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column

どんなパッケージがあるのですか?

 採用担当をやっている友人が話してくれたエピソード。外資系の開発会社で経験あるシステムエンジニアが採用面接に訪れた時のことだそうだ。志望動機やプログラミングスキルなど、ひととおりの質問の後、そちらから何か質問は、と尋ねてみると、「御社にはどのようなパッケージがあるのですか。」という問いが返ってきた。
 パッケージとは一体何のことか、と確認すると、当たり前のことだが、という前置き付で、退職を余儀なくされた際に受け取る、割増退職金、在籍猶予期間、再就職支援など一連のサービスセットのことをいうのだ、との返答だった。この人は、入社する前から退職のことを考えていた。いや、パッケージなるものが整っている会社でないと、怖くて働けない、と言うのだ。

 若手社員の離職は、多くの会社に一様な問題になってきた。辞める理由にいろいろあるが、その多くは「うちの会社では将来のキャリア展望が持てない」ということだ。そう考えて、より良いキャリア展望が持てるように人事制度を改変したり、社員に改めて人事制度の内容を周知徹底したりするような企業が増えている。雇い主のほうは、キャリアの道筋が見えるようにさまざまな努力をし、社員の定着を図る。だが、雇われる側は、もはや社内でのキャリア展望を求めていないと見える時がある。かっこよく言えば、社内でのキャリアゴールなど眼中になく、労働市場全体を俯瞰した、転職前提のキャリアプランを考えているのかも知れない。

 我が国より先を行っていると言われる米国と中国のIT業界、その労働市場について、それぞれの国のビジネスマンを捕まえて聞いてみた。おおざっぱなところでは、両国の慣習はよく似ていた。
 システムエンジニアとしての収入のピークは30~35歳、それを過ぎると、技術知識と経験だけでは収入を伸ばすことができない。同じ会社でその先に進むとすれば、プロジェクトマネージャーの仕事に就き、さらにその先、管理職に進んでいくことが求められる。しかしながら、マネージャーポストには限りがある。そこで、エンジニア諸氏は、30歳を過ぎると、自分で会社を立てて人を雇い、大きな会社の下請けに入って中小企業経営者としての道を歩む。さもなければ、別の業界のシステム部員として再就職する。リスクを抱えるか収入の伸びをあきらめるかといった選択だ。
周りにたくさんのロールモデルがあるのだろう、彼らは、若い頃から労働市場全体の動きに注意を払いながら、現実的なキャリアプランを練っているのだ。

 雇用に関するこうした動きは、早晩、我が国にも忍び込んでくるに違いない。たとえば、我が国の高等教育(大学の教育)では、2030年に必要なIT専門人材の4分の3足らずしか満たすことができないだろうという予測がある。不足分は当然、外国の労働力に頼らざるを得ないのだから、我が国の雇用慣習への影響も避けられない、ということだ。そして、このことは、ただIT業界に留まることではないだろう。

 我が国の経営者の多くは、「人を大切にする」という表現で、雇用の安定・確保にこだわってきた。会社の中に、さまざまなキャリアの選択肢を準備して、心配しなくてもよい、長く働いてください、というメッセージを送ることができるよう、さまざまな努力をしてきた。ところが、社員のほうがそんなことは求めていませんよ、という社会になりつつある。言われなくてもずいぶん前からわかっていますよ、というコメントが聞こえてくるようだが、私たちが思うより、ずっと早いスピードで、強いマグニチュードで、雇用の地殻変動は進んでいるのではないかという気がする。これからの人事管理を、断層のこちら側で設計するか、あちら側で設計するか、腹の決め時が来ている。

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