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不揃いなハードル

執筆者: 林 明文 人事管理

 社員の業績評価を“目標管理”という手法で行う企業は実に多い。経営の目標を個人の目標に分解することで、社員の経営目標に対する意識を高めるとともに、目標達成のための推進力にするという考え方である。この考え方は実に多くの企業で、なかば当然のように採用されている手法である。管理職から一般社員に至るまで、目標を設定してその目標の達成度で業績を測定するという考え方が、構造的に理解しやすく、経営目標の達成が促進されると考えられているからである。

 現実はどうであろうか。全社員に対して目標管理がうまく機能している企業はほとんどないのではないだろうか。どの企業でも“目標の設定が適切でない”、“目標の達成度を測定しづらい”という状況だ。この機能の極めて重要な要件をクリアできていないのである。設定した目標が適切でない、公平でない、さらに目標の達成度を測定することがうまくできないということなのである。目標管理の望ましく機能するレベルを100とすれば、多くの企業の目標管理制度のレベルは、50〜70くらいの感じである。業績、成果を重視する人事制度の重要な部品としての目標管理のレベルが、機能していないレベルであるともいえるのである。そろそろ一律の“目標管理”から脱却しなければならないのではないだろうか。

 目標管理がうまく機能していない原因はいくつかあるが、そのうちの主要な原因の一つに、目標の設定の精度があげられる。そもそも目標管理は、企業の目標→組織の目標→個人の目標というように、樹形図的に目標が階層化されることを前提としている、そのため個人の目標は、“個人のレベルにあっていること”、“個人の責任権限の範囲で目標をコントロールできること”、“ある程度の精度で測定が可能であること”の条件を満たさなければならない。日本企業の人事管理スタイルでは、全社員がこの3つを満たすことは非常に困難である。まず等級・グレード制度が“職務”と連動していないので、各社員のレベルに合った目標レベルを設定することが困難である。特に非管理職社員についてはこの傾向が強い。また組織目標の達成は、組織、チームで行うことが多く、個人の業務が独立して集積しているのではないことが多い。そのため一般の社員の目標設定は、ひどくあいまいで統一性がない。果ては目標を社員個人に設定させる企業もある。社員が企業、組織目標を理解し、自分の等級・グレードレベルをよく理解し、邪念がない状態で目標設定するのであればまだわかるが、個人に設定させた目標はあまりにもバラバラである。さらにその目標に対して上司が検証し追加修正削除し、決定するプロセスが決定的に弱いのである。社員がそれぞれ設定した、バラバラのハードル競争をしているようなもので、これで仮に“測定”がうまくいっても、本来的に公平な競争が成り立っていない。

 個人に目標設定させる悪習がなぜこれだけ流行し、それが機能しないことが証明されているのに、なぜかこの手法から脱却できていない。個人が目標を考え、目標案を作成することは、社員の経営に対する理解度を高める意味では否定はしない。しかしあくまでも会社目標を達成するための、樹形図的な目標設定であるのであれば、管理職が強い権限で統制するべきであろう。十分に機能しない今の目標管理を続けることが正しいとは言えない状況であることは間違いなく、再構築が必要なのではないか。
以上

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プロフィール

林 明文 (はやし あきふみ)

顧問

青山学院大学経済学部卒業。 トーマツコンサルティング株式会社に入社し、人事コンサルティング部門シニアマネージャーとして 数多くの組織、人事、リストラクチャリングのコンサルティングに従事。その後大手再就職支援会社の設立に参画し代表取締役社長を経て当社設立。代表取締役シニアパートナーを経て現職。明治大学専門職大学院グローバルビジネス研究科客員教授。

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