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column

MECE自身、モレている

「Moving Target」(動く獲物)という言葉があります。これは、「狩りに行ったときに、さまざまな情報が集まるまで待って、得た情報を精緻に分析して、正確に銃を撃っても、獲物が動けば銃弾は当たらない」ということを伝える表現として、ビジネスで用いられます。

人々の好みや状況が刻々と変化する市場では、「予測の確度があまり変わらないなら、情報量が少なく、網羅的でなくても、早く意思決定して、仮説と検証のサイクルを回し続けることが大切だ」という考えが浸透してきていますね。

また、「渋滞を解消するために道路の拡張を行ったところ、交通量が増え、新たな渋滞および環境汚染を生じた」という話も有名です。

これは、「問題症状の解消(対症療法)は、本質的な問題解決策ではない」という考え方についてお伝えするために、私がコーチを育成する際のテキストで紹介していた例のひとつです。

物事を考えるときに、分解された構成要素のうちの「特定の要素」だけに着目して(要素どうしの「つながり」を考慮に入れず)、問題症状(≠真因)を解消しようとすると、巡り巡って、問題をもっと悪化させてしまうこともあるので、気を付けないといけませんね。

このように、本質的な問題解決に臨む際には、「対象とする事象にどのような因果関係のつながり構造があるのか、システムの境界をどこに設定するか(どの変数を考慮し、どの変数を無視するのか)、想定する時間域はどのくらいか」といった「メンタル・モデル」(Mental Model)についても検討することが大切です。

「動く獲物」の話と「道路拡張」の話について、「MECE」(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustiveの頭字語で、ミーシーあるいはミッシーと発音。意味は、「相互に排他的で、集合的に網羅的で」)の観点から、改めて考えてみましょう。

「論理的思考法を身につける」という場面では、上記のMECEという条件を満たして考えているか、すなわち、「漏れなく、ダブリなく」考えているかを確認するのが大切であると教わることがあります。

ところが、「動く獲物」の話では、「漏れなく」(集合的・網羅的に)考えるのではなく、ある程度のところで、早く意思決定して、仮説と検証のサイクルを回すことが大切でしたね。

また、「道路拡張」の話では、「ダブリなく」(相互に排他的に)考えるだけでは、「要素間の相互作用」や「再帰性」などを見落としてしまって、問題が悪化してしまうこともあるのでした。 

MECEは、論理思考を進める際の「チェック項目」を意識するうえで優れているのですが、「『種々の要素どうしは相互作用を起こす場合がある』という側面について、考え落としている」ということを認識していないと、「道路拡張」の話のように、安易な問題症状の解消策(問題症状の裏返し)で、逆に事態を悪化させてしまうこともあるというわけです。

取り扱う対象がエンジンや自動温度調節器のようなものであれば、「非生物学的なメンタル・モデル」で考えるのが適切ですが、対象が自己複製や自己展開、自己再帰性などといった特徴を持つ場合、例えば、細胞や動植物、家族や組織、ビジネスや文明などを扱う場合には、「生物学的なメンタル・モデル」の方が有効であることが多いのです。

さまざまなモデルやフレームワークというものは、金科玉条のごとく守らなければならない絶対的なルールではなく、目的や対象に合わせた適切な使い方が大切であること(MECEも常に効果的なわけではないこと)を思い出していただければ幸いです。
以上

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