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無能の大罪
執筆者: 吉岡 宏敏 人材育成
企業内教育は、個々人のパフォーマンスを高めるために不可欠の施策である。OJTやOff-JTにより、早く求められる成果をだせるようになって、生産性に貢献してほしいから、育成する。しかし、そこで高められる能力とは、企業固有スキルであって、大半は汎用的スキルと重なるけれども、大事なのはその会社ならではの必要スキルである。
だから問われるのは、その会社で成果を出せる能力にすぎない。「あいつは能力が低くて困る」という上司のぼやきは、正確に言えば、パフォーマンスが低い、貢献となる行動をとれていない、という意味で、決して、「能力」そのものを深刻に評価しているのではない。たかだか、いまこの会社で求められる行動発揮に問題があるだけである。
企業で評価されるのは、行動とその結果である。評価制度は通常、業績評価と能力評価のふたつで構成される。その能力評価とは、潜在能力ではなく、発揮能力。その会社で階層別に求められる発揮能力=行動を評価するものである。なので、名称自体も能力評価ではなく、行動評価とする評価制度が増えてきている。
問われるのは、能力ではなく行動である。仮に能力が低くても、行動ができていればいいし、行動ができるレベルにないなら訓練をすればいい。訓練をしても行動ができないなら、その仕事は無理だということだけである。それが、能力が足りないからか、やる気がないからか、あるいは別の何かのせいか、その理由はどうあれ、である。
企業の現場において、個々人の能力の多寡は、重要でない。行動と行動発揮を促進する訓練、つまりはマネジメントが問われるのであって、「あいつは能力が低くて困る」などと、上司に言われる筋合いはないのである。行動発揮が十分でなければ、それなりの評価となり、それなりの処遇になるだけであって、あえて能力を発揮せずに、そうした働き方を選んでいる人だっているかもしれない。
その意味で、従業員の能力のあるなしは、問題ではない。しかし、この上司=管理職者だけは、文字通り能力が問われるではないか。問われるどころか、無能なマネジャーは組織にとって有害といっていい。管理職も役割定義されているから、求められる行動ははっきりしている。ただ、明文化された役割行動をとるだけでは、マネジメントはできない。内外の不測の事態に対応した判断ができるには、「能力」が必要なのである。
その最前線での判断が会社に与える事業的影響もさることながら、たとえば、クレームだったり事故だったりに対して、逃げたり、責任転嫁したり、矢面に立たなかったりする上司を目の当たりにした部下たちはどうなるだろうか。当の管理職者に対してのみならず、任用した会社に対しての落胆、失望、諦観。個々人を活用して、組織としての成果を上げていくしくみである会社にとって大罪である。
管理職役割定義に書かれていることの根幹は、要は、意思をもって、いろいろ工夫して、判断してくれ、ということであり、それには、一定の能力を前提する。そこで必要な能力とは、課題発見力だったり、分析判断力だったり、指導力だったり、育成力だったりいくらでも書き連ねられるけれども、もっとも大事なのは、「意思」と「覚悟」である。
これは、経験によって磨かれるだろうけれども、そもそもそれを持ち得るかどうかは能力だろう。だから、昇格のアセスメントでも、意思決定にかかわるスキルとともに、必ず、「達成意欲」や「姿勢」、「自律一貫性」といったさまざまなスキル名称をもって、それらのレベルを測定しようとする。
よくリーダーシップの要件として、人間力といった言葉が語られる。そこには、ともすれば高邁な人徳や器の大きさのイメージがあるが、それほどのものは必要ない。ただ、意思と覚悟を持てる能力だけは、管理職者には不可欠であり、その意味での無能な管理職者を決して作り出してはいけないのである。
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プロフィール

吉岡 宏敏 (よしおか ひろとし)
シニアパートナー
東京教育大学理学部応用物理学科卒業。ベンチャー企業経営、ウィルソンラーニング・ワールドワイド株式会社コーポレイト・コミュニケーション事業部長等を経験後、株式会社ライトマネジメントジャパンに入社。人材フローマネジメントとキャリアマネジメントの観点から、日本企業の組織人材開発施策の企画・実行支援に数多く携わる。ライトマネジメントジャパン代表取締役社長を経て、現職。