©️ Transtructure Co.,Ltd.All Rights Reserved.

MENU

©️ Transtructure Co.,Ltd.All Rights Reserved.

column

あなたの会社にCLOはいるか

 ここでいうCLOとは、Chief Legal Officer(最高法務責任者)でもなければ、Chief Learning Officer (最高人材育成責任者)でもなく、Chief Logistics Officer(最高ロジスティクス責任者)である。と説明せざるを得ないほど、CLOは言葉として知られていないし、その役職のある日本企業はほとんどない。

 ロジスティクス(兵站)は、もともと軍事用語。戦争の趨勢は兵站術に左右されることは常識であり、「戦争のプロはロジスティクスを語り、戦争の素人は戦略を語る」とさえ言われる。モノを扱うビジネスにとっても同じ事情(戦争のプロ≒経営のプロ)のはずだが、多くの企業にとってロジスティクス責任者は物流サービスの発注担当者にとどまる。そうした経営意識ゆえCLOの不在が当たり前ではあったが、ここにきて急にCLO設置の「外圧」が高まってきた。

 ロジスティクス環境の危機的状況が加速しているからである。来年2024年には、時間外労働時間の上限規制が、ドライバー職にも適応される。もともとロジスティクス業界は、昨今の宅配ニーズの高まりもあって物流量は増大、低賃金長時間労働が常態化し、恒常的な人手不足による将来の物流能力不足が危惧される構造だった。

 そこに、時間規制により業務量が減り売上がさがる。人材確保のためには時間外勤務報酬を前提しない賃金レベルアップは必定であり、利益は減少、さらなる物流コスト増や徹底せざるを得ない効率化の取り組みは、ロジスティクス業界のみならず産業界全体のサプライチェーンを揺るがす事態となることはあきらかだ。

 かくて、昨年9月より国が主導する「持続可能な物流の実現のための検討会」では、荷主企業に役員クラスの物流管理統括者(≒CLO)の選任を義務づける措置案があがっている。この検討会は、物流業者、発荷主企業、着荷主企業の三者それぞれの物流効率化へ向けての取り組み促進を目指し、その一環としてのCLOの設置は、荷主企業経営者に対する物流生産性向上の意識醸成が狙いとされる。

 しかし、単に物流生産性向上のためのCLOでは、「経営のプロはロジスティクスを語る」には物足りない。そもそも、三者関係においては、一方の効率化が他方のコスト増をもたらしかねない。物流というサービスの売買である限りは、「三方よし」の追求は難しい。持続可能な物流のためには、従来の、安くて融通のきく物流サービスを使うという発注姿勢からの転換が必要なのではないか。

 たとえば荷主企業は当たり前のように、出荷タイミングにあわせ待機させ、指定の時間に届けることを最優先に要求する。たとえば私たちは気軽にアマゾンで、近所のコンビニ行けば買えるような日用品をひとつ、時間指定の宅配で購入したりする。物が運ばれる/物が届けられることは、産業と生活にとって不可欠な機能であり、物流は経済社会の血脈ともいえる。だとすれば、そうした顧客の身勝手な個別ニーズ以前に、その仕組み維持と効率的使用のための社会共通の使用規則と標準手順があってもいい。

 経産省と国交省が旗を振る「フィジカルインターネット」構想は、そのような社会インフラとしてのロジスティクスネットワーク、いわば公共財としてのロジスティクスへの構造転換を予感させる。インターネットとは、①情報を「パケット」に分割しそれが ②都度、さまざまな通信経路を自在に経て届き ③共通プロトコルによって各局面が制御されるしくみ。それにならって、①「コンテナ」や「パレット」といた標準化された荷単位を使い、②最適なルート(空き容量があり時間の合う輸送手段)を経て配送され、③集荷・配達・情報管理の汎用ルールによって荷主とのインターフェイスが制御されるしくみとし、ロジスティクスを社会的装置として組み立てるということだ。

 となれば、荷主企業には、インターネットのようにユニバーサルなロジスティクス機能を自在に使えるリテラシーと、それを使いサプライチェーンマネジメントをどう最適化するかという戦略的意思決定が、日々問われるだろう。安く自社の都合に合わせてくれる物流業者をどう調達するかが勝負で、あとは業者任せ、ではなくて、自社のサプライチェーン戦略にあわせて、みずから柔軟に物量機能自体をどう設計し制御するかが問われてくる。さらには、個別業者のキャパシティの制約から解放されて、サプライチェーン戦略自体の自在な策定も可能になるからだ。

 兵站術では、戦闘の作戦が「兵站支援限界」によって規制される方策と、戦闘に必要な兵站をなんとか用意する「作戦追随型」の方策があるとされる。国と国の戦争ではもっぱら前者が歴史的に選択されてきたが、近年のテロとの戦闘においては後者にならざるをえないらしい。ビジネスにアナロジーすれば、それはVUCA時代のロジスティクスであり、フィジカルインターネットはそれを可能にする。と考えれば、これは先行き不透明ななかでの柔軟自在なロジスティクス=攻撃的なサプライチェーンマネジメントへの機会かもしれない。

 その担い手としてのCLOであれば、魅力的でチャレンジングだ。単なる物流合理化ではない、ロジスティクスの構造転換に今から主体的に与し先行してリテラシーを磨くという意味で、CLOの設置の好機なのである。

コラムを読んだら投票を!

コラムをお読みいただきありがとうございます。 今後、さらに興味深いコラムの提供やセミナーテーマの参考とさせていただきますので、ご感想の選択をお願い致します。
※投票いただくと、これまでの感想をグラフで見ることができます。

このコラムの平均評価

投票いただくとこのコラムの評価が表示されます。

点/5点
  • 大変興味深い
  • 興味深い
  • ふつう
  • つまらない
  • 大変つまらない
このコラムの感想
  • 大変興味深い
  • 興味深い
  • ふつう
  • つまらない
  • 大変つまらない