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従業員数と営業利益率<br />~人的資本の投資で営業利益率を高める~ | 人事アナリシスレポート®

従業員数と営業利益率~人的資本の投資で営業利益率を高める~

失われた30年と言われた日本経済も、17年ぶりの日銀の利上げや34年ぶりの日経平均最高値の更新、春闘の賃金引き上げ率が史上最高であること等から、回復の兆しが見えてきました。しかし、今後人口減少に伴い就業者数の減少も見込まれ、日本経済を持続的に成長させるための大きな課題となっております。 今回は企業が本業で稼いだ利益率を表す営業利益率の推移と平均従業員数の推移を比較しながら、今後の施策について解説します。日本経済を今後も持続的に成長させるためには成長も大切ですが、各業界がしっかりと収益性を高めていくことも重要です。今回は代表的な業界をピックアップし、その傾向を解説します。 1.運輸業・郵便業 運輸業・郵便業は、コロナ禍である2020年-2021年頃に一時的な営業利益率の大幅な減少が起こり業界全体で赤字となりました。物流の小口多頻度化※1が急速に進行している中での物流コスト増※2が原因であると考えられます。その後営業利益率は回復傾向にありますが、現状は以前の水準に達していない状況です。これを打開するためには、業界そのものが高付加価値型のサービスへ転換していくことが求められるでしょう。 ※1 「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」経済産業省・国土交通省・農林水産省(2022年) ※2 「2022年度物流コスト調査報告書」公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(2022年)や資源エネルギー庁の調査結果から、原油価格等の高騰に伴う物流コスト増であることが考えられる。 (図表1:運輸業・郵便業) 出典:「法人企業統計調査」財務省 をもとに作成 2.情報通信業 情報通信業は平均従業員数も営業利益率も緩やかに上昇しています。営業利益率については8~10%と高い水準を維持し、過去10年で毎年平均約2.8%成長しています。コロナ禍の一時的な景気後退に伴い成長が鈍化したものの、2022年にはコロナ以前に近い水準まで回復しました。同業界は他の業界と比較して、働く時間や場所を限定しない柔軟な働き方を実現しやすく、生産性向上の取り組みを行いやすいことから、今後も業界全体として更なる生産性向上に取り組みやすい業界であると言えます。 (図表2:情報通信業) 出典:「法人企業統計調査」財務省 をもとに作成 3.製造業 製造業については、従業員数が緩やかに減少していく中で、過去10年で毎年平均約9%営業利益率を成長させています。他の業界でも触れていますが、2019年以降に一時的な景気の冷え込みはあったものの、約2年弱で元の水準へ回復しています。従業員数はコロナ以前の水準に達していないものの、2022年は全産業平均でIT投資が前年比約5%増加※3すると見込まれており、特に金融や公共分野で大きく増加したことから業界全体の営業利益が向上したと考えられます。 ※3 「令和6年版情報通信白書」総務省(2024) (図表3:製造業) 出典:「法人企業統計調査」財務省 をもとに作成 日本の人口が減少していく中でビジネスを成長させるためには、ビジネスを牽引する人材への投資や、テクノロジー等への投資が必要不可欠であることは言うまでもありません。企業の置かれている状況、ステージにもよると思いますが、原則営業利益については、短期的に赤字が許容できるものではありません。 一方で人やテクノロジーに対する投資の効果が表れるのは少し時間がかかりますので、その投資効果を測るためには、中長期的な観点が必要です。個別の事業の売上とともに、収益を重視した中期的な検証、経営管理の重要性が今後より一層求められるでしょう。 以上

若手・中堅層人員比率<br />~次世代を担う人材不足の傾向と対策~ | 人事アナリシスレポート®

若手・中堅層人員比率~次世代を担う人材不足の傾向と対策~

少子高齢化という社会背景のもと、自社の将来を担う若手・中堅層の厚みに悩みを持つ企業が増えています。年齢構成における多様性は、人材の「量」の観点だけでなく、同質化を排する「質」の観点からも、企業基盤や競争優位性の強化に繋がる要素として捉えられることがあります。 図表1は、各産業の常用労働者数における「40歳未満比率」を折れ線グラフで示しています。これにより、若手・中堅層の比率の大小を見ることができます。全産業の40歳未満比率の平均は37.3%ですが、業種別に比率の傾向は異なります。 (図1:40歳未満比率‐常用労働者) 出典:厚生労働省「雇用動向調査 上半期結果表 2023年1~6月期」をもとに作成 注1)40歳未満比率=39歳までの常用労働者÷総常用労働者数×100 として算出 注2)常用労働者数: 雇用期間を定めず雇用されている労働者をいう。日雇労働者や季節労働者など雇用期間に定めのある労働者のほか、雇用期間に定めがあって契約期間を更新している労働者は除く。 注3)業種は抜粋 図表2は、40歳未満比率に加えて「欠員率」を軸に置き、4象限に分けて業種をプロットしています。欠員率とは、常用労働者に対する未充足求人の割合です。つまり、各業界の人手不足感を割合で示したものと言えます。欠員率の数値が高いほど人手不足感が強いことを示します。各象限による傾向ともに必要な施策を解説します。 (図2:40歳未満比率×欠員率) 出典:厚生労働省「雇用動向調査 上半期結果表 2023年1~6月期」、「労働経済動向調査 令和5年11月調査」をもとに作成 注1)欠員率=未充足求人数÷常用労働者数×100 注2)業種は抜粋 第1象限について 代表的な業種として「宿泊業・飲食サービス業」と「生活関連サービス業・娯楽業」があげられます。40歳未満比率が高いものの人手不足感は大きいのが特徴です。人の出入りが激しく、常時採用活動を行っている企業が多いことが窺えます。離職率の低下を図る施策に加えて、外国人や中高年の活用なども必要となります。 第2象限について 代表的な業種として「運輸業・郵便業」と「建設業」「医療・福祉」があげられます。若手・中堅層が少なく、かつ、全体的な人手不足にも悩まされている業界です。2024年問題に直面している産業が集まっています。欠員率にフォーカスすると、運輸業・郵便業と建設業との間には大きな違いがあり、人手不足感は運輸業・郵便業の方がより深刻です。生産性を高めるためにDXを推進する人材の獲得や育成、それに伴う人員の新陳代謝が求められます。 第3象限について 代表的な業種として「卸売業・小売業」と「製造業」があげられます。若手・中堅層の比率が低い業界が集まっていますが、人手不足感が比較的少ないのが特徴です。従業員規模が大きく、年齢構成の歪さに多くの企業が問題を抱えています。シニア層の活用が事業運営の継続可否に直結するため、定年延長を含めて適正な役割付与と処遇による高齢者の戦力化が必須です。 第4象限について 代表的な業種として「情報通信業」や「金融業・保険業」があげられます。若手・中堅層の比率が高く、かつ、人手不足感も比較的少ない分類です。現時点では最もバランスが良いと言えますが、今後も継続的に年齢構成を維持していくための取組みが必要です。人材獲得競争が活発な業界ですが、常に処遇の適正化を図る必要があるとともに、従業員のモチベーションを上げる施策も求められます。 今後しばらくはどの業界においても、従業員の平均年齢が上がっていく傾向が続きます。各社におかれては、「若手・中堅層」と呼ばれる年齢層が「50歳未満」となる未来を想定しておく必要があります。想定される未来からバックキャストで現在どういった施策が必要であるか考えてみることも、今後の事業展開において意味のある検討となるでしょう。 以上

人的資本ROIと労働生産性の関係性<br />~人数から投資効率を考察する~ | 人事アナリシスレポート®

人的資本ROIと労働生産性の関係性~人数から投資効率を考察する~

前回は、ISO30414から、人的資本ROIをテーマに、データの見方・業界水準・考察の仕方について概要を紹介しました。 人的資本の開示に注目が集まっていますが、数字を単に列挙すれば良いというものではありません。データをそろえると共に、他のメトリックのデータとの関係性や、他社比較・同業他社比較・自社過去の経年比較をするなど、多面的に考察し、人的資本の価値の増強に向けた施策展開をすることが重要です。今回は、人的資本ROIと労働生産性の関係性について考察します。 人的資本ROIは、ISO30414のうち、生産性領域のメトリックの1つです。人的資本ROIの計算式 「{収益-(コスト-人件費)}÷人件費-1」 のうち、人件費に関する部分は、因数分解すると人件費=人数×単価です。 今回は、人数に着目して考察を進める例として、労働生産性を使います。労働生産性は、付加価値÷従業員数で算出することができ、従業員1人あたりいくらの付加価値を稼ぐことができたかを示します。一定の付加価値を少ない人数で創出することができれば労働生産性が高く、同じ付加価値を稼ぐのに多くの人数を要すれば労働生産性が低いと言えます。 図1のように横軸に人的資本ROIを、縦軸に労働生産性を設定し、それぞれの業界水準を交点としてみましょう。ここでは、サンプルとして、経産省の2022年度の製造業の統計値を利用し、人的資本ROIが42.1%、労働生産性が12.0万円/人を1つのターゲットとし、(x,y)=(42.1,12.0)を境に4象限を設定します。 ターゲットとする値を中心に据えたとき、自社が第1象限~第4象限のいずれの象限にプロットされるか確認すると、課題や施策が見えてきます。 (図1:人的資本ROI×労働生産性)   出典:経済産業省企業活動基本調査 統計表一覧-速報(概況) 2023年企業活動基本調査速報ー2022年度実績ー を参照し、筆者が人的資本ROI・労働生産性を計算・図表作成 人的資本ROI={ 売上高 - {(売上原価、販売費および一般管理費) - (給与 + 福利厚生)}} ÷ (給与 + 福利厚生)} - 1 労働生産性=付加価値額(※)÷従業員数 第1象限は、最も望ましい象限です。人的資本ROI・労働生産性が共に外部水準より高いので、人件費の投資効率が良く、少ない人数で高い付加価値を創出できていることを意味します。 第2象限は、労働生産性は高いので付加価値に対する人数は理想的ですが、人件費の投資効率については改善の余地があります。 第3象限は、人的資本ROIも労働生産性も共に外部より低いので、改善の余地が大きいと言えます。創出する付加価値に対して人数が余剰しているうえ、収益につながらない人件費投資が多いため、人件費の掛け方や収益に対する人数構造のあり方を抜本的に見直す必要がありそうです。 第4象限は、人的資本ROIは外部より高いので、人件費を投資すれば一定のリターンはある状態ですが、1人あたり付加価値が低いので、より効率的な配置・業務遂行を実現すれば、同じ人数でもより高額な収益を上げられるはずです。 併せて、単年度の数字だけなく、経年で自社過去比較をし、人件費の投資効率と人数の使い方の変化や傾向を見ることで、施策の方向性が合っているか確かめることもできます。図2では、参考までに製造業の統計値を4期分プロットしてみました。人的資本ROIの水準を上げながら、労働生産性も同時に上げていますから、直近4期の間、人数を膨張させることなく高収益を上げ、人件費への投資効率を上げてきていること、一過性の特需ではなく少なくとも数年は継続していることが分かります。 (図2:人的資本ROI×労働生産性 製造業2019-2022)   出典:経済産業省企業活動基本調査 統計表一覧(2019~2022年)を基に筆者計算 まずは、図1・図2のようなマトリクスを参考に、ぜひ自社過去比較をしてみてください。必ずしも直近の統計値でなくとも、好業績時の自社過去水準や、競合他社水準など、自社がターゲットとする目標値等があれば、それと比較をすることも有効です。そうすることで自ずと今後目指すべき目指す姿についての議論が浮上するでしょう。 今回は、労働生産性の指標を例に挙げてデータの活用方法について考察をしましたが、その他にも、労働分配率や年収水準・教育研修費等、様々な人事領域関連指標を軸に分析をすることができますから、継続的に紹介します。 以上

賞与配分前営業利益に占める賞与の割合は20%~40%  <br /> ~社員の成果に報いる賞与制度~ | 人事アナリシスレポート®

賞与配分前営業利益に占める賞与の割合は20%~40% ~社員の成果に報いる賞与制度~

 今回は会社利益と賞与の関係について解説します。  賞与は、月例給与の後払いや生活給といった生計費調整機能と、会社業績や個人の成果に応じて分配する業績連動機能の2つの機能を持ちます。会社業績に応じて賞与額を決定する仕組みにすることで、経営状況に応じた柔軟な支給額調整や、社員の売上意識を高めることが期待できます。  では、会社の利益に対して、どれくらいを賞与として還元すべきなのでしょうか。  社員の成果が表れる利益指標として、本業で得られた利益である営業利益が適しているでしょう。営業利益そのままでは既に賞与額が引かれた金額であるため、営業利益に賞与額を足し戻した『賞与配分前営業利益』と『賞与原資』の関係性を見ていきます。  図表1は資本金規模別の過去10年間の賞与支給額、一人当たり賞与配分前営業利益、賞与配分前営業利益に占める賞与原資の割合(以下、賞与原資率)を示しています。企業規模が大きいほど一人当たり賞与配分前営業利益が高く、一人当たりの平均賞与支給額も高いです。一方で賞与原資率は10億円以上規模で23%、1千万円未満規模で42%と、資本金規模が大きいほど低く、利益に対する賞与の負担が軽いと言えます。 <図表1> 資本金規模別、一人当たり賞与原資額、一人当たり賞与配分前営業利益および 賞与配分前営業利益に占める賞与原資の割合の過去10年間の平均 出典:財務省「法人企業統計調査」 注1) 全産業(除く金融保険業) 注2)営業利益が赤字の期を除く 注3)賞与原資=役員賞与+従業員賞与 注4)賞与配分前営業利益=営業利益+賞与原資  次に、毎年の利益の増減に応じてどの程度賞与額を連動させているのかについても見ていきます。  図表2は資本金規模別の2013年~2022年(2020年、2021年を除く8年間)の、賞与配分前営業利益と賞与原資のデータをプロットしたときの回帰曲線の傾きを示しています。平たく言うと、賞与配分前営業利益が1円増えたときに賞与原資がいくら増えているかを表しています。例えば全規模の傾きは約0.2ですが、これは賞与配分前営業利益が100万円増えたとき、賞与原資が約20万円増えることを示しています。  規模別で見ると5千万円~1億円規模を頂点とした正規分布のようなグラフになっています。小規模の会社では利益の増減に合わせて賞与を大きく変えることが難しく、規模が拡大するほど利益を社員に還元する余地が増えてくるため、中規模までは規模拡大に伴って傾きの値が大きくなっていると考えられます。  それでは大規模な会社は社員に還元していないかというと、決してそうではないでしょう。図表1で示したとおり、生産性が高まり、賞与原資率が下がることで、賞与の増減の影響が薄まっていくものと考えられます。 <図表2> 資本金規模別、2013年~2022年(2020年、2021年を除く)の 賞与配分前営業利益と賞与原資の回帰曲線の傾き 出典:財務省「法人企業統計調査」 注1)賞与支給前営業利益をx軸、賞与原資をy軸にプロットしたときの回帰曲線の傾き 注2)全産業(除く金融保険業)  社員一人一人の頑張りによって得られた利益を賞与として還元することでモチベーションが高まり、更なる貢献が期待できます。目標を超えたときにどれくらい賞与が増えるか、方針を示すことで売上意識はより高まるでしょう。  業界や各社の特性が異なるため、一概に『賞与配分前営業利益に占める賞与原資の割合』や『利益に応じた賞与原資の連動性』が高ければ良いわけではありません。極端な例ですが、利益がまだ出ていないベンチャー企業ではある程度安定的に賞与を支給することがモチベーションに繋がります。安定的な職務遂行が求められる業種も同様です。まずは世間一般の水準を理解し、自社の成長の立ち位置を把握することが重要です。その上で自社の賞与に対するポリシーを持ち、施策を検討すべきでしょう。 以上

労働力の量と質の推移 <br />~人口減少時代に向けて~ | 人事アナリシスレポート®

労働力の量と質の推移 ~人口減少時代に向けて~

 内閣府(2022)「令和4年版高齢社会白書」によると、日本の総人口は今後減少し、65歳以上の人口割合が今後更に増えるという推計が算出されています。少子高齢化が進むにつれて生じる労働人口の減少により、日本経済が停滞してゆくことが危惧されています。日本経済が持続的に成長するためには、労働力をいかに維持するかが社会的な課題となっています。  こうした背景の中、労働力として注目されている一つが、65歳以上の人材の労働力確保です。2021年4月の改正高年齢者雇用安定法においても、70歳までの就業確保が企業の努力義務となっています。実際、図表1にもあるように、高齢者の就業率は年々上昇しています。65歳以上の高齢者の就業率は2015年から年々上がっており、直近の労働人口全体も緩やかに増えています。このように、労働力の"量"は高齢者の就業率増加もあり、短期的には維持できていることが見受けられます。 <図表1> 労働人口と65~69歳の就業率の推移 出所: 総務省(2023)「労働力調査(基本集計) 2023年(令和5年)1月分結果 20~69歳の人口、就業者数、就業率」をもとに作成  労働力の"質”の推移を確認するため、業界別の労働生産性 (労働者1人あたりが生み出す付加価値額)の推移と平均従業員数の推移を比較しながら解説します。  飲食サービス業(図表2-1)では、労働生産性は常に減少傾向にあり、従業員数も2019年以降は落ちている傾向があります。昨今、大手飲食チェーン店を中心に注文や配膳等業務の機械化が進んでいますが、一人当たりの付加価値=”質”の面では効果が表れていません(付加価値には人件費が含まれるため)。今後機械化がさらに進み、人員数が安定・最適化されたときに高い付加価値を生み出すことができているのかが重要になってきます。 <図表2-1> 労働生産性×従業員数の推移_飲食サービス業 出所:財務省(2021)「法人企業統計調査」をもとに作成  情報通信業(図表2-2)では、2016-2017年にかけて従業員数が減った一方で労働生産性が上がっており、2017-2018年では従業員数が増える一方で労働生産性が下がっており、それぞれが逆行した動きをしています。新規就労者が多く、業界内での転職等による人の動きが活発な情報通信業では、仮に即戦力採用の中途社員だとしても、付加価値への貢献=”質”といった意味では、業務習熟するために必要な経験を得ることに時間がかかりやすい、もしくは時間がかかってしまっている可能性があります。 <図表2-2> 労働生産性×従業員数の推移_情報通信業 出所: 財務省(2021)「法人企業統計調査」をもとに作成  医療福祉業(図表2-3)では、2018年度に従業員数が減少しましたが2020年以降は上昇傾向にあります。一方、労働生産性も2019年以降で安定的に上昇傾向にあります。高度な知識や資格の基盤が前提にある医療福祉業界では、即戦力として労働生産性=”質”に寄与しやすい業種といえます。 <図表2-3>労働生産性×従業員数の推移_医療福祉業 出所: 財務省(2021)「法人企業統計調査」をもとに作成  定年延長・再雇用の活用によって短期的には労働力の”量”の維持が期待できますが、将来的に総人口が減少する日本では少ない人数でいかに労働力を維持していくかが課題となります。そのため、労働力の“質”にも目を向け、労働人口が将来的に減ったとしても安定的な労働生産性が確保されるサービス形態への変換が求められるのではないでしょうか。限りある労働資源をいかに有効活用していき、労働生産性を高めていくかの議論が各企業内でより活発化していく必要があります。自社の生産性をより高めるための阻害要因を各社で見つめ直し、DX推進やリスキリング、イノベーション推進等によって業務効率化とその価値向上に務めることが重要となります。 以上

賃金引上げ率の推移と参考指標<br />~自律的な報酬水準のコントロールを~ | モチベーションサーベイ

賃金引上げ率の推移と参考指標~自律的な報酬水準のコントロールを~

 2022年以降の物価上昇率の伸長と実質賃金が目減りしている状況等を踏まえ、2023年12月、政府は物価上昇率を超える賃上げを実現できるよう、賃上げ税制を抜本的に拡充しました。同11月末には、「令和5年賃金引上げ等の実態に関する調査」が厚生労働省より発表されており、2023年の各社の賃上げ状況が見えてきました。  賃金の改定を実施した又は予定している企業は、89.2%(前年86.6%)。管理職のベースアップを行った・行う予定の企業は43.4%(前年24.6%)、一般職のベースを行った・行う予定の企業は49.5%(前年29.9%)と前年から急上昇しました(※ベースアップの実施割合は、管理職及び一般職で定昇制度がある企業を100.0%とした場合の割合)。  図表1は1人平均賃金の改定額・改定率の調査結果と、消費者物価指数(CPI)の推移です。昨年の1人当たりの平均賃金の改定額は9,437円、改定率が3.2%と、消費者物価指数(CPI)の上昇を追いかけるように大幅に伸びているのがわかります。 <図表1> 1人平均賃金の改定額(円)及び改定率(%)と消費者物価指数(%)の推移 出所: 厚生労働省(2023)『令和5年賃金引上げ等の実態に関する調査』,総務省統計局(2023)『消費者物価指数(CPI)』をもとに作成 注1 図表は「1人平均賃金の改定額及び改定率の推移」と「消費者物価指数(CPI)」より加工 注2 消費者物価指数は生鮮食品を除く総合。2023年のCPIは日銀の予測(2023年10月31日時点)より引用  注目される2024年以降の賃上げですが、皆さんの企業ではどのように検討を進めているでしょうか。他社が何を参考指標としているのか、同調査結果を見てみましょう。 <図表2> 賃金の改定の決定に当たり最も重視した要素別企業割合の推移 出典:出所:厚生労働省(2023)『令和5年賃金引上げ等の実態に関する調査』をもとに作成 注1 図表は「企業規模、賃金の改定の決定に当たり最も重視した要素別企業割合」より加工したもの。 注2 賃金の改定を実施した又は予定していて額も決定している企業のうちの割合。ただし、平成20年調査以前は賃金の改定を実施した又は予定していて額も決定している企業のうち、改定に当たり最も重視した要素に記入のある企業を100.0%とした割合であり、比較の際は注意を要する。  図表2は、賃金の改定を実施した又は予定している企業において、賃金改定の決定の際に最も重視した要素の推移です。2023年は、「企業の業績や前年実績、関連会社の動向」の割合が42.2%と最も多くなっており、次いで「雇用・労働力の確保」が28.9%、「世間相場・物価の動向」が14.6%となっています。注目すべきは、前年に比べて「雇用・労働力の確保」と「世間相場・物価の動向」の割合が急増しており、「重要視した要素はない」とした企業が減少していることです。それだけ昨年の賃金改定では、世の中の動向と従業員への配慮を念頭に置いて検討した企業が多かったということです。  報酬はハーズバーグの二要因理論からすると「衛生要因」であり、不満足の要因になります。一旦報酬水準が上がったとしても、それを継続しないと、また不満足の要因になるということです。  社員の報酬満足を維持するには、「世間の賃上げの気運が高まっているから」ではなく、労働市場における報酬水準や物価等を定期的(例: 半年ごと、年次など)に把握しつつ、自社の業績なども踏まえ、自律的に報酬水準をコントロールしていくことが望ましいです。  企業は成長を続けないと報酬満足を維持していくことは難しいため、人的資本経営の観点における適正な報酬水準のコントロールとともに、人材のパフォーマンスを高めるマネジメントや育成も重要になってきます。  従業員への適正な報酬とパフォーマンスマネジメントが、企業と従業員の間の相互信頼を築き、持続可能な業績向上へつながっていくでしょう。 以上  

年収の賞与の割合は約10%~20%|社員の意識を高めるための賃金制度 | 人事制度

年収の賞与の割合は約10%~20%|社員の意識を高めるための賃金制度

 年末が近づくにつれて、冬の賞与の使い道を考え始める方も多いのではないでしょうか。 今回は賞与について取り上げます。賞与は、月例給与の後払いや生活給といった生計費調整機能と、会社業績や個人の成果に応じて分配する業績連動機能の2つの機能を持ちます。会社業績に応じて賞与額を決定する仕組みにすることで、経営状況に応じた柔軟な支給額調整や、社員の売上意識を高めることが期待できます。一方、月例給与と異なり、賞与は保証された給与として規程されていない企業も多いため、年収に占める賞与の比率(賞与比率)が過度に高い場合、従業員にとってはリスクとも言えます。  図表1は令和4年度の役職別・企業規模別の年収(縦棒)および賞与比率(折れ線)を示しています。企業規模にかかわらず、係長級以上の役職者の賞与比率は、非役職者よりも約4%高いです。役職者には会社業績に応じて支給額を変動させる余地を多く設ける一方、非役職者には業績や成果に応じて支給額を変動させる余地を抑えていると考えられます。しかし、役職者の中で係長級、課長級、部長級を比較すると差がなく、むしろ部長級の賞与比率は低下しています。  企業規模で比較すると、同じ役職でも企業規模が大きいほど年収が高く、賞与比率も高い傾向があります。10~99人規模の部長級と1000人以上規模の係長級を比較すると、年収は同程度ですが、後者の方が賞与比率が高いです。このことから企業規模が大きいほど業績連動性を重視していることが推察されます。   図表1:役職別・企業規模別、年収と賞与比率 " 出典:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」 注1)縦棒:年収、折れ線:賞与比率 注2)年収=所定内給与額×12+年間賞与その他特別給与額 注3)賞与比率=年間賞与その他特別給与額÷年収"  業種による傾向の違いも確認できます。図表2は、令和4年度の業種別の年収水準と賞与比率を示しています。横軸には産業計を100としたときの各業種の年収指数を、縦軸には産業計が原点にくるよう賞与比率をプロットしています。年収が高い業種ほど賞与比率が高い傾向があります(決定係数R² = 0.7911)。また年収水準が高いゾーンにおいて、年収が近い業種を比較すると、中長期的な成果や安定的な職務遂行が重要な業種の賞与比率が低い傾向が見られます。   図表2:業種別、年収指数と賞与比率 " 出典:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」 注1)年収指数:産業計の平均年収を100としたときの各業種の平均年収の割合 注2)産業計が原点になるようプロット 注3)業種は抜粋"  『賞与は毎年○か月分出て当たり前』ではないことを社員に理解してもらうことが重要です。社員一人一人が自分の役割を果たすことで会社業績が伸び、得られた利益(原資)が責任の大きさや個人の成果に応じて配分される。このことをしっかりと社員に伝え、理解してもらうことで売上意識が高まり、企業の持続的な成長に繋がります。業績が大きく予算を超過する際には、決算賞与などを導入し、支給することも社員のモチベーションに対しては大変有効な施策です。 また、人材不足が深刻な経営課題になっておりますが、業界によって年収や賞与比率については傾向に違いがあります。業界における年収水準と賞与比率を定期的に把握し、外部水準に対するポリシーを明確にし、賃金制度を整備していくことが重要です。人材の定着や採用の競争力を維持向上させていくうえで欠かせない人事施策と言えるでしょう。 以上

勤務間インターバル制度<br />~働き方見直しの道のりは遠い?~ | 人事制度

勤務間インターバル制度~働き方見直しの道のりは遠い?~

 2017年3月より、働き方改革の一環として始まった「勤務間インターバル制度」をご存じでしょうか。これは労働者の休息時間の設け方に関する制度で、前日の終業時間から次の始業時間の間が短い時間とならないよう、一定時間以上空けなければならないとした制度です。過労の原因となり得る「終業時刻が遅いのに始業時間が早い」という就業状態を、常態化させないための重要な制度であると言えます。2019年施行の働き方改革関連法により、企業への導入が努力義務として求められ、続いて2022年7月30日の「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の中で、以下の目標が閣議決定されました。 ・ 令和7年(2025年)までに、勤務間インターバル制度を導入している企業の割合を15%以上とする。 ・ 令和7年(2025年)までに、勤務間インターバル制度を知らなかった企業の割合を5%未満とする。 この目標に対して、実際の導入状況や認知度はどうなっているのか、現状を見てみました。  図表1は令和4年調査の就労条件総合調査の結果です。勤務間インターバル制度の導入状況を見ると、【導入している】のは5.8%、【導入を予定又は検討している】のは12.7%でした。 <図表1:勤務間インターバル制度の導入状況(%)> 出典 厚生労働省 就労条件総合調査「第19表 産業・企業規模、勤務間インターバル制度の導入状況、具体的な時間の設定状況別企業割合及び平均勤務間隔時間」 注 企業規模別表より抜粋したデータを図表に加工した  図2は、図1の【導入予定はなく、検討もしていない】企業に対して勤務間インターバル制度の認知度を調べた結果で、21.3%の企業が【当該制度を知らない】と回答しました。 <図表2:勤務間インターバル制度の認知度実態(%)> 出典 厚生労働省 就労条件総合調査「第19表 産業・企業規模、勤務間インターバル制度の導入状況、具体的な時間の設定状況別企業割合及び平均勤務間隔時間」 注 企業規模別表より抜粋したデータを図表に加工した  図3は当該制度の導入状況を産業別に見たものです。【導入している】【導入を検討又は予定している】の割合は、運輸業・郵送業がもっとも高く、続いて建設業となりました。これらの業界で導入が進んでいる背景には、いわゆる「2024年問題」と呼ばれる「残業上限規制(原則月45時間・年360時間)の免除」がなくなることで、労働時間に対する意識が高く、取組みが進んでいるのではないかと考えられます。 <図表3:勤務間インターバル制度の導入実態__産業別(%)> 出典 厚生労働省 就労条件総合調査「第19表 産業・企業規模、勤務間インターバル制度の導入状況、具体的な時間の設定状況別企業割合及び平均勤務間隔時間」 注 産業別表より抜粋したデータを図表に加工した  現段階では、2025年の目標値までには導入状況・認知度ともに乖離がある結果となりました。勤務間インターバル制度の導入は、 ①従業員の健康維持・増進につながる②生産性向上に貢献し、従業員のワークライフバランスの実現につながる③企業としてのロイヤリティが向上し、採用競争力や定着率改善が期待できるといったメリットがあります。  一方で、①業務フロー・体制の見直しが必要になる②一時的なパフォーマンス低下が懸念される(サービスの質の低下など)といったデメリットもあります。  事業者の制度導入の負担を少しでも軽減できる助成金制度(「働き方改革推進支援助成金」)も用意されているので、一時的なデメリットよりも中長期的なメリットを見据えて、早めに動き出すことを推奨したいと思います。

データから見る製造業の人事課題<br />~製造業 就業者と有効求人倍率~ | 人事制度

データから見る製造業の人事課題~製造業 就業者と有効求人倍率~

 日本は優れた製造技術によって信頼性の高い製品を生み出し、世界各国から「ものづくり大国」とも言われてきました。日本の製造業は現状どのようなものでしょうか。  ここ数年製造業のGDPは110兆円程度を推移しており、2021年の経済活動別国内総生産(名目)では製造業が最も構成比が高く、次いで卸売・小売業、不動産業となっています。製造業は日本経済を支える大きな産業です。しかし、昨今の世界情勢から原油価格高騰の影響により生産コストの増加など影響は引き続き深刻な状況です。 図表1 業種別GDP 出典:内閣府 2021年度国民経済計算  実際に製造業での人材需給はどのような状況なのでしょうか。有効求人場合率の推移を確認すると、製造業に関わる職業の有効求人倍率は全般的に上昇傾向です。特に「機械整備・修理」「金属材料製造、金属加工、金属溶接・溶断」は3を超えています。「機械組立」「生産設備制御・監視」などは元から相対的に倍率は低い状況でしたが、倍率の上昇率も大きくはなく、IT化、ロボティクスによる省人化が理由として考えられます。製造業の中でも職業による差が生じつつも、人手不足は進むことが考えられます。 図表2: 職業別有効求人倍率 パートタイム含む常用 出典:厚生労働省 「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」  日本経済を支える産業の製造業ですが、働く人々の年齢はどうでしょうか。34歳以下の就業者は2021年で263万人で、この約20年で3割減っています。それに伴って製造業の34歳以下の就業者割合は徐々に下がり、ここ数年は25%台が続いています。反対に65歳以上の就業者数は2021年91万人、2002年と比較をすると、約1.5倍と増えており、業界の高齢化が進んでいると言えます。  他の業種でも同様に、若年層の就業者割合の低下、高齢者の就業者割合の上昇の形になっています。若い人材が減ると言うことは、素晴らしい技術の継承者がいなくなることが考えられ、どのように継承し、発展させていくかを真剣に考えなくてはなりません。 図表3: 製造業就業者数と割合 出典: 総務省「労働力調査」  人材の高齢化と人材不足は一朝一夕に解決できる問題ではなく、これから先、世界はこの問題とともに経済活動を続けていかなくてはなりません。製造業においては、シニア活用の土壌を整えることと同時にどのように技術継承を行うか、また求職者に向けて製造業、会社の魅力を伝える工夫をすることが必要と考えます。  65歳を超えても働いてもらうためには、シニア層の職務の割り当てや待遇方針を明確にし、やりがいを持って働いてもらうための制度の検討が必要です。  また、シニア層がこれまで築いてきた技術をどのように後進に継承するのかも重要です。「経験と勘」、「見て学べ」という属人的なものはなく、どのような人でも一定の成果をあげられるマニュアルを作成するなど継承の準備は必須と言えます。  製造業のイメージとして、厳しい業界というイメージも昔はありました。しかし、昨今は働き方改革の影響もあり改善がされ、働きやすい環境も整備されてきているようです。こういった働きやすさの向上施策は引き続き努力すること、そして採用活動において会社側から魅力をしっかりと求職者に伝えることで人材採用に繋がる可能性があります。 以上

最低賃金2,000円?!人件費を下げるのでなく付加価値の向上が迫られる時代へ | 人事アナリシスレポート®

最低賃金2,000円?!人件費を下げるのでなく付加価値の向上が迫られる時代へ

 毎年改正される最低賃金ですが、今年2022年は全国平均で時給961円(前年比31円)とすることが決定し、現在と同じ最低賃金の仕組みとなってから、過去最大の増加幅となりました。東京都の最低賃金は1,072円に引き上げられました。  この決定は、特に、人件費の単価が最低賃金水準のパート・アルバイトを数多く抱える企業に、大打撃となるはずです。また、改正のたびに、初任給水準だけを引き上げる改定を繰り返してきた企業からは、「賃金カーブの角度が寝てしまう」ことについての相談が多くなっており、年齢と共に徐々に賃金を上げていく「賃金カーブ」の処遇思想自体が、既に限界を迎えていることが分かります。  今回は、国内の最低賃金引き上げの推移の他、最低賃金や労働生産性の各国比較を参照し、今後のあるべき事業展開・人材活用方針、処遇制度方針について考えます。  2022年の最低賃金は、2021年と比較して3.3%の上昇率と、過去最大の増加幅です。この決定に際して、国際情勢の変化による物価上昇などが考慮されました。2002年の663円と比較すると20年間で約1.4倍に引き上げられており、かなり大きく引き上げられてきた印象を持たれるかもしれません。   図表1:最低賃金引き上げの推移 出典:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」  一方で、諸先進国の最低賃金と比較すると、日本の最低賃金水準はまだ十分に高いとは言えません。G7のうち、最低賃金の仕組みが存在しないイタリア、州により水準が異なるカナダを除く5か国の中で日本は最低水準です。為替レートにもよりますが、2022年10月21日時点の為替レートを用いて、ドル換算で比較をすると、日本の最新の最低賃金は、イギリス・フランスの60%程度の水準です。消費財の多くを輸入製品に頼る日常生活を考えると、日本で給与を得ながら輸入された商品を消費し続ける生活をするには、1,500円~2,000円ほどの時給単価が必要かもしれません。   図表2:最低賃金各国比較 出典:データブック国際労働比較2022|労働政策研究・研修機構(JILPT)P127 を基に筆者加工 注:USD換算においては2022/10/21の為替レートを使用  さらに、1人当たりがどれだけの付加価値を稼いでいるかを示す指標である労働生産性の各国比較を参照します。日本は、単価自体が低いにも拘わらず、労働生産性も低く、他国と比較して労働生産性の伸びも鈍化しています。   図表3:労働生産性各国比較 出典:OECD Database (https://stats.oecd.org/index.aspx?DataSetCode=PDB_LV#) 2022年2月現在  単価の低い労働者が、薄利な利益を稼いでいる事業の構造が示唆されます。メーカーを例に上げると、同じ分野のモノを作る企業であっても、日本企業では、原料を輸入し、部品を製造・輸出するケース多く、一方、労働生産性が高い欧州諸国の企業では、日本を含むアジア諸国から部品を輸入し、より上流の部品や完成品を製造・輸出する割合が多いです。原料を部品にするよりも、部品を完成品にする方が利益率が良く、付加価値額が高いため、多少人件費水準が高くとも、労働生産性を高く維持できます。すべての産業や企業で一概に同じ傾向にあるとは言えませんが、少子高齢化により日本国内の内需が伸びない状況下では、グローバルに需要を見出し、ビジネスプロセスの中で、より優位な立ち位置に立つだけの競争力が必要なことが分かります。  ビジネスモデルや商品・サービス、商流の変革無しに、人件費削減・抑制に依存した労働生産性の向上には限界があります。極端に言えば、「最低賃金上昇による人件費コスト上昇分をどこで帳尻合わせようか」という議論から永遠に抜け出すことが出来ません。  より利幅の高いビジネス領域にポジショニングをシフトし、付加価値額を向上するビジネスモデルの追求、人件費単価を上げても1人あたりが稼ぐ価値が上がるビジネスの構造・人材活用の仕組み作りが迫られます。 以上  

内部留保と賃金<br />~株価が上がっても賃金は上がらない~ | 人事アナリシスレポート®

内部留保と賃金~株価が上がっても賃金は上がらない~

 企業が生み出した当期純利益が内部留保である。またその当期純利益が利益剰余金として自己資本に計上される。利益剰余金は、設備投資やM&A(合併・買収)などに活用され、企業価値を高めていくことを目指す。図表1では2011年度を基準とした10年間の利益剰余金(緑色折線)は毎年増加を続けていることがわかる。直近の2021年度にはその額が516兆円にも及ぶ。   図表1:10年間の内部留保、株価、人件費、人件費単価の推移 " ※1)内部留保:財務省法人企業統計調査より金融・保険業を除いた他業種の利益剰余金(利益準備金、その他利益準備金の総和、期末数値)を算出 ※2)日経平均株価:年度末の終値を利用 ※3)TOPIX:年度末の終値を利用 ※4)人件費:財務省法人企業統計調査より金融・保険業を除いた他業種の従業員給与・賞与の総和を算出 ※5)人件費単価:財務省法人企業統計調査より金融・保険業を除いた他業種の従業員給与・賞与の総和を従業員人数をもって算出"  企業価値を図るひとつの指標に株価がある。会社の業績が客観的に評価され、証券取引所で行われる売買価格、時価である。日経平均株価の対象となる銘柄数は225銘柄だが、TOPIXは東証一部上場のほぼ全ての銘柄で4,000銘柄以上である。日経平均株価は「株価平均型」であるのに対し、TOPIXは「時価総額加重型」である。よって日経平均株価は株価が高い銘柄の影響を受けやすいのに対し、TOPIXは時価総額が高い銘柄の影響を受けやすい。企業が投資の結果、企業価値の向上、つまり株価も上昇していることが望ましい状態である。図1の2011年度から10年間の日経平均株価(図1水色折線)とTOPIX(図1青色折線)は、ともに大きく上昇を続けている。2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災などにより経済は落ち込んだが、2012年より政策として実行されてきたアベノミクスの「民間投資を喚起する成長戦略」などといった時代背景があった。  このように企業の価値は株式市場で評価されてきた一方で、従業員の人件費(図1橙色折線)や人件費単価(図1赤色折線)は、ほぼ同水準で推移している。これは企業価値が高まり、内部留保が増えているにもかかわらず、従業員への還元が十分に行われていないということが如実に表れており、日本の重大で構造的な問題である。  この問題を解決していくために、今後人事として重要となる役割は、投資の効果的な実行を人事の側面で機能させていくことである。環境の変化が早く、グローバル化の推進など、難易度は高い課題を解決できる優秀な人材は取り合いとなっている。今後を見据えた事業領域に対してM&Aなど推進できる人材を獲得、確保していくことが欠かせない。また組織全体の生産性を高めていくために、テクノロジーの活用を前提とした設備投資も重要である。その投資を実現していくためにはDX人材などの育成、獲得も重要な役割である。  そしてこれだけ物価が上昇すると従業員の生活不安も更に高まる。内部留保を増やしているにも関わらず、従業員への還元ができていないことも踏まえると、企業は投資をしっかりと実行することに加え、2~3割平均賃金を引き上げ、優秀なグローバルな人材の獲得や従業員に対する生活不安を払拭させていくことが重要な役割になる。 以上  

社宅制度の現状<br />~物価差補填システムとしての意味合い~ | 関連制度設計

社宅制度の現状~物価差補填システムとしての意味合い~

 「社宅制度」とは、会社が社員の住居を提供する制度です。また、社宅には大きく分けて2種類あります。1つは「借り上げ社宅」で、会社がマンションやアパートなどの賃貸物件を会社名義で借り上げている社宅です。2つ目は「社有社宅」で、会社がマンションやアパートを1棟単位などで購入し、会社の資産として保有している社宅です。  社宅制度の主なメリットとして、例えば転勤する社員にとっては物件探しの手間が削減されて比較的な安価な家賃で入居できるので、スムーズな転勤がしやすくなることです。そして会社としては、例えば社員に対して住居の保証があるので転勤やそれに伴う異動を実施しやすくなります。  ところが社宅制度は減少傾向にあります。 図表1:社宅・寮の保有状況の推移 出典:労政時報 第3911号 参考1「人事労務諸制度実施状況調査」に見る社宅・寮の保有状況推移      注1)本調査は2013年の調査 注2)調査対象:全国証券市場の上場企業(新興市場の上場企業も含む)3432社と上場企業に匹敵する非上場企業(資本金5億円以上かつ従業員500人以上)304社の合計3736社。 注3)調査時期2013年1月7日~3月11日  社有社宅の保有企業数の減少が特に顕著です。社有社宅を保有する企業は90年代は6割を超えていましたが、2000年を境に減少し続け2013年時点では半減しています。社有社宅を保有することで、不動産資産なので固定資産税などの税負担が発生すること、そして老朽化対策のための修繕費や建て替え費といった維持管理費用がかかることなどが減少を加速させている要因です。  一方で借り上げ社宅は、社有社宅ほどの大幅な減少傾向を示していません。借り上げ社宅は、会社にとっては固定資産税や修繕費の要素が無いため、比較的社有社宅より維持管理費用が安価です。借り上げ社宅制度はむしろ近年若干増えています。  社宅制度は転勤や異動に伴う社員の居住地の物価差を補填し、実質賃金の平等性を担保することができるメリットがあります。  物価を考慮した賃金を実質賃金と言います。例えば、物価が低い地域から高い地域へ転勤した際、転勤後も同じ給与である場合は実質的に給与減額になってしまい、社員間の「実質賃金」の平等性が担保されていません。これは「住居」においても同様のことが言えます。  図表2は、2021年度の「消費者物価地域差指数」における、「住居」に関する地域別の物価水準です。消費者物価地域差指数とは、「全国平均を基準(=100)とした場合に、各地域の物価水準を表した指数」です。物価水準が高い東京都と低い香川県を比較すると、「住居」費目に極めて大きな差があります。 図表2:2021年消費者物価差指数の「住居」費目 出典:総務省「消費者物価地域差指数」-小売物価統計調査(構造編)2021年(令和3年)結果-    10大費目別消費者物価地域差指数(都道府県) 注)「住居」費目を抜粋している。(住居の指数値が最も高い東京都と、最も低い香川県を抜粋)  東京をはじめとする都市部への一極集中が再び加速しています。総務省「住民基本台帳人口移動報告」によると、東京都の転入超過数は2022年が始まってから増加傾向にあり、現状、新型コロナウイルス禍前の水準に戻りつつあります。特に東京23区の都心の物件は常に需要が高く、今後も家賃などが上昇していく可能性が高いです。そういった都心部への転勤を伴う異動が発生する場合は、物価差を補填するために社宅制度を整えることが社員にとっては望ましいです。  社宅制度の導入・継続・廃止を検討する際、「社員の実質賃金の平等性が担保されているのか」という観点を持ち合わせることが大事です。また、都市部への一極集中が加速しつつある現状を踏まえると、都市部と地方の物価差がより広がりますので制度の定期的に見直すことを忘れてはなりません。 以上