©️ Transtructure Co.,Ltd.All Rights Reserved.

MENU

©️ Transtructure Co.,Ltd.All Rights Reserved.

人事制度

column
専門職の制度設計 | 人事制度

専門職の制度設計

 人事制度において、高度な専門性をもって、付加価値を創出し経営貢献をする、管理職と同程度、ないしはそれ以上で処遇できる「専門職」を設置する会社は多数ある。社員のキャリアゴールを複数提示し、本人の志向性によってキャリア選択できる複線型人事制度と呼ばれるものの一部で、オーソドックスな人事制度の形であり、比較的なじみのあるものだと思われる。昨今は、社内に知見やノウハウのない領域を強化するため中途採用しやすくするための設置や、専門職を成長の源泉と位置づけ、新たに増設を検討するケースも増えている。  これまで社内にいなかった人材を定義し位置付ける、ないしは、新たに専門性が高い、ということで高い処遇をしてスポットをあてていく制度であるため、「専門性が高い」イメージのすり合わせを慎重に行いながら設計を進められていることだろう。  特に、専門職として最上位等級を定義すると「こんな人材が本当に出てくるのか?」と思うようなレベルを設定することも多い。業界革新を起こす業界のリーダーであったり、会社業績に直接的に極めて大きなインパクトを与える人材であったり。  当然こういった人材が出てくるのは会社として望ましいし、そういった人材が本当に成長に資するならば難易度が高くても生みだしていくべきであろう。しかし、制度設計においては、実はこの輝けるキャリアゴールに向かってどう専門人材を生み出すか、ということよりもいかに生み出しすぎないようにするか、が設計時の主要な議論になることが多い。  昨今、管理職は役割等級制度や職務等級制度に代表されるように、組織の数分しか管理職に格付かない制度への見直しが進んでいる。年功的な昇格をなくし、人数管理を行うことで人件費が適正に維持される仕組みである。一方、専門職は人数をコントロールする拠り所がないことが多く、またそこに格づいている人がいないことから、確信をもった格付ができるか不安もある。よってこれまでの職能等級のように、人件費高騰リスクのある制度になるのではないかという危機感をもって設計が進む。  どんなに等級定義を難しく、手の届きづらいものにしたとしても、甘い評価や、長らく同じ等級に留まることへのモチベーションの低下を恐れ、昇格圧力に負けてしまうのではないか、と考えてしまう。特に、その会社において最高位クラスの専門家となってくるとその専門性を測定できる人がいないということから、評価が高ぶれし続ける、という状態に陥ってしまうことも予見して設計するのである。  これまでの年功的運用の失敗を繰り返さないため、専門職に対しては、そのあたりのリスクを回避するために、しっかりと制度で制御できる仕組みを採用している会社も多い。例えば、①専門職の評価はその専門性を以て出した「成果」を特定できるようにする②360度評価を行い、周囲からしっかり専門家として認定されているかを確認する。③専門職としての価値が自社、ないしは労働市場においてあるか、定期的に検証できるよう専門職認定の会議を行い、時価で評価できるようにする。④専門職をおいてよい職種ごとに人数制限を設ける、などである。  制度設計においては、人件費高騰リスクや等級にアンマッチな人材が格づくことを回避することを検討することはもちろん重要である。もちろん抑制だけでなく、キャリアを構築できるイメージがわくように腐心して設計する。設計はそれでよいだろう。しかし、じつは、こういった人材が活躍できる環境に身をおかせることができるか、といった観点での検証が専門職制度においては制度設計と同じくらい重要だと思う。具体的には、実際どのように組織に位置づけ、役割、権限を与えていくかという、配置する際のルールの議論や考え方の浸透である。  例えば、専門職の等級定義の中に、会社全体に大きなインパクトを与える成果が期待される。という一文があったとしよう。しかし、実際そのような成果を出すための位置づけに専門職一人一人を組織の中に位置づけられていないケースが圧倒的に多い。現実的には、一部員、課員であることが多く、なすべきことは部長ないしは課長から指示され、自由に自ら構想して専門性を活かして成果を出せる環境になかったりする。成果を出すためのリソース(人・金)や権限を与えていない、ないしは不明確なことも多いだろう。専門職=一人で成果を出してもらう人、というイメージがあるのかもしれず、組織長もその必要性を感じていないこともあるだろう。目標設定の際に初めて、この人は専門職だから難しい仕事をさせないといけないぞ、と考えて難易度の高い一人でやる仕事を無理やり生み出していたりする。また、専門的見地から部長や課長をサポートする位置づけ、かつての部長補佐、課長補佐のような立場にしてしまうこともある。その結果、専門職の人材イメージを劣化させてしまったりする。また、本来の期待役割をスムーズにこなせない。これではせっかくの専門職が台無しである。  専門職はその専門性の高さ、およびそれを培ってきたバックグラウンドを駆使して、マネジメントを担ってきた人では考えられない観点や、手法、人脈で成果を出していくのではないかと思う。昨今、専門性を以て成果を出す人材をいかに作っていくかが付加価値創出の鍵であるという人事制度の考え方も増えてきている。専門職に対してどのような権限、裁量を与え、専門職の成しえていきたいこと、やりたいことを組織の中に取り込みながら組織成果を作っていく、ということが今後更に重要になるだろう。これから更に、中途採用で専門職を増やしていく会社も増えていく。中途の専門性の高い方の力を使って、新しい価値を創出していく、ということであればなおさら、いかにうまく組織に位置づけ、成果をだしやすい権限付与していくかをしっかり考える必要があるということを忘れないで頂きたい。

「管理職レディネスをどう高めるか」(育成のためのアセスメント①) | スマートアセスメント®

「管理職レディネスをどう高めるか」(育成のためのアセスメント①)

 管理職の登用審査には、アセスメントセンター方式が有効だと何回か書いてきたし、実際に使用する企業数も増えつつある。 ■「登用の失敗」はなぜおこるか(アセスメント活用の勘所①) ■外部視点評価を過信するな(アセスメント活用の勘所②) ■VUCAリーダーをどう見極めるか(アセスメント活用の勘所③)  ただ、審査の合否判断にだけアセスメントが使われるのは、あまりにもったいないのではないか。いざ管理職になろうかとする際に、「あなたは、能力不足だからダメ」といわれても、能力はすぐにはどうにもならないし、失地挽回には1年後の再審査にかけるしかない。  審査ではなく、管理職「候補者」の育成のために、アセスメントを使ったらどうか。せっかくアセスメントでは「管理職としての能力発揮可能性」を評定できるのだから、もっと早く、たとえば管理職手前の等級に昇格した時点でそれが分かっていれば、審査までのあいだに、管理職へむけての成長に努められるからである。結果、候補者の能力の底上げができることになるわけだが、アセスメント先行実施の、より大きな効用は、「管理職レディネス(=管理職となる準備ができた状態)」が醸成できることだ。   シミュレーションを通じたアセスメントを受けることで、第一に、管理職業務のなんたるかを、きわめて具体的に体感理解できる。第二に、そうした業務における自身の(現在の)能力課題を知ることができる。現在はプレーヤー業務ではあるけれども、将来管理職になった際の「弱み」があきらかになっていれば、現状業務を通じてのその克服を、上司も本人も意識し実践できる。  では、こうしたアセスメント先行実施による育成を意図したとして、登用審査としてもう一度アセスメントをするのかどうか。もちろん、仕上がりをテストで確認するのが効果測定としては確実だが、必ずしもアセスメントを2回する必要はない。たとえば、以下の二つの方法がある。 1.先行アセスメント+社内審査 候補者に対して、審査の1年前にアセスメントを実施、その結果を本人、上司にフィードバック。自身の強み弱みを踏まえて、上位課題(個人ではなく部署の課題)を設定し、その解決のための行動計画を立案・実行。■上位課題のレベル ■計画の実践度合い ■能力課題およびその是正への取り組み、を面接(経営陣による)で審査 2.先行研修(シミュレーション研修)+アセスメント審査 管理職手間の等級への昇格者に対して、「アセスメントの原理を応用した管理職シミュレーション形式」の研修を実施。演習と解説、自己分析により、管理職業務の体感理解と自身の能力課題を把握。結果を上司と共有し、育成にむけたOJT(権限移譲含む)と自己啓発を計画化し実行。登用タイミングでアセスメント審査をうける。  いずれも、プレーヤーの延長ではない管理職という節目だからこそ、❝入学評価❞であるアセスメント(の原理)を管理職レディネスの醸成つまり管理職先行教育に使おうということである。加えて、②のアセスメントの原理を用いる研修は、階層別研修におけるブラッシュアップ研修でもさまざまに実施できることを付記しておきたい。  階層別研修は、通常、階層ごとにエントリー研修とブラッシュアップ研修を用意するが、前者は、当該等級昇格者向け、後者には、目的別に3種類ある。ひとつは、当該等級在籍者の能力・行動課題の是正目的のもの。評価情報分析による共通課題に基づく。もう一つが昇格候補者への研修。次の等級への準備研修であり、こちらは、上記②と同様に、上位等級での期待行動をシミュレーションのなかでの体感理解と自己分析によって、「昇格レディネス」の醸成ができる。併せ研修行動を観察・評価することで、「育成しながら見極める」こともできるので、この手のブラッシュアップ研修を階層別研修に組み込むことは、効果的効率的育成施策として推奨したい。  ちなみに、ブラッシュアップ研修の3つ目は、当該等級滞留者への研修。上位等級への昇格の見込みがない人々を、いかに戦略的にかつモチベーション高く稼働させるか。難易度の高い施策ではあるが方策はさまざまにある。今回のテーマには外れるので、別の機会に紹介したいと思う。 「育成のためのアセスメント」を考えるコラム2回シリーズ。 「管理職レディネスをどう高めるか」(育成のためのアセスメント①) →今回 8月掲載予定 ※育成のためのアセスメント「スマートアセスメント」はこちら

職能型人事制度の逆襲 | 人事制度

職能型人事制度の逆襲

 職能型人事制度と聞いて真っ先に連想するのは、「年功序列」という言葉ではないでしょうか。また職能型は古い、今の時代にマッチしていない等も合わせてよく耳にします。本当にそうでしょうか?  近年、企業の経営環境は大きな変革を迎えています。従来の経営モデルに代わって、現在注目されているのは御承知の通り「人的資本経営」となります。 人的資本経営の定義は経済産業省ホームページ:人的資本経営~人の価値を最大限に引き出す~で下記の様に定義されています。 『人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方』 つまり、人材に投資をし、成長をさせることで企業価値を生み出していく経営のあり方となります。  人的資本経営を実現するための人事制度を考えるとするのであれば、仕事を基軸とした考えではなく、人を基軸とした考え方となります。 これは、昨今注目度の高かった職務型制度(ジョブ型制度)ではなく、1970年代に定着した職能型人事制度の思想に近しいことを意味します。 更に付け加えますと、欧米型の職務型制度が日本の慣習や風土、国のセーフティーネットとはマッチせず、コロナ禍で非常に多くのメディアに取り上げられていた職務型制度が、今は下火の傾向にあると言えます。 ※弊社への依頼の状況も、職務型人事制度を導入したいという声は減っている状況です。  ただし、従来の職能型制度では、冒頭申し上げた通り年功序列的な人事制度となること想像に難くありません。古き良き部分は残しつつ、問題・課題点は当然改善した人事制度を構築する必要があります。  古き良きという部分については、日本は能力やスキルをベースに人事制度を考えてきた点です。特に製造業においては技術伝承の観点から、非常にきめ細やかなスキルマップを作成している企業もございます。この伝統的な能力・スキルをベースにしたキャリアパスがこれからの人事制度の根幹となると予測をしています。 しかし、これだけでは能力・スキルが向上すれば処遇は高くなり、能力・スキルは年齢によって微減はしても、大きく下がることはないという制度では、結果として年功序列的な制度となってしまいます。  この様な悪しき職能型制度・運用を如何に解決するか。 それは職能型制度に、職務型制度の利点を組み込む人事制度を設計することです。 職務型制度の利点は、職務や役割やポジションに必要な業務・責任、経験が定義されているため、タスクの分担や役割の明確化が容易になります。生産性の向上という観点では職務型制度は有効な人事制度です。 失われた30年から脱却し、これからの日本に求められる人事制度は、職能型+職務型のハイブリッド型人事制度です。  ハイブリッド型人事制度のイメージは下記の通りです。 ①会社が求めるスキルがLv7→職務lv7の職務にアサインをする。 ②ポストに空きがなければ、スキルLv7であっても職務アサインはLv6以下となる。 ③スキルLv7の社員がライフイベントによって働き方を限定する場合は、職務Lv5にアサインをする。 ①を原理原則の人事制度運用とした制度となり、②③を厳格に運用することで人件費の高騰化を防ぎます。また③のように現在の45歳以上の中間管理職層はこれから介護を行う社員が増加することを考慮し、多様な働き方を許容可能な制度にもなります。  最後になりますが、ハイブリッド人事制度を機能させるためにもう1つ重要なピースがあります。それはテクノロジーの活用です。 スキルの可視化、スキルと職務のマッチングは人間の力では限界があります。  これから職能型制度への回帰が想定されますが、そこには職務型制度、テクノロジーの活用がプラスされた全く新しい職能型制度の姿です。 職務型制度ではなく、この新しい職務型制度が今後のトレンドになると推測をします。 今まさに、職能型人事制度の逆襲が始まろうとしています。

令和維新の年になれるか | 人事制度

令和維新の年になれるか

 現代の人事制度の基礎は明治維新と言われていますが、この明治維新は、西暦1868年(辰年)に始まり、明治天皇が即位して江戸幕府が倒れ、明治政府が発足した日本の歴史的な転換期であったわけです。  人事制度に関しては、この明治維新以降に大きな変化がありました。例えば、前近代的な身分制度からの解放や、新たな近代的な役職や制度の導入などが行われました。これらの変化は、日本の近代化とともに人事制度にも影響を与え、近代的な組織や制度の基礎を築くことになりました。  以降、辰年からどのような出来事があったか気になり整理すると、、、 1916年(辰年)  大正時代に入り、日本は急速な近代化を遂げました。官僚制度や公務員制度の改革が進められ、官僚の選任や昇進に関する基準が見直され、近代的な人事制度が整備されました。 1940年(辰年)  昭和時代に入り、日本は軍国主義の台頭や第二次世界大戦の勃発など、大きな社会変動を経験しました。この時期には、国家の体制や組織が変化し、人事制度もそれに応じて変化しました。 1964年(辰年)  戦後の高度成長期に入り、日本は経済成長を遂げました。この時期には、企業や官庁の組織が拡大し、人事制度も組織内の人材育成やキャリアパスの整備が重視されるようになりました。 1988年(辰年)  バブル経済の到来やグローバル化の進展など、様々な経済・社会の変化が起こりました。これに伴い、企業や官庁の組織が再編され、人事制度は働き方の改革や労働条件の見直しなどが進められました。 2000年(辰年)  バブル経済の崩壊後の経済不況期であり、企業のリストラクチャリングや人員削減が進行しました。多くの企業が人事制度の見直しや労働条件の改善を図り、労働市場の柔軟性の向上や非正規雇用の拡大が進んだ時期でもあります。 2012年(辰年)  リーマン・ショック(2008年)をきっかけとする世界的な金融危機以降、多くの企業が経営環境の厳しさに直面し、人員削減や組織再編が相次ぎました。この時期には、企業の経営戦略や人事制度が大きく変化し、労働市場の不安定化や労働条件の悪化が懸念されました。  これらの過去辰年における社会的・経済的な出来事は、人事制度に影響を与え、企業や組織がその時代の課題やニーズに対応するために制度の改革を行ってきた経緯があります。特に、リストラクチャリングや経営戦略の変化、働き方の見直しや労働市場の変動への対応などが重要なテーマとなってきたのです。  今年2024年は辰年ですが、新型コロナウイルスの世界的な流行によるパンデミック以降、多くの企業がリモートワークやテレワークなどの柔軟な働き方を導入し、働き方の在り方や人事制度が大きく変化してきています。また、経済の不確実性や雇用の不安定化も影響し、労働市場全体のダイナミクスも変わってきています。  社会全体でも多様性と包摂性の重要性が認識される中、企業も多様な人材の活用や包摂的な職場文化の構築に力を入れています。人事制度も、ウエルビーイングと多様性と包摂性を推進するための取り組みを進めていく必要があります。これらの要素が、2024年(辰年)における人事制度の基礎を形成していくでしょうし、企業は、これらの変化に迅速に対応し、より持続可能な人事戦略を構築することが求められています。  今年を明治維新のごとく令和維新の年にできるかどうかは、各企業の変革の本気度にかかっているのです。

辛抱なき若者が未来を照らす | 人事制度

辛抱なき若者が未来を照らす

 配属ガチャという言葉があるそうだ。大学を卒業して首尾よく就職することができても、初任配属は会社の都合、思うようにはいかないものだ、という意味らしい。そして驚くべきことに、初任配属の地域や仕事が思うままにいかなかったとき、4人にひとりが退職を考えるというのだ(※)。せっかく入った会社なのに、あまりに辛抱が欠けてはいまいか。  昭和の時代にサラリーマンとしてのスタートを切った人間にとっては、空いた口が塞がらないタイプの事実だ。ご同輩の読者はどう思われるだろうか。しかしながら、この事実には、「いまどきの若者は・・」で済まされない大きな変化を感じる。    さて、ジョブ型という言葉が流行りだしてから少し時間が経った。積極的にこれを取り入れようとする会社もあれば、話はわかるが当社には合いそうもないから放っておけ、という会社もある。いずれにしても、ジョブ型という言葉の定義にはかなりの幅があるように思える。  ジョブ型の反対の概念をメンバーシップ型と呼ぶことが多い。筆者なりに両者の違いを描写すると次のようになる。まず、メンバーシップ型だ。雇い主は新入社員に、「定年を迎えるまで何があっても君をクビにしないよ、その代わり、会社が命じるままどこへでも行って、何でもやってください。」と言う。新入社員は「はい、どんな場所にも行って、どんな仕事でもやります。その代わり絶対にクビにしないで。」と答える。家族的だが、ちゃんと取引が成り立っている。  ジョブ型はこれと違う。雇い主は新入社員に、「この仕事をこの場所でやってください。他の場所にはいかなくてよい。他の仕事もしなくてよい。その代わり、この仕事が無くなったら君はクビ。成果が出せなかったときも君はクビ。」という。新入社員も、「この場所で、この仕事だけやって成果を上げます。他のことをやらせようとするなら、会社を辞めます。」と言う。とてもビジネスライクに取引が成り立っている。わが国で解雇が難しいことはもちろん承知の上だが・・。  こうした定義が成り立つならば、ジョブ型というのは雇用契約の話をしているのだ。「ジョブディスクリプションを作ってやるべき仕事をはっきりさせましょう」というような、社内の制度やルールの話ではない。先ほどの配属ガチャ問題、会社のほうは「絶対クビにしないよ・・」と例のごとく言うが、新入社員のほうは「・・でも、他の場所で他の仕事をやらせたりしないでね。」と言っているように見える。同床異夢。取引が成り立っていない。    グローバル競争の時代、多くの経営者が、当社の社員には専門性が欠けていると嘆く。一人ひとりの社員がもっともっと高い専門性を持って仕事に臨まないと競争に勝てない、と。専門性を研ぎ澄まそうとするなら、なんでも屋のメンバーシップ型ゼネラリストではなく、ジョブ型の精鋭専門職を採り育てるべきだろう。わが国も、段階的であるにせよジョブ型雇用の道を進んでいかざるを得ないのかも知れない。だとすると、配属ガチャで辞めてしまう新入社員の決断こそ、わが国の雇用が進むべき道を指し示している、ということにならないか。  不本意配属で、若者は会社を辞めるのだ。多くの会社が喉から手が出るほどに欲する理工系、特に情報系の若者も、配属ガチャを理由に辞めてしまうのだ。ならば、先に職種とエリアを約束し、それを長期間守っていかざるを得ないだろう。あとは、いかにして「その代わり・・」のところを描くかだ。取引を成り立たせるためにどうしたらいいのか。    がんばれ、新入社員。きみたちは自分のやりたい仕事を鮮明に思い描き、高度専門家の志を貫徹すべきだ。そして、それを実現するために必要なら、異動の無い働き方を求めてよい。どうしても叶わないなら、そんな就職は蹴飛ばしてしまえ。社会は甘くないから、「その代わり・・」が待っているかも知れない。でも勇気を持って前に進もう。君たちの決断は、わが国の未来を照らしているかも知れないのだから。   ※出所:「入社後の配属先に関する意向(不安・期待度)調査」キャリアチケットProduced by Leverages(2024年4月2日)

その転勤、必要ですか? | 人事制度

その転勤、必要ですか?

 転居を伴う転勤に抵抗感をもつ人が増えている。  エン・ジャパン株式会社の「転勤」に関する意識調査(2024)※によると、69%が「転勤は退職のキッカケになる」と回答しており、転勤を拒否する理由は「配偶者の転居が難しいから」が一番に挙がっている。その次に、「持ち家があるから」「子育てがしづらいから」が続いている模様だ。  今も昔も、転勤の基本的な考え方は、会社が主導して社員の配置転換を行うものだ。転勤を拒否すれば解雇事由となるのは、多数の企業の就業規則に明記されているところだろう。このように会社が強力な人事権を持つ背景には、日本型雇用の特徴である「終身雇用」「年功序列」とそれに伴う給与の引上げがセットになっていたためであり、労使双方でメリットがあったから成立していたとも言える。  しかし、転職が珍しくもなくなり、共働き世帯が大多数となった現在となっては、転勤の目的の重みと、その負担に即した処遇の大きさを再整理し、再び労使双方が合意できるポイントを探るのが急務となっている。 転勤の目的とは何か  そもそも、なぜ転勤が必要なのか、目的を整理したい。第一に挙がるのは欠員補充だ。定期的な転勤であれ随時の転勤であれ、ポストの欠員が出た場合に社外ではなく社内から素早く人材を補充できるのは、経営管理の視点で極めて効率的である。一方、社員視点ではどうだろうか。いつ自分に転勤の声がかかるか分からない不安定な働き方の中では、当然に将来の生活設計の見通しを立てづらくなる。欠員補充とだけ言われては本人のモチベーションもそうは上がらないだろう。このような目的の重みと本人負担を考えると、それ相応の処遇が求められてくる。具体的には、総合職手当といった「転勤を前提とした働き方の不安定さ」に報いる報酬であるが、少なくとも転勤がない社員と比べて5%~15%程度の給与水準の差がないと転勤待ちする側の納得感は得にくいだろう。  次によくある目的として挙がるのが人材育成だ。将来の経営人材候補や管理職を育てるために様々な事業所で経験を積ませるという企業は多い。人材の入れ替えが事業の成長要因になる企業もあるだろう。経営管理の視点で言えば、後継者育成や重要ポストの維持など、企業の継続性を保つ重要な目的である。社員視点で言ってもキャリアアップとそれに伴う処遇アップに繋がるので、転居に伴う生活上の負担は小さくはないものの、処遇が伴えば転勤に関する抵抗感も少なくなる(上述の調査結果でも、転勤を「条件付きで承諾する」と回答したうち、72%が「家賃補助や手当が出る」45%が「昇進・昇給がともなう」と回答している)。このような目的と本人負担を考えると、転勤先で帯びる職務職責に応じた報酬に加え、会社から本人への期待感の表れとして転勤一時金を支給することも一案だ。現に、最近のニュースでは大手銀行などで引っ越しの支度金などの転勤一時金を拡充する動きもある。その他の事例としては、転勤後の一定期間で「転勤手当」を固定的に月額で支給するものもあるが、赴任後のいつまでを転勤とみなすのかなど考え方の整理が難しく、各企業の個別事情によって運用は異なる。 転勤する人の社内的価値に“差”をつけられるか  さて、ここで大きな課題が残る。その会社における転勤の目的の重みと、社員本人の負担を整理した次に考えなければならないのは、転勤する人の社内的価値に対して、どのくらいのキャリアや報酬を用意するか、だ。転勤しない人の処遇が転勤する人に比べて見劣りすると、「不公平感が出る」「優秀な人材が取れなくなる」などの意見がよくある。そこで、両者のキャリアや給与の差を小さくしてしまうと、差がないなら当然「転勤しない方がラク」なのだから、転勤する人の抵抗感が大きくなる。転勤することがどれだけその企業にとって重要で価値があることなのか、差をつけることで社員にメッセージすることが重要なのだ。 企業起点で考える  転勤の社内的価値は、その企業における経営方針や事業の成長要因、人事管理の方針など、様々な経営上の文脈に依存する。例えば、毎年大量の新卒採用を行っている企業で、随時出てくる期中の欠員補充をわずかにするのみであれば、社外からの補充で事足りるため転勤を無くすという考え方もあるだろう。また、未来の経営人材を社内で育てねばならない企業で、限られた優秀人材に相応のキャリアと報酬を与える必要性が高いならば、等級・キャリアパス設計の中に転勤制度もしっかり組み込んで、戦略的に人材タイプを区別していくのがしっくりくる。最も良くないのは、転勤の位置づけが曖昧で処遇の納得感が少ないために、経営計画や事業運営にとって必要な配置転換がやりづらくなってしまうことだ。  転勤に抵抗感のある人が多い社会情勢である。人手不足で採用競争も熾烈だ。しかし、労働市場の情勢に翻弄されて誰の得にもならないような転勤制度にはして欲しくない。会社として転勤をどう捉えるか、企業起点で考えることから始めたい。 ※出所:「転勤」に関する意識調査(2024)―『エンゲージ』ユーザーアンケート―69%が「転勤は退職のキッカケになる」と回答。 年代が低いほど、転勤への抵抗感が大きくなる傾向に。 | エン・ジャパン(en Japan) (en-japan.com)

その賃上げ、意味ありますか | 人事制度

その賃上げ、意味ありますか

 経団連が発表した大手企業の2024年春闘の回答・妥結状況によると、月例賃金の引上げ率は5.58%(19,480円)と、2023年の3.88%(13,122円)を大きく上回っており、高い水準となっている。  賃金の引き上げは、従業員のモチベーション向上や離職率の低下につながる一方で、企業にとってはコスト増、特に固定費が増加するため、慎重に検討する必要がある。  そこで、月例賃金の引上げを行った2社の例から、その効果について考えたい。A社は、階層ごとに一定の賃上げを行った。一方、B社は、基本給が低い層の賃上げ幅を大きくし、基本給が高くなるにつれ、賃上げ率を低くする改定を行った。    賃金引き上げの意義や効果を考えてみると、以下の3点が考えられる。 従業員のモチベーション向上  報酬に対する満足感が高まり、仕事への取り組み方や成果に対する積極的で高いモチベーションを持つことができる。そのため、従業員の仕事への熱意やパフォーマンスが向上し、結果的に企業の業績向上につながると期待できる。 優秀な人材の確保と定着  賃金が競争力のある水準で維持されることで、優秀な人材を企業に引き留めることが可能となり、従業員の定着率を高め、長期的な競争力を獲得することが期待できる。 従業員の経済的な安定  賃金水準が向上することで、従業員は安定した生活を送ることができ、経済的な安定感が得られるため、ストレスやプレッシャーが軽減され、仕事への専念度も高まることが期待できる。    さて、A社とB社の事例では、この3つの効果が期待できるだろうか。  A社は階層に関わらず全社員の基本給を一律で引上げ、B社は若手層をターゲットとした基本給の引上げを行った。いずれの場合も非管理職層を重点に賃金の引き上げを行っているが、大きく異なる点は、B社は等級や号俸による引き上げ額に傾斜をつけることによって、会社全体の賃金幅を縮小したことである。  これらの違いは、両社の賃金改定に至る経緯の違いに起因していると思われる。A社は、社員の年収を大幅にアップすることを具現化した制度改定であることに対し、B社は、厳しい採用環境への対応と若手の離職防止に主眼を置いた改定を行っている。  そのため、A社の場合だと、全社員に対して万遍なく、賃上げの効果が期待できる。B社の場合では、若年層には大きな効果が期待できる一方で、中堅~管理職層では、現状よりは、賃金が増えているにも関わらず、制度改定に対する不公平感を感じてしまい、将来の昇給期待が持ちにくくなってしまう恐れがある。  賃上げは、決してメリットばかりではない。人件費は増加しているのにデモチベーションになる恐れや、公平性を重視するあまり、従業員が賃金上昇を実感できず、ほとんど効果がなかったということに陥ってはいないだろうか。  どのような効果を期待して、限られた賃金引上げ原資を配分するか、人事・経営に携わる者の腕の見せどころではないだろうか。    

従業員満足度の真実 | 調査・診断(組織分析)

従業員満足度の真実

 人的資本開示における代表的な項目である従業員満足度は、企業価値向上のための重要な指標の一つとされています。経営者も人事部も、企業価値向上のための一つの重要な指標としてとらえ、従業員満足度向上を目指していることでしょう。  従業員満足度が高いことが企業経営にもたらすメリットは多岐にわたります。仕事に対してのモチベーションが高ければ、効率的に働く傾向があり、生産性の向上が見込めます。顧客満足度の高さにも影響を与え、リピート率を上げることに繋がれば業績も上がります。また、満足度の高い従業員が多くいることで職場の雰囲気もよく、チームワークが強化される可能性も高いです。その先には、心理的安全性が確保された職場において安心して意見を言える環境が整い、新しいアイデアを出し合い創造性やイノベーションの促進にも繋がる可能性も高くなります。そのほかにも、離職率の低下やウェルビーイングの実現にもつながり、企業にとってはいいことずくめです。    それゆえに、従業員満足度が高い=望ましい人事施策が講じられている会社である、ととらえるのが一般的でしょう。  しかし、現実はそんなに単純なものではありません。経営計画を達成するための人事制度改革が、逆に従業員満足度を下げることもあります。  例えば、超高齢化している会社が若手の確保や成長を重視した施策を講じるとともに、高齢層の処遇を適正化することで従業員満足度が低下することがあります。早期定年制を導入し、高齢層の退職を促すと、特に高齢層からの不満が増加します。選挙と同じで票をもっているのは高年齢層が多いので、従業員満足度は大きく下がり得るでしょう。 また、実力主義を導入することで、ハイパフォーマーは満足度が上がりますが、アベレージパフォーマーやローパフォーマーは不満を抱く可能性があります。実力主義に大きく舵をきればきるほど、会社として投資対象にしたい人とそうではない人に歴然とした差が生まれるので、そこから漏れる人は不満をもちます。2:6:2の理論でいえば、半分以上の人が不満に転じる可能性があります。    従業員満足度は、冒頭に記載したとおり、重要な指標であることは確かです。従業員満足度が常に高い状態が続いている場合、企業が必要な改革を怠っている可能性もありえます。重要なのは、満足度の高低ではなく、経営計画を達成するための人事施策をしっかりと講じて、組織に浸透させていくことです。実力主義を導入して、ローパフォーマーが厳しさを感じていなければ、運用がうまくいっていないのではないかと疑わなくてはなりません。人事施策を講じたら、どの層にどのような影響が出て然るべきかの予測を立て、継続的に調査を行い、適宜調整を加えていくことが不可欠です。    企業が真に持続的成長を遂げるためには、従業員満足度を適切に管理しながら(単に高いことだけを目指すのではなく)、柔軟かつ迅速に改革を進める姿勢が求められます。これこそが、変動する市場環境においても競争力を維持し続けるためのキーポイントです。

江戸時代からあった?人的資本経営の本質とは | 人事制度

江戸時代からあった?人的資本経営の本質とは

 ここ数年で「人的資本経営」に関する話題が一気に増えた。人件費をコストではなく資本として考え直そう。だから財産である「人財にもっと投資をしよう」というのが大きな話の流れだ。    日本では失われた30年間で業績低迷に対するコストカットの一つとして、人件費をどうやってコントロールして余分な部分をカットするかに多くの企業が腐心していた時期が確かにあった。その意味では揺り動かしとして、人件費をコストではなく、資本として捉え直して、人件費に、正確に言えば人に投資をしようという動向は前向きな印象として捉えている人が多いと感じる。    ただ、違和感を覚えている人も同じように居ると感じる。違和感と言うのは、「人に投資するのは当たり前なのではないか、昔からやっていたぞ」と言う、経営や人事を真剣に考えてきた人達の感覚ではないだろうか。  実は江戸時代から日本では人を公共財として考えていたとされている。誰かが所有するのではなく、社会の財産として人を育て、社会に還元する考え方だ。当然、今より過酷な労働環境だったし、キレイ事で片付かない話も多々ある。それでも私はこの考え方が好きだ。人を財産と考えるときに古くは江戸時代からこのような考え方が日本にあったことに誇りを感じる。  だからこそ、日本では世界でも類をみない新卒採用という仕組みがあるのだと感じる。企業に対して戦力としてほとんど貢献出来ない新入社員を雇って、生活の安定を支援し、独り立ち出来るように様々なケアをし、大切に大切に育て上げる新卒採用の仕組みは、まさに人に対して投資を行い続けてきた日本企業の姿ではないだろうか。新卒採用は一例だが日本企業は従来より人を財産として、人的資本経営を実践してきたと言える。    もう一度、ここ数年の人的資本経営の動向を改めて考えてみると、議論の多くは「数値化」だと感じている。研修時間、退職率などの人的資本経営を客観的に「数値化」するための尺度の整備に議論が多く行われている。これ自体は否定するものではなく、とても重要だ。財務分野と人事分野での大きな違いの一つとしてよく言われるのが、財務分野は日本国内はもちろんグローバルスタンダードで「数値化」して「判断する」尺度が整えられているが人事分野ではそれが無いということだ。この人事分野の尺度を社会全体で整備しようとしているというのが現在の動向ではないだろうか。  もちろん、この動向に自社も参加することは重要ではあるが、人財を大切にする企業として最も大切なことは、自社にとって何が「人財を増やしていく上で重要かということを把握する」ことだ。    この把握は、世の中の動向と合わせるより、自社の文化や今いる社員などをもとに、模索しながら尺度・軸を自社で独自に創りあげていく形になるだろう。尺度・軸を創り上げていくためには合理で把握した部分、経営感覚としての直観を結び付けて創り上げていく形になる。合理と経営感覚の結びつきが強ければ強いほど、自社にとって「芯を食った」人財基盤強化の尺度(KPI)になる。グローバルスタンダードでは無いかも知れないし、自社以外の人には伝わらないかも知れない、きっと他社とは比較できない尺度や軸になるだろう。だからこそ自社が成長するための本質がここにある。   日本企業は「人を大切にして投資しよう」は既にやっている。今やるべきことは、自社にとって何が人財基盤を強化する尺度になるのかを改めて把握し、創り上げて強化することだ。日本が古来より大切にしてきた人的資本経営を強化する本質はここにある。   以上

経営者が「人的資本経営」に体重を乗せるには? | 人事制度

経営者が「人的資本経営」に体重を乗せるには?

 私が相談を受けた、ある中堅企業の経営者と人事担当者の話です。 <経営者>  ここ数年、専門部署を設置する等DXに注力している。DX推進を意思決定した背景は生産性向上収益につながると認識しているからである。他方、人的資本経営の開示においては課題項目になりそうな女性管理職を今後は増やすよう指示している。人的資本経営とは言うものの物価高騰の中で賃上げも実施せざるを得ない状況で、人にかけるコストは極力抑えたいのが本音だ。 <人事担当者>  経営者は「DX推進だ!」と言っているが実際はクラウドシステム導入であり、変革(トランスフォーメーション)は全く行われておらず社内では「D推進」と揶揄されている。一方で人事には時間も予算も増やす予定はない。社内では若年層の離職率が高まり閉塞感が漂っている。人事としては「人的資本経営」の時流に乗って人への投資も重要だと認識してもらいたいが経営者には伝わらない。  このギャップをどうすれば良いだろうか・・。  上記のような相談が経営者や人事担当者から寄せられることは少なくありません。  これまでの失われた30年では人件費は最大のコストとして削減対象である、と捉える経営者が少なくない一方で、人事側は労働人口の減少傾向、採用市場の獲得競争激化、必要人材像の変化など外部・内部環境の変化により人事戦略の在り方について危機感を募らせています。  このギャップの論点は「人的資本経営」の意図をどのように理解しているか、であると考えられます。単年を切り取った開示KPIのみ捉えると前述の経営者のような発想に陥ってしまいますが、本質を考えることで対応も変わってきます。  人的資本経営の効用は旧来より立証されてきています。有名なものは1994年にハーバードビジネススクールのJ・L・ヘスケットらにて提唱された「サービスプロフィットチェーン」(以下SPC)です。  SPCを要約すると従業員のロイヤルティを高めることで、サービス品質の向上や顧客のロイヤルティ向上、収益性の向上につながり、そこで得た利益を従業員に還元することで更に従業員のロイヤルティが高まるという好循環を生む、という概念です。  広く取り入れられている概念ですが、重要なことは短期視点で手法だけを取り入れても自社と整合しなければ借り物の施策で終わってしまうことです。自社のありたい姿を実現するための戦略と必要な人材に沿った施策、その答えは自社内にあり、それを経営者に進言することが人事担当に求められているのではないでしょうか。 その為には人材を「資源・コスト」として捉える目と「資本・投資」対象と捉える目の両目で見つつ、更に「どこに」「何を」「どのように」「どの程度」投資するかの判断軸を磨き続かなければなりません。今こそ改めてSPCの概念に立ち返り、人的資本経営という共通言語のもと、人事が経営者の良きパートナーとなっていただければ幸いです。    

「正確な測定」をあきらめるな(評価品質を高めるために①) | 人事制度

「正確な測定」をあきらめるな(評価品質を高めるために①)

 階層別の能力課題を定量的に把握するためには、評価情報を経年で集計分析するとよい。個々人の評価結果は、その資格等級で発揮すべき能力に対しての現状レベルを示すから、各資格等級における共通する能力課題や、その経年変化、部署ごとの違いも浮き彫りになる。この「スキルギャップ」をもとにして育成策を練るのが、合理的な研修設計の常套手段だ。  だからまず、評価情報を分析しましょうと言うと「いやぁ、でも上司の評価だから、ブレもあるしデータとしてどうかな」との声が返ってくることがある。結果を見る業績評価ならまだしも、能力評価については、その正確性をハナから信じていないかのような反応。経営サイドが、自社の管理職には「正確な評価」はできないとはあきらめているのではないか。そんな印象をうける機会は、実は少なくない。  能力評価は、通常、昇給・昇格に反映させるが、評価結果に差がある二人の人材について、「この二人同期だし、実際のところ、仕事ぶりはそんなに違わないし、両方昇格させません?」などという情景も珍しくない。それが、年功的運用を助長しているわけだが、そこには「しょせん評価は評価で、実態は別」という暗黙の共通認識さえうかがえる。  まず、この状況を変えねばならないのではないか。人材の能力や動力(エンゲージメント)を高め労働の成果を最大化すべく人的資本に投資するのであれば、現場での評価はその検証と駆動の道具であり、評価品質のレベルは人的資本経営の品質を左右するからだ。ゆえに「正確な測定」としての評価の実現が愚直に追及されなければならない。  また、じつに多くの企業が評価運用の問題を抱えている。社員の不満(=評価の不公平感や不透明感)がエンゲージメントを下げる、処遇決定だけで育成には使えない、マネジャーの評価負荷が高すぎる等々さまざまだが、それらを解決するには、評価フィードバックの技法や育成前提の評価運用の工夫以前に、まず「正確な測定」が出来なければ始まらない。  評価品質を向上させるには、①評価の仕組み ②評価の運用 ③評価のスキル の3つの観点で手を打つ必要がある。   最初の観点、①評価の仕組みでいえば、正確な測定のためには「評価項目をいかに明快な基準たりうるものとして設計するか」が勘所となる。正確な測定=絶対評価(基準に照らした評定)であり、評価項目定義が、照らすべき基準だからだ。ともすれば、能力評価項目は抽象度が高く、基準としてはあいまいになりがちなので、その項目で「なにを評価するのか」がきちんと概念整理され、記述されることがポイントになる。  たとえば、G3等級(管理職手前)の「課題設定力」が以下と定義されていたとする。  ■方針を踏まえ自組織の課題を抽出・整理し、上位者へ的確に提言している   これはどの会社でも使えるような一般的な記述だが、自社においてどのような「抽出・整理」を評価するのか、どのような「的確」を評価するかは、見えない。これがA社ではこう書かれている。  ■方針を踏まえ自組織の現状の問題に対して原因を深く考察し、信頼性の高いデータなどで検証しながら、具体的にやるべきことを上位者に提言している   このような定義文は、A社のG3等級の課題設定は、「原因を深く考察」「客観的な検証」「施策の具体性」がなければいけないというメッセージになっており、その観点で部下の行動事実に照らせばよいから、判断基準足りえている。   ついでにいえば、ここでは提言する施策の妥当性は問うていない。妥当な施策を定めるのは上位者たる管理職者で、それは管理職用の「課題設定力」項目定義で問われることだからだ。G3には、提言する施策の具体性とそのもとになる問題の考察と検証の行動だけを問うている。つまり、A社では、「課題設定」のプロセスの何を評価するかが階層的に定まっている。  こうした評価項目の設計は、人事部門だけではなく、現場の管理職を巻き込まないと難しい。評価項目が抽象的だから職種別「行動例」をつけるという設計をする場合もあり、現場への依頼というと行動例作成としがちだが、実はそうではない。細かい行動例は、むしろ評価のブレを増大しかねない。大事なことは、さきのA社の例のような概念整理にこそ現場管理職の知見をいれ、評価定義自体を実際の行動事実と照らしやすい、いわば「使える基準」として仕上げることである。  以上は、評価制度の設計や改訂する場合の留意だが、評価の仕組みはもうできあがっていて、確かにあいまいな評価項目ではあるが、現時点で変えようがないという場合でも、評価品質を高める方法はある。次回は、運用のなかで品質を担保し、また確実に評価スキルをあげる手法を提起したい。 →評価100本ノックのすすめ(評価品質を高めるために②)を読む

評価100本ノックのすすめ(評価品質を高めるために②) | 人事制度

評価100本ノックのすすめ(評価品質を高めるために②)

 前回(「正確な測定」をあきらめるなー評価品質を高めるために①)提起したような評価基準を明快に定めた評価項目設計をおこなったとしても、評価のブレは必ず発生する。評価基準の抽象性を完全にはなくせないこともその原因ではあるが、最大の問題は、管理職の評価スキルが低いことだ。いや、正確にいえば、評価のスキルを鍛えられることなく、評価の実践を強いられていることだ。逆に、現行の評価項目定義があいまいだったとしても、まず評価スキルのレベルをあげれば、評価品質はかなり高めることができる。  なぜ、評価スキルが鍛えられないか。確かに新任管理職研修の一環として、評価の仕方は学ぶものだが、多くは自社の評価制度の理解と一般的な評価留意(基準と事実に即した評価原則やよくある評価エラーなど)の学習にとどまる。あとは実践の中で、せいぜい二次評価者チェックなどを経つつ、自分なりに評価スキルを身につけていくから、スキルレベルはばらつき、結局、「あいつはデキる奴だ」といった印象評価が幅を利かしたりする。  管理職者の評価スキルを向上させるために、新任・既任含めて徹底した評価力向上トレーニングを行えばよい。「研修」ではなく「トレーニング」、つまり座学ではなく反復練習によって、確実なスキル向上を図ることである。有効な方法は、以下の3つのフェーズで構成される。     1.課題の特定と確認     2.実践トレーニング     3.実践フォロー  第一フェーズは、評価者たちの課題を明らかにし、トレーニング内容をそれに合わせチューニングするとともに、本人たち「何が問題か」を突きつけることを狙いとする。常套的な課題抽出の方法は、評価情報を集計分析し、各評価者の甘辛や評点分布といった「クセ」を見える化することだ。360度診断やエンゲージメントサーベイを行っていれば、そこからも上司の評価行為の問題は見える。  さらに我々が推奨するのは、「評価力アセスメント」の実施。同一のシミュレーション下で、部下行動をいくつかの評価項目で評価するテストで、評価定義に示される基準に照らして部下の行動事実を評定することが、いかにできていないか、また、その原理原則をいかにわかっていなかったか、が如実に浮き彫りになる。  第二フェーズは、正しい評価ができるようなスキル習熟のための評定トレーニング。さきの課題を踏まえて、100本ノックのように、評定をくりかえす。そこでのポイントは、共通ケースを使ってのウォーミングアップののち、実際の部下を評価し、互いに相互検証し、講師の指摘も踏まえ、正しい評価を決定するセッションを時間の許す限り行うことだ。とくに評価者同士の侃侃諤諤の議論での気づきが効く。  同様に、目標設定についても、現状の目標の品質状況を総覧し、共通課題を明らかにし、適切な目標の要件を繰り返し教え込む。  そのうえで、各評価者は実際の評価に臨む。その実践のなかで、評価品質向上をはかるのが、第三フェーズ・実践フォローだ。たとえば、「目標設定レビュー」。実際に期首にたてられた目標をレビューし、その是正を指導する。目標はなんども立ててきていて自己流が身に沁みついているから、適切な目標設定の原則を学んでもなかなか実行できない。なので、実際の目標そのものを「添削」するほうが効果的なのだ。同様に、期末の「評価票レビュー」を行う場合もある。  もうひとつは、実践しての課題を採取し、その解決をはかるというフォロー施策。半期末か期末のタイミングで、評価者からアンケートをとる。実際の評価をしていくうえで、評価者が直面した問題やリアルな悩みを把握し、それに対してフォロートレーニングを行うということである。併せ、被評価者アンケートも行うとさらにシビアな実践課題が得られる。  「正確な測定」のためには、①評価の仕組み ②評価の運用 ③評価のスキル でそれぞれ打ち手があり、前回は①仕組みの観点、今回は③スキルの観点での提起を行ったが、②運用の観点での施策に触れる余裕がなかった。この運用上の施策もまた、きわめて実効性の高い評価品質向上策なので、追加でもう一回書く予定だ。 お役立ち情報→【人事評価運用のお悩みはトランストラクチャが解決】