©️ Transtructure Co.,Ltd.All Rights Reserved.

MENU

©️ Transtructure Co.,Ltd.All Rights Reserved.

コラム

column

ライタープロフィール

大久保 尚代
大久保 尚代(おおくぼ ひさよ)

ニューヨーク大学大学院メディア・エコロジー・プログラム修了(MA) 大学卒業後、出版社にて書籍の企画編集に携わる。フルブライト・プログラムで米国に留学、帰国後社会人向け教育研修会社に入社。企業の変革リーダーの育成や組織の活性化支援、マーケティング業務に従事。当社においては営業およびセールスプロモーションを担当している。 共著に『人口減少時代に経営を強くする 人事のためのデータの見方・使い方』(中央経済社 2024.3)がある。

組織の共通言語と多様性の二兎を追うには | その他

組織の共通言語と多様性の二兎を追うには

 ある会社で、採用面接に来られた方が、志望動機として「ホームページに親近感を感じたから」と言った。自分の専門領域で日ごろ使っているキーワードと会社のそれの共通性が高かったのだという。ある程度の専門性を前提として、さまざまな会社を見比べて、業務の考え方や価値観に相通ずるものやリスペクトを感じた、というのは、立派な志望動機になろう。「共通言語」が通じるということだから。    会社や組織における共通言語とは、一緒に働く人々の間で共有されている用語、ナレッジ、さらには規範やものの考え方などを指す。共通言語が成立している職場では、仲間どうしの相互理解は早く正確になるし、分かり合えないストレスは軽減されるので、効果的効率的に協働しやすい。有名なところではトヨタ自動車の「問題解決」や、仕事の手順書、バリューやクレドなど、さまざまな共通言語の形態がある。    共通言語の促進に慎重な企業もある。ある研究開発企業は、さまざまな共通言語の手法・事例を研究した上で、「わが社がもっとも重要視する自由な発想を妨げる」という理由で検討を止めた。悩ましいのは、多くの業界で既存プレイヤーの再編・規模化が進むなかで、組織がどんどん大きくなっている。共通言語経営で組織力を強化することと、自律性・多様性の二兎をどう追えばよいかが、人・組織の運営方針として重要命題になっているのだ。    ここで現実の言語政策にヒントを求めてみたい。  24の公用語と60の少数民族・地域言語が存在すると言われるEUでは、言語を文化的資産と捉え、話者数に関わらず等しく価値を認め尊重する「多言語主義」を取っている。さまざまな公文書は少なくとも一部は全公用語に翻訳され、言語アクセスを保証しているという。加えて、言語政策として、母語に加えて少なくとも二つの外国語(EU諸国で使用されている言語)を幼少期から学ぶべきだという指針のもと、「多言語教育」を推進している(「駐日欧州連合代表部公式ウェブマガジンEUMAG」より)。多大なコストを払い、多大な投資を行って、公用語を持つメリットと、さまざまな言語のもたらす歴史・文化的な豊かさの両方を追及している。    このような多言語主義の考えを組織運営に当てはめてみると、社内のプラットフォームとして共通のツールや価値観を共通言語として推進する意味はあるものの、それだけでは多様性が失われる懸念がある。組織運営においても「多言語教育」に当たるものが必要だろう。社員一人一人が多様なバックグラウンド、仕事以外の領域の知見・視点を、共通言語のアップデートに活かしてもらうこと。さまざまなやり方があるだろうが、EUの多言語政策と同様に、投資や仕組みが必要だ。    おりしも、多くの企業で、リスキリング促進の流れを受けて、副業や学びのための休職といった組織外の活動が奨励され始めている。組織の統合と、社員の多様性を両立させていくための道具立ては少しずつ揃い始めている。

人材獲得競争を勝ち抜くために<br />~調査結果を使ったアピール~ | 人事アナリシスレポート®

人材獲得競争を勝ち抜くために~調査結果を使ったアピール~

 多くの会社で人が足りない、しかし中途採用が難しいとお伺いする。 帝国データバンクの調査では、外食産業と情報システムを筆頭に、半数以上の企業が正社員不足と回答しているように(人手不足に対する企業の動向調査(2023年7月) | TDB景気動向オンライン (tdb-di.com))まさに人材獲得競争が企業の成長に大きな影響を及ぼしかねない状況である。  弊社は採用支援自体は行っていないが、制度設計やモチベーションサーベイ等のさまざまなプロジェクトを通じて、魅力ある組織・人事制度の実現をご支援している。「社員さんの活力を引き出す制度にしたい」「社員さんが満足する組織にしたい」といった人事の皆様の想いを日々受け止める立場から見ると、人事品質の向上に向けた営みは採用における会社の魅力となるはずと強く思っている。  ここでは、転職希望者向きのサイト等で紹介されている「採用条件のチェックポイント」の代表的な項目に沿って、どんな点がアピールポイントになるか考えてみたい。貴社において、使えそうなデータはあるだろうか? ■給料  貴社の賃金が採用上の競合(地域・業種)と比較してどのような水準にあるか?  同等もしくは上回る処遇であればすでにアピールされているだろうが、仮に、候補者の年齢層ではあまり差がなくても、「中高年になると市場を上回る」などの事実はないだろうか?  処遇に関しては、月給と賞与割合も注目したい。賞与割合を高めにしている企業の場合、候補者からすると、どのくらい確実に賞与が支給されるのか大変気になる。平均支給月数だけでなく、分布で実際にその額をもらっている社員の割合などを示すことが安心感につながるのではないか。 ■勤務地 転勤を伴う異動がある事業の場合、転勤関連の施策の充実ぶりもアピールポイントになる。 「エリア限定社員制度」は、転勤を望まない候補者に魅力的である。全国区で活躍してほしい候補者を確保するうえでは、たとえば転勤者向けのハードシップ手当などが魅力となる。 ■昇給昇格の仕組み 貴社において、社員の昇進昇格のスピードは中途採用と生え抜き社員で変わりないだろうか? スピードが同じであれば、「うちは新卒・中途に関わりなく活躍できますよ」というアピールポイントになる。中途入社者へのサポート施策(キャリア面談や研修等)も併せて紹介すると、成長志向の高い候補者に響くのではないだろうか。 ■ワークライフバランスや福利厚生、働きやすさ さまざまな福利厚生や働きやすさの施策を用意していても、採用面接で細かく説明する時間がない場合は、「社員満足度調査をやっている」「モチベーションサーベイの結果の社員説明会をやる」など、調査の実施そのものをアピールしてはいかがだろうか。 パーフェクトな良い結果でなくても、たとえば「満足度の高い点ベスト3」「近年改善した点3つ」などの切り口で見ていただくとどうだろうか?  上でご紹介した「賃金水準」や「昇進昇格スピード」「社員満足度」等は、弊社の定量分析やモチベーションサーベイ等で実施している内容だが、コンセプトは上記の通りなので、社内でも分析できるものはある。ぜひ、現状分析を通じて自社の強み、魅力を視える化し、人材獲得におけるアピールにつなげていただければと思う。

経験者採用に即戦力を期待しない | 人材開発

経験者採用に即戦力を期待しない

 昔は35歳を過ぎると転職は無理と言われたものだった。しかし今や35歳以上の転職は全転職者の過半数を占める(2019年「労働力調査」)。倒産などの外的理由だけではなく、よりよい条件を求めての転職が増えているという。経験を積んだ専門性の高い業務や役職者といったベテラン勢が、さらなる活躍を求めて転職するキャリア採用・経験者採用が増えていると思われる。  経験者採用が増える一方で、「凄い経歴の方が採用できたが、数カ月で辞めてしまった」というミスマッチ・早期離職の話もよく聞く。筆者自身、30歳を過ぎてから3回転職をしたが、1社は半年で退職した。苦い経験だった。どうすればミスマッチ・早期離職を防ぎ、経験者採用の活躍を促せるだろうか。  ミスマッチを防ぐために、入社前の情報開示や何の仕事を担当してもらうのかのすり合わせの重要性はよく語られている。しかし、事前に伝えることには限界があるので、むしろ入社後の対応の方が決定的だろう。入社後の対応のポイントとして、私は「即戦力を期待しないこと」「ビジョンをすり合わせること」の重要性を挙げたい。  経験や知識が重視される経験者採用において即戦力を期待しないのはおかしいと思われるだろうか。実際、私も「入社後3カ月のハネムーン期間に、目立つ成果が出せると良いね」というアドバイスを受けたことがある。  しかし、本来、経験や知識があるということと、それを業務で発揮できるというのは別の話だ。新しい会社のシステムの使い勝手や、使えるリソースなどの制約は入ってみないと分からない。経営者から「これまでの経験を生かしてぜひわが社を変革してほしい」と口説かれても、現場のメンバーからは冷ややかな視線。意思決定の流儀などの「仕事の仕方」も学ばないといけない。能力発揮以前に乗り越えるべきことが多々存在するのだ。  であれば、いっそ入社後しばらくは、「成果は出さなくてよし」と宣言して、能力発揮のための環境整備と適応に専念する期間としてはどうだろうか。これが「即戦力を期待しないこと」の意味だ。  その代わりに、この期間にはこまめに上長とミーティングを持ち、ビジョンをすり合わせることに時間を使うべきだ。会社の現場を知った上で、改めて自分は何ができるのか、会社は何を期待するのかを話し合う。今の業績を上げることだけでなく、中長期的な会社の成長のために共に考える。転職者からすれば、そのように自分の経験や知見を聞いてもらえることは、入社してよかったという思いにもつながる。  役職者として転職し活躍されている方に話を伺うと、3年、5年というスパンで成し遂げたいことの計画を描いている。また上司と中長期的なビジョンを話し合っている。いずれも「即」ではないのだ。経験者採用に「即戦力」という呪いをかけるのは、もうやめよう。

「よくわからないけど面白そう」という気持ち | その他

「よくわからないけど面白そう」という気持ち

 小さな子どもを見ていると、彼らにとって遊びと学びは一体だと感じることがよくある。文字を練習していたはずがオリジナル文字を作っていたり、ゲームの解説動画をなめるように見ては新しい手法を学んでいたりする。新しいことを知り、それをおもちゃにして遊び、遊ぶためにまた新しい知識を学ぶ。「よくわからないけど面白そう」という気持ちが先行して、「これは何に使えるのかな?」という活用は後からついてくるようだ。  結果として、使えると思った知識は(主にクイズやゲームなど)どんどん深堀る。驚くような速さで習得し、どんどん使えるようになっていく。一方で使われないまま放置される知識(主に学校の教科書に書かれているもの)も壮大に発生してしまうので、そこは大人の目で見てまずいとなり、どの家庭でもよくあるだろうバトルが発生することになる。  このような子どもの学び・遊びは、研修事業で提供する大人のための学びとは大きく前提が違う。企業の人材育成においては会社の意図を踏まえて、研修提供側が学ぶ内容を選定する。何を学ぶかという理由は本人の側にはないので、企業の意図を「研修の目的」という形で研修開始時に本人に伝えることで後付けで内面化する必要がある。ここが多くの研修の難所になる。また、研修で学んだ知識の活用についても自主性に委ねているとなかなか継続しない。今では、知識の実践を働きかける長期的なフォローが研修設計の標準になっている。  企業研修である以上、企業の意図した内容を効率的に学ぶためのカリキュラムを会社が決めるのは当然のことだ。会社の意図を理解してしっかり学び、実践していただければ研修としてはそれで大成功ともいえる。しかし、子どものころのような学ぶ・遊ぶ楽しさを思い出せたら、大人の学びもまた飛躍的に向上するのではないだろうか?   最近の研修では、体験型やアート鑑賞といったセッションが増えてきた。感性の開発や組織開発などさまざまな目的で設計されるが、これらのセッションを通じて、学ぶ・遊ぶ楽しさを思い出し、学び方のバージョンアップを図ることができると考えている。  その時重要なのは「よくわからないけど面白そう」という気持ちだ。会社の事業やこれまでの人生の延長線上ではなく、であまり接したことのない世界に触れる。世界はまだまだ広く、自分の知らないことがたくさんあり、なんだかよくわからないが動いている。何が起きているのだろうか。自分にも何かできるのだろうか。そう感じるとき、自分も学び、新しいことを試してみたいという気持ちが高まる。それこそが、子どものころのような貪欲な遊び・学びのスタートになるのだ。

コロナ後の職場はどう変わる? 対面会議の活用案 | モチベーションサーベイ

コロナ後の職場はどう変わる? 対面会議の活用案

 コロナ渦の収束がいまだ見えぬ中ではあるが、コロナ後の働き方について人事の皆様に伺うことがある。もともとリモートワークが不可能な事業形態の会社は別として、「リモートワークと出社の組み合わせ」のハイブリッド型を志向されているというご返事が多い。原則的に職場復帰を志向しているGoogle社のような企業はむしろ少数派のようだ。  ハイブリッドの働き方を前提とすると、コミュニケーションの方法も、Web会議と対面会議の組み合わせになっていく。その時、何を対面でやり、何をWebでやるかというのは判断が悩ましい。  最後は参加者それぞれの好む方法で、というのが正解だとは思うが、それでは整理がつかないので、対面会議の位置づけを、コストと効果の観点から考えてみよう。  まず、対面コミュニケーションは今や高コストな手段と捉えられるようになった。交通費に時間、体力を使うし、頭髪から服装、匂いまで全身の「身だしなみ」に気を遣う。そうなると、対面会議はコストがかかるのだから、ここぞという場面で行おうという心理が働く。  では何が「ここぞ」という場面になるのか。効果の観点から、「対面」にできて、「Web」ではむずかしいことは何だろうか。  相互に意見を出し合う目的の発散型の会議は対面に一定の優位性があるようだ。オンライン教育の専門家から以前伺った話では、ブレインストーミングなどのクリエイティブなセッションは対面の方が向いているという。  また、情報量の豊かさという点では対面はWebより優位にある。人間は、相手の声のみならず口の動きや顔の表情も含めた複雑な情報を認知している (※)ため、お互いに多くの情報を交換したい場合は対面にした方が良い。  このような特徴を踏まえ、以下のような条件に当てはまるときは対面会議を優先してはどうだろう。   ・互いの関係性がまだそこまで近くないこと   ・テーマに関する意見が定まっておらず、さまざまな情報を交換したい場合  たとえば、初めてのお客様との商談や新しく一緒になった部下とのミーティング。これらは、コストをかけても対面で実施すべき「ここぞ」という場面ではないだろうか。 そして長年のお付き合いのある大切なお客様との定例的なミーティングは、参加の負荷が最小限に抑えられるWebミーティングが合理的ではないだろうか。  筆者は営業として日々いろいろなお客様のお話をお伺いしているが、この1年半、Webでしかお会いできていないお客様も多い。そのようなお客様には、上記の条件に従って、コロナが明けたらぜひ訪問させていただき、さまざまな情報を交換させていただきたいと願っている。 ※田中 章浩,「顔と声による情動の多感覚コミュニケーション」,Cognitive Studies, 18(3), 416-427. (Sep. 2011)

会議の時間を劇的に短縮する方法 | その他

会議の時間を劇的に短縮する方法

 かつて昭和のころは「部長は会議で、いつ席にもどるか分からない」という状況がざらにあった。それから年号が二回変わっても「会議の時間が長すぎる」「大勢の人を集めて話をするのは数人だけ」「何も決まらない」など、非効率的な仕事の代表としてやり玉にあがるのが「会議」である。  生産性の向上が経営・人事の目標として重要視されるなか、会議の運営スキルについてよくご相談をいただく。どうすれば会議を最小限の長さに留め、かつ物事が決まり、皆の意見を吸いあげた質の高い内容とすることができるだろうか? ファシリテーションのクラスなどで紹介することもあるが、本日はすぐ実行できるポイントをご紹介したい。 ・時間を短く取る ・アジェンダを明確にする ・前向きな発言に絞る  まず時間について。会議を劇的に短くするには取る時間を短くすればよい。例えば社内の打ち合わせは20分~30分、長くても45分。時間を短く設定すると、その時間に収まるのか不安に苛まれるので、事前準備や進行方法を必死に考えるようになる。会議を短くして運営を部下に任せ、ファシリテーションプランを綿密に考える訓練するのもよいかもしれない。  次にアジェンダについて。限られた時間で会議を目的のゴールに導くには、参加者の意識を集中させる必要がある。「アジェンダ」や「ゴール」を会議室のホワイトボードに書く。リモートであればチャットなどに表示させておく。それにより、話が横にずれないよう意識させたり、ずれかかった時に引き戻しやすくなる。  最後に発言について。ファシリテーションの技術の1つに発言のルールを決めるというものがある。「建設的な意見交換にするために、提案に対して代案のある人に発言してほしい」と宣言する。すると、代案のない人は発言をしないし、代案が出ればそれに集中して議論することができる。  このようにお伝えすると「いろいろな意見が出にくいのでは」という質問をいただいたり、「そんな会議は怖い」と言われることもある。会議の目的が、決定なのか、発散なのかによって時間やルールの緩さ厳しさを設計することが重要だ。  また、そもそも発言する人がいない、常に人事が「社内の活性化」に悩んでおられるような会社では、「会議運営のスキル」とは別の施策が必要であろう。それについてはまた次の機会にご紹介したい。

「正しい人」を変えるには | 360度診断

「正しい人」を変えるには

当社が位置する四ツ谷界隈にはたい焼き屋が多い。秋が深まるこの時期、焼き立ての良い匂いをさせている。たい焼きでいつも思い出す出来事がある。 皆さんの職場には公開説教をする人がいらっしゃるだろうか。近年、上司が部下を面罵する行為は避けるべきとマネジメントの教科書では教えている。部下のモチベーションを下げ、かつ問題行動の改善にもたいしてつながらないからだ。 しかし常識的にはNGになった今でも、公開説教を行う上司はなくならない。なぜだろうか。人によっていろいろな理由があろうが、ある真面目なタイプの人々の場合、「正しいことをしている」と信じているからではないかと思う。 筆者が仕事をしたあるマネジャーは、自分の隣に部下を立たせて、部下のアウトプットに赤入れや指摘をしていくのが日課だった。口調がだんだん激しくなり、最後に「こういう仕事をしていてはあなたの信頼に関わる」という宣告で終わる。週に何回か、そのやりとりが部下それぞれとの間で繰り返され、その間他の人は下を向いて息をひそめている。 誰かが、そのようなやりとりは個室で行ってほしいと言うと「ほかの人にも自分が求める仕事の仕方を理解してほしい」「皆が会社から良い評価をもらうために必要なことだ」という答えが返ってきた。公開説教が部下の成長に有益だと信じており、その信念は当の部下たちの意見でも揺るぎはしなかった。 マネジャーの上司に相談する人もいたが、「熱意の表れである」「むしろ皆でしっかりフォローして」と諭されて終わりだった。 変化が起きたのは年に一度の360度評価の後だった。いつものように上司によるマネジャーへのフィードバック面談が行われた。その後、チーム全員が会議室に呼び出された。そこでマネジャーは、自分の行動で嫌な思いをさせてすまない、信頼回復に努めたいと語り、皆にたい焼きを配った。その後、公開説教が行われることはなくなった。 部下一人一人の意見は主観に過ぎない。メンバーとマネジャーの意見が異なる時、経営はマネジャーの意見を取るだろう。しかし、360度フィードバックを通じて、多数の主観は客観的事実となる。その結果、マネジャー本人とその上司は問題をようやく認識し、上司が動いた。客観的事実と上司の指導。どちらが欠けても自分が正しいと信じる人を動かすことはできず、たい焼きミーティングはなかっただろう。 路上でたい焼きの匂いに出くわすと、あの時の塩の効いたたい焼きの味と、これで下を向いて仕事をしなくて済むという何とも言えない安堵感を思い出す。

若手の抜擢がなぜ難しいのか | その他

若手の抜擢がなぜ難しいのか

先日、「新入社員に新しい発想を求めるな」という愚考を掲載させていただいた。若手つながりで、本稿では「早期抜擢」について取り上げてみたい。 若手の抜擢を「やりたい」とおっしゃる企業人事部様は実に多い。海外拠点勢の多くが40代MBA出身者となり、日本勢もそれに負けないようにしたいという日本発グローバル企業。若手が少なく将来の管理職候補が枯渇するため、早期に選抜・育成を進めたいという中堅企業。若手でないと変化にキャッチアップできないというIT企業などなど。いずれも若手の抜擢が成長戦略上重要だという考えをお持ちだった。 しかしこのような企業のなかで、実際に施策として実現しているのは一部であり、成功している企業はさらにその一部であると筆者は認識している。 若手抜擢が難しい理由の1つは、そもそもの人選の難しさである。抜擢する人材を見極めることも難しいし、棚上げを食う中高年社員の納得を得ることも難しい。 ある会社では、社長が次期社長を40代から出すと宣言し、選抜教育の若返りを図ったが、現場評価で基準を満たす人材が十分に出なかった。また、自分の部下が次の選抜教育に参加できなくなった部長からの苦情も出て、選抜教育の見直しは慎重に進めることになった。 これまでと違う方法で人を選抜していくので、基準の公正さやプロセスの透明性が一層重要になる。たとえば選抜基準は、若手に有利でも中高年を排除するものではない仕組みにしておくことも重要だ。そしてしっかりと意図を説明することが必要なのは言うまでもない。 若手抜擢は成功させる難しさもある。抜擢された人材が成長し、活躍することを成功であるとすると、その成否は上司や周囲の環境に掛かっているためだ。 過去に若手抜擢を実施し、40代で部長昇格者を輩出した企業がある。抜擢された人の多くは今も部長だが、当初目されたように早期の役員昇格者は出ておらず、その後若手抜擢を行っていないという。「詳しい理由は分からないが、そもそも育成の風土がないなかで、上司がその人たちをどう育成すればよいのか分からなかったのではないか」とその会社を知る人は話す。 若手抜擢の難しさを見ていくと、求められるのは透明性の高い施策の設計と、社内の理解を得ることである。特に後者には経営からの説得が必要不可欠である。 なぜ若手抜擢をするのか、それによって会社をどのように変えたいのかを、情理を尽くして語ってほしい。そして、若手抜擢によって中高年社員を落胆させるのではなく、めざす方向に向かって全員が奮い立つ第一歩とすること。そのような方向に組織を束ねていくためには、ぜひ経営の本気度を見せてほしいと思う。

新入社員に「新しさ」を求めるな | その他

新入社員に「新しさ」を求めるな

過去の成功体験に囚われない新しい発想を社内にもたらしてくれる人材が欲しい・・・どの企業でも思いは同じだろう。中には、そのような熱い思いを秘めた眼差しを、キラキラと目を輝かせた新卒の新入社員に向ける会社もある。 筆者はかつて、日本を代表する大企業数社の人事部の方から「現状を変えるために新入社員に期待したい」と伺ったことがある。変えたいものは、かつては革新的といわれたが保守化した企業風土だったり、新商品を出すもののかつての勢いを失った定番商品のリニューアルプランだったりと、さまざまだが、今の社内にない「新しさ」を新入社員に求めるという点は共通と言えるだろう。 しかし、このような期待は、新入社員自身にとっても、会社にとっても、害でしかないのではないかと私は考える。 理由は三つある。一つは、新入社員をダメにするからだ。新しいアイデアを出すことは確かに重要で、出す能力に長けていることに越したことはない。しかし、アイデアを事業に具現化するまでは「千三つ」「多産多死」と言われるような淘汰の道のりだ。アイデア出しくらいでちやほやしてしまったら新入社員に大きな勘違いをさせかねない。 二つめは、新入社員の配属先が疲弊するからだ。確かに新入社員は、既存社員にない発想を持っているかもしれない。しかし、新しさはそれ自体ではなかなか理解されないものだ。その説明に、多くのマーケターや開発者は心血を注いでいるのだ。よほど突出した新入社員でないかぎり、人事部に鼓舞されていろいろな提案を出したとしても、その対応に周囲は苦慮することになるのではないだろうか。 三つめは、そして一番声を大にして言いたいのは、責任転嫁を感じるからだ。本当に新しい発想を絞り出すべきは既存社員、特に会社の上層部である。なぜ、新しい発想が出てこないのか? その要因を自分の責任として考えるのが先ではないか。役員が新しいアイデアを後押ししない、失敗すると個人の評価が悪くなるなど、組織の風土や制度が元凶になっている可能性はないのか。 新しい発想が欲しいならば、アイデアを生み育てる社内(特に上層部)の環境を整えた上で、新人・既存社員を問わず提案をどんどん出させればよい。既存社員・組織を変えることを諦め「新しい人に期待する」などという情けない発想は捨て去ろうではないか。

なぜ緊急車両の通行妨害が起こるのか?  | その他

なぜ緊急車両の通行妨害が起こるのか? 

遠くからサイレンの音が近づいてくる。消防車だ。音が近くに来てなかなか遠ざからないと思ったら、細い道が太い道に合流するT字路の交差点で、交差点内の右折車が緊急車両の行く手を阻んでいた。消防車は何度もアナウンスで指示を出し、乗用車が少しずつ位置を変えてようやくできた隙間を縫って走り去った。長い信号一回分の時間が経過していた。 ドライバーであれば緊急車両を優先させるのは常識中の常識である。いったいなぜこのような誤った行動が引き起こされてしまうのだろうか。それを防ぐ手立てはあるのだろうか。 通行妨害が発生する理由については、調査を見つけることができなかったが、災害時の行動研究などを踏まえて3つの仮説を考えてみた。 ・視野狭窄の罠 周りが見えていない状態で、緊急車両が近づいているという聴覚による事実と、自分の進路に影響があるかもしれないという可能性が結びつかず、ぼーっとして何も考えずに交差点に進入してしまったのではないか。 ・正常化バイアスの罠  自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう心理的特性が正常化バイアスである。「まさか緊急車両がこの道にはこないだろう」「緊急車両が近づいているが、自分がわたるくらいの時間はあるだろう」などと甘く考えていたのではないか。 ・被害者心理の罠 右折したい自分が、法規通りに道路の左側によると、次の信号で右折できなくなり自分だけ遅れてしまうかもしれない。自分だけ損をするのは馬鹿らしいという一心で、前の車と同じ行動をとることだけに囚われて交差点に進入してしまったのではないか。 実はこの3つの仮説は、人・組織の課題の原因仮説として語られることも多い。 たとえば、社員が「組織間の壁がある」「閉塞感がある」という企業は、固定的な環境で社員が視野狭窄に陥っているかもしれない。 年々市場が縮小し、利益率が低下しているのに手が打てていない企業は、意思決定者が「自分が在籍している間は会社はつぶれない」という正常化バイアスに蝕まれているかもしれない。 社員のコミュニケーションが良くない企業は、組織全体に「自分ばかり頑張っているのに報われていない」という被害者意識が蔓延しているのかもしれない。 では、どうすればこれらの課題が解決するのだろうか。望ましくない行動そのものに対する罰則の厳格化は1つの方向だろう。多くの職場でも、「べからず集」は活用されている。しかし、緊急車両優先は「道路交通法」に定められているにも関わらず、妨害行動は発生してしまっている。禁止は根本的な解決に至るとは限らないのだ。 重要なのは、罰則などによる禁止よりもむしろ、望ましくない行動をとってしまう認知的・心理的な原因に対して手を打つことではないだろうか。加えて、望ましい行動をシンプルに、具体的に伝えることだ。いわば災害における避難訓練のように、何をすべきかを頭と体に叩き込んでおくのだ。 一律にルール化するのではなく、人の行動のプロセス、メカニズムを紐解き、そこに働きかけること。それこそが、複雑な人間の行動を望ましい方向に導く上での近道なのではないだろうか。 参考文献: ●“安全・危機管理に関する考察(その2 ) 一緊急時の人間行動特性-” 古 田 富 彦 「国際地域学研究 第6 号2003 年3 月 」https://ci.nii.ac.jp/naid/120005274751 ●“大災害時の避難行動“東京女子大学名誉教授 広瀬 弘忠 消防防災博物館 https://www.bousaihaku.com/dptopics/113/

間違いだらけの女性活躍推進 | その他

間違いだらけの女性活躍推進

小学生の子を持つ筆者の周りのワーキングマザーたちに異変が起きている。赤ちゃんの頃から保育園に預けて働き、寝る間を削って雇用やキャリアを維持してきたワーキングマザーが、一人また一人と転職や非正規への転身を果たしているのだ。個人としてはハッピーでも、勤めていた会社としては、ようやく本格的に活躍してもらえると思った矢先に退職されてしまった格好である。なぜこのようなことが起こっているのか、そして避ける手立てはどこにあるのだろうか。 全体を俯瞰してみれば、平成28年4月の女性活躍推進法の施行以来、日本の女性活躍推進は順調に進んでいるように見える。『男女共同参画白書(概要版) 平成30年版』※によれば、生産年齢人口の就業率は女性25~44歳で74.3%、前年比1.6ポイント上昇。出産を契機に女性が退職するいわゆる「M字カーブ」の底も浅くなっており、産んでも辞めない傾向が強まっている。一方で、管理的職業従事者に占める女性の割合は,平成29年においては13.2%であり,諸外国と比べて低い水準となっている。 「就業」という観点からみれば好調だが、「活躍」にはまだまだ課題があるという状態である。冒頭のワーキングマザーたちがその例だ。一体「活躍」の何が課題なのか。彼女たちのコメントから見えるのは、1つには昇格プレッシャーだ。 「管理職になるようしつこく言われて会社を辞めた。ここで会社の言う通り昇格したとしても私にはとても無理だと思ったら、居づらくなってしまった」(金融業・正社員) 管理職になりたくないという声は、女性に限らず、中堅社員でも、専門性の高い職種でもよくある話だ。管理職昇格はモチベーションにはならない。では何で動くのか。それは「やりたい」と気持ちが動くかどうかだ。 「ずっとやりたかった仕事のアルバイトからスタートすることにした。正社員は、残業20時間できますか?と言われてあきらめたけど、とにかく始めてみる」(代理店・正社員) 「やりたい」と思えば、すごいエネルギーが生まれるものだ。女性管理職を増やしたい、男性と同等にチャンスを与えるので応えてほしい、というオファーは、しょせん会社の論理である。会社の論理そのままで、ワーキングマザーだけに変われと言うのは大きな間違いだ。 多くのワーキングマザーは、子どものケアや家事など家庭のさまざまな役割を、「私しかできないこと」という諦めと責任感で引き受けている。会社が仕事に向けて彼女たちの“気持ちを動かす”には、彼女たちが抱えている「私しかできないこと」リストの上位に仕事を位置付けるしかない。が、組織とは本来、だれでも代替できるように仕事を管理するものだから、「私にしかできない仕事」は基本ない。だから「私がやりたい」という気持ちがものすごく強く持てないと、リストの上位には食い込めない。 とすれば女性活躍推進として会社が取り組むべきは、「やりたい」という気持ちを育てるよう、仕事と職場を変えることだ。スモールステップで自分のアイデアを実現する機会を増やす、そういった活動を評価するのは一案だろう。 ワーキングマザーの「やりたい」を引き出せたとき、あなたの会社はすべての社員にとって、「やりたい」を感じられる組織に近づいているに違いない。 ※『男女共同参画白書(概要版) 平成30年版』 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/18-2/dl/gaikyou.pdf