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外部視点評価を過信するな(アセスメント活用の勘所②) | 人材アセスメント

外部視点評価を過信するな(アセスメント活用の勘所②)

 管理職の登用試験として使われるアセスメント(アセスメントセンター方式)は、シミュレーション演習下の候補者たちの言動をアセッサーという専門家が観察・評価する。それが登用試験として効果的なのは、「入学評価」つまり、まだやったことのない管理職の必要な能力をもっているかどうかの見極めができるからだと、前回書いた。  社内評価は、環境要因や情状、主観も影響するし、どうも能力評価が正しいかどうかもあやしい。だから客観的で正しいであろう外部視点評価を使う、ではないことに留意したい。あくまでも、社内評価=現状職務での能力発揮に対して、アセスメント=「未経験の職務」の能力発揮可能性を測定できることの効用、ということだ。  ことさらにこう書くのは、ときに、アセスメントの結果だけで管理職の登用判断を行っている会社もあるからである。アセスメントは、管理職能力発揮可能性を診るには信頼性の高い、しかも相対評価でない絶対評価の手法ではあるけれども、そこには、すぐれた効用とともに限界もある。だから、テストとして合格点クリアだけで登用者を決めるという単純な運用をすることにはリスクがある。   よくなされているように、社内評価(人事考課を含む経営の評価)の高低とアセスメント結果の高低を二軸にとって、4象限にプロットし、ギャップある象限の人たちを個別詳細に検討するといった総合的な判断は、最低減必要なことである。そのポイントは、ギャップの原因を、総合点だけではなく、ディメンションごとに検討することだ。たとえば、オペレーショナルな能力(情報理解力、分析力など)と経営的能力(戦略立案力、視座の高さ、人材育成力など)にわけて見る。  前者は、現状職務と今後になう管理職務でも通底するから、ギャップがあれば気になるところだ。【社内>アセスメント】であれば、その人には専門性や業務習熟の面で強みがあるのかもしれないし、【社内<アセスメント】であれば、現状職務や職場とのミスマッチに起因するのかもしれない。後者の経営的能力は、現状職務では求められていないことも多いから、アセスメントならではの能力評定判断として優先できるが、権限移譲して管理職務を一部担わせているような場合、その社内評価とのギャップがあれば、その理由についての検討が必要だろう。  とくに、注意が必要なのは対人能力である。そこに、アセスメントという手法の限界があるからだ。アセスメント・ディメンションは、①思考系能力(課題解決や方針・計画を策定する力) ②対人系能力(他者を理解し動かす力) ③資質・姿勢(達成志向や自律一貫性) の3カテゴリーに分かれている。うち、①と③は、かなり正確に測れるけれども、②の評点には注意が必要なのである。  なぜか。シミュレーション演習のなかでは、対人行動は「演じる」ことができるからである。演習のなかに、「面接演習」というものがある。アセッサーが厄介な部下役となり、部下面談をやってもらうものだが、試験として観察されているわけだから、実はハラスメント満々の人でもそれをおくびにも出さずに、正しい部下コミュニケーションを演じたりする。本性を見たいアセッサーは、ことさらに嫌な態度で応えるのだが(まれにそれが昂じて、リアルに喧嘩になってしまうほど)、思考力の高い人であればなおのこと、効果的な演技に徹する。  逆に、アセスメントでは対人系能力の評点が低い人が、実は、日常業務ではたいへんな「人たらし」で仕事の成果を出していたりする。この対人能力も、アセスメントではたいへん見にくい。シミュレーションのなかで、人をたらしこむ必要もないし、そもそも、個々人の行動発揮から保有能力を測るアセスメントでは「他者を動かし、他者を巻き込んだ」行動発揮は、見ようがないからである。  もう一点、留意すべきアセスメントセンター方式の限界がある。アセスメントは、モチベーション=内発的動機を無視していることだ。内発的動機は、思考力とくに創造や発想、企画に関わる能力の原動力であることが認知科学領域では定説である。しかしアセスメントは、アウトプットされた行動から思考力を推察するものだから、アタマのなかのメカニズムは見られない。思考力を駆動する内発的動機をもつ人の強みには関知しないのだ。  たとえば、目の前の仕事が大好きで、なんとかお客さんに喜んでもらいたい、価値提供したいとエンゲージされ、日常業務では高い能力を発揮している人が、「あなたは、〇〇工場に工場長として赴任しました…」というシミュレーション・ケースに臨んだとき、持ち前のモチベーションの高さが再現できなくても不思議ではない。結果、思考力の評点が低く出ているとすれば、そのギャップは慎重に検討すべきだろう。  ゆえに、アセスメントの効用(と限界)を正しく理解し、社内評価や社内での職務状況とのギャップを併せ、総合的な登用判断を行うことが必要なのである。 *アセスメント活用の効用と留意について提起する3回シリーズ。 ■「登用の失敗」はなぜおこるか(アセスメント活用の勘所①) ■外部視点評価を過信するな(アセスメント活用の勘所②)今回 ■VUCAリーダーをどう見極めるか(アセスメント活用の勘所③)2025年5月予定 本コラムの筆者が登壇! ぜひご来場ください。詳細はこちら 【対面型セミナー】「失敗しない管理職登用判断の方法」 ~人事が知っておくべきアセスメント活用のポイント~

「登用の失敗」はなぜ起こるか(アセスメント活用の勘所①) | 人材アセスメント

「登用の失敗」はなぜ起こるか(アセスメント活用の勘所①)

 きっちりと成果を出し、職務遂行能力にも問題ないと判断して、管理職に登用してみると、どうにも困ったマネジャーだったということがある。なんであんなヤツを上げたんだ、と人事部が経営から非難される、いわゆる管理職への「登用の失敗」。その原因は、名プレーヤーは必ずしも名監督ではない、というありふれた警句そのものにある。  つまり、卒業評価≠入学評価であるのにも関わらず、卒業評価だけで昇進を決めてしまうからだ。在籍等級でのパフォーマンスが高いけれども、管理職としてやれるかどうかはわからないのに上げてしまうということである。じっさい多くの会社の昇進運用は、卒業評価だけに終始しているように見える。  『日本の人事部 人事白書2024』(株式会社HRビジョン)によれば、管理職登用に際して重視する要件は、①これまでの実績・成果(75%)、②保有している能力(60%)、③人柄(50%)。名プレーヤーであれば当然、①実績・成果は申し分ない。問題は、②保有能力である。  それを、何で見るか。『JMAM 昇進昇格審査 実態調査2022』(株式会社日本能率協会マネジメントセンター)によれば、審査内容のトップ2は、「人事考課」(87%)と「上司推薦」(81%)。人事考課の結果は、現在の等級における能力評価であって、管理職能力の有無やレベルは示さない。管理職業務は経験していないし、評価項目も管理職能力ではないからだ。上司推薦では、「こいつは、管理職もできそうだ」という上司の判断はあるだろうが、客観性には疑問がある。  半数程度の会社が、テストも行っているが、「面接試験」(58%)や「論文・レポート試験」(46%)、「社内知識試験」(42%)といった社内基準の試験がほとんどで、意欲や知識は見て取れるものの、管理職に必要な能力を客観的に測定するものとは言えない。昇進に際して、管理職能力の多寡、つまり管理職ができるかどうかの可能性判定をしないで決めている会社がじつに多い。  やるべき入学評価とは、卒業できる(=当該等級での必要能力を持ち結果も出している)候補者たちの、管理職という「未経験の職務」の能力発揮可能性を判定することだ。その方法として、一番確かなのは、実際に管理職務をやらせてみることである。たとえば、上司(課長)の視点にたって自組織の課題を設定させ、1年間のPDCA実践による課題解決を課し、役員面接などで「課題の妥当性と実践の成果」を判定する審査プロセスを組めばよい。  ただこの方法は、もっとも効果的実践的ではあるものの候補者の負荷はもちろん、上司や人事部にとっての負荷が高い。端的に試験によって、管理職能力の発揮可能性を見たいということであれば、アセスメントセンター方式の能力評価を行えばよい。この方法は、まさに、「未経験の職務」の能力発揮可能性を診断するための専用ツールであり、管理職の職務状況をシミュレーション演習として用意し、候補者全員が同じ状況下での行動発揮を課せられ、その行動を観察・分析することで、保有能力レベルを判定する。  アセスメントセンター方式とは、第二次大戦中に諜報員の選抜試験として開発されたといわれる能力判定手法。社会心理学者クルツ・レビンの方程式B=f(P・E)を原理とし、行動(B)は、環境(E)と個人の能力・資質(P)の関数であるから、シミュレーション演習によって環境を固定し、そこでの行動を観察・分析すれば保有能力の評定ができるというコトワリである。  さきの昇進昇格審査実態調査によれば、約3割の企業がこの試験を行っている。昔から、昇進審査としてのアセスメントの精度は定評あるものの実施企業数がまだ少ないのは、ここに書いたような「登用の失敗」の原因にそもそも気づいていないか、あるいは、わかってはいても、試験と言いながらも、1~2日間の研修形式で行い、アセッサーという専門家たちが観察して評価するための手間と費用がかさむことがネックになっているのかもしれない。  しかし、能力測定手法においてもDX化は進んでいる。「未経験の職務」の能力発揮可能性を診断する原理とITC技術の融合により、自社の状況や要件や制約に即した「入学評価の道具」は、いかようにでも設計できるのである。 *アセスメント活用の効用と留意について提起する3回シリーズ。 ■「登用の失敗」はなぜおこるか(アセスメント活用の勘所①) 今回  ■外部視点評価を過信するな(アセスメント活用の勘所②) ■VUCAリーダーをどう見極めるか(アセスメント活用の勘所③) 本コラムの筆者が登壇! ぜひご来場ください。詳細はこちら 【対面型セミナー】「失敗しない管理職登用判断の方法」 ~人事が知っておくべきアセスメント活用のポイント~

ダイバーシティ推進の3つのポイント | 人材開発

ダイバーシティ推進の3つのポイント

 「ダイバーシティ推進を進めるためにはどのようにしたらよいでしょうか?」以前ダイバーシティコンサルタントという立場で各企業の人材開発・組織開発に携わっていたころ、最も多く受けたのはこのようなシンプルな質問であった。  2023年のノーベル経済学賞は、男女の賃金格差についての包括的な研究を行った米ハーバード大学教授のクラウディア・ゴールディン氏が受賞した。日本でもメルカリが自社の男女の賃金格差を公表するなど、男女の賃金格差についての議論も多くなっている。 だが、日本はジェンダーギャップすら解消できていない。2023年の日本のジェンダーギャップ指数は世界125位で過去最低と世界標準から程遠いのが現状だ。  また、DEI(Diversity(ダイバーシティ)、Equity(エクイティ)、Inclusion(インクルージョン)の頭文字)という言葉を聞くことも多くなっており、ギャップの解消や平等性や公平性が混在して議論されているなど、各企業の取り組み状況はバラバラである。  ジェンダーギャップすら解消できていない状況の企業も多くあるが、成功するための3つのポイントを紹介したい。 ➀経営上重要な戦略としてのダイバーシティを明確に位置づける  社会的な要請から取り組む企業は多いが、あくまでダイバーシティをポジティブな変化として捉えイノベーションの創出や成長機会として捉えることが重要だ。 公平性が担保されているかどうかという各企業が取り組んでいる現在のステージから、 視野・視座を上げて組織力強化やビジネスシーズの創出という、成長機会の取り組みとしての早期のステージ転換が必要となる。 ➁ダイバーシティ推進管理職へ浸透させ、管理職の実行力を高める  中期経営計画にダイバーシティや女性活躍推進を盛り込んでいる会社は多いが、戦略や内容が各管理職に浸透していない会社が非常に多い。 なぜ自社がダイバーシティに取り組むのか共通言語化されていない会社は多い。 ダイバーシティ推進を進めるためには、ダイバーシティをどのように職場で推進し、成果に繋げるか管理職に腹落ちさせることが必要である。  また、視座や視野を高めるためにダイバーシティをテーマとした管理職への教育機会も必要。 ➂成功事例を社内で作り、社内外に情報発信する  カルビーの女性活躍推進事例(※1)が、非常に分かりやすい事例であるため、ここで紹介したい。カルビーは、顧客である消費者の半分は女性だから、女性の意見を取り入れて企業経営をするために、女性の管理職比率を多くすると、トップからメッセージを発信した。  その結果商品として生まれたのが、「フルグラ」。今では売り上げを支える重要な柱となっている。もちろん、イノベーションだけではなく、女性で時短勤務の執行役員を置くなど、戦略推進を支える組織作りも同時に行っていた。旗振り役であったトップが、結果を社内外に発信することで、カルビーは女性活躍推進を推進している企業であるというブランドイメージも獲得した。 社内外の結果のアピールは、浸透を進める上でも効果が大きい。  人的 資本開示の義務化など、社会的な要請が強くなり取り組んでいる企業も多いが、旗振り役であるトップからのシンプルで継続的な分かりやすいメッセージなど、一過性のものではなく、ダイバーシティは企業成長の源泉として継続して取り組み続けることが必要である。 経営層や人事・ダイバーシティ担当の皆様と共に解決できるように伴走していきたいと思う。 ※1 筆者による関係者ヒアリングと併せて、以下を参考:カルビー、7期連続の最高益の裏側に「女性の活躍」あり | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)  

数字で見る女性活用の現状 | その他

数字で見る女性活用の現状

 一歩社外に出ると、女性でも活躍できているのはなぜか、といった質問を受けることがある。筆者は、「女性“なのに”活躍できる環境」ではなく、「性別を意識せず1人の職業人として仕事ができる環境」こそが「女性活躍」なのではないかと考える。  当社には、男性用・女性用の仕事、といった概念や暗黙のルールが無く、個人の属性で仕事の割り振りや役位が決まることも無いため、性別を強く意識せずに働くことができる 。(注1) “何歳か・性別がどちらか”ではなく“できる人ができることをやる”、つまりは単に職務に見合う経験や能力を持つ人に仕事・役割を付与する単純な構造である。  労働人口統計等を見ると、こうした環境は、日本の平均的な企業の現状と大きく乖離していることが明らかだ。性別や年齢に全く関係ない役割の付与は、読者の皆さんの職場においてイメージし辛いことが実態ではないか。  ここでは、現時点の日本では、就業環境の男女差が大きい。統計値を参照し、差がどれほど大きいかを確かめる。さらに、経営者・人事担当者の皆様が性別による役割の違いが生じてしまう理由を調べたいと考えたときに取り得る最初の策を紹介する。           【図1】雇用者、正社員・正職員、管理職における男女比          出典:厚生労働省「令和5年度 女性の就業状況」「令和5年 賃金構造基本統計調査」  図1の円グラフでは左から順に、「雇用者」「10名以上規模の法人の正社員・正職員」「管理職(部課長)」の男女比を示している。雇用者全体では、女性の比率は46%と半分弱であり、人口比に近い(図1左)。しかし、正社員・正職員に絞ると、女性比率は1/3まで下がる(図1中)。非正規雇用で働く女性が多いためだ。さらに、正社員・正職員のうち、管理職に占める女性比率はたった13%まで下がってしまう(図1右)。  (注1)育児や介護等個人の事情で働き方を調整することはでき、活用する社員も一定数いるが、性別による活用状況の偏りはない。                【図2】男女別就業状況            出典:厚生労働省「令和5年度 女性の就業状況」「令和5年 賃金構造基本統計調査」  図2のように、労働人口全体から正社員、管理職へと絞り込まれる強さを上の漏斗グラフで見比べることで、男女の違いを視覚的に捉えることができる。例えば、上から2段目の雇用者と3番目の正社員・正職員の人数ギャップを男女で比較すると、女性の方が正社員として労働するハードルが相対的に高いと言える。  さらに女性の管理職は総労働人口のうち、たったの0.5%しかいない。女性の管理職に出会ったことが無い人が居ても不思議では無い数字だ。同一職務であれば男だろうが女だろうがやるべきことは同じはずだが、労働市場にほとんど存在せず、遭遇したことも想像したことも無いが故に、「“女性が担う”管理職って果たしてどんな仕事だろうか」と疑問が生じてしまうのも致し方ない。  当然男女で同一の人事制度を使っているはずだが、管理職登用率における男女差が大きい企業は多い。2つの視点で原因を探ることができる。  まずは、業務アサインメントの観点である。同じ制度下であっても、実態は性別による役割付与をしていることが多い。業務量調査を実施し、同一職種・等級内の男女に割り当てられた業務の内容や量を比較することで実態を把握可能だ。  もう一つは、社員自身の志向性である。入社当初のキャリア展望自体に性差があるケースと、入社後に女性のキャリア展望が削がれるケースがある。後者は、性別分業的な働き方や管理職の高負荷を目の当たりにし、キャリアアップを望まなくなる状況である。エンゲージメントサーベイなどで把握することができる。  女性活躍を推進されたい企業は、“良くある女性活躍推進施策”を展開する前に、業務量調査、志向調査、エンゲージメントサーベイなどを活用し、自社の業務・役割付与の癖や思考傾向・風土、社員本人のキャリア展望を把握し、実のある施策の検討ができると良い。 以上

『キングダム』から学ぶ、美しい人材マネジメントシステム | 人事コンサルティング

『キングダム』から学ぶ、美しい人材マネジメントシステム

今回のコラムは、趣向を変え私が愛読する漫画『キングダム』から、人事コンサルタントとして学んだ秀逸な人材マネジメントシステムについてご紹介します。 すでにご存じの方も多いと思いますが『キングダム』は、『週刊ヤングジャンプ』にて2006年より連載中の発行部数1億部を突破している大人気歴史漫画です。 物語は、史実を基に紀元前中国の春秋戦国時代を舞台とし、中華統一を目指す若き秦王・嬴(えい)政(せい)(後の始皇帝)と彼を支える李(り)信(しん)を中心に、交錯する国々の正義、巧妙な戦略や戦術、魅力あふれる登場人物と多様な価値観などが作者・原泰久さんの緻密な構想により情熱的に描写され、世代を問わず多くの人を魅了しています。  作品の魅力は多様に存在していますが、人事コンサルタントとして特に注目したいのは作中で構築されている人材マネジメントシステムです。そのポイントを『キングダム』での特徴の一つである“六大将軍”にちなんで“六大焦点”としてご紹介します。 ※本稿は筆者の個人的な解釈と見解であり、公式および他の読者の意見を代表するものではありません。 また『キングダム』の一部ネタバレが含まれています。まだご覧になっていない方はご注意ください。 『キングダム』に学ぶ人材マネジメントの“六大焦点” ビジョンと戦略の浸透 「中華での戦争をなくす」というビジョンを実現するために「中華統一」という明確かつ確固たる戦略を秦王・嬴(えい)政(せい)は掲げます。そしてその意志は重臣のみならず、各部隊まで落とし込まれており、さらに各部隊が戦略に基づいた行動規範として体現することで見事な共通価値を形成しています。 <引き寄せPOINT> ビジョンと経営戦略の一貫性があり、それらが行動規範として従業員へ心根から周知が図られて共通価値となっている。 戦略と組織構造の整合 中華統一という戦略を実現するために、秦王・嬴(えい)政(せい)は“六大将軍”という組織編成を行います。 現代でいうカンパニー制ともいえる六大将軍制により、それぞれの将軍が強大な権限を得て、戦争にともなう全ての自由と責任を持ちます。中華統一は自国の資源を考慮した時間との戦いでもあったため、戦時の判断を数日以上かけて秦国本陣に諮ることなく、速やかに決定できるこの制度は戦略達成の鍵となります。 <引き寄せPOINT> 組織体制が、漫然とした踏襲や人に紐づくものではなく、戦略達成と連関した合理的な仕組みとなっている。 求める人材を輩出するための評価・報酬制度 六大将軍に求める力は圧倒的な“強さ”です。そのため評価は、出身や人柄を考慮せず、すべて武功を対象とした成果主義となっています。主人公の李信は下僕出身でありながらも、初陣で武功をあげ、百人将に昇格します。その後も実績を上げ続け、連動した報酬をともなって若くして将軍の地位まで駆け昇ります。 一方で、敗戦の責をとる際は国外追放等の厳罰を受ける、など非常にメリハリのついた制度となっていました。 <引き寄せPOINT> 戦略を達成するために必要な人材要件が明確であり、評価・報酬制度が整合し、適切に運用されている。 ビジョン・戦略実現に資する人材ポートフォリオ 秦王・嬴(えい)政(せい)は中華統一が成された後のことも考え、武力ではなく法による支配、すなわち法治国家の実現を構想します。しかし秦の人材だけは知見が不十分だったため、隣国の韓から法の第一人者である韓非子(かんぴし)を招き、法治国家構想を進めることとしました。 この考え方は、現代のジョブ型雇用に通じます。 <引き寄せPOINT> あるべき人材ポートフォリオを実現するために、社内のタレントマネジメントと必要に応じた外部リソースの活用が出来ている。 多様性の受容による価値創出 秦は楊端和(ようたんわ)率いる山民族の協力を得て、他国にとって想定外の戦力・戦術を披露し、強力な一軍とします。これは平地の民と山民族が手を組むということで多様性を活かした価値創出の例であり、現代のDEI(多様性・公平性・包摂性)にも通じます。 <引き寄せPOINT> 多様性を活かし、同質化からの脱却と新たな価値創出を推進している。 持続的成長とウェルビーイング 生死をかけた戦いが続く兵たちは、特定のタイミングで内地の部隊と交代し、一定期間の帰省を指示されます。この仕組みは、戦線に立つという過剰なストレスや疲労から兵を守り、心身ともに英気を養うことが国の持続的な発展にとって重要と考えていた思想が窺えます。この考え方はリトリートの機会を意図して組み込むウェルビーイングの考え方と言えるでしょう。 <引き寄せPOINT> 持続的成長と従業員の幸福を追求し、意図的にリトリートの機会を提供している。 まとめ 楽しみ方や解釈は人それぞれですが、様々な視点から読むことで多くの気づきを得られることがあります。本稿では、『キングダム』における広義の人材マネジメントシステムに着目し、ビジョン・戦略から組織構造、共通価値に落とし込まれ、評価・報酬制度、人材の獲得・育成と見事に整合し、さらにDEI推進による価値創出やウェルビーイングまでが美しく描かれていることを述べました。 このように、専門書だけでなく、多様な情報源をヒントに自社の人事を見直し、向上させるきっかけとしてみてはいかがでしょうか。 人事コンサルタントとして、そして『キングダム』の一ファンとして執筆した本稿が、何かしらの形でお読みいただいた方のお役に立てるようであれば幸いです。

評価票を公開せよ(評価品質を高めるために③)  | 人事制度

評価票を公開せよ(評価品質を高めるために③) 

 「正確な測定」のための施策として、評価項目設計、評価スキルの観点でのポイントを二回にわたって提起してきたが、今回は、評価運用の勘所について書く。  「二次評価という言葉自体が今後存在しなくなる」と、10年以上前に当社創業者・林明文が書いたが、いまも二次評価(さらには三次評価すらも)を運用する企業は少なくない。二次評価という仕組みには、俯瞰した視点での調整、つまり組織的なバランスをとる機能はあっても、一次評価者の評価を是正し、ひいてはその評価スキルを高める効用はない。つまり、「正確な測定」の実現には効かない。  一次評価は絶対評価であり、その被評価者の行動事実を目にしていない二次評者には、一次評価の正確性を判断し得ないからだ。一次評価者による評価を二次評価者だけがチェックするという閉じた関係の中では評価品質を上げることはできない。評価の運用施策において、確実に評価品質の向上に資するのは、「評価票」を公開することだ。  一次評価者同士の評価会議を行い、自身がつけた部下評価を公開し相互検証する施策である。ときに、評価会議、評価者会議という言い方で、「評価調整」の会議を行う場合もあるが、それとは異なることにまず注意してほしい。それが組織としての相対的な評点調整を行う、つまり組織的な二次評価機能であるのに対して、ここで推奨する評価会議は、絶対評価としての一次評価が妥当であるかどうかを確認し、おかしければ修正するために行う。  進め方はシンプルで、評価者が順次、自身がつけた部下評価について「なぜ、こう評価したか」を話し、それが妥当かどうか評価者同士で議論する。冒頭、評価基準や等級別要求レベルを改めて確認したり、事前に評点データを集計し評価者ごとの評点分布を共有することもある。ただあくまでも、部下のAさん、Bさん、Cさんの①行動事実が、②評価基準に照らして、③妥当な評点であるのかを、ひたすら相互検証することが眼目だ。  つまりこの場で検証されることは、三つある。 評価対象となる行動事実自体の妥当性  例えば、推測や主観で事実把握がされていないか、成果にひきずられた行動判断ではないか、評価対象でない行動を含めて見ていないか、等。 評価基準自体の解釈の妥当性  例えば、できているかできていないかの基準の理解が間違っていないか、何を評価するか(問題の発見なのか課題の発見なのか、等)の理解が間違っていないか、等。 評点の妥当性  客観的にみて評点が妥当か、在籍等級レベルと上位等級レベルが混同されていないか、たまたまの行動発揮ではなく、期中通しての評価になっているか、等。 このプロセスのなかで、一次評価vs二次評価者という閉じた関係では顕在化し得なかった評価スキルのばらつきが是正され、評価品質は向上する。同じ一次評価者たちによるオープンな相互検証を行うからこそ、自己流でないあるべき評価の観点が共有され、「正確な測定」が組織的になされるということである。  この方式には、副次的な効用もある。評価項目の文言があいまいで、「できた」「できない」の基準が読み取れないことが、よくある。たとえば、勤務態度を評価する項目に「つねに規律を守り、誠意と責任感をもって業務遂行する」という文言があったとして、これだけでは、一回でも遅刻をしたらダメなのか、事前に理由を連絡しての遅刻ならOKなのか、二回まで許されるのか、判断はつかないし、その基準は会社によっても異なるだろう。評価会議のなかの検討で、たとえば当社においてはこうだ、という暗黙の基準が顕在化されれば、以降それが基準として共有され、評価のブレが減ることになる。  評価会議とともに、有効なもう一つの運用施策が、目標設定会議だ。目標の品質問題は、実に多くの会社で聞かれる悩み事だが、同様に、期首に実際の部下目標を公開し相互検証することで、目標設定の三原則(1.上位目標連動性 2.等級妥当性 3.表現妥当性)を「個別具体的に実際に」確認・是正することができる。  これらの施策は、容易にお分かりになるように、評価者たちにとっても、人事部にとっても時間的負荷は高い。しかし、手間をかけるだけの評価品質向上効果は確実にある。もちろん、そのためには、目的たがわず、きちんと会議をコントロールし上記の三つの検証に臨まなければならない。例えば、「彼はリーダーシップを発揮していたのでリーダーシップの評価をA評価としました」と言った説明になっていない説明は決して認めない。会議が紛糾しようとも声の大きい上位者の「印象評価」は断固拒否するといったことが極めて大事なのはいうまでもない。 ■「評価品質を高めるために」コラムバックナンバー 「正確な測定」をあきらめるな(評価品質を高めるために①) 評価100本ノックのすすめ(評価品質を高めるために②) ■「評価関連セミナー」のお申込みはこちら 【対面型セミナー】「評価力診断 無料体験セミナー」  ■【HRデータ解説】データでわかる「評価品質」関連解説 経営にとって「評価品質」が重要であることがデータでも分かります 「従業員意識調査に見る会社への不満」 ~社員の多くがキャリアと評価と処遇に満足していない~ https://www.transtructure.com/hr-data-analysys/search/motivation-survey/p12777/    

多様であれば目標達成?? | 人材開発

多様であれば目標達成??

 失われた30年、わが国の企業には、創造性が決定的に欠けていたと言われる。最近になってこれを何とか取り戻そうとする動きを感じる。人事的な観点からは、D&I(ダイバーシティー&インクルージョン)という言葉を至るところで聞くようになった。女性や外国人を積極的に採用し、多様な社員を揃えることで、より「クリエイティブ」な組織を目指そう、という動きだ。確かに、多様なメンバーが集まれば、意見がぶつかり合い、新しい発想が生まれやすい…そんな理屈だろう。でも実際のところ、それだけで本当にクリエイティブな組織ができるのだろうか?  まず、一つ誤解しがちな点がある。人材の「多様性」とは、単に「性別や国籍が違う人がいること」ではない。もちろん、女性や外国籍の人材が加わることで視野が広がるのは間違いないが、多様性ということは、もっと突っ込んで捉える必要がある。教育や職歴、大成功や大失敗の経験、そこから生まれる考え方や価値観といった「後天的な多様性」も加味することが重要だ。たとえば、同じ建築業界の外国人と日本人が一緒に働いても、業界のルールや価値観が似通っていると、意外と「多様性のある議論」にはなりにくい。ここに、IT技術者、医師、小売業の社員など異業種のバックグラウンドを持つ人が入れば、アイデアの幅が一気に広がるということがあるのだ。  次に、こうした「多様なメンバーの集まり」が一つの目標に向かって力を合わせるためのしっかりした「話し合いの仕組み」が必須だ。多様性のある組織では意見が対立しやすくなるのは当たり前だし、収拾がつかなくなるリスクすらある。バラバラな方向に進んでしまっては意味がない。そこで鍵を握るのが、メンバー同士がオープンに意見を交換できる場であり、安心して建設的な意見を出し合えるコミュニケーションのプロセスだ。これがなければ、単に「仲が悪いチーム」ができ上がるだけだ。  ここで出てくるキーワードが、例の「心理的安全性」だ。「出る杭は打たれる」というメンタリティが残ったままでは、どんなに多様な人材を集めても、誰も自由に意見を言えない。他者の見方を怖れずに意見が言える文化がない限り、斬新なアイデアは望めない。「心理的安全性」を確保することで、初めてみんなが自由に意見を言えるようになる。他方、「他人のことはまったく気にかけない雰囲気があるから自由だ」ということでは意味がない。他者の主張が自分と正反対であった場合にそれを楽しむような姿勢、反対意見があるからこそ自らの発想を止揚してより高度なものにできると考える雰囲気が重要である。  さらに、多様な意見をただ集めるだけでなく、それを「融合」して新しいアイデアに昇華させるためのスキルが必要だろう。異なる視点を取り入れ、それをひとつの方向にまとめ上げるだけの概念化力を持つ人材が、リーダーとして不可欠だ。パズルのピースを組み合わせるように、それぞれの意見を上手く調和させ、新たな発想にまとめあげる力だ。  最後に、多様性のある環境で生まれたアイデアを「実行可能なビジネスプラン」に落とし込み、実際にこれを実現に持ち込むむだけの実行力も不可欠だ。どんなに素晴らしいアイデアが出たとしても、それが机上の空論で終わってしまっては意味がない。そういうのはただの評論であって、創造ではない。現実にどう実行していくかを見据え、プロジェクトを推進する実行力ある人材が求められる。  このように考えると、多様性を創造性に繋げるにはひと手間もふた手間もかけなければならないことがわかる。単なる「見た目の多様性」に会社の創造力を任せるのは危ないのだ。奥深い価値観や経験の多様性、さらに、それを活かすための環境や仕組みがあってこそ、多様性が組織のクリエイティビティを引き出す。外形的に多様な人材を揃えて満足することなく、内面的多様性を丹念に整え、それが創造につながるまでの仕組みを作ることこそ、クリエイティブな組織づくりの本質と言えるだろう。

AIの使い方にコダワル | 人事コンサルティング

AIの使い方にコダワル

 正月休みに昨年の社会の動きを振り返ってみて、改めて、AI進化が凄まじいスピードで進んでいる事をつくづく感じている。この勢いに乗って、我々は、気づかぬうちに、とんでもないところまでいってしまうのではないかと心配になる。昨年、ノーベル経済学賞を受賞したMITのダロン・アセモグル教授は言う。  「人間がそれまで担っていた仕事にAIが取って代わる『労働代替型』の技術進歩ではなく、AIが労働生産性を高める方向で進歩していく『労働補完型』を目指し、人間の主体性(Agency)を奪ってはならない。」  AIは、様々な情報をインプットすれば、その条件の中でとりあえず、“最適な”ソリューションを提供してくれる大変頼もしい友人のようであるが、その回答を我々が鵜呑みにして、自ら考えることや選択することをひとたび止めてしまえば、おそらく映画『マトリックス』やジョージ・オーウェルの『1984年』のように、自らの意思で選択する力を奪われた世界に埋没していくだろう。我々は仕事における主体性を放棄してはいけないのだ。  「他社は?」コンサルティングを行っている日常でよく交わされる言葉だ。外部の状況を可能な限り十分に把握したうえで、自社にとっての最適解を導き出すことはとても重要だ。キャリアパス、給与水準、人事評価、人材育成の制度等、人事上の様々な仕組みを設計する際には、内外の情報や過去の知見を構造的に整理し、クライアント企業の意思決定を客観的にサポートするのがコンサルタントの役目でもある。クライアント企業の意思決定がその企業の属性から見て常識的な範囲のものであるのか把握したい時や、社内の過激で偏った意見を排除する際にも外部情報を有効に活用すべきだと思う。しかし当然ながら、自社と同様な他社の仕組みをそのまま取り入れればうまくいくものでもない。  「自社は?」むしろ、自社を知ることのほうが重要かもしれない。同じ業種や組織規模であっても、その企業の目指しているゴールやその企業を構成する人々のキャラクター、さらには創業以来培われてきた社風はそれぞれ固有のものであり、むしろそうした様々な内部情報を正確に認識し、収集した外部情報とともに机の上に並べ、何を重視すべきか考え、想定しうる選択肢を絞り、吟味し、意思決定を行うことが肝要だ。  未来は不確実なものである。将来、想定していた前提とは異なる現実が生じることも少なくない。その結果、よかれと思って作った仕組みは現実と適合しなくなり、見直しを求められる。それは当然のことであり、一度作ったら、将来にわたってメンテナンスをせずに使える仕組みなどはなく、移り行く現実に合わせて、チューンナップを繰り返し、最適化を図っていくものだ。  我々の人事コンサルティング業界も、アセモグル教授の言葉を借りて言えば、労働生産性を高める方向で進歩していく『労働補完型』のAIの活用は強力に追求していくべきである一方、収集した外部の情報や組織内部の状況を構造化し、言語化してクライアントと共に主体的に考え抜いて最適なシナリオやソリューションを生み出すことは、決してAIに任せてはならないものだ。  これは人事コンサル業界に限った話ではなく、どんな業界でも当てはまる。人間にとって「主体性」こそ、本質であり、「主体性」のない組織や、人間が「主体性」を持たない社会の中で生きることに、我々は何の価値も感じられないだろう。  一見、悩むことなく楽に見えるかもしれない「マトリックス」や「ビッグブラザー」に従う社会ではなく、日々移り行く現実と常に向き合い、我々自らが考え、意思決定をする健全な社会であり続けられるかどうかは、我々自身が、AI発展に対して、いかに主体性に向き合っていくかどうかにかかっている。AIの有用性に存分に享受しつつも、我々は、絶えずそれを自身に問いかけていかねばならない。

評価100本ノックのすすめ(評価品質を高めるために②) | 人事制度

評価100本ノックのすすめ(評価品質を高めるために②)

 前回(「正確な測定」をあきらめるなー評価品質を高めるために①)提起したような評価基準を明快に定めた評価項目設計をおこなったとしても、評価のブレは必ず発生する。評価基準の抽象性を完全にはなくせないこともその原因ではあるが、最大の問題は、管理職の評価スキルが低いことだ。いや、正確にいえば、評価のスキルを鍛えられることなく、評価の実践を強いられていることだ。逆に、現行の評価項目定義があいまいだったとしても、まず評価スキルのレベルをあげれば、評価品質はかなり高めることができる。  なぜ、評価スキルが鍛えられないか。確かに新任管理職研修の一環として、評価の仕方は学ぶものだが、多くは自社の評価制度の理解と一般的な評価留意(基準と事実に即した評価原則やよくある評価エラーなど)の学習にとどまる。あとは実践の中で、せいぜい二次評価者チェックなどを経つつ、自分なりに評価スキルを身につけていくから、スキルレベルはばらつき、結局、「あいつはデキる奴だ」といった印象評価が幅を利かしたりする。  管理職者の評価スキルを向上させるために、新任・既任含めて徹底した評価力向上トレーニングを行えばよい。「研修」ではなく「トレーニング」、つまり座学ではなく反復練習によって、確実なスキル向上を図ることである。有効な方法は、以下の3つのフェーズで構成される。     1.課題の特定と確認     2.実践トレーニング     3.実践フォロー  第一フェーズは、評価者たちの課題を明らかにし、トレーニング内容をそれに合わせチューニングするとともに、本人たち「何が問題か」を突きつけることを狙いとする。常套的な課題抽出の方法は、評価情報を集計分析し、各評価者の甘辛や評点分布といった「クセ」を見える化することだ。360度診断やエンゲージメントサーベイを行っていれば、そこからも上司の評価行為の問題は見える。  さらに我々が推奨するのは、「評価力アセスメント」の実施。同一のシミュレーション下で、部下行動をいくつかの評価項目で評価するテストで、評価定義に示される基準に照らして部下の行動事実を評定することが、いかにできていないか、また、その原理原則をいかにわかっていなかったか、が如実に浮き彫りになる。  第二フェーズは、正しい評価ができるようなスキル習熟のための評定トレーニング。さきの課題を踏まえて、100本ノックのように、評定をくりかえす。そこでのポイントは、共通ケースを使ってのウォーミングアップののち、実際の部下を評価し、互いに相互検証し、講師の指摘も踏まえ、正しい評価を決定するセッションを時間の許す限り行うことだ。とくに評価者同士の侃侃諤諤の議論での気づきが効く。  同様に、目標設定についても、現状の目標の品質状況を総覧し、共通課題を明らかにし、適切な目標の要件を繰り返し教え込む。  そのうえで、各評価者は実際の評価に臨む。その実践のなかで、評価品質向上をはかるのが、第三フェーズ・実践フォローだ。たとえば、「目標設定レビュー」。実際に期首にたてられた目標をレビューし、その是正を指導する。目標はなんども立ててきていて自己流が身に沁みついているから、適切な目標設定の原則を学んでもなかなか実行できない。なので、実際の目標そのものを「添削」するほうが効果的なのだ。同様に、期末の「評価票レビュー」を行う場合もある。  もうひとつは、実践しての課題を採取し、その解決をはかるというフォロー施策。半期末か期末のタイミングで、評価者からアンケートをとる。実際の評価をしていくうえで、評価者が直面した問題やリアルな悩みを把握し、それに対してフォロートレーニングを行うということである。併せ、被評価者アンケートも行うとさらにシビアな実践課題が得られる。  「正確な測定」のためには、①評価の仕組み ②評価の運用 ③評価のスキル でそれぞれ打ち手があり、前回は①仕組みの観点、今回は③スキルの観点での提起を行ったが、②運用の観点での施策に触れる余裕がなかった。この運用上の施策もまた、きわめて実効性の高い評価品質向上策なので、追加でもう一回書く予定だ。 お役立ち情報→【人事評価運用のお悩みはトランストラクチャが解決】

「正確な測定」をあきらめるな(評価品質を高めるために①) | 人事制度

「正確な測定」をあきらめるな(評価品質を高めるために①)

 階層別の能力課題を定量的に把握するためには、評価情報を経年で集計分析するとよい。個々人の評価結果は、その資格等級で発揮すべき能力に対しての現状レベルを示すから、各資格等級における共通する能力課題や、その経年変化、部署ごとの違いも浮き彫りになる。この「スキルギャップ」をもとにして育成策を練るのが、合理的な研修設計の常套手段だ。  だからまず、評価情報を分析しましょうと言うと「いやぁ、でも上司の評価だから、ブレもあるしデータとしてどうかな」との声が返ってくることがある。結果を見る業績評価ならまだしも、能力評価については、その正確性をハナから信じていないかのような反応。経営サイドが、自社の管理職には「正確な評価」はできないとはあきらめているのではないか。そんな印象をうける機会は、実は少なくない。  能力評価は、通常、昇給・昇格に反映させるが、評価結果に差がある二人の人材について、「この二人同期だし、実際のところ、仕事ぶりはそんなに違わないし、両方昇格させません?」などという情景も珍しくない。それが、年功的運用を助長しているわけだが、そこには「しょせん評価は評価で、実態は別」という暗黙の共通認識さえうかがえる。  まず、この状況を変えねばならないのではないか。人材の能力や動力(エンゲージメント)を高め労働の成果を最大化すべく人的資本に投資するのであれば、現場での評価はその検証と駆動の道具であり、評価品質のレベルは人的資本経営の品質を左右するからだ。ゆえに「正確な測定」としての評価の実現が愚直に追及されなければならない。  また、じつに多くの企業が評価運用の問題を抱えている。社員の不満(=評価の不公平感や不透明感)がエンゲージメントを下げる、処遇決定だけで育成には使えない、マネジャーの評価負荷が高すぎる等々さまざまだが、それらを解決するには、評価フィードバックの技法や育成前提の評価運用の工夫以前に、まず「正確な測定」が出来なければ始まらない。  評価品質を向上させるには、①評価の仕組み ②評価の運用 ③評価のスキル の3つの観点で手を打つ必要がある。   最初の観点、①評価の仕組みでいえば、正確な測定のためには「評価項目をいかに明快な基準たりうるものとして設計するか」が勘所となる。正確な測定=絶対評価(基準に照らした評定)であり、評価項目定義が、照らすべき基準だからだ。ともすれば、能力評価項目は抽象度が高く、基準としてはあいまいになりがちなので、その項目で「なにを評価するのか」がきちんと概念整理され、記述されることがポイントになる。  たとえば、G3等級(管理職手前)の「課題設定力」が以下と定義されていたとする。  ■方針を踏まえ自組織の課題を抽出・整理し、上位者へ的確に提言している   これはどの会社でも使えるような一般的な記述だが、自社においてどのような「抽出・整理」を評価するのか、どのような「的確」を評価するかは、見えない。これがA社ではこう書かれている。  ■方針を踏まえ自組織の現状の問題に対して原因を深く考察し、信頼性の高いデータなどで検証しながら、具体的にやるべきことを上位者に提言している   このような定義文は、A社のG3等級の課題設定は、「原因を深く考察」「客観的な検証」「施策の具体性」がなければいけないというメッセージになっており、その観点で部下の行動事実に照らせばよいから、判断基準足りえている。   ついでにいえば、ここでは提言する施策の妥当性は問うていない。妥当な施策を定めるのは上位者たる管理職者で、それは管理職用の「課題設定力」項目定義で問われることだからだ。G3には、提言する施策の具体性とそのもとになる問題の考察と検証の行動だけを問うている。つまり、A社では、「課題設定」のプロセスの何を評価するかが階層的に定まっている。  こうした評価項目の設計は、人事部門だけではなく、現場の管理職を巻き込まないと難しい。評価項目が抽象的だから職種別「行動例」をつけるという設計をする場合もあり、現場への依頼というと行動例作成としがちだが、実はそうではない。細かい行動例は、むしろ評価のブレを増大しかねない。大事なことは、さきのA社の例のような概念整理にこそ現場管理職の知見をいれ、評価定義自体を実際の行動事実と照らしやすい、いわば「使える基準」として仕上げることである。  以上は、評価制度の設計や改訂する場合の留意だが、評価の仕組みはもうできあがっていて、確かにあいまいな評価項目ではあるが、現時点で変えようがないという場合でも、評価品質を高める方法はある。次回は、運用のなかで品質を担保し、また確実に評価スキルをあげる手法を提起したい。 →評価100本ノックのすすめ(評価品質を高めるために②)を読む

会社の魅力の育て方 | モチベーションサーベイ

会社の魅力の育て方

 「いま、みなさんが大学生だったとして、御社のどこを魅力だと感じて入社しますか」 人事制度変革をご支援する中で、クライアントの特徴、その企業らしさを言語化するために、ワークショップでこのような質問を投げかけることがあります。  とある中小企業のお客様のなかに、「若い時に戻れるなら、同じ業種の大手企業へ入社したいなぁ。そっちのほうが給料も高いし、休みも多いし。」と発言される方がおられました。ほかの参加者もこの発言に影響を受けてしまい、「うちの会社は給料が安い」「シフト制で休みが少ない」など、他社と比較し劣っている点を次々と挙げられました。「アットホームで社員同士仲が良い」「地域密着のビジネスで転勤がない」といった良いところも挙げられましたが、ほかの企業と比べて突出している点ではないとの意見が出て、それ以上、魅力について掘り下げることができず、結局、自分たちの会社に特徴や魅力がない、という意見にまとまってしまいました。  たしかに、多くの中小企業は、給料や休日休暇など、処遇面で大手企業に見劣りしてしまうことが多いです。独自のビジネスモデルを持っていない場合は、なおさら自社の魅力を問われても、どう説明したらよいか、難しく感じてしまうのでしょう。  ただ、地方の小さな町村での地域おこしの成功事例と比較するとどうでしょうか。  村や町は、自然豊かな美しい景色、おいしい食べ物なども魅力として訴求していますが、それらはどこの地域でも素晴らしく、差別化要因になりにくいものです。成功事例で共通的に紹介されていたのは、その地域のことを四六時中考えているキーパーソンがいて、その人の姿と熱意にひきつけられた生産者や事業者が、思いをともに行動を続けていることでした。住民たちは、日本の中で最も素晴らしい地域だから推しているのではなく、地域の魅力について自分に問い直し、仲間同士で話し合い、エンゲージメントを高め、活動の力に変えていったのではないでしょうか。  会社の魅力を見出し育てる、エンゲージメント向上についても、同じことが言えると考えます。  社員一人一人が、自分がなぜこの会社に入社したのか、どうしていまも辞めずに働き続けているのか、定期的に問い直し、相互に対話を重ねることで、エンゲージメントは高まります。そのうえで、所属企業の魅力を問われれば、社員は、自社の魅力を社外の方に語ることができるでしょう。もちろん、労働条件を改善することも有効ですが、毎年、際限なく労働条件を改善できるわけではありません。労使一体となり、会社の魅力を言語化し、育てていくために、定期的にエンゲージメントスコアを把握し、スコア結果について話し合い、場を設けることは、エンゲージメントを高め、その企業らしさを作っていくものだと、私は考えています。

DX推進の醍醐味は、人材の価値を高められるところにこそある | その他

DX推進の醍醐味は、人材の価値を高められるところにこそある

 新型コロナウイルス感染拡大により接触を避ける生活を余儀なくされてから4年半。急速にオンライン化が進み、DX、AI、VRなどといった横文字が多く飛び交い、企業経営にとって欠くことのできない要素となった。 そこで、以前、DX推進に取り組み、重要だと思った3つのことについてお話したい。 まず、「場をつくる」ということ。  DX推進という新たな取り組みをはじめるにあたり、集まれる場だけつくり、希望者を募り、進め方を自由意志に委ねてみた。すると、「~が面倒だから改善しないと」と始まった会話が、だんだんと「~できたらいいよね!」に変わり、「いいね!」「それやってみよう」「やってだめならまた考えよう」とさらに変化し、トライアンドエラーを重ねながら実用化し、全社に発信してくれていた。自ら選択したことを楽しみながら取り組める場が、何をどう組み合わせると実現できそうかと構想する力、自ら生み出す力、成功を分かち合えるつながりを生み、推進に拍車がかかるのだと実感した。 二つ目は、「共に笑う」ということ。  笑いがあると、脳にエンドルフィンという分泌物が増え、集中力が高まると聞いたことがある。あなたの会社では、上司も部下も一緒に笑っているだろうか。上司は、組織としてDX推進に取り組むときには、上司として部下をフォロー・指導しなければなどと思わずに、メンバーに発見の旅をプレゼントしようという気持ちで大らかに構えていただきたい。当然、メンバーがアドバイスや助けを求めてきたときにはサポートできるように、日々見守ることは大切だが、それ以外は、大幅な許容をもって待つこと、そして、手を差し伸べたい気持ちをぐっとこらえて一緒に笑うことで、メンバーの心理的障壁が下がり、失敗を恐れずに集中して未知のものに向かって飛び込める職場の状態が生み出せるのだと感じた。 三つ目は、「支える」ということ。  DX推進においては、リスクヘッジとして、セキュリティ強化や社内ルールの整備が必須であり、人事や総務の役割は大きいだろう。安心してDX推進に取り組めるよう、時に取り組んでいる社員と対話することで、取り組みの障害となっていることに先手を打てれば、リスク管理はもとより、その後の社内展開をスムーズに行うための支援ができ、変革のためのハブとなるのだと実感した。  以上、「場をつくる」×「共に笑う」×「支える」とかけ合わせた結果、DX推進により顧客や組織に新たな価値を生み出すことはもとより、取り組む人材一人ひとりの価値を高めることができたのではないだろうか。そして、その人材が経験を紡いでいくこと、人材の価値を活かすべく組織の将来像、人員構成・配置を考え、持続的成長につなげていけることこそがDX推進の醍醐味ではないかと考えている。