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戦略的人事か、人事的戦略か

執筆者: 森 大哉 経営

 便利な道具は人を怠け者にする。毎日文章ソフトを用いて仕事するから、漢字の表記が浮かばない。でも大丈夫、とグーグル先生に尋ねるが、簡単に得た知識はあたまに残らない。そもそも漢字は、ビジネスに必要なのか、という疑問さえ浮かぶ。
 人事の仕事でも同じことが起こるだろう。タレントマネジメントシステムの開発は目白押しだ。「来期新設する5つのポストへの人材配置は、最適な人材の組み合わせをシステムが選択して教えてくれる」という時代が早晩やってくるだろう。そうなると、人事異動の勘などというものは退化してしまうし、社員の履歴を諳んじて人事パズルの妙を心得ているような前時代的人事マンは、その居場所を失うに違いない。

 ならば、人事マンの仕事はこれにて終了、と考えてよいものだろうか・・。

 事業戦略を人事に落とし込んでいくという考え方は、自然な流れだ。市場や競合の状況を睨みながら、どんな製品をどんな価格でどれだけ市場に送り込んでいくべきか、優秀な企画マンたちが事業戦略を練り上げ、それに沿った陣容を要求する。たとえば、「この高付加価値の新製品を高価格で販売しよう、そのためには、高度技術知識に裏付けられた魅力的な提案営業をできる人材が最低50人必要だ」という具合に。人事部門はこれを受けて、何とか陣容を整えようとがんばる。まして、最適な人員配置をスピーディーに、タイムリーに行えるよう、先進の情報技術が後押しをしてくれると聞いているものだから、全社あげて「さあ、今すぐ新戦略を展開しよう!」ということになる。

 ところが、である。我が国においては、事業戦略の大転換に即応する人事は、やりにくい。簡単に従業員を解雇することができないからだ。用の済んだ人々に退出願って、新たな能力を備えた人々に参戦いただく、というようなアクロバットは不可能だ。法的にも、文化的にも、倫理的にも難しい。だからと言って、新しい能力を持った人材を採用して人員純増とすれば、人件費が嵩んで利益を食ってしまう・・。
だとすると、発想を逆さにして、人事の現状から戦略を導き出す、というのも「あり」かも知れない。「今の会社の陣容に照らせば、もっとベーシックな製品を、ベテラン営業マンの力を活用してドブ板営業で売りまくったほうが、よほど大きな利益を稼げますよ。」というような意見があれば、聞くに値する。

 もとより、人材の都合だけで事業戦略を決めるなど本末転倒だ。しかしながら、人事の目を通じて事業戦略を論じることは重要だと言える。提案営業派の企画マンとドブ板営業派の人事マンとが喧々諤々の議論を戦わせた末に最も現実的で有効な事業戦略が練りあがる、ということがあるに違いない。

 これからの人事マンの仕事は、戦略的人事か、人事的戦略か。いずれにしても、事業の戦略を語る力がなければ、役に立たないだろう。人事マンは、もはや代書屋ではない、電卓屋でもない。手配師でも、評論家でもない。これからの人事マンは、戦略家でなければならないのだ。こう考えれば、どんなに情報技術が発達する世の中であっても、人事マンの価値は、益々大きなものになっていくと言える。そして、人事をつかさどる者に求められる資質は、環境や市場を読む能力から始まって、製品技術や管理会計の知識、人情と浪花節のセンスに至るまで、とてつもなく深くて幅広いものになっていくに違いない。AIがどんなに進歩しても、人事マンの仕事が楽になるとは思わないほうがよい。

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プロフィール

森 大哉 (もり ひろや)

取締役 シニアパートナー

早稲田大学法学部卒業。三菱重工業株式会社に入社し、労務管理・海外調達関連業務に従事。同社在職中にニューヨーク大学経営大学院修了。その後、トーマツコンサルティング株式会社に入社。戦略・組織コンサルティング業務を経て、同社パートナー就任。続いて、朝日アーサーアンダーセン株式会社にて、人事組織コンサルティング部門の部門長として数多くの組織変革を支援。同社パートナーを経て、現職。

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