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column

脱線予防

 高い能力があれば、経営幹部になれるかといえば、そうではない。

 マネジメントスキルがあり、リーダーシップ行動も実践し、必要な経営リテラシーを充分に持ち合わせていても、大事な局面で感情に流された判断をしたり、自身の名誉へのこだわりで失敗したりすることがある。そうした、優秀でありながら経営幹部として道を誤ってしまうような個人特性を、エグゼクティブ・ディレイラ―という。つまり、エグゼクティブとしてのキャリアから脱線(=derail)する要因。

 具体的には、依存的、論争的、尊大、目立ちたがり、回避的、奇抜、不感知的、衝動的、完璧主義、リスク嫌い、感情的、といった性格・行動特性があげられる。もちろん、こうした傾向は多かれ少なかれ、誰しもが持ち合わせているから、問題になるのは、その度合いが強すぎる場合である。ともすればそれが、抑えきれず表出し、経営者としての道を誤らせることがある。

 だから、そうしたディレイラ―が低いことを確認することが、役員選抜のひとつのポイントになる。経営者としてのスキルレベルの測定は、「アセスメントセンター方式」によるアセスメントが有効である。シミュレーション環境のなかで、意思決定や行動をさせアセスメントすることで、思考面、対人面、資質面の必要スキルレベルを細かく評点化することができる。しかし、その中では、エグゼクティブ・ディレイラ―の測定はできない。

 評価されているとわかっているのだから、アセスメントの場ではうまく立ち振る舞おうとするのが当然である。その能力が高いと診断されたとしても、実際の現場でその能力をちゃんと発揮しようとするかはそもそも保証できない。それは、能力の有無とは別の、真摯さや実直さによる。ましてや問題ある(とたいていは本人も気づいている)個人特性は、診断の場では見せないように演じるはずだからである。

 性格診断のような心理テストも十分ではない。やってみればわかるように、項目に答えているうちに、ある程度は“演じる”こともできてきたりするからだ。役員によるインタビューや役員による日常の評価でもその検出は難しい。なぜなら、上司に対しては、「うまく振る舞おうとする」。

 ディレイラ―のレベルを診るのは、本人の周囲者、とくに部下の声を聴くのが有効である。インタビューや360度診断によって、部下がその人をどう見ているかを把握する。さきに列挙したような、ネガティブな個人特性は、日常の部下指導のなかで、滲み出るものだし、部下は実に敏感に感じ取っているものなのである。

 では、エグゼクティブ・ディレイラ―を持っていれば、経営者失格なのか。しばしば天才的な経営者には、ときに、ここであげているような人間的な欠陥もあわせ語られる伝説がある。ディレイラ―がありながら、脱線しない経営者特性はなにか。

 先日、あるホールディングスの社長に「社長たるもの」の要件を聞いた。これは社長になってから日々思うのだが、と前置きしながら彼は、なにより経営のサステナビリティを第一に考えることの重要性を強調し、「社長である“自分”を律すること」と言った。社長こそが(自身が退いた後につながる)経営の継続性を体現しなければならない。それができる自己制御能力・姿勢・意思が社長に備わるのでありさえすれば、ディレイラ―は大した問題ではないのかもしれない。

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