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column

「冷や飯人事」でも這い上がる人

 ※今回のコラムは、フリーランスのジャーナリスト吉田典史氏の執筆です。内容は個人によるもので、当社を代表するものではありません。
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 報道によると、自民党の役員人事や組閣人事で新しい首相が総裁選を競い合った議員に冷や飯を食わせる処遇を行ったという。真相は定かではないが、権力闘争の結末はこういうものなのかもしれない。

 この意味での冷や飯人事は、企業社会でも時折見られる。一例を挙げよう。2年程前、社員500人の会社(出版業)で社長が交代した。新しい社長は、2000年前後から2010年までくらいは管理職の中で反主流の立場にいた。それ以前は、中核の部署で編集長(課長)として15人ほどの編集者を束ねていた。いわゆる、出世コースだ。だが、当時の編集担当役員と仕事の進め方をめぐりぶつかり、役職を外された。反主流の時は部下が2人で、さしたる仕事はなく、暗い雰囲気を漂わせていた。当時は、小学生の息子の成長くらいしか楽しみがないようだった。

 私は、この会社から仕事を請け負っていた。この男性と何度か話をした。お酒を2人で飲んだこともある。シャイな一面があり、性格は誠実そのものだった。競争心が弱く、要領のいい同世代に利用されやすい雰囲気もあった。

 ところが、10数年経つと、500人前後の社員のトップに立った。まさに「リベンジ」と言える。なぜ、こんな逆転劇が可能になったのか。それには、いくつかの理由がある。私の観察にもとづくものを以下に挙げよう。

1.社員の離職率が高い
 
 30年以上にわたり、新卒、中途ともに辞める人が多い。ほぼ毎年、新卒採用試験を行い、1年で数人が入社。3年間で約10人になる。だが、30歳までにほぼ全員が辞める。35歳まで残るのは約10人のうち、1~2人。40代になると、全員が管理職になる。役員になるのも、倍率からすると難しくはない。冷や飯を食う立場になったとしても、主流に戻ることは可能なのだ。

2. リストラを繰り返す

 20年間で数回、リストラを行い、40~50代の社員(管理職と一般職)15~20人を退職させた。この中には優秀な人もいたようだが、同世代の社員が大量にいなくなり、リベンジができる環境が一段と整っていたとも言える。

3. 頻繁な組織改革と人事異動

 歴代の経営陣は、「新体制」と称して組織改革を繰り返してきた。約20年で5回ほどに及ぶ。その都度、500人のうち150~180人が対象になるほどの大規模な配置転換を行った。こういう経営刷新を行うと、状況に素早く適応し、高い業績を残す人材とそうでない人の差が明確になる。管理職の数はもともと少ないがゆえに、優れた人はどんどんと際立つ。

 そして、男性には同世代の管理職を圧倒する力があった。それは、本流の仕事をしていた頃(1980年代~90年代)に、大きな実績があることだ。自らが20~30代の編集者として関わった資料集が大幅に売れたのだ。しかも、ヒット作が数年間で10冊前後になった。この会社では、たったひとりの快挙と言われる。だからこそ、少々、プライドが高く、40歳前後の編集長の時に20歳上の担当役員と激しくぶつかったのかもしれない。

 男性は冷や飯を食わされていた頃も、本業に関する分野の知識を獲得する努力は怠らなかったようだ。本業に関する分野では、1000冊を超える本を読んだという。社内の一部では、「教授」とも言われていたほどだ。運がいいだけで、500人のトップになったわけではないのだろう。

 これも付け加えておこう。この会社は創業60年を超えるが、市場や環境の変化に鈍く、1960~80年代型のビジネスモデルや仕事の仕方が業界全体に浸透している。それを変えようとする機運は業界や社内にあまりない。本来は好ましい姿ではないのだろうが、新しいスタイルのビジネスを始める必然性がほとんどないのも事実だ。この会社は、従来どおりの方法で業績はある程度、維持できている。

 こういう状況であることも、リベンジを実現した要因の1つだろう。古い体質のままであるから、他の業界から優秀な人が次々と転職してくる可能性が低く、強力なライバルが現れにくい。数少ない中での競争に勝ち、社長の座をつかんだとも言える。私が知る限りでは、人事の処遇で冷や飯を食っていた人が復活するのはこんなケースが目立つ。読者諸氏の会社で「リベンジ」の人事は行われているだろうか。それができた背景には何があるのか。そんなことを考えるだけでも、人事マネジメントがより身近になるはずだ。

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