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column

あふれかえるデータが判断力を鈍らせる

 インターネットが普及し始めた1990年代後半からの情報技術の急速な発展が、職場環境や働き方をどれだけ変えてきたか、もはやネットのない世界なんて知らない世代もいるぐらいだから、遥か昔のことのように感じるが、たかだか20数年間のことだ。私たちは既に驚異的なレベルの働き方改革を体験してきているのだ。

 情報技術の目覚ましい発展により、個人で大量の情報を容易に得られるようになった一方で、日常的に処理しきれないほどのデータにさらされるようになった。ビジネスパーソンは「何かを探す」という行動に年間に150時間もの時間を費やしているといわれているが、机の引き出しから資料を探したり、PCやファイルサーバのファイルやフォルダ、大量に貯まったメールなど、膨大なデータの中から必要なデータを探し出したりするのは、想像以上に仕事の生産性に悪影響を与えていると考えた方が良い。

 人には意思決定を長時間繰り返すと判断の質が低下する「判断疲れ」という現象があることが知られている。スタンフォード大学のジョナサン・レバーブ教授らが、裁判所の仮釈放委員会の「服役中の囚人を仮釈放すべきか」という決断について分析を行った実験によると、午前の初めの方に審査した囚人に対しては仮釈放を認める率が高く、時間が経過するにしたがって仮釈放を認めなくなる傾向がみられるという。つまり、重大な判断を続けて行うことでエネルギーを使い、後半は「判断疲れ」に陥ったというわけである。この例ほどではないだろうが、探したり調べたり、という作業も取捨選択、判断を伴う作業であるから、長時間繰り返すことによって、判断の質の低下が生じることが想像できる。つまりビジネスにおいて、重要な判断をしなければならない者は、極力無駄な判断をしない、というのが合理的なのである。かのスティーブ・ジョブズも常に黒のタートルネックシャツを身に着けていたのは「今日は何を着るか」という選択に頭を使いたくなかったから、と言っていたのは有名な話だ。

 人間の生物学的な特性を変えることはできない以上、企業はこのような付加価値を生まない時間を削減し、社員が判断力のレベルを維持しやすい職場環境を整備しなければならない。近い将来、業務システムで扱っているようなデータだけでなく、画像や音声、Web上の口コミ情報、メール、SNSのログといった、従来のシステムでは分析が難しかったような種類のデータも収集・蓄積し、利用者の目的に応じて処理をすることができるようなデータマネジメント基盤が整備されるようになる。分析、将来予測といった業務が人工知能に置き換わっていくことが予想されている中で、人は高度な判断力が求められるようになるだろう。先進的な企業はすでに、そのような取り組みを進めており、成果を出しつつある。まだ着手していない企業は、組織内の情報を整理、蓄積し活用するためのデータマネジメント基盤を整備することが急務なのである。

 余談ではあるが、上述の仮釈放委員会の実験の結果から、上司へお伺いを立てたり、あるいは採用面接を受けたりするのであれば、できるだけ早い時間帯、できれば朝一番の方が、エネルギッシュな上司や面接官の好意的な判断を期待できるかもしれない。

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