「イノベーションは文化で生まれ、制度で守られる」                   ─高度成長期の知を現代に再起動する |コラム|株式会社トランストラクチャ(東京都)

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「イノベーションは文化で生まれ、制度で守られる」                   ─高度成長期の知を現代に再起動する

なぜ今、過去を振り返る必要があるのか
日本企業がこぞって「イノベーション」を求めている。DX、リスキリング、ジョブ型、人的資本経営——さまざまなキーワードが飛び交うが、実際にイノベーションが“生まれる現場”は依然として多くない。
失われた30年のあいだに組織は大きく変質し、「挑戦する」よりも「失敗しないこと」を優先する文化が広く根づいた。挑戦・越境・試行錯誤といったイノベーションの源泉行動が抑圧されてきたことは否めない。
そこで本稿では、現代の先端理論に答えを求めるだけでなく、高度経済成長期の日本企業が持っていた「文化と暗黙知」にフォーカスを当て、現代のイノベーション議論に接続することを試みる。

 

高度経済成長期の強さ:多能工・越境・共創文化
高度成長期の日本企業には、現在のイノベーション論文には書かれていない「実践の知恵」が満ちていた。その特徴は大きく3つある。

多能工という「幅のある働き方」
職務が細分化される現代と異なり、当時の現場では職務境界が緩やかだった。工程・役割・職種を柔軟に跨ぐ多能工が一般的であり、個人の“幅”が組織の強さを支えていた。現代でいう越境行動、ジェネラリスト志向に近いが、もっと「実践知に裏打ちされた幅広さ」だったと言える。

「人と人、仕事と仕事」をつなぐ行動が自然に存在していた
部署の壁や「私の仕事はここまで」という線引きが少なく、必要があれば互いにフォローし、課題を拾いにいく行動が自然に起きていた。これが“よかれと思って動く文化”であり、制度がなくても動くことが称賛されていた。

暗黙知の共有と学習の場が豊富だった
野中郁次郎氏らが後にSECIモデルとして理論化したように、日本企業は暗黙知の相互作用に強みを持っていた。特筆すべきは、学習の場が現場の随所に存在していたことである。
現代ではリスキリングが「自律的に学べ=個人の責任」という文脈で語られがちだが、当時は学びが“個人の努力”として切り離されていなかった。実地訓練、先輩の背中を見る徒弟文化、改善提案活動──これらすべてが仕事の流れの中に組み込まれており、学習機会は組織全体が自然に提供していた。
つまり、誰が社員を成長させるのかが曖昧でも、組織そのものが“学びのエコシステム”として機能していたのだ。

 

失われた30年が壊したもの:線引き文化と挑戦抑制の記憶
バブル崩壊後、人件費の抑制・効率化が正義となり、日本企業の行動原理は大きく変化した。

  • 「挑戦より安定」が評価される
  • 失敗が個人責任として強く問われる
  • 職務は詳細に分割され、越境は“余計なこと”とみなされる
  • 「よかれと思って動く」行動が抑制される

長い年月をかけて、この抑制的な文化が組織の深層心理に染みついていった。これこそが、現代のイノベーション不全の背景にある「組織の深いクセ」である。

 

高度成長期を実体験した世代への再注目
現代の若手やミドル層は、高度成長期の文化を「情報として」しか知らない。一方、50代〜定年再雇用の世代は、“文化の身体感覚”を持つ最後の世代である。
この世代は、多能工、越境、助け合い、挑戦、失敗の許容、そして学びが自然に存在していた職場文化を経験している。これは単なるノスタルジーではない。「現代が失った文化の源泉を知る一次情報であり、組織変革に必要な“文化のDNA”」である。
彼らの語りを丁寧に聞き出し、形式知化することは、過去と未来をつなぐ重要な作業になる。

 

現代のイノベーション理論が語るもの:越境・透明性・高速学習
興味深いことに、現代のイノベーション理論は、高度成長期の文化と驚くほど強く共鳴する。

① SECIモデル(知識創造理論)
暗黙知の共同化・表出化・連結化・内面化のプロセスは、高度成長期の現場が自然と実践していたものである。

② OKRに代表される透明性と挑戦文化
目標の公開、試行錯誤の高速ループ、対話を通じた意味付けは、現代的に洗練された越境促進装置とも言える。

人的資本経営と「学習文化」の再構築
人的資本KPIや組織学習の再評価は、学びが職場に埋め込まれていた高度成長期の状態に近づこうとする現代的アプローチでもある。

 

過去と現在をつなぐ:日本企業の“OS”をアップデートせよ
高度成長期の強みは「懐かしさ」ではなく、「イノベーションを生む文化的OS」であった。現代の理論はそのOSを言語化するフレームを提供している。
必要なのは、制度刷新だけではなく、文化の再構築である。

  • 過去の文化を懐古ではなく“構造”として読み解く
  • 暗黙知・越境・学びを組織文化に再インストールする
  • 50代以上の経験知を形式知化し、文化のDNAとして保存する
  • 挑戦が抑制された30年の記憶を、小さな成功体験で上書きする

これこそが、イノベーションが再び自然発生する組織OSへの転換点となる。

 

最後に:文化を再起動できれば、日本企業は再び強くなる
制度変更だけではイノベーションは起きない。文化と心理が変わらなければ、どれだけ制度を整えても形骸化する。
高度成長期に存在した「越境」「学び」「助け合い」「よかれと思って動く」文化を、現代版にアップデートして再構築すること。そこで初めて、イノベーションが“文化として自然発生する組織”が生まれる。
これは過去への回帰ではなく、未来をつくるための文化の再起動である。

 

■ 参考文献

  • 野中郁次郎・竹内弘高『知識創造企業』
  • 野中郁次郎・竹内弘高『ワイズカンパニー』
  • 日本労働研究機構「日本型人事管理モデル」関連文献

 

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