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ひきこもりのダメージ

執筆者: 吉岡 宏敏 その他

 皆が家にこもる状況は脱したものの、対面・接触をさける生活は終わりそうにない。世界中の感染状況をみると、いつまた外出自粛の号令がかかるかもしれない危機のなかにあり、かつてのような人と人のリアルなコミュニケーションが普通だった時はもう戻ってこないように見える。

 多くの人がひきこもることで出来るもっとも大きな問題は、社会性や共同性、つまり、関係のなかでヒトは生きているというプリミティブなコトワリが、対面できない「非接触」のなかでどう変容するか、だろう。

 人は他者との関係のなかで、自分自身の存在理由を確認する。関係のなかで、機微や情や愉楽を交換し生きることの彩りを感得する。すでに我々は、ネットワークインフラのおかげで直に会わなくても用が足りる利便性を享受しているがそのうえでなお、不要不急のふるまいとして、あえて顔を合わせ、直に話すことをしてきた。ネットの利便性を補完するものとして、そうした人間同士の交流、熱量や体温を感じるコミュニケーションを必要としてきたのも、そうしたコトワリの現れだった。
 
 こうした対面接触なしの対人関係がもたらす、いわば情緒的なアイデンティティクライシスは、もしかすると社会の死を意味するくらいのインパクトがあることかもしれないが、組織での協働という点でいえば、もっと具体的なコミュニケーション上の問題がある。それは、コミュニケーションの生成機能に対する、実態的ダメージだ。

 WEB会議をはじめとするコミュニケーション手法の拡大・進化によって、言葉だけではなく表情、態度、文字、絵などの「記号」のやり取りは、代替できるだろう。しかしコミュニケーションは、何かすでにある情報を伝えるだけではなく、コミュニケーションのなかで新しい情報(=アイディアや新しい発想)が生成されるという機能ももつ。

 自動車の製造現場でうまれた「カイゼン」は、部門を超え職位の違いを超えて人が集まり、現場現物によるコミュニケーションによりわいわいがやがやと問題解決をはかる手法としてその有効性がよく知られる。「真の問題は現場に存在する」ことを前提に、徹底して現場でモノを見て率直に意見を出し合い、例えばモノを動かしてみるといった解決策をその場で試すといった集団での活動が、新しい発想の生成を相乗し、改善のみならず改革につながる。

 ここで喚起されるコミュニケーションの創発性、組織論でいう「場の創造性」は、個々の異質性の交換/相互作用を要件とする。異質性は、「記号」のやりとりだけでなく、あつく語る人々の熱気、共感して肩を叩きあい、笑い、また反発して憤るといった感情の交換でもより一層際立ち、グループダイナミクスを促進する。

 こうしたダイナミズムが「集まらない、対面しない」から失われるのだ。それは、イノベーションを迫られる企業組織にとって実態的なダメージであると同時に、働く人々にとっての醍醐味、モチベーションエンジンもまた損なうことだろう。対面することなく「カイゼン」すらも媒介できるコミュニケーションプラットフォームもまた技術進化によって登場するかもしれないが、それでも、集団でなにか新しいものを生み出す際の想念のうねりや坩堝が、あるいは生み出し得たときの一体感が、そこに生まれるかどうかは、期待できない。それは、アタマで理解し共有するというよりも、もっとアマルガムな、身体性の一体感だからである。

 

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プロフィール

吉岡 宏敏 (よしおか ひろとし)

シニアパートナー

東京教育大学理学部応用物理学科卒業。ベンチャー企業経営、ウィルソンラーニング・ワールドワイド株式会社コーポレイト・コミュニケーション事業部長等を経験後、株式会社ライトマネジメントジャパンに入社。人材フローマネジメントとキャリアマネジメントの観点から、日本企業の組織人材開発施策の企画・実行支援に数多く携わる。ライトマネジメントジャパン代表取締役社長を経て、現職。

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