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辛抱なき若者が未来を照らす | 人事制度

辛抱なき若者が未来を照らす

 配属ガチャという言葉があるそうだ。大学を卒業して首尾よく就職することができても、初任配属は会社の都合、思うようにはいかないものだ、という意味らしい。そして驚くべきことに、初任配属の地域や仕事が思うままにいかなかったとき、4人にひとりが退職を考えるというのだ(※)。せっかく入った会社なのに、あまりに辛抱が欠けてはいまいか。  昭和の時代にサラリーマンとしてのスタートを切った人間にとっては、空いた口が塞がらないタイプの事実だ。ご同輩の読者はどう思われるだろうか。しかしながら、この事実には、「いまどきの若者は・・」で済まされない大きな変化を感じる。    さて、ジョブ型という言葉が流行りだしてから少し時間が経った。積極的にこれを取り入れようとする会社もあれば、話はわかるが当社には合いそうもないから放っておけ、という会社もある。いずれにしても、ジョブ型という言葉の定義にはかなりの幅があるように思える。  ジョブ型の反対の概念をメンバーシップ型と呼ぶことが多い。筆者なりに両者の違いを描写すると次のようになる。まず、メンバーシップ型だ。雇い主は新入社員に、「定年を迎えるまで何があっても君をクビにしないよ、その代わり、会社が命じるままどこへでも行って、何でもやってください。」と言う。新入社員は「はい、どんな場所にも行って、どんな仕事でもやります。その代わり絶対にクビにしないで。」と答える。家族的だが、ちゃんと取引が成り立っている。  ジョブ型はこれと違う。雇い主は新入社員に、「この仕事をこの場所でやってください。他の場所にはいかなくてよい。他の仕事もしなくてよい。その代わり、この仕事が無くなったら君はクビ。成果が出せなかったときも君はクビ。」という。新入社員も、「この場所で、この仕事だけやって成果を上げます。他のことをやらせようとするなら、会社を辞めます。」と言う。とてもビジネスライクに取引が成り立っている。わが国で解雇が難しいことはもちろん承知の上だが・・。  こうした定義が成り立つならば、ジョブ型というのは雇用契約の話をしているのだ。「ジョブディスクリプションを作ってやるべき仕事をはっきりさせましょう」というような、社内の制度やルールの話ではない。先ほどの配属ガチャ問題、会社のほうは「絶対クビにしないよ・・」と例のごとく言うが、新入社員のほうは「・・でも、他の場所で他の仕事をやらせたりしないでね。」と言っているように見える。同床異夢。取引が成り立っていない。    グローバル競争の時代、多くの経営者が、当社の社員には専門性が欠けていると嘆く。一人ひとりの社員がもっともっと高い専門性を持って仕事に臨まないと競争に勝てない、と。専門性を研ぎ澄まそうとするなら、なんでも屋のメンバーシップ型ゼネラリストではなく、ジョブ型の精鋭専門職を採り育てるべきだろう。わが国も、段階的であるにせよジョブ型雇用の道を進んでいかざるを得ないのかも知れない。だとすると、配属ガチャで辞めてしまう新入社員の決断こそ、わが国の雇用が進むべき道を指し示している、ということにならないか。  不本意配属で、若者は会社を辞めるのだ。多くの会社が喉から手が出るほどに欲する理工系、特に情報系の若者も、配属ガチャを理由に辞めてしまうのだ。ならば、先に職種とエリアを約束し、それを長期間守っていかざるを得ないだろう。あとは、いかにして「その代わり・・」のところを描くかだ。取引を成り立たせるためにどうしたらいいのか。    がんばれ、新入社員。きみたちは自分のやりたい仕事を鮮明に思い描き、高度専門家の志を貫徹すべきだ。そして、それを実現するために必要なら、異動の無い働き方を求めてよい。どうしても叶わないなら、そんな就職は蹴飛ばしてしまえ。社会は甘くないから、「その代わり・・」が待っているかも知れない。でも勇気を持って前に進もう。君たちの決断は、わが国の未来を照らしているかも知れないのだから。   ※出所:「入社後の配属先に関する意向(不安・期待度)調査」キャリアチケットProduced by Leverages(2024年4月2日)

役職定年制度(やくてい)とは?定年退職との違いや”制度の現状”を解説 | 雇用施策・その他

役職定年制度(やくてい)とは?定年退職との違いや”制度の現状”を解説

役職定年制度とは? 役職定年制度(やくてい)とは、管理職などの役職に就いている社員が一定の年齢に達したときに、その役職から外れる人事制度のことを指します。つまり、役職定年は「管理職の定年」と言い換えることもできます。 役職定年が広まった背景は「退職年齢の高齢化」 近年、役職定年制度のニーズが増えている背景には、”定年退職年齢の引き上げ”があります。定年退職年齢が上がることで、管理職の年齢も徐々に上がり、人件費の高騰やパフォーマンスの低下が懸念されるようになりました。そこで企業は、管理職の定年である役職定年を設けるようになったのです。 たとえば、55歳で部長職の役職定年を迎え、その後60歳の定年退職までは「これまでの役職から外れて勤務する」という運用が一般的です。役職定年後の配置は人によって異なり、同じ職場に残って職務が変わるケースや、所属異動になるケースなどがあります。役職定年後の職務は、専任職、専門職、一般職などさまざまです。 役職定年制度は、組織の新陳代謝や人件費の管理、後進の育成などの「経営上の課題を解決する目的」として導入される反面、役職定年を迎えた社員の「モチベーション維持」や「キャリア形成への配慮」も重要な課題です。 「定年退職」と「役職定年」の違いは? ここからは「定年退職」と「役職定年」の違いについて詳しく解説していきます。 定年退職は「会社から退かせる制度」 定年退職とは、会社が決めた一定の年齢に達した従業員が、自動的に退職する制度のことです。つまり、会社が事前に決めた年齢になった従業員は、その時点で会社との雇用契約が終了し、退職することになります。定年退職制度は、法律で決まっているわけではなく、会社が自由に選択できる制度です。ほとんどの会社が定年制を導入しているので、多くの従業員がこの制度の対象となります。 日本では、法律に基づいて、会社は従業員の定年年齢を60歳以上に設定しなければいけません。そのため、多くの会社では60歳を定年としていますが、中には65歳以上の定年を設定している会社もあります。最近は、少子高齢化で労働力人口が減ってきていることを背景に、定年年齢を引き上げたり、定年後も雇用を継続したりする動きが進んでいます。法律の改正により、65歳までの雇用機会の確保が会社の義務とされ、70歳までの就業機会の確保が会社の努力目標とされました。 定年退職は、長年働いてきた従業員にとって大きな節目であり、会社にとっても大切な人材を手放すことを意味します。定年を延長することは、今の高齢の従業員に雇用を保証し、「引き続き活躍してほしい」という意思の表れになります。 一方若手従業員から見ると「ポストが空かない」状況が続くことを意味しますので、スムーズな世代交代を促すことが重要です。定年を60歳にとどめる会社は、長期雇用を望む従業員の流出防止や、定年後の高齢者雇用政策の方向性を踏まえながら、定年退職制度を適切に運用し、従業員個人に対してはキャリアや生活設計、活躍支援に配慮すること、若手世代も含めた組織全体に対しては組織の活性化を図ることが大切だと言えます。 参照元:『令和4年就労条件総合調査 結果の概況|厚生労働省』 役職定年は「役職から退かせる制度」 先にも解説しましたが、役職定年とは、管理職などの役職に就いている社員が一定の年齢に達したときに、その役職から外れる人事制度のことを指します。 独立行政法人 高齢・障害求職者雇用支援機構の平成24年の調査時点では、役職定年制度および役職就任規制を導入している企業は28%、見当も導入もしていない企業は61%でした。その後、導入企業は増加し、大手企業を中心に多くの企業で導入された一方、富士通やNECのように役職定年を廃止した企業事例が報道されています。企業によって廃止に至る背景はさまざまですが、「年齢に関係なく、その人の能力と成果で処遇を決する」という考え方が広く受け入れられるようになると、年齢だけを理由に処遇を大きく下げる役職定年制度を合理的に説明することは難しいと言えるでしょう。 シニア層の雇用義務がさらに強化される状況の中で、企業としては「役職定年制度」を導入・継続するか、それとも廃止するかは悩ましい問題です。 昨今の「役職定年制度」に対する現状 【現状1】「役職定年制度」があるものの、延長するケース 役職定年制度の運用状況は、企業によってさまざまです。例外をほとんど認めずに運用している企業は、延長手続きのルールを厳格に定めている一方で、優秀な人は延長されることがあるとしている企業では、例外が多くなる傾向にあるようです。中には、もともとそこまで厳格に運用するつもりがなかったり、課長クラスの役職定年の運用を各部門に任せていたりする企業もあるようです。 つまり、役職定年制度はあるものの、実際には延長するケースが多いというのが実態のようです。企業によって事情は異なるため一概には言えませんが、制度と運用の間にギャップがあるのは確かです。「余人をもって代えがたい」人材に同じ役職条件で残っていただくことは、事業の安定継続の観点や競合への流出を防ぐ観点からよく行われています。問題は、例外対応をする全員がそうとは限らないことです。 例外対応が前例となり、「自分も」「自分も」と長年の功労者に求められた際に、その場しのぎの判断で制度の運用がうやむやになってしまうのです。このような運用は、組織の健全な新陳代謝を損ない、下の世代からも納得が得られず、モチベーションを下げることにつながりかねません。 【現状2】定年に関する法改正に伴い、「役職定年廃止」の動きも 2021年4月に施行された「改正高年齢者雇用安定法」によって、65歳までの雇用確保が企業の義務となりました。さらに、65歳から70歳までの高齢者の就業機会を確保するための措置をとることが、企業の努力義務として新たに定められました。これにより、2025年からは、シニア層の雇用義務がさらに強化されます。 このような状況の中で、企業としては「役職定年制度」を導入・継続するか、それとも廃止するかで、揺れ動く時期が続くと予想されます。将来的に70歳定年が見据えられる中で、シニア層のスキルを活かせる社会への変革が求められているのです。 人事担当者の立場からすると、法律の改正に伴って、役職定年制度の扱いは悩ましい問題かもしれません。しかし、高齢者の雇用をしっかりと確保しながら、シニア層の力を活かせる体制を整えていくことが重要だと言えるでしょう。 下記コラムでは、役職定年制度に関する「年齢」について詳しく解説していますので、こちらもあわせてご覧ください。 関連コラム:『【年齢層の平均は?】役職定年は何歳から対象?最新の傾向を踏まえて解説』

【収入3割減も】役職定年と「給料の減少額」について|減給による”労働意欲の変化”も詳しく解説 | 雇用施策・その他

【収入3割減も】役職定年と「給料の減少額」について|減給による”労働意欲の変化”も詳しく解説

そもそも役職定年とは? 役職定年制度(やくてい)とは、管理職などの役職に就いている社員が一定の年齢に達したときに、その役職から外れる人事制度のことを指します。つまり、役職定年は「管理職の定年」と言い換えることもできます。 近年、役職定年制度のニーズが増えている背景には、”定年退職年齢の引き上げ”があります。定年退職年齢が上がることで、管理職の年齢も徐々に上がり、人件費の高騰やパフォーマンスの低下が懸念されるようになりました。そこで企業は、管理職の定年である役職定年を設けるようになったのです。 役職定年制度の定義・背景については、下記コラムでより詳しく解説していますので、こちらもあわせてご覧ください。 関連コラム:『役職定年制度(やくてい)とは?定年退職との違いや”制度の現状”を解説』 役職定年によって給料が下がる理由 役職定年によって給料が下がる主な理由は「役職の降格や肩書きがなくなること」によるものです。多くの企業では、役職定年を迎えた従業員は、これまでの役職・管理職から外れた業務をこなすことが一般的です。 当然これまでの役職(役職に対する報酬)がなくなるわけですから、それに応じて給料も下がってしまうというわけです。 役職定年による経済損失は「1.5兆円」という試算も 定年後研究所とニッセイ基礎研究所は、役職定年による50代社員の意欲低下などで発生する経済損失は約1兆5000億円にのぼると試算しています。中には仕事に対するモチベーション・意欲の他にも「50を過ぎて若手と一緒の学び直しが苦痛」といった悩みもあるようです。 参考記事:『NECさらば役職定年 50代後半「消化試合」にしない』日経転職版2022年11月18日 具体的な減給額はどれくらい? 役職定年による具体的な減給額は、企業や個人の状況によって異なりますが、多くの場合で「年収の2割程度の減少」が見られます。具体的な企業事例でいえば、NTTグループやソフトバンクなどの企業では、役職定年制度によって「最大30%程度」の減少となったケースもあります。民間企業での役職定年後の年収水準については、厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」を基に試算すると、課長クラスの場合、役職定年前の48万6900円から75%の減少として計算すると、役職定年後は36万5175円になります。 一方、公務員の場合は、管理職についていた時点から段階的に基本給が下がっていき、最終的に管理職時の70%まで下がります。例えば、課長クラスで51万円だった場合、役職を降りた翌日には41万円、60歳に達した日後の最初の4月1日には35万7100円(調整額を含む)となります。 減給の対象となる項目は、基本給、ボーナス、管理職手当などが該当します。特に管理職手当をなくす企業は全体の37.7%に上っており、役職手当で一定の年収を維持していた方は、年収が大きく減少する可能性があります。 役職定年による減給は避けられない現実ですが、一部の企業では給与を維持する取り組みもなされています。しかし、その割合は1割以下に過ぎず、多くの場合で減給を見据えておく必要があるでしょう。老後の生活プランを立てる上でも、役職定年後の年収減少を考慮に入れ、適切な準備を進めることが大切です。​​ 経営・人事の立場からすると、役職定年による減給は、人件費管理上の意味合いは大きいですが、従業員のモチベーション維持と生活設計への配慮もまた、重要だと言えます。一部の企業では、給与維持の取り組みもなされていますが、多くの場合で減給となることから、減給を見据えた対応が求められています。役職定年を迎える従業員に対しては、早めに制度の説明を行い、老後の生活プランについてのアドバイスを提供することも大切なのです。 参考記事:『50代で年収3割減も!シニア「役職定年」の残酷な現実、主要企業の実額を初公開』ダイヤモンド・オンライン2022年8月2日 役職定年による減給で社員のモチベーションはどう変わる? 役職定年による減給は、社員のやる気に大きな影響を与えることが明らかになっています。 「高齢・障害・求職者雇用支援機構」の調査によると、役職定年を経験した労働者の6割が、役職を降りた後に仕事や会社に尽くそうとする意欲が低下したと回答しています。また、ダイヤ高齢社会研究財団による「50代・60代の働き方に関する調査報告書(2018年7月)」でも、役職定年後に収入が減った労働者の6割がモチベーションの低下を経験したと報告されています。 モチベーション低下の主な要因としては、役職手当がなくなることや基本給の減額に伴う年収の大幅な減少が挙げられます。同じ仕事内容なのに給与が下がることへの不満や、生活の安定性への不安から、意欲が低下してしまう社員も少なくありません。 また、役職定年は事実上の降格と受け取られがちで、これまで積み上げてきたキャリアや評価が一度にリセットされてしまうような印象を与えます。肩書きを失うことによる自信の喪失や、会社からの期待感の低下も、モチベーションの低下につながる要因と言えるでしょう。 さらに、役職定年後の自身のキャリアについて前向きになれない様子も浮かび上がっています。新たな仕事や難しい仕事に挑戦する自信を失う傾向があり、これまでの経験や能力を十分に発揮できないと感じる社員もいます。 役職定年制度を導入する際は、これらのモチベーション低下の要因を理解し、適切な対策を取ることが重要です。役職を降りた後も、社員のやる気を引き出すような仕事の提供や、キャリア形成支援などの取り組みが求められるでしょう。また、役職定年による減給の影響を最小限に抑えるための工夫も欠かせません。 社員のモチベーションを維持し、長期的な活躍を促すための制度設計が望まれます。 参考記事:『「50代・60代の働き方に関する調査報告書」公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団2018年7月』 下記コラムでは、役職定年の対象となる「年齢層」について詳しく解説していますので、こちらもあわせてご覧ください。 関連コラム:『【年齢層の平均は?】役職定年は何歳から対象?最新の傾向を踏まえて解説』

【年齢層の平均は?】役職定年は何歳から対象?最新の傾向を踏まえて解説 | 雇用施策・その他

【年齢層の平均は?】役職定年は何歳から対象?最新の傾向を踏まえて解説

そもそも役職定年とは? 役職定年制度(やくてい)とは、管理職などの役職に就いている社員が一定の年齢に達したときに、その役職から外れる人事制度のことを指します。つまり、役職定年は「管理職の定年」と言い換えることもできます。 近年、役職定年制度のニーズが増えている背景には、”定年退職年齢の引き上げ”があります。定年退職年齢が上がることで、管理職の年齢も徐々に上がり、人件費の高騰やパフォーマンスの低下が懸念されるようになりました。そこで企業は、管理職の定年である役職定年を設けるようになったのです。 役職定年制度の定義・背景については、下記コラムでより詳しく解説していますので、こちらもあわせてご覧ください。 関連コラム:『役職定年制度(やくてい)とは?定年退職との違いや”制度の現状”を解説』 役職定年の年齢幅は「55〜60歳」と幅広い 役職定年制の年齢は、法律で一律に定められているわけではなく、会社ごとに設定されています。一般的には、50代後半から60歳までの間に定められていることが多いようです。人事院が実施した調査によると、役職定年制を導入している企業のうち、部長級の役職定年年齢を55歳から60歳までに設定しているのは96.1%、課長級では91.6%に上りました。 参考記事:『平成29年民間企業の労務条件制度等調査|人事院』 役職定年(年齢)で最も多いのは「55歳」という結果に 最も多くの企業が定めている役職定年年齢は55歳で、部長クラスは41.0%、課長クラスは46.8%という結果でした。役職定年年齢は、企業の規模や役職によって傾向が異なることも明らかになっています。企業の規模が大きくなるほど、役職定年年齢も高くなる傾向があります。また、部長クラスよりも課長クラスの方が、役職定年年齢が低く設定されているケースが多いようです。つまり、中小・中堅企業で課長クラスのポストの方が、役職定年が早めに設定されている可能性が高いと言えます。 "退職時期の引き上げ"に伴い、役職定年の設定も引き上げ傾向に さらに、定年退職の年齢によっても役職定年年齢が影響を受けることがあります。定年退職が61歳以上の企業では、それに合わせて役職定年年齢が60歳に設定されているケースが多く見られるようです。近年、定年退職の年齢が引き上げられている状況を受けて、役職定年の年齢も引き上げる企業が増えています。 役職定年年齢は、従業員の長期的なキャリアプランやライフプランを考える上で重要なポイントとなります。企業が役職定年年齢を設定する際は、従業員のやる気やキャリア形成への影響を考慮しながら、適切な年齢を選ぶことが求められます。同時に、高齢者の雇用機会の確保や、組織の新陳代謝といった観点からも、バランスの取れた制度設計が重要となるでしょう。 経営・人事の立場からすると、役職定年制度の年齢設定においては、事業環境の変化や事業に求められる人材要件の変化を踏まえて、どのような人材にどれだけ投資するかといった人事戦略・人材投資の観点も重要です。このような会社の実情に合わせて、適切な役職定年年齢を設定し、従業員のキャリア形成と組織の持続的な発展のバランスを取ることが求められます。 「役職定年」と「定年退職」の年齢の違いとは? 役職定年制と定年退職制は、どちらも企業が自由に年齢を設定できる制度ですが、定年退職制の場合は法律に基づいて最低年齢を決めなければなりません。 定年退職の年齢は、高年齢者雇用安定法という法律により、60歳以上に設定することが義務付けられています。60歳よりも前に定年を設定することは法律違反で、無効となります。さらに、2013年の法律の改正により、2025年4月以降は65歳までの雇用機会を確保するための措置を取ることが企業の義務となりました。具体的には、65歳までの定年の引き上げ、定年制の廃止、または65歳まで働き続けられる制度の導入のいずれかを選択する必要があります。 加えて、2021年の法律の改正では、70歳までの就業機会を確保するための措置を取る努力義務が企業に課されました。70歳までの定年の引き上げ、定年制の廃止、70歳まで働き続けられる制度の導入、70歳まで継続的に業務委託契約を結ぶ制度の導入、または70歳まで継続的に社会貢献活動に従事できる制度の導入のいずれかを実施することが求められています。 【結論】どちらも「シニア層を活用したいか?」で決定すべき 本コラムで解説したように、「役職定年」や「定年年齢設定」というのは、どちらも企業が自由に設定できるものです。 そもそも定年年齢設定(定年延長を行うか否か)は、会社としてシニア層を活用していきたいか?という経営方針をもとに、”企業ごと”に決定していくべきものです。業種職種によっては、一定以上の年齢になると体力的・技術的な理由から活躍が難しくなることがあります。そのような場合は、シニア層を長く会社に慰留するよりも適切なキャリア転換、社外へのマッチングを支援したほうがシニア社員のためにもなります。経営・人事はまず「わが社はシニア層を活用したいか、別の道を探すか」の方針決定から逃げないことが重要です。 役職定年の設定に関しては、当然、役職定年の対象となった人材は仕事へのモチベーションの低下が避けられません。正論を申し上げれば、役職定年制の導入よりも、役割や成果に見合った処遇を実現するための施策に、経営・人事のリソースを割くべきです。人事制度でいえば複線型(専門職)の導入、運用でいえば評価制度を適切に運用し、処遇に適切に反映していくことが、適材適所と人材育成という、人事の本来の役割につながるからです。 しかしながら、実際にはそれらをすぐに実現することが難しい状況があることも承知しています。当社ではこれまで人事のパートナーとして、「役職定年の導入」をはじめシニア活用に向けた経営方針・人事制度設計の課題解決支援を行ってまいりました。 役職定年の導入を検討している 役職定年制度を続けるべきか?について課題感を感じている 上記のような経営課題でお悩みの企業の方は、ぜひ一度ご相談ください。

営業は経営を語れ | 人材開発

営業は経営を語れ

 営業教育で取り沙汰されるデキる営業の勘所のひとつに、「誰に会うのか」があげられる。B to B営業であれば、意思決定権限のない担当者ではなく、部長に会う、さらには役員に会うべきなのは、いかにも当たり前のことだ。かくて、「誰がキーマンかをどう見極めるか」といったワザが、営業力向上セミナーでたいそうなノウハウのごとく語られたりする。  「キーマンを見極めるとか、キーマンにどうたどり着くかとか、考えたこともない。だって、自然にそういう立場の人が出てくるんだから」と語るのは、あるIT企業のトップ営業・Aさんだ。彼が、担当者と商談をしていると、しぜんと上席の人が出てくるようになる、というのだ。「ぜひ、部長様にもご挨拶させていただきたく」などとAさんは、言ったこともない。頼むまでもなく、勝手にエラい人が登場してくる。  なぜか。Aさんが経営の話をしているからである。経営視点で顧客企業の状況や課題、それに資するソリューションを話題にしていると、担当者が自分では力不足と思い、上席を引っ張り出してくる。商談は「サービス起点ではなく顧客の課題起点で行う」は、営業のキホンのキではあるが、その課題設定の視座が担当者の域をこえているがゆえの成り行きだろう。  これぞ営業力、とうなずける。よくある営業スキル研修―相手のタイプを見極めて、この客には結論から言う、この客にはデータを提示する、この客には野球の話題から始めるといったコミュニケーション手法などは、いかにも芯を食っていない。B to B営業においては、信頼される言動といった表層ではなく、話す内容と視座こそが眼目という当たり前の事情をAさんは体現している。  では、営業に経営を語らせるにはどうするか。経営リテラシーを学ばせて、自分の顧客の経営課題を分析・仮説し、そのソリューションとして自社サービスの意味づけを行う、というのが正攻法で実践的だろうが、その即効あるスキル研修は作りづらいし、各営業員の経験や能力にも依存する。一つの方法は、選抜型の経営人材育成の施策枠組みに、営業力向上の目論見を重ねることである。  次期経営人材育成は、二つの対象層で行われる。一つは、現管理職対象。とくに上級管理職を対象にする場合はより明確だが、役員育成を目的にする。もう一つは、管理職前の中堅社員対象。「NEXTリーダー育成」といった名称が多い、優秀人材に対する先行的な経営人材育成である。つまり役員候補の候補づくり。ただ、こちらは「先行」だから学んだ経営リテラシーを発揮する場面が今はないというネックがある。  ある会社の「NEXTリーダー育成」研修(6カ月間全7回)では、研修のゴールを「お客様と経営を語り合える」人材づくり、とした。経営リテラシーを学び、通常は自社や自部門の課題と課題解決策を立案・提案するのが、この手の研修の常套的プログラムだが、この会社では、自社の顧客の経営課題を検討し、顧客の立場でマーケティング分析を行い、課題設定し、そこに対して我々はなにができるかをアウトプットさせたのだった。  つまり、まずは顧客と経営の話ができる事業リーダーを目指せ、その先に自社の経営リーダーがあるという道筋。自社と異なり、顧客はさまざまな産業に属し、また社会的影響の受け方もそれぞれ違う。顧客の経営を考えることは、必然的に視野を広げ視座を高め、多様な社会的問題意識を喚起させる。経営のリテラシーという方法論の学習よりも、このことこそがこの研修施策の最大の効用だった。  「経営を語る営業」になにより必須なのは、顧客の立場にたてる視界と社会的問題意識である。「ウチの経営陣が見ているのと同じ風景をみているみたいだな、Aさんは」と感じたから、その担当者は上司につないでいるのだろうから。  

「社員は資産」を複式簿記で考える<br />~採用・研修費用・退職、単年のコストで考えていませんか~ | その他

「社員は資産」を複式簿記で考える~採用・研修費用・退職、単年のコストで考えていませんか~

  「人材は資源ではなく資産である」との論調が強まっています。「もともと社員のことを資源とは思わず昔から大切にしてきた」という声も聞こえてきそうです。日本では長期雇用が大前提であり、社員のことを長い目でみて大切にしてきたのは事実でしょう。 それでも、「コロナで業績が落ち込み採用を停止した」「コストカットのために研修費用を辞めた」な、短期の損益で人にかかるお金の話をしていませんか。 「人は資産」論への賛否はともかく、簿記・会計の世界から知恵を拝借し、発想の転換すると、社員のことを一層真剣に考えることができそうです。 【1.採用】 これまで:採用するとき、採用経費などは帳簿に計上しますが、「価値がありそう」だと選考し、「当社で活躍してもらおう」と決裁した新入社員が持つ価値自体は、残念ながら帳簿に全く現れません。 社員は資産:採用は、経営がその人に投資をする重大な意思決定です。しかも、大卒初任者であれば生涯年収を約3億円も払いながら、65歳の定年まで43年間も「保有」する莫大な投資です。 (図表1:採用)  出典:筆者作成  こう考えると「今期の損益がどうか」という観点で採用を停止したり急に増やしたりすることが本質的ではないことが分かります。「この先のリターンが見合うか」という長期の目線の方が重要だからです。より短期での価値実現を目指す投資をしたければ、新卒より中途など、事業計画に応じた採用セグメントの議論もできるでしょう。   【2.研修】 これまでの常識:教育研修費用は単年度のコストです。業績に陰りが見えれば真っ先に取りやめになりますし、人事部の皆さんは「もっと安い業者は無いのか」などと言われたこともあるかもしれません。 社員は資産:教育研修は、保有する「人的資本」の価値を高めるための追加投資です。費用相当分だけ資産の価値を増やしたのだと考えられます。   (図表2:教育研修) 出典:筆者作成  設備などの有形固定資産も、修繕をして価値を維持・増強します。生産効率を高めるためのメンテナンスなどです。研修も同じです。将来を見据えて必要となるスキル量・質を確保すべく、社員にリスキリング投資をしたり、スキルの陳腐化が見える社員が健全により長く活躍し続けられるようにアップスキリング投資をしたりします。業績が悪くなりそうな時こそ、価値の源泉を増やすための投資をすべきでしょう。   【3.退職】 これまでの常識:退職による人材の流出は痛手です。しかしながら、会社にとっての損失が表現されません。 社員は資産:投資をしながら価値を高めてきた社員の突発的退職は、資産の除却損として認識できます。まだ1億円の価値が残っているのに辞めてしまい、回収するはずのリターンを得る機会を損失した、などと考えられるのです。   (図表3:退職) 出典:筆者作成    なお、リストラについては、価値が減損しリターンが見込めなくなった資産の除却と考えることができるます。スキルの種類やレベルが合わなくなったことで在籍企業における価値が減少したとはいえ、そのスキルを必要とする他の会社にとっては高い価値を持つ場合があるでしょうから、高く見積もって投資をしてくれる転職先を探す方が本人にとってもハッピーです。    実際に会計帳簿に計上するか否かは全く重要ではありません。会社が目指す姿を実現できるだけの価値の源泉(=人材)をどれだけ有するのか、人材が有するスキルの量や質は十分か、補修が必要ではないかを常に把握する必要があります。そこからさらに、中長期先を見越した人材マネジメントの議論ができることが肝要です。 「本稿は人材に対する投資を概念的に捉える試行について論じたものであり、実際に人材をモノとして会計計上することを推奨するものでは無く、またその方法を説明するものでもありません。」    

令和維新の年になれるか | 人事制度

令和維新の年になれるか

 現代の人事制度の基礎は明治維新と言われていますが、この明治維新は、西暦1868年(辰年)に始まり、明治天皇が即位して江戸幕府が倒れ、明治政府が発足した日本の歴史的な転換期であったわけです。  人事制度に関しては、この明治維新以降に大きな変化がありました。例えば、前近代的な身分制度からの解放や、新たな近代的な役職や制度の導入などが行われました。これらの変化は、日本の近代化とともに人事制度にも影響を与え、近代的な組織や制度の基礎を築くことになりました。  以降、辰年からどのような出来事があったか気になり整理すると、、、 1916年(辰年)  大正時代に入り、日本は急速な近代化を遂げました。官僚制度や公務員制度の改革が進められ、官僚の選任や昇進に関する基準が見直され、近代的な人事制度が整備されました。 1940年(辰年)  昭和時代に入り、日本は軍国主義の台頭や第二次世界大戦の勃発など、大きな社会変動を経験しました。この時期には、国家の体制や組織が変化し、人事制度もそれに応じて変化しました。 1964年(辰年)  戦後の高度成長期に入り、日本は経済成長を遂げました。この時期には、企業や官庁の組織が拡大し、人事制度も組織内の人材育成やキャリアパスの整備が重視されるようになりました。 1988年(辰年)  バブル経済の到来やグローバル化の進展など、様々な経済・社会の変化が起こりました。これに伴い、企業や官庁の組織が再編され、人事制度は働き方の改革や労働条件の見直しなどが進められました。 2000年(辰年)  バブル経済の崩壊後の経済不況期であり、企業のリストラクチャリングや人員削減が進行しました。多くの企業が人事制度の見直しや労働条件の改善を図り、労働市場の柔軟性の向上や非正規雇用の拡大が進んだ時期でもあります。 2012年(辰年)  リーマン・ショック(2008年)をきっかけとする世界的な金融危機以降、多くの企業が経営環境の厳しさに直面し、人員削減や組織再編が相次ぎました。この時期には、企業の経営戦略や人事制度が大きく変化し、労働市場の不安定化や労働条件の悪化が懸念されました。  これらの過去辰年における社会的・経済的な出来事は、人事制度に影響を与え、企業や組織がその時代の課題やニーズに対応するために制度の改革を行ってきた経緯があります。特に、リストラクチャリングや経営戦略の変化、働き方の見直しや労働市場の変動への対応などが重要なテーマとなってきたのです。  今年2024年は辰年ですが、新型コロナウイルスの世界的な流行によるパンデミック以降、多くの企業がリモートワークやテレワークなどの柔軟な働き方を導入し、働き方の在り方や人事制度が大きく変化してきています。また、経済の不確実性や雇用の不安定化も影響し、労働市場全体のダイナミクスも変わってきています。  社会全体でも多様性と包摂性の重要性が認識される中、企業も多様な人材の活用や包摂的な職場文化の構築に力を入れています。人事制度も、ウエルビーイングと多様性と包摂性を推進するための取り組みを進めていく必要があります。これらの要素が、2024年(辰年)における人事制度の基礎を形成していくでしょうし、企業は、これらの変化に迅速に対応し、より持続可能な人事戦略を構築することが求められています。  今年を明治維新のごとく令和維新の年にできるかどうかは、各企業の変革の本気度にかかっているのです。

VUCAの時代なので、サンマは目黒に限る | その他

VUCAの時代なので、サンマは目黒に限る

 「ほんと、いまはVUCAの時代だからね。」 このようなセリフは、今や当たり前となり、ビジネスシーンだけでなく、日常会話の脈絡においても登場するようになった。この時代の特色を表すキーワードとなった「VUCA」とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったもので、「変転しやすく予測困難な時代状況」を指すものである。  この言葉は、1990年代後半に、アメリカ合衆国で軍事的な脈絡の中で使用されたことが初めであるとされているが、実際にこの言葉が市民権を得たのは、2016年の世界経済フォーラム(ダボス会議)で取り上げられたことが大きかったといえる。世界を代表する政治家や実業家が一堂に会し、世界経済や環境問題など幅広いテーマで討議するこの会合において取り上げられたことは、「VUCA」を一躍時代を象徴する言葉へと押し上げたのであった。  しかし私は、この言葉が流行りだした当初から、この風潮に何か違和感を覚えてきた。その違和感の正体を、自分なりに言語化すると次のように表現できそうだ。「あなたがたは、この時代を変転しやすく、予測困難であるため、VUCAの時代である、と言う。なるほど、そうかもしれない。しかし、いまの時代が、とりわけほかの時代よりも変転しやすく、予測困難なのだろうか。どの時代もまた変転していたのだし、同様に予測困難だったのではなかろうか。さも、いまの時代が特別に変転しやすく予測困難であるかのように言い表すのは、根拠薄弱であり、バイアスまみれではなかろうか。」  例えば「平家物語」は、平安後期の平家の栄枯盛衰を描いた鎌倉期成立の軍記物であるが、冒頭付近で見られる「諸行無常」の思想が全編を貫くものである。この時代よりも、いまの時代のほうが一層変転が激しく、予測困難である、という根拠はあるだろうか。戦国時代と比較したらどうだろうか。第二次大戦の戦前・戦中・戦後と比べてどうだろうか。そもそも、変転しやすさや、予測不可能性が、比較検討しづらい、という事情もあるが、いま現代が特別であるという根拠はなさそうである。時代を越えて、世間や人生というものは、変転しやすく予測困難なものの連続なのである。  このような「誇張」や「誤認」は、ときには「ミスジャッジ」を引き起こし、効果的効率的な問題解決の支障となる。むかし、「バブル崩壊のせいで腰痛がひどい」と仰ったご老人がおられたということだが、「なんでもかんでもバブル崩壊のせいにしておけばよい」という風潮と、「この時代はVUCAの時代だから」という風潮は、とても類似している。  しかしなぜ、「この時代はVUCAの時代だ」という認識が、スムーズに大衆的に受け止められてしまったのだろうか。そのヒントは、古典落語の「目黒のサンマ」にありそうだ。  ある殿様が目黒まで鷹狩に出て、うまそうな匂いが漂ってくるのに気づく。殿様が匂いの元を尋ねると、家来は「これはサンマを焼く匂いだが、庶民の食べる魚なので殿のお口に合うものではない」と答える。しかし空腹に耐えかねた殿様はサンマを持ってくるよう命じる。直接炭火で焼いたサンマというものを初めて食べた殿様は、そのうまさに大喜びする。このうまさが忘れられない殿様は、ある日サンマを給仕するよう家来に申しつける。庶民の魚であるサンマは屋敷に置いておらず、家来は慌てて日本橋の魚河岸でサンマを買い求める。しかし調理の段になると、家来のあいだで、「焼くと脂が多く出て体に悪いのでは」ということになり、蒸籠で蒸して脂をすっかり抜いてしまう。また「骨がのどに刺さるといけない」ということで、骨を抜き、身姿が崩れた姿で椀にして出すことになる。殿様が食べてみると目黒で食べたものとは比較にならないまずさだった。「どこで求めたサンマか?」と尋ねると家来は「日本橋魚河岸で求めてまいりました」と答える。殿様はしたり顔で「ううむ、それはいかんぞ。サンマは目黒に限る」と言ったという。  目黒で食ったサンマがうまかったというのは事実かもしれないが、これは目黒という場所が特別そのような場所であったわけではない。それにも関わらず、限定的な経験を一般法則として捉えるこの殿様の「視野の狭さ」がこのような「誤認」をもたらしたのである。目の前にある不確実な事態に直面し、「この時代はVUCAだ」と口々に語る世界中の方々は、まさに「目黒のサンマ」の殿様の、「直系の子孫」ともいうべき方々なのである。  

明治政府と武士の決意 | その他

明治政府と武士の決意

 AI等、テクノロジーの進化をはじめ、社会の大きな変化に応じ、従来の職業の価値が低下していく可能性について、関心が寄せられている。“将来、なくなる職業ランキング”といった記事さえも、数多く、散見されるようになった。また、数年前から、大手テレビ局の男性アナウンサーの退職が続いている事がニュースにもなっていたが、花形と言われる職業であった、男性アナウンサーであっても、将来は安泰でなく、新たな価値提供の場を求めていかねばならない状況が今、ここで進行している。    外部環境の変化により、今まで、人気ランキングの上位に占めていた職業の価値が低下し、場合によっては、必要性さえもなくなってしまうと言われている事態は、今に始まった事ではなく、過去の時代においても、少なからずあった。その典型的なものは、明治維新後の“武士の廃業”がある。明治になって、封建制度の崩壊と共に、武士の俸禄はどんどん削減されていった。 さらには、“数年分の俸禄を支払うので、武士をやめなさい”という、今でいう早期退職制度のようなものさえ導入され、そうした状況の中で、武士たちは、明治政府に抵抗を示しながら、止むを得ず、新しいキャリアを模索していった。    そうした武士たちの、主たる“転職先”は、官僚や軍人への転身だった。明治政府は、多数の旧武士を官僚や軍隊として受け入れたが、基本的に、能力の高い人を雇うという方針を持っていた。というか、能力の高い人材、実力がある人材しか、雇えなかった。明治政府は、人材も金もない中で、欧米列強と向き合いながら、早急に統治機能高めるためには、古い体制の継続を声高に主張するような人材や、家柄がよかろうとも、仕事のできない人材までを抱えていく意図も余裕もなかった。身分・家柄を問わず実力のある人材を優先的に登用していくしかなかった。    一方、官僚や軍人として、登用されなかった武士たちは、新たな世界へと転身した。その一つは、教育者だった。武士は、読み書きや武道など、多くの知識や技能を持っていたため、教師や道場の指導者になった。今まで身に着けてきた知識やスキルが活用できる他の職種を選んだケースだ。これは、社会が変化する前から、自身で高い教養やスキルを保有していて、それを活かしたキャリアチェンジを行ったケースと言える。明治以上に、目の前で活用されるテクノロジーや知識が、すぐに陳腐化する現代においては、日頃から、専門的領域より、自然科学のような、より広範でベーシックな教養や知識、技術を高めておくことは、より重要な事なのかもしれない。    また、明治時代になると、日本は急速に近代化、工業化が進み、新しい経済機会を求めて、商工業における事業を始める者もいた。今風に言えば、新たに生まれた産業やベンチャー企業で、大きな可能性を求めて、起業をするケースだ。今まで生きてきた中でのなじみのある世界で、生きていくより、いっそ、この機に、新しい世界に飛び込んで、大暴れしてやろう!意気込み、優れた起業家や事業化として、その後の日本社会に貢献した元武士たちも、少なからずいたことだろう。    以上、明治維新における武士の対応は、①新しい時代に即した従来と同様の職種でのバージョンアップ(官僚や軍人への転身)、②自身の保有する能力・スキルの提供者(教育者)、③新時代に生まれた産業、職業へのチャレンジ(新規事業家)という道を選んでいった。明治維新をきっかけとして、武士たちは、本当に目指すべき自身の生き方やキャリアを見つめなおし、新たな道に進んで行ったことで、結果として、強制的ともいえる日本の労働力のシャッフルが行われ、結果、人材の最適配置が進んだ事は、その後、明治日本の躍進の原動力の一つであったことは間違いないであろう。    また、明治政府が、過去のしがらみや温情ではなく、高い能力を持つ人材を官僚や武士として採用することで、その後の欧米列強からの侵略を防げたことを思うに、企業が、これからの時代に求める能力やスキルを明確に再定義し、実力主義の登用を今まで以上に促進することができるか否かが、これからの日本社会の行く末を決めることになるだろう。日経平均株価が、高値を更新し、失われた30年から脱却し、ようやく新しいステージが見え始めた日本経済が、このまま成長軌道に乗っていけるのか、企業にとっても、人材にとっても、このチャレンジは避けられないものだ。  

職能型人事制度の逆襲 | 人事制度

職能型人事制度の逆襲

 職能型人事制度と聞いて真っ先に連想するのは、「年功序列」という言葉ではないでしょうか。また職能型は古い、今の時代にマッチしていない等も合わせてよく耳にします。本当にそうでしょうか?  近年、企業の経営環境は大きな変革を迎えています。従来の経営モデルに代わって、現在注目されているのは御承知の通り「人的資本経営」となります。 人的資本経営の定義は経済産業省ホームページ:人的資本経営~人の価値を最大限に引き出す~で下記の様に定義されています。 『人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方』 つまり、人材に投資をし、成長をさせることで企業価値を生み出していく経営のあり方となります。  人的資本経営を実現するための人事制度を考えるとするのであれば、仕事を基軸とした考えではなく、人を基軸とした考え方となります。 これは、昨今注目度の高かった職務型制度(ジョブ型制度)ではなく、1970年代に定着した職能型人事制度の思想に近しいことを意味します。 更に付け加えますと、欧米型の職務型制度が日本の慣習や風土、国のセーフティーネットとはマッチせず、コロナ禍で非常に多くのメディアに取り上げられていた職務型制度が、今は下火の傾向にあると言えます。 ※弊社への依頼の状況も、職務型人事制度を導入したいという声は減っている状況です。  ただし、従来の職能型制度では、冒頭申し上げた通り年功序列的な人事制度となること想像に難くありません。古き良き部分は残しつつ、問題・課題点は当然改善した人事制度を構築する必要があります。  古き良きという部分については、日本は能力やスキルをベースに人事制度を考えてきた点です。特に製造業においては技術伝承の観点から、非常にきめ細やかなスキルマップを作成している企業もございます。この伝統的な能力・スキルをベースにしたキャリアパスがこれからの人事制度の根幹となると予測をしています。 しかし、これだけでは能力・スキルが向上すれば処遇は高くなり、能力・スキルは年齢によって微減はしても、大きく下がることはないという制度では、結果として年功序列的な制度となってしまいます。  この様な悪しき職能型制度・運用を如何に解決するか。 それは職能型制度に、職務型制度の利点を組み込む人事制度を設計することです。 職務型制度の利点は、職務や役割やポジションに必要な業務・責任、経験が定義されているため、タスクの分担や役割の明確化が容易になります。生産性の向上という観点では職務型制度は有効な人事制度です。 失われた30年から脱却し、これからの日本に求められる人事制度は、職能型+職務型のハイブリッド型人事制度です。  ハイブリッド型人事制度のイメージは下記の通りです。 ①会社が求めるスキルがLv7→職務lv7の職務にアサインをする。 ②ポストに空きがなければ、スキルLv7であっても職務アサインはLv6以下となる。 ③スキルLv7の社員がライフイベントによって働き方を限定する場合は、職務Lv5にアサインをする。 ①を原理原則の人事制度運用とした制度となり、②③を厳格に運用することで人件費の高騰化を防ぎます。また③のように現在の45歳以上の中間管理職層はこれから介護を行う社員が増加することを考慮し、多様な働き方を許容可能な制度にもなります。  最後になりますが、ハイブリッド人事制度を機能させるためにもう1つ重要なピースがあります。それはテクノロジーの活用です。 スキルの可視化、スキルと職務のマッチングは人間の力では限界があります。  これから職能型制度への回帰が想定されますが、そこには職務型制度、テクノロジーの活用がプラスされた全く新しい職能型制度の姿です。 職務型制度ではなく、この新しい職務型制度が今後のトレンドになると推測をします。 今まさに、職能型人事制度の逆襲が始まろうとしています。

専門職の制度設計 | 人事制度

専門職の制度設計

 人事制度において、高度な専門性をもって、付加価値を創出し経営貢献をする、管理職と同程度、ないしはそれ以上で処遇できる「専門職」を設置する会社は多数ある。社員のキャリアゴールを複数提示し、本人の志向性によってキャリア選択できる複線型人事制度と呼ばれるものの一部で、オーソドックスな人事制度の形であり、比較的なじみのあるものだと思われる。昨今は、社内に知見やノウハウのない領域を強化するため中途採用しやすくするための設置や、専門職を成長の源泉と位置づけ、新たに増設を検討するケースも増えている。  これまで社内にいなかった人材を定義し位置付ける、ないしは、新たに専門性が高い、ということで高い処遇をしてスポットをあてていく制度であるため、「専門性が高い」イメージのすり合わせを慎重に行いながら設計を進められていることだろう。  特に、専門職として最上位等級を定義すると「こんな人材が本当に出てくるのか?」と思うようなレベルを設定することも多い。業界革新を起こす業界のリーダーであったり、会社業績に直接的に極めて大きなインパクトを与える人材であったり。  当然こういった人材が出てくるのは会社として望ましいし、そういった人材が本当に成長に資するならば難易度が高くても生みだしていくべきであろう。しかし、制度設計においては、実はこの輝けるキャリアゴールに向かってどう専門人材を生み出すか、ということよりもいかに生み出しすぎないようにするか、が設計時の主要な議論になることが多い。  昨今、管理職は役割等級制度や職務等級制度に代表されるように、組織の数分しか管理職に格付かない制度への見直しが進んでいる。年功的な昇格をなくし、人数管理を行うことで人件費が適正に維持される仕組みである。一方、専門職は人数をコントロールする拠り所がないことが多く、またそこに格づいている人がいないことから、確信をもった格付ができるか不安もある。よってこれまでの職能等級のように、人件費高騰リスクのある制度になるのではないかという危機感をもって設計が進む。  どんなに等級定義を難しく、手の届きづらいものにしたとしても、甘い評価や、長らく同じ等級に留まることへのモチベーションの低下を恐れ、昇格圧力に負けてしまうのではないか、と考えてしまう。特に、その会社において最高位クラスの専門家となってくるとその専門性を測定できる人がいないということから、評価が高ぶれし続ける、という状態に陥ってしまうことも予見して設計するのである。  これまでの年功的運用の失敗を繰り返さないため、専門職に対しては、そのあたりのリスクを回避するために、しっかりと制度で制御できる仕組みを採用している会社も多い。例えば、①専門職の評価はその専門性を以て出した「成果」を特定できるようにする②360度評価を行い、周囲からしっかり専門家として認定されているかを確認する。③専門職としての価値が自社、ないしは労働市場においてあるか、定期的に検証できるよう専門職認定の会議を行い、時価で評価できるようにする。④専門職をおいてよい職種ごとに人数制限を設ける、などである。  制度設計においては、人件費高騰リスクや等級にアンマッチな人材が格づくことを回避することを検討することはもちろん重要である。もちろん抑制だけでなく、キャリアを構築できるイメージがわくように腐心して設計する。設計はそれでよいだろう。しかし、じつは、こういった人材が活躍できる環境に身をおかせることができるか、といった観点での検証が専門職制度においては制度設計と同じくらい重要だと思う。具体的には、実際どのように組織に位置づけ、役割、権限を与えていくかという、配置する際のルールの議論や考え方の浸透である。  例えば、専門職の等級定義の中に、会社全体に大きなインパクトを与える成果が期待される。という一文があったとしよう。しかし、実際そのような成果を出すための位置づけに専門職一人一人を組織の中に位置づけられていないケースが圧倒的に多い。現実的には、一部員、課員であることが多く、なすべきことは部長ないしは課長から指示され、自由に自ら構想して専門性を活かして成果を出せる環境になかったりする。成果を出すためのリソース(人・金)や権限を与えていない、ないしは不明確なことも多いだろう。専門職=一人で成果を出してもらう人、というイメージがあるのかもしれず、組織長もその必要性を感じていないこともあるだろう。目標設定の際に初めて、この人は専門職だから難しい仕事をさせないといけないぞ、と考えて難易度の高い一人でやる仕事を無理やり生み出していたりする。また、専門的見地から部長や課長をサポートする位置づけ、かつての部長補佐、課長補佐のような立場にしてしまうこともある。その結果、専門職の人材イメージを劣化させてしまったりする。また、本来の期待役割をスムーズにこなせない。これではせっかくの専門職が台無しである。  専門職はその専門性の高さ、およびそれを培ってきたバックグラウンドを駆使して、マネジメントを担ってきた人では考えられない観点や、手法、人脈で成果を出していくのではないかと思う。昨今、専門性を以て成果を出す人材をいかに作っていくかが付加価値創出の鍵であるという人事制度の考え方も増えてきている。専門職に対してどのような権限、裁量を与え、専門職の成しえていきたいこと、やりたいことを組織の中に取り込みながら組織成果を作っていく、ということが今後更に重要になるだろう。これから更に、中途採用で専門職を増やしていく会社も増えていく。中途の専門性の高い方の力を使って、新しい価値を創出していく、ということであればなおさら、いかにうまく組織に位置づけ、成果をだしやすい権限付与していくかをしっかり考える必要があるということを忘れないで頂きたい。

賃上げは企業の未来を変えられるか | 人事制度

賃上げは企業の未来を変えられるか

 「物価上昇以上の賃上げを!」をスローガンに賃上げ機運が高まっています。多くの大企業においては、かつてない強気な要求額があるにもかかわらず、満額で妥結が進んでいる企業も多い。円安による輸出企業の景気の良さなどが、その意思決定を後押ししていることもあろうかと思います。  大企業だけでなく、中小企業にもその効果を波及させるべく、賃上げによる税制優遇措置など、様々な政策が進んでいます。中小企業は大企業に比べて労働分配率が高く、生産性は低く、賃上げが利益への影響は大きい。よって様々な政策を駆使したとしても、その利益確保にかかる苦労は計り知れないものと思われます。日本の多くを占める中小企業にとって、容易で速攻性のある収益向上の施策は少なく、DXという「幻」に踊らされながらも、出来ることとして、恐る恐るそして必死に値上げ交渉を進めつつ、何とか賃上げの実現を目指している企業も多いと思います。社員の定着なき成長はあり得ない、人材確保という最大のミッションのもと、短期的な利益はいったん度外視し、株主への了承を取り付け、賃上げに踏み切る企業も多いと思います。  人的資源から人的資本への解釈が変わりつつあり、コストという短期的な視点から、投資という中長期的な視点が求められています。人材に対して労働力の対価は、賃金という意味合いだけでなく、将来に向けた投資という意味合いが強くなっていくことです。現在人的資本に関わる指標が多くありますが、人的資本ROIであろうと労働生産性や賃金生産性であろうとも、いずれにしても要素分解していくと、利益が最終的な指標の要素のひとつになってきます。当然ではありますが、人的資本経営において、利益を安定して確保、向上させていくことが条件ということです。  また今後「幻」では終わらせないようDXを推進する投資も積極的かつ継続的に挑戦し、飛躍的な成長や収益性の向上を実現させていかなければなりません。そういった挑戦の「果実」は短期的な指標だけではなく、3年や5年などの期間平均値やその期間の利益に影響を与える指標の決定係数など、中長期的な指標で見ることが有効になります。  非財務情報の開示が進んでいますが、指標をたくさん並べても、収益があがらなければ意味がありません。中長期的な指標の公開が進んでいくことが、イノベーションへの挑戦や人的投資に対する心理的なハードルを下げ、投資に対する積極性が高まっていく流れをつくっていくことはとても良いと思います。そして情報開示が進み、人的資本のPDCAサイクルをしっかり回すことで、収益向上と還元の好循環が多く生まれていかなければなりません。賃上げが企業の未来を変えるKPIとなるのかは分析や議論が必要なところですが、将来にわたり収益の安定した創出につながる企業独自の確からしい因子(KPI)が問われる時が、すぐ目の前に迫ってきています。あなたの会社の人的資本経営における最重要KPIは何ですか?