるために」コラムバックナンバー 「正確な測定」をあきらめるな(評価品質を高めるために①) 評価100本ノックのすすめ(評価品質を高めるために②) ■「評価関連セミナー」のお申込みはこちら 【対面型セミナー】「評価力診断 無料体験セミナー」  ■【HRデータ解説】データでわかる「評価品質」関連解説 経営にとって「評価品質」が重要であることがデータでも分かります 「従業員意識調査に見る会社への不満」 ~社員の多くがキャリアと評価と処遇に満足していない~ https://www.transtructure.com/hr-data-analysys/search/motivation-survey/p12777/    

人事制度とは? | 人事制度

人事制度とは?

人事制度とは、企業が従業員をどのように採用し、育成し、評価し、昇進させるかを定める仕組みのことです。 これには賃金制度、キャリアパス(等級制度)、評価制度が含まれ、昇進制度や定年再雇用制度、教育制度、福利厚生などのサブシステムが含まれます。 適切な人事制度は、企業の競争力を高め、従業員のモチベーションを向上させ、企業の持続可能な成長に寄与します。 人事に求められるのは「人事管理」 良い人事制度とは、以下の3つの観点での「人事管理」が実現できる制度です。 ①量の合理性:経営計画を達成するのに必要な人材が調達され適正な配置がされている ②システムの合理性:企業の目標を達成する管理がなされている ー社員に期待される目標をより高く達成できる仕組み・状態となっている ③継続の合理性:中長期の経営計画と連動した人事の仕組みが構築されている 人事制度を作る際に、これら3つを念頭においてプロジェクトを進めていく事が重要です。 人事制度設計を行う目的 人事制度の改訂を行う目的のいくつかの例を見ていきましょう。 若手採用の競争力を高める 少子化の時代、若手人材の採用は競争的になっています。自社の採用競争力を高めるために、賃金制度の見直しは有効な打ち手になりえます。 新卒や若手の求める給与水準を把握し、他社と競争力のある賃金制度を構築することは、優れた若手人材を獲得するための鍵となります。 また、若手が長期的なキャリアを描けるよう昇進制度も整備する必要があります。 定年後再雇用や定年延長の検討 社会全体の労働人口が高齢化している現代では、定年後再雇用や定年延長は現実的な選択肢です。 経験豊富な社員が長期間にわたり活躍できる制度を設計することは、企業にとっても大きなメリットです。 これは従業員のモチベーションを保ち、知識やスキルの継承にも役立ちます。 昇進・昇格の基準を明確化 従業員がどのように成長し、昇進・昇格するかの基準を明確にすることは、従業員のキャリア形成を促進します。 透明性のある評価基準を設けることで、従業員の努力が正当に評価される環境を作り出し、企業全体のモチベーションを向上させます。 貢献度を評価する 従業員の貢献度をしっかり評価し、その結果を処遇に反映する制度は、成果主義の企業文化を醸成します。 これにより、従業員は自己の成果が正当に評価されると感じ、さらなる成果を目指して努力するようになります。 人事制度設計を行う際のメリット・デメリット メリット 社員のモチベーション向上: 明確な評価基準と適切な報酬制度により、社員の働く意欲が高まります。 競争力の強化: 競争力のある賃金制度を整備することで、優秀な人材の確保が容易になります。 長期的な成長: 昇進・昇格の基準を明確にすることで、社員の成長を促進し、企業の持続可能な発展に寄与します。 高齢者活用: 定年延長や再雇用制度により、高齢者の知識や経験を有効活用できます。 デメリット コスト増加: 人事制度の見直しにはコストと時間がかかります。特に賃金制度の変更は、企業にとって大きな財政的負担となります。 抵抗感: 新しい制度に対する社員の抵抗感が生じる可能性があります。特に長期間働いている社員にとっては、新しい評価基準に順応するのが難しい場合があります。 複雑性: 企業の規模が大きくなるほど、人事制度の設計が複雑化します。それに伴い、管理が困難になる可能性があります。 人事制度設計の流れ STEP1◆人材育成支援 まず、現行の人事制度の課題点を洗い出します。 財務を含めた定量分析(当社では「人事アナリシスレポート」という分析を用います)、社員アンケート、キーマンインタビューを実施し、現場の声を集めます。 現行制度の内容を確認することも必要です。その結果から従業員の意見をもとに、制度の良し悪しと改善ポイントを明確にします。 現状分析は、めざす人・組織の姿がどのようなものであれ、将来の人事制度改革の基盤を作るために不可欠です。 STEP2◆目的の設定 人事制度設計の目的を明確にします。 社員の処遇改善、高齢社員の活躍推進、昇進・昇格基準の明確化による社員の成長意欲の喚起など、具体的な効果を求めるべきです。 目的がはっきりすれば、それに基づいた合理的な制度設計が可能となります。 また、人件費総額を何%まで上げることが許容されるのかや、導入時期について、経営としっかり合意形成しておくとよいでしょう。 STEP3◆概要設計 目的に沿った新しい人事制度の概要を設計します。競争力のある賃金体系、高齢者の活用方針、適正な評価制度などの骨組みを作ります。 概要設計は全体像を把握し、次の詳細設計へのステップアップを容易にします。 概要設計は新しい人事制度の設計図として、概要設計が完成した段階で、経営の合意を取り付けるとよいでしょう。 STEP4◆詳細設計 概要に基づき、具体的な制度の詳細を策定します。このフェーズでは、各制度の具体的な内容、評価基準、昇進・昇格の条件などを詳細に設計します。 評価項目を設計する際には、現場の意見をアンケート等で集約し、多様な職場でも使いやすい項目にするといったプロセスも重要になります。 さらに、最終的な人件費総額がどうなるかのシミュレーションを行い、チューニングを行うことも不可欠です。 STEP5◆導入支援 設計した制度を社内に導入します。社員説明会や評価者研修などを行い、新しい制度に対する理解を深めます。 特に評価制度については、透明性と公平性を強調し、社員の納得を得ることが重要です。導入支援は改革の成否を決定する重要なフェーズです。 STEP6◆フィードバックと改善 新制度導入後は、一定期間ごとに社員からのフィードバックを集め、必要に応じて制度の改善を行います。 これにより、制度が社員にとって使いやすく、企業にとって効果的なものになります。 制度設計の最初の段階で実施した定量分析と社員アンケートを、制度改定後2年目のタイミングで実施し、以降も定期的に実施します。 そうすることで、社員のフィードバックを集めやすくなり、効果検証もできるため、持続的に改善しつづけることができます。 人事制度設計の事例紹介 ▼事例1: 若手採用を強化したA社 A社は若手の採用競争力を高めるために、賃金制度を大幅に見直しました。 新卒社員に対して競争力のある給与を提示し、早期の昇進制度を導入することで、有能な若手人材の獲得に成功しました。 また、社員のキャリアパスを明確に示すことで、若手社員のモチベーション向上と定着率の改善に寄与しました。 ▼事例2: 定年延長を推進したB社 B社は社員の高齢化に対応するため、定年延長制度を導入しました。 経験豊富な社員が継続して活躍できる環境を整備し、知識とスキルの継承を実現しました。 定年延長により、会社全体の経験値が高まり、若手社員の教育にも大きく寄与しました。 ▼事例3: 評価制度改革で成果を上げたC社 C社は従業員の貢献度を高く評価する制度を導入しました。 成果主義を徹底し、透明性のある評価基準を設定することで、従業員のモチベーションが大いに向上しました。 評価結果を処遇に反映させることで、従業員は自身の成果が正当に評価されると感じ、さらなる成果を目指して努力するようになりました。 ▼事例4: 昇進・昇格基準を明確にしたD社 D社は社員の成長を後押しするため、昇進・昇格の基準を明確化しました。 透明性のある基準を設定することで、社員は自身の目指すべき方向を明確に把握でき、キャリア形成を促進されました。 結果として、社員のモチベーションが向上し、企業全体の活力が増しました。 コンサルティングの重要性 上記のような成功事例を達成するためには、適切な人事制度コンサルティングの支援が欠かせません。 専門的な知識と経験を持つコンサルタントが、貴社の具体的なニーズに対応し、最適な人事制度設計をサポートします。 人事は、誰もが一家言あり、さまざまな意見が寄せられやすい領域です。 分析に基づく客観的な外部からの視点と専門知識は、プロジェクトを前に進め、社内合意を形成する上で非常に有益です。 結論として、人事制度設計は企業の成長を支える重要な要素です。 「人事制度 コンサルティング」サービスを活用することで、目的を明確にし、現状を網羅的に把握し、社員の声を反映させた制度設計を行うことが可能です。 どのような課題であれ、適切なコンサルティングを受けることで、その解決に向けた道筋が開けるでしょう。 結論として、人事制度設計は企業の成長を支える重要な要素です。 「人事制度 コンサルティング」サービスを活用することで、目的を明確にし、現状を網羅的に把握し、社員の声を反映させた制度設計を行うことが可能です。 どのような課題であれ、適切なコンサルティングを受けることで、その解決に向けた道筋が開けるでしょう。

「ヘルメットの中の人的資本」 ~アメリカンフットボール式、社員を“戦力化”する人事運用の極意~ | 人事コンサルティング

「ヘルメットの中の人的資本」 ~アメリカンフットボール式、社員を“戦力化”する人事運用の極意~

 私の好きなスポーツの1つにアメリカンフットボールがある。 あの重厚な装備、緻密な戦略のぶつかり合い、そして一瞬の判断が勝敗を分けるスポーツに、私は人的資本経営の本質を感じてしまう。 ※本コラムとは全く関係ないが、2028年ロサンゼルス五輪ではボディコンタクトのないアメリカンフットボール=フラッグフットボールが正式種目になっていることを宣伝させていただきます。  日本企業も「人的資本経営」という言葉に本気で向き合い始めているが、情報開示が目的となっていないだろうか。 本質はそんな薄っぺらい"バズワード"ではない。これは、人事戦略の“表紙”を差し替えるような、流行り物ではなく、 人事制度の「運用」そのものをアップグレードするという、もっと泥臭い話なのだ。そしてその泥臭さが、実はアメリカンフットボールにそっくりなのだ。  アメリカンフットボールの特徴は、選手が極端に専門化されている点だ。 例えば「クォーターバック(QB)」は司令塔の役割で、戦況を読み、瞬時に判断してボールを投げる(走る)頭脳型ポジション。 一方、「オフェンシブライン(OL)」は、体格の大きさとパワーで敵を押しのけ、仲間を守る縁の下の力持ち。 そして「ワイドレシーバー(WR)」は俊敏なスピードで敵陣を駆け抜け、パスをキャッチする花形。どの選手も能力も役割も全く違う。 「全員に同じ練習をさせる」などという発想は、勝負の世界ではナンセンスなのだ。  人的資本経営も、まさにこの「選手一人ひとりにフィットした人事制度の運用」が肝心だ。 企業が制度を作るとき、多くは「全社員共通」の基準で評価や育成を設計する。 しかし、実際の現場では「型にハマらない社員」こそがスーパープレーを見せるスタープレイヤーになり得る。 社員の性格も能力も異なるのに、画一的な評価制度、共通の研修、同じキャリアパスでは、スタープレイヤーは生まれにくい。  人的資本経営とは、この“ポジション別マネジメント”の視点を人事制度に持ち込むことに他ならない。 例を挙げれば、クリエイティブな思考を求められるマーケティング職と、緻密な計画性が求められる経理職では、当然伸ばすべきスキルもキャリアの描き方も異なる。 にもかかわらず、同じ評価項目で比べ、同じ階段を上らせようとする。 これは、QBに「パワーで敵を押しのけろ」と言い、OLに「俊敏なスピードで敵陣を駆け抜けろ」と言っているようなものだ。 それでは勝てるはずがない。  そして、アメリカンフットボールのもう一つの特徴。それは「プレイブック」という戦術マニュアルだ。 状況に応じた複数の選択肢を用意し、選手が自分の役割を瞬時に判断できるようにする。 人的資本経営でも、「社員が自分の成長を描けるプレイブック」が必要だ。 単なる人事制度ではなく、社員が「自分はどこを目指すべきか」「今、何を強化すべきか」を把握できる仕掛け――たとえば、スキルの見える化や、個別のキャリアマップの設計がそれにあたる。  最後に忘れてはならないのが、「ヘッドコーチ」の存在だ。 試合中、選手たちに指示を出し、状況を分析し、最適なプレーを選ぶ。社員を本気で成長させるには、マネージャー自身がコーチとしてのスキルを持っていなければならない。 つまり、社員の成長に本気でコミットするということ。 人的資本経営は、人事部だけの仕事ではない。現場マネージャーも育成のプロであり、育成観と目利き力、これこそが、最も重要な“隠れた資本”なのだ。  このコラムの読者の会社が今、負けが込んでいるとしたら、それは戦略のせいではなく、選手の特性を見抜かずに、全員に同じプレーをさせているからかもしれない。  アメリカンフットボールに勝利の方程式はない。 だが強いチームには共通点がある。 それは、一人ひとりの特性を見極め、最適な育成と戦術で活かす"人事制度の設計"と"運用"が徹底されていることだ。  さて、あなたの会社にとっての「QB」は誰か? 「OL」は?「WR」は? その選手たちに、適したプレイブックは用意されているだろうか? あなたのチームは、勝つ準備ができているだろうか? 本コラムの筆者が登壇するセミナーのアーカイブ配信をしております。ぜひご視聴ください。お申込みはこちら 【アーカイブ配信】シニア人材を活かす人事制度 ~70歳まで雇用を見据えた人事制度のあり方とは~

グローバルキャッチャー | 人事制度

グローバルキャッチャー

 わが国の人口動態は極めて悲観的だ。生産年齢人口の比率は2020年の約60%から次第に縮小し、2050年には50%あまりに低下する。国力を維持するためには労働力の確保が喫緊の課題であるが、女性の働き手の増加は概ね天井を打った。あとは、高齢者により長く働いてもらうか、外国人の労働者の力を借りる以外に打ち手がない。  他方、わが国企業のイノベーションは他の先進国に比べて遅れていると言われる。新しい発想を生み出すには人材の多様性が欠かせないが、総合職中心の年功序列・長期雇用の雇用慣習はむしろ、組織の同質性を助長する。この同質性を壊す施策の旗手は女性の社会進出だが、外国人の雇用も人材多様化の強力な一手になる。  いずれの側面を見ても、わが国の健全な発展のためには、外国人雇用を格段に増やすことは避けて通れない課題だ。    この状況に直面し、行政は、特定技能制度を導入したり、高度人材(高度専門職)制度を整えたりして、外国人にとって働きやすい環境を整備しようとしている。これまで、「技能実習制度」という耳に聞こえの良い言葉で安い労働力を確保しようとしてきた歴史があったが、今後は、そうではなく、本質的に外国人の知恵と技能を借りる方向に舵をきったと思える。  長く外国人の受入に消極的だったため、こうした行政措置については運用に慣れておらず、ちょっと腰が引けているのではないかと訝りたくなる面もあるが、法律を変えてでも何とか外国人を誘致しようとする姿勢は評価できる。    さて、企業の側はどうか。医療・介護や建設の現場ではすでに数多くの外国人労働者を受け入れているが、深刻な人手不足は解消されていない。また、ICTにかかわる業界においても外国人を登用しようとする動きが活発になってきている。なにしろ、わが国の大学や大学院が輩出する人材だけでは、ICT技術者の需要を満たさないという事情があるのだ。  ところが、多くの企業において、外国人を雇用する土壌が整っていない。まずは何よりも言葉の問題である。英語で話すことを苦手とする社会的事情は、ここ数十年まったく変わっていないのではないか。世界に目を向けると、第二外国語であれ英語を使って生活する人の数が15億人、全人口の約2割である。母国を離れて仕事をしようとするような人は、ほとんど英語を話す。一部のサービス業を除いて、仕事をするのにまず日本語を覚えなさい、というのはグローバルスタンダードから見れば無体な話だ。  次に、人事管理の問題。わが国に少なからず残っているのが、年功序列の慣習である。この仕組みの下では外国人の安定雇用は無理だ。年功序列には、若年の時代に相対的に低い報酬を甘んじて受け、中高年になってからその分高い報酬を受けて、生涯収入でペイするという性質、つまり、「賃金の後払い」がある。もともと長期雇用を前提としてないであろう外国人の若年層が、これを受け入れるはずがない。  良い例は、ICTの領域でスポットライトが当たっているインド人だ。この国の人々は、仕事に対する姿勢が日本人と少し違うと言われる。報酬をはじめとする労働条件が有利である限りにおいて雇用されるが、相対的に良い条件の雇い主が現れれば、躊躇なくそちらに鞍替えする。日本人が考えるほど雇い主に対するロイヤリティは高くないと考えるべきだろう。だから、長期雇用と年功序列の制度・慣習をそのままに、インドの優秀なICTエンジニアを雇い入れ長く働いてもらおうというのには無理があるのだ。    出張先の関西のホテルで朝食をとったときのこと。欧州人や中国人の客と、英語や中国語を操って朗らかに談笑するサービススタッフがいた。尋ねてみるとベトナム人だ。業務指示は日本語で受けるのだそうだ。サービス品質も語学力もたいしたものだ。これを見て思った。私たちは、ビジネスマンとして内向きに過ぎないか。経済の先進国だと高を括っていると、もはや危険水域に立ち至ってしまうのではないか。  昔、果敢に対外進出を志し、見知らぬ土地に出て行って働くことにあこがれた高度経済成長時代があった。今は、多くの外国人を受け入れるために、やはり、グローバル化を図らなければならない時代だ。私たちは、世界の労働力を受け入れるキャッチャーとして雇用の在り方を根本から考え直し、私たち自身の内なるグローバル化を進めなければならない。

「“階段”がない家に、住めますか?」~等級と評価の設計が、組織の“骨格”を決める話~(「人事制度設計」を考えるコラム①) | 人事制度

「“階段”がない家に、住めますか?」~等級と評価の設計が、組織の“骨格”を決める話~(「人事制度設計」を考えるコラム①)

あなたがもし、ゼロから家を建てようとしたとき、最初に「ソファの色」や「カーテンの柄」を決めるでしょうか? きっと「間取り」や「階段」「柱」といった、家の“骨格”を設計するはずです。これがなければ、どんなにオシャレな家具を置いてもそもそも住めないからです。 組織も同じです。 「評価制度を先に作ろう」とする会社は少なくありませんが、それはソファから決める家づくりと同じです。まず設計すべきは等級制度、そして評価制度という組織の“骨格”です。  では、どこから始めればよいのでしょうか? 答えは、戦略です。 「人材戦略」は必ず「経営戦略」と同じタイプの戦略でなければなりません。会社としてどの市場に挑み、どんなポジションを狙うのか。そのために必要な人材はどんな人材か?そして何人必要か? ――質と量。この問いが出発点です。  例えば、山登りをするなら登山靴とロープがいりますし、野球をするならバットとグローブが必要です。間違っても、登山にバットは持って行きません。組織でも同じです。戦略に応じた人材設計がなければ、人事制度は飾りで終わります。 そしてこの人材設計は、組織ごとに異なる課題や期待、例えば、ベースアップによる生活保障の強化、シニア層の活性化、成果主義の徹底による成長促進などに応じてカスタマイズされるべきです。  さて、ここからようやく「等級制度」と「評価制度」の話になります。まず等級制度とは、言ってみれば組織の“階段”です。階段の数や幅、勾配が曖昧な家には、誰も住みたくありません。それと同じで、等級制度が曖昧な組織では、人材も成長の階段を上ることができません。  特に管理職層は、組織の階層構造に合わせて設計すべきです。部長が5人もいるのに部が3つしかない、という奇妙な家をたまに見かけます。非管理職層においては、社員の成長段階に応じた等級が必要です。さらに、専門性を武器にする社員には、市場価値に即した等級幅を設定しなければ、すぐに家出(転職)されてしまいます。  では、等級をどう定義するか。等級定義とは、その等級の社員が「何を果たすべきか」を示すものです。入社から上位ポストに至るまでの「成長曲線」を表現することで、キャリアの道筋が見えてきます。そしてその定義は、抽象的であってはなりません。具体化の一つの手法が、PDCAサイクルで定義を組み立てる方法です。 たとえば: Plan:組織が実現すべき方針・目標を描き、達成するための計画を逆算して立てる。 Do:組織目標の進捗状況を適切に管理し、円滑かつ確実に計画を遂行する。 Check:組織で起きている問題課題分析・整理し、妥当性の高い根拠により状況を正確に読み取る。 Action:組織に顕在する問題・課題を明確化した上で、解決策・改善策を検討し方針を決め、重点的に取り組む。  これはあくまで定義を具体化するための“例”であり、他の切り口も存在します。しかしPDCAは、等級定義を評価制度にスムーズに接続するフレームワークとして非常に有効です。  また、よく誤解されるのですが「Do(実行)」が1項目だけでよい、という意味ではありません。たとえば「組織外連携」「人材育成」など、同じ“Do”のカテゴリでも複数の観点を立てて構いません。重要なのは、バランスよく行動全体を捉えることです。定義と評価が地続きであること。これが、評価制度を“後づけの査定”から“成長のマイルストーン”へと進化させるコツです。  そして最後に、昇格の基準について明確にしておきたいのですが、よく「スキルレベルが上がったから昇格」と捉えがちです。しかし、そうではありません。その等級で定義された“評価項目”を、一定水準で実行できているか。つまり「そのレベルの人として安定的に機能し、次のステップに進めること」が、昇格の本質です。  ここで、忘れてはならない前提があります。 人は評価されるために成長するのではありません。成長した事実を評価されるのです。  評価制度とは、誰かを選別するためのものではなく、社員一人ひとりが、自分自身の成長曲線を描き、それを歩んでいくための道標です。だからこそ、「今の組織に必要な成長」と「社員が歩みたい成長」を重ねる制度設計が求められます。”年功か成果か、ではなく、両者をどう融合させるか”それが、制度に命を吹き込む発想です。  ここまで読んで、「そんな細かく決めると、自由がなくなる」と言いたくなるかもしれません。ご安心ください。骨格を決めることは、自由を奪うのではありません。むしろ、成長の自由を保証するためにこそ、骨格が必要なのです。 あなたが今立っている組織には、ちゃんと階段がありますか?それとも、3階建ての家なのに、はしご一本で運用していませんか? *「人事制度設計」を考えるコラム2回シリーズ。 ■ 「“階段”がない家に、住めますか?」~等級と評価の設計が、組織の“骨格”を決める話~     (人事制度設計を考えるコラム①)今回 ■ 「柱が立っても、水道が来なきゃ暮らせない」~報酬設計は“住み心地”のリアル~       (人事制度設計を考えるコラム②)

賃上げは企業の未来を変えられるか | 人事制度

賃上げは企業の未来を変えられるか

 「物価上昇以上の賃上げを!」をスローガンに賃上げ機運が高まっています。多くの大企業においては、かつてない強気な要求額があるにもかかわらず、満額で妥結が進んでいる企業も多い。円安による輸出企業の景気の良さなどが、その意思決定を後押ししていることもあろうかと思います。  大企業だけでなく、中小企業にもその効果を波及させるべく、賃上げによる税制優遇措置など、様々な政策が進んでいます。中小企業は大企業に比べて労働分配率が高く、生産性は低く、賃上げが利益への影響は大きい。よって様々な政策を駆使したとしても、その利益確保にかかる苦労は計り知れないものと思われます。日本の多くを占める中小企業にとって、容易で速攻性のある収益向上の施策は少なく、DXという「幻」に踊らされながらも、出来ることとして、恐る恐るそして必死に値上げ交渉を進めつつ、何とか賃上げの実現を目指している企業も多いと思います。社員の定着なき成長はあり得ない、人材確保という最大のミッションのもと、短期的な利益はいったん度外視し、株主への了承を取り付け、賃上げに踏み切る企業も多いと思います。  人的資源から人的資本への解釈が変わりつつあり、コストという短期的な視点から、投資という中長期的な視点が求められています。人材に対して労働力の対価は、賃金という意味合いだけでなく、将来に向けた投資という意味合いが強くなっていくことです。現在人的資本に関わる指標が多くありますが、人的資本ROIであろうと労働生産性や賃金生産性であろうとも、いずれにしても要素分解していくと、利益が最終的な指標の要素のひとつになってきます。当然ではありますが、人的資本経営において、利益を安定して確保、向上させていくことが条件ということです。  また今後「幻」では終わらせないようDXを推進する投資も積極的かつ継続的に挑戦し、飛躍的な成長や収益性の向上を実現させていかなければなりません。そういった挑戦の「果実」は短期的な指標だけではなく、3年や5年などの期間平均値やその期間の利益に影響を与える指標の決定係数など、中長期的な指標で見ることが有効になります。  非財務情報の開示が進んでいますが、指標をたくさん並べても、収益があがらなければ意味がありません。中長期的な指標の公開が進んでいくことが、イノベーションへの挑戦や人的投資に対する心理的なハードルを下げ、投資に対する積極性が高まっていく流れをつくっていくことはとても良いと思います。そして情報開示が進み、人的資本のPDCAサイクルをしっかり回すことで、収益向上と還元の好循環が多く生まれていかなければなりません。賃上げが企業の未来を変えるKPIとなるのかは分析や議論が必要なところですが、将来にわたり収益の安定した創出につながる企業独自の確からしい因子(KPI)が問われる時が、すぐ目の前に迫ってきています。あなたの会社の人的資本経営における最重要KPIは何ですか?

「柱が立っても、水道が来なきゃ暮らせない」~報酬設計は“住み心地”のリアル~(「人事制度設計」を考えるコラム②) | 人事制度

「柱が立っても、水道が来なきゃ暮らせない」~報酬設計は“住み心地”のリアル~(「人事制度設計」を考えるコラム②)

第1回では、等級制度と評価制度は“組織の骨格”だと申し上げた。骨格がしっかりしていれば、あとはそこに“インフラ”を整備することで組織は生き始める。 その“インフラ”とは水道、電気、ガス――この家で暮らしていけるのか?に直結するリアルな要素。それが報酬制度である。 まず、どんな報酬制度にするかは、ポリシー(考え方)次第だ。これは家で言えば「都市型か、里山型か、自給型か」くらい違いが出る。 たとえば: 採用競争力を重視したい → 年収水準は外部マーケットと比較して高めに(都市型) 安定した組織運営を重視したい → 内部昇格や長期在籍を促す設計に(里山型) 外部環境に頼らず、自律成長を目指したい → 業績連動を高め、自己完結型に(自給型) といった具合に、会社のスタンスを明確にする。報酬制度は“数字の羅列”ではなく、“思想の反映”なのである。 こうした方針を決めずに、細かな設計だけをしても「水は出るけどお湯が出ない」みたいな中途半端な制度になる。 次に、「年収」をどう分解するか。大きく月収と賞与に分かれるが、それぞれに設計ポイントがある。 特に賞与は、以下の2軸で考える:  1つ目は、「どうやって原資を決めるか?」  2つ目は、「原資をどう分配するか?」 まず、「どうやって原資を決めるか?」。ここでありがちな設計ミスが、「賞与〇カ月分を踏襲する」という“惰性型報酬設計”だ。企業経営において、前年の気分でお金を撒くような習慣が残っているのは賞与くらいだろう。 おすすめは、「営業利益の○%を原資にする」というロジックである。これは社員にもわかりやすく、「業績に応じて自分たちの報酬が決まる」という感覚が醸成される。つまり、“結果にコミットする文化”を作りやすい「自律型報酬設計」だ。 「でも、業績が悪かったら社員の生活は?」という質問が飛んできそうだ。ごもっとも。そのために、ポリシーがある。「賞与は年間4カ月を標準とし、そのうち2カ月は固定、残りの2カ月は業績と評価で変動」 こうすれば、最低限の生活保障と、成果に応じた変動報酬のバランスがとれる。要は、制度ではなく“発想”を柔らかくするのだ。 2つ目の「原資をどう分配するか?」。  わかりやすい例を挙げれば、 S評価は標準の1.5倍、C評価は0.7倍など、評価ランク別に差をつけることで、納得感を生む。 当社としては少し複雑ではあるが、ポイントシェア方式での配分を推奨したい。これは賞与総原資÷社員の評価ポイントの総和=1ポイントの金額を算出し、評価ポイント×1ポイントの金額で配分する手法だ。  ※厳密には基本給の差によって1ポイントの重みが異なるため、その差を埋めるロジックを組む。 ざっくり言うと、成果の比率で山分けする方法である。 ポイントシェア方式の最大のメリットは、賞与原資内で必ず賞与支給額が収まることだ。 月収の肝となる給与テーブルも、方針に応じて設計が変わる。 ・「メリハリ重視」 → テーブル幅は狭く、昇格時に年収がガツンと上がる ・「なだらかな成長」 → 幅広のテーブルで、毎年少しずつ昇給する設計に そしてもうひとつ、管理職昇格時の給与設計も見逃せない。 管理職には残業代がつかないため、非管理職の“残業込み”月収を下回るような昇格はNGだ。昇格したら損をする、という制度は、誰も住みたがらない、空き家だらけのタワマンになってしまう。 さて、ここまで読んだあなたは、こう思っているかもしれない。「制度設計って、結局、全部バランスの話なんですね」と。 その通り。そしてそのバランスは、“数式”ではなく“哲学”で決まる。 この制度の家に、果たして社員は住み続けたいと思っているだろうか? いま一度、インフラチェックをしてみてはいかがだろうか。 *「人事制度設計」を考えるコラム2回シリーズ。 ■ 「“階段”がない家に、住めますか?」~等級と評価の設計が、組織の“骨格”を決める話~    (人事制度設計を考えるコラム①) ■ 「柱が立っても、水道が来なきゃ暮らせない」~報酬設計は“住み心地”のリアル~        (人事制度設計を考えるコラム②)今回    

専門職の制度設計 | 人事制度

専門職の制度設計

 人事制度において、高度な専門性をもって、付加価値を創出し経営貢献をする、管理職と同程度、ないしはそれ以上で処遇できる「専門職」を設置する会社は多数ある。社員のキャリアゴールを複数提示し、本人の志向性によってキャリア選択できる複線型人事制度と呼ばれるものの一部で、オーソドックスな人事制度の形であり、比較的なじみのあるものだと思われる。昨今は、社内に知見やノウハウのない領域を強化するため中途採用しやすくするための設置や、専門職を成長の源泉と位置づけ、新たに増設を検討するケースも増えている。  これまで社内にいなかった人材を定義し位置付ける、ないしは、新たに専門性が高い、ということで高い処遇をしてスポットをあてていく制度であるため、「専門性が高い」イメージのすり合わせを慎重に行いながら設計を進められていることだろう。  特に、専門職として最上位等級を定義すると「こんな人材が本当に出てくるのか?」と思うようなレベルを設定することも多い。業界革新を起こす業界のリーダーであったり、会社業績に直接的に極めて大きなインパクトを与える人材であったり。  当然こういった人材が出てくるのは会社として望ましいし、そういった人材が本当に成長に資するならば難易度が高くても生みだしていくべきであろう。しかし、制度設計においては、実はこの輝けるキャリアゴールに向かってどう専門人材を生み出すか、ということよりもいかに生み出しすぎないようにするか、が設計時の主要な議論になることが多い。  昨今、管理職は役割等級制度や職務等級制度に代表されるように、組織の数分しか管理職に格付かない制度への見直しが進んでいる。年功的な昇格をなくし、人数管理を行うことで人件費が適正に維持される仕組みである。一方、専門職は人数をコントロールする拠り所がないことが多く、またそこに格づいている人がいないことから、確信をもった格付ができるか不安もある。よってこれまでの職能等級のように、人件費高騰リスクのある制度になるのではないかという危機感をもって設計が進む。  どんなに等級定義を難しく、手の届きづらいものにしたとしても、甘い評価や、長らく同じ等級に留まることへのモチベーションの低下を恐れ、昇格圧力に負けてしまうのではないか、と考えてしまう。特に、その会社において最高位クラスの専門家となってくるとその専門性を測定できる人がいないということから、評価が高ぶれし続ける、という状態に陥ってしまうことも予見して設計するのである。  これまでの年功的運用の失敗を繰り返さないため、専門職に対しては、そのあたりのリスクを回避するために、しっかりと制度で制御できる仕組みを採用している会社も多い。例えば、①専門職の評価はその専門性を以て出した「成果」を特定できるようにする②360度評価を行い、周囲からしっかり専門家として認定されているかを確認する。③専門職としての価値が自社、ないしは労働市場においてあるか、定期的に検証できるよう専門職認定の会議を行い、時価で評価できるようにする。④専門職をおいてよい職種ごとに人数制限を設ける、などである。  制度設計においては、人件費高騰リスクや等級にアンマッチな人材が格づくことを回避することを検討することはもちろん重要である。もちろん抑制だけでなく、キャリアを構築できるイメージがわくように腐心して設計する。設計はそれでよいだろう。しかし、じつは、こういった人材が活躍できる環境に身をおかせることができるか、といった観点での検証が専門職制度においては制度設計と同じくらい重要だと思う。具体的には、実際どのように組織に位置づけ、役割、権限を与えていくかという、配置する際のルールの議論や考え方の浸透である。  例えば、専門職の等級定義の中に、会社全体に大きなインパクトを与える成果が期待される。という一文があったとしよう。しかし、実際そのような成果を出すための位置づけに専門職一人一人を組織の中に位置づけられていないケースが圧倒的に多い。現実的には、一部員、課員であることが多く、なすべきことは部長ないしは課長から指示され、自由に自ら構想して専門性を活かして成果を出せる環境になかったりする。成果を出すためのリソース(人・金)や権限を与えていない、ないしは不明確なことも多いだろう。専門職=一人で成果を出してもらう人、というイメージがあるのかもしれず、組織長もその必要性を感じていないこともあるだろう。目標設定の際に初めて、この人は専門職だから難しい仕事をさせないといけないぞ、と考えて難易度の高い一人でやる仕事を無理やり生み出していたりする。また、専門的見地から部長や課長をサポートする位置づけ、かつての部長補佐、課長補佐のような立場にしてしまうこともある。その結果、専門職の人材イメージを劣化させてしまったりする。また、本来の期待役割をスムーズにこなせない。これではせっかくの専門職が台無しである。  専門職はその専門性の高さ、およびそれを培ってきたバックグラウンドを駆使して、マネジメントを担ってきた人では考えられない観点や、手法、人脈で成果を出していくのではないかと思う。昨今、専門性を以て成果を出す人材をいかに作っていくかが付加価値創出の鍵であるという人事制度の考え方も増えてきている。専門職に対してどのような権限、裁量を与え、専門職の成しえていきたいこと、やりたいことを組織の中に取り込みながら組織成果を作っていく、ということが今後更に重要になるだろう。これから更に、中途採用で専門職を増やしていく会社も増えていく。中途の専門性の高い方の力を使って、新しい価値を創出していく、ということであればなおさら、いかにうまく組織に位置づけ、成果をだしやすい権限付与していくかをしっかり考える必要があるということを忘れないで頂きたい。

職能型人事制度の逆襲 | 人事制度

職能型人事制度の逆襲

 職能型人事制度と聞いて真っ先に連想するのは、「年功序列」という言葉ではないでしょうか。また職能型は古い、今の時代にマッチしていない等も合わせてよく耳にします。本当にそうでしょうか?  近年、企業の経営環境は大きな変革を迎えています。従来の経営モデルに代わって、現在注目されているのは御承知の通り「人的資本経営」となります。 人的資本経営の定義は経済産業省ホームページ:人的資本経営~人の価値を最大限に引き出す~で下記の様に定義されています。 『人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方』 つまり、人材に投資をし、成長をさせることで企業価値を生み出していく経営のあり方となります。  人的資本経営を実現するための人事制度を考えるとするのであれば、仕事を基軸とした考えではなく、人を基軸とした考え方となります。 これは、昨今注目度の高かった職務型制度(ジョブ型制度)ではなく、1970年代に定着した職能型人事制度の思想に近しいことを意味します。 更に付け加えますと、欧米型の職務型制度が日本の慣習や風土、国のセーフティーネットとはマッチせず、コロナ禍で非常に多くのメディアに取り上げられていた職務型制度が、今は下火の傾向にあると言えます。 ※弊社への依頼の状況も、職務型人事制度を導入したいという声は減っている状況です。  ただし、従来の職能型制度では、冒頭申し上げた通り年功序列的な人事制度となること想像に難くありません。古き良き部分は残しつつ、問題・課題点は当然改善した人事制度を構築する必要があります。  古き良きという部分については、日本は能力やスキルをベースに人事制度を考えてきた点です。特に製造業においては技術伝承の観点から、非常にきめ細やかなスキルマップを作成している企業もございます。この伝統的な能力・スキルをベースにしたキャリアパスがこれからの人事制度の根幹となると予測をしています。 しかし、これだけでは能力・スキルが向上すれば処遇は高くなり、能力・スキルは年齢によって微減はしても、大きく下がることはないという制度では、結果として年功序列的な制度となってしまいます。  この様な悪しき職能型制度・運用を如何に解決するか。 それは職能型制度に、職務型制度の利点を組み込む人事制度を設計することです。 職務型制度の利点は、職務や役割やポジションに必要な業務・責任、経験が定義されているため、タスクの分担や役割の明確化が容易になります。生産性の向上という観点では職務型制度は有効な人事制度です。 失われた30年から脱却し、これからの日本に求められる人事制度は、職能型+職務型のハイブリッド型人事制度です。  ハイブリッド型人事制度のイメージは下記の通りです。 ①会社が求めるスキルがLv7→職務lv7の職務にアサインをする。 ②ポストに空きがなければ、スキルLv7であっても職務アサインはLv6以下となる。 ③スキルLv7の社員がライフイベントによって働き方を限定する場合は、職務Lv5にアサインをする。 ①を原理原則の人事制度運用とした制度となり、②③を厳格に運用することで人件費の高騰化を防ぎます。また③のように現在の45歳以上の中間管理職層はこれから介護を行う社員が増加することを考慮し、多様な働き方を許容可能な制度にもなります。  最後になりますが、ハイブリッド人事制度を機能させるためにもう1つ重要なピースがあります。それはテクノロジーの活用です。 スキルの可視化、スキルと職務のマッチングは人間の力では限界があります。  これから職能型制度への回帰が想定されますが、そこには職務型制度、テクノロジーの活用がプラスされた全く新しい職能型制度の姿です。 職務型制度ではなく、この新しい職務型制度が今後のトレンドになると推測をします。 今まさに、職能型人事制度の逆襲が始まろうとしています。

令和維新の年になれるか | 人事制度

令和維新の年になれるか

 現代の人事制度の基礎は明治維新と言われていますが、この明治維新は、西暦1868年(辰年)に始まり、明治天皇が即位して江戸幕府が倒れ、明治政府が発足した日本の歴史的な転換期であったわけです。  人事制度に関しては、この明治維新以降に大きな変化がありました。例えば、前近代的な身分制度からの解放や、新たな近代的な役職や制度の導入などが行われました。これらの変化は、日本の近代化とともに人事制度にも影響を与え、近代的な組織や制度の基礎を築くことになりました。  以降、辰年からどのような出来事があったか気になり整理すると、、、 1916年(辰年)  大正時代に入り、日本は急速な近代化を遂げました。官僚制度や公務員制度の改革が進められ、官僚の選任や昇進に関する基準が見直され、近代的な人事制度が整備されました。 1940年(辰年)  昭和時代に入り、日本は軍国主義の台頭や第二次世界大戦の勃発など、大きな社会変動を経験しました。この時期には、国家の体制や組織が変化し、人事制度もそれに応じて変化しました。 1964年(辰年)  戦後の高度成長期に入り、日本は経済成長を遂げました。この時期には、企業や官庁の組織が拡大し、人事制度も組織内の人材育成やキャリアパスの整備が重視されるようになりました。 1988年(辰年)  バブル経済の到来やグローバル化の進展など、様々な経済・社会の変化が起こりました。これに伴い、企業や官庁の組織が再編され、人事制度は働き方の改革や労働条件の見直しなどが進められました。 2000年(辰年)  バブル経済の崩壊後の経済不況期であり、企業のリストラクチャリングや人員削減が進行しました。多くの企業が人事制度の見直しや労働条件の改善を図り、労働市場の柔軟性の向上や非正規雇用の拡大が進んだ時期でもあります。 2012年(辰年)  リーマン・ショック(2008年)をきっかけとする世界的な金融危機以降、多くの企業が経営環境の厳しさに直面し、人員削減や組織再編が相次ぎました。この時期には、企業の経営戦略や人事制度が大きく変化し、労働市場の不安定化や労働条件の悪化が懸念されました。  これらの過去辰年における社会的・経済的な出来事は、人事制度に影響を与え、企業や組織がその時代の課題やニーズに対応するために制度の改革を行ってきた経緯があります。特に、リストラクチャリングや経営戦略の変化、働き方の見直しや労働市場の変動への対応などが重要なテーマとなってきたのです。  今年2024年は辰年ですが、新型コロナウイルスの世界的な流行によるパンデミック以降、多くの企業がリモートワークやテレワークなどの柔軟な働き方を導入し、働き方の在り方や人事制度が大きく変化してきています。また、経済の不確実性や雇用の不安定化も影響し、労働市場全体のダイナミクスも変わってきています。  社会全体でも多様性と包摂性の重要性が認識される中、企業も多様な人材の活用や包摂的な職場文化の構築に力を入れています。人事制度も、ウエルビーイングと多様性と包摂性を推進するための取り組みを進めていく必要があります。これらの要素が、2024年(辰年)における人事制度の基礎を形成していくでしょうし、企業は、これらの変化に迅速に対応し、より持続可能な人事戦略を構築することが求められています。  今年を明治維新のごとく令和維新の年にできるかどうかは、各企業の変革の本気度にかかっているのです。

辛抱なき若者が未来を照らす | 人事制度

辛抱なき若者が未来を照らす

 配属ガチャという言葉があるそうだ。大学を卒業して首尾よく就職することができても、初任配属は会社の都合、思うようにはいかないものだ、という意味らしい。そして驚くべきことに、初任配属の地域や仕事が思うままにいかなかったとき、4人にひとりが退職を考えるというのだ(※)。せっかく入った会社なのに、あまりに辛抱が欠けてはいまいか。  昭和の時代にサラリーマンとしてのスタートを切った人間にとっては、空いた口が塞がらないタイプの事実だ。ご同輩の読者はどう思われるだろうか。しかしながら、この事実には、「いまどきの若者は・・」で済まされない大きな変化を感じる。    さて、ジョブ型という言葉が流行りだしてから少し時間が経った。積極的にこれを取り入れようとする会社もあれば、話はわかるが当社には合いそうもないから放っておけ、という会社もある。いずれにしても、ジョブ型という言葉の定義にはかなりの幅があるように思える。  ジョブ型の反対の概念をメンバーシップ型と呼ぶことが多い。筆者なりに両者の違いを描写すると次のようになる。まず、メンバーシップ型だ。雇い主は新入社員に、「定年を迎えるまで何があっても君をクビにしないよ、その代わり、会社が命じるままどこへでも行って、何でもやってください。」と言う。新入社員は「はい、どんな場所にも行って、どんな仕事でもやります。その代わり絶対にクビにしないで。」と答える。家族的だが、ちゃんと取引が成り立っている。  ジョブ型はこれと違う。雇い主は新入社員に、「この仕事をこの場所でやってください。他の場所にはいかなくてよい。他の仕事もしなくてよい。その代わり、この仕事が無くなったら君はクビ。成果が出せなかったときも君はクビ。」という。新入社員も、「この場所で、この仕事だけやって成果を上げます。他のことをやらせようとするなら、会社を辞めます。」と言う。とてもビジネスライクに取引が成り立っている。わが国で解雇が難しいことはもちろん承知の上だが・・。  こうした定義が成り立つならば、ジョブ型というのは雇用契約の話をしているのだ。「ジョブディスクリプションを作ってやるべき仕事をはっきりさせましょう」というような、社内の制度やルールの話ではない。先ほどの配属ガチャ問題、会社のほうは「絶対クビにしないよ・・」と例のごとく言うが、新入社員のほうは「・・でも、他の場所で他の仕事をやらせたりしないでね。」と言っているように見える。同床異夢。取引が成り立っていない。    グローバル競争の時代、多くの経営者が、当社の社員には専門性が欠けていると嘆く。一人ひとりの社員がもっともっと高い専門性を持って仕事に臨まないと競争に勝てない、と。専門性を研ぎ澄まそうとするなら、なんでも屋のメンバーシップ型ゼネラリストではなく、ジョブ型の精鋭専門職を採り育てるべきだろう。わが国も、段階的であるにせよジョブ型雇用の道を進んでいかざるを得ないのかも知れない。だとすると、配属ガチャで辞めてしまう新入社員の決断こそ、わが国の雇用が進むべき道を指し示している、ということにならないか。  不本意配属で、若者は会社を辞めるのだ。多くの会社が喉から手が出るほどに欲する理工系、特に情報系の若者も、配属ガチャを理由に辞めてしまうのだ。ならば、先に職種とエリアを約束し、それを長期間守っていかざるを得ないだろう。あとは、いかにして「その代わり・・」のところを描くかだ。取引を成り立たせるためにどうしたらいいのか。    がんばれ、新入社員。きみたちは自分のやりたい仕事を鮮明に思い描き、高度専門家の志を貫徹すべきだ。そして、それを実現するために必要なら、異動の無い働き方を求めてよい。どうしても叶わないなら、そんな就職は蹴飛ばしてしまえ。社会は甘くないから、「その代わり・・」が待っているかも知れない。でも勇気を持って前に進もう。君たちの決断は、わが国の未来を照らしているかも知れないのだから。   ※出所:「入社後の配属先に関する意向(不安・期待度)調査」キャリアチケットProduced by Leverages(2024年4月2日)

その転勤、必要ですか? | 人事制度

その転勤、必要ですか?

 転居を伴う転勤に抵抗感をもつ人が増えている。  エン・ジャパン株式会社の「転勤」に関する意識調査(2024)※によると、69%が「転勤は退職のキッカケになる」と回答しており、転勤を拒否する理由は「配偶者の転居が難しいから」が一番に挙がっている。その次に、「持ち家があるから」「子育てがしづらいから」が続いている模様だ。  今も昔も、転勤の基本的な考え方は、会社が主導して社員の配置転換を行うものだ。転勤を拒否すれば解雇事由となるのは、多数の企業の就業規則に明記されているところだろう。このように会社が強力な人事権を持つ背景には、日本型雇用の特徴である「終身雇用」「年功序列」とそれに伴う給与の引上げがセットになっていたためであり、労使双方でメリットがあったから成立していたとも言える。  しかし、転職が珍しくもなくなり、共働き世帯が大多数となった現在となっては、転勤の目的の重みと、その負担に即した処遇の大きさを再整理し、再び労使双方が合意できるポイントを探るのが急務となっている。 転勤の目的とは何か  そもそも、なぜ転勤が必要なのか、目的を整理したい。第一に挙がるのは欠員補充だ。定期的な転勤であれ随時の転勤であれ、ポストの欠員が出た場合に社外ではなく社内から素早く人材を補充できるのは、経営管理の視点で極めて効率的である。一方、社員視点ではどうだろうか。いつ自分に転勤の声がかかるか分からない不安定な働き方の中では、当然に将来の生活設計の見通しを立てづらくなる。欠員補充とだけ言われては本人のモチベーションもそうは上がらないだろう。このような目的の重みと本人負担を考えると、それ相応の処遇が求められてくる。具体的には、総合職手当といった「転勤を前提とした働き方の不安定さ」に報いる報酬であるが、少なくとも転勤がない社員と比べて5%~15%程度の給与水準の差がないと転勤待ちする側の納得感は得にくいだろう。  次によくある目的として挙がるのが人材育成だ。将来の経営人材候補や管理職を育てるために様々な事業所で経験を積ませるという企業は多い。人材の入れ替えが事業の成長要因になる企業もあるだろう。経営管理の視点で言えば、後継者育成や重要ポストの維持など、企業の継続性を保つ重要な目的である。社員視点で言ってもキャリアアップとそれに伴う処遇アップに繋がるので、転居に伴う生活上の負担は小さくはないものの、処遇が伴えば転勤に関する抵抗感も少なくなる(上述の調査結果でも、転勤を「条件付きで承諾する」と回答したうち、72%が「家賃補助や手当が出る」45%が「昇進・昇給がともなう」と回答している)。このような目的と本人負担を考えると、転勤先で帯びる職務職責に応じた報酬に加え、会社から本人への期待感の表れとして転勤一時金を支給することも一案だ。現に、最近のニュースでは大手銀行などで引っ越しの支度金などの転勤一時金を拡充する動きもある。その他の事例としては、転勤後の一定期間で「転勤手当」を固定的に月額で支給するものもあるが、赴任後のいつまでを転勤とみなすのかなど考え方の整理が難しく、各企業の個別事情によって運用は異なる。 転勤する人の社内的価値に“差”をつけられるか  さて、ここで大きな課題が残る。その会社における転勤の目的の重みと、社員本人の負担を整理した次に考えなければならないのは、転勤する人の社内的価値に対して、どのくらいのキャリアや報酬を用意するか、だ。転勤しない人の処遇が転勤する人に比べて見劣りすると、「不公平感が出る」「優秀な人材が取れなくなる」などの意見がよくある。そこで、両者のキャリアや給与の差を小さくしてしまうと、差がないなら当然「転勤しない方がラク」なのだから、転勤する人の抵抗感が大きくなる。転勤することがどれだけその企業にとって重要で価値があることなのか、差をつけることで社員にメッセージすることが重要なのだ。 企業起点で考える  転勤の社内的価値は、その企業における経営方針や事業の成長要因、人事管理の方針など、様々な経営上の文脈に依存する。例えば、毎年大量の新卒採用を行っている企業で、随時出てくる期中の欠員補充をわずかにするのみであれば、社外からの補充で事足りるため転勤を無くすという考え方もあるだろう。また、未来の経営人材を社内で育てねばならない企業で、限られた優秀人材に相応のキャリアと報酬を与える必要性が高いならば、等級・キャリアパス設計の中に転勤制度もしっかり組み込んで、戦略的に人材タイプを区別していくのがしっくりくる。最も良くないのは、転勤の位置づけが曖昧で処遇の納得感が少ないために、経営計画や事業運営にとって必要な配置転換がやりづらくなってしまうことだ。  転勤に抵抗感のある人が多い社会情勢である。人手不足で採用競争も熾烈だ。しかし、労働市場の情勢に翻弄されて誰の得にもならないような転勤制度にはして欲しくない。会社として転勤をどう捉えるか、企業起点で考えることから始めたい。 ※出所:「転勤」に関する意識調査(2024)―『エンゲージ』ユーザーアンケート―69%が「転勤は退職のキッカケになる」と回答。 年代が低いほど、転勤への抵抗感が大きくなる傾向に。 | エン・ジャパン(en Japan) (en-japan.com)