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「“階段”がない家に、住めますか?」~等級と評価の設計が、組織の“骨格”を決める話~(「人事制度設計」を考えるコラム①) | 人事制度

「“階段”がない家に、住めますか?」~等級と評価の設計が、組織の“骨格”を決める話~(「人事制度設計」を考えるコラム①)

あなたがもし、ゼロから家を建てようとしたとき、最初に「ソファの色」や「カーテンの柄」を決めるでしょうか? きっと「間取り」や「階段」「柱」といった、家の“骨格”を設計するはずです。これがなければ、どんなにオシャレな家具を置いてもそもそも住めないからです。 組織も同じです。 「評価制度を先に作ろう」とする会社は少なくありませんが、それはソファから決める家づくりと同じです。まず設計すべきは等級制度、そして評価制度という組織の“骨格”です。  では、どこから始めればよいのでしょうか? 答えは、戦略です。 「人材戦略」は必ず「経営戦略」と同じタイプの戦略でなければなりません。会社としてどの市場に挑み、どんなポジションを狙うのか。そのために必要な人材はどんな人材か?そして何人必要か? ――質と量。この問いが出発点です。  例えば、山登りをするなら登山靴とロープがいりますし、野球をするならバットとグローブが必要です。間違っても、登山にバットは持って行きません。組織でも同じです。戦略に応じた人材設計がなければ、人事制度は飾りで終わります。 そしてこの人材設計は、組織ごとに異なる課題や期待、例えば、ベースアップによる生活保障の強化、シニア層の活性化、成果主義の徹底による成長促進などに応じてカスタマイズされるべきです。  さて、ここからようやく「等級制度」と「評価制度」の話になります。まず等級制度とは、言ってみれば組織の“階段”です。階段の数や幅、勾配が曖昧な家には、誰も住みたくありません。それと同じで、等級制度が曖昧な組織では、人材も成長の階段を上ることができません。  特に管理職層は、組織の階層構造に合わせて設計すべきです。部長が5人もいるのに部が3つしかない、という奇妙な家をたまに見かけます。非管理職層においては、社員の成長段階に応じた等級が必要です。さらに、専門性を武器にする社員には、市場価値に即した等級幅を設定しなければ、すぐに家出(転職)されてしまいます。  では、等級をどう定義するか。等級定義とは、その等級の社員が「何を果たすべきか」を示すものです。入社から上位ポストに至るまでの「成長曲線」を表現することで、キャリアの道筋が見えてきます。そしてその定義は、抽象的であってはなりません。具体化の一つの手法が、PDCAサイクルで定義を組み立てる方法です。 たとえば: Plan:組織が実現すべき方針・目標を描き、達成するための計画を逆算して立てる。 Do:組織目標の進捗状況を適切に管理し、円滑かつ確実に計画を遂行する。 Check:組織で起きている問題課題分析・整理し、妥当性の高い根拠により状況を正確に読み取る。 Action:組織に顕在する問題・課題を明確化した上で、解決策・改善策を検討し方針を決め、重点的に取り組む。  これはあくまで定義を具体化するための“例”であり、他の切り口も存在します。しかしPDCAは、等級定義を評価制度にスムーズに接続するフレームワークとして非常に有効です。  また、よく誤解されるのですが「Do(実行)」が1項目だけでよい、という意味ではありません。たとえば「組織外連携」「人材育成」など、同じ“Do”のカテゴリでも複数の観点を立てて構いません。重要なのは、バランスよく行動全体を捉えることです。定義と評価が地続きであること。これが、評価制度を“後づけの査定”から“成長のマイルストーン”へと進化させるコツです。  そして最後に、昇格の基準について明確にしておきたいのですが、よく「スキルレベルが上がったから昇格」と捉えがちです。しかし、そうではありません。その等級で定義された“評価項目”を、一定水準で実行できているか。つまり「そのレベルの人として安定的に機能し、次のステップに進めること」が、昇格の本質です。  ここで、忘れてはならない前提があります。 人は評価されるために成長するのではありません。成長した事実を評価されるのです。  評価制度とは、誰かを選別するためのものではなく、社員一人ひとりが、自分自身の成長曲線を描き、それを歩んでいくための道標です。だからこそ、「今の組織に必要な成長」と「社員が歩みたい成長」を重ねる制度設計が求められます。”年功か成果か、ではなく、両者をどう融合させるか”それが、制度に命を吹き込む発想です。  ここまで読んで、「そんな細かく決めると、自由がなくなる」と言いたくなるかもしれません。ご安心ください。骨格を決めることは、自由を奪うのではありません。むしろ、成長の自由を保証するためにこそ、骨格が必要なのです。 あなたが今立っている組織には、ちゃんと階段がありますか?それとも、3階建ての家なのに、はしご一本で運用していませんか? *「人事制度設計」を考えるコラム2回シリーズ。  第2回のコラムは2025年7月上旬までに掲載予定です。 本コラムの筆者登壇セミナーのアーカイブ配信お申込み受付中  公開期間2025年6月16日~27日!  ぜひお申込みください。 詳細はこちら  

「ヘルメットの中の人的資本」 ~アメリカンフットボール式、社員を“戦力化”する人事運用の極意~ | 人事コンサルティング

「ヘルメットの中の人的資本」 ~アメリカンフットボール式、社員を“戦力化”する人事運用の極意~

 私の好きなスポーツの1つにアメリカンフットボールがある。 あの重厚な装備、緻密な戦略のぶつかり合い、そして一瞬の判断が勝敗を分けるスポーツに、私は人的資本経営の本質を感じてしまう。 ※本コラムとは全く関係ないが、2028年ロサンゼルス五輪ではボディコンタクトのないアメリカンフットボール=フラッグフットボールが正式種目になっていることを宣伝させていただきます。  日本企業も「人的資本経営」という言葉に本気で向き合い始めているが、情報開示が目的となっていないだろうか。 本質はそんな薄っぺらい"バズワード"ではない。これは、人事戦略の“表紙”を差し替えるような、流行り物ではなく、 人事制度の「運用」そのものをアップグレードするという、もっと泥臭い話なのだ。そしてその泥臭さが、実はアメリカンフットボールにそっくりなのだ。  アメリカンフットボールの特徴は、選手が極端に専門化されている点だ。 例えば「クォーターバック(QB)」は司令塔の役割で、戦況を読み、瞬時に判断してボールを投げる(走る)頭脳型ポジション。 一方、「オフェンシブライン(OL)」は、体格の大きさとパワーで敵を押しのけ、仲間を守る縁の下の力持ち。 そして「ワイドレシーバー(WR)」は俊敏なスピードで敵陣を駆け抜け、パスをキャッチする花形。どの選手も能力も役割も全く違う。 「全員に同じ練習をさせる」などという発想は、勝負の世界ではナンセンスなのだ。  人的資本経営も、まさにこの「選手一人ひとりにフィットした人事制度の運用」が肝心だ。 企業が制度を作るとき、多くは「全社員共通」の基準で評価や育成を設計する。 しかし、実際の現場では「型にハマらない社員」こそがスーパープレーを見せるスタープレイヤーになり得る。 社員の性格も能力も異なるのに、画一的な評価制度、共通の研修、同じキャリアパスでは、スタープレイヤーは生まれにくい。  人的資本経営とは、この“ポジション別マネジメント”の視点を人事制度に持ち込むことに他ならない。 例を挙げれば、クリエイティブな思考を求められるマーケティング職と、緻密な計画性が求められる経理職では、当然伸ばすべきスキルもキャリアの描き方も異なる。 にもかかわらず、同じ評価項目で比べ、同じ階段を上らせようとする。 これは、QBに「パワーで敵を押しのけろ」と言い、OLに「俊敏なスピードで敵陣を駆け抜けろ」と言っているようなものだ。 それでは勝てるはずがない。  そして、アメリカンフットボールのもう一つの特徴。それは「プレイブック」という戦術マニュアルだ。 状況に応じた複数の選択肢を用意し、選手が自分の役割を瞬時に判断できるようにする。 人的資本経営でも、「社員が自分の成長を描けるプレイブック」が必要だ。 単なる人事制度ではなく、社員が「自分はどこを目指すべきか」「今、何を強化すべきか」を把握できる仕掛け――たとえば、スキルの見える化や、個別のキャリアマップの設計がそれにあたる。  最後に忘れてはならないのが、「ヘッドコーチ」の存在だ。 試合中、選手たちに指示を出し、状況を分析し、最適なプレーを選ぶ。社員を本気で成長させるには、マネージャー自身がコーチとしてのスキルを持っていなければならない。 つまり、社員の成長に本気でコミットするということ。 人的資本経営は、人事部だけの仕事ではない。現場マネージャーも育成のプロであり、育成観と目利き力、これこそが、最も重要な“隠れた資本”なのだ。  このコラムの読者の会社が今、負けが込んでいるとしたら、それは戦略のせいではなく、選手の特性を見抜かずに、全員に同じプレーをさせているからかもしれない。  アメリカンフットボールに勝利の方程式はない。 だが強いチームには共通点がある。 それは、一人ひとりの特性を見極め、最適な育成と戦術で活かす"人事制度の設計"と"運用"が徹底されていることだ。  さて、あなたの会社にとっての「QB」は誰か? 「OL」は?「WR」は? その選手たちに、適したプレイブックは用意されているだろうか? あなたのチームは、勝つ準備ができているだろうか? 本コラムの筆者が登壇するセミナーのアーカイブ配信をしております。ぜひご視聴ください。お申込みはこちら 【アーカイブ配信】シニア人材を活かす人事制度 ~70歳まで雇用を見据えた人事制度のあり方とは~

人事制度とは? | 人事制度

人事制度とは?

人事制度とは、企業が従業員をどのように採用し、育成し、評価し、昇進させるかを定める仕組みのことです。 これには賃金制度、キャリアパス(等級制度)、評価制度が含まれ、昇進制度や定年再雇用制度、教育制度、福利厚生などのサブシステムが含まれます。 適切な人事制度は、企業の競争力を高め、従業員のモチベーションを向上させ、企業の持続可能な成長に寄与します。 人事に求められるのは「人事管理」 良い人事制度とは、以下の3つの観点での「人事管理」が実現できる制度です。 ①量の合理性:経営計画を達成するのに必要な人材が調達され適正な配置がされている ②システムの合理性:企業の目標を達成する管理がなされている ー社員に期待される目標をより高く達成できる仕組み・状態となっている ③継続の合理性:中長期の経営計画と連動した人事の仕組みが構築されている 人事制度を作る際に、これら3つを念頭においてプロジェクトを進めていく事が重要です。 人事制度設計を行う目的 人事制度の改訂を行う目的のいくつかの例を見ていきましょう。 若手採用の競争力を高める 少子化の時代、若手人材の採用は競争的になっています。自社の採用競争力を高めるために、賃金制度の見直しは有効な打ち手になりえます。 新卒や若手の求める給与水準を把握し、他社と競争力のある賃金制度を構築することは、優れた若手人材を獲得するための鍵となります。 また、若手が長期的なキャリアを描けるよう昇進制度も整備する必要があります。 定年後再雇用や定年延長の検討 社会全体の労働人口が高齢化している現代では、定年後再雇用や定年延長は現実的な選択肢です。 経験豊富な社員が長期間にわたり活躍できる制度を設計することは、企業にとっても大きなメリットです。 これは従業員のモチベーションを保ち、知識やスキルの継承にも役立ちます。 昇進・昇格の基準を明確化 従業員がどのように成長し、昇進・昇格するかの基準を明確にすることは、従業員のキャリア形成を促進します。 透明性のある評価基準を設けることで、従業員の努力が正当に評価される環境を作り出し、企業全体のモチベーションを向上させます。 貢献度を評価する 従業員の貢献度をしっかり評価し、その結果を処遇に反映する制度は、成果主義の企業文化を醸成します。 これにより、従業員は自己の成果が正当に評価されると感じ、さらなる成果を目指して努力するようになります。 人事制度設計を行う際のメリット・デメリット メリット 社員のモチベーション向上: 明確な評価基準と適切な報酬制度により、社員の働く意欲が高まります。 競争力の強化: 競争力のある賃金制度を整備することで、優秀な人材の確保が容易になります。 長期的な成長: 昇進・昇格の基準を明確にすることで、社員の成長を促進し、企業の持続可能な発展に寄与します。 高齢者活用: 定年延長や再雇用制度により、高齢者の知識や経験を有効活用できます。 デメリット コスト増加: 人事制度の見直しにはコストと時間がかかります。特に賃金制度の変更は、企業にとって大きな財政的負担となります。 抵抗感: 新しい制度に対する社員の抵抗感が生じる可能性があります。特に長期間働いている社員にとっては、新しい評価基準に順応するのが難しい場合があります。 複雑性: 企業の規模が大きくなるほど、人事制度の設計が複雑化します。それに伴い、管理が困難になる可能性があります。 人事制度設計の流れ STEP1◆人材育成支援 まず、現行の人事制度の課題点を洗い出します。 財務を含めた定量分析(当社では「人事アナリシスレポート」という分析を用います)、社員アンケート、キーマンインタビューを実施し、現場の声を集めます。 現行制度の内容を確認することも必要です。その結果から従業員の意見をもとに、制度の良し悪しと改善ポイントを明確にします。 現状分析は、めざす人・組織の姿がどのようなものであれ、将来の人事制度改革の基盤を作るために不可欠です。 STEP2◆目的の設定 人事制度設計の目的を明確にします。 社員の処遇改善、高齢社員の活躍推進、昇進・昇格基準の明確化による社員の成長意欲の喚起など、具体的な効果を求めるべきです。 目的がはっきりすれば、それに基づいた合理的な制度設計が可能となります。 また、人件費総額を何%まで上げることが許容されるのかや、導入時期について、経営としっかり合意形成しておくとよいでしょう。 STEP3◆概要設計 目的に沿った新しい人事制度の概要を設計します。競争力のある賃金体系、高齢者の活用方針、適正な評価制度などの骨組みを作ります。 概要設計は全体像を把握し、次の詳細設計へのステップアップを容易にします。 概要設計は新しい人事制度の設計図として、概要設計が完成した段階で、経営の合意を取り付けるとよいでしょう。 STEP4◆詳細設計 概要に基づき、具体的な制度の詳細を策定します。このフェーズでは、各制度の具体的な内容、評価基準、昇進・昇格の条件などを詳細に設計します。 評価項目を設計する際には、現場の意見をアンケート等で集約し、多様な職場でも使いやすい項目にするといったプロセスも重要になります。 さらに、最終的な人件費総額がどうなるかのシミュレーションを行い、チューニングを行うことも不可欠です。 STEP5◆導入支援 設計した制度を社内に導入します。社員説明会や評価者研修などを行い、新しい制度に対する理解を深めます。 特に評価制度については、透明性と公平性を強調し、社員の納得を得ることが重要です。導入支援は改革の成否を決定する重要なフェーズです。 STEP6◆フィードバックと改善 新制度導入後は、一定期間ごとに社員からのフィードバックを集め、必要に応じて制度の改善を行います。 これにより、制度が社員にとって使いやすく、企業にとって効果的なものになります。 制度設計の最初の段階で実施した定量分析と社員アンケートを、制度改定後2年目のタイミングで実施し、以降も定期的に実施します。 そうすることで、社員のフィードバックを集めやすくなり、効果検証もできるため、持続的に改善しつづけることができます。 人事制度設計の事例紹介 ▼事例1: 若手採用を強化したA社 A社は若手の採用競争力を高めるために、賃金制度を大幅に見直しました。 新卒社員に対して競争力のある給与を提示し、早期の昇進制度を導入することで、有能な若手人材の獲得に成功しました。 また、社員のキャリアパスを明確に示すことで、若手社員のモチベーション向上と定着率の改善に寄与しました。 ▼事例2: 定年延長を推進したB社 B社は社員の高齢化に対応するため、定年延長制度を導入しました。 経験豊富な社員が継続して活躍できる環境を整備し、知識とスキルの継承を実現しました。 定年延長により、会社全体の経験値が高まり、若手社員の教育にも大きく寄与しました。 ▼事例3: 評価制度改革で成果を上げたC社 C社は従業員の貢献度を高く評価する制度を導入しました。 成果主義を徹底し、透明性のある評価基準を設定することで、従業員のモチベーションが大いに向上しました。 評価結果を処遇に反映させることで、従業員は自身の成果が正当に評価されると感じ、さらなる成果を目指して努力するようになりました。 ▼事例4: 昇進・昇格基準を明確にしたD社 D社は社員の成長を後押しするため、昇進・昇格の基準を明確化しました。 透明性のある基準を設定することで、社員は自身の目指すべき方向を明確に把握でき、キャリア形成を促進されました。 結果として、社員のモチベーションが向上し、企業全体の活力が増しました。 コンサルティングの重要性 上記のような成功事例を達成するためには、適切な人事制度コンサルティングの支援が欠かせません。 専門的な知識と経験を持つコンサルタントが、貴社の具体的なニーズに対応し、最適な人事制度設計をサポートします。 人事は、誰もが一家言あり、さまざまな意見が寄せられやすい領域です。 分析に基づく客観的な外部からの視点と専門知識は、プロジェクトを前に進め、社内合意を形成する上で非常に有益です。 結論として、人事制度設計は企業の成長を支える重要な要素です。 「人事制度 コンサルティング」サービスを活用することで、目的を明確にし、現状を網羅的に把握し、社員の声を反映させた制度設計を行うことが可能です。 どのような課題であれ、適切なコンサルティングを受けることで、その解決に向けた道筋が開けるでしょう。 結論として、人事制度設計は企業の成長を支える重要な要素です。 「人事制度 コンサルティング」サービスを活用することで、目的を明確にし、現状を網羅的に把握し、社員の声を反映させた制度設計を行うことが可能です。 どのような課題であれ、適切なコンサルティングを受けることで、その解決に向けた道筋が開けるでしょう。

人事コンサルティング会社 活用の6つのポイント~「人事制度設計」「人材育成/組織開発」編 | 人事コンサルティング

人事コンサルティング会社 活用の6つのポイント~「人事制度設計」「人材育成/組織開発」編

人事コンサルティングとは―人材マネジメントを伴走サポート コンサルティング会社は特定の事柄や分野について専門的な知見や経験を有し、企業の担当部門の社外アドバイザー・業務委託先として支援を行います。 人事領域を専門とするコンサルティング会社は、人材マネジメントの諸機能(「採用」「育成」「評価」「報酬」「配置」「代謝」)の強化を支援する存在です。 これらのうち、採用に関しては、採用エージェントを利用する会社も多く、すでに多くの情報が存在しています。 一方、採用以外の人材マネジメント機能(「育成」「評価」「報酬」「配置」「代謝」)のコンサルティングについては、情報が開示されていない、あっても限定的で「よくわからない」のが実情ではないでしょうか。 本稿では、これら(「育成」「評価」「報酬」「配置」「代謝」)の領域に該当する「人事制度」「人材育成/組織開発」のコンサルティングサービスについてご紹介します。 また、後段では、人事コンサルティングを上手に活用する6つのポイントをご紹介します。 人事コンサルティング会社が提供するサービス例 ◆組織の現状分析を通じて「課題特定」や「解決策の方向づけ」を行う コンサルティング会社は、まずご依頼テーマに関する「課題特定」「解決策の方向づけ」のために組織の現状分析を行います。 現状分析の方法はさまざまで、人事制度のように複雑性の高い施策では、現状分析も網羅的に、一定の時間をかけて行います。 より簡略的な方法としては、ヒアリングや資料の読み込みだけを行う場合もあります。 当社の支援方法としては以下のような分析ツールがあります: 人事全体の状態を把握する「人事アナリシスレポート」 従業員意識調査である「モチベーションサーベイ」 特定の人材に対する調査として、「人材アセスメント」「360度診断」 その他、アンケートやヒアリング ◆人事戦略を策定する 中長期的な戦略的視点から、求められる人材ポートフォリオと人材マネジメントポリシーの策定を支援します。 支援方法は、アンケートを通じた現状分析から出発することが多いです。 人事戦略をコンサルタントが一方的に策定するというより、経営陣のディスカッションやワークショップなどを通じて、社内を巻き込み策定することが一般的です。 ◆人事制度を設計する 人事戦略や現状の人事管理の課題を踏まえて、等級、賃金・評価の仕組みを具体化していきます。 支援方法は、業務委託で制度設計の作業を請け負う方法と、人事部が設計した制度をコンサルタントがレビューする方法などがあります。 ◆制度の運用を支援する 人事制度の運用がスムーズに行われ、制度のねらいが実現するための取り組みを支援します。 よくあるのは評価制度の運用支援で、評価者研修、目標設定会議支援、評価会議支援等があります。 ここで重要なのは、運用に課題があるときに原因は何かを確認することです。制度に問題がある場合や、運用に関わる環境に問題がある場合もあります。 その場合は、運用支援ではなく、制度の見直しや運用環境の整備を行う必要があります。 ◆人材育成支援 求められる人材を輩出するために、今いる人材のスキルやマインドを強化するアプローチです。 人材育成施策は、求められる人材像と現状のギャップから育成課題を絞り込みます。 そして、受講者が当事者性をもって内容を理解し、結果として翌日からの行動が変わるようにすることを目指して施策を設計します。 事前の受講者の状態把握と、それに基づく研修の設計、事後のフォロー策や定着施策など、一連で設計することが重要です。 研修会社は世の中に数多くあり、それぞれ得意領域や、派遣できる講師の幅とレベル、プログラムが決まっているかカスタマイズか、などに特徴があります。 ◆組織開発支援 組織開発のテーマに沿って、さまざまな人事施策や研修施策等を実施します。 具体的には以下のような支援があります: ミッション・ビジョン・バリューの策定と浸透 風通しの良い組織風土づくり チームビルディング 組織活性化のための各種ワークショップ 組織診断と改善施策の立案 これらの施策を通じて、組織全体の生産性向上や従業員エンゲージメントの向上を目指します。 ◆代謝施策支援 「代謝」とは、組織の新陳代謝を促進し、活力を維持するための人材の入れ替えを指します。 具体的には、役職定年制度や早期退職制度などの仕組みの設計と運用を支援します。 これらの制度は、組織の年齢構成の適正化や人件費の最適化、新たな人材登用の機会創出などを目的として導入されます。 人事コンサルティングを依頼する6つの要件 人材マネジメントを自社で行っている 人事部ないしは人事のキーマンがいる 人に関わるコスト/ポートフォリオ/パフォーマンスのいずれかに課題がある 社長・経営陣の人事に対する関心が高い 施策の実施から効果検証まで最低2年間の期間を確保できる 施策のための予算を確保できる 貴社のご状況に当てはまるものはあるでしょうか? 当てはまる場合はもちろん、多少該当しない項目があったとしても、ぜひまずは、コンサルティング会社に相談することをお勧めします。 コンサルティング会社は豊富な経験があるので、適切な進め方をご提案できるかと思います。 それでは、一つずつ、具体的な内容をご説明します 1 人材マネジメントを自社で行っている 人材マネジメント(「採用」「育成」「評価」「報酬」「配置」「代謝」の機能)を自社で実行する権限や資源を有していることが重要です。 これは、コンサルティングで提案された施策を実際に導入・運用できる体制があることを意味します 人材マネジメントを自社で行っていない/困難な場合とは、たとえば以下のような状況です: 人事の機能が「労務管理のみ」「外注管理」になっている 親会社の出向者が多く、処遇や異動は親会社が決定している 自社が人材マネジメントを自律的に実行するのが難しい場合は、 まず、社内で課題を整理し、「誰が課題解決を主導するのか」「リソースをどう確保するか」検討することから始めてはいかがでしょうか。 2 人事部ないしは人事のキーマンがいる 人事コンサルティングの成否は、人事担当者の力量に大きく左右されます。 コンサルティングを活用して組織の課題を解決するには、プロジェクトを推進する人事担当者が重要な役割を担うからです。 人事コンサルティングを進める上で、人事担当者には以下のような役割が期待されます: プロジェクトの推進(スケジュール管理、必要な調整、社内説明など) 社内の状況や課題の把握と共有 コンサルタントとの議論を通じた施策の検討 施策の社内展開(説明会の実施、運用フォローなど) このような役割を担える人事担当者がいない場合は、まず人事機能の体制整備から着手することをお勧めします。 3 人に関わるコスト/ポートフォリオ/パフォーマンスのいずれかに課題がある コンサルティングを依頼する際は、解決したい課題が明確であることが重要です。人材マネジメントに関する課題は、大きく以下の3つに分類できます: コスト:人件費、採用コスト、教育コストなど ポートフォリオ:年齢構成、スキル構成、配置状況など パフォーマンス:生産性、モチベーション、組織風土など これらの課題は相互に関連していることが多く、一つの施策で複数の課題に対応することもあります。 また、課題の優先順位や解決の方向性は、事業戦略や経営状況によっても異なってきます。 4 社長・経営陣の人事に対する関心が高い 人事施策は、組織全体に影響を与えるため、経営陣の理解と支援が不可欠です。特に以下のような場面では、経営陣の関与が重要になります: 人事戦略の策定時における経営方針との整合性確保 制度改定に伴う予算確保や人員配置の決定 新制度の社内展開における経営メッセージの発信 施策実施後のモニタリングと軌道修正の判断 経営陣の関心が低い場合、施策の検討や実施に必要な経営判断が遅れたり、社内展開の際に経営陣からの後押しが得られにくくなったりする可能性があります。 5 施策の実施から効果検証まで最低2年間の期間を確保できる 人事施策は、その効果が表れるまでに一定の時間を要します。特に以下のような施策では、長期的な視点での取り組みが必要です: 評価制度の定着(1年以上) 育成施策の効果測定(半年~1年) 組織風土の改革(2~3年) 人材ポートフォリオの適正化(3~5年) 短期的な成果を求めすぎると、本来必要な施策が実施できなかったり、効果検証が不十分なまま次の施策に移行したりする可能性があります。 6 施策のための予算を確保できる 人事コンサルティングの費用は、支援内容や期間によって異なりますが、一般的に以下のような費用が発生します: コンサルティング費用(現状分析、制度設計、運用支援など) システム関連費用(必要に応じて) 研修・説明会などの実施費用 制度改定に伴う人件費の増加 これらの費用に対する投資対効果を検討し、必要な予算を確保することが重要です。 まとめ 人事コンサルティングは、専門的知見や豊富な経験を活用して、効果的・効率的に人事課題を解決するための手段です。 成功のためには、適切な体制と環境を整えることが重要です。 上の6つの要件を参考に、自社のご状況を確認して、どのようにすれば人事施策がうまく進むか、人事コンサルティング会社に相談されてみてはいかがでしょうか。

VUCAリーダーをどう見極めるか(アセスメント活用の勘所③) | 人材アセスメント

VUCAリーダーをどう見極めるか(アセスメント活用の勘所③)

 心理検査においては、被験者を理解するために、複数の検査を行うことを「テストバッテリーを組む」という。たとえば、知能検査と発達検査と性格検査等で多面的に診断することを意味し、性格検査も質問紙で本人が意識しているものだけではなく、よく知られるロールシャッハ検査で無意識領域での性格も把握したりする。被験者の心理特性を全体として正確に測定できなければ、適切な治療や支援ができないからだ。  2回にわたって書いてきたような登用判断における、社内評価の限界やアセスメント手法の効用と限界を踏まえれば、心理検査同様に、登用審査用のテストバッテリーを組むことが望ましい。まずは、自社の管理職者選定として、「何を見極めたいか」を明確にしたうえで、最適の❝テスト❞の組み合わせを用意する。管理職としての能力発揮可能性判断が必須であれば、センター方式アセスメント。加えて、貢献意欲やエンゲージメントレベルや経営に臨む姿勢を見たいのであれば、社内論文審査や役員面接審査も併用する。自社固有の知識の有無も必須であれば、その審査も加える。  ちなみに、社内審査を組むうえで大事なことは、見極めたい要件にあわせ、論文や面接のテーマ(問い)と要件別の評定基準をきちんと設計し、❝テスト❞として仕様化することだ。社内審査でありがちな印象バイアスを排除するためにも、「何を問い、何を判断するか」を面接する役員に任せたりしてはいけないのである。  前回指摘した、対人面の能力把握におけるアセスメントの限界を踏まえれば、審査用のテストバッテリーには、360度診断を組み込むことお勧めする。対人能力については、アセスメント結果と社内評価を比較検討することでもよいが、社内評価もまた「上からの評価」という限界がある。360度診断で集計される、日々直接接している部下たちからの対人能力評価こそがはるかに有効な情報であることは明らかだろう。  テストバッテリーを使う審査で大事なことは、すべてのテストをクリアした人だけが合格といった硬直的な運用をしないことだ。でこぼこがありつつも重要な能力がはっきりと高い人であれば、その弱点を補完する組織的な手立てを含めた登用判断をすればよい。要件別にそのレベルがみれるのでそうした判断をしやすいということが、テストバッテリーのいちばんの効用である。  ただ、ここにもまだ限界がある。あくまでも、判断できるのは「従来型のマネジメント適性」にとどまるということだ。既存の事業と組織を管理統制し、定まったゴールに向け人々を動かし組織成果を上げていくマネジメントであれば、まったく問題はないが、もしVUCA環境下で自ら新しい領域を切り拓くマネジメント能力を測りたいとなれば、これだけでは足りない。  ではVUCA対応能力をどうみるか。そのためには、イノベーティブな思考力を見極めるアセスメントが必要である。たとえば、同じ「課題解決力」と「リーダーシップ力」が高い人材であっても、「A=既存の事業や業務を堅実に遂行しうる組織リーダー」と「B=先が見えず不透明な状況下で新しい発想や従来とは異なる取り組みによる課題解決をリードしうる組織リーダー」を分けるものは、イノベーション適性の有無だからだ。  認知科学や創造性研究の知見によれば、イノベーション適性とは、 ■新しいことを始める能力(概念的に考える能力、創造的に考える能力、構想と現実を結びつける能力)  といった思考特性に加えて、 ■人々と共創する能力(考えを語り合い、巻き込む能力) ■面白がる能力(好奇心もってモチベーション高く取り組む能力)  といわれる。これらは、「行動」からの推察は難しく、アタマの中の思考過程や内発的動機をのぞかなければならないから、❝テスト❞を組むには工夫がいる。  こうした能力を検出する方法は、3つある。 ① 自在な視座・視野の拡張と思考の柔軟性をみるべくテーマを設計した論文審査 ② 過去の業務における変革や革新の経験を詳細に問う面接審査 ③ イノベーション適性を測る専用アセスメントの併用  上記の①と②は、社内審査では、回答から思考力を正確に測定するのは難しいので、❝専門家(アセッサー)が評定するテスト❞としての設計が必要になる。③については、我々が、イノベーション人材の発見・活用のために使っているツール(イノベーターズ・ディスカバリー)をテストバッテリーに組み込むことを推奨したい。上記のイノベーション適性である発散系の思考力(概念化、類推、発想など)や面白がって新しいことに取り組む資質(知的好奇心、内発的動機など)を評定できるからだ。  3回にわたって、アセスメント活用の留意を書いてきた。まとめれば、 ・「入学審査」たるべき登用審査には、センター方式アセスメントが有効な道具であること ・しかしその効用と限界を踏まえれば、社内審査を含むテストバッテリーを組むべきであること ・それにより、一律的硬直的ではない、個々人の能力プロファイルにあわせた登用判断ができること ・併せ、VUCA対応力を見極めるには、イノベーティブな思考力を測る工夫がいること 通底してもっとも大事なことは、「一般論ではなく自社の」、また「現在ではなくこれからの」、管理職者として何を見極めたいのか、をまず最初に明確にすることである。 ■「登用の失敗」はなぜおこるか(アセスメント活用の勘所①) ■外部視点評価を過信するな(アセスメント活用の勘所②) ■VUCAリーダーをどう見極めるか(アセスメント活用の勘所③)今回  

外部視点評価を過信するな(アセスメント活用の勘所②) | 人材アセスメント

外部視点評価を過信するな(アセスメント活用の勘所②)

 管理職の登用試験として使われるアセスメント(アセスメントセンター方式)は、シミュレーション演習下の候補者たちの言動をアセッサーという専門家が観察・評価する。それが登用試験として効果的なのは、「入学評価」つまり、まだやったことのない管理職の必要な能力をもっているかどうかの見極めができるからだと、前回書いた。  社内評価は、環境要因や情状、主観も影響するし、どうも能力評価が正しいかどうかもあやしい。だから客観的で正しいであろう外部視点評価を使う、ではないことに留意したい。あくまでも、社内評価=現状職務での能力発揮に対して、アセスメント=「未経験の職務」の能力発揮可能性を測定できることの効用、ということだ。  ことさらにこう書くのは、ときに、アセスメントの結果だけで管理職の登用判断を行っている会社もあるからである。アセスメントは、管理職能力発揮可能性を診るには信頼性の高い、しかも相対評価でない絶対評価の手法ではあるけれども、そこには、すぐれた効用とともに限界もある。だから、テストとして合格点クリアだけで登用者を決めるという単純な運用をすることにはリスクがある。   よくなされているように、社内評価(人事考課を含む経営の評価)の高低とアセスメント結果の高低を二軸にとって、4象限にプロットし、ギャップある象限の人たちを個別詳細に検討するといった総合的な判断は、最低減必要なことである。そのポイントは、ギャップの原因を、総合点だけではなく、ディメンションごとに検討することだ。たとえば、オペレーショナルな能力(情報理解力、分析力など)と経営的能力(戦略立案力、視座の高さ、人材育成力など)にわけて見る。  前者は、現状職務と今後になう管理職務でも通底するから、ギャップがあれば気になるところだ。【社内>アセスメント】であれば、その人には専門性や業務習熟の面で強みがあるのかもしれないし、【社内<アセスメント】であれば、現状職務や職場とのミスマッチに起因するのかもしれない。後者の経営的能力は、現状職務では求められていないことも多いから、アセスメントならではの能力評定判断として優先できるが、権限移譲して管理職務を一部担わせているような場合、その社内評価とのギャップがあれば、その理由についての検討が必要だろう。  とくに、注意が必要なのは対人能力である。そこに、アセスメントという手法の限界があるからだ。アセスメント・ディメンションは、①思考系能力(課題解決や方針・計画を策定する力) ②対人系能力(他者を理解し動かす力) ③資質・姿勢(達成志向や自律一貫性) の3カテゴリーに分かれている。うち、①と③は、かなり正確に測れるけれども、②の評点には注意が必要なのである。  なぜか。シミュレーション演習のなかでは、対人行動は「演じる」ことができるからである。演習のなかに、「面接演習」というものがある。アセッサーが厄介な部下役となり、部下面談をやってもらうものだが、試験として観察されているわけだから、実はハラスメント満々の人でもそれをおくびにも出さずに、正しい部下コミュニケーションを演じたりする。本性を見たいアセッサーは、ことさらに嫌な態度で応えるのだが(まれにそれが昂じて、リアルに喧嘩になってしまうほど)、思考力の高い人であればなおのこと、効果的な演技に徹する。  逆に、アセスメントでは対人系能力の評点が低い人が、実は、日常業務ではたいへんな「人たらし」で仕事の成果を出していたりする。この対人能力も、アセスメントではたいへん見にくい。シミュレーションのなかで、人をたらしこむ必要もないし、そもそも、個々人の行動発揮から保有能力を測るアセスメントでは「他者を動かし、他者を巻き込んだ」行動発揮は、見ようがないからである。  もう一点、留意すべきアセスメントセンター方式の限界がある。アセスメントは、モチベーション=内発的動機を無視していることだ。内発的動機は、思考力とくに創造や発想、企画に関わる能力の原動力であることが認知科学領域では定説である。しかしアセスメントは、アウトプットされた行動から思考力を推察するものだから、アタマのなかのメカニズムは見られない。思考力を駆動する内発的動機をもつ人の強みには関知しないのだ。  たとえば、目の前の仕事が大好きで、なんとかお客さんに喜んでもらいたい、価値提供したいとエンゲージされ、日常業務では高い能力を発揮している人が、「あなたは、〇〇工場に工場長として赴任しました…」というシミュレーション・ケースに臨んだとき、持ち前のモチベーションの高さが再現できなくても不思議ではない。結果、思考力の評点が低く出ているとすれば、そのギャップは慎重に検討すべきだろう。  ゆえに、アセスメントの効用(と限界)を正しく理解し、社内評価や社内での職務状況とのギャップを併せ、総合的な登用判断を行うことが必要なのである。 *アセスメント活用の効用と留意について提起する3回シリーズ。 ■「登用の失敗」はなぜおこるか(アセスメント活用の勘所①) ■外部視点評価を過信するな(アセスメント活用の勘所②)今回 ■VUCAリーダーをどう見極めるか(アセスメント活用の勘所③)  

「登用の失敗」はなぜ起こるか(アセスメント活用の勘所①) | 人材アセスメント

「登用の失敗」はなぜ起こるか(アセスメント活用の勘所①)

 きっちりと成果を出し、職務遂行能力にも問題ないと判断して、管理職に登用してみると、どうにも困ったマネジャーだったということがある。なんであんなヤツを上げたんだ、と人事部が経営から非難される、いわゆる管理職への「登用の失敗」。その原因は、名プレーヤーは必ずしも名監督ではない、というありふれた警句そのものにある。  つまり、卒業評価≠入学評価であるのにも関わらず、卒業評価だけで昇進を決めてしまうからだ。在籍等級でのパフォーマンスが高いけれども、管理職としてやれるかどうかはわからないのに上げてしまうということである。じっさい多くの会社の昇進運用は、卒業評価だけに終始しているように見える。  『日本の人事部 人事白書2024』(株式会社HRビジョン)によれば、管理職登用に際して重視する要件は、①これまでの実績・成果(75%)、②保有している能力(60%)、③人柄(50%)。名プレーヤーであれば当然、①実績・成果は申し分ない。問題は、②保有能力である。  それを、何で見るか。『JMAM 昇進昇格審査 実態調査2022』(株式会社日本能率協会マネジメントセンター)によれば、審査内容のトップ2は、「人事考課」(87%)と「上司推薦」(81%)。人事考課の結果は、現在の等級における能力評価であって、管理職能力の有無やレベルは示さない。管理職業務は経験していないし、評価項目も管理職能力ではないからだ。上司推薦では、「こいつは、管理職もできそうだ」という上司の判断はあるだろうが、客観性には疑問がある。  半数程度の会社が、テストも行っているが、「面接試験」(58%)や「論文・レポート試験」(46%)、「社内知識試験」(42%)といった社内基準の試験がほとんどで、意欲や知識は見て取れるものの、管理職に必要な能力を客観的に測定するものとは言えない。昇進に際して、管理職能力の多寡、つまり管理職ができるかどうかの可能性判定をしないで決めている会社がじつに多い。  やるべき入学評価とは、卒業できる(=当該等級での必要能力を持ち結果も出している)候補者たちの、管理職という「未経験の職務」の能力発揮可能性を判定することだ。その方法として、一番確かなのは、実際に管理職務をやらせてみることである。たとえば、上司(課長)の視点にたって自組織の課題を設定させ、1年間のPDCA実践による課題解決を課し、役員面接などで「課題の妥当性と実践の成果」を判定する審査プロセスを組めばよい。  ただこの方法は、もっとも効果的実践的ではあるものの候補者の負荷はもちろん、上司や人事部にとっての負荷が高い。端的に試験によって、管理職能力の発揮可能性を見たいということであれば、アセスメントセンター方式の能力評価を行えばよい。この方法は、まさに、「未経験の職務」の能力発揮可能性を診断するための専用ツールであり、管理職の職務状況をシミュレーション演習として用意し、候補者全員が同じ状況下での行動発揮を課せられ、その行動を観察・分析することで、保有能力レベルを判定する。  アセスメントセンター方式とは、第二次大戦中に諜報員の選抜試験として開発されたといわれる能力判定手法。社会心理学者クルツ・レビンの方程式B=f(P・E)を原理とし、行動(B)は、環境(E)と個人の能力・資質(P)の関数であるから、シミュレーション演習によって環境を固定し、そこでの行動を観察・分析すれば保有能力の評定ができるというコトワリである。  さきの昇進昇格審査実態調査によれば、約3割の企業がこの試験を行っている。昔から、昇進審査としてのアセスメントの精度は定評あるものの実施企業数がまだ少ないのは、ここに書いたような「登用の失敗」の原因にそもそも気づいていないか、あるいは、わかってはいても、試験と言いながらも、1~2日間の研修形式で行い、アセッサーという専門家たちが観察して評価するための手間と費用がかさむことがネックになっているのかもしれない。  しかし、能力測定手法においてもDX化は進んでいる。「未経験の職務」の能力発揮可能性を診断する原理とITC技術の融合により、自社の状況や要件や制約に即した「入学評価の道具」は、いかようにでも設計できるのである。 *アセスメント活用の効用と留意について提起する3回シリーズ。 ■「登用の失敗」はなぜおこるか(アセスメント活用の勘所①) 今回  ■外部視点評価を過信するな(アセスメント活用の勘所②) ■VUCAリーダーをどう見極めるか(アセスメント活用の勘所③)  

ダイバーシティ推進の3つのポイント | 人材開発

ダイバーシティ推進の3つのポイント

 「ダイバーシティ推進を進めるためにはどのようにしたらよいでしょうか?」以前ダイバーシティコンサルタントという立場で各企業の人材開発・組織開発に携わっていたころ、最も多く受けたのはこのようなシンプルな質問であった。  2023年のノーベル経済学賞は、男女の賃金格差についての包括的な研究を行った米ハーバード大学教授のクラウディア・ゴールディン氏が受賞した。日本でもメルカリが自社の男女の賃金格差を公表するなど、男女の賃金格差についての議論も多くなっている。 だが、日本はジェンダーギャップすら解消できていない。2023年の日本のジェンダーギャップ指数は世界125位で過去最低と世界標準から程遠いのが現状だ。  また、DEI(Diversity(ダイバーシティ)、Equity(エクイティ)、Inclusion(インクルージョン)の頭文字)という言葉を聞くことも多くなっており、ギャップの解消や平等性や公平性が混在して議論されているなど、各企業の取り組み状況はバラバラである。  ジェンダーギャップすら解消できていない状況の企業も多くあるが、成功するための3つのポイントを紹介したい。 ➀経営上重要な戦略としてのダイバーシティを明確に位置づける  社会的な要請から取り組む企業は多いが、あくまでダイバーシティをポジティブな変化として捉えイノベーションの創出や成長機会として捉えることが重要だ。 公平性が担保されているかどうかという各企業が取り組んでいる現在のステージから、 視野・視座を上げて組織力強化やビジネスシーズの創出という、成長機会の取り組みとしての早期のステージ転換が必要となる。 ➁ダイバーシティ推進管理職へ浸透させ、管理職の実行力を高める  中期経営計画にダイバーシティや女性活躍推進を盛り込んでいる会社は多いが、戦略や内容が各管理職に浸透していない会社が非常に多い。 なぜ自社がダイバーシティに取り組むのか共通言語化されていない会社は多い。 ダイバーシティ推進を進めるためには、ダイバーシティをどのように職場で推進し、成果に繋げるか管理職に腹落ちさせることが必要である。  また、視座や視野を高めるためにダイバーシティをテーマとした管理職への教育機会も必要。 ➂成功事例を社内で作り、社内外に情報発信する  カルビーの女性活躍推進事例(※1)が、非常に分かりやすい事例であるため、ここで紹介したい。カルビーは、顧客である消費者の半分は女性だから、女性の意見を取り入れて企業経営をするために、女性の管理職比率を多くすると、トップからメッセージを発信した。  その結果商品として生まれたのが、「フルグラ」。今では売り上げを支える重要な柱となっている。もちろん、イノベーションだけではなく、女性で時短勤務の執行役員を置くなど、戦略推進を支える組織作りも同時に行っていた。旗振り役であったトップが、結果を社内外に発信することで、カルビーは女性活躍推進を推進している企業であるというブランドイメージも獲得した。 社内外の結果のアピールは、浸透を進める上でも効果が大きい。  人的 資本開示の義務化など、社会的な要請が強くなり取り組んでいる企業も多いが、旗振り役であるトップからのシンプルで継続的な分かりやすいメッセージなど、一過性のものではなく、ダイバーシティは企業成長の源泉として継続して取り組み続けることが必要である。 経営層や人事・ダイバーシティ担当の皆様と共に解決できるように伴走していきたいと思う。 ※1 筆者による関係者ヒアリングと併せて、以下を参考:カルビー、7期連続の最高益の裏側に「女性の活躍」あり | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)  

数字で見る女性活用の現状 | その他

数字で見る女性活用の現状

 一歩社外に出ると、女性でも活躍できているのはなぜか、といった質問を受けることがある。筆者は、「女性“なのに”活躍できる環境」ではなく、「性別を意識せず1人の職業人として仕事ができる環境」こそが「女性活躍」なのではないかと考える。  当社には、男性用・女性用の仕事、といった概念や暗黙のルールが無く、個人の属性で仕事の割り振りや役位が決まることも無いため、性別を強く意識せずに働くことができる 。(注1) “何歳か・性別がどちらか”ではなく“できる人ができることをやる”、つまりは単に職務に見合う経験や能力を持つ人に仕事・役割を付与する単純な構造である。  労働人口統計等を見ると、こうした環境は、日本の平均的な企業の現状と大きく乖離していることが明らかだ。性別や年齢に全く関係ない役割の付与は、読者の皆さんの職場においてイメージし辛いことが実態ではないか。  ここでは、現時点の日本では、就業環境の男女差が大きい。統計値を参照し、差がどれほど大きいかを確かめる。さらに、経営者・人事担当者の皆様が性別による役割の違いが生じてしまう理由を調べたいと考えたときに取り得る最初の策を紹介する。           【図1】雇用者、正社員・正職員、管理職における男女比          出典:厚生労働省「令和5年度 女性の就業状況」「令和5年 賃金構造基本統計調査」  図1の円グラフでは左から順に、「雇用者」「10名以上規模の法人の正社員・正職員」「管理職(部課長)」の男女比を示している。雇用者全体では、女性の比率は46%と半分弱であり、人口比に近い(図1左)。しかし、正社員・正職員に絞ると、女性比率は1/3まで下がる(図1中)。非正規雇用で働く女性が多いためだ。さらに、正社員・正職員のうち、管理職に占める女性比率はたった13%まで下がってしまう(図1右)。  (注1)育児や介護等個人の事情で働き方を調整することはでき、活用する社員も一定数いるが、性別による活用状況の偏りはない。                【図2】男女別就業状況            出典:厚生労働省「令和5年度 女性の就業状況」「令和5年 賃金構造基本統計調査」  図2のように、労働人口全体から正社員、管理職へと絞り込まれる強さを上の漏斗グラフで見比べることで、男女の違いを視覚的に捉えることができる。例えば、上から2段目の雇用者と3番目の正社員・正職員の人数ギャップを男女で比較すると、女性の方が正社員として労働するハードルが相対的に高いと言える。  さらに女性の管理職は総労働人口のうち、たったの0.5%しかいない。女性の管理職に出会ったことが無い人が居ても不思議では無い数字だ。同一職務であれば男だろうが女だろうがやるべきことは同じはずだが、労働市場にほとんど存在せず、遭遇したことも想像したことも無いが故に、「“女性が担う”管理職って果たしてどんな仕事だろうか」と疑問が生じてしまうのも致し方ない。  当然男女で同一の人事制度を使っているはずだが、管理職登用率における男女差が大きい企業は多い。2つの視点で原因を探ることができる。  まずは、業務アサインメントの観点である。同じ制度下であっても、実態は性別による役割付与をしていることが多い。業務量調査を実施し、同一職種・等級内の男女に割り当てられた業務の内容や量を比較することで実態を把握可能だ。  もう一つは、社員自身の志向性である。入社当初のキャリア展望自体に性差があるケースと、入社後に女性のキャリア展望が削がれるケースがある。後者は、性別分業的な働き方や管理職の高負荷を目の当たりにし、キャリアアップを望まなくなる状況である。エンゲージメントサーベイなどで把握することができる。  女性活躍を推進されたい企業は、“良くある女性活躍推進施策”を展開する前に、業務量調査、志向調査、エンゲージメントサーベイなどを活用し、自社の業務・役割付与の癖や思考傾向・風土、社員本人のキャリア展望を把握し、実のある施策の検討ができると良い。 以上

『キングダム』から学ぶ、美しい人材マネジメントシステム | 人事コンサルティング

『キングダム』から学ぶ、美しい人材マネジメントシステム

今回のコラムは、趣向を変え私が愛読する漫画『キングダム』から、人事コンサルタントとして学んだ秀逸な人材マネジメントシステムについてご紹介します。 すでにご存じの方も多いと思いますが『キングダム』は、『週刊ヤングジャンプ』にて2006年より連載中の発行部数1億部を突破している大人気歴史漫画です。 物語は、史実を基に紀元前中国の春秋戦国時代を舞台とし、中華統一を目指す若き秦王・嬴(えい)政(せい)(後の始皇帝)と彼を支える李(り)信(しん)を中心に、交錯する国々の正義、巧妙な戦略や戦術、魅力あふれる登場人物と多様な価値観などが作者・原泰久さんの緻密な構想により情熱的に描写され、世代を問わず多くの人を魅了しています。  作品の魅力は多様に存在していますが、人事コンサルタントとして特に注目したいのは作中で構築されている人材マネジメントシステムです。そのポイントを『キングダム』での特徴の一つである“六大将軍”にちなんで“六大焦点”としてご紹介します。 ※本稿は筆者の個人的な解釈と見解であり、公式および他の読者の意見を代表するものではありません。 また『キングダム』の一部ネタバレが含まれています。まだご覧になっていない方はご注意ください。 『キングダム』に学ぶ人材マネジメントの“六大焦点” ビジョンと戦略の浸透 「中華での戦争をなくす」というビジョンを実現するために「中華統一」という明確かつ確固たる戦略を秦王・嬴(えい)政(せい)は掲げます。そしてその意志は重臣のみならず、各部隊まで落とし込まれており、さらに各部隊が戦略に基づいた行動規範として体現することで見事な共通価値を形成しています。 <引き寄せPOINT> ビジョンと経営戦略の一貫性があり、それらが行動規範として従業員へ心根から周知が図られて共通価値となっている。 戦略と組織構造の整合 中華統一という戦略を実現するために、秦王・嬴(えい)政(せい)は“六大将軍”という組織編成を行います。 現代でいうカンパニー制ともいえる六大将軍制により、それぞれの将軍が強大な権限を得て、戦争にともなう全ての自由と責任を持ちます。中華統一は自国の資源を考慮した時間との戦いでもあったため、戦時の判断を数日以上かけて秦国本陣に諮ることなく、速やかに決定できるこの制度は戦略達成の鍵となります。 <引き寄せPOINT> 組織体制が、漫然とした踏襲や人に紐づくものではなく、戦略達成と連関した合理的な仕組みとなっている。 求める人材を輩出するための評価・報酬制度 六大将軍に求める力は圧倒的な“強さ”です。そのため評価は、出身や人柄を考慮せず、すべて武功を対象とした成果主義となっています。主人公の李信は下僕出身でありながらも、初陣で武功をあげ、百人将に昇格します。その後も実績を上げ続け、連動した報酬をともなって若くして将軍の地位まで駆け昇ります。 一方で、敗戦の責をとる際は国外追放等の厳罰を受ける、など非常にメリハリのついた制度となっていました。 <引き寄せPOINT> 戦略を達成するために必要な人材要件が明確であり、評価・報酬制度が整合し、適切に運用されている。 ビジョン・戦略実現に資する人材ポートフォリオ 秦王・嬴(えい)政(せい)は中華統一が成された後のことも考え、武力ではなく法による支配、すなわち法治国家の実現を構想します。しかし秦の人材だけは知見が不十分だったため、隣国の韓から法の第一人者である韓非子(かんぴし)を招き、法治国家構想を進めることとしました。 この考え方は、現代のジョブ型雇用に通じます。 <引き寄せPOINT> あるべき人材ポートフォリオを実現するために、社内のタレントマネジメントと必要に応じた外部リソースの活用が出来ている。 多様性の受容による価値創出 秦は楊端和(ようたんわ)率いる山民族の協力を得て、他国にとって想定外の戦力・戦術を披露し、強力な一軍とします。これは平地の民と山民族が手を組むということで多様性を活かした価値創出の例であり、現代のDEI(多様性・公平性・包摂性)にも通じます。 <引き寄せPOINT> 多様性を活かし、同質化からの脱却と新たな価値創出を推進している。 持続的成長とウェルビーイング 生死をかけた戦いが続く兵たちは、特定のタイミングで内地の部隊と交代し、一定期間の帰省を指示されます。この仕組みは、戦線に立つという過剰なストレスや疲労から兵を守り、心身ともに英気を養うことが国の持続的な発展にとって重要と考えていた思想が窺えます。この考え方はリトリートの機会を意図して組み込むウェルビーイングの考え方と言えるでしょう。 <引き寄せPOINT> 持続的成長と従業員の幸福を追求し、意図的にリトリートの機会を提供している。 まとめ 楽しみ方や解釈は人それぞれですが、様々な視点から読むことで多くの気づきを得られることがあります。本稿では、『キングダム』における広義の人材マネジメントシステムに着目し、ビジョン・戦略から組織構造、共通価値に落とし込まれ、評価・報酬制度、人材の獲得・育成と見事に整合し、さらにDEI推進による価値創出やウェルビーイングまでが美しく描かれていることを述べました。 このように、専門書だけでなく、多様な情報源をヒントに自社の人事を見直し、向上させるきっかけとしてみてはいかがでしょうか。 人事コンサルタントとして、そして『キングダム』の一ファンとして執筆した本稿が、何かしらの形でお読みいただいた方のお役に立てるようであれば幸いです。

評価票を公開せよ(評価品質を高めるために③)  | 人事制度

評価票を公開せよ(評価品質を高めるために③) 

 「正確な測定」のための施策として、評価項目設計、評価スキルの観点でのポイントを二回にわたって提起してきたが、今回は、評価運用の勘所について書く。  「二次評価という言葉自体が今後存在しなくなる」と、10年以上前に当社創業者・林明文が書いたが、いまも二次評価(さらには三次評価すらも)を運用する企業は少なくない。二次評価という仕組みには、俯瞰した視点での調整、つまり組織的なバランスをとる機能はあっても、一次評価者の評価を是正し、ひいてはその評価スキルを高める効用はない。つまり、「正確な測定」の実現には効かない。  一次評価は絶対評価であり、その被評価者の行動事実を目にしていない二次評者には、一次評価の正確性を判断し得ないからだ。一次評価者による評価を二次評価者だけがチェックするという閉じた関係の中では評価品質を上げることはできない。評価の運用施策において、確実に評価品質の向上に資するのは、「評価票」を公開することだ。  一次評価者同士の評価会議を行い、自身がつけた部下評価を公開し相互検証する施策である。ときに、評価会議、評価者会議という言い方で、「評価調整」の会議を行う場合もあるが、それとは異なることにまず注意してほしい。それが組織としての相対的な評点調整を行う、つまり組織的な二次評価機能であるのに対して、ここで推奨する評価会議は、絶対評価としての一次評価が妥当であるかどうかを確認し、おかしければ修正するために行う。  進め方はシンプルで、評価者が順次、自身がつけた部下評価について「なぜ、こう評価したか」を話し、それが妥当かどうか評価者同士で議論する。冒頭、評価基準や等級別要求レベルを改めて確認したり、事前に評点データを集計し評価者ごとの評点分布を共有することもある。ただあくまでも、部下のAさん、Bさん、Cさんの①行動事実が、②評価基準に照らして、③妥当な評点であるのかを、ひたすら相互検証することが眼目だ。  つまりこの場で検証されることは、三つある。 評価対象となる行動事実自体の妥当性  例えば、推測や主観で事実把握がされていないか、成果にひきずられた行動判断ではないか、評価対象でない行動を含めて見ていないか、等。 評価基準自体の解釈の妥当性  例えば、できているかできていないかの基準の理解が間違っていないか、何を評価するか(問題の発見なのか課題の発見なのか、等)の理解が間違っていないか、等。 評点の妥当性  客観的にみて評点が妥当か、在籍等級レベルと上位等級レベルが混同されていないか、たまたまの行動発揮ではなく、期中通しての評価になっているか、等。 このプロセスのなかで、一次評価vs二次評価者という閉じた関係では顕在化し得なかった評価スキルのばらつきが是正され、評価品質は向上する。同じ一次評価者たちによるオープンな相互検証を行うからこそ、自己流でないあるべき評価の観点が共有され、「正確な測定」が組織的になされるということである。  この方式には、副次的な効用もある。評価項目の文言があいまいで、「できた」「できない」の基準が読み取れないことが、よくある。たとえば、勤務態度を評価する項目に「つねに規律を守り、誠意と責任感をもって業務遂行する」という文言があったとして、これだけでは、一回でも遅刻をしたらダメなのか、事前に理由を連絡しての遅刻ならOKなのか、二回まで許されるのか、判断はつかないし、その基準は会社によっても異なるだろう。評価会議のなかの検討で、たとえば当社においてはこうだ、という暗黙の基準が顕在化されれば、以降それが基準として共有され、評価のブレが減ることになる。  評価会議とともに、有効なもう一つの運用施策が、目標設定会議だ。目標の品質問題は、実に多くの会社で聞かれる悩み事だが、同様に、期首に実際の部下目標を公開し相互検証することで、目標設定の三原則(1.上位目標連動性 2.等級妥当性 3.表現妥当性)を「個別具体的に実際に」確認・是正することができる。  これらの施策は、容易にお分かりになるように、評価者たちにとっても、人事部にとっても時間的負荷は高い。しかし、手間をかけるだけの評価品質向上効果は確実にある。もちろん、そのためには、目的たがわず、きちんと会議をコントロールし上記の三つの検証に臨まなければならない。例えば、「彼はリーダーシップを発揮していたのでリーダーシップの評価をA評価としました」と言った説明になっていない説明は決して認めない。会議が紛糾しようとも声の大きい上位者の「印象評価」は断固拒否するといったことが極めて大事なのはいうまでもない。 ■「評価品質を高めるために」コラムバックナンバー 「正確な測定」をあきらめるな(評価品質を高めるために①) 評価100本ノックのすすめ(評価品質を高めるために②) ■「評価関連セミナー」のお申込みはこちら 【対面型セミナー】「評価力診断 無料体験セミナー」  ■【HRデータ解説】データでわかる「評価品質」関連解説 経営にとって「評価品質」が重要であることがデータでも分かります 「従業員意識調査に見る会社への不満」 ~社員の多くがキャリアと評価と処遇に満足していない~ https://www.transtructure.com/hr-data-analysys/search/motivation-survey/p12777/    

多様であれば目標達成?? | 人材開発

多様であれば目標達成??

 失われた30年、わが国の企業には、創造性が決定的に欠けていたと言われる。最近になってこれを何とか取り戻そうとする動きを感じる。人事的な観点からは、D&I(ダイバーシティー&インクルージョン)という言葉を至るところで聞くようになった。女性や外国人を積極的に採用し、多様な社員を揃えることで、より「クリエイティブ」な組織を目指そう、という動きだ。確かに、多様なメンバーが集まれば、意見がぶつかり合い、新しい発想が生まれやすい…そんな理屈だろう。でも実際のところ、それだけで本当にクリエイティブな組織ができるのだろうか?  まず、一つ誤解しがちな点がある。人材の「多様性」とは、単に「性別や国籍が違う人がいること」ではない。もちろん、女性や外国籍の人材が加わることで視野が広がるのは間違いないが、多様性ということは、もっと突っ込んで捉える必要がある。教育や職歴、大成功や大失敗の経験、そこから生まれる考え方や価値観といった「後天的な多様性」も加味することが重要だ。たとえば、同じ建築業界の外国人と日本人が一緒に働いても、業界のルールや価値観が似通っていると、意外と「多様性のある議論」にはなりにくい。ここに、IT技術者、医師、小売業の社員など異業種のバックグラウンドを持つ人が入れば、アイデアの幅が一気に広がるということがあるのだ。  次に、こうした「多様なメンバーの集まり」が一つの目標に向かって力を合わせるためのしっかりした「話し合いの仕組み」が必須だ。多様性のある組織では意見が対立しやすくなるのは当たり前だし、収拾がつかなくなるリスクすらある。バラバラな方向に進んでしまっては意味がない。そこで鍵を握るのが、メンバー同士がオープンに意見を交換できる場であり、安心して建設的な意見を出し合えるコミュニケーションのプロセスだ。これがなければ、単に「仲が悪いチーム」ができ上がるだけだ。  ここで出てくるキーワードが、例の「心理的安全性」だ。「出る杭は打たれる」というメンタリティが残ったままでは、どんなに多様な人材を集めても、誰も自由に意見を言えない。他者の見方を怖れずに意見が言える文化がない限り、斬新なアイデアは望めない。「心理的安全性」を確保することで、初めてみんなが自由に意見を言えるようになる。他方、「他人のことはまったく気にかけない雰囲気があるから自由だ」ということでは意味がない。他者の主張が自分と正反対であった場合にそれを楽しむような姿勢、反対意見があるからこそ自らの発想を止揚してより高度なものにできると考える雰囲気が重要である。  さらに、多様な意見をただ集めるだけでなく、それを「融合」して新しいアイデアに昇華させるためのスキルが必要だろう。異なる視点を取り入れ、それをひとつの方向にまとめ上げるだけの概念化力を持つ人材が、リーダーとして不可欠だ。パズルのピースを組み合わせるように、それぞれの意見を上手く調和させ、新たな発想にまとめあげる力だ。  最後に、多様性のある環境で生まれたアイデアを「実行可能なビジネスプラン」に落とし込み、実際にこれを実現に持ち込むむだけの実行力も不可欠だ。どんなに素晴らしいアイデアが出たとしても、それが机上の空論で終わってしまっては意味がない。そういうのはただの評論であって、創造ではない。現実にどう実行していくかを見据え、プロジェクトを推進する実行力ある人材が求められる。  このように考えると、多様性を創造性に繋げるにはひと手間もふた手間もかけなければならないことがわかる。単なる「見た目の多様性」に会社の創造力を任せるのは危ないのだ。奥深い価値観や経験の多様性、さらに、それを活かすための環境や仕組みがあってこそ、多様性が組織のクリエイティビティを引き出す。外形的に多様な人材を揃えて満足することなく、内面的多様性を丹念に整え、それが創造につながるまでの仕組みを作ることこそ、クリエイティブな組織づくりの本質と言えるだろう。