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column

会社と社員の距離

会社に対する社員の意識が変わったと言われるようになって久しい。高度成長期からバブルの時代まで、社員は終身雇用の枠組みの中で年功序列的な昇進・昇格が約束され、その見返りとして会社に対し忠誠を尽くすことが当然のことであった。会社は安定的な賃金を支給し、社宅を提供し、社内運動会や社員旅行に家族ぐるみで参加するのも当たり前のように行われてきた。その結果、社員は親しみを込めて勤務先を「うちの会社」と呼ぶようになり、これはとりもなおさず「会社と社員の距離」が極めて近かったことを意味する。
ちなみに私が子供の頃、私の父は地方金融機関に勤務しており、まさしく会社と極めて近い距離での生活を送っていた。周りが同じ会社に勤める人ばかりの社宅に住み、運動会、旅行、釣り大会、等々の行事に参加しても同じ会社の関係者ばかりと言った状態であった。しかし、これは決して特別な話ではなく、当時の多くの会社員とその家族が同様の生活を送っており、それに対し何らの違和感も持たなかったのである。

バブル崩壊後、多くの会社で終身雇用や年功序列の仕組みを維持することが困難となり、それまでの会社と社員の関係は変質を余儀なくされた。会社に忠誠を尽くしても、その見返りを会社が与えてくれないと社員が感じ始めたところから「会社と社員の距離」は徐々に遠くなり始めた。社員と上司、社員と社員の関係も、以前は同じ会社と言う運命共同体に勤める同志だったものが会社と雇用契約を結んだ個人同志との関係へと変貌して行った。年功序列的な賃金体系から成果主義的な賃金体系への移行は少数のハイパフォーマーを満足させることはできても、それ以外の多く社員の満足にはつながらなかった。

もちろん、この変化の原因としてはバブル崩壊後の事業環境の激変だけでなく、社会全体の人間関係の変質も大きく影響しているのであろう。会社の懇親会や忘年会と言った従来の価値観からすると大切な社内コミュニケーションの機会も最近の若い社員には敬遠する人が多いと聞く。以前なら先輩社員から多くの経験談や非公式な情報を入手するせっかくのチャンスとばかり、先輩に酒を注いで回るのが若手の常識的な行動だったが、現在の若い社員は世代の異なる先輩社員とは話が合わないと言ってこうした機会を避けたがる傾向にあるらしい。

話は逸れるが、先日、通勤電車に乗っていて面白いことに気付いた。その電車はドアの左右に横向きのシートがあり、ドアとドアの間の車両中央部に4人が向かい合って座れるボックス席が配置された通勤電車である。ドア左右の横向きシートは中央部のボックス席に比べて背もたれが低い上、乗り降りする人も多いので落ち着かないため、以前なら電車に乗って来た人は空席があればまず中央部のボックス席に座ろうとしたものである。しかし現在の若い人は違う。ボックス席に空席があってもそこには座ろうとせず、ドア左右の横向きシートに座ろうとするのである。若い人は体格が良いので足を伸ばせる席が良いのだと言う意見もあるが、私の見解は違う。つまり見知らぬ人と目と目が合ったり、場合によっては見知らぬ人との会話を余儀なくされる可能性があるボックス席を潜在的に回避しているのだと思う。前述の宴会を避ける若い社員の行動と同じで、自分と同じ世代、あるいは話が合う人以外とのコミュニケーションを避けたい意識が現れているのだろう。

少し前のことだがある調査会社が従業員500名以上の企業に勤める会社員に対し、社長や会社に感じる「気持ちの上での距離」に関する調査結果(注)を発表した。それによると社長は火星にいるくらい遠いと回答した社員が2割おり、会社との気持ちの上での距離については半数が「遠い」と回答したとのことである。問題なのは会社との距離が遠いと答えた社員の多くはモチベーションが上がっていないことである。逆に会社との距離を縮めるための施策として最も重要なのは「会社の理念や戦略を認識し、共感できる」こととの結果も出ている。

前述のとおり昨今の経済環境下においてはバブル期以前のように社員の働きに対してポジションや金銭で報いることは難しくなってきている。これをそのまま手をこまねいて見ているのでは「会社と社員の距離」は決して縮まらず、社員のモチベーションは上がらない。だが幸いなことに会社側から積極的なコミュニケーションを社員に働きかけ、社員が「会社の理念や戦略を認識し、共感できる」ようになれば「会社と社員の距離」を縮めることができるのである。また社員への金銭的な報いが難しくとも、会社側が社員のニーズを汲み取り、知恵を絞れば所謂「非金銭的報酬」として社員に報いることも十分可能であろう。金をかけずに「会社と社員の距離」を縮める方法はまだいくらでもあるのである。
(注)出典:社長や会社に感じる「気持ちの上での距離」に関する調査(JTBモチベーションズ)

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