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column

関係のマネジメント

 たいへん優秀で、皆が嫌がるような困難な仕事を進んでやり、見事に仕上げた部下の管理職者がいた。その後、私が会社を離れ、半年後に複数の人から彼の話を聞いたら、今は仕事ができない問題社員だという評判に驚いたことがある。

 そんな風に、あるリーダーのもとで、“意気に感じて”自分の業務範囲を超えて縦横に働き、高いパフォーマンスを上げていた人が、リーダーが変わったらいきなりローパフォーマーになることがある。もともと持っていた能力以上の行動発揮を引き起こすのは、上司のリーダーシップ能力が高いからではない。そのリーダーの部下になれば、誰もが能力以上に働くわけではないからだ。特定の上司部下関係のなかの、何かが、その人を励起したのだろう。

 そうした関係の力は、リーダーとの間だけでなく、同僚との間でも働く。組織診断でみる「組織市民性」という項目がある。ひらたくいえば、職場の仲間が困っていれば手伝う、といった健全な協働意識の度合いを、組織ごとに診る指標だ。部門によって、驚くほどその点が低いと出ることがあるが、その要因はなかなかわからない。マネジャーやメンバー個々人の問題ではない、関係の病理があるように見える。

 臨床心理の家族療法でよく知られるように、錯綜した人間関係はさまざまな心の病を引き起こすきっかけのひとつとされる。たとえば、子供の発症のトリガーは、親の夫婦関係の歪さにあったりする。家族ですら、父と子、母と子、父と母、兄弟との関係、、、等々、複数の関係が錯綜する。組織にある人々の関係の多彩さを考えれば、関係の力は、組織におけるメンタルイッシュ―の多さをみるまでもなく、良くも悪しくも、組織のパフォーマンスに大きく影響するはずである。

 タレントマネジメントという言い方が含意する個別人材力の強化だけではなく、組織力を高めるような関係のマネジメントを改めて考えるべきではないか。タレントマネジメントの観点でいえば、組織力を高めるには、個々人のリーダーシップ力を育成するのだということになる。それに対していえば、役割や分担や損得を超えた行動をもたらす“つながり”をいかにして生成するか、ということになろうか。

 それはきっと、会社という、権限や分業や雇用という公式な「関係の体系」の側面を片目でにらみつつ、おそらくは信頼や互酬性を原理とする非公式な「関係の束」をマネジメントすることだろう。とすれば、それはいかにも難しい。ただ、その原理や方法はまだ整理されていないけれども、ヒントぐらいは散見される。キーワードでいえば、自尊心の尊重、自己効力観の励起、スポーツマンシップの醸成。。。要は、人は関係の中でアイデンティファイされ、生きがいや働きがいを感じるという当たり前の原理に立ち返ればいい。

 一方で、ここでいうような“つながり”を嫌悪する人たちもいるだろう。役割の中で自身の能力で、自身に期待される成果を出すことだけに腐心する人たちには、会社の中のべたついた“つながり”(=絆)なんかきっと気持ち悪い。成果を出し自身を成長させるのに、精神的な依存関係なんかいらない。そのように個を屹立させる人々が存在することで生まれる他者との軋轢や共感も、多様な関係の束の一部である。

 一様でないさまざまな関係が集積するという組織の“複雑性”もまた、組織の力を高めるキーワードだろう。それは、異質性やゆらぎを要件とする情報創造型組織につながるだろうし、一時期、組織の不活性をしめす原因として取りざたされた「学習性無力感」は、ネガティブな関係の一様性がもたらす現象ともいえる。

 脳の正体をつかもうと、脳をどんどん解剖し、生体砕片にまで分解しても、脳の本質はつかめない。脳の本質は、脳内の複雑な信号伝達、つまり「関係」にある。脳の圧倒的なパフォーマンスは、その複雑な関係が生みだしている。組織の複雑性もまた、組織のコンピタンスを高める条件だとすれば、関係のマネジメントの第一歩は、メンバー個々人のダイバーシティではなく、その結果生まれる複雑な関係のダイバーシティに目を向けることである。

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