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労働力の量と質の推移 <br />~人口減少時代に向けて~ | 人事アナリシスレポート®

労働力の量と質の推移 ~人口減少時代に向けて~

 内閣府(2022)「令和4年版高齢社会白書」によると、日本の総人口は今後減少し、65歳以上の人口割合が今後更に増えるという推計が算出されています。少子高齢化が進むにつれて生じる労働人口の減少により、日本経済が停滞してゆくことが危惧されています。日本経済が持続的に成長するためには、労働力をいかに維持するかが社会的な課題となっています。  こうした背景の中、労働力として注目されている一つが、65歳以上の人材の労働力確保です。2021年4月の改正高年齢者雇用安定法においても、70歳までの就業確保が企業の努力義務となっています。実際、図表1にもあるように、高齢者の就業率は年々上昇しています。65歳以上の高齢者の就業率は2015年から年々上がっており、直近の労働人口全体も緩やかに増えています。このように、労働力の"量"は高齢者の就業率増加もあり、短期的には維持できていることが見受けられます。 <図表1> 労働人口と65~69歳の就業率の推移 出所: 総務省(2023)「労働力調査(基本集計) 2023年(令和5年)1月分結果 20~69歳の人口、就業者数、就業率」をもとに作成  労働力の"質”の推移を確認するため、業界別の労働生産性 (労働者1人あたりが生み出す付加価値額)の推移と平均従業員数の推移を比較しながら解説します。  飲食サービス業(図表2-1)では、労働生産性は常に減少傾向にあり、従業員数も2019年以降は落ちている傾向があります。昨今、大手飲食チェーン店を中心に注文や配膳等業務の機械化が進んでいますが、一人当たりの付加価値=”質”の面では効果が表れていません(付加価値には人件費が含まれるため)。今後機械化がさらに進み、人員数が安定・最適化されたときに高い付加価値を生み出すことができているのかが重要になってきます。 <図表2-1> 労働生産性×従業員数の推移_飲食サービス業 出所:財務省(2021)「法人企業統計調査」をもとに作成  情報通信業(図表2-2)では、2016-2017年にかけて従業員数が減った一方で労働生産性が上がっており、2017-2018年では従業員数が増える一方で労働生産性が下がっており、それぞれが逆行した動きをしています。新規就労者が多く、業界内での転職等による人の動きが活発な情報通信業では、仮に即戦力採用の中途社員だとしても、付加価値への貢献=”質”といった意味では、業務習熟するために必要な経験を得ることに時間がかかりやすい、もしくは時間がかかってしまっている可能性があります。 <図表2-2> 労働生産性×従業員数の推移_情報通信業 出所: 財務省(2021)「法人企業統計調査」をもとに作成  医療福祉業(図表2-3)では、2018年度に従業員数が減少しましたが2020年以降は上昇傾向にあります。一方、労働生産性も2019年以降で安定的に上昇傾向にあります。高度な知識や資格の基盤が前提にある医療福祉業界では、即戦力として労働生産性=”質”に寄与しやすい業種といえます。 <図表2-3>労働生産性×従業員数の推移_医療福祉業 出所: 財務省(2021)「法人企業統計調査」をもとに作成  定年延長・再雇用の活用によって短期的には労働力の”量”の維持が期待できますが、将来的に総人口が減少する日本では少ない人数でいかに労働力を維持していくかが課題となります。そのため、労働力の“質”にも目を向け、労働人口が将来的に減ったとしても安定的な労働生産性が確保されるサービス形態への変換が求められるのではないでしょうか。限りある労働資源をいかに有効活用していき、労働生産性を高めていくかの議論が各企業内でより活発化していく必要があります。自社の生産性をより高めるための阻害要因を各社で見つめ直し、DX推進やリスキリング、イノベーション推進等によって業務効率化とその価値向上に務めることが重要となります。 以上

賃金引上げ率の推移と参考指標<br />~自律的な報酬水準のコントロールを~ | モチベーションサーベイ

賃金引上げ率の推移と参考指標~自律的な報酬水準のコントロールを~

 2022年以降の物価上昇率の伸長と実質賃金が目減りしている状況等を踏まえ、2023年12月、政府は物価上昇率を超える賃上げを実現できるよう、賃上げ税制を抜本的に拡充しました。同11月末には、「令和5年賃金引上げ等の実態に関する調査」が厚生労働省より発表されており、2023年の各社の賃上げ状況が見えてきました。  賃金の改定を実施した又は予定している企業は、89.2%(前年86.6%)。管理職のベースアップを行った・行う予定の企業は43.4%(前年24.6%)、一般職のベースを行った・行う予定の企業は49.5%(前年29.9%)と前年から急上昇しました(※ベースアップの実施割合は、管理職及び一般職で定昇制度がある企業を100.0%とした場合の割合)。  図表1は1人平均賃金の改定額・改定率の調査結果と、消費者物価指数(CPI)の推移です。昨年の1人当たりの平均賃金の改定額は9,437円、改定率が3.2%と、消費者物価指数(CPI)の上昇を追いかけるように大幅に伸びているのがわかります。 <図表1> 1人平均賃金の改定額(円)及び改定率(%)と消費者物価指数(%)の推移 出所: 厚生労働省(2023)『令和5年賃金引上げ等の実態に関する調査』,総務省統計局(2023)『消費者物価指数(CPI)』をもとに作成 注1 図表は「1人平均賃金の改定額及び改定率の推移」と「消費者物価指数(CPI)」より加工 注2 消費者物価指数は生鮮食品を除く総合。2023年のCPIは日銀の予測(2023年10月31日時点)より引用  注目される2024年以降の賃上げですが、皆さんの企業ではどのように検討を進めているでしょうか。他社が何を参考指標としているのか、同調査結果を見てみましょう。 <図表2> 賃金の改定の決定に当たり最も重視した要素別企業割合の推移 出典:出所:厚生労働省(2023)『令和5年賃金引上げ等の実態に関する調査』をもとに作成 注1 図表は「企業規模、賃金の改定の決定に当たり最も重視した要素別企業割合」より加工したもの。 注2 賃金の改定を実施した又は予定していて額も決定している企業のうちの割合。ただし、平成20年調査以前は賃金の改定を実施した又は予定していて額も決定している企業のうち、改定に当たり最も重視した要素に記入のある企業を100.0%とした割合であり、比較の際は注意を要する。  図表2は、賃金の改定を実施した又は予定している企業において、賃金改定の決定の際に最も重視した要素の推移です。2023年は、「企業の業績や前年実績、関連会社の動向」の割合が42.2%と最も多くなっており、次いで「雇用・労働力の確保」が28.9%、「世間相場・物価の動向」が14.6%となっています。注目すべきは、前年に比べて「雇用・労働力の確保」と「世間相場・物価の動向」の割合が急増しており、「重要視した要素はない」とした企業が減少していることです。それだけ昨年の賃金改定では、世の中の動向と従業員への配慮を念頭に置いて検討した企業が多かったということです。  報酬はハーズバーグの二要因理論からすると「衛生要因」であり、不満足の要因になります。一旦報酬水準が上がったとしても、それを継続しないと、また不満足の要因になるということです。  社員の報酬満足を維持するには、「世間の賃上げの気運が高まっているから」ではなく、労働市場における報酬水準や物価等を定期的(例: 半年ごと、年次など)に把握しつつ、自社の業績なども踏まえ、自律的に報酬水準をコントロールしていくことが望ましいです。  企業は成長を続けないと報酬満足を維持していくことは難しいため、人的資本経営の観点における適正な報酬水準のコントロールとともに、人材のパフォーマンスを高めるマネジメントや育成も重要になってきます。  従業員への適正な報酬とパフォーマンスマネジメントが、企業と従業員の間の相互信頼を築き、持続可能な業績向上へつながっていくでしょう。 以上

賃金生産性<br />~人的資本の投資価値を把握する有効な指標~ | 人事アナリシスレポート®

賃金生産性~人的資本の投資価値を把握する有効な指標~

 企業は従業員に対して労働の対価として賃金を支払い、経営者は支払った賃金に対する有効性を評価しています。今回取り扱う賃金生産性とは、人件費がどのくらい付加価値創出につながっているかを評価する生産性指標です。  図1は全産業(金融、保険をのぞく)の賃金生産性と従業員の平均賃金の10年間の推移です。賃金生産性は、2020年のコロナウイルス蔓延にともない経済が停滞した影響などから、大きく低減した時期はありますが、増加傾向にあります。また平均賃金をみてみると、増加傾向にはありますが、賃金生産性ほどの増加ではありません。経営側からすると賃金生産性は上昇基調にあり、賃金の有効性が高められていますが、従業員側からすると賃金水準はそれほどあがらず、得られた成果の還元が十分になされていない状況にあることがわかります。 図1 生産性と平均賃金の10年間の推移 出典:財務省「法人企業統計調査」全業種(金融保険除く)よりデータを加工 注1)賃金生産性=付加価値÷人件費 注2)2011年を100とした場合の10年間の推移  各業種別にみると、傾向や課題に違いが認められます。図2は宿泊業の10年間の推移です。宿泊業は非正規社員の比率が高い業種ですが、インバウンドなどにより発展が期待されている業種です。人手不足もあり、外国人労働者の活用や、人が担う業務を機械に置き換えるなど、さまざまな取り組みをし、事業運営を行っている点が特徴です。 賃金生産性は、上昇傾向にありましたが、2019年以降は2011年の水準を割り込んでいます。これはコロナウイルス蔓延の影響を強く受けたためです。一方で平均賃金は2018年以降ようやく2011年当初の水準を上回りましたが、その後やや低下、横ばいとなっています。インバウンドによる需要が回復しているなかで、今後の賃金生産性と賃金の回復が期待されています。 図表2:宿泊業の賃金生産性、平均賃金 出典:財務省「法人企業統計調査」宿泊業よりデータを加工  図3は医療福祉業の10年間の推移です。高齢化などを背景に市場のニーズは拡大しており、人手不足を補うべく人材の獲得を目指し、積極的に平均賃金を増加させているのがわかります。一方で、賃金生産性が賃金水準と比較すると、その増加率は低くなっており、まだ投資に対するリターンが十分に得られていないかもしれません。人命にかかわる業種であり、効率よりも品質が絶対的に優先されることなどから、人材のパフォーマンスを高めていくことについては時間がかかるなど、生産性を高めることが非常に難しい業界と思われます。従業員の平均賃金は上昇傾向にあり、従業員にとっては望ましい傾向になってはいるものの、付加価値をさらに増やしていくことが重要な課題といえます。 図表3:医療福祉業の賃金生産性と平均賃金 出典:財務省「法人企業統計調査」医療福祉業よりデータを加工  今後、企業として対応すべきことは、業種によって異なる賃金生産性の傾向を把握し、自社との比較を行うことで、自社の課題をまず認識する必要があります。賃金生産性を、将来の利益を生み出すための人的資本の投資価値を把握する有効な指標として中長期的に管理することが重要です。賃金生産性の改善には人材への教育や、業務をより効率的に推進できるように労働装備率を高め、それにより、付加価値をしっかり高めていくことです。従業員にとって賃金は、働くうえで欠かせない衛生要因です。サービスを提供し、また生産している従業員の満足度を下げないように、収益をしっかり賃金に還元し、賃金水準を継続的に高めることが重要です。生産性を高める施策を講じ、創出した付加価値を従業員に還元し、そしてさらなる投資につなげていく、この好循環をもたらすことが理想です。 以上

第一次産業労働力の特徴<br />~危機的状況に打開策はあるか~ | 人事アナリシスレポート®

第一次産業労働力の特徴~危機的状況に打開策はあるか~

 戦後経済の成長は産業構造の変化に伴いながら進展し、第一次産業から第二次産業、第三次産業へとシフトしていきましたが、それは就業者構成にも影響を及ぼしました。  戦後まもなくは第一次産業の就業者数が最も多く、高度経済成長を通じて、第一次産業はその割合を大きく低下させ、1960年を過ぎたころから第二次産業、第三次産業が逆転しています。1954年(昭和29年)に「神武景気」と呼ばれた好景気を皮切りに、日本の戦後高度経済成長が始まり、「岩戸景気」、池田内閣による「国民所得倍増計画」、1964年の東京オリンピック、1970年の大阪万博と、日本の経済成長は目覚ましく、特に第二次産業の重化学工業による生産性の向上によりGDP世界第二位にまでなったという時代です。  その後、第二次産業の就業者数は低下していきますが、第三次産業の就業者数は伸び続けています。  農林水産業中心の構造から、製造業の拡大、そしてサービス業の拡大へと繋がり、産業構造の変化に応じて就業者構造が変化していったのです。 図表1:産業別就業者数推移 出典:総務省「労働力調査」  第一次産業の現状を見ると、就業者は非常に高齢であるということがわかります。  60歳以上の割合は農業、林業においては64%、漁業においては47%です。次世代の担い手が減る中で、今後、高齢の農業者、漁業者のリタイアが増加することが見込まれ、日本の第一次産業は非常に深刻な状況にあると言えます。  日本の食料自給率は過去最低レベルとなっており、輸入に頼らざるを得ない状況では今後の気候変動や食料危機、円安の影響などによって輸入ができなくなる食料がでてくる可能性もあります。  就業者を増やす努力と、企業が第一次産業に参入するなど多方面からの対策が必要であると言われています。 図表2:第一次産業年齢別就業者数 出典: 令和2年国勢調査 就業状態等基本集計  この10年の農業経営体数の推移を見ると、個人経営体は、平成22年を100とすると令和2年には63まで減少し、農家の減少が進行していることがわかります。これは、就業者の高齢化と、後継者がいない問題が直結した結果です。しかし、法人経営体を見ると、平成22年を100とすると、令和2年は136と増加しており、企業の農業への参入が増えています。平成21年の農地法改正に伴い、企業が参入しやすくなったことで、農地法改正後のリース方式での参入が5倍にまでなりました。個人経営体の減少が止められない中で、企業の参入に大きな期待が寄せられています。 図表3:農業経営体数推移 出典: 2020農林業センサス「推移」は平成22年を100としたときの指数  就業者の高齢化、そして後継者もいない中で、日本の第一次産業は危機的状況にあります。産業を守っていくには企業の参入が不可欠なのではないでしょうか。第一次産業を救う社会貢献活動の意味でも、既存企業が参入し、組織的に取組みをしていくことで、産業を守りに行くことが必要であると考えます。そして近年はAI、ICT、ロボット、ドローンといった最先端技術の活用も不可欠とされています。技術を持った企業が参入し、人手の不足解消、生産性向上のために研究が進んでいますが、さらなる推進が期待されます。  社会全体がこの危機を認識して産業を守っていかなければならないという改革が必要と言えます。 以上

有給休暇は取りやすくなったか<br />~取得率推移と産業別比較~ | モチベーションサーベイ

有給休暇は取りやすくなったか~取得率推移と産業別比較~

 年次有給休暇の取得率は低いと言われてきました。労働者の心身のリフレッシュを図ることを目的とした有給休暇ですが、請求することへのためらいから取得率は低調であるとされています。2019年より働き方改革の一環として、年に5日の有給休暇を取得させることが経営者の義務となりました。有給休暇の現状と、労働時間、その課題はどういったものでしょうか。  労働者一人当たりの平均年次有給休暇取得率の推移を見ると、ここ数年取得率はやや上昇傾向です。しかし、政府は令和7年までに有給休暇の取得率を70%までにするという目標を掲げており、現在そこにはまだ及ばず、まだ「有給休暇がとりやすい」とはまだ言い難いのではないでしょうか。このまま取得率を上げていくためには、各企業において有給休暇取得の促進を図っていくことが必須です。  では、労働時間はどうでしょうか。総実労働時間・所定内労働時間・所定外労働時間の推移を見ると、2018年までは横ばいが続きましたが、コロナウィルスの影響による労働時間の抑制も影響してか2020年は総実労働時間・所定内労働時間・所定外労働時間すべて減少しました。コロナウィルスは労働時間に抑制にいい意味でも悪い意味でも影響を与えたと言えます。社会の変化を契機に、労働者の意識の変化も起こりました。仕事とプライベートの両立ができる労働時間や、休暇の取得は労働者にとって非常に重要なポイントになっています。道半ばの有給休暇取得率、労働時間の抑制がどのように推移していくかは、各企業の今後の取組みにかかっていると言えます。 (図表1:有給休暇取得率と労働時間の推移) 出典:厚生労働省 令和3年就労条件総合調査厚生労働省 令和3年版 労働経済の分析 -新型コロナウイルス感染症が雇用・労働に及ぼした影響-  ※労働時間:労働者が実際に労働した時間数。休憩時間は給与支給の有無にかかわらず除かれる。有給休暇取得分も除かれる。    産業別の有休取得率を見ると、産業別に有給休暇の取得率に差があることがわかります。特に電気・ガス・熱供給・水道業のインフラ関連については73.3%と高水準です。一方、卸売業、小売業や宿泊・飲食サービス業などは50%を切っており、有給休暇の取得がし辛い現状が見て取れます。不特定多数の一般顧客がメインの顧客である産業ですが、近年人材不足は深刻です。業務が回らない部分の解決のため、例えばホテルのフロント受付業務を人ではなく、機械に置き換える、小売店でのセルフレジの導入を進めている企業も増えています。システムの活用と社員の活躍のバランスを取り、社員が休みを取ることができる状況を模索することは必須です。 (図表2: 産業別労働者1人平均有給休暇取得率) 出典:厚生労働省 令和3年就労条件総合調査  有給休暇の取得は労働者の権利です。必要に応じて気兼ねなく、取得できるようにするには組織の風土の問題があります。有給休暇を取ることを申し訳なく感じることなく申請を出すことができる組織の雰囲気の醸成です。その雰囲気醸成の手前には、有給休暇取得をしても仕事が滞りなく進む状態が必須です。有給休暇で休む人がいたとしても業務が滞らない体制、準備、システムの活用など、人の数だけでなく業務全体を見通した改善を検討する必要があります。 社員がメリハリを持って働く環境を整え、労働生産性の向上、社員の満足度を向上させる風土と体制づくりを実現し、本当の働き方改革を実行していくことが求められます。 以上

ICTによる生産性向上<br />~ICT投資の推移と効果~ | 人事アナリシスレポート®

ICTによる生産性向上~ICT投資の推移と効果~

 近年、新しい経済・社会の仕組み、更には新しい生き方、働き方が現れており、それは情報通信技術(ICT)の力無くしては実現しえないものです。情報通信機器を揃え、ソフトウエアを導入したとして、実際の効果どうなのでしょうか。  日本のICTに対する投資の推移を見ると、2007年を100とした指数で見ると、2020年は115となり、投資額わずかな上昇です。コロナウィルスの影響から新たな働き方に対応するための方法としてICT投資が必要に迫られたことや、今後のDX推進に向けた投資も必要なことから投資額は伸びていくのではないでしょうか。また、外的要因(経済危機や震災など)によって投資額が減少することもわかります。  弊社HRデータ解説の「DX人材戦略~IMD世界デジタル競争力ランキングから考える日本企業の課題~」において、日本は情報通信への投資は世界の中でもランキングが低く、働き方のニューノーマルに向けた企業によるテクノロジーの投資は課題と言えます。 (https://www.transtructure.com/hrdata/20220719/) (図表1:ICT投資の推移) 出典:総務省(2022)「令和3年度 ICTの経済分析に関する調査」  ※赤線は2007年の合計値を100としたときの指数    生産性向上を目的としたデジタル化の効果を国別にみると、「期待通り」とする回答が多いですが、日本においては「期待以上」という回答は極端に少なく、また「期待する効果を得られていない」という回答も約30%です。一方、米国では「期待以上」が非常に高く、ドイツ、中国では「期待通り」が日本と比較して多いことがわかります。この他国との比較において差が出る理由は「本来必要なものに対しての投資が少ない」「日本人のデジタルに対する期待値の高さ」かもしれませんし、「導入したシステムを使いこなすスキルや人材が不足している」「デジタルに対する理解が不足し組織内で推進しにくい」といった事情があるかもしれません。いずれにしても、期待した効果が得られないということは、さらにデジタル化を進めていこうとする風は吹きづらくなってしまうのではないでしょうか。 (図表2: 生産性向上を目的としたデジタル化の効果(国別)) 出典:総務省(2022)「国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究」    ICT投資をしたとして、効果が得られなければ意味がありません。効果を得るためには、経営レベルでの投資の目的および目標や評価指標の明確化を行うこと、実際に使用する人々の理解と意識改革、システム活用による生産性向上のための現在の業務改革、といった一連の取り組みが必要なのではないでしょうか。 理解と意識改革の面ではITリテラシー向上が必要ということであれば、リカレント教育やリスキリングの機会も必要でしょう。また、業務改革については、慣例的業務の撤廃や導入するシステムに業務を合わせに行くぐらいの改革が必要かもしれません。  そして、ICTを活用した「新たな価値創造」が重要になります。そこにはIT人材やサービスの価値創造、変革を推進する人材の採用や既存社員からの配置、活用が必要になるでしょう。  働き方の変化やDXの推進に際して、企業は適切なICT投資への検討と実践に取り組まなくてはなりません。 以上

育休取得状況の推移<br />~仕事と家事を見直すチャンス~ | モチベーションサーベイ

育休取得状況の推移~仕事と家事を見直すチャンス~

 育児休業(以下育休)とは、育児をする労働者を時間的かつ金銭的に支援する制度です。育休は、男女の雇用機会の均等の実現、少子化への対応などといった社会的責任があり、経営者、人事がその責任を強く認識していく必要があります。  日本の育休取得率は全体として非常に低い水準です。特に男性の育休取得率は他国に比べても著しく低く、女性の育休取得率は85%に対し、男性はわずか14%弱です。しかも数年前まではわずか2%程度という状況でした。(図表1) 育児や家事の負担が女性に偏り少子化の要因になっている背景を踏まえて、政府は、2025年までに男性の育休取得率を30%に上げる数値目標を掲げています。 (図表1:育児休業取得率の推移) 出典: 厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査」「育児・介護休業制度等に関する事項」 注)本調査は男女別に掲載されているグラフを、1つのグラフに統合している。  男性の育休取得率は目標の30%まで程遠いですが、増加傾向であることは好ましい状況です。しかし取得率が上がっても育児休業期間について大きな問題があります。企業の対応や社内での理解との間に温度差があることで”短期間の育休”を取得する男性が多いのが実情です。性は、半数が1年以上の育休期間を取得する一方で、男性は、半数以上が2週間未満の期間しか取得していません。男性は育休を取得しているとはいえ、その期間についてはまだ十分ではないと言えます。(図表2) (図表2:取得期間別育児休業後復職者割合) 出典: 厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査」「育児・介護休業制度等に関する事項」      (単位:%) 注)「育児休業後復職者」は、調査前年度1年間に育児休業を終了し、復職した者をいう。  男性の育休取得及び育休期間が女性と比較してまだ不十分である要因は、主に4つあると考えられます。「育休取得による代替要員の確保」、「業務の引継ぎ調整」、「育休取得による不利な処遇になる懸念」、「前例がない等の社内文化」です。  1つ目と2つ目の要因は、「実際に抜けた『穴』を問題なく埋められるのか」についての懸念です。業務の担当者がいなくても問題なく遂行させるためには、”あの人にしか分からない”といった業務の属人化を解消し、標準化させる必要があります。また業務の棚卸しが出来れば、その仕事に見合った人材のレベル感や、業務の難易度を元に給与のレベル感を再定義できる機会にも繋がります。 (図表3:男性部下の育児休業への懸念) 出典:サイボウズチームワーク総研『「男性育休」についての意識調査』    ・調査対象:部下に男性正社員/公務員をもつ上司(課長職相当~経営者):2,000名 ・調査期間:2022年4月15日(金)~20日(水) ・調査方法:パネルを活用したインターネット調査    3つ目の要因は、会社と本人の間で認識の齟齬が生じていることです。会社としては、法律で認められた制度であり不利益な処遇をしてはならないと認識している一方で、本人にとっては“育休が昇格や昇給の妨げになるかもしれない“と懸念し、両者間で処遇に対する認識が一致していない可能性が考えられます。昇格や昇給の判定に育休の取得有無は全く関係が無い、ということを会社は社員に対して適切に周知していく必要があります。  4つ目の問題である前例がない等の社内文化は、経営者や管理職の視点によるものです。部下に対して育休を取得しやすい環境を作るのはもちろんのこと、担当者が不在でも業務が回る仕組みを構築することは“前例がない”に対する解決策の1つとなるでしょう。  ご家庭内での家事分担における個人の意識の改善も重要です。出産前後で生活環境や家事の内容は大きく変わり、出産後の女性が一手に家事を担うのは負担が大きいです。家事をパートナーに任せっきりにせず、なるべく分担をし、育休期間の間に家事・育児の新生活に慣れることが望ましいです。  育休は、取得すれば良いということではなく、十分な期間を設けて育児をすることが本質的です。育休を皮切りに、今一度会社の仕事の在り方・ご家庭での家事分担を振り返ってみてはいかがでしょうか。

生産性を高める積極的な設備投資のすすめ<br />~労働装備率と労働生産性~ | 人事アナリシスレポート®

生産性を高める積極的な設備投資のすすめ~労働装備率と労働生産性~

 企業は機械や設備に投資をし、そしてその機械や設備をより有効に活用することで、付加価値を創出し、生産性の向上につなげています。企業の機械や装備がどの程度充実しているのかを示す指標として「労働装備率」があります。労働装備率とは、有形固定資産を労働力で除した指標になります。  日本は国際的には生産性が低く、また生産性を高めていくための投資がまだ不十分であると言われています。図1はその労働装備率と労働生産性、そして人員数の推移です。まず労働装備率は低下傾向にあり、2018年度にやや増加はしましたが、2014年度水準には至っておりません。企業の有形固定資産は増え続けていますが、それを上回る形で人員数が増え続けたことが要因です。一方で労働生産性は上昇トレンドではありましたが、直近は横ばいに推移しており、今後、適切な投資を行い、労働生産性を高めていくことが企業の課題となっております。 (図表1:全業種の労働装備率と労働生産性、人員数) 出典:財務省「法人企業統計調査」全業種(金融保険除く)よりデータを加工 注1)労働装備率=有形固定資産÷人員数 注2)労働生産性=付加価値÷人員数 注3)2014年度を起点とした各年度の3年間の移動平均値の推移、2012年は東日本大震災、2019年度以降はコロナウイルス蔓延における影響が大きく、数値として平時ととらえづらい時期として、除外    また各業種別にみると、傾向や課題に違いがみられます。機械や設備への投資をはかり、少ない人員数の中で、生産性を高めている業種があります。運輸業郵便業です。ドライバーの長時間労働など労務問題が多い業種ですが、大幅に人員数が減っていく一方で、労働装備率は全産業に比べ高い水準で推移し、労働生産性ともに上昇傾向にあります。 (図表2:運輸業郵便業の労働装備率と労働生産性、人員数) 出典:財務省「法人企業統計調査」運輸業郵便業よりデータを加工  そして労働装備率をより高めていったほうが望ましい業種として医療福祉業があります。高齢化などを背景に市場のニーズは拡大していることもあり、大幅に人員数が増加している一方で、労働装備率は低下しています。肝心の労働生産性も横ばいとなっております。 (図表3:医療福祉業の労働装備率と労働生産性、人員数) 出典:財務省「法人企業統計調査」医療福祉業よりデータを加工  業種によってその傾向をとらえることが前提にはなりますが、全般として今後企業として対応すべきことは以下2点となります。  1つ目は、減少傾向にある日本の労働力人口を補うためにも、ICT、DXといったテーマの下、積極的に設備投資をおこない、新たなビジネスモデルを創出し、不足している人材を補いつつ生産性を高めていくことが重要です。  そして2つ目は業務を高度化し、生産性向上につなげていくことです。投資した機械や設備を効果的に活用していくため、企業の業種、特性にあったテクニカルスキルを磨き、付加価値につなげていくことが重要になります。 企業としては、労働装備を充実させ、業務の効率化を進め、人員数を適正に維持しつつ、生産性を高めていくこと、そして収益をしっかり賃金に還元し、賃金水準を継続的に高めていくことを目指していく必要があります。 以上

労働分配率<br />~人への分配の好循環に向けて~ | 人事アナリシスレポート®

労働分配率~人への分配の好循環に向けて~

 『配当金100円以上を目標に、・・・・・積極的かつ安定的な株主還元を行っていきます。』というのは、IR関連の資料で見かけることがあります。しかし、『中期経営計画では、3年間平均の労働分配率は60%を基準とし、従業員の平均年収1,000万円を目指して、積極的かつ安定的な従業員還元を行っていきます。』 このような文章はあまり見かけません。 自社の人件費総額、人件費の分配方針(労働分配率)について、意識している企業は多くないのではないでしょうか。  近年、日本の労働分配率は緩やかに低下しています(図表1オレンジ線)。企業が事業活動を通じて新たに生み出した価値(付加価値)を、人件費として従業員に分配する割合が減少していることを意味します。一方、従業員1人当たりの人件費(図表1緑線)は横ばいです。  労働分配率は、経年で推移を把握し、内部環境や外部環境の変化に応じて見直すことが必要です。自社の利益分配の観点からは、労働生産性の推移が、社員の生活面での安定という観点からは、消費者物価指数の推移が代表的な参考指標となります。従業員1人が生み出す価値である労働生産性(図表1青線)は、やや上昇傾向にあり、2007年度を底として、消費者物価指数もほぼ同じような推移を描いています。 図表1   労働分配率、消費者物価指数と労働生産性、1人当たり人件費の推移 資料出所:財務省 法人企業統計調査時系列データ 全産業(金融業、保険業以外)、全規模より作成  また、適正な労働分配率水準は、同規模同業種の水準を参考にすることができます。図表2は、労働分配率と従業員1人あたり人件費の関係を図示しています。大型の設備や施設を要する装置産業や大企業では、「労働分配率が低く、人件費は高い」、労働力に頼る割合が高い労働集約産業や中小企業では、「労働分配率が高く、人件費は低い」傾向が分かります。前者は、会社と従業員にとってwin-winの状態です。会社および従業員は、新たに生み出す価値(付加価値)を高める努力をし、人件費上昇分以上に利益があがった結果として、労働分配率が下がります。こうなると、利益の余剰分を将来への投資、株主・社会・地域といったステークホルダーに還元していくことが可能になります。こうした分配の循環スパイラルを回していくことが、企業成長の目指す姿の一つです。 図表2 業種・資本金規模別労働分配率と1人当たり人件費 資料出所:財務省 法人企業統計調査時系列データ 全産業(金融業、保険業以外)、全規模より作成 創意工夫や新しいアイデアを生み出す「人」は、付加価値の源泉であり、人への分配を未来への投資として捉えることが、会社と従業員にとってwin-winの状態や分配の好循環につながっていくのではないでしょうか。自社が生み出す新たな価値について、株主配当、内部留保や設備投資に関する価値分配と同様、人に対する価値分配についても、自社で議論しておくことが重要です。 【用語解説】 ・付加価値=人件費(役員給与+役員賞与+従業員給与⁺従業員賞与⁺福利厚生費)+支払利息等⁺動産・不動産賃借料⁺租税公課⁺営業純益 ・労働分配率=人件費÷付加価値 ・従業員1人当たり給与=(従業員給与+従業員賞与+福利厚生費)÷従業員人員数 ・労働生産性=付加価値÷(役員人員数+従業員人員数) ・消費者物価指数 総合(All item) 年度平均  ※資料出所:総務省 以上

最低賃金引き上げで2,000円の時代へ?!<br />~若手・非正規の単価を抑える人材活用方針の限界~ | 人事アナリシスレポート®

最低賃金引き上げで2,000円の時代へ?!~若手・非正規の単価を抑える人材活用方針の限界~

 毎年改正される最低賃金ですが、今年2022年は全国平均で時給961円(前年比31円)とすることが決定し、現在と同じ最低賃金の仕組みとなってから、過去最大の増加幅となりました。東京都の最低賃金は1,072円に引き上げられました。  この決定は、特に、人件費の単価が最低賃金水準のパート・アルバイトを数多く抱える企業に、大打撃となるはずです。また、改正のたびに、初任給水準だけを引き上げる改定を繰り返してきた企業からは、「賃金カーブの角度が寝てしまう」ことについての相談が多くなっており、年齢と共に徐々に賃金を上げていく「賃金カーブ」の処遇思想自体が、既に限界を迎えていることが分かります。  今回は、国内の最低賃金引き上げの推移の他、最低賃金や労働生産性の各国比較を参照し、今後のあるべき事業展開・人材活用方針、処遇制度方針について考えます。  2022年の最低賃金は、2021年と比較して3.3%の上昇率と、過去最大の増加幅です。この決定に際して、国際情勢の変化による物価上昇などが考慮されました。2002年の663円と比較すると20年間で約1.4倍に引き上げられており、かなり大きく引き上げられてきた印象を持たれるかもしれません。 図表1:最低賃金引き上げの推移 出典:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」  一方で、諸先進国の最低賃金と比較すると、日本の最低賃金水準はまだ十分に高いとは言えません。G7のうち、最低賃金の仕組みが存在しないイタリア、州により水準が異なるカナダを除く5か国の中で日本は最低水準です。為替レートにもよりますが、2022年10月21日時点の為替レートを用いて、ドル換算で比較をすると、日本の最新の最低賃金は、イギリス・フランスの60%程度の水準です。消費財の多くを輸入製品に頼る日常生活を考えると、日本で給与を得ながら輸入された商品を消費し続ける生活をするには、1,500円~2,000円ほどの時給単価が必要かもしれません。 図表2:最低賃金各国比較 出典:データブック国際労働比較2022|労働政策研究・研修機構(JILPT)P127 を基に筆者加工注:USD換算においては2022/10/21の為替レートを使用  さらに、1人当たりがどれだけの付加価値を稼いでいるかを示す指標である労働生産性の各国比較を参照します。日本は、単価自体が低いにも拘わらず、労働生産性も低く、他国と比較して労働生産性の伸びも鈍化しています。 図表3:労働生産性各国比較 出典:OECD Database (https://stats.oecd.org/index.aspx?DataSetCode=PDB_LV#) 2022年2月現在  単価の低い労働者が、薄利な利益を稼いでいる事業の構造が示唆されます。メーカーを例に上げると、同じ分野のモノを作る企業であっても、日本企業では、原料を輸入し、部品を製造・輸出するケース多く、一方、労働生産性が高い欧州諸国の企業では、日本を含むアジア諸国から部品を輸入し、より上流の部品や完成品を製造・輸出する割合が多いです。原料を部品にするよりも、部品を完成品にする方が利益率が良く、付加価値額が高いため、多少人件費水準が高くとも、労働生産性を高く維持できます。すべての産業や企業で一概に同じ傾向にあるとは言えませんが、少子高齢化により日本国内の内需が伸びない状況下では、グローバルに需要を見出し、ビジネスプロセスの中で、より優位な立ち位置に立つだけの競争力が必要なことが分かります。  ビジネスモデルや商品・サービス、商流の変革無しに、人件費削減・抑制に依存した労働生産性の向上には限界があります。極端に言えば、「最低賃金上昇による人件費コスト上昇分をどこで帳尻合わせようか」という議論から永遠に抜け出すことが出来ません。  より利幅の高いビジネス領域にポジショニングをシフトし、付加価値額を向上するビジネスモデルの追求、人件費単価を上げても1人あたりが稼ぐ価値が上がるビジネスの構造・人材活用の仕組み作りが迫られます。 以上

内部留保と賃金<br />~株価が上がっても賃金は上がらない~ | 人事アナリシスレポート®

内部留保と賃金~株価が上がっても賃金は上がらない~

 企業が生み出した当期純利益が内部留保である。またその当期純利益が利益剰余金として自己資本に計上される。利益剰余金は、設備投資やM&A(合併・買収)などに活用され、企業価値を高めていくことを目指す。図表1では2011年度を基準とした10年間の利益剰余金(緑色折線)は毎年増加を続けていることがわかる。直近の2021年度にはその額が516兆円にも及ぶ。 図表1:10年間の内部留保、株価、人件費、人件費単価の推移 "※1)内部留保:財務省法人企業統計調査より金融・保険業を除いた他業種の利益剰余金(利益準備金、その他利益準備金の総和、期末数値)を算出 ※2)日経平均株価:年度末の終値を利用 ※3)TOPIX:年度末の終値を利用 ※4)人件費:財務省法人企業統計調査より金融・保険業を除いた他業種の従業員給与・賞与の総和を算出 ※5)人件費単価:財務省法人企業統計調査より金融・保険業を除いた他業種の従業員給与・賞与の総和を従業員人数をもって算出"  企業価値を図るひとつの指標に株価がある。会社の業績が客観的に評価され、証券取引所で行われる売買価格、時価である。日経平均株価の対象となる銘柄数は225銘柄だが、TOPIXは東証一部上場のほぼ全ての銘柄で4,000銘柄以上である。日経平均株価は「株価平均型」であるのに対し、TOPIXは「時価総額加重型」である。よって日経平均株価は株価が高い銘柄の影響を受けやすいのに対し、TOPIXは時価総額が高い銘柄の影響を受けやすい。企業が投資の結果、企業価値の向上、つまり株価も上昇していることが望ましい状態である。図1の2011年度から10年間の日経平均株価(図1水色折線)とTOPIX(図1青色折線)は、ともに大きく上昇を続けている。2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災などにより経済は落ち込んだが、2012年より政策として実行されてきたアベノミクスの「民間投資を喚起する成長戦略」などといった時代背景があった。  このように企業の価値は株式市場で評価されてきた一方で、従業員の人件費(図1橙色折線)や人件費単価(図1赤色折線)は、ほぼ同水準で推移している。これは企業価値が高まり、内部留保が増えているにもかかわらず、従業員への還元が十分に行われていないということが如実に表れており、日本の重大で構造的な問題である。  この問題を解決していくために、今後人事として重要となる役割は、投資の効果的な実行を人事の側面で機能させていくことである。環境の変化が早く、グローバル化の推進など、難易度は高い課題を解決できる優秀な人材は取り合いとなっている。今後を見据えた事業領域に対してM&Aなど推進できる人材を獲得、確保していくことが欠かせない。また組織全体の生産性を高めていくために、テクノロジーの活用を前提とした設備投資も重要である。その投資を実現していくためにはDX人材などの育成、獲得も重要な役割である。  そしてこれだけ物価が上昇すると従業員の生活不安も更に高まる。内部留保を増やしているにも関わらず、従業員への還元ができていないことも踏まえると、企業は投資をしっかりと実行することに加え、2~3割平均賃金を引き上げ、優秀なグローバルな人材の獲得や従業員に対する生活不安を払拭させていくことが重要な役割になる。 以上

新卒社員の離職率<br />~企業のキャリア教育に対する責任とは~ | モチベーションサーベイ

新卒社員の離職率~企業のキャリア教育に対する責任とは~

 新卒採用しても一戦力化する前に離職してしまうという課題を抱えている人事担当者の方は多いのではないでしょうか。日本はゼネラリストとして育成することを前提とした採用が中心のため、一人前として成長する前に離職となると企業にとって大きな損失となります。離職防止策として初任給の引き上げが行われることも多いですが、社員がモチベートされる理由は賃金以外にも様々な理由があります。そのため、各企業は賃金以外についても課題がないか実態を把握する必要があります。  新規大学就職者の3年以内離職率は企業規模が大きいほど低くなるものの、最も離職率が低い1,000人以上の企業でも約25%と4人に1人は入社3年以内に退職しており、非常に高い傾向にあります。企業規模が大きくなるほど退職率が低くなる理由としては、大企業ほど社員への雇用責任が強く求められ、雇用者が手厚く守られているということが挙げられます。 (図表1:新規大卒就職者の企業規模別3年以内離職率(平成30年3月卒)) 出典:厚生労働省「令和3年 新規学卒者の事業所規模別・産業別離職状況」を加工して作成  そして、最も離職率の低い大企業でも約25%もの新規大卒就職者が退職しているということは、採用の際に企業側と学生側で職務に関するミスマッチが起きていると考えられます。  現に、自己都合退職した20~24歳の離職理由として、「満足のいく仕事内容でなかったから」が約4人に1人おり、「賃金が低かったから」を若干上回ります。この背景として、日本におけるキャリア教育は不十分であり、実際に働くことを想定した講義は多くないということが挙げられます。キャリア教育が不十分な結果、仕事を通じて実現したいことは何か曖昧なまま就職活動を行い、働くにつれ「想像していた仕事と違う」となった結果、離職に繋がっているのです。企業側も、新卒一括採用で一度に多くの候補者の中からポテンシャルを重視して採用することも多く、その人が本当に適性や業務遂行する十分な能力を有しているのか正確に判断することは難しい状況です。 (図表2:20~24歳における自己都合退職者の離職理由) 出典:厚生労働省「令和2年 雇用の構造に関する実態調査(転職者実態調査)」を加工して作成注)上記データは「最終学歴」「直前の勤め先での就業形態」「現在の勤め先での就業形態」による区分はされておらず、また、新卒者以外も含まれる。  また、20~24歳の転職者が今の勤め先(転職後の勤め先)を選んだ理由として最も多く、約半数を占めるのは「仕事の内容・職種に満足がいくから」です。「自分の技能・能力が活かせるから」が次に続いていることからも、就職前ではなく働き始めてから、自らの適性や仕事を通じた目標などキャリアが明確になり、新たな環境を選択する社員が増えていると推察されます。 (図表3:20~24歳の転職者における今の勤め先を選んだ理由) 出典:厚生労働省「令和2年 雇用の構造に関する実態調査(転職者実態調査)」を加工して作成注) 上記データは「最終学歴」「現在の勤め先での職種」「現在の勤め先での就業形態」「事業所規模」による区分はされていない。  職務に関するミスマッチを減らすために、企業・教育機関は連携して、学生が働くことに対して向き合う機会を積極的に提供しなければなりません。例えば、長期休暇期間だけの補助業務や体験業務のような短期インターンシップだけではなく、より実務に近い業務を担う長期間のインターンシップ制度を充実させることで、企業・学生共に適性を把握することができます。また、学校は働くことを意識した講義の充実に加え、学生がインターンシップで認識した不足しているスキルを補えるような環境を整備しなければなりません。 また、採用担当者は、選考段階から入社後に担う職務と目指すキャリアゴールを説明しなければなりません。説明するためには、どのような方針をもとに人事制度が制定されているのか採用担当者は理解を深める必要があります。そもそも人事制度のコンセプトと会社方針が連動していない場合は人事制度そのものを見直さなければなりません。経営目標を達成するにはどのような人材が求められ、各人材群はどのようなキャリアを描くことができるのかが整理されて初めて、採用すべき人材が明確になります。  新卒社員の離職率を下げるためには賃金以外にも、「どのような能力を発揮し、キャリアを歩んでもらいたいのか」という企業側の思い、そして、社員一人ひとりの「職務を通じて達成したい目標」の双方が合致するよう、採用までの在り方を見直さなければならないのです。 以上