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大谷翔平はいない。でも勝ち筋はある───自社に必要な人事戦略 | 人事制度

大谷翔平はいない。でも勝ち筋はある───自社に必要な人事戦略

大谷翔平のような存在がいれば、チームの戦い方は一気に広がる。投げても打っても結果を出せるスター選手がいれば、監督は思い切った作戦を組むことができる。 けれど、現実にはそんな選手がいないチームが圧倒的に多い。だからといって勝てないわけではない。 むしろ、自分たちの選手をどう生かすかを工夫することで、そのチームならではの勝ち筋をつくることができる。 名将の戦術をそのまま真似してもうまくいかないのは、自分たちに合ったやり方を考える必要があるからだ。サッカーでも野球でも、同じフォーメーションや作戦は別のチームでは機能しない。 結局のところ、勝ち筋はチームごとに異なる。企業経営も同じだ。他社を真似たスローガンや人事制度を持ってきても成果が出ないのは、「自社の勝ち筋=固有解」が他社とは違うからだ。 だからこそ、まず現状を診断する必要がある。 目の前に見えている現象に振り回されず、なぜその問題が自社で起きているのかを分析する。そして「全部やる」ではなく、「この課題に集中する」と決める。 これが固有解を見つけるプロセスだ。固有解とは、経営成果や競争優位に直結する人事課題を見つけ出し、そこに人やお金といった経営資源を集中的に投下することである。 よくある誤りは、「立派な理念の言葉」や「短期の数字目標」から制度をつくってしまうことだ。 制度を整えても社員の行動が変わらなければ成果にはつながらない。 重要なのは「何を変えるのか」を見極めることだ。経営課題の中には「放置すれば会社の存続に関わるもの」と「成長のブレーキになっているもの」が混在している。 その中から本当に取り組むべき課題を選び出し、今の会社の体力で現実的に解決できるかどうかを見極める。ここに限られたリソースを戦略的に集中させることが求められる。 押さえるべきポイントは明確だ。課題は必ず原因まで掘り下げること。全員を平等に扱うのではなく、会社の成長に直結する層や行動を選んで投資すること。 制度改定には必ず抵抗が起きる。だが、それは変化が本物である証拠だ。恐れる必要はない。 経営が「ここに集中する」と腹をくくって旗を振り、幹部や現場の管理職がそれを自分の言葉で社員に伝える。 この両方がそろって初めて変革は動き出す。 そして制度は必ず硬直化する。だからこそ有効期限を設け、定期的に見直すことが不可欠だ。 人事制度はあくまで手段にすぎない。 価値があるのは「何のためにつくり、どんな行動を生み出すか」である。完全な正解は存在しない。矛盾や摩擦を抱えながらも、比較的うまく運用していくことが現実的な理想だ。 企業が成長するために必要なのは、自社に合った固有解を見つけ、それを人事制度に落とし込み、社員の行動を経営目標に結びつけること。それこそが他社には真似できない競争優位を築き、成長を続けるための人事戦略である。 自社にだからこそできるのは、大企業にはないスピード感と柔軟さで制度を見直し、自社に合った勝ち筋を磨き続けることだ。

「辞めない」だけじゃない、従業員の真の定着を探る | モチベーションサーベイ

「辞めない」だけじゃない、従業員の真の定着を探る

従業員の定着の本質とは  人口減少とそれに伴う労働市場の採用競争の激化を背景に、多くの企業で人材の定着が喫緊の課題となっています。私は100~1000名規模の企業を中心に組織人事コンサルティングを行っていますが、「定着率を上げたい」というご相談が増加しています。しかし「定着」といっても、単に「従業員が辞めない状態」なのが望ましいわけではありません。会社にとって従業員は採用するのも解雇するのも簡単ではありませんから、「従業員が長期間、高い意欲を持って業務に精励している状態」が定着の本質であると言えます。 社員意識調査データから見えてきた定着のカギ 当社が実施している社員意識調査の分析結果の中で、総合満足度と勤続意向(社員が今後もその会社で働いていきたいという意欲)がともに高い水準にある企業があります。  「総合満足度」は高い意欲に、「勤続意向」は長期間の勤務志向に対応しており、この両方が高いということは、冒頭で述べた定着の本質を実現している企業と言えます。それぞれ業種業界・企業規模・男女の構成比等はバラバラですが、「総合満足度」「勤続意向」に対して統計的に有意な影響を示した要因を抽出すると、特徴的な共通点があることが分かっています。  満足度を高める要因 会社への信頼と誇り 仕事のやりがい・主体性の尊重 成果や努力の承認 良好な職場環境と上司との関係性 勤続意向を高める要因 良好な人間関係(満足度と共通) キャリア形成支援の充実 適切な人事異動 労働環境の整備 公正な昇進・昇格・昇給制度 役割に見合った仕事の配分  とくに興味深いのは、01.満足度の要因と02.勤続意向の要因では影響する因子が若干異なる点です。満足度には「やりがい」や「承認」といった心理的要素が強く影響する一方、勤続意向には「公正な評価」や「キャリア支援」といった雇用関係における実利的な要素がより強く影響しています。    一方、定着率の低い企業では、次のような課題がよく見受けられます。 人事評価制度が機能していない 管理職の育成不足 部下の成長支援やフィードバックの欠如 このような企業の中には、管理職自身が日々の業務に追われ、部下のキャリア支援や評価に十分な時間を割けないケースが目立ちます。人員不足による管理職の現場業務過多が、従業員のモチベーション低下や職場のコミュニケーション悪化に繋がり、定着率の低下を招くという悪循環に陥っていることもあります。 定着促進のためにHOWよりWHYを問う 従業員の定着に影響する要因について様々お話ししましたが、これら全てに対処するのは非現実的です。また、企業の経営環境や組織運営の文脈によって各要因の影響の濃淡も変わってくるでしょう。限られたリソースで自社に効果的な施策を打つためには、何をするか(HOW)よりも何が原因か(WHY)を突き止め、理論的に正しい施策を打つことが必要です。そこで、社員の意識調査と合わせて、客観的データを用いた調査・分析による「組織の健康診断」で自社の課題を適切に把握することが重要です。 具体的なチェックポイントとしては例えば以下の項目が代表的です。 給与水準:同業・同規模企業と比較して適正な水準か 労働分配率:自社の数年間の推移や業界平均と比較して適正な水準か 管理職と一般職の給与バランス:給与の逆転現象が起きていないか 管理職の育成状況:360度診断などによる客観評価  ちなみに、360度診断で高いスコアを記録している管理職が多い会社は従業員定着率も高い傾向にあることが分かっています。これは上司だけでなく、同僚や部下、他部署など、複数の関係者の意見を元に評価とフィードバックを行うもので、管理職の成長機会の提供にとても有効です。  定着率向上は一朝一夕に実現するものではありませんが、様々な原因(WHY)の中から自社の「問題の重心」を正確に把握し、的を絞った施策を継続することで、確実に成果を上げることができます。まずは組織の健康状態を客観的に診断することから始めてみてはいかがでしょうか。  

Z世代とともに創る新しい職場~特徴と育成のコツ~ | 人材開発

Z世代とともに創る新しい職場~特徴と育成のコツ~

 「Z世代」と聞くと、X世代(43~58歳)の方は、つい中学生や高校生を思い浮かべてしまうかもしれません。しかし、実際のZ世代は13~27歳の若者を指し、今や職場の若手社員の多数がこの世代です。採用はもちろん、組織の文化や働き方にも大きな影響を与える存在となっています。 今後10年、企業の成長・変革を担う「主役」へと移り変わっていくでしょう。 Z世代は、1990年代後半から2010年代初頭に生まれたデジタルネイティブ世代です。多様性や自己実現を重んじる価値観が特徴で、従来世代とは異なる側面を持っています。Z世代を組織で活躍させるためには、従来型の育成方法・マネジメントスタイルを見直し、Z世代に合わせた方法を考える必要があります。これを怠ると、特に新卒採用を主軸にしている企業では、将来の人材確保・組織の持続的成長に大きな影響が出かねません。 実際、「新卒3年以内離職率 約30%」という現象は昔に比べて高まっているように感じるかもしれません。ですが、厚生労働省の「新規学卒者の離職状況」調査によると、この数字は1980年代後半以降、ほぼ横ばいです。しかし、離職の背景は時代とともに変化・多様化しています。  【新卒離職の主な背景】   ◆リアリティショック(理想と現実の大きなギャップに戸惑いや失望を感じやすい)   ◆働き方や価値観の多様化(「仕事=人生」の意識が薄まり自分らしいキャリアを追求したい)   ◆雇用流動性の増加・転職市場の活発化(転職サイト普及・終身雇用や年功序列の崩壊)   ◆育成環境・職場風土の問題(「放任型」や「昔ながらの厳しい上下関係」に馴染みにくい)   ◆入社・配属後のアンマッチ(職種・勤務地・環境)   ◆将来への不安(成長実感の不足・自分の成長やキャリアパスが見えない) Z世代の育成には、どのようなマネジメントが必要か。まずはZ世代の価値観を理解することです。価値観をまとめてみると、「違いを認める:多様な価値観や背景を受け入れる」、「理由や目的を伝える:仕事の意味や目標を説明する」、「デジタルを活用する:チャットやクラウドで情報共有する」、「社会的意義を明確にする:仕事が社会にどう役立つか伝える」、「ワークライフバランスに配慮する:柔軟な働き方を認める」、「フラットな関係性を築く:役職や年齢に関係なく意見交換する」です。これらのポイントを意識して接することで、Z世代の価値観を正しく理解し、組織の中で活躍してもらえる環境づくりにつながります。 一定数の管理職の方は、既に理解し行動していることかもしれません。「デジタルを活用する」に不安を感じる管理職の方も多いでしょう。 Z世代はインターネットやスマートフォンが当たり前の環境で育ったため、情報共有や業務管理にもデジタルツールを強く求めます。スピーディな情報共有やITツールへの柔軟な対応が重視され、従来の紙文化や非効率なやり方には不満を持ちやすい傾向があります。コミュニケーションや業務管理にデジタルツール(チャット・クラウド・タスク管理ツール等)を積極的に取り入れることは必至です。Z世代の得意分野を活かし、デジタル化推進の中心的な役割を任せてみるのも良いでしょう。 Z世代を完璧に理解しようとせずとも、まずは歩み寄りが大切です。新卒3年以内離職率が40%、50%になってしまったら、将来の人員不足に必ず影響してきます。そうならないためにも、Z世代の強みを引き出し、会社の成長へと結び付けるためには、部下育成の手法も時代に合わせてアップデートしていくことが必要です。 Z世代の力を活かすことで、組織の成長だけでなく、管理職自身も新たな価値観やスキルを得ることができます。ぜひこの機会に、ご自身と組織の可能性を広げてください。 【まとめ】Z世代から期待される具体的な上司像  ◆指示待ちではなく、対話や共感を重視し、納得と成長をサポートできる存在。  ◆時代変化やテクノロジーを積極的に受け入れて、柔軟な働き方や考え方をリードできる存在。  ◆上から押し付けるのではなく、共に考え・共に動く伴走型リーダー。 【ご参考】Z世代を育成していく上司やリーダー層に効果的な教育施策  ◆デジタル世代とのギャップを埋めるための「デジタル・IT活用研修」  ◆社会的意義や仕事の目的意識を明確に伝える力を養う「エンゲージメントマネジメント研修」  ◆上下関係よりもフラットな関係やチームワーク構築を学ぶ「フラットな組織マネジメント研修」  ◆サーバント型・伴走型リーダーを学ぶ「リーダーシップ多様化研修」 管理職の方は、まずはZ世代とじっくり対話することから始めてみてはいかがでしょうか。 新しい視点や気づきが得られるはずです。                                          以上

組織は『代謝』で若返る             ―入れ替えを恐れない「役割」設計と敬意ある運用 | 雇用施策・その他

組織は『代謝』で若返る             ―入れ替えを恐れない「役割」設計と敬意ある運用

 そもそも、生物とは「入れ替え」によって生きている。 人間の体も日々新陳代謝を繰り返しており、皮膚は1ヶ月、血液は4ヶ月、骨は数年単位で更新される。 それでも「私」は「私」であり続ける。これは驚くべきことだ。細胞がすべて入れ替わっても、アイデンティティは保たれるのだから。 この現象、会社・組織にも当てはまるのではないか。 人が入れ替わっても、理念や文化が保たれていれば、「その会社」は存在し続けられる。 しかし、『細胞=役割を遂行する人』がまったく入れ替わらなければ、代謝不良を起こし、静かに死に向かうだけだ。 問題は、『どの細胞を残し、どの細胞を更新するかだ。』 ここで言う「残す/更新する」の単位は「人」ではなく「役割」だ。役割要件が古くなれば、役割自体を作り替える。人の入れ替えはその結果にすぎない(人が成長しても、役割は変わらない。この状態が代謝不良を起こす。更に悪化するのは、役割は変わらず、人も成長せず、停滞し続ける細胞である )。 とくに脳細胞のように動かないポジション―重要ポジションが長期固定化し、運用上「変わらないこと」自体が価値として過剰一般化されると、組織の動きは鈍る。 彼らは企業の記憶かもしれないが、記憶ばかりが蓄積され、動きが鈍れば―それはもう老化である。 もちろん、長く残る細胞がすべて悪いわけではない。 神経細胞のように長命であるべき「役割」もある。ただ、それは「変わらないから偉い」ではなく、「変わらず支えているから価値がある」のである。一方で“皮膚”にあたる役割は、更新を前提に設計しておくべきだ。 自然界にも代謝加速の例がある。京都大学の研究によれば、ショウジョウバエの細胞は、成長の遅れを察知すると分裂を加速して追いつくそうだ[1]。 生物は「このままじゃマズい」と気づけば、自ら入れ替えを進める。 あなたの組織はどうだろう? そして話は「退職勧奨」に及ぶ。これは言ってしまえば、『細胞にそろそろお役御免をお願いする』営みだ。ただし、「個人に向ける」ものではなく、まず役割の棚卸と更新から始め、必要に応じて人の配置や出口を整える営みである。 意外に思われるかもしれないが、日本において退職勧奨そのものは違法ではない。 強要や不利益な示唆などがあれば問題になるが、丁寧な対話による任意の働きかけは適切に行えば認められている。「退職してもらえないか」という働きかけ自体は、合法的な手段なのだ。 ただし日本企業には独特のねじれがある。 「終身雇用を守る」と言いながら「柔軟な組織をつくりたい」 「心理的安全性が大切」と言いながら「成果主義を導入する」 この中途半端さが、退職勧奨を「感情的な追放」と受け止めさせてしまう土壌になっている。 だが、生物に学ぶなら、入れ替えとは本質的に痛みを伴うものだ。皮膚が新しくなるとき、古い皮膚は剥がれ落ちる。骨も、まず破壊されてから再構築される。 つまり、「壊してから創る」ことが進化の前提なのだ。 組織も同じ。役割や役割を遂行する人が入れ替わるたびに、多少の痛みはある。だが、痛みを避けて何も変えなければ、取り返しのつかない「死」が訪れる。 退職勧奨とは、そうした組織の硬直を防ぐ「免疫反応」なのだ。体に異常が起きたとき、免疫が働くように、組織の成長を阻む滞留に対して一定の代謝を促す。対象の選定は役割要件の見直しを起点に、配置転換・再教育・合意退職の順で検討し、記録化と複数回対話を原則とする。 目的は『排除』ではなく、『回復と維持』である。 もちろん、やり方には細心の注意と敬意が求められる。だが、プロセスの難しさと制度の必要性は切り分けて語られるべきだ。 すべての社員が生涯在籍する必要はない。入れ替わりを許容できない組織は、やがて硬直し、再生不能になる。 「退職勧奨は冷たい」と言う人に、私はこう返したい。 「あなたは、20年前の皮膚で今日を生きていますか?」   [1] 京都大学. (2021年1月). 体の成長と組織の成長の速度を調節する仕組みをハエで解明 ―進化のメカニズムに関する可能性―. https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2021-01-29

「内省の強制」から始める(育成のためのアセスメント②) | スマートアセスメント®

「内省の強制」から始める(育成のためのアセスメント②)

   「管理職の登用審査」に使われるアセスメント(=アセスメントセンター方式)を、「管理職候補者の育成」に使うことを前回提案した。アセスメントの利点である客観的な保有能力判断を用いることで、的確に管理職レディネス(=管理職になる準備ができている状態)の醸成が出来る。管理職手前の早い段階で、管理職能力として何が足りないかがわかれば、その後、個別計画的なOJTやOff-JTを組むことで能力伸長や弱点補強ができるからだ。  例えば、把握された強み弱みを踏まえて、上司が、その部下を管理職にすべく育成計画を組み権限移譲を含むOJTをすればいいし、共通して足りないスキルがあれば研修を組む、といった対象者の弱点の実態に即した効果的で計画的な管理職候補者育成が可能になる。  その際にもっとも大事なことは、まずは、本人が自身のアセスメント結果を「自分事」として腹落ちすることである。「分析力」はわりと良い点とれてるが、「創造力」はぜんぜんだめだな。「人材育成力」はイマイチの点だったな、などとテスト結果に一喜一憂するだけでは、まったく意味がない。自分事としての腹落ちとは、①問題に対して自分がどう答えたからこの評価点になったのだと「理解」し、②たしかに日常業務でもこの点は弱みだなと「納得」し、③是正のためにどう「行動」するかがわかっている、ということである。  この、①理解→②納得→③行動、を本人任せにしないで、きっちりとフィードバックを行うこと。いわば、「内省の強制」のイベントとしてのフィードバックが、アセスメント以降の育成の出発点として必須だと強調しておきたい。  それには、二つの方法がある。ひとつは、アセッサーによる個別フィードバック面談。実際の評定者だから、評点の理由はきわめて具体的に説明できる。加えて対話のなかで、本人の違和感や日常の課題感を聞き、演習行動との関係を意味づけさせることで、結果の腹落ちを促す。つまり、自身の業務の文脈でアセスメント結果を再確認させ、具体行動に結びつけることが、フィードバック面談の目的となる。  もう一つは、受検者集合型のフィードバックセッションだ。こちらは、ワークショップ形式なので個別面談のようなきめ細かさには劣るが、グループダイナミクスならではの「気づき」効果の大きさに優れる。たとえば、インバスケット演習であれば、いくつかの案件について、自身の回答を手元にもって、正解に向けてのグループ討議をする。講師の「この案件では何が問われ、どうすべきだったのか」という解説とともに、他者がどう考えどう行動したかを目の当たりにすることで、自身の不足や課題に如実に気づかされる。仮に、同じ管理職を目指す立場として、どうも自分は劣っていると体感したとしたら、その焦りは、以降の自己啓発の原動力にもなるだろう。  このセッションでは最後に、自己確認した能力課題に対して、以降の改善行動方針を作らせるが、そこでも、共有のなかで他者の方針に触れることで、自身に足りない視点に気づき、方針のブラッシュアップの場となるという効用もある。セッションを通じて、他者との考え方や着眼の違いに直面することが、ときに危機感をもった自己課題への気づきをもたらすわけである。  自分の能力課題は何なのか、それをどう解決するか。その切実な理解と自己啓発の意思がなければ、上司が考える計画的な指導も、きちんとした方法論やスキルの教育も、十分な効果は望めない。いま管理職としてなにが足りていないかが自覚できていて、それをどう解消していくかの意思と方針をもつこと。それが、管理職レディネスを高めるために不可欠な第一歩なのである。   「育成のためのアセスメント」を考えるコラム2回シリーズ。 「管理職レディネスをどう高めるか」(育成のためのアセスメント①)  「内省の強制」から始める(育成のためのアセスメント②)→今回 ※育成のためのアセスメント「スマートアセスメント」はこちら  

思考力はどうやって高める?株式会社トランストラクチャ

思考力はどうやって高める?

現代社会は、DX化やグローバル化の進展、社会構造の変化により、将来を見通すことが困難なVUCA時代だと言われます。このような不確実性の高い環境において重要なのは、既存の知識を単に記憶・再生する力ではなく、溢れる情報を取捨選択し、論理的に組み立て、自らの判断や行動に結びつける「思考力」です。思考力は特定の職種に限らず、社会人としての実務全般において求められる基盤的能力といえるでしょう。この思考力を高めるための具体的な方法を五つの観点から考察します。 「問い」を立てる力 思考の出発点は「問い」にあります。日常業務で提示された知識や事実に対して、「なぜそうなるのか」「他の可能性はないのか」と自らに問うことで、思考は深まります。問いを持たない学びや仕事は、表面的な理解や作業にとどまりやすく、応用が利きません。カントが「批判的精神」を重視したように、前提を疑い、問い直す姿勢は思考力の根幹を成します。 言語化による思考の整理 思考は言語を通して初めて明確になります。頭の中で考えているつもりでも、それを文章や発話に落とし込んでみると、不明確な点や論理の飛躍に気づくことが少なくありません。日常的にノートに書き出す、レポートとしてまとめる、あるいはディスカッションで発言することは、思考を外化し、自己検証するための重要な過程です。言語化と内省は思考力の深化に不可欠です。 多角的な視点に触れる 思考力を鍛える上で不可欠なのが、多様な視点を取り入れることです。同じ事象でも立場や背景が異なれば解釈は大きく変わります。たとえば企業活動を経済学の視点から見る場合と、社会学や倫理学の視点から見る場合では、着目点や評価は大きく異なります。異なる分野の文献を読む、異業種の人と議論するなど、積極的に「異なる視座」に触れることは、固定的な思考パターンを崩し、創造的な発想を促します。 正解のない問題に取り組む 思考力は、単一の正解が存在する問題だけに取り組んでいては十分に鍛えられません。現実社会では、複数の解答がありうる「オープンクエスチョン」に直面することが多くあります。例えば「革新は個の天才から生まれるのか、チームの協働から生まれるのか」「持続可能な経済成長は可能なのか」「リーダーシップとは一体何か」といった問いは、明確な結論が存在しません。これらの問いに対して、多様な情報を集め、仮説を立て、議論を重ねることが、複雑な課題に対応するための思考力を養います。 思考のための時間を確保する 現代人は情報の洪水の中で、常に処理と判断を迫られています。その結果、じっくりと考える時間が奪われがちです。しかし、思考力を鍛えるには「思索のための時間」を意識的に確保する必要があります。通勤中や就寝前に数分でも構いません。あるいは一日の中で「熟考するテーマ」を定めることも効果的です。思考は筋肉と同じく、継続的な鍛錬によって強化されるものだからです。 思考力は、生まれつきの才能ではなく、習慣と訓練によって磨かれる力です。「問いを立てる」「言語化する」「多様な視点に触れる」「正解のない問題に挑む」「時間を確保する」。これらの営みを日常的に積み重ねることで、思考はより深く、柔軟で創造的なものへと進化するのです。社会での実践において、自らの思考力を鍛え続けることは、変化の激しい時代を生き抜くための最も確かな資産となるでしょう。 以上

登山型キャリア制度からGoogleマップ型キャリア制度へ ~社員の“自由”と、組織の“管理”の交差点~ | 人事制度

登山型キャリア制度からGoogleマップ型キャリア制度へ ~社員の“自由”と、組織の“管理”の交差点~

 企業におけるキャリアパス制度は、しばしば「登山」にたとえられる。 標高(役職や等級)が高いほど評価され、道は一本道、頂上を目指して歩を進めることが善とされる。この構造は、制度設計の側からすれば整然としており、管理しやすい。しかし一方で、「頂上を目指したくない」社員には不自由で、「登るルートを変えたい」「そもそも別の山に行きたい」社員にとっては、制度そのものがキャリアの足かせになる。  人のキャリアは、山ではない。どちらかといえば都市だ。 複数の目的地があり、好みによって行きたい場所も、歩き方も違う。ある人は繁華街に向かい、ある人は静かな図書館を目指す。途中でルートを変える人もいれば、しばらく足を止めて考える人もいるだろう。  そんなキャリアの現実を捉えなおすとき、ヒントになるのが「Googlマップ型」のキャリア設計だ。登山型のように一本道ではなく、現在地からあらゆる方向に向かう選択肢が開かれており、途中で経路変更も可能。もちろん、全ルートに高低差はあるが、「高い方がエラい」とは限らない。それぞれの目的地に、それぞれの価値がある。  このようなキャリア設計では、社員の自己認知と行動選択が重要になる。 いま自分がどこにいるのか、何を目指したいのか、それにはどんなルートがあるのか。 こうした情報を見える化し、選べる環境を提供することが、企業側の制度設計として求められる。  「自律的キャリア」と言いながら、選べる道が2本しかない――管理職か専門職か――という企業も多い。しかし、Googleマップに例えれば、それは“国道か有料道路か”しかルートが出てこない地図のようなものだ。現実の人間のキャリアはもっと多様で、寄り道、遠回り、ワープ、引き返しといった柔らかな動きがあって当然だ。とはいえ、「自由にどうぞ」と言うだけでは、組織は動かない。企業にとってキャリア制度は、“社員の自己実現の支援”であると同時に、“組織のリソースマネジメントの仕組み”でもある。管理可能性と自律性の両立は、矛盾をはらむ構造だ。  この矛盾を乗り越える鍵は、「可視化」と「ナビゲーション」にある。 まず、社員が自分のスキル・志向・現在地を把握できるようにすること。加えて、そこからどんなルートが引けるのかを、制度として示すこと。 たとえば、社内にどんなキャリアパターンがあるのかをライブラリ化したり、過去に同様の経路を通ったロールモデルを紹介したりといった工夫である。 加えて、マネージャーや人事は“経路案内人”として、ルートを強制するのではなく、「こういう道もありますよ」と提案する存在に変わっていく必要がある。Googleマップは「こっちへ行け」とは言わない。ただ、距離や渋滞状況を伝え、意思決定を支援する。このスタンスは、これからの人事にも求められる姿勢ではないだろうか。  もちろん、自由にはコストがかかる。全員が勝手に動いてしまえば、組織は機能不全に陥る。だからこそ、「可視化」と「選択肢の提示」は、秩序のある自由を生むツールになる。社員は“地図”を持ち、企業は“設計”を持つ。両者が同じ画面を見ながら進むとき、キャリアの可能性は一気に広がる。  かつての制度は、「登山口に並ばされる」仕組みだった。だが今は、社員それぞれの端末に、GPSがある。「そっちへ行きたい」という声を受け止め、組織としてどうナビゲートするか。キャリア制度の再設計とは、その問いへの応答なのだ。

皇帝を映す鏡 | その他

皇帝を映す鏡

 もう20年ぐらい前の話であるが、私は、とある大きな組織の中で、ごく小さなチームのリーダーを任され、6-7名程度のメンバーをマネジメントしていたことがある。あるとき大きなイベントごとが終わり、「慰労を兼ねて、皆で飲みにでも行こうか」とメンバーを誘った。皆も「行きましょう、行きましょう」というので、近くの居酒屋で飲むことになった。イベントが終わった解放感もあっただろうか、みんな闊達に話し、食べて飲んでいるように見えた。次々と私のところにやってきては、ねぎらいの言葉をかけてくれる。「いや、大変だったですけれど、ひとまずよかったですね」と。イベントでのエピソードも共有されたりして、笑いが絶えなかった。私も楽しかったし、お酒のせいもありかなり気分もよくなってきた。しかしそんな中、ふと一瞬、私の頭をある思いが横切った。「何かがおかしい。何だろうか。そう、私がこんなに気分がよくなるはずがない」。  そもそも私の性格や基本的な考え方、そして当時のメンバー構成などから考えて、こんなにすべてのメンバーから共感や賛同を寄せられるはずがない。もちろんそれぞれのメンバーに悪気はないだろう。そういうことではなく、これはメンバー各自、組織人として空気を読んで、ご丁寧にも「私も楽しいです」というメッセージまで添えて、一応のリーダーである私に精一杯の気配り、配慮をしてくれているからなのだろう。良い表現をすれば「優しさ」であり、悪い表現をすれば「偽装」が含まれている。  そう気付くと、私は直感的にまずい、と思った。おそらくこのチームは、波風立たないこと、スムーズに物事が進行することを最大の価値として動いている集合体なのだ。私の直感は当たっており、その後まもなくこのチームは、私が気付かぬうちにある大きなミスを生み、それが露呈し、組織に迷惑をかけ、私は監督不行き届きの責任を問われて真っ先に組織を追われた。  さて世の中には、いろんなレベルのリーダーがいるが、相当高いレベルのリーダーの部類に入るものとして、「皇帝」というポジションがある。  時代を超えて読み継がれているリーダーの教科書である「貞観政要」の中には、当時絶対的な権力を保持した唐代の皇帝太宗と、その重臣である魏徴(ぎちょう)という人物が出てくる。魏徴の役職は「諫議大夫(かんぎたいふ)」と言い、皇帝の過ちを厳しく指摘し叱るという役割だった。  魏徴は、もともと太宗の滅ぼした政敵の重臣であり、太宗の暗殺計画に加担した経緯もあったので、本来ならばとっくに滅ぼされていてもおかしくない人物であった。そのような人物を太宗が敢えて危険を冒してまで自身の重臣として重用したのは、彼が剛直な武人で、相手が誰であっても、自分の利益を顧みずに言うべきことは直言するという、類まれな裏表のない人物であったためである。  リーダーというものは、権力を握れば握るほど、トップになればなるほど、周りはイエスマンばかりになり、いつのまにか状況把握や意思決定を誤るものである。太宗はその危険をよく分かっていたので、魏徴のような人物を側近としたのである。  「諫議大夫(かんぎたいふ)」になった魏徴は、見事その役割に応え、「諫言二百回」と呼ばれるほど、太宗に厳しく指摘を行った。ときには、生来直情的な太宗の怒りを買い、消されそうになったこともしばしばだったが、その都度太宗は思いなおし、けっきょく魏徴が亡くなるまで側近において重用した。  魏徴が亡くなったとき、太宗は次のように言ったという。「人は銅を以て鏡とし衣服と冠を正す。過去を以て鏡とし世の中の移り替わりに対処する。人を以て鏡とし自分の行動を正す。そういうものだ。私は魏徴という立派な鏡を失ったのだ」と。  魏徴がいた頃の太宗は、結果的に軍事行動を極力控え、民生の安定を優先させていた。しかしその後、魏徴がいなくなると状況は変わってしまった。頻繁に対外遠征に踏み切るようになり、政情や財政の不安定を招いてしまった。最晩年の太宗は、築き上げた大唐帝国の行くすえを大いに案じるようになり、安らかならぬまま亡くなっていってしまったのだという。  人には、死角というものがある。自分の背中や顔を直接見ることはできず、それを見るには他人の視線や鏡など外部の助けを借りなくてはならない。これは視覚に限ったことではない。思考・判断を含め人というものに根本的に死角が備わっている。そこで外部の助けが得られなければどうなるか。ときには空想や勘違いを膨張させ、自分勝手なありもしない「現実」を作り出してしまう。私のチームの場合もたぶんそうだった。私は、気分がいい状態のまま、これからも勝手にうまくいくと思い込んだ。いや、そう信じたかったのだ。  私には魏徴はいなかったが、ごく小さなチームだったとしても、やはり鏡となってくれる存在をそっと育てておくことが必要だったのかもしれないと、ときどき思い返したりする。    

「管理職レディネスをどう高めるか」(育成のためのアセスメント①) | スマートアセスメント®

「管理職レディネスをどう高めるか」(育成のためのアセスメント①)

 管理職の登用審査には、アセスメントセンター方式が有効だと何回か書いてきたし、実際に使用する企業数も増えつつある。 ■「登用の失敗」はなぜおこるか(アセスメント活用の勘所①) ■外部視点評価を過信するな(アセスメント活用の勘所②) ■VUCAリーダーをどう見極めるか(アセスメント活用の勘所③)  ただ、審査の合否判断にだけアセスメントが使われるのは、あまりにもったいないのではないか。いざ管理職になろうかとする際に、「あなたは、能力不足だからダメ」といわれても、能力はすぐにはどうにもならないし、失地挽回には1年後の再審査にかけるしかない。  審査ではなく、管理職「候補者」の育成のために、アセスメントを使ったらどうか。せっかくアセスメントでは「管理職としての能力発揮可能性」を評定できるのだから、もっと早く、たとえば管理職手前の等級に昇格した時点でそれが分かっていれば、審査までのあいだに、管理職へむけての成長に努められるからである。結果、候補者の能力の底上げができることになるわけだが、アセスメント先行実施の、より大きな効用は、「管理職レディネス(=管理職となる準備ができた状態)」が醸成できることだ。   シミュレーションを通じたアセスメントを受けることで、第一に、管理職業務のなんたるかを、きわめて具体的に体感理解できる。第二に、そうした業務における自身の(現在の)能力課題を知ることができる。現在はプレーヤー業務ではあるけれども、将来管理職になった際の「弱み」があきらかになっていれば、現状業務を通じてのその克服を、上司も本人も意識し実践できる。  では、こうしたアセスメント先行実施による育成を意図したとして、登用審査としてもう一度アセスメントをするのかどうか。もちろん、仕上がりをテストで確認するのが効果測定としては確実だが、必ずしもアセスメントを2回する必要はない。たとえば、以下の二つの方法がある。 1.先行アセスメント+社内審査 候補者に対して、審査の1年前にアセスメントを実施、その結果を本人、上司にフィードバック。自身の強み弱みを踏まえて、上位課題(個人ではなく部署の課題)を設定し、その解決のための行動計画を立案・実行。■上位課題のレベル ■計画の実践度合い ■能力課題およびその是正への取り組み、を面接(経営陣による)で審査 2.先行研修(シミュレーション研修)+アセスメント審査 管理職手間の等級への昇格者に対して、「アセスメントの原理を応用した管理職シミュレーション形式」の研修を実施。演習と解説、自己分析により、管理職業務の体感理解と自身の能力課題を把握。結果を上司と共有し、育成にむけたOJT(権限移譲含む)と自己啓発を計画化し実行。登用タイミングでアセスメント審査をうける。  いずれも、プレーヤーの延長ではない管理職という節目だからこそ、❝入学評価❞であるアセスメント(の原理)を管理職レディネスの醸成つまり管理職先行教育に使おうということである。加えて、②のアセスメントの原理を用いる研修は、階層別研修におけるブラッシュアップ研修でもさまざまに実施できることを付記しておきたい。  階層別研修は、通常、階層ごとにエントリー研修とブラッシュアップ研修を用意するが、前者は、当該等級昇格者向け、後者には、目的別に3種類ある。ひとつは、当該等級在籍者の能力・行動課題の是正目的のもの。評価情報分析による共通課題に基づく。もう一つが昇格候補者への研修。次の等級への準備研修であり、こちらは、上記②と同様に、上位等級での期待行動をシミュレーションのなかでの体感理解と自己分析によって、「昇格レディネス」の醸成ができる。併せ研修行動を観察・評価することで、「育成しながら見極める」こともできるので、この手のブラッシュアップ研修を階層別研修に組み込むことは、効果的効率的育成施策として推奨したい。  ちなみに、ブラッシュアップ研修の3つ目は、当該等級滞留者への研修。上位等級への昇格の見込みがない人々を、いかに戦略的にかつモチベーション高く稼働させるか。難易度の高い施策ではあるが方策はさまざまにある。今回のテーマには外れるので、別の機会に紹介したいと思う。 「育成のためのアセスメント」を考えるコラム2回シリーズ。 「管理職レディネスをどう高めるか」(育成のためのアセスメント①) →今回 「内省の強制」から始める(育成のためのアセスメント②) ※育成のためのアセスメント「スマートアセスメント」はこちら

「柱が立っても、水道が来なきゃ暮らせない」~報酬設計は“住み心地”のリアル~(「人事制度設計」を考えるコラム②) | 人事制度

「柱が立っても、水道が来なきゃ暮らせない」~報酬設計は“住み心地”のリアル~(「人事制度設計」を考えるコラム②)

第1回では、等級制度と評価制度は“組織の骨格”だと申し上げた。骨格がしっかりしていれば、あとはそこに“インフラ”を整備することで組織は生き始める。 その“インフラ”とは水道、電気、ガス――この家で暮らしていけるのか?に直結するリアルな要素。それが報酬制度である。 まず、どんな報酬制度にするかは、ポリシー(考え方)次第だ。これは家で言えば「都市型か、里山型か、自給型か」くらい違いが出る。 たとえば: 採用競争力を重視したい → 年収水準は外部マーケットと比較して高めに(都市型) 安定した組織運営を重視したい → 内部昇格や長期在籍を促す設計に(里山型) 外部環境に頼らず、自律成長を目指したい → 業績連動を高め、自己完結型に(自給型) といった具合に、会社のスタンスを明確にする。報酬制度は“数字の羅列”ではなく、“思想の反映”なのである。 こうした方針を決めずに、細かな設計だけをしても「水は出るけどお湯が出ない」みたいな中途半端な制度になる。 次に、「年収」をどう分解するか。大きく月収と賞与に分かれるが、それぞれに設計ポイントがある。 特に賞与は、以下の2軸で考える:  1つ目は、「どうやって原資を決めるか?」  2つ目は、「原資をどう分配するか?」 まず、「どうやって原資を決めるか?」。ここでありがちな設計ミスが、「賞与〇カ月分を踏襲する」という“惰性型報酬設計”だ。企業経営において、前年の気分でお金を撒くような習慣が残っているのは賞与くらいだろう。 おすすめは、「営業利益の○%を原資にする」というロジックである。これは社員にもわかりやすく、「業績に応じて自分たちの報酬が決まる」という感覚が醸成される。つまり、“結果にコミットする文化”を作りやすい「自律型報酬設計」だ。 「でも、業績が悪かったら社員の生活は?」という質問が飛んできそうだ。ごもっとも。そのために、ポリシーがある。「賞与は年間4カ月を標準とし、そのうち2カ月は固定、残りの2カ月は業績と評価で変動」 こうすれば、最低限の生活保障と、成果に応じた変動報酬のバランスがとれる。要は、制度ではなく“発想”を柔らかくするのだ。 2つ目の「原資をどう分配するか?」。  わかりやすい例を挙げれば、 S評価は標準の1.5倍、C評価は0.7倍など、評価ランク別に差をつけることで、納得感を生む。 当社としては少し複雑ではあるが、ポイントシェア方式での配分を推奨したい。これは賞与総原資÷社員の評価ポイントの総和=1ポイントの金額を算出し、評価ポイント×1ポイントの金額で配分する手法だ。  ※厳密には基本給の差によって1ポイントの重みが異なるため、その差を埋めるロジックを組む。 ざっくり言うと、成果の比率で山分けする方法である。 ポイントシェア方式の最大のメリットは、賞与原資内で必ず賞与支給額が収まることだ。 月収の肝となる給与テーブルも、方針に応じて設計が変わる。 ・「メリハリ重視」 → テーブル幅は狭く、昇格時に年収がガツンと上がる ・「なだらかな成長」 → 幅広のテーブルで、毎年少しずつ昇給する設計に そしてもうひとつ、管理職昇格時の給与設計も見逃せない。 管理職には残業代がつかないため、非管理職の“残業込み”月収を下回るような昇格はNGだ。昇格したら損をする、という制度は、誰も住みたがらない、空き家だらけのタワマンになってしまう。 さて、ここまで読んだあなたは、こう思っているかもしれない。「制度設計って、結局、全部バランスの話なんですね」と。 その通り。そしてそのバランスは、“数式”ではなく“哲学”で決まる。 この制度の家に、果たして社員は住み続けたいと思っているだろうか? いま一度、インフラチェックをしてみてはいかがだろうか。 *「人事制度設計」を考えるコラム2回シリーズ。 ■ 「“階段”がない家に、住めますか?」~等級と評価の設計が、組織の“骨格”を決める話~    (人事制度設計を考えるコラム①) ■ 「柱が立っても、水道が来なきゃ暮らせない」~報酬設計は“住み心地”のリアル~        (人事制度設計を考えるコラム②)今回    

「“階段”がない家に、住めますか?」~等級と評価の設計が、組織の“骨格”を決める話~(「人事制度設計」を考えるコラム①) | 人事制度

「“階段”がない家に、住めますか?」~等級と評価の設計が、組織の“骨格”を決める話~(「人事制度設計」を考えるコラム①)

あなたがもし、ゼロから家を建てようとしたとき、最初に「ソファの色」や「カーテンの柄」を決めるでしょうか? きっと「間取り」や「階段」「柱」といった、家の“骨格”を設計するはずです。これがなければ、どんなにオシャレな家具を置いてもそもそも住めないからです。 組織も同じです。 「評価制度を先に作ろう」とする会社は少なくありませんが、それはソファから決める家づくりと同じです。まず設計すべきは等級制度、そして評価制度という組織の“骨格”です。  では、どこから始めればよいのでしょうか? 答えは、戦略です。 「人材戦略」は必ず「経営戦略」と同じタイプの戦略でなければなりません。会社としてどの市場に挑み、どんなポジションを狙うのか。そのために必要な人材はどんな人材か?そして何人必要か? ――質と量。この問いが出発点です。  例えば、山登りをするなら登山靴とロープがいりますし、野球をするならバットとグローブが必要です。間違っても、登山にバットは持って行きません。組織でも同じです。戦略に応じた人材設計がなければ、人事制度は飾りで終わります。 そしてこの人材設計は、組織ごとに異なる課題や期待、例えば、ベースアップによる生活保障の強化、シニア層の活性化、成果主義の徹底による成長促進などに応じてカスタマイズされるべきです。  さて、ここからようやく「等級制度」と「評価制度」の話になります。まず等級制度とは、言ってみれば組織の“階段”です。階段の数や幅、勾配が曖昧な家には、誰も住みたくありません。それと同じで、等級制度が曖昧な組織では、人材も成長の階段を上ることができません。  特に管理職層は、組織の階層構造に合わせて設計すべきです。部長が5人もいるのに部が3つしかない、という奇妙な家をたまに見かけます。非管理職層においては、社員の成長段階に応じた等級が必要です。さらに、専門性を武器にする社員には、市場価値に即した等級幅を設定しなければ、すぐに家出(転職)されてしまいます。  では、等級をどう定義するか。等級定義とは、その等級の社員が「何を果たすべきか」を示すものです。入社から上位ポストに至るまでの「成長曲線」を表現することで、キャリアの道筋が見えてきます。そしてその定義は、抽象的であってはなりません。具体化の一つの手法が、PDCAサイクルで定義を組み立てる方法です。 たとえば: Plan:組織が実現すべき方針・目標を描き、達成するための計画を逆算して立てる。 Do:組織目標の進捗状況を適切に管理し、円滑かつ確実に計画を遂行する。 Check:組織で起きている問題課題分析・整理し、妥当性の高い根拠により状況を正確に読み取る。 Action:組織に顕在する問題・課題を明確化した上で、解決策・改善策を検討し方針を決め、重点的に取り組む。  これはあくまで定義を具体化するための“例”であり、他の切り口も存在します。しかしPDCAは、等級定義を評価制度にスムーズに接続するフレームワークとして非常に有効です。  また、よく誤解されるのですが「Do(実行)」が1項目だけでよい、という意味ではありません。たとえば「組織外連携」「人材育成」など、同じ“Do”のカテゴリでも複数の観点を立てて構いません。重要なのは、バランスよく行動全体を捉えることです。定義と評価が地続きであること。これが、評価制度を“後づけの査定”から“成長のマイルストーン”へと進化させるコツです。  そして最後に、昇格の基準について明確にしておきたいのですが、よく「スキルレベルが上がったから昇格」と捉えがちです。しかし、そうではありません。その等級で定義された“評価項目”を、一定水準で実行できているか。つまり「そのレベルの人として安定的に機能し、次のステップに進めること」が、昇格の本質です。  ここで、忘れてはならない前提があります。 人は評価されるために成長するのではありません。成長した事実を評価されるのです。  評価制度とは、誰かを選別するためのものではなく、社員一人ひとりが、自分自身の成長曲線を描き、それを歩んでいくための道標です。だからこそ、「今の組織に必要な成長」と「社員が歩みたい成長」を重ねる制度設計が求められます。”年功か成果か、ではなく、両者をどう融合させるか”それが、制度に命を吹き込む発想です。  ここまで読んで、「そんな細かく決めると、自由がなくなる」と言いたくなるかもしれません。ご安心ください。骨格を決めることは、自由を奪うのではありません。むしろ、成長の自由を保証するためにこそ、骨格が必要なのです。 あなたが今立っている組織には、ちゃんと階段がありますか?それとも、3階建ての家なのに、はしご一本で運用していませんか? *「人事制度設計」を考えるコラム2回シリーズ。 ■ 「“階段”がない家に、住めますか?」~等級と評価の設計が、組織の“骨格”を決める話~     (人事制度設計を考えるコラム①)今回 ■ 「柱が立っても、水道が来なきゃ暮らせない」~報酬設計は“住み心地”のリアル~       (人事制度設計を考えるコラム②)

「ヘルメットの中の人的資本」 ~アメリカンフットボール式、社員を“戦力化”する人事運用の極意~ | 人事コンサルティング

「ヘルメットの中の人的資本」 ~アメリカンフットボール式、社員を“戦力化”する人事運用の極意~

 私の好きなスポーツの1つにアメリカンフットボールがある。 あの重厚な装備、緻密な戦略のぶつかり合い、そして一瞬の判断が勝敗を分けるスポーツに、私は人的資本経営の本質を感じてしまう。 ※本コラムとは全く関係ないが、2028年ロサンゼルス五輪ではボディコンタクトのないアメリカンフットボール=フラッグフットボールが正式種目になっていることを宣伝させていただきます。  日本企業も「人的資本経営」という言葉に本気で向き合い始めているが、情報開示が目的となっていないだろうか。 本質はそんな薄っぺらい"バズワード"ではない。これは、人事戦略の“表紙”を差し替えるような、流行り物ではなく、 人事制度の「運用」そのものをアップグレードするという、もっと泥臭い話なのだ。そしてその泥臭さが、実はアメリカンフットボールにそっくりなのだ。  アメリカンフットボールの特徴は、選手が極端に専門化されている点だ。 例えば「クォーターバック(QB)」は司令塔の役割で、戦況を読み、瞬時に判断してボールを投げる(走る)頭脳型ポジション。 一方、「オフェンシブライン(OL)」は、体格の大きさとパワーで敵を押しのけ、仲間を守る縁の下の力持ち。 そして「ワイドレシーバー(WR)」は俊敏なスピードで敵陣を駆け抜け、パスをキャッチする花形。どの選手も能力も役割も全く違う。 「全員に同じ練習をさせる」などという発想は、勝負の世界ではナンセンスなのだ。  人的資本経営も、まさにこの「選手一人ひとりにフィットした人事制度の運用」が肝心だ。 企業が制度を作るとき、多くは「全社員共通」の基準で評価や育成を設計する。 しかし、実際の現場では「型にハマらない社員」こそがスーパープレーを見せるスタープレイヤーになり得る。 社員の性格も能力も異なるのに、画一的な評価制度、共通の研修、同じキャリアパスでは、スタープレイヤーは生まれにくい。  人的資本経営とは、この“ポジション別マネジメント”の視点を人事制度に持ち込むことに他ならない。 例を挙げれば、クリエイティブな思考を求められるマーケティング職と、緻密な計画性が求められる経理職では、当然伸ばすべきスキルもキャリアの描き方も異なる。 にもかかわらず、同じ評価項目で比べ、同じ階段を上らせようとする。 これは、QBに「パワーで敵を押しのけろ」と言い、OLに「俊敏なスピードで敵陣を駆け抜けろ」と言っているようなものだ。 それでは勝てるはずがない。  そして、アメリカンフットボールのもう一つの特徴。それは「プレイブック」という戦術マニュアルだ。 状況に応じた複数の選択肢を用意し、選手が自分の役割を瞬時に判断できるようにする。 人的資本経営でも、「社員が自分の成長を描けるプレイブック」が必要だ。 単なる人事制度ではなく、社員が「自分はどこを目指すべきか」「今、何を強化すべきか」を把握できる仕掛け――たとえば、スキルの見える化や、個別のキャリアマップの設計がそれにあたる。  最後に忘れてはならないのが、「ヘッドコーチ」の存在だ。 試合中、選手たちに指示を出し、状況を分析し、最適なプレーを選ぶ。社員を本気で成長させるには、マネージャー自身がコーチとしてのスキルを持っていなければならない。 つまり、社員の成長に本気でコミットするということ。 人的資本経営は、人事部だけの仕事ではない。現場マネージャーも育成のプロであり、育成観と目利き力、これこそが、最も重要な“隠れた資本”なのだ。  このコラムの読者の会社が今、負けが込んでいるとしたら、それは戦略のせいではなく、選手の特性を見抜かずに、全員に同じプレーをさせているからかもしれない。  アメリカンフットボールに勝利の方程式はない。 だが強いチームには共通点がある。 それは、一人ひとりの特性を見極め、最適な育成と戦術で活かす"人事制度の設計"と"運用"が徹底されていることだ。  さて、あなたの会社にとっての「QB」は誰か? 「OL」は?「WR」は? その選手たちに、適したプレイブックは用意されているだろうか? あなたのチームは、勝つ準備ができているだろうか? 本コラムの筆者が登壇するセミナーのアーカイブ配信をしております。ぜひご視聴ください。お申込みはこちら 【アーカイブ配信】シニア人材を活かす人事制度 ~70歳まで雇用を見据えた人事制度のあり方とは~