「ヘルメットの中の人的資本」 ~アメリカンフットボール式、社員を“戦力化”する人事運用の極意~
私の好きなスポーツの1つにアメリカンフットボールがある。
あの重厚な装備、緻密な戦略のぶつかり合い、そして一瞬の判断が勝敗を分けるスポーツに、私は人的資本経営の本質を感じてしまう。
※本コラムとは全く関係ないが、2028年ロサンゼルス五輪ではボディコンタクトのないアメリカンフットボール=フラッグフットボールが正式種目になっていることを宣伝させていただきます。
日本企業も「人的資本経営」という言葉に本気で向き合い始めているが、情報開示が目的となっていないだろうか。
本質はそんな薄っぺらい”バズワード”ではない。これは、人事戦略の“表紙”を差し替えるような、流行り物ではなく、
人事制度の「運用」そのものをアップグレードするという、もっと泥臭い話なのだ。そしてその泥臭さが、実はアメリカンフットボールにそっくりなのだ。
アメリカンフットボールの特徴は、選手が極端に専門化されている点だ。
例えば「クォーターバック(QB)」は司令塔の役割で、戦況を読み、瞬時に判断してボールを投げる(走る)頭脳型ポジション。
一方、「オフェンシブライン(OL)」は、体格の大きさとパワーで敵を押しのけ、仲間を守る縁の下の力持ち。
そして「ワイドレシーバー(WR)」は俊敏なスピードで敵陣を駆け抜け、パスをキャッチする花形。どの選手も能力も役割も全く違う。
「全員に同じ練習をさせる」などという発想は、勝負の世界ではナンセンスなのだ。
人的資本経営も、まさにこの「選手一人ひとりにフィットした人事制度の運用」が肝心だ。
企業が制度を作るとき、多くは「全社員共通」の基準で評価や育成を設計する。
しかし、実際の現場では「型にハマらない社員」こそがスーパープレーを見せるスタープレイヤーになり得る。
社員の性格も能力も異なるのに、画一的な評価制度、共通の研修、同じキャリアパスでは、スタープレイヤーは生まれにくい。
人的資本経営とは、この“ポジション別マネジメント”の視点を人事制度に持ち込むことに他ならない。
例を挙げれば、クリエイティブな思考を求められるマーケティング職と、緻密な計画性が求められる経理職では、当然伸ばすべきスキルもキャリアの描き方も異なる。
にもかかわらず、同じ評価項目で比べ、同じ階段を上らせようとする。
これは、QBに「パワーで敵を押しのけろ」と言い、OLに「俊敏なスピードで敵陣を駆け抜けろ」と言っているようなものだ。
それでは勝てるはずがない。
そして、アメリカンフットボールのもう一つの特徴。それは「プレイブック」という戦術マニュアルだ。
状況に応じた複数の選択肢を用意し、選手が自分の役割を瞬時に判断できるようにする。
人的資本経営でも、「社員が自分の成長を描けるプレイブック」が必要だ。
単なる人事制度ではなく、社員が「自分はどこを目指すべきか」「今、何を強化すべきか」を把握できる仕掛け――たとえば、スキルの見える化や、個別のキャリアマップの設計がそれにあたる。
最後に忘れてはならないのが、「ヘッドコーチ」の存在だ。
試合中、選手たちに指示を出し、状況を分析し、最適なプレーを選ぶ。社員を本気で成長させるには、マネージャー自身がコーチとしてのスキルを持っていなければならない。
つまり、社員の成長に本気でコミットするということ。
人的資本経営は、人事部だけの仕事ではない。現場マネージャーも育成のプロであり、育成観と目利き力、これこそが、最も重要な“隠れた資本”なのだ。
このコラムの読者の会社が今、負けが込んでいるとしたら、それは戦略のせいではなく、選手の特性を見抜かずに、全員に同じプレーをさせているからかもしれない。
アメリカンフットボールに勝利の方程式はない。
だが強いチームには共通点がある。
それは、一人ひとりの特性を見極め、最適な育成と戦術で活かす”人事制度の設計”と”運用”が徹底されていることだ。
さて、あなたの会社にとっての「QB」は誰か?
「OL」は?「WR」は?
その選手たちに、適したプレイブックは用意されているだろうか?
あなたのチームは、勝つ準備ができているだろうか?
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