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人事制度

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副業は増えているのか?<br />~「多様で柔軟な働き方」の幻想~ | 関連制度設計

副業は増えているのか?~「多様で柔軟な働き方」の幻想~

 近年、「副業」というワードをよく耳にするようになりました。2018年に厚生労働省作成のモデル就業規則から「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という副業を禁止する文言が削除されるなど、従来の働き方からの変革が求められています。企業は、従来の働き方や就業管理と真剣に向き合わなければなりません。  日本における副業者数は徐々に増加傾向にあるものの、雇用者全体に占める割合は低く、副業という働き方はまだ一般的ではありません。副業者が増加傾向にある背景の一つには、一つの会社で定年まで勤めあげるという会社中心の考え方から、各自のライフスタイルやキャリアプランに合わせて柔軟に働き方を選択する労働者中心の考え方にシフトしていることが挙げられます。しかし、人数は増えているものの、2017年度における雇用者に占める副業者の割合は2.2%と、まだ副業は浸透していないことが分かります。 図表1:雇用者に占める副業者数 出典:総務省統計局「昭和62年~平成29年 就業構造基本調査」を加工して作成注1)本グラフにおける副業者は、本業・副業どちらも雇用者として従事している者を指し、自営業者もしくは家族従業者として従事する者は含まない。 注2)雇用者には「会社などの役員」である者を含む。 なお、コロナウイルス感染症拡大後に新たに副業を始めた人の割合は2.6%(※注・※注2)と、短期的には増加していますが、長期的な観点からはコロナウイルス感染症をきっかけに副業が広まっているとは言い難い状況です。  そして、所得階層別の副業率には、極めて大きな特徴があります。所得階層別に3区分すると、高い層(1,000万円以上)と低い層(199万円以下)の副業率は高いのです。高い層は、高度な専門技術やスキルを有しており、労働市場で人材不足となっている層であることから、スキルを活かす場が多いことが挙げられます。また、低い層は、非正規社員の占める割合も多く、より収入を得るために複数の仕事を掛け持ちされています。その結果、他の所得階層よりも高い数値となっています。  一方、ボリュームゾーンとなる中間層(200~999万円)の副業率は低く、特に400~599万円において2.1%と低い結果となっています。日本において副業を推進していくには、このボリュームゾーンの人々の副業率をいかに上げることができるかが重要なポイントとなります。 図2:所得階層別の副業者数 出典:総務省統計局「平成29年 就業構造基本調査」を加工して作成注)本グラフにおける副業者は、本業で雇用者として従事している者を指し、自営業者もしくは家族従業者として従事する者は含まない。 注2)雇用者には「会社などの役員」である者を含む。  ボリュームゾーンとなる中間層の副業率が低い理由の一つとして、企業の副業に対する制度の整備が進んでおらず、対応が遅れていることが挙げられます。「平成26年度 兼業・副業に係る取り組み実態調査事業 報告書」(中小企業庁委託事業)では、「副業を推進している」と回答した企業は0%、「推進していないが容認している」と回答した企業は14.7%のみという結果でした。また、2021年に行われた「第4回 コロナウイルス感染症影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(内閣府)では、「副業が許容されている」と回答した就業者は26.7%のみであり、過半数以上の企業において副業制度が整備されていない、もしくは従業員へ制度が浸透しておりませんでした。  副業の対応を進めるにあたり、企業は労働日数や労働時間に柔軟性を持たせるなど、フルタイム雇用に頼る従来の就業管理方法からの脱却が求められています。また、企業側が制度を整えるだけではなく、労働者側も柔軟な働き方に対応できるよう意識改革をしなければなりません。時代に即した就業管理へアップデートできているか、そして、従業員が柔軟な働き方を受け入れることかできるのか、経営方針や事業内容と照らし合わせながら、今一度見直す必要があります。 以上 ※注)出典:内閣府「第2回 コロナウイルス感染症影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」 ※注2)本業・副業ともに雇用者以外の者も含む。

DX人材戦略<br />~IMD世界デジタル競争力ランキングから考える日本企業の課題~ | 関連制度設計

DX人材戦略~IMD世界デジタル競争力ランキングから考える日本企業の課題~

 近年日本ではDX(デジタルトランスフォーメーション)について試行錯誤していますが、まだまだ課題が多いのはご承知の通りだと思います。推進するためのポイントはどこにあるのでしょうか。  海外と比べ、日本はIT・DXについては遅れていると言われています。スイスに拠点を置くビジネススクールIMD(International Institute for Management Development:国際経営開発研究所)が発表した、IMD世界デジタル競争力ランキング2021によると、日本は全64カ国中28位であり、これは過去最低です。 図表1-1:IMD世界デジタル競争力ランキング 出典:「IMD World Digital Competitiveness Ranking」(IMD世界デジタル競争力ランキング)  このランキングは、デジタル競争力に影響を与える要因を「知識」、「技術」、「将来への備え」の3つに分類し、各要因に関する52の基準・指標に基づいて算出されています。 人事領域に関わりが深い「知識」にフォーカスをすると、日本においては特に、国際経験が最下位の64位、デジタル/技術スキル(デジタルスキルを持った人材の割合)は62位で「弱み」と言えます。逆に教育評価、生徒・教師の比率、R&Dへの公的支出といった教育研究面の整備については他国と比較して上位に位置していますが、これが各企業のDX推進につながっていると言えるでしょうか。 DX推進のためには、このランキングを各企業が自社のこととして、「最新のデジタル技術スキルを習得できるよう育成しているか」、「海外経験を踏ませているか」、「外国人技術者を採用しているか」など、推進に向けた自社の人事領域の把握を早急に進めなくてはなりません。 図表1-2:IMD世界デジタル競争力ランキング 要因と基準指標 出典:「IMD World Digital Competitiveness Ranking」(IMD世界デジタル競争力ランキング)  実際に企業はDX推進の課題をどう捉えているのかを見ると、日本では人材不足が過半数を超えており、アメリカ、ドイツと比べても圧倒的に多い状況です。やはり人材不足の問題は深刻なようです。 図表2:DXを進める際の課題 出典:総務省(2021)「デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究」  一括りに「人材」と言っても、具体的にはどのような人材が必要なのか? 以下のアンケート結果によると、「変革リーダー」「業務改革プロセスを牽引できるビジネスパーソン」「ビジネスデザイナー」が上位であり、技術者よりもDXを主導し、デジタル技術を事業に活用できる発想を持つ人材の必要性がここに見えます。 デジタルをどう事業に活かすかという知識、経験を持ち、革新的な発想ができる人材は肝であり、大きな採用・育成課題ということです。 図表3:With/アフターコロナ時代に生き残るため、貴社がDX領域で採用・育成を強化すべき人材像 出典:日経BP総合研究所 イノベーションICTラボ DXサーベイ2   (「With/アフターコロナ時代に生き残るため、貴社がDX領域で採用・育成を強化すべき人材像はどれですか」に対する回答結果)  今後のビジネスモデル構築は、デジタル技術活用、DXありきとなってくるでしょう。それはアナログデータや業務工程のデジタル化だけではなく、デジタル活用による新たな価値創造のことです。自社がDXによって、社会にどのような変革を起こせるのか、そこにはどのような人材が必要となるのかを明確にし、固定概念を打ち砕き、システム部門のみならず全社的に新たな発想ができる人材の育成や、大胆な人材採用推進していく必要があります。 以上

変わる家族手当<br />~支給条件の見直しや廃止~ | 関連制度設計

変わる家族手当~支給条件の見直しや廃止~

 少し前までサラリーマンの家族は、正社員の夫と専業主婦、子ども2人の4人家族モデルが一般的でした。しかし、結婚、出産、働き方など人生の選択が多様化し、家族の姿は大きく変化しています。2022年版の男女共同参画白書では、家族の姿は「もはや昭和ではない」と表現されました。  一世帯あたりの平均人数は、1960年の4人から2020年には2人に激減し、単独家族世帯が全世帯の38%を占め最も多くなりました。また、夫婦と子どもの世帯は、2020年には全世帯の25%まで減少し、家族といえば「夫婦と子ども」という概念が大きく変わってきています。(図1、2) 図表1:一般世帯と平均世帯人員 出典:総務省 国政調査 図表2:家族の姿の変化 出典:総務省 国政調査  企業における家族手当についても廃止や支給条件の見直しが行われています。家族手当は、配偶者や子どもなどの家族がいる社員に対して、その家族構成や人数などの条件に応じて支給される手当です。人事院の調査によると、家族手当制度がある事業所の割合は2021年時点で74.1%、そのうち、配偶者に対する家族手当を支給する事業所の割合は55%(全事業所を100とした場合)となっています。過去からの推移をみると、子どもに対する家族手当は維持されつつ、配偶者に対する家族手当は廃止傾向です。(図3) 図表3:家族手当の採用率 出典:人事院各年の職種別民間給与実態注)調査配偶者に家族手当を支給しない事業所の割合は、家族手当制度がある事業所の従業員数の合計を100とした割合である  制度の変化の背景には、家族の姿の変化とともに、その時々の社会の慣習や経済情勢の変化が影響しています。家族手当は欧米には見られない制度です。日本では大正時代から既にあったとみられ、生活給の一部として普及してきました。その後、核家族化が進み、正社員の夫と専業主婦・子どもの家族モデルのもと、「社員の家族が世間並の生活を」「子ども2人を大学まで卒業できるように」といった福利厚生の要素が加わりました。  1990年代に入って、「賃金は労働の質と量で決まる」という成果主義の広がりから、家族手当見直しの動きが始まります。また、労働人口が減少する中、多様な人材が活躍できる環境の整備が求められるようになります。「世帯主に限定して支給されることが多い家族手当は、女性に不利な賃金である」「家族手当や国の税・社会保障の仕組みが、専業主婦や配偶者の就業調整につながっている」ことが指摘され、配偶者に対する家族手当の支給見直しにつながります。さらに、子どもに対する家族手当については、少子化対策として、配偶者分の原資を振り替え、支給額を増加する企業も現れました。今後も、同一労働同一賃金など社会の要請に合わせて見直しが行われるでしょう。  家族手当が賃金に占める割合は高いものではないですが、その維持・支給条件の見直し・廃止の意思決定は、その時々の社会からの問題提起や社会課題に対する企業の姿勢を示しているものとも言えます。既存制度の見直しは、「かわいそう」という思考が先に立ち、消極的な意思決定になる場合があります。社会の状況を正確に理解しつつ、自社が大切にしたい軸を起点とした意思決定をし、それをきちんと社員にメッセージとして伝えていくことが、社員の共感や会社の魅力につながっていくのではないでしょうか。 以上

伸びない女性管理職割合・男女差が埋まらない育児休業率<br />~女性活躍推進への一歩は意識改革と即実行~ | モチベーションサーベイ

伸びない女性管理職割合・男女差が埋まらない育児休業率~女性活躍推進への一歩は意識改革と即実行~

 社会における女性活躍を軽視している人はいないでしょう。様々な手で女性が活躍できるようにと努力がなされています。しかし、実際の女性の活躍、男女の雇用機会均等の実現は想像以上に厳しい道のりです。  管理職に占める女性の割合は女性活躍を測る重要な指標の一つです。そして大きなライフイベントの一つである出産・育児についてもキーポイントとしてとらえる必要があります。  管理職に占める女性の割合は緩やかな上昇傾向ではありますが、男女雇用機会均等が実現しているとは言い難いのが現状です。特に実務の中心を担う部長、課長相当職の女性割合の低さが顕著であり、いかに女性管理職が生まれていないのかがわかります。  データで見ると、最も高い係長職に占める割合でも17.9%、部長相当職に占める割合にいたっては6.2%といまだに10%にも満たない状況です。 図表1: 企業規模30人以上における役職別女性管理職割合の推移 出典:厚生労働省「雇用均等基本調査」注1)平成23年度は岩手県、宮城県及び福島県を除く全国の結果  女性の活躍が進まない背景の一つの理由として出産・育児があげられるのではないでしょうか。育児休業を取ることができる労働環境は必須ですが、いまだに男性は育児休業を取りづらい、取るべきではないという意識があるのではないかと推察します。  育児休業者率の推移データを見ると、女性は平成19年度以降、80%を超える水準で推移していますが、男性は平成29年度に5%を超え、そこからやや上昇、令和2年度は12.7%となっています。依然として男女での差が大きい状態が続いており、男性の育児休業取得が進んでいないことがわかります。 図表2:育児休業取得率 出典:厚生労働省「雇用均等基本調査」注1)平成22年度及び平成23年度の比率は、岩手県、宮城県及び福島県を除く全国の結果  また、この育児休業取得率を産業別に見ても、男女の差は明らかです。  金融業,保険業が男性の取得率で最も高く30%を超えていますが、女性のとの差は50%以上です。電気・ガス・熱供給・水道業の男性取得率が最も低く、2.95%という状況です。業種による人材流動性の高低や雇用環境、職種など様々な要因がありますが、男女の差がなく、かつ高い水準であることが理想でしょう。 図表3:産業別育児休業取得率 出典:厚生労働省「雇用均等基本調査」注1)平成30年10月1日~令和元年9月30日に出産した者又は配偶者が出産した者のうち、調査時点(令和2年10月1日)までに育児休業を開始した者(開始の予定の申出をしている者を含む。)の割合  労働力不足の中、多様な人材の活用が必須の現代で、女性が活躍できないことは大きな問題です。これを脱却するポイントは、男性・女性、既婚・未婚、子どもを持つ・持たないに関わらず、優秀な人材の育成と登用、働く環境の整備をしていくことです。育児休業に限って言えば、まずは企業として男女関わらず育児休業を取ることや、復帰後も活躍することはごく普通のことであるという意識改革、そして社員に子どもが生まれたら育児休業を勧めるような、即時実行が必須です。  また、企業側の努力のみならず、働く側の意識改革と実行が重要です。男女の雇用機会均等は、家事分担や育児分担がなされていることが前提です。特に共働き世帯では、家事や育児について家庭でストレートに話し合い、育児をしながらも活躍できる、または活躍するという意識を持つことで、道は拓けていくでしょう。  誰もが平等に活躍できる社会の実現は、意識改革からの実行にあるといえます。 以上

業績好調企業における希望退職制度の導入<br />~頓服薬から常服薬へ~ | 関連制度設計

業績好調企業における希望退職制度の導入~頓服薬から常服薬へ~

 バブル崩壊やリーマンショックなどの急激な景気悪化局面や、コロナ禍のような外部環境の変化に伴う経済活動縮小局面において、企業は頓服薬を服用するように、雇用調整施策、いわゆるリストラを実施してきました。  景気悪化による赤字をいち早く脱却すべく雇用調整をすることは当然ながら、近年特に、予防策的に黒字下であっても人員数や人員構成をコントロールする方策を持っておくことの重要性は高まってきています。  図表1は、失業者のうち、会社都合による失業者の割合を経年で示した折れ線グラフです。会社都合による失業とは、倒産や事業所の閉鎖等による失業の他、退職勧奨など経営上の都合により退職を進められて退職をした場合などが含まれ、セカンドキャリアを自主的に選択することなどを目的に恒常的に設けられている制度などを利用し、労働者が自主的に退職を決断した場合は含まれません。  日本企業において、早期退職に関する議論が最初に興隆したタイミングはバブル崩壊後です。バブル崩壊までは、日本の経済は右肩上がりに成長を続けていました。また、労働市場には団塊世代と呼ばれる人口ボリューム層を中心に労働者の数自体が多かったため、各企業が積極的に雇用拡大をしていたのです。業績拡大に対応すべく数多くの社員を抱えていた状況下で、経済危機に直面し、雇用の在り方や、企業の雇用責任とは何か、ということが議論されるようになったのです。  グラフはその後の失業者の推移を描写していますが、平成21年のリーマンショック時までは右肩下がりです。その後、リーマンショックの影響による倒産や事業整理、応急処置的な経営効率化により会社都合による失業者の割合が急増しました。さらにその後、コロナウイルス感染拡大による人流制限が生じるまでは右肩下がりであり、令和2年には一時的に増加しているものの、かつてよりは低い水準に収まっています。 図表1:失業者のうち会社都合による失業者の割合 出典:厚生労働省「労働力調査(長期時系列データ)」  主要な上場企業における早期退職募集状況を経年で見ると、やはり、リーマンショックが生じた平成21年、コロナウイルス感染が拡大した令和2年は実施社数、募集人数共に突出しています。人員数の圧縮による人件費抑制を目的とした応急処置的な雇用調整だと考えられます。一方で、その間の平常時においても一定数実施されています。  さらに、令和2年に早期退職を実施した企業のうち、凡そ40%超の企業の通期の損益は黒字です。赤字企業が早期退職を募集する主な目的は、業績悪化に対する緊急対応であり、従前から行われてきたものです。一方、黒字企業が早期退職に踏み切るのは、先を見通した上で、先行的な改革を目指しているためです。先行型の早期退職実施の経営上の目的として良く挙げられるのは、人員構成の歪の是正、業務の効率化・生産性向上、年功主義の解消などです。 図表2:主な上場企業 希望・早期退職募集状況 出典:東京商工リサーチ  当社が人事制度設計で携わる企業においても、恒常的な人員数と人員構成のコントロールの施策として、早期退優遇制度(セカンドキャリア支援制度)を設計したいというニーズは強く、これまで以上に重要性・緊急性が高まっているように感じます。  背景には、やはり絶えず変化する経済状況に対する危機感や、業務効率や生産性の向上による人員数の余剰感、ビジネスモデルの高度化により社員に求めるスキルの種類が変化すること、会社内の人員構成の歪みなどがあります。特に、多くの会社で高齢化が進み、中高年の社員に多いのですが、新しいビジネスモデルや環境変化のスピード感についていくことが難しい社員を、このまま活用し続けることが難しいと考える企業も多くなっています。今後10年を見通して現在の歪な人員構成を是正するための、最後のタイミングだと言えるでしょう。  今後は、環境変化についていけない企業にとってはより厳しい時代となるでしょう。各企業は、環境変化になんとか対応しようと、必要なスキルを必要な時に調達せざるを得なくなります。これに伴って、労働市場の流動性もより高まるでしょう。長期雇用を前提とした企業内の人材ポートフォリオを、時代にあった形に是正すべく、雇用調整施策を常備する傾向は今後も続くのではないでしょうか。 以上

定年再雇用実態<br />~定年年齢や賃金カーブの実態~ | 関連制度設計

定年再雇用実態~定年年齢や賃金カーブの実態~

 2021年から改正高年齢者雇用安定法が施行され、働く意欲がある高年齢者が活躍できる環境の整備を目的として、70歳までの就業機会確保が努力義務になりました。2013年より、65歳までの雇用確保は義務化されており、制度の内訳をみると「継続雇用制度」が76%、「定年制廃止」「定年延長」が24%となっています。70歳まで働ける制度のある企業は全体の3割あり、「定年延長」には慎重な姿勢がみられるものの、企業にとって必要な人材は何らかの制度で雇用していることが分かります。 図表1:65歳以上まで働ける制度のある企業の状況 出典:厚生労働省厚生労働省 令和2年「高齢者の雇用状況」集計結果 注1) 集計対象企業は、全国の常時雇用する労働者が31人以上の企業 164,151社注2) 「その他の制度で雇用」とは、企業の実情に応じて何らかの仕組みで働くことができる制度を導入している場合を指す    さて今後、定年年齢が65歳に引き上げられるのかどうかは注目される点です。過去を振り返ると1960~70年代には55歳定年が主流でしたが、1986年に制定された高年齢者雇用安定法により60歳定年が努力義務となり、1998年に60歳定年が義務化されました。そして、2000年には65歳までの雇用機会確保が努力義務となり、2004年に義務化、2013年に希望者全員が対象とされ、2025年には経過措置が終了し希望者全員が65歳まで働けるようになります。 60歳定年、65歳までの雇用確保制度の義務化と法改正の動きは加速していますが、各企業における65歳までの定年引上げの動きは、前回の60歳定年制定時と比べて極めて緩やかです。 図表2:企業による定年年齢の推移 出典:厚生労働省「雇用管理調査」(2004年以前)、「就労条件総合調査」(2005年~2017年)、「高齢者の雇用状況」(2018年~2020年) 注1)一律定年制を定めている企業の定年年齢別企業数割合の推移 (一律定年制を定めている企業=100)注2)年齢59歳以下は、2004年まで集計 注3)年齢60歳、61~64歳は、2017年まで集計注4)定年制廃止企業は含んでいない  また、定年再雇用者の賃金の取り扱いについても議論があります。図表3は、データが集計できる1999年以降の所定内賃金の賃金カーブを示しています。データの前半期(薄い色の線)では、若年期には賃金が低く30~40代前半で賃金が大幅にあがり、50~54歳でピークを迎える賃金カーブを描いていますが、近年(濃い色の線)になるにつれて、若年期の賃金が引きあがり、中高年期の賃金カーブが抑えられています。また、ごく僅かながら、賃金カーブのピークが55~59歳に移行している傾向がみられ、賃金カーブの傾きが調整され、長く緩やかな賃金カーブに変化しています。 図表3:賃金カーブの推移 出典:厚生労働省 賃金構造基本統計調査 産業計(企業規模10人以上) 注1)年齢階層別の所定内賃金をグラフ化注2)2007年以前は、「70歳~」データが集計されていない  高年齢者雇用の課題は、賃金の低下に起因する就業意欲の低下、職務配分、職務能力の維持・向上、人件費の増加、健康面への配慮など、さまざま取り上げられています。これらは、職場でのボリュームゾーンであるバブル入社世代、第二次ベビーブーム世代の中高年齢層に限った課題ではなく、次の世代が65歳、70歳になった時に、同じ課題を生じさせないよう会社全体の人事課題として捉えるべきです。そして社員一人ひとりが生き生きと働き、組織としての競争力や生産性の向上につながる取り組みを目指すことが必要です。 働く個人にとっては、企業から必要とされ続けられるよう職務能力を研鑽し、自身の人生設計に基づいてリタイアする時期を選ぶといった意識改革が必要になってきます。一方、企業には、職務や貢献に応じた処遇を実現する人事運用がきちんとなされること、仕事内容や環境の変化が激しい中、計画的な人材育成や職務能力向上のサポートを行うことが求められます。 以上

労働組合組織率<br />~集団的労働法の時代から個別的労働法の時代へ~ | 人事制度運用支援

労働組合組織率~集団的労働法の時代から個別的労働法の時代へ~

 労働組合と聞いてどのくらい身近に感じるかは世代や関わりのある業種・業界によりかなりの差があるのではないでしょうか。  日本における労働組合の組織率は低下の一途をたどっています。労働組合組織率は、戦後間もない1948年の55.8%がピークであり、1980年ごろには約30%まで低下し、2019年には16.7%となっています。   図表1:労働組合組織率 出典:厚生労働省「労働組合基礎調査」(「労使関係総合調査労働組合基礎調査」)  ただし、産業別に見ると低下の度合いや組織率の水準には大きな差があります。労働市場における人材の流動性が比較的高い業種、例えば宿泊、飲食サービス業など、では組織率が低くなっています。一方、長期雇用が前提となっている企業が多い金融業やインフラ産業では組織率が高い傾向にあります。   図表2:産業別労働組合組織率 厚生労働省「労働組合基礎調査」(「労使関係総合調査労働組合基礎調査」)  労働組合員の数の観点では、1994年の1269万人をピークに減少しています。雇用者数が右肩上がりに大きく増加している中で労働組合員数が減少することで、雇用者に占める労働組合員の割合が大きく低下していることが分かります。   図表3:労働組合員数の推移 厚生労働省「労働組合基礎調査」(「労使関係総合調査労働組合基礎調査」  戦後約70年の間に変化したのは単なる数字だけではありません。産業の在り方、経済発展の速度、企業経営の進化など、労使を取り巻くあらゆる環境が変化を遂げる中で、労働組合組織率も変化をしてきたのです。  労働組合の歴史は遠く19世紀のイギリスまでさかのぼります。最も早く資本主義が浸透し産業が急速に発展する過程で、他者に雇われて働く者が急増したためです。当時の労働環境はひどいものであり、労働者個人には雇い主と交渉する力などありませんでした。しかし労働者は数が多いことを利用して、集団で助け合いながらストライキ等をするようになったのです。  日本では、明治維新による資本主義化をきっかけに、イギリスより100年ほど遅れて労使間の交渉が行われるようになりました。最初は製糸工場や炭鉱にて、雇い主に対する抗議やストライキが行われました。その後、1897年ごろから本格的に鉄工組合などの日本最初の労働組合が組織されるようになったのです。爆発的に労働組合が組織されるようになったのは戦後、民主化政策が進められた時期です。1955年には賃上げを要求する春闘が始まり、1974年には過去最高の32%超の賃上げを獲得するなどし、高度経済成長を下支えしました。  一方で、1980年代以降は集団的労働法ではなく、個別的労働法の分野が重視されるようになり、関連した法改正や立法もなされています。具体的には1985年に労働者派遣法の改正があり、その後は労働時間に関して度重なる労働法の改正や、男女の雇用機会均等や育児・介護に伴う働き方に関する立法がなされました。労働紛争の解決についても従来は団体争議が中心でしたが、2001年には個別労働紛争解決法という、個人対企業の争議を前提とした立法がなされるなど大きな変化を見せています。  これらの背景には労働力を集約した画一的な産業・労働の時代から、産業の種類や働き方の多様化の時代への変化があります。個人の事情や価値観を考慮した働き方の実現に労働組合が協力することもありますが、労働者が一丸となって会社と闘うという対立構造自体が薄れてきているのです。  また、企業経営の進化も労働組合組織率の低下に影響しています。昔は経営者VS労働者という単純な構図でしたが、現在は様々なステークホルダーのうちの1つであり、単純な対立構図ではなくなってきているのです。  働き方が多様化し、個としての労働者を守るためのルール作りがなされ、労働環境・条件に関する個人のリテラシーも高まりつつあります。労働者は労働組合に頼るだけでなく、多様な交渉方法を持ちつつあると言えます。  企業側の観点で捉えると、組合との画一的な対立構造における交渉や調整だけでは十分でなくなっているということです。  

可処分所得30年の推移|月収は15%減少、社会保険料は50%増加 | 人事制度設計

可処分所得30年の推移|月収は15%減少、社会保険料は50%増加

 我が国の労働者の月収は直近30年間で減少しています。それにもかかわらずこの間、社会保険料や税負担は増加し続けています。そのため、月収からそれらを差し引いて残る手取りの給料(=可処分所得)は大きく減少しているのです。  また、そもそも物価が上昇し続けているにもかかわらず、それに伴って月収が増えていないため、実質的な賃金としての月収も減少しています。  以上を踏まえると、実質的な賃金としての月収が減少する中、社会保険料や税負担の増加で手取りの給料(=可処分所得)も減少しているという非常に深刻な問題を抱えているということです。  月収はピーク時の1997年頃から最低値の2013年頃まで約15年間で15%も減少しています(371千円から315千円に56千円減少)。これはバブル崩壊やリーマンショックで景気が悪化したこともありますが、企業が内部留保を進め、人件費への配分を抑えるようになったことも理由の一つでしょう。 (図表1) 出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査」*月収:一人当たりの現金給与総額(決まって支給する給与と特別に支払われた給与の合計額)  社会保険料(従業員負担率)は増加傾向にあり、直近30年間で負担率が1.5倍になっています。これは高齢化の影響で医療費支出が増加したことや、長引く不況で労働者の給料が伸び悩み、保険料収入が伸び悩んでいることがあげられます。また、所得税に関しては最高税率が年々引き上げられています。 (図表2) 出典:内閣府「税制調査会_社会保険料率(従業員負担分の推移)」*各保険料率について日本年金機構、全国健康保険協会、厚生労働省のデータを参考とした  そして、物価が上昇することによる実質的な賃金の減少です。2000年頃までは物価指数の伸びを名目賃金の伸びが上回っており実質賃金は増加傾向でした。しかし、それ以降は物価指数の伸びに名目賃金の伸びが追いつかず、実質賃金は下降傾向となりました。結果、現在の実質賃金は1990年の88%程度となっています。 (図表3) 出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査」、総務省「消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)」*名目賃金:図1の一人当たりの月収を指数化したもの*実質賃金:名目賃金を消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)でデフレートして算出  直近30年間の賃金推移を先進国内で比較すると伸び悩んでいるのは我が国のみです。今後グローバルに戦う上で優秀な人材を確保するには各国に引けを取らない賃金水準とする必要があります。また、社員に労働の対価として賃金を支払い、生活基盤の安定性を確保する事も企業の重要な責務です。そのため、今後も物価が上昇し、各種の税金や社会保険料も増加していくと考えた時に、社員の実質的な賃金を増やしていくことは非常に重要です。そしてこれらを実現するためにも、今後社員の生産性を一層高めて会社業績を向上させるとともに、社員への人件費配分を高めなければならないでしょう。 以上

道府県別 世帯収入・貯蓄高ランキング<br />~貯金好きな県、消費好きな県~ | 人事制度設計

道府県別 世帯収入・貯蓄高ランキング~貯金好きな県、消費好きな県~

 世帯収入が多い都道府県と言えばどこを思い浮かべるでしょうか。大企業や人が多く集まっている首都圏でしょうか。世帯ごとの収入ランキングを見ると、確かに東京都や神奈川県がトップにランクインしています。一方で貯蓄高のランキングとなると少し様子が異なります。今回は都道府県別の世帯収入・貯蓄高ランキングについて解説します。世帯の構成や消費の傾向なども併せて詳しく見ることで数字だけでは表せない、いわゆる「県民性」も垣間見られ非常に興味深いトピックです。   図表1:都道府県別 世帯収入ランキング 出典:総務省統計局「2019年全国家計構造調査」  道府県別の世帯収入ランキングでは、1位が東京都、2位は神奈川県と首都圏の2都県がランクインしています。東京都は日本の首都であり、大企業が多く集まっていることから個人の年収水準の高さも日本トップです。神奈川県でも個人年収の高さが世帯年収に現れています。東京都内の企業へ通勤し東京都水準の年収を得ている人も多く、また、京浜工業地帯の中核であり関連する業種の大規模な企業に勤める人も多いためです。  3位以降は、首都圏以外の県が高順位にランクインしています。3位愛知県、4位富山県、5位福井県です。愛知県にはトヨタ自動車を中心とした自動車関連企業が集まっています。また、愛知県の名古屋市は日本三大都市の一つであり、多くの人・企業が集まっており、中部地方全体の経済の中心ともなっているため、個人の年収も高い傾向にあるのです。  4位・5位は、上位3位の都県とは上位にランクインしている理由が異なります。上位3位までは主要な経済圏であることによる個人年収の高さが世帯年収の高さに影響していました。一方、4位の富山県、5位の福井県の個人の年収の高さは全国平均を下回っています。個人あたりの単価ではなく、世帯当たりの人数・有業者数が多いため、世帯収入が高いのです。女性配偶者の有業率も他都道府県と比べて高く、共働きランキングでも常に上位にランクインしています。   図表2:都道府県別 世帯貯蓄高÷世帯収入ランキング 出典:総務省統計局「2019年全国家計構造調査」  貯蓄高・収入のデータをもとに、「貯蓄高÷年間収入」のランキングを作成してみました。この表が示しているのは各都道府県において「平均的に何年分の年収を蓄えているか」ということです。  都道府県によって1位の2.9年分~47位の1.4年分まで、約2倍の大きな差が見られました。上位5県のうち、3位神奈川県、5位愛知県は収入ランキングでも上位にランクインしており、収入の高さが貯蓄高の高さにもつながっていると考えられます。。  一方、1位の奈良県、2位の兵庫県、4位の徳島県はそれぞれ収入ランキング23位、20位、35位と決して高くはありません。一定の年収の範囲内で上手く支出をコントロールする傾向、もしくは、支出より貯蓄を重視する傾向にあるのではないかと推察されます。  また、収入ランキングでは1位の東京都は、収入に対する貯蓄高は大きくなく、20位にとどまっています。家賃等の生活コストが嵩んでいることが主な要因でしょう。  下位5県についても、2パターンに分けられます。収入・貯蓄共に低い順位となっているのが鹿児島県、宮崎県、沖縄県です。一方、佐賀県は収入では23位と平均的でありながら貯蓄高は低い水準です。収入に対する支出が他の県よりも多いと考えられます。   図表3:散布図 出典:総務省統計局「2019年全国家計構造調査」  都道府県別の世帯収入と世帯貯蓄高の間には、一定の相関性がみられます。その中で県民性や生活環境等により収入に対して貯蓄が多い、少ない等の一定のバラツキがあることが分かりました。  世帯人員数や女性・高齢者の就業率など、労働市場全体のポートフォリオの変化により、じわじわと変化が生じる可能性はありますが、今回取り上げたデータの傾向は直ちに大きく変化するものではないと考えられます。  他の都道府県別データと併せてこれらのデータをビジネスの観点で見ると非常に興味深いです。当然、消費の内訳などから有利な業種・業態、地価等の多様なデータを含めて判断する必要がありますが、例えば、他の都道府県よりも収入に対して貯蓄が低い地域に出店すれば、人件費は低く抑えられる一方で消費活動が活発で売上を上げやすいかもしれない、などと仮説を立てることができるのです。  

生涯賃金の推移<br />~大きく下がった生涯賃金~ | 人事制度設計

生涯賃金の推移~大きく下がった生涯賃金~

 一般的に生涯賃金とは入社してから定年までの間に受け取る総賃金を指します。当記事では年次別に生涯賃金を示していますが、これは統計調査年別に各年齢の年収を合計して算出しています(諸手当や残業代含む月給及び賞与額から構成され、退職金は含まない)。そのため、調査年の賃金額が景気動向等に影響を受けて変化した場合、生涯賃金もそれに連動して変化しています。  例えば、大卒男性の場合、ピーク時の1993年頃から最低値の2013年頃まで20年間で15%も減少しています(324百万円から277百万円に47百万円減少)。これは、バブル崩壊やリーマンショックで景気が悪化したことや、株主重視経営が進んで労働者の賃金が抑えられたからだと考えられます。  また、男女の生涯賃金を比較すると、毎年約40百万円の差(1990年~2018年の平均)が生じており、一貫して女性の生涯賃金が低い(男性の85%程度)傾向であることがわかります。これは、男性と比較して女性は総合職より一般職の割合が高いことや、総合職で入社したとしても処遇の高い管理職に就けていないためだと考えられます。 (図表1) 出典:労働政策研究・研修機構『ユースフル統計2020』  さらに、生涯賃金データを性別・企業規模別に見てみると、男性の方が企業規模による生涯賃金差が生じやすくなっています。具体的には、男性は最大約90百万円、女性は最大約60百万円の差が生じています(性別に2018年時の1000名以上規模と10-99名規模を比較)。 (図表2) 出典:労働政策研究・研修機構『ユースフル統計2020』  我が国の生涯賃金は過去と比較して大きく下がっていますが、これはあくまで名目賃金で計算したデータであり、実質賃金で見ると更に深刻な状態であると言えます。また、直近約30年間の賃金推移を先進国内で比較すると、伸び悩んでいるのは我が国のみです。今後各国に引けを取らない賃金水準とするためには、会社の生産性を上げると同時に過度な株主重視経営を控え、人件費の適正な分配を実現していくことが重要です。 以上

年功序列の賃金カーブは無くなる|勤続年数ではなく能力や成果の評価制度が必要 | 人事制度設計

年功序列の賃金カーブは無くなる|勤続年数ではなく能力や成果の評価制度が必要

 日本では長年いわゆる「年功序列」による人事運用を行ってきました。「年功序列」とは、社員が会社に長く在籍すればするほど処遇を高くすることです。日本では、時代により多少の差はありますが、入社時と勤続30年時点では約2倍の処遇差があるのです。  入社時と勤続30年時点の処遇の上昇率を時代ごとに見てみると、1976年、1995年、2019年でそれぞれおよそ2.3倍、2.2倍、1.7倍です。上昇率が特に顕著な1976年は高度経済成長後の経済が安定していた時期であり、勤続年数が長ければ長いほど処遇が上がっていく年功序列的傾向が色濃かったことが分かります。  1970年代に対して1990年代はバブル経済が崩壊し、経営の効率化を迫られた時期です。1995年のグラフを見ると、傾向としては右肩上がりではあるものの、1976年と比べると上昇率が抑えられています。年功序列的傾向は残っているものの、その度合いは薄まってきていると言えます。  さらに、2019年の数字を見ると、勤続年数の増加による処遇の上昇率はさらに小さくなっています。近年は失われた30年とも呼ばれる低成長時代であり、年齢や勤続年数の長さに対して報いる余裕がない企業が多くなっていることも一因でしょう。またグローバル化が進んだことによる競争力強化の観点や、自社で育成する余裕がないことから即戦力を求める傾向が強まっていることも関係していると考えられます。自社に貢献している期間の長さではなく、能力に応じて処遇する企業が増えているのです。 (図表1:勤続年数別賃金格差(所定内賃金)) 出典: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」 注:1976年、1995年、2019年の各調査年での男女計の「勤続0年」の平均所定内賃金額を100としたときの各勤続年数階級の平均所定内給与額を表している  勤続年数増加による給与の上昇率が下がってきているとはいえ、諸外国と比較をすると、日本では近年においても年功的な傾向は依然として強いことが分かります。  「勤続1~5年」から「勤続30年以上」への処遇の上昇率は日本で1.8倍であり、1.4倍前後であるイタリア・イギリス・フランスなど、ヨーロッパの主要な国々と比較して高い水準にあります。また、スウェーデンでは勤続15年を超えると給与は右肩下がりとなっており、ピークである「15年~19年」時点でも1.1倍、「勤続30年以上」では約1倍と低い水準です。ちなみに、ドイツでは日本と同じく長期雇用を前提としているため1.7倍と高い水準にあります。 (図表2:勤続年数別賃金格差(国際比較)) 出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2018」 注1: 日本の勤続1~5年欄は1年以上5年未満, 勤続6~9年欄は5年以上10年未満 注2:公務・防衛・義務的社外補償を除く非農林漁業を対象とした産業計  一部企業では新卒初任給を年収1,000万円とするなど、年齢や社歴に関わらず、能力や成果に対して処遇を決めることなどが話題になっています。また、労働市場の流動化が進み中途入社をする労働者の割合が増加することにより、勤続年数が短くても給与が高い人が増えることが考えらます。これらを要因に、勤続年数が短い属性の処遇が高くなることが予想されます。   一方で、今後は勤続年数が長いからといって処遇が高くなるとは限らないでしょう。長期の功労よりも、現在保有している能力やパフォーマンスの高さに対して処遇する会社が増えると考えられるためです。  これらの影響により、今後は勤続年数と処遇の高さとの関連性はさらに弱まるでしょう。「賃金カーブ」という言葉がなくなる日もそう遠くはないかもしれません。

女性の就業率の推移|女性が活躍できる労働環境・人事制度の整備 | 人事制度運用支援

女性の就業率の推移|女性が活躍できる労働環境・人事制度の整備

 昨今、日本では女性の社会進出が進み、就業者数が増加しています。2019年時点で約2,650万人となっており、2000年の2,450万人から200万人も増加しています。その為、今後は女性就業者がより活躍できる基盤をさらに整備することが重要な経営課題となります。  日本の生産年齢人口(15歳から65歳未満)が減少を続けている中、女性就業者数が増加している背景には、就業率の飛躍的な向上があげられます。女性の生産年齢人口は2000年で約4,300万人でしたが、2019年では約3,700万人と大きく減少しています。その一方で、女性の就業率は2000年に57%でしたが、2019年では70%を超えているのです。  また、女性の就業率向上の主たる要因は次の3つと考えられます。まず、労働需要の増加です。少子高齢化に伴って生産年齢人口が減少し、社会的に労働力の不足が叫ばれていました。次に、女性の就業意識の変化です。例えば、世帯年収の減少に伴って専業主婦世帯では従前の所得水準を維持できなくなり、労働参加している背景があります。他にも、労働参加を促す政策等の法整備が進んだ事も理由に挙げられます。   (図表1) 出典:総務省『労働力調査、人口推計』  また、我が国の女性就業率をG7各国と比較すると、2005年頃までは7か国中6位で他国に遅れを取っている状況でした。そしてこの間、上位3か国と比較すると毎年約10%もの差が開いています。 直近の2019年時点では1位のドイツに及ば無いものの、カナダ・イギリスと同水準(同率2位程度)に位置づけ、大きく躍進しています。また、日本の増加度合いは1位のドイツ、同率2位のカナダ・イギリスより大きいため、この傾向が継続すれば5-10年程度で日本の順位が1位になる可能性があります。   (図表2) 出典:OECD(2021)『 Employment rate (indicator). doi: 10.1787/1de68a9b-en (Accessed on 12 March 2021)』 注) イタリアは直近約20年間連続最下位で比較とならない為データから除いている  短期的には、新型コロナウイルスによる経済活動低迷の影響により、就業率の増加傾向が鈍化する可能性があります。しかしながら中長期的には、再度増加傾向に転じるのではないでしょうか。なぜなら、少子高齢化に伴う慢性的な人手不足や、女性活躍推進法の改正等政府による働きかけが継続すると考えられる為です。  日本は労働需給という観点では需要が多く、慢性的な労働力不足の状態です。その為、女性就業者の増加は人手不足の解消という点で効果があります。但し、就業者数の急速な増加とともに、今後は就業の“質”が大きな課題となります。男女が平等かつ働きやすい環境を整備することが喫緊の課題ということです。その為には、企業においての意識改革と働き方の改革が必要となるでしょう。意識改革とは、「仕事のチャンスは男女平等に与えられる」という考えを醸成する事です。仕事は男性が担い、家事・育児は女性が担うという考えを改める必要があります。例えば、男性の育児休暇を推進する事で、家事・育児を男女平等に分担する意識を育てる事が出来るでしょう。また、家事育児をしながら効率的な働き方をするための具体的な施策の推進も必要でしょう。例えばテレワークの徹底した活用などがその代表的なものになります。 以上