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試合前、休む勇気

執筆者: 森 大哉 その他

 近所に、往年の世界チャンピオンが経営するボクシングジムがある。興行ポスターが所狭しと貼り付けられた階段を下り、ガラスドアを開けて中に入ると、思いのほか明るい照明の下に公式サイズのリングが備えてある。傍らのサンドバッグの行列を通り抜けると、所属プロボクサーの写真や数々の賞状に交じって、一枚の模造紙が貼ってあるのに気づく。そこには、あまり上手とはいえない大きな文字で、「試合前、休む勇気」と書いてある。
プロボクサーは、試合が近づくと、体重を規定の数値まで落とさなければならない。厳しい練習と共に過酷な減量に挑む。ただでもつらい期間なのに、試合が近づくにつれて恐怖がつのる。相手はオレより強いかも知れない。連続パンチを浴びて、ノックアウトされるかも知れない。歯が折れたり、網膜が剥がれたりするかも知れない。何よりも、みじめな負け方をしたら、潮が引くようにファンが遠ざかってしまうかもしれない。
こんな恐怖を払しょくするために、試合直前に必要以上の量の練習をしてしまうボクサーは多いのだそうだ。ぎりぎりまでの減量に猛練習を重ね合せると、必要最低限の体力まで落としてしまう。こうなると、試合当日にはフラフラになって、思うように技を使えないまま相手に試合をコントロールされてしまう。だから、試合前には休まなければならない。怖いけれども、しっかり休む。休むことが試合当日のパフォーマンスを引き出す。

プロのスポーツ選手とは比べられないけれど、私たちの仕事も、多かれ少なかれ結果で判断される時代が来た。期首の目標設定では可能な限り定量的な目標を掲げ、その達成度で成果を測定する。いくら時間を使おうと、夜遅くまで悩み続けようと、良い結果を残さなければ評価されない。
だからと言って、休みなく仕事さえすれば結果が出るというものでもない。15分間必死で考えて出てこないアイデアは、2時間かけても出てこないだろう。時間をかければかけるほど、核心のアイデアに余計な飾りがついて、かえって解り難いものになってしまうかも知れない。結果に執着する人ほど、時間をかけずにはいられないのだろうが、成果が出ないことへの不安を払しょくするための時間ならば、効果は逆に出てしまうだろう。
実際、オフィスワーカーの休憩時間と生産性に大きな繋がりがあることについては、数々の研究がそれを証明している。米国にJames A. Levineという医学の教授がいて、この人によれば、ヒトの身体はもともと動き回るようにできているから、長時間じっとして考えたり机上の作業をしたりすることは、自然の摂理に逆らうことになるそうだ。デスクワークを適度に中断してまったく別のことをするのが、生産性に繋がるらしい。この研究者の言葉を借りれば、15分に1回は休息をとって身体を動かさなければ、集中は続かないという。たった15分だ。
そして、休息を犠牲にし続けた末には、心身の健康を害するという結果が待っている。酷い場合には長期間仕事を休んだり、積み重ねた経験を諦めてまったく別の職種に転職したりしなければならないことさえある。これでは明日の結果を出すどころか、ビジネスマンとしてのキャリア全体を損なうことになりかねない。

忙しい時こそ、少し立ち止まって考えよう。無理をしていないか、無駄な時間を使っていないか。仕事の計画を立て、限られた時間に集中して仕事をし、アウトプットを出しているか。やるべき時と休むべき時をきちんと判断し、自分なりのルーティンを作っているか。ちゃんと休むことがパフォーマンスに繋がるはずだ。「勇気をもってしっかり休もう。」元世界チャンピオンのこのアドバイスは、心に刻んでおくべき至言だ。

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プロフィール

森 大哉 (もり ひろや)

代表取締役 シニアパートナー

早稲田大学法学部卒業。三菱重工業株式会社に入社し、労務管理・海外調達関連業務に従事。同社在職中にニューヨーク大学経営大学院修了。その後、トーマツコンサルティング株式会社に入社。戦略・組織コンサルティング業務を経て、同社パートナー就任。続いて、朝日アーサーアンダーセン株式会社にて、人事組織コンサルティング部門の部門長として数多くの組織変革を支援。同社パートナーを経て、現職。学校法人桜美林学園理事。

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