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column

あきらめる傾聴

 会社の運営のカギを握る管理職層、配下の社員たちとの良いコミュニケーションに欠かせないのが「傾聴」のスキルだと言われる。傾聴とは、単に情報を受け取るという意味で「聞く」のではなく、相手に肯定的関心を寄せ、内容の真意をはっきりさせながら、相手が伝えたいことをちゃんと理解することだ、と先生は教える。
 英語では「I’m all ears(体じゅう耳)」と言うのだそうだ。先生が言うには、このスキルを使えば部下とのコミュニケーションはとても効果的なものとなり、意思疎通はより深くなり、仕事は円滑に進み、厚い信頼関係が育まれる。傾聴がうまく行われれば、話し手にも良いことがある。自分の言っていることを上手く整理できるのだそうだ。
しかし、効果的な傾聴には、それなりのテクニックが必要だ、と先生は言う。正しい傾聴を行うには、相手の言うことをいちいち解釈せず、心を空(カラ)にしてそのまま飲み込むことが必須。だから、しっかりとアイコンタクトを取り、よく頷き、時には相手の言ったことをオウム返しにし、間を見計らって、「君の言いたいことはこういうことだね」と要約してみせる。そのうちに部下のほうでは「私の言うことをよく聞いてくれる」という気分になり、より心を開いて本当のことを打ち明けてくれる。
 米国のある有名企業でも、マネジメント研修の中に「傾聴訓練」というプログラムがあって、その始めのパートでは、部下のコメントをただオウム返しにする練習をするらしい。「課長、今日はちょっと体調が悪いのです…」という部下に、「それはいかんなあ、病院に行って診てもらいなさい」と答えるのは間違い。正しい反応は「そうか、体調が悪いのか…」とそのまま返すことだと先生は言う。

 そうは言っても…と思う。仕事場で交わされるコミュニケーションはそんな悠長なものではない。がんばって傾聴しよう、とは思うけれど、やたらに話が長くて何がポイントだかわからない部下もいれば、こちらが尋ねることにストレートに応えない部下もいる。ある程度の落としどころを示して相手の意見を聞くと、妙に否定したり、批判したりしてくる者もいる。…腹が立つ。
 仕事の締め切りが迫っていたり、いくつも電話がかかってきたり、落ち着いて話のできる状況ではない場合もある。まして、多様性が大事だと叫ばれる世の中だ。言語や文化が違っていて、何を言っているのだか、皆目わからない相手もいる。…困惑する。
 そんな現実を考えると、「話はわかるけれど、傾聴など絵空事ではないか」と思う。しかし、良いコミュニケーションが必要なのは間違いない。うまくいかないたびに腹を立てたりイライラしたりして、結局こちらの言いたいことを押し付けるような会話になってしまったら、信頼関係を損ねることはあっても、厚くすることはできない。例の「心理的安全性」というのを築くことも覚束ない。

 では、どうすればよいのか。おそらく、傾聴の障害はどうせ現れる、ということを、予めよく承知したうえで、コミュニケーションに当たることが大切なのだろう。話が長くて何を言っているかわからない部下がいたら、「…そうくるよね」と、日本語がカタコトで何を言っているかわからない部下がいたら、「…そりゃそうだよね」と、思う。思えば、腹が立つことはない。時間が無ければ、またの機会に話せばよい。
 なんだか、傾聴などどうせうまくいかないさ、と諦めているように聞こえる。だが、調べてみると、諦める、という言葉の語源は「明らかに観る」ということだそうだ。コミュニケーションの相手の性質を客観的に観察して明らかにしながら話し合うことで、少なくとも腹を立てたりイライラしたりすることを防ぐことができる。傾聴という素晴らしいコミュニケーションスキルの出発点は、この辺りかも知れない。

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