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見本で気づく

執筆者: 吉岡 宏敏 人材育成

 『わが子に教える作文教室』という本を読んだ。作者は、清水義範さん。小林信彦、筒井康隆に連なる、注目すべきパロディストと評される小説家だが、この本はいたって真面目に、小学生の作文を個別添削する教室での体験にもとづく“目から鱗”の作文指導術が書かれている。

 そのなかで、作文が飛躍的にうまくなるきっかけを発見したエピソードがある。それは、同じ教室の生徒が書いたよくできた作文を見せ、読んで聞かせることだった。それを見た多くの子供たちの作文が、その後各段に良くなったというのだ。なるほど、個別添削という先生と本人の間のやり取りでは分からない、「こんな風に書いていいのか!」、「なんて面白い書き方なんだ!」と思える文章を目の当たりにできる。その気づきが何よりも作文力向上に効くのである。

 他者の見本を見て、自分の問題に気づく。このことは、組織人事の世界でも通用する。『わが子に教える作文教室』のこのくだりを読んで、すぐに頭に浮かぶのは人事評価である。一次評価者の評価表を二次評価者がチェックし変更するという閉じた関係では、評価スキルは向上しない。自分のつけた評点が妥当かどうかを判断する材料は、上司である二次評価者の指摘だけであって、しかも上司はむしろ相対評価的視点でのチェックにとどまっていたりするから、自身の評価スキルの問題には気づけない。

作文の例のように、他の一次評価者たちの評価表を見ることによって、自分の評点の付け方が客観視でき、評価のしかたが向上する。人がどう評点を付けているかを知り、自身の問題点やクセに気づき、妥当な評価を共有できるからだ。だから、「評価者会議」(=部下の評価表を公開して行う一次評価者同士の相互検証の場)が、管理職者の評価スキルを上げていくもっとも有効な手法になるのだ。

 リーダーシップ開発においても、ロールモデルが大事だといわれる。この人こそ目指すリーダーと思える現実のリーダーを目の当たりすれば、ひるがえって自身とのギャップに気づく。これから自分はなにができるようにならねばいけないかがわかる。このことは、とくに経営人材育成のシンプルな原理である。

社長の方々と会える機会があれば、「いかなる経験が、あなたが社長になるうえで有効だったか」と必ず聞くことにしている。各人各様の、極めて味わい深い見解が語られるけれども、共通する答えの一つは、「優れた社長の側で仕事ができた経験」だった。目の前で社長がどう判断し、どう行動するかを知ること以上の学習機会はない。子供でも大人でも見本例の効用はきわめて大きいのだ。

『わが子に教える作文教室』では冒頭、そもそも子供が作文を書く気になるためのポイントが書かれている。子供がはじめて、しかもしかたなく書いた作文のデキはひどい。字が汚い、言ってることが分からない、接続詞がおかしい、「楽しかったです」とばかりあるけど何があったのか書かれていない、とかとか問題だらけだが、それを指摘してはいけない。まず、ほめる。

「題名がいい」とか「この表現がいい」とか「その場の雰囲気が伝わってくる」とか、どこか見つけてほめる。それによって、書いた子をいい気分にすることが作文指導のもっとも大事な第一歩だという。ただ、なんでもほめればよいわけではない。その子が自分でもよく書けたかな思っているところを正しく読み取ってほめなければならない。そのためには、親が真剣にしっかり読むことが大前提になる。

ここもまた、人材育成で言われる「ほめて伸ばす」に通じるところだ。

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プロフィール

吉岡 宏敏 (よしおか ひろとし)

シニアパートナー

東京教育大学理学部応用物理学科卒業。ベンチャー企業経営、ウィルソンラーニング・ワールドワイド株式会社コーポレイト・コミュニケーション事業部長等を経験後、株式会社ライトマネジメントジャパンに入社。人材フローマネジメントとキャリアマネジメントの観点から、日本企業の組織人材開発施策の企画・実行支援に数多く携わる。ライトマネジメントジャパン代表取締役社長を経て、現職。

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