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「冷や飯人事」でも這い上がる人 | 人事制度運用支援

「冷や飯人事」でも這い上がる人

 ※今回のコラムは、フリーランスのジャーナリスト吉田典史氏の執筆です。内容は個人によるもので、当社を代表するものではありません。 ============================================   報道によると、自民党の役員人事や組閣人事で新しい首相が総裁選を競い合った議員に冷や飯を食わせる処遇を行ったという。真相は定かではないが、権力闘争の結末はこういうものなのかもしれない。  この意味での冷や飯人事は、企業社会でも時折見られる。一例を挙げよう。2年程前、社員500人の会社(出版業)で社長が交代した。新しい社長は、2000年前後から2010年までくらいは管理職の中で反主流の立場にいた。それ以前は、中核の部署で編集長(課長)として15人ほどの編集者を束ねていた。いわゆる、出世コースだ。だが、当時の編集担当役員と仕事の進め方をめぐりぶつかり、役職を外された。反主流の時は部下が2人で、さしたる仕事はなく、暗い雰囲気を漂わせていた。当時は、小学生の息子の成長くらいしか楽しみがないようだった。  私は、この会社から仕事を請け負っていた。この男性と何度か話をした。お酒を2人で飲んだこともある。シャイな一面があり、性格は誠実そのものだった。競争心が弱く、要領のいい同世代に利用されやすい雰囲気もあった。  ところが、10数年経つと、500人前後の社員のトップに立った。まさに「リベンジ」と言える。なぜ、こんな逆転劇が可能になったのか。それには、いくつかの理由がある。私の観察にもとづくものを以下に挙げよう。 1.社員の離職率が高い    30年以上にわたり、新卒、中途ともに辞める人が多い。ほぼ毎年、新卒採用試験を行い、1年で数人が入社。3年間で約10人になる。だが、30歳までにほぼ全員が辞める。35歳まで残るのは約10人のうち、1~2人。40代になると、全員が管理職になる。役員になるのも、倍率からすると難しくはない。冷や飯を食う立場になったとしても、主流に戻ることは可能なのだ。 2. リストラを繰り返す  20年間で数回、リストラを行い、40~50代の社員(管理職と一般職)15~20人を退職させた。この中には優秀な人もいたようだが、同世代の社員が大量にいなくなり、リベンジができる環境が一段と整っていたとも言える。 3. 頻繁な組織改革と人事異動  歴代の経営陣は、「新体制」と称して組織改革を繰り返してきた。約20年で5回ほどに及ぶ。その都度、500人のうち150~180人が対象になるほどの大規模な配置転換を行った。こういう経営刷新を行うと、状況に素早く適応し、高い業績を残す人材とそうでない人の差が明確になる。管理職の数はもともと少ないがゆえに、優れた人はどんどんと際立つ。  そして、男性には同世代の管理職を圧倒する力があった。それは、本流の仕事をしていた頃(1980年代~90年代)に、大きな実績があることだ。自らが20~30代の編集者として関わった資料集が大幅に売れたのだ。しかも、ヒット作が数年間で10冊前後になった。この会社では、たったひとりの快挙と言われる。だからこそ、少々、プライドが高く、40歳前後の編集長の時に20歳上の担当役員と激しくぶつかったのかもしれない。  男性は冷や飯を食わされていた頃も、本業に関する分野の知識を獲得する努力は怠らなかったようだ。本業に関する分野では、1000冊を超える本を読んだという。社内の一部では、「教授」とも言われていたほどだ。運がいいだけで、500人のトップになったわけではないのだろう。  これも付け加えておこう。この会社は創業60年を超えるが、市場や環境の変化に鈍く、1960~80年代型のビジネスモデルや仕事の仕方が業界全体に浸透している。それを変えようとする機運は業界や社内にあまりない。本来は好ましい姿ではないのだろうが、新しいスタイルのビジネスを始める必然性がほとんどないのも事実だ。この会社は、従来どおりの方法で業績はある程度、維持できている。  こういう状況であることも、リベンジを実現した要因の1つだろう。古い体質のままであるから、他の業界から優秀な人が次々と転職してくる可能性が低く、強力なライバルが現れにくい。数少ない中での競争に勝ち、社長の座をつかんだとも言える。私が知る限りでは、人事の処遇で冷や飯を食っていた人が復活するのはこんなケースが目立つ。読者諸氏の会社で「リベンジ」の人事は行われているだろうか。それができた背景には何があるのか。そんなことを考えるだけでも、人事マネジメントがより身近になるはずだ。

無事之名馬 | 関連制度設計

無事之名馬

 もはや耳にタコではあるが、日本は少子高齢化の進行により、労働力人口の急激な減少がしており、今後、国内のあらゆる企業において、労働力の不足が大きな人事課題になることは確実である。不足する労働力を確保していくためには、外国人労働力、女性、定年延長・再雇用などで労働力を維持していくことが必要となるが、この定年延長という取り組みに関して、新たな問題として考えられるのが、健康の問題である。  企業は、従業員の健康を維持することに投資し、従業員は、今まで以上に健康を維持するための運動習慣、食生活の改善に取り組むことが求められるようになる。60歳を過ぎても、できるだけ健康な状態で過ごすことによって、医療・介護にかかる費用を押さえていくことが、国民全体の負担の軽減につながり、社会保障の持続可能性を高めることにもなる。個人にとっても国家にとっても望ましいのである。   健康の維持推進というと、まず、”疾病”にならないための衛生水準を確保するということ、感染症対策や食品衛生などである。この点に関しては、清潔な住環境、徹底された食品の衛生管理など、日本は国際的にみて高いレベルを維持しているといえるだろう。  しかしながら、これから訪れる強烈な高年齢社会を実現していくためには、これに加えて、私たち自身も、運動習慣や食生活の改善に積極的に取り組み、生活習慣病の発症や重症化を予防していかなければならない。  近年、企業としても従業員の健康に関する取り組みを支援する動きが活発になってきた。健康経営の事例としてよく上げられる、ジョンソン・エンド・ジョンソンの取り組みであるが、グループ250社、約11万4000人に健康教育プログラムを提供し、その投資に対するリターンを試算ところ、投資1ドルに対して3ドル分のリターンがあったとされている。従業員の健康に対する取り組みを支援することが、企業としての価値を高め、業績の向上にもつながるということである。  現在の国内企業の主な取り組み内容としては、禁煙推進、成人病の高リスク者へのカウンセリング、ノー残業デー、健康教育などが多いが、今後はさらに強化されていかなければならない。業務に必要とされる知識やスキル、を習得し続けなければならないことはもとより、その技能を長期間にわたって、いかんなく発揮し続けるだけの肉体・精神の頑健さを維持していかなければならない。「無事之名馬」がこれからの日本人が目指すべき姿なのである。  ちなみに、「無事之名馬」という言葉は、競走馬の世界において、多少能力が見劣りしていようと、常に健康であってくれることが馬主にとって望ましい、ということを表す言葉であるが、大前提として、競走馬とすべく生産されたすべてが競走馬になれるわけではなく、選び抜かれた真に強い馬のみがレースに出走し続けることができる世界である、ということを理解しておかなければならない。

「45歳定年」発言の何がいけないのか? | 人事制度

「45歳定年」発言の何がいけないのか?

 ※今回のコラムは、フリーランスのジャーナリスト吉田典史氏の執筆です。内容は個人によるもので、当社を代表するものではありません。 ============================================  この原稿を書く数日前、「45歳定年」発言がネット上で炎上していた。時事通信社によると、サントリーホールディングスの新浪 剛史社長が経済同友会の夏季セミナーにオンラインで出席し、ウィズコロナの時代に必要な経済社会変革について「45歳定年制を敷いて会社に頼らない姿勢が必要だ」と述べたという。  私の印象で言えば、「今さら感」がある。1980年後半には、著名な経営コンサルタントや経営学者が新聞やテレビで「40代の定年」を指摘していた。私は、そのころからこの指摘は正しいと思っている。各自が遅くとも40歳前後で会社員人生を振り返り、少なくとも次のことは会社側と話し合いをすべきだろう。   1,現在の会社に残るか否か   2,残るならば、どのようにして貢献するか   3,その具体的な仕事や実績  1から3についての合意形成を定年まで毎年1回はすべきだ。年に数回でもいい。合意ができないならば、つまり、会社の求める仕事や実績に応じられないと判断された場合は、次の対処が必要になる。   ・他部署への配置転換、職種転換   ・グループ会社などへの出向・転籍   ・賞与を中心に大幅な減額   40代になっても管理職になれない人や部下のいない管理職には、退職勧奨を盛り込むこともやむを得ない。活躍の機会はほとんどないだろうから、他社でチャンスを切り拓く道も考えたほうがいい。ただし、退職強要は不当な行為である以上、避けるべきだ。  「45歳定年」発言を批判する人は、会社を取り巻く状況にあまりにも鈍感ではないか。少子高齢化が加速する以上、日本経済や各市場の規模は確実に小さくなる。多くの企業の業績はダウンする。海外展開し、危機を乗り越えようとするが、難しい業種や職種はある。すでに海外市場で日本企業は苦戦を強いられている。管理職になれない人や部下のいない管理職を多数抱え、総額人件費が適性ラインを越えているのだから当然だろう。一方で、海外企業の日本への進出や競争は激しくなる。シェアを次々と奪われる。間違いなく、倒産や廃業、吸収合併などの再編は猛烈に増える。会社が真剣に生き残ろうとするならば、人事のあり方を大胆に変えざるを得ない。少なくとも、次の取り組みは必要になる。   1,総額人件費の厳密な管理、圧縮   2,役員報酬規定の明確化、役員数の削減   3,管理職への昇格の明確化、厳格化、管理職数の削減   4,年齢給や勤続給の廃止、役割給や業績給の基本給に占める比率を拡大   5,管理職定年(40代後半~50代半ば)の導入やリストラの実施、大胆な人事異動   6,一般職(非管理職)の削減、リストラの実施、大胆な人事異動   7,総合職を減らし、専門職を増やす  1~7までは、バブル経済が崩壊した1990年代前半には取り組むべきだった。私の取材の限りでは、2や3に今なお取り組んでいない会社のほうが多い。だからこそ、40代になっても管理職になれなかったり、部下のいない管理職にしかなれない人が多数いる。多くは60歳の定年、そして雇用延長が終わる65歳前後、もしかしたら70歳までいるだろう。その総数は、すさまじいものになる。それで経営が成り立つのか…。  想像の域を出ていないが、「45歳定年」発言の背景にはこのような危機感があったのではないか。本来は、新聞やテレビ、雑誌、ネットニュースは発言の真意や背景について冷静で、深い議論の場を提供すべきだった。それができないところにも、沈む国の深刻な現状が見える。

イノベーション人材とは誰か その2 | その他

イノベーション人材とは誰か その2

 イノベーションのためには   ① イノベーションの種(タネ)となる斬新でユニークな発想で創造的アイディアを生み出す人材   ② それが排除されず生かされる環境をつくる、そのように職場をマネジメントする人材 の2種類の人材がいる。その後者、管理職者たるイノベーション人材について前回、書いた。(→『イノベーション人材とは誰か その1』)  では、前者、そもそものイノベーションの種(タネ)を生み出す人材とはどういう人材なのか。優れたアイディアマンや誰も思いつかない突飛な発想に優れるというだけではイノベーション人材にはあたらない。新しいアイディアはイノベーションの種(タネ)にすぎない。事業や組織の変革につながる芽へと発芽させることができて初めて「ビジネスイノベーション」の可能性が兆すからだ。ビジネスイノベーションの端緒を作りだせる人材には、柔軟で斬新な発想力とは別の、ビジネスセンスをもって種を見極め発芽にむけてアクセルを踏み果敢にドライブする能力が必要である。    別の能力とは、起業家的能力だろう。「新結合」という言い方で経済発展に不可欠なイノベーションを初めて提唱したシュンペーターは、その担い手を企業者とし、経営管理者と区別した。この文脈で彼のいう企業者とは、起業家に他ならない。その要件は、   ① 物事を見極める独特の視点    ② 不確定でも抵抗があっても一人率先して取り組む実験精神    ③ 周囲を巻き込み従わせる影響力 と解釈できる。それがビジネスイノベーションの原動力だとすれば、こうした資質と能力を有する人たちが(芽を生み出す)イノベーション人材と言ってよい。  人材要件からいってあきらかに、統制的なマネジメントや階層別の一律教育から、イノベーション人材は生まれない。ゆえに、前回書いたイノベーション(喚起)人材としてのマネジャーが要請され、教育施策としては、資質ある人材を選別し、能力を高め、試行実践を繰り返すような特別なプログラムが組まれるべきだろう。  教育プログラムのポイントは、   第一に、自ら新しいアイディアを生み出すのではなく、すでにある兆候や発想の可能性を洞察し見極めること。   第二に、実験と仮説検証を繰り返しそれを経営検討に値する「芽」に仕上げること。   第三に、その試行を自ら周囲に働きかけ交渉し巻き込んでやり遂げること。 こうしたプロセスそのものを、たとえばアクションラーニングとしてしつらえ、起業の芽の強制的な発芽促進装置とする、といった趣向が考えられる。  さて、その育成装置に放り込む人材をどう選ぶか。誰が、鍛えがいのある候補人材たりうるかを、どう見極めるか。人材要件を要素分解して、その能力や資質を持つ人材をアセスメントするのが順当な方法だが、もっとも重要な候補者の条件は、「自分のビジョンを持っているかどうか」である。その人に問うビジョンとは、所属する組織や会社のビジョンでもなく、自身のキャリアのビジョンでもない。自身の仕事のビジョン、つまりは自分の仕事でなにをなしたいかという強い願望である。自分がどうしたいかという強い想いであり、主体性自律性のエンジンである。  そもそも、イノベーションに通底する「創り出す」という行為は、任務とか命令といった受け身では駆動しえない。自身の持っているビジョン(=想いや願望)が、その目的の意味に共振・共感して初めて、寝食忘れてコトに対峙し考え抜き試し続け、結果、「なにものかを創りだす」ことができるからである。

イノベーション人材とは誰か その1 | その他

イノベーション人材とは誰か その1

 製品開発力で知られるある大企業の社長が、管理職全員を集めた集会でこう言ったという逸話がある。  「全社をあげてさらにイノベーションに取り組まなければならない。しかし、君たちからイノベーションが生まれることは一切期待していない。君たちの役割は、部下たちのなかに萌したイノベーションの芽を見逃さないことだけであり、決してそれを潰さないようにすることだ」。  イノベーションの種(タネ)は個人の新奇な発想である。それはおそらく、過去の経験則や慣習や常識に縛られずに、あるいはそれらを疑い、個々人の願望や想いや信念に執着した意思をもって着想される。新しいアイディアの苗床は、同質ではなく異質、統制ではなく逸脱、組織的でなく個人的を要件とするのだとすれば、マネジメントこそが、イノベーションの萌芽を阻害するのだというコトワリをこの社長は、経験的に痛感しているのだろう。    この話から気づかされることは、イノベーションのためには2種類の人材が要るということだ。   ①斬新でユニークな発想で創造的アイディアを生み出す人材   ②それが排除されず生かされる環境をつくる、そのように職場をマネジメントする人材 種(タネ)を生み出す人材はもちろん必要だが、生み出しうる職場をつくるマネジャーもまた必要である。「管理職者はイノベーション予備軍たる部下の邪魔をするな」という社長の言葉の真意は、イノベーションの種を見逃さず、守り、発芽を促進してくれということであり、さらには、新しいアイディアや過去の手法の問い直しが自律的積極的に生まれるような「創発的な場」づくりを管理職者に期待しているに違いない。  つまり、邪魔をしなければいいといった消極策ではすまない、きわめて難易度の高いリーダーシップスタイルの転換が突きつけられているのだ。まずは、異質性や変化、新しい発想をよしとする職場風土への改革という意味では、コッター流の「変革リーダーシップ」が求められる。一方で、日常のピープルマネジメントとしては対人的な創発の喚起・触発ができなければならない。それはたとえば、共感し、問いかけ、肯定し、支援するといった「カタリスト(触媒)型リーダーシップ」なのかもしれない。さらには、部下たちが相互に刺激しあいアイディアが増幅するようなグループダイナミクスを促進する「ファシリテーション型リーダーシップ」も必要かもしれない。  目標達成と人材育成という管理職役割の発揮は、当然ながら厳しく求められつつだから、「管理職者としてのイノベーション(喚起)人材」たりうるのはマネジャー個々人の頑張りだけでは難しい。彼らを支える土壌―イノベーション喚起のインフラたりうる組織構造や評価の仕組み、必要なスキル教育、共通の価値観浸透、が併せ整備されなければならないだろう。  なによりも大事な土壌が、マネジャーたちをこの困難な役割に臨む気にさせる経営意思の明確な発信。それは、情報創造組織論の嚆矢・野中郁次郎さんのいう「センシタイジングな問い(コンセプト)」が経営トップから出されることである。イノベーションは目的ではなく手段である。到底解決できそうもないけれども、ぜひ挑戦したいと全員が思える目的(=課題)が先になければならない。それは「HOW」ではなく、「WHAT」や「WHY」、つまりは我々の事業や製品や提供価値の「そもそも」についての根源的な問いから生まれる。それが人々の心を感光(=センシタイジング)させ、イノベーションへの意思が自分ゴトとなる。  社長は、「わが社にはイノベーションが必要である」と誰でもが言えるようなことを言うのではなく、なにより、自社の存在理由の将来への問い、つまりは自社のイノベーションの目的について、自身の想いと覚悟を語らなければならないのである。

強引な「管理職定年」と「女性管理職の抜擢」 | 人事制度設計

強引な「管理職定年」と「女性管理職の抜擢」

 この7月、2015年からコンビを組んで仕事をしてきた女性編集者が「管理職定年」(56歳)となり、課長級(次長兼務)の役職を解かれた。部下は、5人からゼロになる。今後は、60歳の定年まで一般職になるという。本人は清々したといった雰囲気ではあったが、さびしそうにも見えた。  新卒時の入社の難易度は業界最上位の3社の下に位置するグループ(20社ほど)の現在の会社に20代前半から勤務してきた。抜群に優秀なタイプではないかもしれないが、他社を含め、30~50代の編集者120人ほどの中では仕事力は上位2割に入る、と思えた。部下からは慕われているように見えた。それだけに、年齢で役職を解かれることに疑問を感じた。  日本の企業は、正社員に占める管理職の比率が高い傾向がある。私が取材を通じて知る大企業や中堅企業は、管理職が全社員の約4割を占める。前述の女性編集者が勤務する出版社は3割5分ほどという。本来は、2割以下にとどめるべきだろう。それを踏まえるとこの出版社が数を減らし、人件費の管理を厳格にすることは正しい。  だが、それ相当の力がある社員を「56歳になったから」として役職を外すのは損失ではないか。今後、「管理職定年」を53歳にする予定のようだ。数をできるだけ減らしたいのだろう。  そもそも、なぜ、必要以上にいるのか。大きな理由は、職能資格制度と降格がない(できない)ことにある。職能資格制度を厳格に運用すると、40代半ば以降では同世代の少なくとも半数は管理職になる。しかも、いわゆる降格は職能資格制度運用上も法律上も困難だ。例えば、ITデジタルが進み、オンラインの会議すら仕切ることができない部長がなぜか、降格にはならない。それどころか、本部長に昇格するケースすらある。  結果として、社内に課長や部長があふれかえる。次長、副部長、部長代理、課長補佐、課長代理と役職をつけて、社内外に向けて管理職に見せようとする。その多くは部下のいない管理職であり、一般職(非管理職)と仕事の内容はさほど変わらない。これでも年収はおそらく、一般職の最上位の等級の社員よりも数百万円は高いだろう。  このあたりの構造が改善されることなく、「管理職定年」と称して一定の年齢に達すると、ヒラ社員にするのは本末転倒ではないだろうか。せめて今後は、年齢を基準に一律に役職を解くのではなく、その社員の評価や実績に応じて柔軟に運用するべきだろう。  例えば、冒頭の女性編集者のようなタイプは56歳以降、1年ごとに「定年」にするか否かを決めてもいい。あるいは、管理職数が多いならばリストラを40代以降に限定にするのではなく、20代から始めてもいい。  企業取材を通じて感じるのは、日本企業の場合、社員の人事の扱いが硬直的で、柔軟性に著しく欠けることだ。少子化が進めば、おのずと働き手の数も減る。少なくなる社員をいかに有効活用するか、その視点を持ちたい。  なお、この出版社は2016年にある問題が起きた。副編集長(課長級)の経験がない一般職の女性を突然、編集長(部長級)にしたのだ。抜擢人事と言えるのかもしれないが、通常、このような処遇は業界ではありえない。いきなり、ヒラ社員を部長にするのだ。案の定、大失敗に終わる。  この編集長は部下たちをほぼ毎日怒鳴り、当たり散らす。無理もない。はじめて部下を持ったのだ。しかも、10人も。半年以内に、部下たちは企業内労組に「パワハラを受けている」と苦情を持ち込む。労組の役員と編集長の上司である局長が話し合い、喧嘩両成敗となる。部下10人のうち4人は人事異動で他部署へ、編集長は更迭となった。今もタブーとなっているようだ。  人事の扱いが硬直的で、柔軟性に著しく欠ける企業はこういう理解に苦しむ処遇を唐突にする場合がある。これを機に、管理職を始め、人事のあり方を見つめ直したい。

Train The Trainer  ~ OJTに方法あり ~ | その他

Train The Trainer  ~ OJTに方法あり ~

 企業経営のグローバル化やデジタル化が進行する中で、人材育成は人事課題のトッププライオリティーに位置付けられる。実際、人事管理上の重要課題は何かという問いに、社員の能力開発であると答える企業は非常に多い。だが、経営計画を実現するための具体的な人材育成施策を緻密に組み立てている会社は、少ないように思える。  一般に、人材育成には「育つ」と「育てる」のふたつの方法がある。一定の領域の仕事を与えて、それを遂行するための試行錯誤の中で自然に職務能力を身につけさせる過程を、「育つ」環境を与える方法と呼ぶなら、特定の能力を向上させるべく教育プログラムを設計し、これを実施することで能力向上を図ることは、「育てる」方法と呼ぶことができる。「育つ」環境を与える方法は、人員配置、ローテーション、目標設定などがこれに当たる。「育てる」施策は、教育、研修、訓練等の諸プログラムだと言えるだろう。  「育つ」環境を与える方法は、実践性が特徴だ。だが制御が効きづらい。育成が完了するまでどれほど時間がかかるのか、つまるところ本人任せだ。「育てる」方法は合目的でコントロールしやすい。だが、実践性を欠く。いくら金と時間をかけて研修をしても、「喉元過ぎれば」で忘れてしまう。一長一短がある。  両者の間にあって良い所取りをするのがOJTだといえるだろう。部下の能力を向上させようとする強い意思と具体的目的をもって特定の業務を与え、その遂行の過程で教育・指導を行い、仕事を体得させるのがOn the Job Trainingだ。「何か仕事をやらせておけば、経験を積んで、そのうち勝手に仕事を覚えるだろう」というふうにOJTを定義している向きも数多くある。しかしながら、それは当たらない。OJTは、あくまで具体的な育成目的を持ってするものであり、業務遂行を通じて意図的に能力開発を行う「プログラム」でなければならない。  さて、こうしたことを実現するために、若年の社員にベテランの指導員を付けて指導させたり、日報や週報を書かせて自ら仕事を覚えるような自覚を促したりする施策が、多くの企業で取られている。ところが、たいてい、これではうまくいかない。OJTにおいては、もっと能動的に部下の行動に介入していくことが求められる。OJTにはそれなりの「やり方」というものがあるのだ。  たとえば、OJTにとりかかる前に、その仕事についての旺盛なやる気を引き出す。嫌々取り組むのでは、何かを学び取ることはない。そして、やる気を持たせるためには、業務指示の冒頭、その仕事の目的や意義を明らかにしてやることが重要だ。何のために、この仕事をするのか。この仕事の意義は何なのか。「・・だからこの仕事は君をおいて他には任せられない」と持ち掛ければ、やる気は倍増だろう。  いったんやる気を引き出したならば、次は細かい指示とフォローだ。極めて具体的かつ詳細に、成果に辿り着くためのプロセスと方法を指示する。経験の浅い者には、特に、手取り足取りが必要だ。そして、本人が仕事を開始したら、適当に早いタイミングでその仕事振りをチェックする。頻繁にチェックする。「仕事は先輩の背中を見て覚えろ」というのは、ずいぶん前の時代の話だ。  ひととおり仕事が終わったならば、丁寧な反省会を行うのがよい。うまく行ったこと、行かなかったこと。一般的にはAという方法を取るべきだが、今回は特殊性があったからBという方法をとったのだ、などと、体系的理解を促進する。  他にもOJTのやり方にはいくつものポイントがある。だから、効果的なOJTには、OJTを施す側、つまり、管理職をはじめとする指導者の側のトレーニングが必須だ。「トレーナートレーニング」とでも呼ぼうか。  OJTの成否は組織の力を左右する。そして、OJTには「やり方」がある。トレーナートレーニングは、本気で取り組むべき課題だ。

「なくならないパワハラ」 | モチベーションサーベイ

「なくならないパワハラ」

 『2017年10月大手自動車メーカーの車両設計などを担当していた男性社員(当時28歳)が自殺した。上司から「ばか」「死んだ方がいい」などと暴言を浴びせられていたという。 遺族は2019年3月に労災を申請し、認定された。2021年4月に遺族と和解した。』 2021年6月8日付けの日本経済新聞の朝刊の記事の一部だ。  このような事例は今に始まったことではないが、ハラスメントが大きな話題として取り上げられたのは2016年の大手広告代理店での新人女性の過労自殺問題ではないだろうか。この事件は、最終的に社長の辞任にまで至った。近年では、検索エンジン企業やファーストフードチェーンストアなどの米国の大企業でもハラスメントを理由に経営幹部が解任される事例が相次いでいる。国内に目を向けても、いくつかの著名企業でハラスメントが残念な結果を招いている。  厚生労働省によれば、「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は、2019年度は約8万8千件。10年で2倍に増加している。なぜ、ハラスメントに関する相談が増加し続けているのか、また中小企業に至っては、なぜ認知度すら低いままなのか。  背景のひとつは、法制化によって相談の垣根が下がったことだろうが、そのほかに、以下のことが考えられる。 ・上司の権限が強く、被害者自身が主張をためらい、取り下げてしまうケースが多いこと。 ・ハラスメントをする側は、上司やハイパフォーマーであるケースが多く、会社におけるポジションも高いので、会社側も処分できないこと。 ・中小企業の場合、社長が自らパワハラを行っている。こうなると、結局は泣き寝入りするか、退職するしかないこと。 ・現在のパワハラ防止法に罰則規制がないこと。やはり、企業や加害者に対しても罰則やペナルティーを科さないと根本的な減少には至らないだろう。  さて、冒頭の大手自動車メーカーが再発防止策の一つとして行ったことで、着目すべきことがある。約1万人の基幹・幹部職に対して、「360度評価」を実施したことである。  今回の事例の場合、被害者の男性が直属の上司から暴言を受けていたことを他の若手社員は知っていた。しかし、幹部は認識していなかった。これにより経営トップへの報告が遅れたのだ。社長は、2019年11月の報道で、初めてこの事件がパワハラと関係していたと知ったという。そこで、360度評価を実施し、水面下に隠れてしまいがちなマネジメントの弱みを、経営がしっかり把握しようとしたのだ。  このように、「360度評価」を継続的に実施することは、ハラスメント事件の発生の一つのアラームにはなり得る。上司からの一方的な人事評価や行動観察では見えなかったことが、周囲(360度)の目から見ることで、明らかになることがある。これが、当事者の気づきにつながる。その事実を今後のマネジメントとしての行動改善に生かすことが最終的に求められる。さらには単なる分析に留まらず、今後の社員の意識改革を促す施策を実施し継続することに意味がある。360度評価は応用の仕方で大きな効果をもたらすのだ。  パワハラは重大な経営問題といっても過言ではない。社員の健康や安全を守れない企業に優秀な人材は集まらないし、発展もない。人を壊してしまう会社に、人はついて来ない。経営者は、パワハラは大きな経営リスクであることの認識を新たにすべきだと思う。パワハラ撲滅のポイントは何かと聞かれたら、トップ自らが厳しい姿勢を示し、あらゆる工夫と対策を打ち続けていくことであると言いたい。

人事が担うリスクマネジメント一丁目一番地 | その他

人事が担うリスクマネジメント一丁目一番地

 リスクマネジメントとは、経営を行う上での不確実性を適切に管理することで、損失を回避もしくは最小限に抑える経営管理手法です。  人事領域ではありませんが、昨今話題になったリスクマネジメントの一例として、今年3月下旬から4月上旬にかけて、欧州や日本の金融機関が突如として多額の損失や損失可能性を発表した「アルケゴスショック」が挙げられます。本件では複数社が多額の損失を出しましたが、その中で、リスク管理能力があったところは損失を抑えることに成功したと言われています。ご興味がある方は、「アルケゴスショック」のキーワードで検索してみてください。  さて、人事領域のリスクマネジメントについて考えてみたいと思います。 採用市場の状況による人材獲得リスク、人間関係や人事評価などの不満がトリガーとなる人材流出リスク、業績の不確実性と、その人件費への連動性が希薄であることに起因する人件費比率上昇リスクなど、人事部門のリスクマネジメントの対象は枚挙に暇がありません。 中でも、安定的な企業運営をしていく上で、人事部門が第一に考えるべきことは、社員数の確保と、社員の仕事に対するモチベーション維持です。こうしたことが安定しなければ、会社運営上、予期せぬ損失を被る虞があるからです。このリスクを払拭するために何から始めるべきでしょうか。その“一丁目一番地”は、社員サーベイです。社員が満足度高く、モチベーション高く、組織や仕事への愛着心高く働けていることの程度を量ることです。サーベイ結果で点数が低い場合、全社的に離職者が増える可能性があり、人員の確保に黄色信号が点灯します。優秀な社員の点数が低ければ、これは赤信号です(パフォーマンスの良い人の集団を分析すればこれが分かります)。  社員サーベイは、社員意識調査、従業員満足度調査、エンゲージメントサーベイなど、多様な名称で呼ばれます。労務行政研究所の2018年調査によると、大手企業での実施率は30.9%です。中堅・中小企業では20%以下になるのではないでしょうか。実施されていない企業がまだまだ多いということです。社員サーベイを実施されていない人事部門の方とお話をすると、「パンドラの箱を開けるのですか」「実施後の活用方法が難しい」「社員満足の追求は甘えになる」「経営層は否定的です」という声が多く挙がります。このことは、しかしながら、リスクから目を背けていることになりはしないでしょうか。  人事部門は、まずはサーベイを実施し、その結果から、社員が良好なコンディション、モチベーションで仕事に向き合えているかどうかを知る事から始めることを推奨します。全体的に問題がなければ(点数が低くない)、社員の確保に大きな問題は生じていないと考えてよいでしょう。 更に、サーベイの結果を個別に見ていくと、人事が行うべき別のリスクマネジメントや人事施策のヒントが浮かんでくるはずです。平均点より大きく点数が低い部門があれば、その要因は何かと深堀していくと、サーベイ結果からやるべき事(施策)が見えてくるはずです。  社員サーベイは、会社の健康診断です。自社の健康状態を知らなければ、適切な予防措置や治療を考えたり、これを実施したりすることができないはずです。社員サーベイをまだ実施されていない企業においては、勇気をもってこの「会社の健康診断」を受けてみることをお勧めします。実施されている企業においては、パフォーマンス(HP・LP)の属性での結果を見ることの重要性をお伝えします。当該属性を取り入れている企業は少ないと感じています。是非、参考にしてください。 以上

必須のリーダー要件 | スマートアセスメント®

必須のリーダー要件

 管理職の昇格アセスメントでは、複数のディメンション(=評価項目)で評点をつけ、総合点の降順で候補者を序列化するのが常である。それを見ながら「合否」を判断していくのだが、ある合格点ラインで単純に合否を分けるのは得策ではない。総合点がはっきり高い、あるいは低い人たちについては、能力適性判定の限りではその高低に従ってよい。あとは、社内評価や個別の期待事情を含めて総合的に判断していくことになる。問題は、ボーダーラインの前後あたりに並ぶ人々をどう評価するか、である。  アセスメントとは入学評価である。まだ経験していない管理職業務における能力発揮可能性をみる。将来管理職としてちゃんとやっていけるかどうかを、複数のディメンションで評定する手法だが、個々のディメンションには「濃淡」がある。誰しも、ディメンションごとの評点に高低のメリハリがあるものだが、これだけは低い評点であってはマズいというディメンションがあるのだ。  ディメンションは通常、①思考面、②対人面、③資質面の3カテゴリーで構成されるが、この資質面カテゴリーの項目群のなかにそうしたクリティカルなものがある。例えば、「達成指向」、「自律一貫性」」といった項目が低い評点であるなら、まず候補からはずしたほうがよい。ひらたくいえば、達成に向けてブレずにやりぬく――こうした資質は、人を率いて組織成果を出すうえでの前提要件だからである。他に際立って高い評点の項目がない、つまり総合点でギリギリのポジションにいて、これら姿勢を持たないなら、そもそも管理職に向いていないといってよい。  思考面や対人面の能力には、経験や教育によって高めていけるものがある。なかには変えることが難しい能力もあるが、その弱みは、管理職になってからの限定的アサインやサポートする上司やナンバー2の配置によって補完することもできる。つまりは、能力課題はあるけれどもそれをわかったうえで、管理職登用後の成長期待や組織的配慮を併せ合格判断をすることもできる。その場合あくまでも、資質面がOKであれば、ということである。資質というくらいで、この手の姿勢はなかなか変え難いからだ。  では、思考能力や対人能力において、マストとなる必須能力はあるか。ディメンションにはなかなか分解できないが、管理職としての優劣を分けるベース能力としては、「概念化力」と「自己認識力」のふたつに特定できるだろう。概念化つまり本質を掴み表現できれば、課題解決や方針策定から日常の業務遂行まで的確に行えるし、自己認識つまり自身の内面も外面(=行動)も客観視できれば、自分をコントロールし、周りの人々を的確に動かすことができる。  というようなことはしかし、我々がいろいろな場面で見てきた優れた経営者、管理職者、ハイパフォーマの方々を思い浮かべれば、あまりにも当たり前のことなのである。

健康経営始めてますか? | その他

健康経営始めてますか?

 今後の日本は、2030年には超高齢社会に突入し、日本国民の3分の1が65歳以上になり、働く世代と老齢人口が同じくらいの割合になると予想されています。この状況下で、どのように経済活動を維持・発展させていくのか?これが今直面している日本の課題の一つです。高齢になっても働き続けることが出来るシステムを今から作っていくこと、また、今働いている世代の方々をどのように健康にしていくのかを真剣に考えなければなりません。  そこで、今注目されている健康経営ですが、これは「企業が従業員の心身の健康に配慮することによって、経営面において大きな成果が期待できる」との基盤に立って、健康管理を経営的視点から考え、 戦略的に実践することを意味しています。 従業員の健康づくりの推進、健康管理は、単に医療費という経費の節減のみならず、生産性の向上、従業員の創造性の向上、企業イメージの向上等の効果が得られ、かつ企業におけるリスクマネジメントとしても重要です。  どんなに売上や利益を上げても、健康を損ない体だけでなく心身が病んでいる従業員が多くなれば、生産性もモチベーションも上がりません。いわゆる不健康経営に陥った会社は、離職率も高くなり、企業イメージも損なわれるのです。  社内で長期休業者が出ると、その分を周りの従業員が補完しなくてはいけないため、周囲に負担がかかり、全体の生産性も下がるのです。また、離職率が高いと採用費が嵩み、採用者には社内教育を行う必要が出て人件費も嵩みます。  全従業員が万全の体調で勤務できる環境を整えることは、日本企業にとってかかせない投資と言えるでしょう。何より健康経営が評価されると会社のイメージアップにつながり、採用力をつけることができ、株価も上がり会社の価値も高くなるのです。  まず、メリットが大きいのは、従業員の健康状態が企業活動の根幹に繋がる業態です。 例えば、わかりやすい例でいうと、飛行機・電車・トラック・バス・タクシーなど、乗務員や運行管理者の健康状態が「安全」に直結する運輸業などは、健康経営を目指すメリットが大きい業態の代表と言えるでしょう。  従業員の健康状態が悪化すると、判断ミス・行動のミスにつながり、最悪の場合は健康に起因する重大事故につながりかねず、健康経営の実践は待ったなしとされています。有名な労働災害に関する経験則で、1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在するという「ハインリッヒの法則」があります。もし、小さな異常が続くようであれば、健康経営にとり組むメリットが大きいのです。  健康経営は、今後予測されている人手不足や働き方の多様化が進むうえで必要不可欠な施策といわれています。少子高齢化が進む中、企業が人材確保に対してできる対策として、幅広い人材が仕事に就ける多様な働き方を提案し、従業員へ健康投資を行うことが求められていきます。  一人でも多くの人に「この会社で働きたい」と思ってもらうことで、人材確保や離職を防ぐ効果が期待できます。従業員の健康に配慮することは、働き方改革のテーマでもある「生産性向上」にもつながり、企業のイメージ向上や人員確保にも大きなメリットがあります。まずは、自社の従業員がどのような問題を抱えているのか、健康課題を把握して、手軽に導入できる施策から始めてみる、それが健康経営への第一歩ではないでしょうか。                                         以上

初任給を上げる企業こそが生き残る? | その他

初任給を上げる企業こそが生き残る?

 2018年前後から大卒、大学院卒の初任給を上げる企業が増えている。特に金融、メーカー、IT業界の大企業やメガベンチャー企業に目立つ。  私が、この半年で経済雑誌や人事労務の業界紙で取材したのは約10社。これらの企業は、1990年代前半から総合職全員を一律基本給22~26万円で採用してきた。ここ数年は新たに高度専門職を設け、基本給40~60万円で採用している。賞与や残業を含めた年収では500万~800万円。多くの日本企業で賃金は慢性的に伸び悩んできただけに、新しい試みと言える。今回は、これらの企業に共通していることを紹介したい。特に次に挙げる点だ。   1.業績はおおむね好調だが、新卒採用では苦戦 2.市場や環境の激しい変化を警戒 3.総合職の数を少なくし、高度専門職の採用を増やす 4.総合職よりも高い賃金だが、成績いかんでは総合職になる 5.正社員のポートフォリオの徹底  これらの企業の業績はコロナウィルス感染拡大の影響を受けてはいるが、依然として好調だ。だが、採用の担当者たちは「欲しい学生を取れない」と語る。証券会社の担当者は、こう話す。 「欲しいのは、高度金融人材になりうる学生。大学院の修士や博士課程で高いレベルの数学的な素養を身に付けた人材。例えば、弊社のデリバティブの時価・リスク計算には高度で複雑な数学モデルを理解するクオンツ人材が不可欠。このような能力を確実に持っている学生が欲しい」。  この証券会社は、1980年代後半から相当に高いレベルの数学の素養を身に付けた学生を総合職として定期に採用してきた。10年程の経験を積んだ後、高度金融人材になりうる社員を高度専門職にしている。だが、その育成のスピードでは市場や環境の変化に追いつけないという。しかも、この20年程は日本の大手証券会社よりもはるかに高い賃金を払う外資金融機関に転職するケースが増えているようだ。  来年4月入社の新卒者の総合職は例年通り、200人前後を採用する。そのうちの5%を高度専門職にするようだ。総合職の数は減らし、高度専門職を増やす。採用時は総合職の位置づけで、その中の「高度専門職」とする。状況いかんでは、例えば、会社が求める成績を残すことができない場合は総合職に戻すこともあるそうだ。その際は、収入はダウンする。ハイリスク・ハイリターンと言える。  このことは、正社員のポートフォリオの徹底を意味する。従来通りの総合職、その中に一般職、管理職、役員候補の管理職、その他に高度専門職。総額人件費を厳密に管理する態勢が整いつつあるのだろう。  この動きが本格化すると、40~50代になっても管理職になれない人や管理職になったものの、部下のいない人は肩身の狭い思いをする可能性が高くなる。今後、この類の社員は配置転換や職種転換になるケースが活発になるだろう。賃金の大幅減やリストラもあるのかもしれない。  会社員にとって、初任給が高くなる動きは「危機」であり、「好機」を意味する。それでも果敢に取り組む企業が優秀な人材を獲得し、やがては生き残るのではないだろうか。