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column

変わったヤツだね、あいつ

 東京に本社を置くその会社は、600人ほどの従業員を擁する大手企業傘下のシステム開発会社だ。管理職と専門職の複線型人事制度を設けている。この専門職というのをどう位置付けたらよいのか、ずいぶん長く議論してきたが明らかな結論が見えてこない。曰く・・
「40代後半にもなって、ポストが無いという理由で管理職に昇格できない人材を遇するには、専門職という立場がどうしても必要だ。」
「いや、ちょっと待て。専門職というのは、他人に無い高い専門性を持つ人材を処遇するためのものだ。単に優秀な総合職社員を格付けるものとは違うのではないか。」
「優秀ではあるが管理職には向かないという人もいる。こういう人も、それなりに処遇しなければ辞めてしまうだろう。」
「ところで、管理職に昇格させてみたがうまく成果の出ない人材は管理職ポストから外したいのだけれど、格付けを一般社員まで落とす訳にもいかない。専門職に移ってもらえば収まりが良いな・・。」
そうこうするうちに、若くて優秀な専門人材と管理職リタイア組が混ぜこぜになった、妙な人材集団が出来上がった。多くの若手社員から声が上がる。
「いったいこの専門職というのは何なのだろうか? うちの専門職に何かの専門家はいるのですか? 年功序列の大義名分に過ぎないのでは?」

 さて、同じICT系の会社だけれど、地方都市に本拠を置く新興の会社がある。まだ200人ばかりの会社だが、クルマの先進情報技術を武器に急成長を遂げている。前述の会社と同じような複線型制度を設けているが、少し違った景色が見える。
ここで働く人は、全員が非常に高い専門技術を持っている。例えば、この会社のコーダー(コーティングを仕事とする職種)は、ふつうのプログラマーの5人分から10人分もの仕事をするのだそうだ。彼らは、あたかも日本語とコーディング言語のバイリンガルだ。部下に帰国子女がいれば、辞書を引きつつ汗かきながら英語で会話をしなくても倍のスピードで仕事が片付くのと似て、注文主が「こんなシステムがあるといいな」と夢を語れば、たちどころにコンピューターと話をつけてくれるのだそうだ。
コーダー職以外にも、AIのアルゴリズムを考える人、巨大なデータセンターを切り盛りする人など、数多くの専門家が腕を振るう。綺羅星のごとき人材たちが数多く働く専門家集団だ。
ここでは、専門家としてのウデの良さでグレードが決まる。誰もが、自らの専門分野で、もっともっとウデを磨きたいと考えている。だから、ポスト不足の悩みなどない。そもそも管理職という仕事への憧憬が無いのだ。若い技術者たちが仲間のうわさ話をする。「あいつ、次のワンオンワンで管理職コース希望するんだってさ、変わったヤツだね・・」

 根拠の無い直観だが、二番目に述べたような会社がにょきにょきと姿を現しているように思う。その半面、数多くの人事部門で、一番目に述べた会社のような議論が依然として交わされている。技術の急激な発展があり、産業構造やビジネスモデルの地殻変動が起こる。そして、わが国の人事管理は、その後を周回遅れで追いかけているように見える。

 ところで、人事制度を刷新するとき、経営者は社員にそのいきさつを語る。米国の経営者の多くは、『私はこんど、このような制度を導入することを決心しました。』と言う。日本の経営者の多くは、『わが社では、こんど、このような制度を導入することになりました。』と言う。両者の表現には微妙なニュアンスの違いを感じる。
マスコミがそのことについて盛んに論評し、業界の多くがそれに賛同し、有識者の協力を得、従業員の皆さんの大方のご理解が得られ、十分に環境が整い、機が熟したときに、日本の人事管理は漸く、一歩、前に進むのだろう。熾烈なグローバル競争の中で、遅きに失することがないとよいが。

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