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column

その転勤、必要ですか?

 転居を伴う転勤に抵抗感をもつ人が増えている。

 エン・ジャパン株式会社の「転勤」に関する意識調査(2024)※によると、69%が「転勤は退職のキッカケになる」と回答しており、転勤を拒否する理由は「配偶者の転居が難しいから」が一番に挙がっている。その次に、「持ち家があるから」「子育てがしづらいから」が続いている模様だ。

 今も昔も、転勤の基本的な考え方は、会社が主導して社員の配置転換を行うものだ。転勤を拒否すれば解雇事由となるのは、多数の企業の就業規則に明記されているところだろう。このように会社が強力な人事権を持つ背景には、日本型雇用の特徴である「終身雇用」「年功序列」とそれに伴う給与の引上げがセットになっていたためであり、労使双方でメリットがあったから成立していたとも言える。

 しかし、転職が珍しくもなくなり、共働き世帯が大多数となった現在となっては、転勤の目的の重みと、その負担に即した処遇の大きさを再整理し、再び労使双方が合意できるポイントを探るのが急務となっている。


転勤の目的とは何か

 そもそも、なぜ転勤が必要なのか、目的を整理したい。第一に挙がるのは欠員補充だ。定期的な転勤であれ随時の転勤であれ、ポストの欠員が出た場合に社外ではなく社内から素早く人材を補充できるのは、経営管理の視点で極めて効率的である。一方、社員視点ではどうだろうか。いつ自分に転勤の声がかかるか分からない不安定な働き方の中では、当然に将来の生活設計の見通しを立てづらくなる。欠員補充とだけ言われては本人のモチベーションもそうは上がらないだろう。このような目的の重みと本人負担を考えると、それ相応の処遇が求められてくる。具体的には、総合職手当といった「転勤を前提とした働き方の不安定さ」に報いる報酬であるが、少なくとも転勤がない社員と比べて5%~15%程度の給与水準の差がないと転勤待ちする側の納得感は得にくいだろう。

 次によくある目的として挙がるのが人材育成だ。将来の経営人材候補や管理職を育てるために様々な事業所で経験を積ませるという企業は多い。人材の入れ替えが事業の成長要因になる企業もあるだろう。経営管理の視点で言えば、後継者育成や重要ポストの維持など、企業の継続性を保つ重要な目的である。社員視点で言ってもキャリアアップとそれに伴う処遇アップに繋がるので、転居に伴う生活上の負担は小さくはないものの、処遇が伴えば転勤に関する抵抗感も少なくなる(上述の調査結果でも、転勤を「条件付きで承諾する」と回答したうち、72%が「家賃補助や手当が出る」45%が「昇進・昇給がともなう」と回答している)。このような目的と本人負担を考えると、転勤先で帯びる職務職責に応じた報酬に加え、会社から本人への期待感の表れとして転勤一時金を支給することも一案だ。現に、最近のニュースでは大手銀行などで引っ越しの支度金などの転勤一時金を拡充する動きもある。その他の事例としては、転勤後の一定期間で「転勤手当」を固定的に月額で支給するものもあるが、赴任後のいつまでを転勤とみなすのかなど考え方の整理が難しく、各企業の個別事情によって運用は異なる。


転勤する人の社内的価値に“差”をつけられるか

 さて、ここで大きな課題が残る。その会社における転勤の目的の重みと、社員本人の負担を整理した次に考えなければならないのは、転勤する人の社内的価値に対して、どのくらいのキャリアや報酬を用意するか、だ。転勤しない人の処遇が転勤する人に比べて見劣りすると、「不公平感が出る」「優秀な人材が取れなくなる」などの意見がよくある。そこで、両者のキャリアや給与の差を小さくしてしまうと、差がないなら当然「転勤しない方がラク」なのだから、転勤する人の抵抗感が大きくなる。転勤することがどれだけその企業にとって重要で価値があることなのか、差をつけることで社員にメッセージすることが重要なのだ。


企業起点で考える

 転勤の社内的価値は、その企業における経営方針や事業の成長要因、人事管理の方針など、様々な経営上の文脈に依存する。例えば、毎年大量の新卒採用を行っている企業で、随時出てくる期中の欠員補充をわずかにするのみであれば、社外からの補充で事足りるため転勤を無くすという考え方もあるだろう。また、未来の経営人材を社内で育てねばならない企業で、限られた優秀人材に相応のキャリアと報酬を与える必要性が高いならば、等級・キャリアパス設計の中に転勤制度もしっかり組み込んで、戦略的に人材タイプを区別していくのがしっくりくる。最も良くないのは、転勤の位置づけが曖昧で処遇の納得感が少ないために、経営計画や事業運営にとって必要な配置転換がやりづらくなってしまうことだ。

 転勤に抵抗感のある人が多い社会情勢である。人手不足で採用競争も熾烈だ。しかし、労働市場の情勢に翻弄されて誰の得にもならないような転勤制度にはして欲しくない。会社として転勤をどう捉えるか、企業起点で考えることから始めたい。

出所:「転勤」に関する意識調査(2024)―『エンゲージ』ユーザーアンケート―69%が「転勤は退職のキッカケになる」と回答。 年代が低いほど、転勤への抵抗感が大きくなる傾向に。 | エン・ジャパン(en Japan) (en-japan.com)

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