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column

キャリアコンサルタントの憂鬱

 平成28年に、キャリアコンサルタントという国家資格が発足した。ベトナム帰りの若者向けの職業相談の仕組みを米国から輸入し、改造してできた制度のようだ。訓練された専門家が、職場で悩みを抱える人々の相談に乗り、問題解決の後押しをする。我が国において、このことは、政府の働き方改革の政策と軌を一にしている。すなわち、女性、高齢者、外国人、病気治療者等の労働参画をより容易にしようとする狙いが、その底流にある。
 
 国家試験に向けて訓練中の人に話を聞く機会があった。キャリアコンサルタントは、「傾聴」をそのスキルの中心に置くのだそうだ。悩みを抱える人の話をひたすら聞く。本人の立場にたって、本人と思いを共有しながら聞く。そうしたプロセスを通じて、本人は悩みから解放され、課題に立ち向かう勇気を得、自ら解決策を見出すという段取だ。
 数多くの傾聴演習をこなしてきた30代の彼は、しかしながら、相談者が投げかける悩みに寄り添うどころか、早々に愚痴を吐露する。
 「彼らは甘いですよ。『定年後のキャリアプランって一体何のことだ、考えもつかない』とか、『事業を閉じるから別のキャリアを考えろ、なんて約束が違う』とか、自立的にキャリアを考えることを放棄して、全部会社や世の中の仕組みのせいにしているんですよ。」

 このキャリアコンサルタントと相談者との間には、キャリア形成に関する大きな断層が生じてしまっているようだ。
 今定年を迎える年代は、経済成長期の終わりごろに会社に入った人々。定年まで勤め上げ、職場のみんなから花束で送られて、普段は入れない会社の迎賓館で食事をしたり、二泊三日の旅行券をもらったりして、ハッピーリタイアをするのが当然のシナリオだ。しかし、高齢化と産業構造転換の時代にあって、様子ががらりと変わってしまった。「約束が違う」と感じるのも無理はない。

 だが、考えてみると、仕事上の事柄であれ、何であれ、ものごとが思いどおりに運ぶことなどあまり無いではないか。仕事の九割方は、何やら予測もつかなかったことが起きて、邪魔が入り、思わぬ苦労を強いられたり、失敗したりするのが常だ。まして将来のキャリアプランなど、うまく行かなくて当たり前だ。
 特定のキャリアゴールに強く固執し過ぎると、環境が変化するたびに右往左往し、文句を言い、気を落とすことになる。これでは、幸福な職業生活など望むべくもない。何かが起こった時、自ら考え、自らの価値観に立ち返り、キャリアゴールを変化させられるような柔軟性と胆力を身に付けることが、今の時代の職業人に必須なのではなかろうか。

 さて、「傾聴」の技が、どこまで相談者のキャリア問題の解決につながるのか、筆者にはどうもよく解らない。だが、もし、キャリアコンサルタントが、「人生何が起こるかわからりませんから、今のゴールにそんなに拘らなくてもいいのですよ」と語りかけてくれるのならば、きっと多くの相談者の役に立つことだろう。
 俳人の正岡子規は亡くなる一年前から日記をつけたが、その中に、「悟りというのは平気で死ぬことかと思っていたのは間違いで、何があっても平気で生きることであった。」というような意味のことを書いている。何があっても平気で生きているようなビジネスマンが増えたら、仕事の世界はもう少し活き活きとした場所になるかも知れない。

以上

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