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column

平知盛

 日本史に登場する人物の中で、平知盛の生き様には考えさせられるものがあります。平知盛は平家物語の平家側の主役とも言える人物です。清盛の四男として生まれ、34年という若さで自害した人物です。平家の衰退がはじまり清盛が死亡すると、兄の宗盛が家督を継ぎます。宗盛の戦略性のなさと優柔不断さにより、源氏に次第に追い詰められていく過程において、知盛はそれこそ平家再興のために奮迅の働きをします。もともと病弱であり戦場の第一線に出られる体力を持ち合わせなかったと言われていますが、優れた軍事的才能と統率力で源氏の軍勢を幾たびか打ち破ります。しかし時勢には逆らえず一の谷で源義経に敗れ、さらには屋島でも敗戦します。この決定的ないくつかの敗戦の中で知盛はなんとか残る平家の支柱として、宗盛の代わりに指揮を執り続けます。壇ノ浦の戦い時ではとても戦える体調でなかったといわれていますが、最後まで戦い抜き、そして敗戦濃厚となった時点で自害します。その時に言ったのが、“見るべき程の事をば見つ。今はただ自害せん”というあまりにも有名な言葉です。鎧を二重に着てさらに碇を持って海に入水したと言われ、歌舞伎の“義経千本桜“での“碇知盛”といわれる名場面になります。

 このように世の中の時勢という運命に対して、自己の存在をかけて最後まで抵抗する姿が、“悲劇”として人の心を打つのでしょう。最終的には運命には勝てない自分がいるのに対して、それを肯定することができずに最後まで自己の存在を運命に徹底して逆らうということです。そして最後にはこの運命を受け入れざるを得ない自分を肯定できずに碇をもって入水するという生き方です。

 逆に時勢に乗り勢いがあり成長するときの成功話に人はあまり劇的さを感じません。ともすると自慢話的になり、これが過ぎるとたまたま時勢に乗った幸運な人物と評されてしまいます。人はこのような成功話にはあまり大きな感動を持ちませんが、知盛のような悲劇的な人物にはいたく心を打たれる感性を持っています。このような劇的な生き方をする日本人が歴史上には何人も見ることができます。命を懸けて自己の存在を証明しようとし、そしてその証明ができなくなることにより、自己を否定しなければならない。これは架空の話ではなく現実の日本で起きた実話なのです。

 このような悲劇的人物は戦後日本であまり見当たらなくなってしまいました。環境の変化に対して大幅な構造転換をしなければ生き残れない企業でも、将来の予測から徹底したリストラをしなければならない状況と頭でわかっていても実行する人物は少ないのです。また逆らうことのできない環境変化に徹底して反抗し、その結果回復する企業もありますが、最終的には企業が存続できない事例も多くあります。自己の存在をかけて環境や運命に徹底して抵抗することを通じて活路を見い出だす可能性に賭けるわけでもなく、なんとなくリストラをしてそしてまた衰退して中途半端なリストラを繰り返す。そして最終的にはどこかの企業に吸収されたり清算されてしまうという、あまり締まりのないリストラ劇が多すぎます。このようなリストラ劇は劇としては生ぬるく面白い舞台ではありません。主役が誰かもわからなかったり、主役のキャラクターや意思が不明であり、役として成立していないのです。脇役も舞台上で果たすべき役を演じないばかりか、舞台から降りてしまう人までいます。

 企業はリストラによって再生することが望ましいに決まっていますが、これは環境に徹底して逆らい新たな価値を見出した企業のみが生き残るのであって、環境に対して徹底した自己存在意義を問い直さないリストラは失敗します。さらに失敗したリストラ劇の結末には、現代日本人の“日本人らしさ”がなくなったゆるい結末で、だれも責任を果たしたと言える状況ではないのです。“見るべき程の事をば見つ”と言えるリストラは非常に少なく、徹底した戦略再構築や経営施策を断行するという命を懸けるような深刻さがなく、単に経営ゲームとして負けたというような感覚にすら感じることがあります。真剣に経営をしているかと問われて命がけでやっていると胸を張って言える経営人が少なくなっているのではないか。日本的な重要な特性が失われているのではないかと感じることがあります。

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