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コラム

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シニア人材の活用ポリシーが明確な企業は意外と多くない | 関連制度設計

シニア人材の活用ポリシーが明確な企業は意外と多くない

 新型コロナ、米中覇権争い、国家間衝突、為替変動、急速な物価高騰など、10年前、いや5年前には想像していなかったことが今、起こっており、日本企業は、これまで以上に二極化が進んでいくことが想像できます。企業経営は困難な時代に突入しています。  市場環境の変化だけでなく、速度をコントロールできない高齢化が進んでいく中、シニア人材の活用も企業経営には大きな課題です。各社の人事担当者にシニア人材の活用についてお聞きすると、優秀な人材は積極的に活用したい、基本、現役時給与の〇〇%(※)にしていますとの声が大半である。ある程度の方針は存在するものの、明確なポリシーが定まっている企業は意外と多くない。70歳までの雇用義務化が想像できる、現場業務などシニア人材に頼らざるを得ない職場があるなど、シニア人材の活用ポリシーは、今後の人事施策面において非常に重要です。大袈裟かもしれませんが、企業が競争を勝ち抜いていくポイントになるかもしれません。 (※)国税庁が公開している「2020年民間給与実態統計調査」によると、現役世代と定年世代の給与比較で、男性は22%減、女性は17%減となっています。  内閣府が2019年に実施した「高齢者の日常生活に関する意識調査」では、仕事をしている60歳以上の人のうち、「65歳くらいまで働きたい」と回答したのは25.6%、次いで「70歳くらいまで」(21.7%)、「働けるうちはいつまでも」(20.6%)と、高齢期にも高い就業意欲を持っていることがわかっています。  シニア人材の活用について、特徴のある事例についてご紹介します。 ・高齢化しているものの60歳までは好待遇(組合が強く制度改定が困難)。ただし、要員に余剰感があるため、60歳以上のシニア活用について、「活用しない」という明確なポリシーがあり、特例を除いて再雇用者は簡易な業務で時給になります。8割以上が再雇用を希望しないそうです。 ・シニア層の職場確保に課題がありました。大企業であれば出向という手段がありますが、中堅企業には当該手段は選択肢になく、同社は業務委託しているコールセンター業務を自社で行うことを検討しています(その他委託業務も自社実施が可能か検討)。 ・更に、大胆は企業では、FC加盟でシニア層の活用を検討している企業があります。将来的な成長が見込めるフランチャイザー(国内外)を真剣に探しています。A社長曰く、収支トントンでいいんだよ。雇用義務も果たせるし、結果、人件費は抑制できるから。  70歳までの就業の確保(努力義務)が定められた後、定年再雇用制度設計(含定年延長)の相談は増えています。制度設計に際しては、シニア人材の活用ポリシーが明確であることが必至です。まだ時間はあると思っていても、時の経過は想像以上に速いものです。まだであれば、シニア人材の活用ポリシーについて議論してもらいたいと思います。  シニア層で運営できる、将来性のあるフランチャイズビジネス。 「見つからなかったら自分で創ってしまおうかな。儲かるかもしれない」と、A社長は笑顔で言っていた。 以上

褒めれば伸びるか | 人材開発

褒めれば伸びるか

 成功体験が人を成長させる、ということは、ほとんどすべての人が知っている原理である。だから、幼児に対して、「あーひとりで靴下はけたねー、○○ちゃんえらいねー」と誰しも申し合わせたかのように、こぞって声をかけるのだ。原理だから大人でも通用するはずと、部下にむかって、「○○さん、よくやった。さすがたいしたものだ」と褒めれば伸びるか、というとコトはそう単純ではない。無理して褒めたばかりに勘違いした部下を生み出してしまうかもしれない。部下を成長させるには、褒めたあとのもう一押しがいる。  幼児の場合、褒められることにより、自分で「できた」という事態を強く認識し、その繰り返しが自己効力感の醸成につながるのだが、大人はそれだけでは充分ではない。自他の違いがやっと分かってきたくらいの幼児とちがって、大人はすでに社会的存在(=関係の中で生きる存在)だからである。ゆえに、一個人としての学習の原動力である自己効力感よりも、関係の中で自分が何をなしえたかの発見こそが成長のエンジンとなる。成果の意味のフィードバック、つまり、なしえたことの価値をわからせるという後押しが必要になる。  会社の一員たる大人の成長にとって、もっとも大事なことは、自分の成し遂げた成果の「意味」を知ることだ。自分の業務遂行上の意味はもちろんだが、職場や同僚にとっての意味、会社にとっての意味、ひいては社会全体にとってどういう意味を持つか、それを知ることで、自身の価値を発見する。同時に、それを成しえた能力を自覚できるから、さらなる成長に向け新たなチャレンジにも臨める。で、次の目標を定め、成果を出し、その意味を知りさらなる価値を発見するというサイクルこそが、シンプルにして唯一の人間成長の原理なのである。  このサイクル、経営心理学で「心理的成功体験連鎖」と呼ぶモデルとかつて教えられた。図式的に言えば、①能力の確認→②目標の設定→③目標の達成→④価値の発見→①能力の確認→……という4フェイズの循環サイクル。すぐにわかるように、これは本来のMBOに他ならない。MBOの本義は、組織目標の達成というゴールよりも、自律的な業務遂行と業務を通じての人間成長というプロセスこそを狙いとした方法論であり、だからこそ、ストレッチした目標設定や本人の主体的意思やフィードバックの重要性が強調されるのだ。  自分の価値の発見とは、ことばを換えていえば、成長実感ということである。よくエンゲージメントサーベイでは、「仕事を通じての成長実感」の項目がカギとなることが指摘されるが、その向上策は、個々人の感じ方やレベル観がちがうから打ち手が定まらないことも多い。  成長実感を高めることでエンゲージメントレベルをあげたいのであれば、まずやるべきは、自社の人材育成施策全般を「心理的成功体験連鎖」の観点で検証することだ。業務アサインと育成のしくみとして、加えてマネジャーの部下育成スキルとして、このサイクルが埋め込まれているかどうかをチェックすることである。しくみという意味では、さきにあげたMBOもそうだし、たとえばトレンドワードであるタレントマネジメントを、個々のタレントの確実な成長システムとして具現化できているかという話であり、マネジャースキルという意味では、この成長メカニズムを踏まえた部下コミュニケーションが浸透できているかという話である。  さて、部下の成果の意味をわからせよ、と冒頭書いたが、上司が唐突に、一方的にそんな話を部下にしてもダメなのだ。大事なことは、たとえば入社間もない社員が「ワタシ、なんか成長したかも、、、」と自分で気づき始めたタイミングで、すかさず、「君はようやく組織の一員っぽくなってきたな。だって言われなくても周りをよく見て、自分のやるべきことをちゃんとやれるようになっている。次は○○○○できるようになることだな」とはっきりと言葉にして、上司の眼からみた解釈をフィードバックすることだ。  もっとも効果的な意味づけは、自分でもストレッチできたかなという思うところにミートして指摘する(=褒める)ことであり、これもまた褒めて伸ばす秘訣なのである。

破壊的イノベーション | 人材アセスメント

破壊的イノベーション

 知り合いである経営者は、クレイトン・クリステンセン(ハーバードビジネススクール教授)の「イノベーションのジレンマ」で提唱された破壊的イノベーションを起こすようなムーブメントが社内に欲しいと言います。  この破壊的イノベーションとは、その市場における既存のルールを根本的に覆して、まったく新しい価値を創出するイノベーションのことで、ローエンド型と新市場型の2種類があります。ローエンド型は、高価格で高機能な製品が溢れている市場において、低価格でシンプルな製品を提供することでローエンドを支配すること、新市場型は、新しい技術を用いてそれまで市場になかった新しい価値を提供することでシェアを獲得するイノベーションのことです。  どちらの型においても、これまでその市場で当たり前だった概念を覆し、新しい製品を流通させることにより、競争のルールを変更し、当該市場で隆盛を誇っていた企業パワーバランスを変えてしまいます。この競争ルール変更によって、たとえスタートアップの企業であっても大企業の脅威となり、時にはその企業に取って代わり市場トップの地位に躍り出ることも可能になります。大企業としては、この脅威を真剣に受け止め、自らが破壊的イノベーターとなることで市場に新しい価値を提供し続ける必要があるのです。  前出の経営者は、そもそも自社が確立したい本質的価値は何なのか、目標としているあるべき姿に向かって進んでいるのかのプロセスを定期的に検証することだけが大事と考え、例えば新製品を開発する部署には、KPI数値の目標はいらないと言います。  今まで全社の目標設定は、SMART&SUREを使って設定してきたわけですが、    ・Stretched (背伸びした目標である)    ・Measurable (成果が測定可能である)    ・Achievable (達成可能である)    ・Reasonable (合理的である)    ・Time-related (期限が定められている)    ・Specific (具体的である)    ・Understood (理解されている)    ・Realistic (現実的である)    ・Easy to evaluate (基準が明確で評価しやすい)  こういった目標は開発部署が設定していても、短期業績を求めるだけで破壊的イノベーションが起きることはないだろうと言い切ります。 確かに破壊的イノベーションを起こすような企業では、KPI以上に独自のカルチャーが実行をドライブします。ピーター・ドラッカーは「カルチャーは戦略をも凌駕する(Culture eats strategy for breakfast)」と言っていますし、カルチャーは変革の過程でポジティブに力を発揮すると、数値目標を超える成果を生み出します。  また、破壊的イノベーションでは、さまざまな部門・知識・経験を持った多様な人財が一同に集まり問題課題を考え、その解決策を議論することが重要です。既存の枠組みにとらわれることなく、論理的に分析するより創造的に思考しなければなりません。人間の五感だけでなく第六感から霊妙までも必要なのです。霊妙と聞くと何か違和感を覚えるかと思いますが、人間の五感の枠をも取り払ってこそ、創造的思考を探求し、論理だけでは難しい「閾値」を超えるディスラプター(破壊的企業)になるヒントがそこにあるかもしれません。 以上

初めての、部下評価 | 人事制度運用支援

初めての、部下評価

■先輩、ちょっと相談していいですか。管理職になって初めての人事評価つけるのですが、まだまだ未熟な自分が人を正しく評価できるかすごく不安なのです。私のつけた評点で処遇が決まるのも重圧だし、年上の部下もいてちゃんと本人に納得させられるのか自信がなくて。 □未熟、つまり経験とか人間力が足りないから不安と言っているなら、君は評価の原理がわかっていない。自分の経験や価値観をもって評価する=つまり、自分の「中」の基準で人を評価するなら、そうかもしれないが、君がやるべき評価はそうではない。君の「外」にある基準に照らして、部下の行動や能力発揮度合を見る、ということなのだぜ。 ■「外」にある基準? □公開されている会社としての基準(こんな行動をとってほしい、こんな能力を発揮してほしい)に照らして各部下の行動を見ればいいのだから、君の人としての成熟度とは関係ない。「基準に即しての評価=つまり、絶対評価をせよ」と評価者研修で習ったでしょ? ■だとしても、評価項目は抽象的だし、基準もあいまい。個々人をその基準に照らして1~5点なんて、正しくつけられるとは思えないのだけど。 □ここは確かに、最初は難しいかもね。場数を踏んで磨かれていくという面はある。でもすぐできるコツがあるのだけど、知りたい? ■ぜひ。 □たとえば、部下が5人いたとしたら、評価項目ごとに、できている順に並べてみる。 ■それは相対評価では? それはしないと習ったけど。 □まぁ聞いて。ちゃんと絶対評価になるから。で、Aさんが一番できているとするなら、なぜ、君がそう判断したかの根拠をならべてみる。同様に、BさんやCさんについても、Aさんとの違い、それぞれの違いがどこにあるかを考えてみる。 ■根拠、つまり行動事実の違い? □そう。そこで、あらためてそれを評価基準に照らして、レベル分け=評点化してみればいい。 ■なるほど。できている、できていない、と私が感じる「事実の違い」を材料に絶対評価をするわけですね。うん、それならできそうだ。でも、、、そもそもの、この行動事実ならOKとみた私の判断自体が会社として正しいのかどうかが私には自信がないけれども。 □はい、そのとおり、そこが大事なところ。それは君一人では確認できないし、二次評価者の上司の眼も現場を見てないから怪しい。方法は、たったひとつ。ほかの評価者との間でつけた部下の評価表を開示して、相互検証をするのです。 ■え、そんなことしてもよいの? □大丈夫、君はまだ経験していないけど、「評価会議」というイベントがこの会社では用意されているから。一次評価者同士で評価結果の妥当性を相互に検証する会議。他の評価者が、どのような行動事実をもとに、どう評点をつけたかを知り、またその妥当性を検証しあうことで、評点レベル、つまり評価者の目線があう。 ■なるほど、人のふり見てわがふり直せ。 □いやいや、意味ちがうけど。。。正確にいえば、個々の判断が妥当かどうかを検証していくというよりも、会社ごとの「見えない基準」を明示化し共有していく場という方が正しいかな。評価基準は抽象度が高くどの会社でも似たようなものだけど、具体的実態的な基準は、会社ごとに違ってしかるべきだから。 ■個別具体的な評価基準とは、会社の「暗黙知としての価値基準」の明示化である。 □いきなり難しいこと言うなぁ。。。平たく言えば、「勤務態度」みたいな項目で、一回でも遅刻したらダメな会社もあれば、二回まではOKという会社もある。そういう暗黙の基準が評価会議で確認・共有され、皆が同じように評価できるようになるわけね。 ■評価って、どこか内密にっていうか、上司部下の間だけ、せいぜい二次評価者までの間での秘匿性高い印象あったけど、もっとオープンに論じるべきものなのですね。少し気が楽になりました。 □評価時期の評点のつけ方よりも大事なのは、その材料となる日常の観察と指導。日々君が部下をよく見ていて、都度、指導をしていて、個々人の成果達成にむけて気配りを怠らないこと。まぁそこは大丈夫でしょう、初評価の責任を痛感し不安を覚えていること自体が、君が誠実な管理職者であるということだから。

Page One | 人事制度

Page One

 「新年度から導入する新しい人事制度について説明します。」 人事制度を大幅改定する時には、社員の納得を得るために丁寧に説明する必要がある。美しく編集したパワーポイントの資料を指し示しながら、人事部長の説明が続く。 「最初のページは新しい制度の概要を示しています…」  最初のページには、たいてい、「新制度方針」や「新制度概要」が記される。新しく導入する制度の根本的な考え方や、眼目となる部分について述べる重要なページだ。    X社の「新人事制度概要」にはこんなことが書いてあった。 ‐わが社は人を大切にする会社。社員の雇用を絶対に守るという方針は変わらない。 ‐わが社は、「主力製品に資源を集中し、我が国最高レベルの技術力を磨く」という戦略を 掲げた。新人事制度はこれを支えるものだ。 ‐だから、新人事制度を通じて社員の専門能力を高め、卓越した競争力を構築する。 ‐社員の一人ひとりが、自分のキャリアを自律的に組み立てていくことが制度の眼目だ。 ‐人材育成には最も力を入れることとし、積極的なローテーションを実施する。 ‐個々人のライフイベントに寄り添い、多様な働き方を可能にする。残業の削減を徹底。 ‐職場や仕事の異動がないコースと、あるコースとを設け、自由に選択できるようにする。 ‐給与は競合他社に負けない水準とし、職務に応じた、メリハリのある処遇を実現する。 ‐希望する者は、70歳まで働ける制度にする…云々  戦略を支える良い人事制度だ。しかも、現代のキーワードが数多く織り込まれているではないか。きっと、働きやすくて良い会社になるぞ・・と感じる。しかし、待てよ。よく考えてみるとわかりにくい所があるではないか。 積極的にローテーションをしながら他社を凌駕する高い専門性が養えるのだろうか? ライフサイクルに応じた手厚い休業制度で空いた穴は、誰がカバーするのだろう? 事業領域を絞る戦略なのに、皆が自分のキャリアを勝手に組み立てて 、辻褄が合うのか? 社員のほとんどが転勤しないコースを選んだら、仕事は回るのかなあ? 我が国最高レベルの技術力に、60歳超えの高齢者が貢献できるだろうか? 去年並みの賞与出るかなあ…?  Y社の「新人事制度概要」には少し違うことが書いてある。 ‐当社の、人を大切にするという方針は変わらない。 ‐わが社は、主力製品に資源を集中し、社員の専門能力を徹底的に伸ばして他社を凌駕する。 ‐社員の一人ひとりが、自分のキャリアを自律的に組み立てていくことが制度の眼目だ。 ‐多様な能力開発の仕組みを整え、社員の志を支える。自らのキャリアプランに沿う仕事を選べばよい。 ‐就くべき仕事が見つからない者、専門性が会社の戦略に馴染まない者、45歳を超えて志す能力を身に着けられない者には、リスキリングの機会を与える。 ‐それでも貢献の場が見いだせない場合には、社外のキャリアを追求できるよう、会社が全力で支援する。 ‐給与は職務と成果に応じて支給する。 ‐プランどおりのキャリアを進み、社業に貢献できる限り、何歳まで働いてもよい。リタイアメントは自分で決める。  人事制度の設計において、背骨になる考え方は重要だ。時代を代表するさまざまなキーワードを研究することは意義のあることだが、会社の進むべき道をはっきり意識して制度の方針を説き起こしていくプロセスは、もっと大切だ。 「釈然としないが、まあ、いいっか!」と、X社では、いつものとおりの日常が回っていくだろう。Y社では、人が去り、そして、人が集まるだろう。 以上

リスキリングへの第一歩 | 人材開発

リスキリングへの第一歩

 VUCAの時代と言われ、将来の予測が難しい世の中とは言っても、デジタルトランスフォーメーション(DX)が、社会の発展や企業の成長のエンジンとなっていく事は、かなり確かな事だろう。新しい情報技術を活用し、現在のビジネスモデルを発展的に解体し、より優れたものに再構築できれば、社会や企業が創出する価値が大きく増大することは疑う余地はない。だからこそ、世界中の国や企業が、こぞってデジタル社会に適合した事業改革に取り組んでいるが、その取り組みの最大の障壁が、それを推進する「人材」であり、いかに現有人材をDXに適合する高付加価値人材へと「リスキリング」するかが、企業の人事施策の優先的な課題となっている。  2020年のダボス会議では、2030年までに世界の10億人により良い教育、スキル、仕事を提供するというイニシアチブが発表され、諸外国の政府や企業も、デジタル化社会にむけ、具体的なリスキリング施策を進めている。シンガポールでは、2015年からスキルズフューチャー運動と言う政府のスキル獲得の制度が始まり、25歳以上の全ての国民に最大1500シンガポールドル(約15万円)の資金枠を与え、2万4千以上の様々な講座で使えるようにした。また、アマゾン社では、倉庫作業者(非技術職)人材を技術職に移行させる「アマゾン・テクニカル・アカデミー」などを行い、2025年までに米アマゾンの社員10万人(一人当たり投資額約75万円)をリスキリングすると発表した。  日本企業でも、リスキリング施策を進めている話は聞くが、限られた大手企業にとどまっているのが実情だ。大半の企業で、思うようにリスキリングが進んでいない背景にはいくつかの理由がある。日本企業において今まで、社員のスキルアップの中心的な機会は、OJTと言われて来たが、従来のビジネスモデルを変革させるためのスキルを、そもそもOJTで獲得しようとする事は難しい。従来の職場から離れて、それなりの投資を伴うリスキリング施策をおこなう必要があるが、そうした施策の実行に踏み込めていない。  また、IT人材がSI企業などに集中するという我が国の労働市場の特徴的構造も大きい。日本では、多くのITスキルを持つ人材が、外注先のITベンダーに多く存在し、社内にITスキルを持つ人材が圧倒的に少ないことから、自社の事業をよくわかりつつ、どのようなデジタルスキルを融合させる事が有効であるかを、検討する社内の人的リソースが足りないため、リスキリングを始めるにもその勘所がつかめないでいる。  また、社員個人にとっても、デジタル社会に向けて、自らをスキルアップしようにも、どのようなスキルを習得すれば、どのような職種・仕事に就けるのかがわからず、何に取り組めばよいか、わからないという状況もある。リスキリングを推進するためには、こうしたそれぞれの課題に対して、取り組んでいかねばならないが、まず、優先的に行うべきは、何よりも経営層がリスキリングの重要性を高く認識する事だろう。自動車産業をはじめ、あと10年先には、既存のビジネスモデルでの事業の多くが、競争力を失ってしまう事を現実と捉え、将来の継続的な企業成長のためには、リスキリングによる自社の人的資本のレベルアップ自体が、優位性の大きな源泉となる事を何よりも理解する事が重要だ。  最初から、正解を求めることは難しいが、デジタル化社会の中で、経営戦略実現のためにどんな業務領域で、誰に対して、どんなリスキリングが必要なのか、経営層が自ら検討し、短期的な利益を犠牲にしてでも、トライアンドエラーを直ぐにでも始めて行かなければならないタイミングにある。

判断に迷う評価者を出さないために | 人事制度運用支援

判断に迷う評価者を出さないために

 読者の皆様は、アンケートでいくつかの回答基準の中から当てはまるものを選んでくださいと書いてあるとき、どれに当てはまるのか悩むことはないだろうか。  例えば、「そう思う」「ややそう思う」「ややそう思わない」「そう思わない」といった4つの選択肢から選ぶ場合である。部分的には当てはまるが、当てはまらない部分も存在する場合に、「ややそう思う」と「ややそう思わない」のどちらを選ぶか悩み、最終的には感覚で回答している人も多いだろう。  これがアンケートではなく評価だった場合はより深刻である。被評価者が一定程度能力習熟しているものの一部できていない場面も見受けられるときに、どの評価をつければよいか判断に迷っている評価者は周りにいないだろうか。判断に悩むということは、人によって評価が分かれているということである。評価の甘辛に悩むクライアントは多いが、この判断の迷いが評価の甘辛に影響していているのである。  評価者が判断に迷わないようにする1つの方法として、達成となる評価基準を決める方法がある。評価者間で各評価基準が達成となる未達成どちらに分類されるのか認識を合わせる。達成した場合に選ぶ評価基準と未達成の場合に選ぶ評価基準が明確になるため、評価者には達成と未達成をもとに評価を実施してもらうのである。  最初のアンケートを例に、当てはまる場合の基準を「ややそう思う」とする。当てはまらない部分が少しでもあるなら「ややそう思わない」を選び、当てはまらない部分がない時にのみ「そう思う」を選ぶということを回答者間で統一するのである。これを評価に置き換え、評価基準を上から「できている」「一定程度できている」「ややできていない」「できていない」の4区分として、達成の基準を「一定程度できている」とした場合を考える。一部できていない場面があるのであれば「ややできていない」、できていない場面がないのであれば「一定程度できている」となる。  つまり、評価基準は、たとえ何段階にも分かれていたとしても、究極的には達成と未達成の2区分に分類されるのである。そのため、評価者にとっては達成できたのか達成できなかったのかどちらなのかを判断することが重要な点となる。  このメリットとして、①評価者が判断に迷いにくい②被評価者へ明確に評価の理由を説明できるということが挙げられる。一部達成できていなかった場合は必ず未達成の評価となるため、評価者は未達成の基準の中から評価をつければよい。また、被評価者へフィードバックする際は達成か未達成か、そしてその中でどの程度の段階にいるのかを伝えればよいため、評価の説得性が増すのである。  しかし、達成したか達成していないのかを意識せずに評価している評価者は多いのが現状ではないだろうか。評価の甘辛が起きた結果、被評価者は不公平感を感じ、評価結果に対する納得性は低くなる。  評価者の意識を改善する前に、まずは会社としてどの評価基準以上が達成とするのか検討するところから始める必要がある。その上で、研修や評価者会議を通じて評価者に達成と未達成の考え方を繰り返し伝え、認識を合わせていく必要があるだろう。 以上

エフェクチュエーション―創造的ご都合主義のすすめ | 人事制度

エフェクチュエーション―創造的ご都合主義のすすめ

 経営にしろ、ビジネスを行うにしろ、日常の業務遂行にしろ、まず目標/ゴールを定めることが鉄則である。経営とはそもそも構想主導の取り組みであり、ゆえに経営リテラシーの筆頭はビジョンニング力とされる。ビジネスへの着手は、つねにゴールセッティングに始まる。定めた目標をゴールとし、そこへ至るプロセスを考えるのが合理的な方策であることには、疑いの余地はない。  しかしそれは、過去の常識かもしれない。VUCAの状況下では、目標設定自体が難しいし、設定した目標の正しさもあやういからだ。かくして近年は、「コーゼーションからエフェクチュエーションへ」といった言葉が目に付くようになってきた。コーゼーション(Causation=原因/因果関係)とは、環境を予測し目標(結果)を定め逆算的にプロセス(原因)を描くこと。エフェクチュエーション(Effectuation=実用/効力発生)とは、目標を定めず現実的に採れるプロセス(実用)を進めていくなかで決定要因(効力)を見出し結果を創り出していくこと。要は、因果論ではなくて、実効論である。  平たく言えば、「目標から考える」のではなく、「走りながら考える」。と聞けば、先の見えない新規事業開発などは、まさに走りながら、試行錯誤しながら、形にしていくという実態にならざるを得ないこともよくあるから、耳慣れない「エフェクチュエーション」も、とりわけ目新しい概念というわけでもない。ただ注目したいのは、これが起業家に特徴的な意思決定行動だということだ。  この言葉が日本に登場したのは、『エフェクチュエーション』(サラス・サラスバシー著)が翻訳出版された2015年。学際型の経営学者として定評ある加護野忠男さんの監訳だったから買ってはみたもののその分厚さもあって積ん読状態だったが、どこかで見た言葉だなと書架の本に気づいてひも解いてみた。実証的起業家研究の書で、起業家たちを特徴づける能力を調べてみると、それがエフェクチュエーションだったということである。  「走りながら考える」とは、目的からではなく手段から考えるということである。つまり、手持ちのリソース、能力、人脈で何ができるか考え、できることから始める。これが、①掌中の鳥の原則、と命名され熟達した起業家行動の第一の特徴とされる。以下、②許容可能な損失の原則、③クレージーキルトの原則、④レモネードの原則、⑤飛行中のパイロットの原則の5原則が提示される。ちなみに、レモネードの原則とは、「酸っぱいレモンをつかまされたら、レモネードをつくれ」との格言の意で、偶発性の活用という行動原理だ。良いことも悪いことも、途中で起こったサプライズは、価値創造の源泉と考える。  5原則の概要はググれば出てくるので確認いただきたいが、それぞれに示唆的ではあるが刮目するほどのものではない。しかし、こうした原則に通底する起業家行動、その原理にはなるほどとうならされる。彼らは、未来を予測しようとするのではなく、未来をコントロールしようとするのだ。ゆえに、今あるリソースから確実にできることをはじめ、実際にコミットした関与者をリソースとし、サプライズもまたリソースとしてインプットするのである。つまり、不確実な未来だからこそ、すべてを自分に都合よくデザイン(=創出)しようとする。  サラス・サラスバシーは、エフェクチュエーションを支える論理をプラグマティズムだと説明し、こんな逸話を書いている。  ある日、学生たちに、私が背の低さゆえにバスケットボール選手になれなかったことを語った時、クラスのなかのプラグマティストは、「背が低い人のバスケットボールリーグを作ればよいじゃないですか」と言い返したのだ!

真の打ち手は何か ~ 「長期的視点での人材育成」の満足度改善 ~ | モチベーションサーベイ

真の打ち手は何か ~ 「長期的視点での人材育成」の満足度改善 ~

 「長期的視点での人材育成」は、社員アンケートを様々な企業で分析する中、勤続意向の影響度分析にてより多く登場する、キーとなりえる設問項目の1つである。しかし、8割の企業が問題水準とされる低い満足度だ。(※) 満足度を改善するにはどのような施策を打てばよいだろうか。  そもそもなぜ多くの企業で満足度が低いのか。それは、他社との比較が難しいことも原因であろう。定量的な共通の指標(例えば一人当たりの人材育成費)がなく、また、定性的な情報であっても大手の教育プログラムの紹介記事や、企業の求人広告の記事が主で、詳細は分らない。世間一般の企業と比べた自社の取り組みレベルの評価が、誰もできないのだ。  それもあり、社員はアンケートで「会社は長期的に人材育成にとりくんでいるか」と聞かれた場合、"立派な階層別研修が用意されているか" "定期的に目的的な研修があるか"など考え、ない場合は低い満足度の回答をすることが想像できる。  しかし、「長期的視点での人材育成」の満足度改善施策が、"立派な階層別研修の構築"や"定期的な研修"だけであろうか?  当社の社員サーベイデータにて「長期的視点での人材育成」を目的変数にし、他の設問との影響度を調べた(回帰分析を行った)ところ、「現在の仕事での成長実感」に特に強い影響があることが分かった。  また、同じように「現在の仕事での成長実感」を目的変数に、他の設問との影響度を調べたところ、「職場での意見尊重」「上司からのスキル向上指導」「上司からの明確な指示」で強い影響が見受けられた。 "自身の仕事をよりよくしていくための意見が言える風土なのか" "自身の成長をサポートしてくれる上司はいるのか" "それにより仕事を通じて成長できていると感じられているのか" が、重要なのだ。  上記は当社の蓄積されたデータでの分析であり、もちろん企業によって課題や取り組みが違うため、結果は異なる。自社のリアルなデータを分析し、効果的な打ち手を提言することが必要だ。今、取り組んでいる人事施策の効果を確認できるよう、社員サーベイを企画・実施していくこと。施策効果が、期待どおりでない場合、分析を通じて効果的な次なる打ち手を考え実施すること。人的資本の注目が高まる中、人事はPDCA回していくための「CA」の力が更に求められてくるであろう。 ※当社のサーベイナレッジデータより算出 「会社は長期的に人材育成にとりくんでいるか」の質問に対し、5点満点中、「3点:どちらともいえない」を基準に、満足度の平均点が3点を切る企業を低い満足度とした場合

戦略的人事か、人事的戦略か | 人事アナリシスレポート®

戦略的人事か、人事的戦略か

 便利な道具は人を怠け者にする。毎日文章ソフトを用いて仕事するから、漢字の表記が浮かばない。でも大丈夫、とグーグル先生に尋ねるが、簡単に得た知識はあたまに残らない。そもそも漢字は、ビジネスに必要なのか、という疑問さえ浮かぶ。  人事の仕事でも同じことが起こるだろう。タレントマネジメントシステムの開発は目白押しだ。「来期新設する5つのポストへの人材配置は、最適な人材の組み合わせをシステムが選択して教えてくれる」という時代が早晩やってくるだろう。そうなると、人事異動の勘などというものは退化してしまうし、社員の履歴を諳んじて人事パズルの妙を心得ているような前時代的人事マンは、その居場所を失うに違いない。  ならば、人事マンの仕事はこれにて終了、と考えてよいものだろうか・・。  事業戦略を人事に落とし込んでいくという考え方は、自然な流れだ。市場や競合の状況を睨みながら、どんな製品をどんな価格でどれだけ市場に送り込んでいくべきか、優秀な企画マンたちが事業戦略を練り上げ、それに沿った陣容を要求する。たとえば、「この高付加価値の新製品を高価格で販売しよう、そのためには、高度技術知識に裏付けられた魅力的な提案営業をできる人材が最低50人必要だ」という具合に。人事部門はこれを受けて、何とか陣容を整えようとがんばる。まして、最適な人員配置をスピーディーに、タイムリーに行えるよう、先進の情報技術が後押しをしてくれると聞いているものだから、全社あげて「さあ、今すぐ新戦略を展開しよう!」ということになる。  ところが、である。我が国においては、事業戦略の大転換に即応する人事は、やりにくい。簡単に従業員を解雇することができないからだ。用の済んだ人々に退出願って、新たな能力を備えた人々に参戦いただく、というようなアクロバットは不可能だ。法的にも、文化的にも、倫理的にも難しい。だからと言って、新しい能力を持った人材を採用して人員純増とすれば、人件費が嵩んで利益を食ってしまう・・。 だとすると、発想を逆さにして、人事の現状から戦略を導き出す、というのも「あり」かも知れない。「今の会社の陣容に照らせば、もっとベーシックな製品を、ベテラン営業マンの力を活用してドブ板営業で売りまくったほうが、よほど大きな利益を稼げますよ。」というような意見があれば、聞くに値する。  もとより、人材の都合だけで事業戦略を決めるなど本末転倒だ。しかしながら、人事の目を通じて事業戦略を論じることは重要だと言える。提案営業派の企画マンとドブ板営業派の人事マンとが喧々諤々の議論を戦わせた末に最も現実的で有効な事業戦略が練りあがる、ということがあるに違いない。  これからの人事マンの仕事は、戦略的人事か、人事的戦略か。いずれにしても、事業の戦略を語る力がなければ、役に立たないだろう。人事マンは、もはや代書屋ではない、電卓屋でもない。手配師でも、評論家でもない。これからの人事マンは、戦略家でなければならないのだ。こう考えれば、どんなに情報技術が発達する世の中であっても、人事マンの価値は、益々大きなものになっていくと言える。そして、人事をつかさどる者に求められる資質は、環境や市場を読む能力から始まって、製品技術や管理会計の知識、人情と浪花節のセンスに至るまで、とてつもなく深くて幅広いものになっていくに違いない。AIがどんなに進歩しても、人事マンの仕事が楽になるとは思わないほうがよい。

ひとりひとりの社員に向き合う組織力~人事評価の本質~ | 人事制度運用支援

ひとりひとりの社員に向き合う組織力~人事評価の本質~

 求める人材要件に対して正確に測定し、充足を把握する。社員からは公平性、公正性を求められる。人事評価が機能しないと、社員のやりがいは低下し、離職に至る。社内の片隅でひっそり活躍している宝物を見つけることもできない。給与を決めるだけの形式的、儀式的、属人的な人事評価は人材育成に貢献はしない。戦力は安定せず、戦う集団にならない。人事評価はあるべき人材のポートフォリオを実現していく上で、重要なファンクションと言わざるをえないが、とにかくこの人事評価が機能していない。  そもそも多様な人材の活用を求められているなかで、求める人材要件も多様になり、一律ではない。人材要件を詳細に定義し、評価していくこと自体、無理な話かもしれない。そもそも全く同じ人間など存在しない。何らの基準に対して、達しているか、達していないかの絶対評価も重要ではあるが、ひとそれぞれの特性を把握することが改めて重要になりつつある。  多くの企業で評価は管理職の重要な役割となっている。たったひとりの管理職に多くの人材について要件に対して詳細に評価する責任は重い。その役割を課されることに負担に感じるのも無理もない。本来は評価者である上司が指導をすべきであるが、その上司も評価者を評価、指導できていないことは多い。そんな簡単なことではないということか。  しかしなぜこんな人事評価になってしまったのか、軽視されていたわけではないが、ひとりひとりの人材に向き合う重要性が相対的に高くなかったことにあると思う。年齢を重ねるだけで給与があがってきた日本的な事情や、人口増加を背景に経済的な発展を果たしてきた経済事情などが考えられる。年齢とパフォーマンスのアンバランスの放置。変わらない、変えない、保守的な事業戦略。ただ過去の関係を続けるための予算の策定、それでも成り立ってきた。人材をひとくくりに定義し、何か問題があってやり過ごしていくマネジメントで事業が成立していた。    改めてここでいう必要もないとは思うが、今後ごまかしは通用しない。先の読めない事業環境に対して、リスクをとり、挑戦しつづける集団になること、ひとりひとりの人材を生かすといった観点で組織的に向き合う重要性が高まる。タレントマネジメントに情報管理の業務改革やテクノロジーの進化による人材の特性分析はITベンダにぜひともその発展をお任せするとして、それを使いこなす人材の育成、そして組織としてひとりひとりの社員に向き合う組織力が求められている。    先日の娘の高校の入学式、学年担任の言葉が印象的。「ひとりひとりに担任はいますが、教員全員がひとりひとりを見守ります」と。難しい問題はその責任をもつ人々が当事者意識をもって、常にアンテナを張り、得られた情報を交換し、適宜対応していく組織力が欠かせない。ひとりの子供を養っていくことも相当大変と感じるが、仕事とはいえ、40名もそんな「大変」を一手に引き受け向き合っていこうとする先生の意気込みは尊敬でしかない。未熟な生徒に向き合うことは容易ではないが、しかし大人になったはずの社会人も相変わらずだとは思う。    経営者が先頭にたって、次の世代に向き合って、牽引していく。そんな経営者を見て多くの管理職がもっと人に向き合うことに時間と労力をかける。ひとりひとりをただ純粋に大切に思い、継続的、一貫性をもって、忍耐強く、謙虚に、そして誠実に向き合っていく組織にしていくこと、それが「この会社で働きたい」を増していくはずだ。

人財要件が先、どの等級かは後! | その他

人財要件が先、どの等級かは後!

 教育体系構築をご支援する機会が重なったことを踏まえ、今、感じていることを共有差し上げます。本稿では、「教育体系という表現」と「体系について考える順序」について取り上げます。  まず「教育体系」という表現についてです。 もし、「正解が存在して、それを一方的に教える内容ばかり」であれば、教育体系という名称のままで良いと思います。  しかし、「マネジメント層は、新人からデジタル機器の使い方を教えてもらうことが少なくない」といった例でもおわかりのように、状況に応じて役割を変えて「互いに学び合う」プロセスを促進する場づくり・関係づくりが重要な状況が増えてきています。  「ある時は教える側、別の時には教わる側」と役割を交代しながら、「異なる強みを活かしていく」ことは、DE&I(ダイバーシティ、エクイティー&インクルージョン)という観点からも、リスキリングの観点からも重視すべきだと考えています。  そのため、これまで教育体系と呼んできたモノは、今後は「学習体系」などに名称を替えた方が良いように感じています。  市場等にもよるのかもしれませんが、今後は、多くの組織で「唯一絶対解がない中で、議論を通して学び合い、多角的な検討を経て意思決定をしていく」といったワークショップ型のプログラムを「学習体系」の中で増やしていくことが求められるのではないでしょうか?  次は、「学習体系について考える順序」の話です。  これも、市場の特性などによって判断が分かれて当然だと思いますが…例えば、「経営ヴィジョンや、〇年後に目標とする状態を定めて、それを実現させるための事業戦略を練り、その事業戦略を実行できる組織・人財となるように施策を検討する」という順序で考え、学習体系構築に反映させようとする場合について考えてみましょう。  これを言い換えると、「事業内容、求められる業務内容が想定され、それを遂行できる組織・人財の要件を定めて、その要件を満たせるように育成するという順序で検討する」ということです。  すると、学習体系構築の段取りとしては「求められる業務内容を具体的に把握」し、「人財の現有能力を把握」し、「それらのギャップを埋めるように施策を検討」し、「それぞれの施策をどの人財に適用するかを考える」(…人財要件の設定が先、等級や強み・弱みなどへの当てはめは後)といった順序になります。  現場の見解を入れず、「等級が先にあって、その等級の人財要件を概念的に検討する」というアプローチだと、「御社独自の事業戦略から乖離した育成計画」(絵に描いた餅)となってしまいかねません。  また、等級に囚われすぎてしまうと、「○○で強みを持った人財を抜擢して登用する」といった人財のダイナミックな活かし方(組織能力の新たな発揮方法)を想像しづらくなってしまうので、非常にもったいないと思います。  「人事のための人事」ではなく「事業に貢献する人事」にシフトしていくのであれば、「事業戦略の実行に至る道のりについて、求められる学習内容のレベルにまで噛み砕き、どの人財に何を学ぶことを推奨するのか?」(標準化→個別対応)を整理した学習体系の構築をお薦めしたいと思います。