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無駄の効用
執筆者: 吉岡 宏敏 経営
働き方改革という波がずいぶんと早いスピードですべての日本企業に寄せてきている。その施策の照準は、ともすればダイバーシティやワークライフバランスに目が行きがちではあるが、要は生産性向上である。
働き方を変えることで生産性を上げ、生み出された時間を、プレイングマネジャーでままならなかったマネジメント業務などの本来業務や、付加価値創出につながるかもしれないアンダーザテーブル研究などに使う。あるいは、個々人が自己啓発や視野拡大の活動に時間を使う。結果、不確実な時代を乗り切れるよう業務品質と人材品質を高めていくということである。
その方法はさほど複雑なものではなく、無駄をなくすための組織や業務の仕組みを変えることと、人々の協業に伴うコミュニケーションの無駄を徹底排除することの2つを検討すればいい。その各社各様の取り組みはさまざまに目にするが、気になるのは、前提されている、生み出された時間の「有意義な」使い方である。その時間を、「無為に」使うことも大事なことなのではないか。
あえて、なにもしないで無為に過ごす時間に使う。個々人があるとき、業務から離れ、あるいは頭の中の思考検討から離れ、今目の前の環境を遠景化して、縁側でお茶を飲むようにぼーっと過ごす。生産性高く密度高く仕事をするなかでの優雅なゆとりは、エアポケットのように心に作用し、もしかすると「ユーリカ!」と叫ぶようなアイディアが生まれるかもしれない。
さらには、生み出された時間を「意味のないコミュニケーション」に使うのもいい。コミュニケーションとは、何らかの目的をもって、人に働きかける、あるいは何かを伝えるということだ。それが自然に円滑にはじめられるきっかけには、意味のない働きかけ=ゼロサイクルが有効だといわれる。例えば、道で近所に人とすれちがうとき、「いい天気ですね?」とか「お出かけですか?」という挨拶。人と人の相互の働きかけをサイクルをかけるというが、そのゼロベース、単に認知し合ったというだけの合図だ。
それは、問いのようでありながら意味も目的もない、ただのコトバのやり取りだ。そこに意味を意識すると、家を出た作家の稲垣足穂さんが「お出かけですか?」といわれて、「よしゃいいんでしょ!」と憤然と家に戻ってしまったというエピソードになってしまう。意味がないことを了解し合ってのゼロサイクルは、交渉や依頼に至る前のコミュニケーションの土壌づくりともいえるだろう。
さしずめ仕事と何の関係もない世間話の時間。縁側(デスクの端?)や井戸端(給湯室?)での無駄話に、生み出された時間を使うのである。無駄にも効用があるから、生産性向上のための無駄取りでそれらの完全排除はすべきでない、と言っているのではない。組織内の、業務上のコミュニケーションの無駄を徹底排除したうえで、改めて生み出された時間をこうした「無為」にも使うこともよいのではないか、と言っている。「なんとなく」ではなく、「自覚的に」である。
無為に使ってもいい時間をうみだすための働き方改革。獲得されたそのゆとりがきっと、付加価値創出や変化対応できる組織づくりにも効くはずである。
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プロフィール

吉岡 宏敏 (よしおか ひろとし)
シニアパートナー
東京教育大学理学部応用物理学科卒業。ベンチャー企業経営、ウィルソンラーニング・ワールドワイド株式会社コーポレイト・コミュニケーション事業部長等を経験後、株式会社ライトマネジメントジャパンに入社。人材フローマネジメントとキャリアマネジメントの観点から、日本企業の組織人材開発施策の企画・実行支援に数多く携わる。ライトマネジメントジャパン代表取締役社長を経て、現職。