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column

企業寿命<キャリア寿命

 キャリア採用が広がり、終身雇用が崩壊しつつある、などと言われる。

 「しつつある」どころか、大卒から定年まで雇用し続ける終身雇用など幻想になるかもしれない。企業寿命が短期化する一方、ヒトのキャリア寿命が長期化しており、理論計算上は社員が会社より長生きし、転職を余儀なくされるからだ。

 人生100年時代が提唱されて久しい。日本人の平均寿命は男女ともに80歳を超えており[1]、健康寿命も70歳を優に超えている[2]。定年延長や再雇用により、多くのサラリーマンは65歳まで働く時代だ。

 人間の寿命が延び、キャリア寿命も延びている。多くの人が大学卒業後22歳から65歳まで43年間も働くことになる。これからさらに伸びるだろう。終身雇用を大前提に、多くの企業が雇用延長や定年再雇用制度を導入し、より長く雇用を継続するための議論・施策展開を始めている。

 1つ、大きな、しかしながらあまり見えていない論点がある。より長く雇用しよう、あるいは長い時間をかけてじっくり社員を育てようという方針を立てるとき、無意識のうちに企業が未来永劫同じ環境で生き続けることを大前提としていないか。

 あるいは、労働者の側も、10年後も変わらず会社があって、役割が与えられて、その頃には今10歳年上の上司や先輩が担っているような役割を担うのだろうな、と漠然と思っているのではないか。

 東京商工リサーチの統計によると、2021年の国内157万社の平均年齢(業歴)は34.1年[3]であり、7割の企業が10年超50年以下、100年を超える企業は1000社に1社だという。

 「創業期」「成長期」「成熟期」「衰退期」からなるビジネスライフサイクルはグローバル化やイノベーション経済により益々短期化し、20年程度だ。創業期にはあまり多くの雇用機会は生じず、成長期・成熟期で従業員を増やすことがほとんどだ。多くの企業は、このフェーズで終身雇用を前提とした新卒一括採用、つまり、40年超の償却期間を有する超大型投資を毎年する。しかしながらよくよく考えると、成長期・成熟期をすでに迎えているということは、せいぜい残り10年~15年くらいで衰退期を迎えるかもしれないということだ。

 正確な算出根拠は不明だが、半世紀前から、企業の平均年齢は50年超から徐々に短くなってきたとの見方もあり、企業寿命がキャリア寿命より長い時代であった方々、つまりは現在の中高年の方々が若手だったころには、成長している企業に入って会社と共に生き抜く終身雇用が大前提であった こともうなずける。

 成長し続けられたり、安定し続けられればそれに越したことは無いが、すでに成熟期に入った企業が40年も先を見越した育成を始める、長く働けば20年後には管理職になれますよ、というキャリア魅力を説くのは、現実に合っているだろうか。

 企業は、動物であるヒトとは異なり、M&Aなど形を変えて命を繋ぐ選択肢は多いが、いずれにせよ同じ環境や条件で生き続けられる期間は非常に短いと言える。そして、その短い期間の中でも刻々とフェーズは変わり続ける。

 大きな母集団を形成して20年後に管理職にするような終身雇用・新卒一括採用時代に無理が生じ、必要な人材を必要な時期に活用する時代になったともいえるだろう。労働者の視点では、長いキャリア人生の中で、自分を活かす複数の企業を見つけ続けなければならないともいえる。

あまり近視眼的になりすぎるのも良くないが、同じ経営状況が続くと信じて漫然とキャリアパスや育成計画を考えるのではなく、3~5年の中期的な先を見据えて、人材ポートフォリオを変え続けていく必要がある。

[1]令和5年簡易生命表の概況,厚生労働省 
 2024年7月26日厚労省が発表した統計によると、日本の平均寿命は、女性が87.14歳、男性が81.09歳であった。

[2]健康寿命の令和元年値について, 厚生労働省

[3]2021年「企業の平均年齢」調査,東京商工リサーチ

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