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コラム

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従業員満足度の真実 | 調査・診断

従業員満足度の真実

 人的資本開示における代表的な項目である従業員満足度は、企業価値向上のための重要な指標の一つとされています。経営者も人事部も、企業価値向上のための一つの重要な指標としてとらえ、従業員満足度向上を目指していることでしょう。  従業員満足度が高いことが企業経営にもたらすメリットは多岐にわたります。仕事に対してのモチベーションが高ければ、効率的に働く傾向があり、生産性の向上が見込めます。顧客満足度の高さにも影響を与え、リピート率を上げることに繋がれば業績も上がります。また、満足度の高い従業員が多くいることで職場の雰囲気もよく、チームワークが強化される可能性も高いです。その先には、心理的安全性が確保された職場において安心して意見を言える環境が整い、新しいアイデアを出し合い創造性やイノベーションの促進にも繋がる可能性も高くなります。そのほかにも、離職率の低下やウェルビーイングの実現にもつながり、企業にとってはいいことずくめです。    それゆえに、従業員満足度が高い=望ましい人事施策が講じられている会社である、ととらえるのが一般的でしょう。  しかし、現実はそんなに単純なものではありません。経営計画を達成するための人事制度改革が、逆に従業員満足度を下げることもあります。  例えば、超高齢化している会社が若手の確保や成長を重視した施策を講じるとともに、高齢層の処遇を適正化することで従業員満足度が低下することがあります。早期定年制を導入し、高齢層の退職を促すと、特に高齢層からの不満が増加します。選挙と同じで票をもっているのは高年齢層が多いので、従業員満足度は大きく下がり得るでしょう。 また、実力主義を導入することで、ハイパフォーマーは満足度が上がりますが、アベレージパフォーマーやローパフォーマーは不満を抱く可能性があります。実力主義に大きく舵をきればきるほど、会社として投資対象にしたい人とそうではない人に歴然とした差が生まれるので、そこから漏れる人は不満をもちます。2:6:2の理論でいえば、半分以上の人が不満に転じる可能性があります。    従業員満足度は、冒頭に記載したとおり、重要な指標であることは確かです。従業員満足度が常に高い状態が続いている場合、企業が必要な改革を怠っている可能性もありえます。重要なのは、満足度の高低ではなく、経営計画を達成するための人事施策をしっかりと講じて、組織に浸透させていくことです。実力主義を導入して、ローパフォーマーが厳しさを感じていなければ、運用がうまくいっていないのではないかと疑わなくてはなりません。人事施策を講じたら、どの層にどのような影響が出て然るべきかの予測を立て、継続的に調査を行い、適宜調整を加えていくことが不可欠です。    企業が真に持続的成長を遂げるためには、従業員満足度を適切に管理しながら(単に高いことだけを目指すのではなく)、柔軟かつ迅速に改革を進める姿勢が求められます。これこそが、変動する市場環境においても競争力を維持し続けるためのキーポイントです。

今求められる「リーダーシップスタイル」 | その他

今求められる「リーダーシップスタイル」

 ピラミッド構造組織の中でもがいている指揮命令型のリーダーは、仕事を任せられる部下がいない、部下が育たない、時間がないと言う。結果、リーダーは猛烈に働かなければいけないものだと思い込んでいる。リーダーシップスタイルとは、ひとりの相手とどの様な形で協力するかということで、部下のパフォーマンスに影響を与えようとするとき、どの様に指導・行動するか、それが相手からどう見えるかが重要になる。多様性が求められる今後、指揮命令型、協調型でもなく、相手によって対応を変えることができるリーダーが求められている。  スポーツ界には、ビジネスにおいて参考になるリーダーがたくさん存在する。  青山学院大学陸上競技部・男子長距離ブロック・原晋監督。箱根駅伝の出走経験はなく、大学OBではなかったが、ある人の推薦で、2004年に中国電力(自称、伝説の営業マンとの事)を退職の後、監督に就任。当初の条件は3年契約の嘱託職員であった。「箱根駅伝に3年で出場、5年でシード権、10年で優勝争い」と宣言したため、就任3年目の2006年の第82回箱根駅伝予選会での16位惨敗に、大学幹部から「話が違う」と責められ、監督解任、長距離部門廃部寸前になった時期もあったそうだ。    原監督の組織の作りでは、人を育て、組織を鍛え、成功を呼び込む勝利への哲学を大切にされている。人を育てる領域で参考になるポイントをいくつか挙げてみる。   ・減点方式ではなく加点方式で前向きに評価する。   ・失敗から学ばせるのではなく、小さな成功体験で成長させる。   ・自分の思いを監督に自由に言える雰囲気を作る。   ・チームのビジョンではなくその子のビジョンも伝える。   ・最後は感性や表情豊かな選手が伸びる。 その他、参考になる「魂の語録」は枚挙に暇がない。    監督就任当初の陸上部の組織レベルは低く、監督命令型での組織作りから始まり、次は主将に指示を出す、大筋の方針だけを提示する、そして現在は、選手を観察してヒントだけを与える最終系のサポート型となり、組織としては成熟期に入っている。初期の監督命令型からサポート型に至るまで、紆余曲折ある道のりだったと思うが、多くの部員を抱える中で選手の能力や性格などを考慮し、相手によって対応(マネジメント)を変えている事がうかがえた。それは今求められる「状況対応型リーダー」と一致する。相手によってマネジメントスタイルを変えることは大変なことではあるが、その姿勢は必ず相手に伝わり、強い信頼関係が生まれることを疑わない。3年目の監督解任が検討された時、監督継続を懇願したのは部員たちだった。    指揮命令型、協調型のリーダーシップを活かして成果に結びつけてきた人が大半でしょう。誰にも自分の型がある。ただし、時代の変化とともに変えるべきところが出てくることは当然のことだ。何事においても、これまでの継続では何も変わらないと、皆が知っているものの行動ができていない。自分のリーダーシップスタイルは、部下からどう見えているかを確認することをお薦めする。私自身も、状況対応型リーダーシップスタイルが出来ているか自問自答し、最適な組織構築に繋げるよう取り組んでいるところである。    その他、スポーツ界で注目しているチームがある。  JリーグFC町田ゼルビア。2018年に株式会社サイバーエージェントが経営権を取得(2022年に藤田晋氏が社長兼CEOに就任)。2022年の成績は、J2で15位。2023年に青森山田高校サッカー部総監督の黒田剛氏が監督に就任。選手補強があったもののJ2優勝。そして、J1に昇格した2024年現在、驚くことにJ1首位キープ。町田ゼルビアの戦略に興味を抱いてしまう。関連書籍が出版されたら迷わず購入したい。 以上

出社の是非が企業文化を語る | その他

出社の是非が企業文化を語る

 新型コロナウイルスのパンデミックは、私たちの働き方を劇的に変えました。オフィスに出社するかどうかの議論が、企業文化を浮き彫りにしています。このテーマについて考えるとき、オフィス出社を推進する人々は「会社こそが第二の家」と考え、一方でリモートワークを推進する人々は「私の家こそがオフィス」と考えているのかもしれません。    企業の視点から見れば、オフィス出社には確かに利点があります。対面でのコミュニケーションは、円滑な意思疎通やチームワークの向上に寄与します。ランチタイムやコーヒーブレイク中のカジュアルな会話から生まれるアイディアや、直接顔を合わせて行うミーティングの臨場感は、リモートワークでは再現しづらいものです。しかし、「見えないと管理できない」といった意見も聞かれますが、これは果たして本当にそうでしょうか?  一方、社員の視点に立つと、リモートワークには明らかな利点があります。まず、通勤時間が削減されることで、プライベートの時間が増えます。育児や介護などの個人的な責任を果たす時間も確保しやすくなります。通勤にかかる時間とエネルギーを節約できることは、生産性の向上にもつながります。つまり、リモートワークは「家族第一」を実現するための強力なツールとなるのです。  現在の人手不足の状況下で、企業が優れた人材を確保するためには、柔軟な働き方の導入が求められます。出社の是非を巡る議論は、このマッチングをどう進めるかに関わる重要なテーマです。ここで重要なのは、どちらが正しいかを一概に決めるのではなく、業務環境や顧客満足度などを総合的かつ客観的に評価し、合理的な解決策を見出すことです。  最終的な方針は、誰が決めるべきかという問題も重要です。トップマネジメントがこの前提を理解し、意思決定することが求められます。しかし、その際に忘れてはならないのは、世代によるITリテラシーの差や働く価値観の違いをしっかりと自覚することです。年齢が高いほどデジタルリテラシーが低い傾向があり、メールやチャットが苦手な社員もいます。一方で、働き盛りの世代は家庭や個人的な時間を重視し、もっと柔軟な働き方を求めています。  もし、会社の会議室に自動ドアが設置され、出社するたびに「ようこそ、未来のオフィスへ!」と歓迎されたらどうでしょうか?また、リモートワーク中に仮想現実のオフィス空間が提供され、バーチャルで同僚とコーヒーブレイクを楽しむことができたら?こうした未来の働き方も夢ではありません。  最終的には、企業と社員の双方が納得できる解決策を見つけることが大切です。オフィス出社とリモートワークのバランスをうまく取りながら、新しい働き方の文化を築いていくことが求められます。結局のところ、「家がオフィス」か「オフィスが家」かの議論は、私たちがどのように働き、生活するかを再定義する機会でもあるのです。さあ、あなたの会社はどちらを選びますか?

その賃上げ、意味ありますか | 人事制度

その賃上げ、意味ありますか

 経団連が発表した大手企業の2024年春闘の回答・妥結状況によると、月例賃金の引上げ率は5.58%(19,480円)と、2023年の3.88%(13,122円)を大きく上回っており、高い水準となっている。  賃金の引き上げは、従業員のモチベーション向上や離職率の低下につながる一方で、企業にとってはコスト増、特に固定費が増加するため、慎重に検討する必要がある。  そこで、月例賃金の引上げを行った2社の例から、その効果について考えたい。A社は、階層ごとに一定の賃上げを行った。一方、B社は、基本給が低い層の賃上げ幅を大きくし、基本給が高くなるにつれ、賃上げ率を低くする改定を行った。    賃金引き上げの意義や効果を考えてみると、以下の3点が考えられる。 従業員のモチベーション向上  報酬に対する満足感が高まり、仕事への取り組み方や成果に対する積極的で高いモチベーションを持つことができる。そのため、従業員の仕事への熱意やパフォーマンスが向上し、結果的に企業の業績向上につながると期待できる。 優秀な人材の確保と定着  賃金が競争力のある水準で維持されることで、優秀な人材を企業に引き留めることが可能となり、従業員の定着率を高め、長期的な競争力を獲得することが期待できる。 従業員の経済的な安定  賃金水準が向上することで、従業員は安定した生活を送ることができ、経済的な安定感が得られるため、ストレスやプレッシャーが軽減され、仕事への専念度も高まることが期待できる。    さて、A社とB社の事例では、この3つの効果が期待できるだろうか。  A社は階層に関わらず全社員の基本給を一律で引上げ、B社は若手層をターゲットとした基本給の引上げを行った。いずれの場合も非管理職層を重点に賃金の引き上げを行っているが、大きく異なる点は、B社は等級や号俸による引き上げ額に傾斜をつけることによって、会社全体の賃金幅を縮小したことである。  これらの違いは、両社の賃金改定に至る経緯の違いに起因していると思われる。A社は、社員の年収を大幅にアップすることを具現化した制度改定であることに対し、B社は、厳しい採用環境への対応と若手の離職防止に主眼を置いた改定を行っている。  そのため、A社の場合だと、全社員に対して万遍なく、賃上げの効果が期待できる。B社の場合では、若年層には大きな効果が期待できる一方で、中堅~管理職層では、現状よりは、賃金が増えているにも関わらず、制度改定に対する不公平感を感じてしまい、将来の昇給期待が持ちにくくなってしまう恐れがある。  賃上げは、決してメリットばかりではない。人件費は増加しているのにデモチベーションになる恐れや、公平性を重視するあまり、従業員が賃金上昇を実感できず、ほとんど効果がなかったということに陥ってはいないだろうか。  どのような効果を期待して、限られた賃金引上げ原資を配分するか、人事・経営に携わる者の腕の見せどころではないだろうか。    

その転勤、必要ですか? | 人事制度

その転勤、必要ですか?

 転居を伴う転勤に抵抗感をもつ人が増えている。  エン・ジャパン株式会社の「転勤」に関する意識調査(2024)※によると、69%が「転勤は退職のキッカケになる」と回答しており、転勤を拒否する理由は「配偶者の転居が難しいから」が一番に挙がっている。その次に、「持ち家があるから」「子育てがしづらいから」が続いている模様だ。  今も昔も、転勤の基本的な考え方は、会社が主導して社員の配置転換を行うものだ。転勤を拒否すれば解雇事由となるのは、多数の企業の就業規則に明記されているところだろう。このように会社が強力な人事権を持つ背景には、日本型雇用の特徴である「終身雇用」「年功序列」とそれに伴う給与の引上げがセットになっていたためであり、労使双方でメリットがあったから成立していたとも言える。  しかし、転職が珍しくもなくなり、共働き世帯が大多数となった現在となっては、転勤の目的の重みと、その負担に即した処遇の大きさを再整理し、再び労使双方が合意できるポイントを探るのが急務となっている。 転勤の目的とは何か  そもそも、なぜ転勤が必要なのか、目的を整理したい。第一に挙がるのは欠員補充だ。定期的な転勤であれ随時の転勤であれ、ポストの欠員が出た場合に社外ではなく社内から素早く人材を補充できるのは、経営管理の視点で極めて効率的である。一方、社員視点ではどうだろうか。いつ自分に転勤の声がかかるか分からない不安定な働き方の中では、当然に将来の生活設計の見通しを立てづらくなる。欠員補充とだけ言われては本人のモチベーションもそうは上がらないだろう。このような目的の重みと本人負担を考えると、それ相応の処遇が求められてくる。具体的には、総合職手当といった「転勤を前提とした働き方の不安定さ」に報いる報酬であるが、少なくとも転勤がない社員と比べて5%~15%程度の給与水準の差がないと転勤待ちする側の納得感は得にくいだろう。  次によくある目的として挙がるのが人材育成だ。将来の経営人材候補や管理職を育てるために様々な事業所で経験を積ませるという企業は多い。人材の入れ替えが事業の成長要因になる企業もあるだろう。経営管理の視点で言えば、後継者育成や重要ポストの維持など、企業の継続性を保つ重要な目的である。社員視点で言ってもキャリアアップとそれに伴う処遇アップに繋がるので、転居に伴う生活上の負担は小さくはないものの、処遇が伴えば転勤に関する抵抗感も少なくなる(上述の調査結果でも、転勤を「条件付きで承諾する」と回答したうち、72%が「家賃補助や手当が出る」45%が「昇進・昇給がともなう」と回答している)。このような目的と本人負担を考えると、転勤先で帯びる職務職責に応じた報酬に加え、会社から本人への期待感の表れとして転勤一時金を支給することも一案だ。現に、最近のニュースでは大手銀行などで引っ越しの支度金などの転勤一時金を拡充する動きもある。その他の事例としては、転勤後の一定期間で「転勤手当」を固定的に月額で支給するものもあるが、赴任後のいつまでを転勤とみなすのかなど考え方の整理が難しく、各企業の個別事情によって運用は異なる。 転勤する人の社内的価値に“差”をつけられるか  さて、ここで大きな課題が残る。その会社における転勤の目的の重みと、社員本人の負担を整理した次に考えなければならないのは、転勤する人の社内的価値に対して、どのくらいのキャリアや報酬を用意するか、だ。転勤しない人の処遇が転勤する人に比べて見劣りすると、「不公平感が出る」「優秀な人材が取れなくなる」などの意見がよくある。そこで、両者のキャリアや給与の差を小さくしてしまうと、差がないなら当然「転勤しない方がラク」なのだから、転勤する人の抵抗感が大きくなる。転勤することがどれだけその企業にとって重要で価値があることなのか、差をつけることで社員にメッセージすることが重要なのだ。 企業起点で考える  転勤の社内的価値は、その企業における経営方針や事業の成長要因、人事管理の方針など、様々な経営上の文脈に依存する。例えば、毎年大量の新卒採用を行っている企業で、随時出てくる期中の欠員補充をわずかにするのみであれば、社外からの補充で事足りるため転勤を無くすという考え方もあるだろう。また、未来の経営人材を社内で育てねばならない企業で、限られた優秀人材に相応のキャリアと報酬を与える必要性が高いならば、等級・キャリアパス設計の中に転勤制度もしっかり組み込んで、戦略的に人材タイプを区別していくのがしっくりくる。最も良くないのは、転勤の位置づけが曖昧で処遇の納得感が少ないために、経営計画や事業運営にとって必要な配置転換がやりづらくなってしまうことだ。  転勤に抵抗感のある人が多い社会情勢である。人手不足で採用競争も熾烈だ。しかし、労働市場の情勢に翻弄されて誰の得にもならないような転勤制度にはして欲しくない。会社として転勤をどう捉えるか、企業起点で考えることから始めたい。 ※出所:「転勤」に関する意識調査(2024)―『エンゲージ』ユーザーアンケート―69%が「転勤は退職のキッカケになる」と回答。 年代が低いほど、転勤への抵抗感が大きくなる傾向に。 | エン・ジャパン(en Japan) (en-japan.com)

辛抱なき若者が未来を照らす | 人事制度

辛抱なき若者が未来を照らす

 配属ガチャという言葉があるそうだ。大学を卒業して首尾よく就職することができても、初任配属は会社の都合、思うようにはいかないものだ、という意味らしい。そして驚くべきことに、初任配属の地域や仕事が思うままにいかなかったとき、4人にひとりが退職を考えるというのだ(※)。せっかく入った会社なのに、あまりに辛抱が欠けてはいまいか。  昭和の時代にサラリーマンとしてのスタートを切った人間にとっては、空いた口が塞がらないタイプの事実だ。ご同輩の読者はどう思われるだろうか。しかしながら、この事実には、「いまどきの若者は・・」で済まされない大きな変化を感じる。    さて、ジョブ型という言葉が流行りだしてから少し時間が経った。積極的にこれを取り入れようとする会社もあれば、話はわかるが当社には合いそうもないから放っておけ、という会社もある。いずれにしても、ジョブ型という言葉の定義にはかなりの幅があるように思える。  ジョブ型の反対の概念をメンバーシップ型と呼ぶことが多い。筆者なりに両者の違いを描写すると次のようになる。まず、メンバーシップ型だ。雇い主は新入社員に、「定年を迎えるまで何があっても君をクビにしないよ、その代わり、会社が命じるままどこへでも行って、何でもやってください。」と言う。新入社員は「はい、どんな場所にも行って、どんな仕事でもやります。その代わり絶対にクビにしないで。」と答える。家族的だが、ちゃんと取引が成り立っている。  ジョブ型はこれと違う。雇い主は新入社員に、「この仕事をこの場所でやってください。他の場所にはいかなくてよい。他の仕事もしなくてよい。その代わり、この仕事が無くなったら君はクビ。成果が出せなかったときも君はクビ。」という。新入社員も、「この場所で、この仕事だけやって成果を上げます。他のことをやらせようとするなら、会社を辞めます。」と言う。とてもビジネスライクに取引が成り立っている。わが国で解雇が難しいことはもちろん承知の上だが・・。  こうした定義が成り立つならば、ジョブ型というのは雇用契約の話をしているのだ。「ジョブディスクリプションを作ってやるべき仕事をはっきりさせましょう」というような、社内の制度やルールの話ではない。先ほどの配属ガチャ問題、会社のほうは「絶対クビにしないよ・・」と例のごとく言うが、新入社員のほうは「・・でも、他の場所で他の仕事をやらせたりしないでね。」と言っているように見える。同床異夢。取引が成り立っていない。    グローバル競争の時代、多くの経営者が、当社の社員には専門性が欠けていると嘆く。一人ひとりの社員がもっともっと高い専門性を持って仕事に臨まないと競争に勝てない、と。専門性を研ぎ澄まそうとするなら、なんでも屋のメンバーシップ型ゼネラリストではなく、ジョブ型の精鋭専門職を採り育てるべきだろう。わが国も、段階的であるにせよジョブ型雇用の道を進んでいかざるを得ないのかも知れない。だとすると、配属ガチャで辞めてしまう新入社員の決断こそ、わが国の雇用が進むべき道を指し示している、ということにならないか。  不本意配属で、若者は会社を辞めるのだ。多くの会社が喉から手が出るほどに欲する理工系、特に情報系の若者も、配属ガチャを理由に辞めてしまうのだ。ならば、先に職種とエリアを約束し、それを長期間守っていかざるを得ないだろう。あとは、いかにして「その代わり・・」のところを描くかだ。取引を成り立たせるためにどうしたらいいのか。    がんばれ、新入社員。きみたちは自分のやりたい仕事を鮮明に思い描き、高度専門家の志を貫徹すべきだ。そして、それを実現するために必要なら、異動の無い働き方を求めてよい。どうしても叶わないなら、そんな就職は蹴飛ばしてしまえ。社会は甘くないから、「その代わり・・」が待っているかも知れない。でも勇気を持って前に進もう。君たちの決断は、わが国の未来を照らしているかも知れないのだから。   ※出所:「入社後の配属先に関する意向(不安・期待度)調査」キャリアチケットProduced by Leverages(2024年4月2日)

役職定年制度(やくてい)とは?定年退職との違いや”制度の現状”を解説 | 雇用施策・その他

役職定年制度(やくてい)とは?定年退職との違いや”制度の現状”を解説

役職定年制度とは? 役職定年制度(やくてい)とは、管理職などの役職に就いている社員が一定の年齢に達したときに、その役職から外れる人事制度のことを指します。つまり、役職定年は「管理職の定年」と言い換えることもできます。 役職定年が広まった背景は「退職年齢の高齢化」 近年、役職定年制度のニーズが増えている背景には、”定年退職年齢の引き上げ”があります。定年退職年齢が上がることで、管理職の年齢も徐々に上がり、人件費の高騰やパフォーマンスの低下が懸念されるようになりました。そこで企業は、管理職の定年である役職定年を設けるようになったのです。 たとえば、55歳で部長職の役職定年を迎え、その後60歳の定年退職までは「これまでの役職から外れて勤務する」という運用が一般的です。役職定年後の配置は人によって異なり、同じ職場に残って職務が変わるケースや、所属異動になるケースなどがあります。役職定年後の職務は、専任職、専門職、一般職などさまざまです。 役職定年制度は、組織の新陳代謝や人件費の管理、後進の育成などの「経営上の課題を解決する目的」として導入される反面、役職定年を迎えた社員の「モチベーション維持」や「キャリア形成への配慮」も重要な課題です。 「定年退職」と「役職定年」の違いは? ここからは「定年退職」と「役職定年」の違いについて詳しく解説していきます。 定年退職は「会社から退かせる制度」 定年退職とは、会社が決めた一定の年齢に達した従業員が、自動的に退職する制度のことです。つまり、会社が事前に決めた年齢になった従業員は、その時点で会社との雇用契約が終了し、退職することになります。定年退職制度は、法律で決まっているわけではなく、会社が自由に選択できる制度です。ほとんどの会社が定年制を導入しているので、多くの従業員がこの制度の対象となります。 日本では、法律に基づいて、会社は従業員の定年年齢を60歳以上に設定しなければいけません。そのため、多くの会社では60歳を定年としていますが、中には65歳以上の定年を設定している会社もあります。最近は、少子高齢化で労働力人口が減ってきていることを背景に、定年年齢を引き上げたり、定年後も雇用を継続したりする動きが進んでいます。法律の改正により、65歳までの雇用機会の確保が会社の義務とされ、70歳までの就業機会の確保が会社の努力目標とされました。 定年退職は、長年働いてきた従業員にとって大きな節目であり、会社にとっても大切な人材を手放すことを意味します。定年を延長することは、今の高齢の従業員に雇用を保証し、「引き続き活躍してほしい」という意思の表れになります。 一方若手従業員から見ると「ポストが空かない」状況が続くことを意味しますので、スムーズな世代交代を促すことが重要です。定年を60歳にとどめる会社は、長期雇用を望む従業員の流出防止や、定年後の高齢者雇用政策の方向性を踏まえながら、定年退職制度を適切に運用し、従業員個人に対してはキャリアや生活設計、活躍支援に配慮すること、若手世代も含めた組織全体に対しては組織の活性化を図ることが大切だと言えます。 参照元:『令和4年就労条件総合調査 結果の概況|厚生労働省』 役職定年は「役職から退かせる制度」 先にも解説しましたが、役職定年とは、管理職などの役職に就いている社員が一定の年齢に達したときに、その役職から外れる人事制度のことを指します。 独立行政法人 高齢・障害求職者雇用支援機構の平成24年の調査時点では、役職定年制度および役職就任規制を導入している企業は28%、見当も導入もしていない企業は61%でした。その後、導入企業は増加し、大手企業を中心に多くの企業で導入された一方、富士通やNECのように役職定年を廃止した企業事例が報道されています。企業によって廃止に至る背景はさまざまですが、「年齢に関係なく、その人の能力と成果で処遇を決する」という考え方が広く受け入れられるようになると、年齢だけを理由に処遇を大きく下げる役職定年制度を合理的に説明することは難しいと言えるでしょう。 シニア層の雇用義務がさらに強化される状況の中で、企業としては「役職定年制度」を導入・継続するか、それとも廃止するかは悩ましい問題です。 昨今の「役職定年制度」に対する現状 【現状1】「役職定年制度」があるものの、延長するケース 役職定年制度の運用状況は、企業によってさまざまです。例外をほとんど認めずに運用している企業は、延長手続きのルールを厳格に定めている一方で、優秀な人は延長されることがあるとしている企業では、例外が多くなる傾向にあるようです。中には、もともとそこまで厳格に運用するつもりがなかったり、課長クラスの役職定年の運用を各部門に任せていたりする企業もあるようです。 つまり、役職定年制度はあるものの、実際には延長するケースが多いというのが実態のようです。企業によって事情は異なるため一概には言えませんが、制度と運用の間にギャップがあるのは確かです。「余人をもって代えがたい」人材に同じ役職条件で残っていただくことは、事業の安定継続の観点や競合への流出を防ぐ観点からよく行われています。問題は、例外対応をする全員がそうとは限らないことです。 例外対応が前例となり、「自分も」「自分も」と長年の功労者に求められた際に、その場しのぎの判断で制度の運用がうやむやになってしまうのです。このような運用は、組織の健全な新陳代謝を損ない、下の世代からも納得が得られず、モチベーションを下げることにつながりかねません。 【現状2】定年に関する法改正に伴い、「役職定年廃止」の動きも 2021年4月に施行された「改正高年齢者雇用安定法」によって、65歳までの雇用確保が企業の義務となりました。さらに、65歳から70歳までの高齢者の就業機会を確保するための措置をとることが、企業の努力義務として新たに定められました。これにより、2025年からは、シニア層の雇用義務がさらに強化されます。 このような状況の中で、企業としては「役職定年制度」を導入・継続するか、それとも廃止するかで、揺れ動く時期が続くと予想されます。将来的に70歳定年が見据えられる中で、シニア層のスキルを活かせる社会への変革が求められているのです。 人事担当者の立場からすると、法律の改正に伴って、役職定年制度の扱いは悩ましい問題かもしれません。しかし、高齢者の雇用をしっかりと確保しながら、シニア層の力を活かせる体制を整えていくことが重要だと言えるでしょう。 下記コラムでは、役職定年制度に関する「年齢」について詳しく解説していますので、こちらもあわせてご覧ください。 関連コラム:『【年齢層の平均は?】役職定年は何歳から対象?最新の傾向を踏まえて解説』

【収入3割減も】役職定年と「給料の減少額」について|減給による”労働意欲の変化”も詳しく解説 | 雇用施策・その他

【収入3割減も】役職定年と「給料の減少額」について|減給による”労働意欲の変化”も詳しく解説

そもそも役職定年とは? 役職定年制度(やくてい)とは、管理職などの役職に就いている社員が一定の年齢に達したときに、その役職から外れる人事制度のことを指します。つまり、役職定年は「管理職の定年」と言い換えることもできます。 近年、役職定年制度のニーズが増えている背景には、”定年退職年齢の引き上げ”があります。定年退職年齢が上がることで、管理職の年齢も徐々に上がり、人件費の高騰やパフォーマンスの低下が懸念されるようになりました。そこで企業は、管理職の定年である役職定年を設けるようになったのです。 役職定年制度の定義・背景については、下記コラムでより詳しく解説していますので、こちらもあわせてご覧ください。 関連コラム:『役職定年制度(やくてい)とは?定年退職との違いや”制度の現状”を解説』 役職定年によって給料が下がる理由 役職定年によって給料が下がる主な理由は「役職の降格や肩書きがなくなること」によるものです。多くの企業では、役職定年を迎えた従業員は、これまでの役職・管理職から外れた業務をこなすことが一般的です。 当然これまでの役職(役職に対する報酬)がなくなるわけですから、それに応じて給料も下がってしまうというわけです。 役職定年による経済損失は「1.5兆円」という試算も 定年後研究所とニッセイ基礎研究所は、役職定年による50代社員の意欲低下などで発生する経済損失は約1兆5000億円にのぼると試算しています。中には仕事に対するモチベーション・意欲の他にも「50を過ぎて若手と一緒の学び直しが苦痛」といった悩みもあるようです。 参考記事:『NECさらば役職定年 50代後半「消化試合」にしない』日経転職版2022年11月18日 具体的な減給額はどれくらい? 役職定年による具体的な減給額は、企業や個人の状況によって異なりますが、多くの場合で「年収の2割程度の減少」が見られます。具体的な企業事例でいえば、NTTグループやソフトバンクなどの企業では、役職定年制度によって「最大30%程度」の減少となったケースもあります。民間企業での役職定年後の年収水準については、厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」を基に試算すると、課長クラスの場合、役職定年前の48万6900円から75%の減少として計算すると、役職定年後は36万5175円になります。 一方、公務員の場合は、管理職についていた時点から段階的に基本給が下がっていき、最終的に管理職時の70%まで下がります。例えば、課長クラスで51万円だった場合、役職を降りた翌日には41万円、60歳に達した日後の最初の4月1日には35万7100円(調整額を含む)となります。 減給の対象となる項目は、基本給、ボーナス、管理職手当などが該当します。特に管理職手当をなくす企業は全体の37.7%に上っており、役職手当で一定の年収を維持していた方は、年収が大きく減少する可能性があります。 役職定年による減給は避けられない現実ですが、一部の企業では給与を維持する取り組みもなされています。しかし、その割合は1割以下に過ぎず、多くの場合で減給を見据えておく必要があるでしょう。老後の生活プランを立てる上でも、役職定年後の年収減少を考慮に入れ、適切な準備を進めることが大切です。​​ 経営・人事の立場からすると、役職定年による減給は、人件費管理上の意味合いは大きいですが、従業員のモチベーション維持と生活設計への配慮もまた、重要だと言えます。一部の企業では、給与維持の取り組みもなされていますが、多くの場合で減給となることから、減給を見据えた対応が求められています。役職定年を迎える従業員に対しては、早めに制度の説明を行い、老後の生活プランについてのアドバイスを提供することも大切なのです。 参考記事:『50代で年収3割減も!シニア「役職定年」の残酷な現実、主要企業の実額を初公開』ダイヤモンド・オンライン2022年8月2日 役職定年による減給で社員のモチベーションはどう変わる? 役職定年による減給は、社員のやる気に大きな影響を与えることが明らかになっています。 「高齢・障害・求職者雇用支援機構」の調査によると、役職定年を経験した労働者の6割が、役職を降りた後に仕事や会社に尽くそうとする意欲が低下したと回答しています。また、ダイヤ高齢社会研究財団による「50代・60代の働き方に関する調査報告書(2018年7月)」でも、役職定年後に収入が減った労働者の6割がモチベーションの低下を経験したと報告されています。 モチベーション低下の主な要因としては、役職手当がなくなることや基本給の減額に伴う年収の大幅な減少が挙げられます。同じ仕事内容なのに給与が下がることへの不満や、生活の安定性への不安から、意欲が低下してしまう社員も少なくありません。 また、役職定年は事実上の降格と受け取られがちで、これまで積み上げてきたキャリアや評価が一度にリセットされてしまうような印象を与えます。肩書きを失うことによる自信の喪失や、会社からの期待感の低下も、モチベーションの低下につながる要因と言えるでしょう。 さらに、役職定年後の自身のキャリアについて前向きになれない様子も浮かび上がっています。新たな仕事や難しい仕事に挑戦する自信を失う傾向があり、これまでの経験や能力を十分に発揮できないと感じる社員もいます。 役職定年制度を導入する際は、これらのモチベーション低下の要因を理解し、適切な対策を取ることが重要です。役職を降りた後も、社員のやる気を引き出すような仕事の提供や、キャリア形成支援などの取り組みが求められるでしょう。また、役職定年による減給の影響を最小限に抑えるための工夫も欠かせません。 社員のモチベーションを維持し、長期的な活躍を促すための制度設計が望まれます。 参考記事:『「50代・60代の働き方に関する調査報告書」公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団2018年7月』 下記コラムでは、役職定年の対象となる「年齢層」について詳しく解説していますので、こちらもあわせてご覧ください。 関連コラム:『【年齢層の平均は?】役職定年は何歳から対象?最新の傾向を踏まえて解説』

【年齢層の平均は?】役職定年は何歳から対象?最新の傾向を踏まえて解説 | 雇用施策・その他

【年齢層の平均は?】役職定年は何歳から対象?最新の傾向を踏まえて解説

そもそも役職定年とは? 役職定年制度(やくてい)とは、管理職などの役職に就いている社員が一定の年齢に達したときに、その役職から外れる人事制度のことを指します。つまり、役職定年は「管理職の定年」と言い換えることもできます。 近年、役職定年制度のニーズが増えている背景には、”定年退職年齢の引き上げ”があります。定年退職年齢が上がることで、管理職の年齢も徐々に上がり、人件費の高騰やパフォーマンスの低下が懸念されるようになりました。そこで企業は、管理職の定年である役職定年を設けるようになったのです。 役職定年制度の定義・背景については、下記コラムでより詳しく解説していますので、こちらもあわせてご覧ください。 関連コラム:『役職定年制度(やくてい)とは?定年退職との違いや”制度の現状”を解説』 役職定年の年齢幅は「55〜60歳」と幅広い 役職定年制の年齢は、法律で一律に定められているわけではなく、会社ごとに設定されています。一般的には、50代後半から60歳までの間に定められていることが多いようです。人事院が実施した調査によると、役職定年制を導入している企業のうち、部長級の役職定年年齢を55歳から60歳までに設定しているのは96.1%、課長級では91.6%に上りました。 参考記事:『平成29年民間企業の労務条件制度等調査|人事院』 役職定年(年齢)で最も多いのは「55歳」という結果に 最も多くの企業が定めている役職定年年齢は55歳で、部長クラスは41.0%、課長クラスは46.8%という結果でした。役職定年年齢は、企業の規模や役職によって傾向が異なることも明らかになっています。企業の規模が大きくなるほど、役職定年年齢も高くなる傾向があります。また、部長クラスよりも課長クラスの方が、役職定年年齢が低く設定されているケースが多いようです。つまり、中小・中堅企業で課長クラスのポストの方が、役職定年が早めに設定されている可能性が高いと言えます。 "退職時期の引き上げ"に伴い、役職定年の設定も引き上げ傾向に さらに、定年退職の年齢によっても役職定年年齢が影響を受けることがあります。定年退職が61歳以上の企業では、それに合わせて役職定年年齢が60歳に設定されているケースが多く見られるようです。近年、定年退職の年齢が引き上げられている状況を受けて、役職定年の年齢も引き上げる企業が増えています。 役職定年年齢は、従業員の長期的なキャリアプランやライフプランを考える上で重要なポイントとなります。企業が役職定年年齢を設定する際は、従業員のやる気やキャリア形成への影響を考慮しながら、適切な年齢を選ぶことが求められます。同時に、高齢者の雇用機会の確保や、組織の新陳代謝といった観点からも、バランスの取れた制度設計が重要となるでしょう。 経営・人事の立場からすると、役職定年制度の年齢設定においては、事業環境の変化や事業に求められる人材要件の変化を踏まえて、どのような人材にどれだけ投資するかといった人事戦略・人材投資の観点も重要です。このような会社の実情に合わせて、適切な役職定年年齢を設定し、従業員のキャリア形成と組織の持続的な発展のバランスを取ることが求められます。 「役職定年」と「定年退職」の年齢の違いとは? 役職定年制と定年退職制は、どちらも企業が自由に年齢を設定できる制度ですが、定年退職制の場合は法律に基づいて最低年齢を決めなければなりません。 定年退職の年齢は、高年齢者雇用安定法という法律により、60歳以上に設定することが義務付けられています。60歳よりも前に定年を設定することは法律違反で、無効となります。さらに、2013年の法律の改正により、2025年4月以降は65歳までの雇用機会を確保するための措置を取ることが企業の義務となりました。具体的には、65歳までの定年の引き上げ、定年制の廃止、または65歳まで働き続けられる制度の導入のいずれかを選択する必要があります。 加えて、2021年の法律の改正では、70歳までの就業機会を確保するための措置を取る努力義務が企業に課されました。70歳までの定年の引き上げ、定年制の廃止、70歳まで働き続けられる制度の導入、70歳まで継続的に業務委託契約を結ぶ制度の導入、または70歳まで継続的に社会貢献活動に従事できる制度の導入のいずれかを実施することが求められています。 【結論】どちらも「シニア層を活用したいか?」で決定すべき 本コラムで解説したように、「役職定年」や「定年年齢設定」というのは、どちらも企業が自由に設定できるものです。 そもそも定年年齢設定(定年延長を行うか否か)は、会社としてシニア層を活用していきたいか?という経営方針をもとに、”企業ごと”に決定していくべきものです。業種職種によっては、一定以上の年齢になると体力的・技術的な理由から活躍が難しくなることがあります。そのような場合は、シニア層を長く会社に慰留するよりも適切なキャリア転換、社外へのマッチングを支援したほうがシニア社員のためにもなります。経営・人事はまず「わが社はシニア層を活用したいか、別の道を探すか」の方針決定から逃げないことが重要です。 役職定年の設定に関しては、当然、役職定年の対象となった人材は仕事へのモチベーションの低下が避けられません。正論を申し上げれば、役職定年制の導入よりも、役割や成果に見合った処遇を実現するための施策に、経営・人事のリソースを割くべきです。人事制度でいえば複線型(専門職)の導入、運用でいえば評価制度を適切に運用し、処遇に適切に反映していくことが、適材適所と人材育成という、人事の本来の役割につながるからです。 しかしながら、実際にはそれらをすぐに実現することが難しい状況があることも承知しています。当社ではこれまで人事のパートナーとして、「役職定年の導入」をはじめシニア活用に向けた経営方針・人事制度設計の課題解決支援を行ってまいりました。 役職定年の導入を検討している 役職定年制度を続けるべきか?について課題感を感じている 上記のような経営課題でお悩みの企業の方は、ぜひ一度ご相談ください。

営業は経営を語れ | 人材開発

営業は経営を語れ

 営業教育で取り沙汰されるデキる営業の勘所のひとつに、「誰に会うのか」があげられる。B to B営業であれば、意思決定権限のない担当者ではなく、部長に会う、さらには役員に会うべきなのは、いかにも当たり前のことだ。かくて、「誰がキーマンかをどう見極めるか」といったワザが、営業力向上セミナーでたいそうなノウハウのごとく語られたりする。  「キーマンを見極めるとか、キーマンにどうたどり着くかとか、考えたこともない。だって、自然にそういう立場の人が出てくるんだから」と語るのは、あるIT企業のトップ営業・Aさんだ。彼が、担当者と商談をしていると、しぜんと上席の人が出てくるようになる、というのだ。「ぜひ、部長様にもご挨拶させていただきたく」などとAさんは、言ったこともない。頼むまでもなく、勝手にエラい人が登場してくる。  なぜか。Aさんが経営の話をしているからである。経営視点で顧客企業の状況や課題、それに資するソリューションを話題にしていると、担当者が自分では力不足と思い、上席を引っ張り出してくる。商談は「サービス起点ではなく顧客の課題起点で行う」は、営業のキホンのキではあるが、その課題設定の視座が担当者の域をこえているがゆえの成り行きだろう。  これぞ営業力、とうなずける。よくある営業スキル研修―相手のタイプを見極めて、この客には結論から言う、この客にはデータを提示する、この客には野球の話題から始めるといったコミュニケーション手法などは、いかにも芯を食っていない。B to B営業においては、信頼される言動といった表層ではなく、話す内容と視座こそが眼目という当たり前の事情をAさんは体現している。  では、営業に経営を語らせるにはどうするか。経営リテラシーを学ばせて、自分の顧客の経営課題を分析・仮説し、そのソリューションとして自社サービスの意味づけを行う、というのが正攻法で実践的だろうが、その即効あるスキル研修は作りづらいし、各営業員の経験や能力にも依存する。一つの方法は、選抜型の経営人材育成の施策枠組みに、営業力向上の目論見を重ねることである。  次期経営人材育成は、二つの対象層で行われる。一つは、現管理職対象。とくに上級管理職を対象にする場合はより明確だが、役員育成を目的にする。もう一つは、管理職前の中堅社員対象。「NEXTリーダー育成」といった名称が多い、優秀人材に対する先行的な経営人材育成である。つまり役員候補の候補づくり。ただ、こちらは「先行」だから学んだ経営リテラシーを発揮する場面が今はないというネックがある。  ある会社の「NEXTリーダー育成」研修(6カ月間全7回)では、研修のゴールを「お客様と経営を語り合える」人材づくり、とした。経営リテラシーを学び、通常は自社や自部門の課題と課題解決策を立案・提案するのが、この手の研修の常套的プログラムだが、この会社では、自社の顧客の経営課題を検討し、顧客の立場でマーケティング分析を行い、課題設定し、そこに対して我々はなにができるかをアウトプットさせたのだった。  つまり、まずは顧客と経営の話ができる事業リーダーを目指せ、その先に自社の経営リーダーがあるという道筋。自社と異なり、顧客はさまざまな産業に属し、また社会的影響の受け方もそれぞれ違う。顧客の経営を考えることは、必然的に視野を広げ視座を高め、多様な社会的問題意識を喚起させる。経営のリテラシーという方法論の学習よりも、このことこそがこの研修施策の最大の効用だった。  「経営を語る営業」になにより必須なのは、顧客の立場にたてる視界と社会的問題意識である。「ウチの経営陣が見ているのと同じ風景をみているみたいだな、Aさんは」と感じたから、その担当者は上司につないでいるのだろうから。  

「社員は資産」を複式簿記で考える<br />~採用・研修費用・退職、単年のコストで考えていませんか~ | その他

「社員は資産」を複式簿記で考える~採用・研修費用・退職、単年のコストで考えていませんか~

  「人材は資源ではなく資産である」との論調が強まっています。「もともと社員のことを資源とは思わず昔から大切にしてきた」という声も聞こえてきそうです。日本では長期雇用が大前提であり、社員のことを長い目でみて大切にしてきたのは事実でしょう。 それでも、「コロナで業績が落ち込み採用を停止した」「コストカットのために研修費用を辞めた」な、短期の損益で人にかかるお金の話をしていませんか。 「人は資産」論への賛否はともかく、簿記・会計の世界から知恵を拝借し、発想の転換すると、社員のことを一層真剣に考えることができそうです。 【1.採用】 これまで:採用するとき、採用経費などは帳簿に計上しますが、「価値がありそう」だと選考し、「当社で活躍してもらおう」と決裁した新入社員が持つ価値自体は、残念ながら帳簿に全く現れません。 社員は資産:採用は、経営がその人に投資をする重大な意思決定です。しかも、大卒初任者であれば生涯年収を約3億円も払いながら、65歳の定年まで43年間も「保有」する莫大な投資です。 (図表1:採用)  出典:筆者作成  こう考えると「今期の損益がどうか」という観点で採用を停止したり急に増やしたりすることが本質的ではないことが分かります。「この先のリターンが見合うか」という長期の目線の方が重要だからです。より短期での価値実現を目指す投資をしたければ、新卒より中途など、事業計画に応じた採用セグメントの議論もできるでしょう。   【2.研修】 これまでの常識:教育研修費用は単年度のコストです。業績に陰りが見えれば真っ先に取りやめになりますし、人事部の皆さんは「もっと安い業者は無いのか」などと言われたこともあるかもしれません。 社員は資産:教育研修は、保有する「人的資本」の価値を高めるための追加投資です。費用相当分だけ資産の価値を増やしたのだと考えられます。   (図表2:教育研修) 出典:筆者作成  設備などの有形固定資産も、修繕をして価値を維持・増強します。生産効率を高めるためのメンテナンスなどです。研修も同じです。将来を見据えて必要となるスキル量・質を確保すべく、社員にリスキリング投資をしたり、スキルの陳腐化が見える社員が健全により長く活躍し続けられるようにアップスキリング投資をしたりします。業績が悪くなりそうな時こそ、価値の源泉を増やすための投資をすべきでしょう。   【3.退職】 これまでの常識:退職による人材の流出は痛手です。しかしながら、会社にとっての損失が表現されません。 社員は資産:投資をしながら価値を高めてきた社員の突発的退職は、資産の除却損として認識できます。まだ1億円の価値が残っているのに辞めてしまい、回収するはずのリターンを得る機会を損失した、などと考えられるのです。   (図表3:退職) 出典:筆者作成    なお、リストラについては、価値が減損しリターンが見込めなくなった資産の除却と考えることができるます。スキルの種類やレベルが合わなくなったことで在籍企業における価値が減少したとはいえ、そのスキルを必要とする他の会社にとっては高い価値を持つ場合があるでしょうから、高く見積もって投資をしてくれる転職先を探す方が本人にとってもハッピーです。    実際に会計帳簿に計上するか否かは全く重要ではありません。会社が目指す姿を実現できるだけの価値の源泉(=人材)をどれだけ有するのか、人材が有するスキルの量や質は十分か、補修が必要ではないかを常に把握する必要があります。そこからさらに、中長期先を見越した人材マネジメントの議論ができることが肝要です。 「本稿は人材に対する投資を概念的に捉える試行について論じたものであり、実際に人材をモノとして会計計上することを推奨するものでは無く、またその方法を説明するものでもありません。」    

令和維新の年になれるか | 人事制度

令和維新の年になれるか

 現代の人事制度の基礎は明治維新と言われていますが、この明治維新は、西暦1868年(辰年)に始まり、明治天皇が即位して江戸幕府が倒れ、明治政府が発足した日本の歴史的な転換期であったわけです。  人事制度に関しては、この明治維新以降に大きな変化がありました。例えば、前近代的な身分制度からの解放や、新たな近代的な役職や制度の導入などが行われました。これらの変化は、日本の近代化とともに人事制度にも影響を与え、近代的な組織や制度の基礎を築くことになりました。  以降、辰年からどのような出来事があったか気になり整理すると、、、 1916年(辰年)  大正時代に入り、日本は急速な近代化を遂げました。官僚制度や公務員制度の改革が進められ、官僚の選任や昇進に関する基準が見直され、近代的な人事制度が整備されました。 1940年(辰年)  昭和時代に入り、日本は軍国主義の台頭や第二次世界大戦の勃発など、大きな社会変動を経験しました。この時期には、国家の体制や組織が変化し、人事制度もそれに応じて変化しました。 1964年(辰年)  戦後の高度成長期に入り、日本は経済成長を遂げました。この時期には、企業や官庁の組織が拡大し、人事制度も組織内の人材育成やキャリアパスの整備が重視されるようになりました。 1988年(辰年)  バブル経済の到来やグローバル化の進展など、様々な経済・社会の変化が起こりました。これに伴い、企業や官庁の組織が再編され、人事制度は働き方の改革や労働条件の見直しなどが進められました。 2000年(辰年)  バブル経済の崩壊後の経済不況期であり、企業のリストラクチャリングや人員削減が進行しました。多くの企業が人事制度の見直しや労働条件の改善を図り、労働市場の柔軟性の向上や非正規雇用の拡大が進んだ時期でもあります。 2012年(辰年)  リーマン・ショック(2008年)をきっかけとする世界的な金融危機以降、多くの企業が経営環境の厳しさに直面し、人員削減や組織再編が相次ぎました。この時期には、企業の経営戦略や人事制度が大きく変化し、労働市場の不安定化や労働条件の悪化が懸念されました。  これらの過去辰年における社会的・経済的な出来事は、人事制度に影響を与え、企業や組織がその時代の課題やニーズに対応するために制度の改革を行ってきた経緯があります。特に、リストラクチャリングや経営戦略の変化、働き方の見直しや労働市場の変動への対応などが重要なテーマとなってきたのです。  今年2024年は辰年ですが、新型コロナウイルスの世界的な流行によるパンデミック以降、多くの企業がリモートワークやテレワークなどの柔軟な働き方を導入し、働き方の在り方や人事制度が大きく変化してきています。また、経済の不確実性や雇用の不安定化も影響し、労働市場全体のダイナミクスも変わってきています。  社会全体でも多様性と包摂性の重要性が認識される中、企業も多様な人材の活用や包摂的な職場文化の構築に力を入れています。人事制度も、ウエルビーイングと多様性と包摂性を推進するための取り組みを進めていく必要があります。これらの要素が、2024年(辰年)における人事制度の基礎を形成していくでしょうし、企業は、これらの変化に迅速に対応し、より持続可能な人事戦略を構築することが求められています。  今年を明治維新のごとく令和維新の年にできるかどうかは、各企業の変革の本気度にかかっているのです。