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調査・診断(組織分析)

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働き者と改革の不一致 | モチベーションサーベイ

働き者と改革の不一致

 「何でそんなに働くの?」と知人(男性)に聞いてみた。 「いやぁ、仕方ないよね」と彼は言う。しかしその表情は誇らしげにも見えた。  彼は企業に勤める会社員で、新入社員の頃からとにかく仕事にほとんどの時間を費やしており、中堅になった今でもその姿勢は変わらない。特に悲壮感が漂っているわけではなく、むしろ、仕事に人生を費やしている自分に誇りを持ち、楽しそうにさえ見える。まさに「働き者」だ。  働き方改革という言葉が浸透して久しいが、彼にとっては改革なんて何のそのといった風情だ。彼の会社も、働き方改革に関する何らかの施策は講じているはずである。「それなのになぜ?」と思うほど働いている彼をきっかけに考えると、そこには施策と労働者個人の噛み合わなさがあるのである。  そもそも働き方改革は、人口減少に伴う労働力不足を解消するために始まった。  先の働き者の知人の話で大きく関連するのは、長時間労働の是正であろう。 筆者の知る企業で取り組まれているこの課題の改善施策としては、ノー残業デーの導入、業務の精査からパート・アルバイトの方に可能な限り広い業務を担ってもらう、年次有給休暇の計画的付与、作業管理の徹底などがある。他にも、徹底した例だと決まった時間になるとパソコンが強制シャットダウンされるといったものもある。  こういった施策によって、長時間労働が改善されたという実例も世の中には多く存在する。しかし、全てが全てうまくいっているわけではない。それは個人の「働き方の価値観」と嚙み合っていないからだと筆者は考える。  日本の戦後高度成長期からバブル時代まで、働けば働いた分だけ見返りがあった時代に「男はとにかく仕事に全てを捧げる」という考え方が存在し、(対になるのはもちろん「女性は家庭を守る」である)そういった働き方をする男性会社員から「モーレツ社員」だとか「企業戦士」などの呼称が生まれた。そして、そういった社員を企業も求めた。 現在男性だけでなく女性も活躍し、プライベートと仕事のバランスを取った働き方が求められるようになった。働き方の価値観は非常に多様になっている。  施策と労働者個人の噛み合わなさとは、働き方改革のための施策の意図と、個人の「働き方の価値観」が一致しない事に起因する。いくら企業で改革のために新しく施策を断行したとしても、その意図と社員の価値観が一致していないと元々想定した通りに変化はしない。  社員はひとりひとり異なる考え、バックボーンを持っている。働き方に関しても同様である。みんながみんな「プライベートと仕事をしっかり両立したい」と考えているわけではないだろう。中には「自分はとにかく仕事に生き、仕事に死にたい」という思いを抱いている人もいる。そういった「とにかく仕事」という価値観や「プライベートを充実させたい」という価値観など、多様な考え方が尊重されるような組織・制度作りを加速させる必要がある。

コロナがきっかけ | 調査・診断(組織分析)

コロナがきっかけ

 新型コロナウイルス感染症は収束どころか「第3波」の到来が、日増しにはっきりしてきました。厚生労働省の12月17日付発表では、全国の新規陽性者数は3,211人と、1日の新規陽性者が過去最多を更新し、また同じ12月17日の東京都の新規陽性者数は800人を超えて822人となり、過去最多となっています。  このようなコロナ感染拡大の状況をきっかけとして、ワークスタイルの変革に取組んでいる企業がますます増えています。各社の取組みポイントは、リモートワークにおける業務の効率化、社員一人ひとりの行動の把握をシステムの構築とともに可視化する点です。Web会議などのITツールを使用し、上長と部下がキチンと話し合って、やるべき業務を週・日単位でシステムに登録し、その進捗を部内で共有、確認されていくといった仕組みです。実装されれば、部内の全員の仕事が見える化され、リモートワークでの日々の業務内容やプロセスも把握できるし、成果物も明確になります。ただ、評価の視点としては、特に部下とのコミュニケーションでは、以下のSTARの意識が必要で、それぞれの事実を確認することが大事となります。   ■Situation(状況) :どのような状況だったか?   ■Task(役割)    :どのような役割だったか?   ■Action(行動) :どのような行動をしたか?   ■Result(結果) :その行動/言動によって得られた結果は?  一方、今後のリモートワークを主眼に置いた働き方に合わせて、ジョブ型人事制度の導入を検討している企業も増えています。 一般社団法人 日本テレワーク協会も、7月1日に「経営・人事戦略の視点から考えるテレワーク時代のマネジメント改革」についての研究成果レポートを発表し、「テレワーク時代のマネジメント改革日本型の人事制度」を改定し、欧米で主流の「職務範囲が明確で成果に応じて評価されるジョブ型」への移行へ言及していて、2020 年以降、「ジョブ型」の人事制度や職責や成果に基づいた報酬制度への移行に関する議論がより一層活性化するだろうと予測しています。  グローバルの視点に立った場合、日本の「終身雇用」や「年功序列」は極めて特異な制度と言われています。企業活動の範囲が日本にとどまらず、世界中に広がっている現代において、ジョブ型雇用の浸透は時間の問題ともいえるでしょう。 さらに、前出のコロナの影響もあり、直接仕事のプロセスを見ることが難しいテレワークやリモートワークなどへの対応や新しい働き方が普及しつつあります。 働き方の変化に伴い、「メンバーシップ型」から「ジョブ型」へ、人事制度を見直すきっかけになるかもしれません。  ただ、「ジョブ型」のメリットの中には、専門的なスキルや知識を持った即戦人材を採用できる、成果にコミットしやすい、評価体制が確立しやすい等々がある反面、デメリットとしては、事前に職務範囲を定義することが難しい、契約外の仕事を依頼できない、予想外の業務が発生した際に担当者がいない等々があるのです。このメリット・デメリットを比較しながら、さらに「メンバーシップ型」でも課題のあった部下の育成や上司のマネジメントスキルの向上、働き方改革での自律型人材の育成課題をクリアにしていかなければなりません。  人材育成の課題を含めた長期的な人材戦略をしっかりと持たずに、「ジョブ型」への安易な設計・導入を進めていくのはリスクがあることを忘れてはいけないのです。                                                             

「正しい人」を変えるには | 360度診断

「正しい人」を変えるには

当社が位置する四ツ谷界隈にはたい焼き屋が多い。秋が深まるこの時期、焼き立ての良い匂いをさせている。たい焼きでいつも思い出す出来事がある。 皆さんの職場には公開説教をする人がいらっしゃるだろうか。近年、上司が部下を面罵する行為は避けるべきとマネジメントの教科書では教えている。部下のモチベーションを下げ、かつ問題行動の改善にもたいしてつながらないからだ。 しかし常識的にはNGになった今でも、公開説教を行う上司はなくならない。なぜだろうか。人によっていろいろな理由があろうが、ある真面目なタイプの人々の場合、「正しいことをしている」と信じているからではないかと思う。 筆者が仕事をしたあるマネジャーは、自分の隣に部下を立たせて、部下のアウトプットに赤入れや指摘をしていくのが日課だった。口調がだんだん激しくなり、最後に「こういう仕事をしていてはあなたの信頼に関わる」という宣告で終わる。週に何回か、そのやりとりが部下それぞれとの間で繰り返され、その間他の人は下を向いて息をひそめている。 誰かが、そのようなやりとりは個室で行ってほしいと言うと「ほかの人にも自分が求める仕事の仕方を理解してほしい」「皆が会社から良い評価をもらうために必要なことだ」という答えが返ってきた。公開説教が部下の成長に有益だと信じており、その信念は当の部下たちの意見でも揺るぎはしなかった。 マネジャーの上司に相談する人もいたが、「熱意の表れである」「むしろ皆でしっかりフォローして」と諭されて終わりだった。 変化が起きたのは年に一度の360度評価の後だった。いつものように上司によるマネジャーへのフィードバック面談が行われた。その後、チーム全員が会議室に呼び出された。そこでマネジャーは、自分の行動で嫌な思いをさせてすまない、信頼回復に努めたいと語り、皆にたい焼きを配った。その後、公開説教が行われることはなくなった。 部下一人一人の意見は主観に過ぎない。メンバーとマネジャーの意見が異なる時、経営はマネジャーの意見を取るだろう。しかし、360度フィードバックを通じて、多数の主観は客観的事実となる。その結果、マネジャー本人とその上司は問題をようやく認識し、上司が動いた。客観的事実と上司の指導。どちらが欠けても自分が正しいと信じる人を動かすことはできず、たい焼きミーティングはなかっただろう。 路上でたい焼きの匂いに出くわすと、あの時の塩の効いたたい焼きの味と、これで下を向いて仕事をしなくて済むという何とも言えない安堵感を思い出す。

昇格審査では遅すぎる | スマートアセスメント®

昇格審査では遅すぎる

 管理職への登用を決める際には「昇格アセスメント」を行うことが多い。人事評価や部門長推薦によって選定された昇格候補者に対して、テストや論文、役員面接などといった社内での審査に加えて、外部アセッサーによる審査=アセスメントを行う。たいていは「アセスメントセンター方式」と呼ばれる手法が使われ、1~3日の研修形式で管理職能力の発揮可能性が測られる。  この手法は、まだ非管理職である対象者全員が同一のシミュレーション環境(=管理職の業務環境)のなかに置かれ、そこでの行動を観察することで、保有能力(=潜在的管理職能力)を測定するもの。約50年前から欧米企業で使われ、日本でも約40年の歴史があり、その評定の信頼性はすでに確立されている。管理職への入学審査として総合的な管理職能力レベルがわかること以上に、個別の強み弱みが能力項目の言葉で明らかになる効用がきわめて大きい。  つまり、一人一人の管理職たりうるための能力課題が、非管理職の段階で明確になる。しかし、昇格審査では、序列化された総合点結果が選抜だけに使われ、個別育成に資する結果は個人の自己啓発の参考としてフィードバックされるだけである。残念ながら、審査の合否段階で、自身の能力課題がわかっても、もはや遅い。宝の持ち腐れだ。  個々人の強み弱みという貴重な情報がもっと早く、例えば、管理職手前の等級にあがった時点で得られれば、3年なり5年なりの期間、本人も上司も業務遂行のなかで管理職へ向けての自己研鑽や成長のための指導を効果的にはかれるに違いない。このことは、管理職スキル先行教育にほかならず管理職候補者群の能力底上げとなり、量的にも質的にも管理職能力の向上につながる。  実際、管理職手前の等級のエントリー時点で全員にセンター方式アセスメントをきっちりと行い、管理職昇格審査をむしろ簡素にする運用を仕組化している企業もあるが、まだまだ少数派だ。  どう考えても有効なこの手の施策が広がらないのは、センター方式アセスメントの手間と費用の負担レベルが多人数実施に向かないからである。しかし、センター方式アセスメントは、必ずしもコストのかかる1日や2日の集合研修形式(5人程度の専門アセッサーが稼働)を必須とするわけではない。大事なことは、「何を診るか」に応じて、適切なシミュレーション環境(=「刺激」)が設計され、評定構造(=「認知」「判断」「行動」)が理論的専門的に正しく組まれること。  たとえば、インバスケット演習だけをテストとして設計したり、用途ごとに作成したケースを使った方針策定演習だけを実施することだけでもディメンション(=評価項目)は限定されるが、十分な能力課題把握ができる(ちなみに当社の『スマートアセスメント』はWeb診断で簡易に多面的な診断ができる)。昇格審査だけではなくむしろ人材育成にこそ、アセスメントセンター方式は、自由な発想で多様に活用すべき手法なのである。  管理職先行教育はもちろん、若手対象の選抜型経営人材育成も、個々人の(経営人材としての)能力課題の測定があって初めて、効果的個別的な育成が可能になる。あるいは、中途採用対象者が自社で能力発揮できるか、なにが課題になりそうか。新卒採用対象者のなかで自社の事業開発業務に適する人材がいるか、どのような能力特徴か。  そうした将来可能性と個別特性が、シミュレーション環境で測定する手法ゆえに掴めるから、全社で鍵となる人材の活用・育成を個別効果的に実践するには必須のツールなのである。

「なくならないパワハラ」 | モチベーションサーベイ

「なくならないパワハラ」

 『2017年10月大手自動車メーカーの車両設計などを担当していた男性社員(当時28歳)が自殺した。上司から「ばか」「死んだ方がいい」などと暴言を浴びせられていたという。 遺族は2019年3月に労災を申請し、認定された。2021年4月に遺族と和解した。』 2021年6月8日付けの日本経済新聞の朝刊の記事の一部だ。  このような事例は今に始まったことではないが、ハラスメントが大きな話題として取り上げられたのは2016年の大手広告代理店での新人女性の過労自殺問題ではないだろうか。この事件は、最終的に社長の辞任にまで至った。近年では、検索エンジン企業やファーストフードチェーンストアなどの米国の大企業でもハラスメントを理由に経営幹部が解任される事例が相次いでいる。国内に目を向けても、いくつかの著名企業でハラスメントが残念な結果を招いている。  厚生労働省によれば、「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は、2019年度は約8万8千件。10年で2倍に増加している。なぜ、ハラスメントに関する相談が増加し続けているのか、また中小企業に至っては、なぜ認知度すら低いままなのか。  背景のひとつは、法制化によって相談の垣根が下がったことだろうが、そのほかに、以下のことが考えられる。 ・上司の権限が強く、被害者自身が主張をためらい、取り下げてしまうケースが多いこと。 ・ハラスメントをする側は、上司やハイパフォーマーであるケースが多く、会社におけるポジションも高いので、会社側も処分できないこと。 ・中小企業の場合、社長が自らパワハラを行っている。こうなると、結局は泣き寝入りするか、退職するしかないこと。 ・現在のパワハラ防止法に罰則規制がないこと。やはり、企業や加害者に対しても罰則やペナルティーを科さないと根本的な減少には至らないだろう。  さて、冒頭の大手自動車メーカーが再発防止策の一つとして行ったことで、着目すべきことがある。約1万人の基幹・幹部職に対して、「360度評価」を実施したことである。  今回の事例の場合、被害者の男性が直属の上司から暴言を受けていたことを他の若手社員は知っていた。しかし、幹部は認識していなかった。これにより経営トップへの報告が遅れたのだ。社長は、2019年11月の報道で、初めてこの事件がパワハラと関係していたと知ったという。そこで、360度評価を実施し、水面下に隠れてしまいがちなマネジメントの弱みを、経営がしっかり把握しようとしたのだ。  このように、「360度評価」を継続的に実施することは、ハラスメント事件の発生の一つのアラームにはなり得る。上司からの一方的な人事評価や行動観察では見えなかったことが、周囲(360度)の目から見ることで、明らかになることがある。これが、当事者の気づきにつながる。その事実を今後のマネジメントとしての行動改善に生かすことが最終的に求められる。さらには単なる分析に留まらず、今後の社員の意識改革を促す施策を実施し継続することに意味がある。360度評価は応用の仕方で大きな効果をもたらすのだ。  パワハラは重大な経営問題といっても過言ではない。社員の健康や安全を守れない企業に優秀な人材は集まらないし、発展もない。人を壊してしまう会社に、人はついて来ない。経営者は、パワハラは大きな経営リスクであることの認識を新たにすべきだと思う。パワハラ撲滅のポイントは何かと聞かれたら、トップ自らが厳しい姿勢を示し、あらゆる工夫と対策を打ち続けていくことであると言いたい。

必須のリーダー要件 | スマートアセスメント®

必須のリーダー要件

 管理職の昇格アセスメントでは、複数のディメンション(=評価項目)で評点をつけ、総合点の降順で候補者を序列化するのが常である。それを見ながら「合否」を判断していくのだが、ある合格点ラインで単純に合否を分けるのは得策ではない。総合点がはっきり高い、あるいは低い人たちについては、能力適性判定の限りではその高低に従ってよい。あとは、社内評価や個別の期待事情を含めて総合的に判断していくことになる。問題は、ボーダーラインの前後あたりに並ぶ人々をどう評価するか、である。  アセスメントとは入学評価である。まだ経験していない管理職業務における能力発揮可能性をみる。将来管理職としてちゃんとやっていけるかどうかを、複数のディメンションで評定する手法だが、個々のディメンションには「濃淡」がある。誰しも、ディメンションごとの評点に高低のメリハリがあるものだが、これだけは低い評点であってはマズいというディメンションがあるのだ。  ディメンションは通常、①思考面、②対人面、③資質面の3カテゴリーで構成されるが、この資質面カテゴリーの項目群のなかにそうしたクリティカルなものがある。例えば、「達成指向」、「自律一貫性」」といった項目が低い評点であるなら、まず候補からはずしたほうがよい。ひらたくいえば、達成に向けてブレずにやりぬく――こうした資質は、人を率いて組織成果を出すうえでの前提要件だからである。他に際立って高い評点の項目がない、つまり総合点でギリギリのポジションにいて、これら姿勢を持たないなら、そもそも管理職に向いていないといってよい。  思考面や対人面の能力には、経験や教育によって高めていけるものがある。なかには変えることが難しい能力もあるが、その弱みは、管理職になってからの限定的アサインやサポートする上司やナンバー2の配置によって補完することもできる。つまりは、能力課題はあるけれどもそれをわかったうえで、管理職登用後の成長期待や組織的配慮を併せ合格判断をすることもできる。その場合あくまでも、資質面がOKであれば、ということである。資質というくらいで、この手の姿勢はなかなか変え難いからだ。  では、思考能力や対人能力において、マストとなる必須能力はあるか。ディメンションにはなかなか分解できないが、管理職としての優劣を分けるベース能力としては、「概念化力」と「自己認識力」のふたつに特定できるだろう。概念化つまり本質を掴み表現できれば、課題解決や方針策定から日常の業務遂行まで的確に行えるし、自己認識つまり自身の内面も外面(=行動)も客観視できれば、自分をコントロールし、周りの人々を的確に動かすことができる。  というようなことはしかし、我々がいろいろな場面で見てきた優れた経営者、管理職者、ハイパフォーマの方々を思い浮かべれば、あまりにも当たり前のことなのである。

働く事の過去と未来 | モチベーションサーベイ

働く事の過去と未来

 古代ギリシャでは、労働は“卑しい”ものだった。肉体的労働ばかりか、医師や会計士などの知的労働も、奴隷が行うべきものであり、市民は、労働による苦役がない環境で、自由に思考し、生きることが望ましいとされた。「アダムとイヴが禁断の果実を食べた罰として、神が人間に苦役たる労働を課した」というキリスト教的観念と共に、ヨーロッパに「労働はできればすべきでない」という考え方が広がっていた。  その後、中世に入り、教皇や聖職者の堕落により、ローマ・カトリック教会への不信が広がる中で始まったルターやカルバンらによる宗教改革の過程で、人々の労働への価値観に大きな変化が起きた。彼らは、腐敗した教会や司祭を通じて神と向き合う事を止め、神から与えられた仕事を天職として、一生懸命励み、成功することでこそ、神の救済を得られる、と考えるようになった。  神の救済を求めて、まじめに働き、その結果として得られた利益を、神へのより大きな奉仕のため、生産の拡大へと充てて行ったため、次第に資本が蓄積され、それが近代資本主義へと発展して行ったと言うのが、20世紀初頭の社会学者のマックスウェーバーの主張である。宗教的な無欲思想に基づく勤労精神が、現代の資本主義的社会構造を築く源泉だったという事だが、その過程で、生産性や効率性を重視する合理的思想が強調されていく一方で、いつしか、神への奉仕という、本来の宗教的倫理感は色褪せ、結果として、利益の追及を優先的に考える現代的資本主義へと変化していった。  人々の崇高な倫理感が欠けたまま、暴走を始めた資本主義が、地球環境を破壊し、人々の貧富の差の拡大をもたらし、社会自体を傷つけている事に、我々もようやく気付き始めている。SDGs「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」等の新たなルールを事業経営にも持ち込み、社会全体の利益を考える企業が増えて来たり、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス=企業統治)の3つの観点から企業の将来性や持続性などを分析・評価した上で、投資先(企業等)を選別する、ESG投資が若い世代を中心に注目を集めているのもその表れと言ってよいだろう。企業も人々も、単なる財務的利益を追求する従来型資本主義の軌道修正を今、はかろうとしているのだ。  こうした変化は、企業と労働者との関係も大きな影響を与えることになるはずだ。多くの企業で、近年のAIやテクノロジーの発達による従来業務の機械化・自動化に伴い、企業も人も将来、「どんな仕事を行うべきか」を模索し始めているが、こうした資本主義のトランスフォーメーションというもう一つの社会変化が、同時に進行する中では、「人がなぜ働くのか」、という根源的な問いにも同時に向き合った対応も求められているという事だ。いやはや、人事にとっては本当にチャレンジングな時代がやってきた。

在宅勤務で労働生産性は本当に上がったのか? | 人事アナリシスレポート®

在宅勤務で労働生産性は本当に上がったのか?

 昨年(2020年)4月前後に新型コロナウィルス感染拡大が本格化してから1年が経つ。この間、在宅勤務に取り組む企業が増えてきた。それに伴い、新聞や雑誌、テレビ、ネットニュースが「在宅勤務で労働生産性が上がった」と報じるケースが目立つ。  この1年間の企業社会を観察していると、そこまで言いきる根拠は乏しいのではないか、と私は考えている。確かに一部の大企業やメガベンチャー企業など人事の態勢が整っている場合は、「労働生産性が上がった」と言えるのかもしれない。だが、それは企業社会全体では少数ではないだろうか。  この1年間に取材で接した企業(出版、新聞、広告、IT、メーカー、サービス、小売、商社、教育などの中堅、ベンチャー、中小企業が多い)120社ほどを見ると、少なくとも以下の問題点を挙げることができる。 ■電話やメールの返信が遅れる    担当者へ連絡すると、新型コロナウィルス感染拡大以前の時期よりも返信が遅れる傾向がある。その理由を尋ねると、例えば、「上司からの回答がない」「上司が経理課に確認しているが、今なお返事がない」と答える。担当者だけでなく、上司や他の部署も錯綜している様子が見えてくる。1年近く経った今でも、意思疎通のルートが社内で混乱しているケースは120社程の5割前後になる。 ■共有の意識が低い    これらの企業は、以前から個々の社員が独自の判断でバラバラに動く傾向がある。チームや部署として機能していない面があるようにも見える。これでは、ムリ・ムダ・ムラが増える。新型コロナウィルス感染拡大を機に共有意識が一段と低くなっている可能性がある。  例えばふだんから、上司と部下の1対1で話し合う機会が月に1回ほどしかない場合もあるようだ。これではオンラインミーティングをしようとも、スムーズには進まないだろう。必要以上の話し合いの場は設けるべきではないが、共有態勢は作らないといけない。 ■上司の部下育成力に課題    管理職の部下育成力に課題や問題点が多いために、在宅勤務になると社員間で意思疎通が一段と難しくなり、空中分解してしまうのではないか。  本来、管理職は自ら率いる部署やチームのメンバーを丁寧に観察する。部下がぶつかっている壁を見つけ、タイミングのよいところで適切な言葉や指示を投げる。部下の反応を見つつ、さらにどのような助言をするか。こんなシナリオを描き、部下と課題を共有し、納得感を高めていく。だが、これらのアプローチをしているようには思えない上司もいる。部下に漫然と仕事を与え、その進捗を確認しているだけの人も少なくない。 ■社員間の差が大きい    在宅勤務をすると、IT・デジタル機器に慣れている社員とそうでない社員との間に意思疎通のレベルの差が生じる。そして、上司と部下の間のコミュニケーションもスムーズに進むケースと、そうとは言えないケースも生まれる。部署内でもコミュニケーションギャップが目立つ。これでは、チームとして動くのは難しい。  コロナウィルス感染拡大は危機だが、労働生産性の問題点を見つめ直す好機でもある。読者諸氏の職場は、労働生産性が上がっているだろうか。

「誠実さ」のジレンマ | 360度診断

「誠実さ」のジレンマ

 「顧客や関係者に対して常に誠実に対応している。」…これは、弊社の提供している360度診断の標準的な設問群の中の一つである。  一応ご存じない方に少しだけご説明すると、360度診断とは、ある対象者を決め、その方の上司・同僚・部下など、周囲の複数の視点からアンケート形式で観察・評価してもらうことにより、日頃の行動について本人への「気付き」を与え、さらなる行動改善に結び付けてもらう試みのことを指している。 先の設問は、360度診断の中の一設問であり、弊社ではこれを「<誠実対応>設問」と呼んでいる。私は、多くの企業様の360度診断に継続的に関わってきたが、各企業様の全体傾向として、この設問に対する「周囲評価」が著しく悪い例に、今までたったの一度も出会ったことがない。すなわち、多くの企業様の従業員は、「顧客や関係者に対して常に誠実に対応している」と、周囲から高く評価されているのだ。  これは喜ばしいことではないか。私自身も、時折他者から「誠実だ」と言われ、悪い気はせず、内心ほくそ笑んだりしている。確かに大方その通りなのだろうが、見方によって、これはちょっとまずいこともあるのではないかと、最近私は思うようになった。  この「<誠実対応>設問」を、答える方(周囲評価者)はどのように受け止めているのだろうか。付随するフリーコメント等から解釈すると、ひとまず二通りの意味合いを読み取っているらしい。一つは「とにかくこの人はまじめで一生懸命で完璧を目指して仕事をしています」という「まじめでストイックな性格・行動」という意味合いであり、もう一つは「とにかくこの人はよく相手の話を正確に受け止めて適切に応答しています」という「協調性・ホスピタリティがある」という意味合いである。やはり一見非の打ちどころもなさそうだが、しかしそれは一面だろう。  「まじめでストイックな性格」が好ましいのは、本人の目指していることや取り組んでいることが好ましいときだけである。極端な例を述べるようで恐縮だが、分かりやすいので述べておくと、ナチス政権下の官僚たちは、きわめて忠実でまじめだったからこそ、今からは考えられないような政策を徹底して推進し、甚大な被害を引き起こしたのであり、同様の政策を掲げていた、とある近隣同盟国よりも、戦後遥かに大きな非難に晒された。その近隣同盟国の人々はといえば、ナチス政権下の官僚たちよりも、ある意味遥かに緩く適当で「ふまじめ」だったのだろう。敢えて比べれば、どっちがましだったのだろうか。  「協調性やホスピタリティ」も実は同様であり、「何に協調し、何を歓待するか」に拠る。やはり極端な話だが、わかりやすいので述べておくと、旧ソ連スターリン体制下において、スターリンの演説が終わった後、聴衆の拍手はつねに長時間やまなかったという。それは感動的な演説だったのかもしれないが、最初に拍手をやめた者が忠誠心を疑われて粛清されるのではないかと恐れ、誰も最初にやめられなかったのだ。誰もが倒れそうになり、「もう限界だ」と誰しもが思いはじめた時、その空気を察して、一斉にほぼ同時に拍手がやむのだった。こういうときに人は、周囲のちょっとした変化にも敏感になるのだろう。彼らは結局、スターリンの治世を底堅く支えることになった。そして協調性の正体とは、実は大概このような粛清や村八分になる恐れに近い。  これらの話を、「昔話だ」「極端な例だ」と切り捨てられるだろうか。例えば我々は、仕事が調子に乗ってくると、「ゾーンに入る」と言い、「フローに入る」という言い方をする。そのような集中状態は、高い成果に結びつくと言われているが、取り組んだ先のことまで見えているのだろうか。そしてその「成果」と言っても、それが好ましいのは、取り組んでいることそのものがまともなときだけである。本当に今われわれが取り組んでおり目指していることが、将来・後世に渡って評価に値することなのかどうか、明確に判断する基準を持つことは、ごく控えめに言っても難しい。  なるほど「誠実である」ことは、基本的にはのぞましいことだろう。しかしあなたは、「何に対して誠実なのか」を見失ってはならない。もしあなたが無自覚であり、後からまずかったことに気付くとき、あなたはむしろ、「誠実であった」ことを強く後悔するはめになる。「不誠実であったほうがまだましだったのではないか」と。

人事評価の限界 | スマートアセスメント®

人事評価の限界

 客観的な能力評定の手法として使われるヒューマンアセスメントは、正確には「アセスメントセンター方式」と呼称される。この手法は第二次大戦中、将校(一説には諜報員)の選抜手法として生まれ、各地にアセスメントセンターが設置されたことが呼称の由来と言われる。アセスメントセンター方式を特徴づけるのは、シミュレーションによる能力測定ということであり、その有効性は、社会心理学者クルツ・レビンが以下の方程式で示した原理を前提としている。  レビンいわく、個人がとる行動は、個人特性と環境との関数である。ゆえに、環境を職務シミュレーションとして固定することで、その環境下の行動発揮を観察・分析すれば個人特性を評定できる。対象者が経験や職場の異なる人々であっても共通環境で評定できるし、シミュレーションだから経験したことのない職務環境での行動発揮も診れる。例えばまだ経験したことのない管理職環境をシミュレーション演習とした評定は、管理職の昇格審査にきわめて多く使われているから、アセスメント=管理職昇格審査という理解が一般的になっている。  この方程式からは、通常企業内で行われる人事評価の限界もまた、見えてくる。業績評価は結果や目標達成なので明快だが、能力評価や行動評価では、個人能力の正確な把握は原理的に難しい。レビンの式でいえば、職場での能力発揮行動は、職務の慣れ具合や長くともに働いてきた良好な人間関係、上司との相性などなどといった「環境」と個人が有する「能力・資質」の両方が相まっての結果として発揮度合が決まるからだ。  そうであっても、貢献度合いを評価するという意味では何ら問題はない。能力評価とは保有能力ではなく発揮能力、発揮行動を問うのだという評価原則はつまり、貢献に結果しているかどうかを評価することに他ならないからだ。「環境も含めた能力」の発揮を評価するのが、企業内で行われる能力評価、行動評価ということである。 問題になるのは、個別育成や組織的活用の基盤となる個人能力・資質を、人事評価では正確には把握できないことだ。もちろん、環境変数に惑わされず、個人特性を見極め得る慧眼のマネジャーはいるかもしれないが、その彼彼女とて、部下の未経験職における能力発揮可能性を見極めるには、特殊なトレーニング(アセッサー養成訓練のような)抜きには難しいだろう。社内の適材を探し出して配置する、あるいは能力開発を個別的に効果的に行う――そうしたタレントマネジメントの起点情報としての個人特性把握には、人事評価情報は使えない。 かくして、管理職よりも下の階層に対して網羅的経年的にアセスメントセンター方式による測定を行う取り組みやリスキリング施策へのアセスメント組み込みのニーズが増えてきた。あるいは、イノベーションをにらんで事業開発型人材の発掘のためのアセスメント仕様設計などの要請もある。その採用局面への展開の事例もある。タレントマネジメントとは現有人材の保有能力の最大活用を目指すものだとすれば、必然的に、こうした正確な能力測定機会をさまざまに設けざるを得ないということである。

組織の力を引き出すために、人間的な側面にフォーカスしよう | モチベーションサーベイ

組織の力を引き出すために、人間的な側面にフォーカスしよう

 『A社は、ほとんど異動がなく分業体制による業務の効率性を追求していたが、他社との競争に対応するために積極的なローテーションを導入。最初は異動に対する抵抗感が強く、象徴的な管理職の異動から始まり、徐々に一般社員も異動するようになった。異動者からは、「学びがあった」とその価値が周囲に広まる。部署間の理解を深めるために説明会やワークショップが開催された。複数業務経験を昇格の要件とし、毎年一定数の異動を実施。若年層から異動希望の声が上がるようになり、異動の順番待ちも発生した。積極的なローテーションにより、一部の業務効率や品質に一時的な低下が見られたが、会社は社員の能力向上を重視し、業務の標準化、業務マニュアルの整備、評価制度の見直しなど対策を講じた上で、方針を継続。入社時から異動が当たり前となり、異動経験者から未異動者への不満も生じたが、時間をかけて異動が当たり前の文化が形成された。』  この例では、少数の影響範囲から始めて、効果を感じた人から口コミを通じて変化の波は少しずつ広がっていきました。そして、新入社員に対しても同じ考え方を適用していくことで、早いスピードで適用者の比率が増え、徐々に組織全体へ浸透していきました。  しかし、ここで興味深いのは、途中から「異動しない人がずるい」というような声が大きくなり、「異動をしていない層」に対する同調圧力が強くなったことです。最初に異動の効果を感じた人は、新たな発見や自分自身が新しい何かをできるようになったことで、仕事の面白みや充実感を感じていたはずです。それが途中から、一部の層において変化していきます。制度の目的が腹落ちしていない、周囲との関係性の面から多数派でいたいなどの理由があったかもしれません。                   組織には、「ハードな側面」と「ソフトな側面」があります。組織のハードな側面とは、組織構造、制度や規則、職務内容や仕事をする上での手順などをさします。一方、ソフトな側面とは、人の意識やモチベーション、人々の関係性、リーダーシップ、組織の文化や風土などをさします。いわば、「人」や「関係性」など人間的側面です。どんなに立派な制度や精緻なルールを整備して、計画通り運用し、ハードな側面を整えても、組織のソフトな側面(人間的な側面)の影響で、当初のねらい通り、目的が達成されないことがあります。組織の力を強くするためには、両方の側面に焦点をあてて取り組むことが必要です。組織開発の先駆者であるダグラス・マグレガーは、「組織における人間的側面は重要なマネジメント課題である。」と主張しています。  人は、「いやいや仕方なしにやる」ことによっては活き活きとせず、その人が持つ力が発揮されません。自ら「面白がってやりたい」と感じた時に活き活きとし、その人らしさや力が発揮されてきます。ソフトな側面へのアプローチは、一朝一夕にはいきませんが、是非取り組みたい課題です。そしてそれは、人事領域に関わる方の仕事の面白味・充実感につながるのではないでしょうか。   以上

褒める文化がもっとあってもいい | モチベーションサーベイ

褒める文化がもっとあってもいい

 これまでのビジネス経験から、褒め上手な人は部下を育てることが上手く、かつ真の信頼関係構築に長けています。一方、褒め下手の人の下で部下は育たないと強く思っています。最近、褒め上手な人に出会わないなとふと思い、褒める文化ってもっとあっていいと思いながらキーボードを打っています。自分自身も褒められて伸ばされたと感じていますし、若い世代の人を育成するには「褒めて伸ばす」がしっくりきます。  組織の中で働く以上、人間関係を円滑にするためのコミュニケーションは欠かせません。部下の指導や同僚とのやり取りのなかで、「褒めて伸ばす」というキーワードがあります。当社が提供している「360度診断」においても「褒めて伸ばす」の設問が存在します。  「褒め言葉の3S」というものもあります。「すごいね」「さすがだね」「すばらしいね」の「3S」です。「褒める」「褒めて伸ばす」のワードが注目されることを個人的に願っています。  褒めるだけで部下が成長したら苦労しないと言う人もいるでしょう(当たり前ですが褒めるだけで成長などあり得ない)。ANAグループでは、互いの仕事のよいところを見つけたら、それをカードに記入して本人に手渡す「Good Job Card」を推進し、褒める文化を醸成していると聞いたことがあます。2001年から始められて、全社に浸透するまでには5年程の時間が必要だったようです。  「褒める文化」について、肯定派・否定派、どちらですか?私はもちろん肯定派です。誰かに褒められることにより、脳内神経伝達物質であるドーパミンが分泌され、意欲が高まることはよく知られていることです。多くの人が、恋愛・家族・子育ての中で、「褒める」ことを自然に、または意識的に行っている(きた)はずですが、仕事になると「褒め上手」な人は少ないと感じてしまいます。  管理職に「褒めて伸ばす」とのミッションを与えたとしても、褒める習慣がない人には難しいことかもしれません。前述のとおり、私は、褒め上手な人は人を育てることが上手いと強く思っています。採用が厳しくなっている中、自社内での人材育成は必至です。ANAグループのように「褒める文化」の醸成を考えることは、企業にとってプラスしかないと思います。こんな事と感じてしまうかもしれませんが、「褒める文化」には否定や拒絶とは真逆なため、今流行りの心理的安全性にも繋がるはずです。  最後に、部下を育てることが上手と思われる人の何気ない行動を2つ紹介。 ・なかなか仕事内容で褒めることができない相手に対しては、「いつもありがとう」「いつも助かっているよ」と伝えている<「アクノリッジメント」(存在承認)>。 ・挨拶にプラス一言を上手く使える。朝であれば、「おはようプラス(例)昨日の提案GOODだ ったよ」。挨拶ひとつで相手の印象は変わります。 以上