小野寺 真人 |1 |執筆者|㈱トランストラクチャ

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小野寺 真人

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「裸足の国に靴を売りに行った営業マン」から学ぶ <br />~ 人事が磨くべき視点転換と可能性創造力 ~ | 人事コンサルティング

「裸足の国に靴を売りに行った営業マン」から学ぶ ~ 人事が磨くべき視点転換と可能性創造力 ~

ある国に、二人の営業マンが派遣された。現地では誰ひとりとして靴を履いていない。 ひとりは肩を落として言った。「ここでは靴は売れません。誰も靴を履いていないのです」。もうひとりは目を輝かせて言った。「ここには無限の需要があります。誰もまだ靴を履いていないのです」。 同じ現実を見ていながら、解釈がまったく異なるこの寓話はマーケティング領域で語られることが多いが、実は人事の本質を象徴している。なぜなら人事とは、「現状評価の仕事」ではなく、「未来可能性に価値を見出す仕事」だからである。   心理学では、出来事を別の枠組みで捉え直すことを「リフレーミング(Reframing)」と呼ぶ。裸足の国の二人の営業マンは、その違いを端的に示している。リフレーミングは現実を否定したり、美化したりする技術ではなく、“事実を変えずに意味づけを変える”視点である。人材開発の世界ではこれを「ポジティブ・アプローチ」と呼び、課題や不足の指摘よりも「今ある強み」「これからの可能性」に焦点を当てることで、人が行動するエネルギーを引き出す考え方として重視されている。 「裸足=市場がない」と捉えるか、「裸足=潜在的市場」と見るかで、未来は大きく変わるのである。   人事の現場にも、まったく同じ構造が存在する。企業では「若手が受け身だ」「管理職が育たない」「イノベーションが生まれない」といった声が聞かれることが多い。そのとき、「人材の質の問題」と断定するのか、それとも「学習機会や成長設計の不足」と捉えるのかで、施策の質も方向性も結果も大きく変わる。評価制度や育成施策が期待どおりに機能しない背景には、「足りない点」や「リスク」にばかり焦点が当たり、行動が生まれるデザインになっていないケースが少なくない。裸足を欠点と見るか、靴を履く未来の伸びしろと見るか、その違いが組織文化や価値観を決定づける。   さらに、社員が主体的に動かない状況に対して、「やる気がない」「意識が低い」と断じるのは簡単だ。しかし、彼らはただ、“履きたくなる靴”や“歩きたくなる道”を与えられていないだけなのかもしれない。人事の役割は、制度や仕組みといった「靴」を提供することだけではなく、「歩く理由」「歩き方」「歩きたくなる未来の景色」をデザインすることである。人は納得・成長実感・挑戦意欲が揃ってはじめて、自ら歩き出す。   そして、この寓話は多様性という現代の重要テーマにも通じる。裸足で生きる文化があるなら、それを否定するのではなく、「その文化に合った靴」を考える想像力が求められている。これは特定の価値観やキャリア観を全員に押しつけるのではなく、一人ひとりの強み・志向・歩幅に寄り添った機会設計を行うタレントマネジメントそのものである。   人材を「履いていない」と見れば組織は停滞し、「まだ履いていない」と見れば未来は開ける。ここには単なる言葉遊びではなく、人材マネジメントの思想的な分岐点が存在する。「できていない人」を減点評価するのか、「これからできる可能性を持つ人」として育成するのか。その違いは、組織文化、学習し続ける土壌、新しい挑戦が生まれる風土と直結する。可能性を前提に語れる組織は、失敗を学習資産へと転換し、また挑戦者を支援し、経験の差を機会の差にはしない。   現代の人事に求められているのは、制度の整備や数値管理に留まる役割ではなく、配置・評価・育成・制度といった機能を超え、個人の内側に眠る「未発火の価値」を見つけ、成長の道筋に光を当てる眼差しである。たとえ履いている靴が今はなくても、裸足で歩いてきた背景や、地面を感じてきた感覚にこそ、その人ならではの強みが潜んでいるかもしれない。能力は“保有しているか否か”の静的な概念ではなく、機会・意味付け・文脈によって引き出される“動的な資源”である。   だからこそ、歩き出すための一歩を「指示する側」ではなく、「ともに考え、設計し、支える側」でいられるかどうかが、人事の存在価値を大きく左右する。伴走者として寄り添える人事は、個人の成長物語に共に関与し、その人の未来に責任を持つ立場になる。成長とは与えられるものではなく、本人が歩き出す“納得の理由”と“希望の方向性”を得たときに初めて動き始める。その瞬間をつくることこそ、人事が果たす最大の価値ではないだろうか。

第4回:把握の方法②:定性分析 ― 数値の裏側にある「社員の実感」を読み解くー | エンゲージメントサーベイ

第4回:把握の方法②:定性分析 ― 数値の裏側にある「社員の実感」を読み解くー

エンゲージメントサーベイは、組織の状態を客観的に把握するための有効な手段であると前稿でも申し上げているが、数値として示されるスコアは、組織全体の傾向や部門間の差異、経年変化を把握するうえで非常に有用であり、人的資本経営を推進するうえでも重要な指標となっている。しかし一方で、サーベイ結果を数値だけで理解しようとすると、どうしても見えにくくなるものがある。それが、社員一人ひとりが組織に対して抱いている実感や、その背後にある文脈である。 例えば、ある部門でエンゲージメントスコアが低下していたとする。その事実自体は定量データから容易に把握することができる。しかし、その原因が何であるのかは、数値だけでは明らかにならない。業務負荷の増加なのか、組織再編による役割の不明確さなのか、あるいはマネジメントスタイルの変化なのか。場合によっては、評価制度への不信感や、将来のキャリアに対する不安といった要因が関係していることもある。こうした背景を理解するためには、数値の裏側にある社員の声に目を向ける必要がある。 ここで重要になるのが、定性分析である。定性分析とは、自由記述コメントやインタビューなどの言語情報を整理・解釈し、そこに含まれる意味や傾向を読み解く分析手法である。エンゲージメントサーベイにおいては、サーベイの自由記述欄や追加ヒアリングなどを通じて収集された社員の声をもとに、組織の状態をより立体的に理解するために用いられる。 定量データは、組織全体を俯瞰する力に優れている。部門ごとの傾向や属性別の違いを把握し、どこに問題があるのかを示す「地図」のような役割を果たす。一方で、定性データは、その場所で何が起きているのかを具体的に理解するための「現場の声」を提供してくれる。つまり、定量データが「どこに注目すべきか」を示すのに対し、定性データは「そこで何が起きているのか」を説明してくれるのである。 エンゲージメント分析における定性情報の代表例が、自由記述コメントである。サーベイの自由記述欄には、社員が日頃感じていることや、組織に対する率直な意見が表れやすい。そこには、数値だけでは捉えきれない不満や期待、あるいは具体的な改善提案が含まれていることも多い。例えば、「評価基準が分かりにくい」「上司との対話が少ない」「挑戦する機会が増えている」といったコメントは、スコアの背景を理解するための重要な手がかりとなる。 ただし、自由記述コメントを単に読み流すだけでは、組織全体の傾向を把握することは難しい。そのため、コメントを一定の観点で整理することが重要となる。例えば、ポジティブ・ネガティブの傾向、頻出キーワード、特定の設問や属性との関連などを整理することで、組織に共通する課題や期待の方向性を抽出することができる。近年では、テキストマイニング、共起ネットワークに加え、AIによる自然言語解析を活用することで、より体系的に定性情報を分析する取り組みも広がっている。 また、定性分析の手法として有効なのが、インタビューやフォーカスグループである。サーベイ結果を踏まえて特定の層や部門にヒアリングを行うことで、数値の変化の背景にある構造的な要因をより深く理解することができる。特に、スコアが急激に変化した部門や、部署ごとの差が大きい場合には、インタビューを通じて現場の状況を把握することが重要になる。こうした対話のプロセスを通じて、組織の課題はより具体的な形で見えてくる。 一方で、定性分析を行う際には注意すべき点もある。それは、一部の強い意見に過度に引きずられないことである。定性情報は具体性が高く印象に残りやすいため、個別の強いコメントが組織全体の傾向であるかのように感じられることがある。しかし、それが必ずしも多数派の意見とは限らない。そのため、定性分析は単独で用いるのではなく、必ず定量データと照らし合わせて解釈することが重要である。 例えば、自由記述コメントで「評価制度への不満」が多く見られた場合、そのテーマが実際にどの設問スコアと関連しているのか、どの属性層に集中しているのかを確認することで、問題の構造をより正確に理解することができる。定量と定性を組み合わせることで、主観的な解釈に偏ることなく、より信頼性の高い分析が可能になるのである。 定性分析の最大の価値は、改善施策の精度を高める点にある。数値だけをもとに施策を設計すると、「コミュニケーションを強化する」「研修を増やす」といった抽象的な対応にとどまりがちである。しかし、社員の声を踏まえて分析することで、「どの場面で」「何が」「どのように不足しているのか」が具体的に見えてくる。その結果、より実効性の高い施策設計が可能になる。 さらに、定性分析には、経営と現場の対話を促進する効果もある。社員の声を整理した形で経営層に共有することで、現場の実感と経営の認識との間にあるギャップが明確になる。これは、人的資本経営を単なる理念やスローガンではなく、実際の組織運営に結びつけていくうえで非常に重要なプロセスである。 人的資本経営の実装において重要なのは、定量か定性かのどちらかを選ぶことではない。定量データで組織全体の構造と傾向を把握し、定性データでその背景にある文脈や意味を理解する。この両者を組み合わせることで、エンゲージメントは初めて経営に活かせる情報となるのである。 定性分析とは、エンゲージメントを「測る」段階から、「理解し、動かす」段階へと進めるための重要なプロセスである。数値の裏側にある社員の実感に丁寧に向き合うことこそが、人的資本経営を実効性のあるものにする鍵と言えるだろう。 ~次回第5回 要因分析のアプローチ ― エンゲージメントを「改善できる指標」に変えるためにー

第5回:要因分析のアプローチ  ーエンゲージメントを「改善できる指標」に変えるためにー | エンゲージメントサーベイ

第5回:要因分析のアプローチ ーエンゲージメントを「改善できる指標」に変えるためにー

エンゲージメントを人的資本経営に活かす上で、最も重要かつ難易度が高いのが要因分析である。スコアを把握し、社員の声を集めることができても、「では、何から手を打つべきか」が明確にならなければ、エンゲージメントは改善されない。要因分析とは、エンゲージメントを単なる状態指標から、経営が介入可能なマネジメント指標へと転換するプロセスである。 なぜ要因分析が不可欠なのか エンゲージメントは多くの要素が絡み合って形成される。 評価制度、報酬水準、上司との関係、業務負荷、キャリアの見通し、組織文化など、その影響要因は多岐にわたる。そのため、「エンゲージメントが低いから改善する」という抽象的な議論では、実効性のある打ち手にはつながらない。 要因分析の目的は、「エンゲージメントを左右している主要因は何か」「どの要因に手を打てば、最も効果が高いのか」を特定することにある。 これは、人的資本経営において投資対効果を意識した意思決定を行うための重要なステップである。 相関分析による全体構造の把握 要因分析の第一歩として有効なのが、相関分析である。 エンゲージメントスコアと各設問との相関を見ることで、どの要素がエンゲージメントと強く結びついているのかを把握できる。 例えば、 「上司への信頼」とエンゲージメントの相関が高い 「キャリア成長実感」と継続意向が強く連動している といった結果が得られることは少なくない。 相関分析は、組織全体の傾向を俯瞰するうえで有効だが、注意点もある。相関は因果を示すものではないため、結果の解釈には慎重さが求められる。 重回帰分析による「効きどころ」の特定 より踏み込んだ分析として用いられるのが、重回帰分析である。 これは、複数の要因がエンゲージメントにどの程度影響しているかを同時に分析する手法であり、「他の要因を一定とした場合に、どの要素が最も影響力を持つか」を把握することができる。 当社の支援事例でも、 キャリアの見通し 評価の納得感 上司との関係性 といった要素が、エンゲージメントに対して特に強い説明力を持つケースが多く見られる。 この結果は、制度を一律に見直すのではなく、優先順位をつけて改善する必要性を示している。 セグメント別分析で見える「ズレ」 要因分析を行う際には、全社一律で見るだけでなく、セグメント別に分析することが重要である。若手層と管理職層では、エンゲージメントを左右する要因が異なることが多い。 例えば、若手層では「成長実感」や「フィードバックの質」が重要である一方、管理職層では「役割過多」や「裁量の不足」がエンゲージメント低下の要因となることがある。 こうした違いを無視して全社施策を打つと、効果が薄れるだけでなく、新たな不満を生むリスクもある。 定性情報との接続が鍵となる 要因分析を数値だけで完結させてしまうと、「なぜその要因が効いているのか」という理解が浅くなる。 そこで重要になるのが、前章で述べた定性分析との接続である。 例えば、「評価の納得感」が主要因として抽出された場合でも、その背景は一様ではない。 評価基準が不明確なのか、フィードバックが不足しているのか、結果の説明が不十分なのか。 定性情報を組み合わせることで、改善施策を具体的な行動レベルに落とし込むことが可能になる。 要因分析の落とし穴 要因分析には、いくつかの典型的な落とし穴がある。 一つは、分析結果を「正解」として固定してしまうことである。エンゲージメントの要因は、組織の成長段階や外部環境によって変化する。 もう一つは、分析のための分析に陥ることだ。高度な分析を行っても、現場で実行できなければ意味がない。 要因分析は、意思決定と行動につなげて初めて価値を持つ。 そのためには、経営と現場が共通理解を持ち、「どこから手を打つか」を合意するプロセスが欠かせない。 エンゲージメント改善の出発点として 要因分析は、エンゲージメント改善のスタートラインである。 感覚ではなくデータに基づき、全社・部門・個人のレベルで「効きどころ」を見極めることで、人的資本経営は初めて実装段階へと進む。 エンゲージメントを分析するとは、人を評価することではない。 それは、組織の在り方を問い直し、より良い働く体験を設計するための手段なのである。 ~次回 第6回 エンゲージメント向上施策①組織・経営レベル― エンゲージメントは「経営の設計」で決まるー

第1回:人的資本経営時代における「企業価値」を映す指標 | エンゲージメントサーベイ

第1回:人的資本経営時代における「企業価値」を映す指標

近年、「人的資本経営」という言葉が急速に浸透している。 それは、人材を単なるコストとして管理するのではなく、企業価値を生み出す“資本”として捉え、その価値を中長期的に最大化していこうとする経営への転換である。 この流れを後押ししているのが、非財務情報の開示義務化をはじめとした制度・市場環境の変化だ。特に2023年以降、日本の上場企業においては、有価証券報告書に人的資本に関する情報を開示することが本格的に求められるようになった。 そこでは、単に「人材に投資しているかどうか」ではなく、「どのような人材を、どのように活かし、どのような成果につなげているのか」というストーリーそのものが問われている。 こうした文脈の中で、社員のエンゲージメントが「企業価値の一部」を構成する重要指標として注目を集めている。 実際、エンゲージメントスコアを投資家向けの説明指標として活用する企業や、経営KPIに「離職率」や「エンゲージメント」を明示的に組み込む企業も増えてきた。 人と組織の関係性そのものが、経営の成果を左右する時代に入ったと言えるだろう。 この変化は、調査の現場にも表れている。 従来は社員満足度調査(ES調査)を実施してきた企業が、より経営との接続を意識し、エンゲージメントサーベイへと切り替える動きが広がっている。当社においても、社員満足度調査からエンゲージメントサーベイに変更するクライアントが年々増えてきている。 では、改めてエンゲージメントとは何なのか。 それは決して新しい概念ではないが、人的資本経営という文脈において、その意味合いは大きく進化している。 満足度との違い エンゲージメントは、しばしば「従業員満足度」と混同される。しかし両者は本質的に異なる概念である。 満足度は、「待遇に不満がない」「職場環境が快適である」といった、比較的受動的な評価を含む指標だ。言い換えれば、「社員が与えられている条件にどれだけ不満がないか」を測るものと言える。 一方でエンゲージメントとは、社員が自らの意思で組織や仕事に関与し、期待以上の貢献をしようとする状態を指す。 たとえ満足度が高くても、「言われたことはこなすが、それ以上は踏み込まない」という状態であれば、企業の成長力や競争力は高まらない。 人的資本経営が目指しているのは、社員一人ひとりが自律的に考え、行動し、価値を生み出す状態である。その“質”を測る指標こそが、エンゲージメントなのである。 エンゲージメントを構成する3つの要素 エンゲージメントは、単一の感情や行動で成り立つものではない。一般的には、次の三つの要素が重なり合うことで形成されると考えられている。 第一に、感情的要素である。 自社の理念や事業に共感し、「この会社で働くことに意味がある」「ここで成果を出したい」と感じられているかどうか。 これは、企業文化の一貫性や経営メッセージの透明性、日常の意思決定の積み重ねと密接に関係している。 第二に、行動的要素である。 期待される役割を果たそうとする姿勢や、主体的に工夫・改善を行おうとする意欲があるかどうか。 単なる長時間労働や忙しさではなく、「自ら考え、価値を生み出そうとしているか」が問われる点が重要だ。 第三に、成長・将来要素である。 この会社で働き続けることで、自身のスキルやキャリアがどのように広がっていくのか。その見通しが描けているかどうかは、エンゲージメントに大きな影響を与える。 目の前の仕事と将来の自分がつながっていない状態では、持続的な関与は生まれにくい。 エンゲージメントとは、これら三要素の「掛け算」であり、いずれか一つが欠けても高まりにくい。 制度や報酬を整えるだけでは十分ではなく、「働く体験」そのものをどう設計しているかが問われる所以である。 なぜ今、エンゲージメントなのか エンゲージメントが人的資本経営の中核指標として注目される理由は明確だ。 エンゲージメントの高低は、離職率、生産性、顧客満足度、さらにはイノベーション創出力といった経営成果と強い相関を持つことが、国内外の調査で示されている。 つまりエンゲージメントは、「現在の人事施策の成果」を示す指標であると同時に、「企業の将来価値」を先行して映し出す指標でもある。 投資家がエンゲージメントに関心を寄せるのも、そこに中長期的な成長力や持続可能性の兆候を読み取ろうとしているからに他ならない。 エンゲージメントは「経営の姿勢」を映す鏡 エンゲージメントは、決して社員個人の問題ではない。 その水準は、経営の意思決定、マネジメントの在り方、制度と運用の整合性といった、企業側の姿勢の結果として現れる。 人的資本経営においてエンゲージメントを重視するということは、「人をどう管理するか」ではなく、「人とどう向き合うか」を経営として問い直すことに他ならない。 エンゲージメントとは、企業が人をどう捉え、どのような関係性を築こうとしているのかを映し出す、経営そのものの指標なのである。 ~次回 第2回 現状と課題―エンゲージメントは「測られている」が「活かされていない―

第2回:現状と課題― エンゲージメントは「測られている」が「活かされていない― | エンゲージメントサーベイ

第2回:現状と課題― エンゲージメントは「測られている」が「活かされていない―

人的資本経営への転換が進む中で、社員のエンゲージメントは企業価値を測る重要な指標として注目を集めている。実際、多くの企業でエンゲージメントサーベイが導入され、スコアの可視化自体は珍しいものではなくなった。しかし一方で、「エンゲージメントを測ってはいるが、経営や現場の意思決定に十分活かしきれていない」という声も多く聞かれる。 この状況は、人的資本経営を掲げる企業に共通する、構造的な課題を示している。 「測定」から「経営活用」への壁 現在、多くの企業では年に一度、もしくは定期的にエンゲージメントサーベイを実施しているが、 全社平均スコアや前年差分を確認し、「昨年より上がった」「横ばいだった」といった評価を行うだけのケースが少なくない。また、その先の議論が十分に深まらないまま、サーベイが“年中行事”として消化されてしまうことも多い。 その背景には、エンゲージメントが依然として「人事部門の管理指標」として扱われがちな現状がある。 離職率や売上、生産性といった指標が経営会議で議論される一方で、エンゲージメントスコアは「参考情報」にとどまり、経営の意思決定に直接結びつかない。この位置づけの曖昧さが、人的資本経営への本格的な転換を妨げている。 平均点偏重が生む見誤り もう一つの典型的な課題が、平均点のみを見てしまうことである。 全社平均が一定水準にあれば「大きな問題はない」と判断してしまいがちだが、エンゲージメントの本質は分布やばらつきにある。 同じ会社の中でも、部門や職種、階層によってエンゲージメントの状態は大きく異なる。若手層では成長実感が低く、管理職層では役割過多による疲弊が見られる、といったケースも珍しくない。平均値だけを見ていると、こうした構造的な歪みを見逃してしまう。 結果として、問題が顕在化したときには、すでに離職やパフォーマンス低下という形で表面化しており、「もっと早く手を打てたはずだ」という事態に陥るのである。 「原因」が特定されていないという課題 エンゲージメントが活用されないもう一つの理由は、スコア低下の原因が特定されていない点にある。 スコアが低い、あるいは下がったという事実は把握できても、「なぜそうなったのか」「どこに手を打つべきなのか」が明確になっていないケースが多い。 その結果、 ・コミュニケーションを増やそう ・研修を実施しよう ・制度を見直そう といった、汎用的で抽象度の高い施策に終始してしまう。これでは、エンゲージメントの本質的な改善にはつながりにくい。 人的資本経営において重要なのは、エンゲージメントを「状態指標」として捉えるだけでなく、経営やマネジメントのどの要素が影響しているのかを因果的に捉えることである。 経営と現場の間にあるギャップ さらに、エンゲージメントを巡る議論では、経営と現場の認識ギャップも課題として浮かび上がる。 経営側は「制度は整えている」「投資もしている」と考えている一方で、現場では「意図が伝わっていない」「経営層に会ったこともない」「日々の業務に反映されていない」と感じていることが少なくない。 エンゲージメントは、経営のメッセージや制度設計が、現場でどのように体験されているかを映し出す指標である。 このギャップを放置したままでは、人的資本経営はスローガンにとどまり、実態を伴わないものになってしまう。 人的資本経営における本質的な課題 以上のように、現在多くの企業が直面している課題は、「エンゲージメントの重要性を理解していないこと」ではない。 むしろ、「重要だと分かっているが、どう使えばよいのか分からない」という点に集約される。 人的資本経営への転換において問われているのは、 ・エンゲージメントを経営KPIとしてどう位置づけるのか ・どのレベル(全社・部門・個人)で活用するのか ・どの指標と結びつけて改善していくのか といった、活用の設計そのものである。 エンゲージメントは、測ることが目的ではない。 それは、企業が人とどう向き合い、どのような組織を目指すのかを示すための“対話の起点”であり、人的資本経営を実装するための重要なレバーなのである。 ~次回 第3回 エンゲージメントを「経営データ」として扱うために~

第3回:把握の方法①:定量的サーベイ ― エンゲージメントを「経営データ」として扱うためにー | エンゲージメントサーベイ

第3回:把握の方法①:定量的サーベイ ― エンゲージメントを「経営データ」として扱うためにー

人的資本経営を実効性のあるものにするためには、社員の状態を感覚や印象ではなく、客観的なデータとして把握することが不可欠である。その中核となる手法が、エンゲージメントの定量的サーベイである。 エンゲージメントは本来、感情や意欲といった目に見えにくい要素から成り立つ。しかし、それをあえて数値化することで、組織の状態を俯瞰し、経営判断に活かすことが可能となる。人的資本経営における定量サーベイの役割は、単なる現状把握ではなく、経営と現場をつなぐ共通言語をつくることにある。 なぜ定量化が必要なのか エンゲージメントを定量化する最大の意義は、「議論できる状態」をつくる点にある。 数値がなければ、議論はどうしても主観や経験に依存しがちになる。「最近、若手の元気がない」「現場が疲弊している気がする」といった声は重要な兆候ではあるが、それだけでは経営として意思決定を下すことは難しい。 定量データがあれば、 ・どの層で ・どの要素が ・どの程度、課題になっているのか を具体的に把握できる。これは、人的資本経営を再現性のある経営プロセスに昇華させるための前提条件である。 エンゲージメントサーベイの基本設計 定量的なエンゲージメントサーベイでは、単に「やる気があるか」を聞くだけでは不十分である。重要なのは、エンゲージメントを構成する要素を分解し、行動や認識に紐づく設問として設計することである。 一般的には、以下のような観点が用いられる。 感情的なコミットメント  「この会社に誇りを持っている」  「自社の理念や方針に共感している」 行動的なコミットメント  「期待される以上の努力をしている」  「自ら工夫し、改善に取り組んでいる」 継続意向・推奨意向  「今後もこの会社で働き続けたい」  「この会社を友人や知人に勧めたい(eNPS)」 これらを複数設問で測定することで、エンゲージメントの全体像を立体的に捉えることができる。 eNPSが注目される理由 近年、特に注目されている指標がeNPS(Employee Net Promoter Score)である。 eNPSは「この会社を友人や知人に勧めたいか」というシンプルな質問を通じて、社員のロイヤルティを測る指標であり、投資家や経営層にも直感的に理解しやすい点が特徴である。 eNPSは、推奨者(9〜10点)から批判者(0〜6点)を差し引いたスコアとして算出されるため、組織に対するポジティブな感情とネガティブな感情のバランスを一目で把握できる。そのシンプルさゆえに、人的資本開示や統合報告書においても採用されるケースが増えている。 ただし、当社ではeNPSを「単独で使う指標」としてではなく、エンゲージメント全体を俯瞰するための入口指標として位置づけることを重視している。eNPSの高低だけで組織を判断するのではなく、なぜそのスコアになっているのかを、他の設問と組み合わせて読み解くことが重要である。 平均点ではなく「構造」を見る 定量サーベイを実施する際に陥りがちな落とし穴が、全社平均のみを見てしまうことである。平均値は分かりやすい一方で、組織内のばらつきや偏りを覆い隠してしまう。 当社では、 ・部門別 ・職種別 ・階層別 ・年代別 をはじめとした基本50の属性といった切り口でスコアを分解し、どこに構造的な課題が潜んでいるのかを可視化することを重視している。 例えば、全社平均は安定していても、若手層の成長実感が低下している、特定部門で上司への信頼が著しく低い、といった兆候が見えてくることは少なくない。 こうした構造把握こそが、人的資本経営における定量サーベイの真価である。 定量データは「出発点」に過ぎない 最後に強調しておきたいのは、定量サーベイはゴールではなく出発点だという点である。 数値が示すのはあくまで「結果」であり、その背後にある文脈や要因を理解しなければ、実効性のある改善にはつながらない。 だからこそ、定量データは次のステップ、すなわち定性分析や要因分析と組み合わせて活用されるべきである。 人的資本経営におけるエンゲージメントサーベイとは、「測るための調査」ではなく、経営と現場の対話を生み出すための装置なのである。 ~次回第4回 把握の方法②:定性分析ー数値の裏側にある「社員の実感」を読み解くー

【アーカイブ配信】「管理職適性の見極め方」 | 人材アセスメント

【アーカイブ配信】「管理職適性の見極め方」

管理職への昇格において、マネジメント適性が不足した人材が昇格するミスマッチや、そもそもの昇格基準の透明性が足りないといった課題をよく伺います。 これらを放置すると、マネジメントの品質が低い、従業員が上司へ不信感を持つといった理由で、経営そのものに悪影響をもたらしかねません。 本セミナーでは管理職昇格の前後の解決策として ● 人材アセスメント(対面・リモート)で適切な人材を客観的に見極める方法 ● 昇格後の活躍を確実にするための人材育成プログラムの構築 をご紹介します。 管理職の品質を高めたい会社、人材アセスメントを未導入・導入したが活用できていない会社の人事部様はぜひご参加ください。 ■本アーカイブ配信は2024年12月開催のWEBセミナーで講演した内容です。  ~こんな方におススメ~  管理職の中に、マネジメント適性のない人がいる 管理職の昇格基準を見直したい 人材アセスメントの導入を検討したい

思考力はどうやって高める?株式会社トランストラクチャ

思考力はどうやって高める?

現代社会は、DX化やグローバル化の進展、社会構造の変化により、将来を見通すことが困難なVUCA時代だと言われます。このような不確実性の高い環境において重要なのは、既存の知識を単に記憶・再生する力ではなく、溢れる情報を取捨選択し、論理的に組み立て、自らの判断や行動に結びつける「思考力」です。思考力は特定の職種に限らず、社会人としての実務全般において求められる基盤的能力といえるでしょう。この思考力を高めるための具体的な方法を五つの観点から考察します。 「問い」を立てる力 思考の出発点は「問い」にあります。日常業務で提示された知識や事実に対して、「なぜそうなるのか」「他の可能性はないのか」と自らに問うことで、思考は深まります。問いを持たない学びや仕事は、表面的な理解や作業にとどまりやすく、応用が利きません。カントが「批判的精神」を重視したように、前提を疑い、問い直す姿勢は思考力の根幹を成します。 言語化による思考の整理 思考は言語を通して初めて明確になります。頭の中で考えているつもりでも、それを文章や発話に落とし込んでみると、不明確な点や論理の飛躍に気づくことが少なくありません。日常的にノートに書き出す、レポートとしてまとめる、あるいはディスカッションで発言することは、思考を外化し、自己検証するための重要な過程です。言語化と内省は思考力の深化に不可欠です。 多角的な視点に触れる 思考力を鍛える上で不可欠なのが、多様な視点を取り入れることです。同じ事象でも立場や背景が異なれば解釈は大きく変わります。たとえば企業活動を経済学の視点から見る場合と、社会学や倫理学の視点から見る場合では、着目点や評価は大きく異なります。異なる分野の文献を読む、異業種の人と議論するなど、積極的に「異なる視座」に触れることは、固定的な思考パターンを崩し、創造的な発想を促します。 正解のない問題に取り組む 思考力は、単一の正解が存在する問題だけに取り組んでいては十分に鍛えられません。現実社会では、複数の解答がありうる「オープンクエスチョン」に直面することが多くあります。例えば「革新は個の天才から生まれるのか、チームの協働から生まれるのか」「持続可能な経済成長は可能なのか」「リーダーシップとは一体何か」といった問いは、明確な結論が存在しません。これらの問いに対して、多様な情報を集め、仮説を立て、議論を重ねることが、複雑な課題に対応するための思考力を養います。 思考のための時間を確保する 現代人は情報の洪水の中で、常に処理と判断を迫られています。その結果、じっくりと考える時間が奪われがちです。しかし、思考力を鍛えるには「思索のための時間」を意識的に確保する必要があります。通勤中や就寝前に数分でも構いません。あるいは一日の中で「熟考するテーマ」を定めることも効果的です。思考は筋肉と同じく、継続的な鍛錬によって強化されるものだからです。 思考力は、生まれつきの才能ではなく、習慣と訓練によって磨かれる力です。「問いを立てる」「言語化する」「多様な視点に触れる」「正解のない問題に挑む」「時間を確保する」。これらの営みを日常的に積み重ねることで、思考はより深く、柔軟で創造的なものへと進化するのです。社会での実践において、自らの思考力を鍛え続けることは、変化の激しい時代を生き抜くための最も確かな資産となるでしょう。 以上

令和維新の年になれるか | 人事制度

令和維新の年になれるか

 現代の人事制度の基礎は明治維新と言われていますが、この明治維新は、西暦1868年(辰年)に始まり、明治天皇が即位して江戸幕府が倒れ、明治政府が発足した日本の歴史的な転換期であったわけです。  人事制度に関しては、この明治維新以降に大きな変化がありました。例えば、前近代的な身分制度からの解放や、新たな近代的な役職や制度の導入などが行われました。これらの変化は、日本の近代化とともに人事制度にも影響を与え、近代的な組織や制度の基礎を築くことになりました。  以降、辰年からどのような出来事があったか気になり整理すると、、、 1916年(辰年)  大正時代に入り、日本は急速な近代化を遂げました。官僚制度や公務員制度の改革が進められ、官僚の選任や昇進に関する基準が見直され、近代的な人事制度が整備されました。 1940年(辰年)  昭和時代に入り、日本は軍国主義の台頭や第二次世界大戦の勃発など、大きな社会変動を経験しました。この時期には、国家の体制や組織が変化し、人事制度もそれに応じて変化しました。 1964年(辰年)  戦後の高度成長期に入り、日本は経済成長を遂げました。この時期には、企業や官庁の組織が拡大し、人事制度も組織内の人材育成やキャリアパスの整備が重視されるようになりました。 1988年(辰年)  バブル経済の到来やグローバル化の進展など、様々な経済・社会の変化が起こりました。これに伴い、企業や官庁の組織が再編され、人事制度は働き方の改革や労働条件の見直しなどが進められました。 2000年(辰年)  バブル経済の崩壊後の経済不況期であり、企業のリストラクチャリングや人員削減が進行しました。多くの企業が人事制度の見直しや労働条件の改善を図り、労働市場の柔軟性の向上や非正規雇用の拡大が進んだ時期でもあります。 2012年(辰年)  リーマン・ショック(2008年)をきっかけとする世界的な金融危機以降、多くの企業が経営環境の厳しさに直面し、人員削減や組織再編が相次ぎました。この時期には、企業の経営戦略や人事制度が大きく変化し、労働市場の不安定化や労働条件の悪化が懸念されました。  これらの過去辰年における社会的・経済的な出来事は、人事制度に影響を与え、企業や組織がその時代の課題やニーズに対応するために制度の改革を行ってきた経緯があります。特に、リストラクチャリングや経営戦略の変化、働き方の見直しや労働市場の変動への対応などが重要なテーマとなってきたのです。  今年2024年は辰年ですが、新型コロナウイルスの世界的な流行によるパンデミック以降、多くの企業がリモートワークやテレワークなどの柔軟な働き方を導入し、働き方の在り方や人事制度が大きく変化してきています。また、経済の不確実性や雇用の不安定化も影響し、労働市場全体のダイナミクスも変わってきています。  社会全体でも多様性と包摂性の重要性が認識される中、企業も多様な人材の活用や包摂的な職場文化の構築に力を入れています。人事制度も、ウエルビーイングと多様性と包摂性を推進するための取り組みを進めていく必要があります。これらの要素が、2024年(辰年)における人事制度の基礎を形成していくでしょうし、企業は、これらの変化に迅速に対応し、より持続可能な人事戦略を構築することが求められています。  今年を明治維新のごとく令和維新の年にできるかどうかは、各企業の変革の本気度にかかっているのです。

ノーレイティングの時代は来るか | モチベーションサーベイ

ノーレイティングの時代は来るか

 先日、アメリカ企業に20年勤めていた知人が日本に戻り、日本企業に転職した際に人事評価にまだMBOを使用していることにびっくりしたという話を聞きました。  このMBO(Management by Objectives and Self Control)は、アメリカの経営学者ピーター・ドラッカーによって提唱され、日本に上陸したのは意外と古く1960~70年代と言われています。その後1990年代から多くの企業で導入され現在も広く使用されていますので、もう30年程度使用されていることになります。また現在、日本で導入されているコンピテンシー評価もアメリカ発祥の手法です。  これは人事評価やパフォーマンス評価の一環として使用され、社員の強みや改善のポイントを特定し、組織全体の目標達成に貢献するために役立つものとして使用されています。  前出の知人によると、アメリカでは人事評価そのものが廃止されていて、それは2010年頃からの動きとのこと。それまでは、社員個々の成果(業績)に基づき、事実ベースで評価を行い、結果に報酬を結びつけるというものが主流でした。ただ、現在の業務遂行においては多種多様なスキルが必要なことや、目に見える成果(業績)だけで判断することが難しくなってきたことが挙げられ、人事評価を撤廃する動きが急となったそうです。  人事評価を撤廃?と聞くと人事評価を行うことをやめたのかと思う方もいるかもしれませんが、人材や企業の成長を促すうえで、評価を行うこと自体をやめることはできません。人事評価をやめるというのは、人材に点数やランク付けをやめるということです。  本来、人事評価は社員のモチベーションを上げ、成長意欲や会社への貢献度を上げていくための人材育成ツールであるにもかかわらず、評価点数やランクが思ったより低く、逆にモチベーション低下を招いてしまったなんてことがあるのです。    そこで、アメリカでは「ノーレイティング」という手法に切り替えた企業が多く、GoogleやMicrosoft、Adobeをはじめ、有名な大手企業も取り入れています。  ノーレイティングは点数で評価を行うのではなく、目標に至るまでの行動内容、どのように目標を達成したのか、目標の見直しは行われたのかといったことも含め「面談」をこまめに行うことで人事評価を行います。また、ノーレイティングは行動改善なども評価の対象とするため、チームのコミュニケーションが取れ、改善するべき点が浮かび上がりやすくなります。また、業務遂行中にフィードバックなどを行うことにより、年度末にまとめて行っていた評価者の負担も軽減といったメリットもあります。  ここまでの流れでいうと、日本にはアメリカの人事評価の手法を取り入れる傾向が顕著で、今後日本でも人事評価がなくなっていくのかと思うかもしれません。しかし、今の日本で人事評価をすぐに撤廃することは難しいでしょう。日本では、アメリカですでに多くの企業が行っているタレントマネジメントが浸透しきっていないことが挙げられます。  日本企業は伝統的な組織文化を持っており、ヒエラルキーが強調され、社員のスキルや成果を評価するといった文化があります。このような文化では、タレントマネジメントが十分に評価されず、個人の成長と適材適所の配置に焦点を当てるのが難しいのです。  ノーレイティングは、数値評価や従来の評価スケールに頼らず、社員の個々の成長と発展に焦点を当てます。タレントマネジメントは、社員のスキルやキャリアの目標を明確にし、それを支援するためのプランを策定するプロセスです。これを組み合わせることで、社員の成長をより効果的に促進できるのです。  タレントマネジメントを導入するには、社内の現場や部門・部署を超えての連携が不可欠となります。そのため、タレントマネジメントが行き届いてからでないと人事評価を廃止・簡易化するのは難しいのではないでしょうか。  ただ、日本でもグローバルなビジネス環境の変化や若年層の価値観の変化により、タレントマネジメントの重要性が認識されつつあり、いくつかの企業では取り組みが進んでいます。何年後かには導入が進み、タレントマネジメントが当たり前の企業が増え、ノーレイティングを前向きに導入する時代が来るのかもしれません。 以上

シニア人事制度 | 関連制度設計

シニア人事制度

 最近クライアントの人事担当者と話をしていると、シニア人材活用のテーマが多いと感じます。シニアの方々は、長年の経験と豊富な知識を持っているし、その経験や洞察力は、会社にとって非常に貴重な資源でもあります。だからこそシニア人事制度を再構築することで、彼らの経験や知識を最大限に活用し、会社の業績向上や問題解決に貢献してもらいたいといった内容です。ただ、そういった思いはあるものの、制度構築となると進んでいないのが現状のようです。  ご存じのとおり、2021年4月施行の改正高年齢者雇用安定法により、企業には70歳までの雇用が課されることになりました。この法改正で企業に求められる高年齢者雇用確保措置は「努力義務」の位置づけであるものの、大企業を中心に70歳までの雇用延長を制度化する動きが出てきており、多くの企業で高年齢者雇用の推進が急務となっています。 旧法では、   ①65歳までの定年引上げ   ②65歳までの継続雇用制度の導入   ③定年廃止のいずれかを講じることが企業に義務付けられていました。 今回の改正法では、   ①70歳までの定年引上げ   ②70歳までの継続雇用制度の導入   ③定年廃止   ④高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 あるいは、70歳まで継続的に事業主が自ら実施する社会貢献事業や、事業主が委託、出資等する団体が行う社会貢献事業に従事できる制度の導入のいずれかを講じることが企業の「努力義務」として課せられることになりました。  また、総務省統計局「人口推計」によれば、高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は2021年10月1日時点で28.9%となっていて、この高齢化率は今後も上昇を続け、2036年には33.3%、つまり総人口の1/3が65歳以上になると推計されています。労働人口はどうかというと、若年層を中心に減少に転じており、今後必然的に、企業としてはシニア層(60歳代以上)の活用を推進せざるを得ない状況になってきているのです。  現在は多くの企業が65歳までの制度を有しているものの、65歳定年延長や70歳までの継続雇用制度については、まだまだ整備が追い付いていないのが実情です。65歳定年延長あるいは66歳以上の継続雇用制度の導入にあたっては、今よりも雇用期間を延長していくことに対してシニア層の処遇をどのように再設定するか、総額人件費の上昇にどのように対応するか、という点が非常に高いハードルになっています。その他にも、シニア層の健康や能力の維持、業務の確保、職場環境整備等といった人事施策が必要になる点が、企業の人事施策が計画的に進まない要因になっていると考えられます。シニア人材の活躍ということに関して、現場レベルでは何から始めればいいか分からないという状態の企業が非常に多く、とりあえず検討を開始してみたが、検討が長期化したり頓挫したりといったケースが多いです。その主な原因を考えると、意思決定するための現状分析と方針策定、シミュレーションが不十分なことがあげられます。   現状分析は、問題・課題の抽出をして分析するわけですが、少なくても以下の視点で実施することが必要です。   ①人員数・人員構成 現状の人員数が適正か、人員構成に問題がないか、将来的にどうなっていくのか   ②人件費単価 現状の自社の賃金レベルが労働市場においてどうなのか   ③シニア人材評価 現状の評価はシニア層の能力や貢献を適切に評価しているか、評価結果に偏りはないか   ④意識調査/職場環境調査 シニア社員を含め、モチベーションや組織の現状をソフト面・ハード面で分析すると どうなのか  この分析の結果を根拠とし、自社におけるシニア社員の活用方針を明確にして、経営と共有しておくことで、その後のシニア人事制度構築をスムーズに進めることが可能になります。シニア人事制度を構築・浸透させるには、会社全体での意識改革や政策の見直しへの取り組みが必要です。シニア人材の能力や貢献を正当に評価し、彼らが持つ経験や知識を最大限に活かす仕組みを整備することで、会社は多様性や包括性を促進し、持続的な成功を築くことができるのです。