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坂下 幸紀

column
賃上げは企業の未来を変えられるか | 人事制度

賃上げは企業の未来を変えられるか

 「物価上昇以上の賃上げを!」をスローガンに賃上げ機運が高まっています。多くの大企業においては、かつてない強気な要求額があるにもかかわらず、満額で妥結が進んでいる企業も多い。円安による輸出企業の景気の良さなどが、その意思決定を後押ししていることもあろうかと思います。  大企業だけでなく、中小企業にもその効果を波及させるべく、賃上げによる税制優遇措置など、様々な政策が進んでいます。中小企業は大企業に比べて労働分配率が高く、生産性は低く、賃上げが利益への影響は大きい。よって様々な政策を駆使したとしても、その利益確保にかかる苦労は計り知れないものと思われます。日本の多くを占める中小企業にとって、容易で速攻性のある収益向上の施策は少なく、DXという「幻」に踊らされながらも、出来ることとして、恐る恐るそして必死に値上げ交渉を進めつつ、何とか賃上げの実現を目指している企業も多いと思います。社員の定着なき成長はあり得ない、人材確保という最大のミッションのもと、短期的な利益はいったん度外視し、株主への了承を取り付け、賃上げに踏み切る企業も多いと思います。  人的資源から人的資本への解釈が変わりつつあり、コストという短期的な視点から、投資という中長期的な視点が求められています。人材に対して労働力の対価は、賃金という意味合いだけでなく、将来に向けた投資という意味合いが強くなっていくことです。現在人的資本に関わる指標が多くありますが、人的資本ROIであろうと労働生産性や賃金生産性であろうとも、いずれにしても要素分解していくと、利益が最終的な指標の要素のひとつになってきます。当然ではありますが、人的資本経営において、利益を安定して確保、向上させていくことが条件ということです。  また今後「幻」では終わらせないようDXを推進する投資も積極的かつ継続的に挑戦し、飛躍的な成長や収益性の向上を実現させていかなければなりません。そういった挑戦の「果実」は短期的な指標だけではなく、3年や5年などの期間平均値やその期間の利益に影響を与える指標の決定係数など、中長期的な指標で見ることが有効になります。  非財務情報の開示が進んでいますが、指標をたくさん並べても、収益があがらなければ意味がありません。中長期的な指標の公開が進んでいくことが、イノベーションへの挑戦や人的投資に対する心理的なハードルを下げ、投資に対する積極性が高まっていく流れをつくっていくことはとても良いと思います。そして情報開示が進み、人的資本のPDCAサイクルをしっかり回すことで、収益向上と還元の好循環が多く生まれていかなければなりません。賃上げが企業の未来を変えるKPIとなるのかは分析や議論が必要なところですが、将来にわたり収益の安定した創出につながる企業独自の確からしい因子(KPI)が問われる時が、すぐ目の前に迫ってきています。あなたの会社の人的資本経営における最重要KPIは何ですか?

出社の是非が企業文化を語る | その他

出社の是非が企業文化を語る

 新型コロナウイルスのパンデミックは、私たちの働き方を劇的に変えました。オフィスに出社するかどうかの議論が、企業文化を浮き彫りにしています。このテーマについて考えるとき、オフィス出社を推進する人々は「会社こそが第二の家」と考え、一方でリモートワークを推進する人々は「私の家こそがオフィス」と考えているのかもしれません。    企業の視点から見れば、オフィス出社には確かに利点があります。対面でのコミュニケーションは、円滑な意思疎通やチームワークの向上に寄与します。ランチタイムやコーヒーブレイク中のカジュアルな会話から生まれるアイディアや、直接顔を合わせて行うミーティングの臨場感は、リモートワークでは再現しづらいものです。しかし、「見えないと管理できない」といった意見も聞かれますが、これは果たして本当にそうでしょうか?  一方、社員の視点に立つと、リモートワークには明らかな利点があります。まず、通勤時間が削減されることで、プライベートの時間が増えます。育児や介護などの個人的な責任を果たす時間も確保しやすくなります。通勤にかかる時間とエネルギーを節約できることは、生産性の向上にもつながります。つまり、リモートワークは「家族第一」を実現するための強力なツールとなるのです。  現在の人手不足の状況下で、企業が優れた人材を確保するためには、柔軟な働き方の導入が求められます。出社の是非を巡る議論は、このマッチングをどう進めるかに関わる重要なテーマです。ここで重要なのは、どちらが正しいかを一概に決めるのではなく、業務環境や顧客満足度などを総合的かつ客観的に評価し、合理的な解決策を見出すことです。  最終的な方針は、誰が決めるべきかという問題も重要です。トップマネジメントがこの前提を理解し、意思決定することが求められます。しかし、その際に忘れてはならないのは、世代によるITリテラシーの差や働く価値観の違いをしっかりと自覚することです。年齢が高いほどデジタルリテラシーが低い傾向があり、メールやチャットが苦手な社員もいます。一方で、働き盛りの世代は家庭や個人的な時間を重視し、もっと柔軟な働き方を求めています。  もし、会社の会議室に自動ドアが設置され、出社するたびに「ようこそ、未来のオフィスへ!」と歓迎されたらどうでしょうか?また、リモートワーク中に仮想現実のオフィス空間が提供され、バーチャルで同僚とコーヒーブレイクを楽しむことができたら?こうした未来の働き方も夢ではありません。  最終的には、企業と社員の双方が納得できる解決策を見つけることが大切です。オフィス出社とリモートワークのバランスをうまく取りながら、新しい働き方の文化を築いていくことが求められます。結局のところ、「家がオフィス」か「オフィスが家」かの議論は、私たちがどのように働き、生活するかを再定義する機会でもあるのです。さあ、あなたの会社はどちらを選びますか?

「オキシトシン」で人手不足を解消!? | その他

「オキシトシン」で人手不足を解消!?

 近年、どの業界でも人手不足という最大の経営課題に直面しています。しかし、最新の科学がこの問題解決に一役買うかもしれません。その鍵となるのが、「オキシトシン」です。オキシトシンとは、脳内で生成され、主に社会的な絆や信頼感を高める物質です。「愛情ホルモン」などといわれるものですが、オキシトシンの効能を初めて聞いた方もいるでしょう。これは組織運営にも大きな影響を与えます。  例えば、スイスの研究者が行った実験では、オキシトシンを投与された被験者たちは、他者と協力しようとする行動が顕著に増加したと報告されています。これを職場で活用することで、チームのメンバー同士が互いに信頼し合い、助け合うことで、より生産性の高い環境を作り出すことができるということです。  しかし、ここで気を付けてほしいのは、オキシトシンの「副作用」です。仲間意識を高める一方で、自己防衛本能が強まり、他を排除する傾向も見られるのです。これは、例えば、ある部署だけが結束を高めすぎると、他部署との対立が生じたり、最悪の場合、企業全体の調和が乱れることにつながりかねません。この点を理解し、慎重に取り組む必要があります。  また、オキシトシンの効果は一時的なものです。そのため、持続的な効果を得るためには、定期的なアプローチが必要です。具体的な施策としては、定期的なチームビルディング活動や、クロスファンクショナルなプロジェクトを通じて、部門を超えた交流を促進することが有効です。これにより、全社的な一体感が生まれ、個々の社員が企業全体の目標に向かって協力する姿勢が養われます。  さらに、企業文化として「信頼」と「協力」を根付かせる取り組みも重要です。社員が安心して意見を述べられる環境を整えることで、オキシトシンを自然に分泌を促すことができます。例えば、オープンなコミュニケーションを奨励する社内制度や、定期的なフィードバックセッションを設けることが挙げられます。これにより、社員同士の信頼関係が強化され、職場の雰囲気も向上します。  そしてリーダーシップの役割も重要です。リーダーがオープンで信頼できる存在であることが、社員のオキシトシン分泌を促進します。リーダーは、日々の業務の中で信頼関係を築くための行動を意識的に取る必要があります。例えば、部下との一対一の対話を増やし、個々の意見や悩みに耳を傾けることが求められます。  オキシトシンをうまくコントロールすることで、組織の結束力を高め、人手不足という難題に立ち向かうことが可能だと思います。ただし、その副作用も理解し、バランスを保つことが肝要だということです。オキシトシンを測定するキットもあり、経営者や人事部長の皆さんが、科学の力を借りて、健康経営や人的資本の開示要求に応えていくなどしていくことで、明るい未来が築けるかもしれません。 以上

「人事評価が変われば会社が変わる」 | 人事制度運用支援

「人事評価が変われば会社が変わる」

 人事評価制度がうまく機能している企業はほとんどありません。経営目標の達成や人手不足のなかで人材を獲得、育成、定着させていく人材戦略の実現において、人事評価制度の重要性はますます大きくなりつつあります。    本セミナーでは、多くのコンサルティングの実践を通じた知見をもとに、評価に曖昧さや不公平感が生じる背景を探り、経営目標に直結する評価の在り方を再構築するための考え方やヒントをお届けします。具体的には、人事評価の設計と運用、分析といったサイクルを実現していくために、評価項目の設計や運用の工夫、評価者のスキル向上策などをご紹介します。  経営層や人事責任者の方々が、人事評価は解決が難しい「経営課題」ではなく、人材戦略を実現していく「経営改善ツール」に変えるための気づきが得られる機会となれば幸いです。

「どうしましょう?」ではなく「こうしたい!」 | その他

「どうしましょう?」ではなく「こうしたい!」

『「どうしましょう?」ではなく「こうしたい!」』は前職の会社のDNAである。  多くの人事の責任者や担当者から「どうしたらいいですか?」と話をいただく。「こうしたほうがいいですよ」とか、「一回正確に現状を把握したほうがいいですね」などアドバイスをさせていただく。「目的はなんですか?」「どうありたいですか?」など確認をさせていただく。目的や問題の本質が明確にならないと、有効な解決もできない。その点しっかり確認させていただかないと始まらない。ただこの目的や問題が曖昧なことも多く、明快かつ意志をもって語られる方は意外と少ない。「どうしましょう?」が多く「こうしたい!」がまだまだ少ない。  テクノロジーの進化のスピードが速く、ERPから人事システム、タレントマネジメントシステム、BIツールなどと、人事管理のテクノロジーは進化してきた。AIなどの活用したシステムも急激に増え、カオス状態だ、今後もこの状態が続くのかなとは思う。私自身、当時社内のSEなどをしていたのでシステムに触ることに抵抗はないが、使いこなせるほどその仕組みを正確に理解し、使いこなし、アドバイスができるかといえば、相当学習が必要だ。しかしシステムの目的や本質は当時私が社内SEをやっていたい時代と、さほど変わっていないと感じる。多くの人事の責任者や担当者とシステム化の状況なども話す。「データをどう分析すればいいですか」など質問は多い。また「まだデータをためている段階で目的はこれからです」など、びっくりするような回答もいただく。そんなことわかっているのだが、データを溜めることが目的ではない。必要がないのならデータなんか溜めなくてもよい。結局、この何年も人事管理のレベルは高くなっていないと感じる。「どうしましょう?」ではなく「こうしたい!」が進化していないということだ。    人事の重大な課題解決には時間がかかる。人事領域が法的な制約を受けており、ドラスティックな解決が難しく、社員の気持ちの面など影響が計り知れない。よって慎重に進めることになる。法律の改定、目先の問題に追われ、本来時間をかけて取り組むべき課題への対処が後回しになりがちだ。  「こうしたい!」を進化させるために、大切なことは意志と能力だ。日々のマネジメントの中でのひとりひとりへの関り方が重要になる。すべての仕事に目的意識を持たせること、しつこいくらい。これが無いと考える力が身につかない。またしっかり対話する、誠実に。そうしないと信頼関係が生まれない、組織に自分の意志をささげたいという気持ちは醸成しない。 「こうしたい!」の実現には時間がかかる。どうしても目の前の仕事に追われ、それが実現できない。体制づくり、業務の割り当てが重要だ。先の読めない時代であるからこそ、多くの企業の「こうしたい!」を進化させる、巧妙なマネジメントと強力なリーダーシップが求められている。

二刀流人材 | 人材アセスメント

二刀流人材

 有名な方なので、詳細な説明をする必要はないと思いますが、投打二刀流の大リーガーの大谷翔平さんについて少しだけ説明させてください。プロフェッショナルな世界というのは、ある特定の領域を極め、研ぎ澄まされた才覚をもった人材が更なる努力を重ね、しのぎを削っております。だからこそ、その領域でトップレベルに君臨することに最大限の価値があり、賞賛されます。大谷翔平さんは、本来1つしか勝ち得ないトップレベルの領域を2つもっていることで、注目を集め、また唯一無二の存在として君臨しています。まさに「二刀流のプロ」と言えます。単純に2倍頑張れば、実現できるわけでなく、いずれも追及しつつ、相互の刀を磨きあっているかのようにさえ思えます。二刀流を実現するための技術を持っているに違いありません。  この二刀流の技術はビジネスの中でも大変参考にすべきと思います。スキルや適性などの特徴面から対極にある相容れないであろう概念を組み合わせることで、新たなる価値や相互の機能および全体の効果の最大化を果たせるのではと思います。単なる人事ローテーションやジェネラリストとは一線を画す必要があります。対極にある相容れない領域を2つ極めるという点が重要です。  最大の効用は万能さが高まる点です。人事領域おいていうならば、人事制度などのハード面の仕組みしかつくれなかった人が、組織開発など働く人と人との関係性を高め、組織を活性化させるソフト面の施策までできるようになるようなことです。守るために攻める、攻めるために守るなど、この柔軟性は魅力的であり、対極となる相容れない二つの価値観を受け入れることの謙虚さ、視野の広さ、視座の高さなども磨かれるはずです。人間性も高まるかもしれません。  失敗しがちな人事の施策の特徴として、この対極にある相容れない領域に対する取り組みのバランスの悪さがあげられます。人事システムは作ったのだが、活用ができなかった。新しいビジネスを担う人材を適切に採用はしたのだが、外部環境に転職したほうが活躍できる人材の退職勧奨ができなかったなどです。この二刀流を極めたときにこそ、真の目的を達成が最も効果的に得られるはずです。  また大切なことは役割分担ではなく二刀流人材であるということです。どうしても効率さを追求すると組織を分け、担当を分けるなど体制をとるのが一般的ではあります。ただおそらく対極にある相容れない人材どうしだからこそ、連携の難しさが生まれてしまいます。二刀流人材がたくさん存在することで、この心配はとても少なくなります。二刀流人材が行う施策は効果的であり、組織のパフォーマンスが最短で高まるということです。そしてそうそう容易には実現はできないであろう二刀流を極めるこのわくわくするチャレンジングな体験は、エンゲージメントを追求していくひとつのトレンドにさえなるかもしれません。

50年後、定年はなくなります | 人事制度設計

50年後、定年はなくなります

 わたしたちは何歳まで働かなければならないのでしょうか。老後をそれなりに過ごすための金銭的な事情もあるでしょう。ずっと好きな仕事を続けたい、引き継ぐ人がいないから、などなど、置かれている立場などにもよって、働く目的は様々だと思います。また中高年の方にとっては、来るべくしてきた親の介護、突然の病気など、働きたくても働けなくなることもあるでしょう。若い方にとってはそんな先のことは考えたことないし、考えられないという方もたくさんいることでしょう。そんな未来をおぼろげながら理解し、不安に感じながら働いている方がたくさんいることでしょう。  昨年、高年齢者雇用安定法改正に伴い、70歳までの雇用延長が努力義務となりました。そして人生100年時代とのことです。人生を謳歌するという意味でいえば、寿命より大事なのは健康寿命です。厚生労働省によると健康寿命は女性で75歳、男性で72歳です。そして2001年から2019年で約3歳延びており、健康志向、安定した社会環境など、様々な影響を受けていると思いますが、しばらくはこの寿命も延びていくでしょう。そう考えると70歳までの雇用延長は、みんな70歳はまだ元気だから働いてください、ということなのでしょう。  そういった背景も受けて、定年後の再雇用制度の改定を予定している企業が増えています。多様な社員側の働く事情と、企業側の働いてほしいという需給のバランスを保つ、企業独自のシステムを構築していく必要性が高まってきています。ただその際に思うのは、数年先の程度の短期的な目線では、本質的な解決はできないということです。だれも未来がどうなっているかなどはわからない、そんな未来に自分はいないと思うと無責任になりがちで、パッチワーク的な課題の解決になりがちです。若い世代にまで視野を広げ、将来目指す組織のあり様などをイマジネーションするなど、継続的に取り組んでいく姿勢が今まで以上に求められているように感じます。  社員の健康や家族の状況など、企業の取り巻く組織の状況は変化し続けるでしょう。そして70歳まで働くつもりもなかった世代と、75歳以上働く可能性が高い若い世代の双方の健康寿命や時間、金銭的な価値観は変化し、そのギャップの意味も変化していくことでしょう。この変化し続ける複雑で難解な状況を踏まえながら、需要と供給のバランスを絶妙に保つために、人事のファンクションの継続的な強化はやはり避けられません。そして強化していくうえで、真っ先にしなければないことは、やはり目先の定年再雇用制度の見直しだけではありません。社員にとって企業の中で働くことの目的や意義は何かということに、向き合い続ける企業の覚悟が求められているのかもしれません。

ひとりひとりの社員に向き合う組織力~人事評価の本質~ | 人事制度運用支援

ひとりひとりの社員に向き合う組織力~人事評価の本質~

 求める人材要件に対して正確に測定し、充足を把握する。社員からは公平性、公正性を求められる。人事評価が機能しないと、社員のやりがいは低下し、離職に至る。社内の片隅でひっそり活躍している宝物を見つけることもできない。給与を決めるだけの形式的、儀式的、属人的な人事評価は人材育成に貢献はしない。戦力は安定せず、戦う集団にならない。人事評価はあるべき人材のポートフォリオを実現していく上で、重要なファンクションと言わざるをえないが、とにかくこの人事評価が機能していない。  そもそも多様な人材の活用を求められているなかで、求める人材要件も多様になり、一律ではない。人材要件を詳細に定義し、評価していくこと自体、無理な話かもしれない。そもそも全く同じ人間など存在しない。何らの基準に対して、達しているか、達していないかの絶対評価も重要ではあるが、ひとそれぞれの特性を把握することが改めて重要になりつつある。  多くの企業で評価は管理職の重要な役割となっている。たったひとりの管理職に多くの人材について要件に対して詳細に評価する責任は重い。その役割を課されることに負担に感じるのも無理もない。本来は評価者である上司が指導をすべきであるが、その上司も評価者を評価、指導できていないことは多い。そんな簡単なことではないということか。  しかしなぜこんな人事評価になってしまったのか、軽視されていたわけではないが、ひとりひとりの人材に向き合う重要性が相対的に高くなかったことにあると思う。年齢を重ねるだけで給与があがってきた日本的な事情や、人口増加を背景に経済的な発展を果たしてきた経済事情などが考えられる。年齢とパフォーマンスのアンバランスの放置。変わらない、変えない、保守的な事業戦略。ただ過去の関係を続けるための予算の策定、それでも成り立ってきた。人材をひとくくりに定義し、何か問題があってやり過ごしていくマネジメントで事業が成立していた。    改めてここでいう必要もないとは思うが、今後ごまかしは通用しない。先の読めない事業環境に対して、リスクをとり、挑戦しつづける集団になること、ひとりひとりの人材を生かすといった観点で組織的に向き合う重要性が高まる。タレントマネジメントに情報管理の業務改革やテクノロジーの進化による人材の特性分析はITベンダにぜひともその発展をお任せするとして、それを使いこなす人材の育成、そして組織としてひとりひとりの社員に向き合う組織力が求められている。    先日の娘の高校の入学式、学年担任の言葉が印象的。「ひとりひとりに担任はいますが、教員全員がひとりひとりを見守ります」と。難しい問題はその責任をもつ人々が当事者意識をもって、常にアンテナを張り、得られた情報を交換し、適宜対応していく組織力が欠かせない。ひとりの子供を養っていくことも相当大変と感じるが、仕事とはいえ、40名もそんな「大変」を一手に引き受け向き合っていこうとする先生の意気込みは尊敬でしかない。未熟な生徒に向き合うことは容易ではないが、しかし大人になったはずの社会人も相変わらずだとは思う。    経営者が先頭にたって、次の世代に向き合って、牽引していく。そんな経営者を見て多くの管理職がもっと人に向き合うことに時間と労力をかける。ひとりひとりをただ純粋に大切に思い、継続的、一貫性をもって、忍耐強く、謙虚に、そして誠実に向き合っていく組織にしていくこと、それが「この会社で働きたい」を増していくはずだ。