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仲山 和秀

column
職能型人事制度の逆襲 | 人事制度

職能型人事制度の逆襲

 職能型人事制度と聞いて真っ先に連想するのは、「年功序列」という言葉ではないでしょうか。また職能型は古い、今の時代にマッチしていない等も合わせてよく耳にします。本当にそうでしょうか?  近年、企業の経営環境は大きな変革を迎えています。従来の経営モデルに代わって、現在注目されているのは御承知の通り「人的資本経営」となります。 人的資本経営の定義は経済産業省ホームページ:人的資本経営~人の価値を最大限に引き出す~で下記の様に定義されています。 『人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方』 つまり、人材に投資をし、成長をさせることで企業価値を生み出していく経営のあり方となります。  人的資本経営を実現するための人事制度を考えるとするのであれば、仕事を基軸とした考えではなく、人を基軸とした考え方となります。 これは、昨今注目度の高かった職務型制度(ジョブ型制度)ではなく、1970年代に定着した職能型人事制度の思想に近しいことを意味します。 更に付け加えますと、欧米型の職務型制度が日本の慣習や風土、国のセーフティーネットとはマッチせず、コロナ禍で非常に多くのメディアに取り上げられていた職務型制度が、今は下火の傾向にあると言えます。 ※弊社への依頼の状況も、職務型人事制度を導入したいという声は減っている状況です。  ただし、従来の職能型制度では、冒頭申し上げた通り年功序列的な人事制度となること想像に難くありません。古き良き部分は残しつつ、問題・課題点は当然改善した人事制度を構築する必要があります。  古き良きという部分については、日本は能力やスキルをベースに人事制度を考えてきた点です。特に製造業においては技術伝承の観点から、非常にきめ細やかなスキルマップを作成している企業もございます。この伝統的な能力・スキルをベースにしたキャリアパスがこれからの人事制度の根幹となると予測をしています。 しかし、これだけでは能力・スキルが向上すれば処遇は高くなり、能力・スキルは年齢によって微減はしても、大きく下がることはないという制度では、結果として年功序列的な制度となってしまいます。  この様な悪しき職能型制度・運用を如何に解決するか。 それは職能型制度に、職務型制度の利点を組み込む人事制度を設計することです。 職務型制度の利点は、職務や役割やポジションに必要な業務・責任、経験が定義されているため、タスクの分担や役割の明確化が容易になります。生産性の向上という観点では職務型制度は有効な人事制度です。 失われた30年から脱却し、これからの日本に求められる人事制度は、職能型+職務型のハイブリッド型人事制度です。  ハイブリッド型人事制度のイメージは下記の通りです。 ①会社が求めるスキルがLv7→職務lv7の職務にアサインをする。 ②ポストに空きがなければ、スキルLv7であっても職務アサインはLv6以下となる。 ③スキルLv7の社員がライフイベントによって働き方を限定する場合は、職務Lv5にアサインをする。 ①を原理原則の人事制度運用とした制度となり、②③を厳格に運用することで人件費の高騰化を防ぎます。また③のように現在の45歳以上の中間管理職層はこれから介護を行う社員が増加することを考慮し、多様な働き方を許容可能な制度にもなります。  最後になりますが、ハイブリッド人事制度を機能させるためにもう1つ重要なピースがあります。それはテクノロジーの活用です。 スキルの可視化、スキルと職務のマッチングは人間の力では限界があります。  これから職能型制度への回帰が想定されますが、そこには職務型制度、テクノロジーの活用がプラスされた全く新しい職能型制度の姿です。 職務型制度ではなく、この新しい職務型制度が今後のトレンドになると推測をします。 今まさに、職能型人事制度の逆襲が始まろうとしています。

「ヘルメットの中の人的資本」 ~アメリカンフットボール式、社員を“戦力化”する人事運用の極意~ | 人事コンサルティング

「ヘルメットの中の人的資本」 ~アメリカンフットボール式、社員を“戦力化”する人事運用の極意~

 私の好きなスポーツの1つにアメリカンフットボールがある。 あの重厚な装備、緻密な戦略のぶつかり合い、そして一瞬の判断が勝敗を分けるスポーツに、私は人的資本経営の本質を感じてしまう。 ※本コラムとは全く関係ないが、2028年ロサンゼルス五輪ではボディコンタクトのないアメリカンフットボール=フラッグフットボールが正式種目になっていることを宣伝させていただきます。  日本企業も「人的資本経営」という言葉に本気で向き合い始めているが、情報開示が目的となっていないだろうか。 本質はそんな薄っぺらい"バズワード"ではない。これは、人事戦略の“表紙”を差し替えるような、流行り物ではなく、 人事制度の「運用」そのものをアップグレードするという、もっと泥臭い話なのだ。そしてその泥臭さが、実はアメリカンフットボールにそっくりなのだ。  アメリカンフットボールの特徴は、選手が極端に専門化されている点だ。 例えば「クォーターバック(QB)」は司令塔の役割で、戦況を読み、瞬時に判断してボールを投げる(走る)頭脳型ポジション。 一方、「オフェンシブライン(OL)」は、体格の大きさとパワーで敵を押しのけ、仲間を守る縁の下の力持ち。 そして「ワイドレシーバー(WR)」は俊敏なスピードで敵陣を駆け抜け、パスをキャッチする花形。どの選手も能力も役割も全く違う。 「全員に同じ練習をさせる」などという発想は、勝負の世界ではナンセンスなのだ。  人的資本経営も、まさにこの「選手一人ひとりにフィットした人事制度の運用」が肝心だ。 企業が制度を作るとき、多くは「全社員共通」の基準で評価や育成を設計する。 しかし、実際の現場では「型にハマらない社員」こそがスーパープレーを見せるスタープレイヤーになり得る。 社員の性格も能力も異なるのに、画一的な評価制度、共通の研修、同じキャリアパスでは、スタープレイヤーは生まれにくい。  人的資本経営とは、この“ポジション別マネジメント”の視点を人事制度に持ち込むことに他ならない。 例を挙げれば、クリエイティブな思考を求められるマーケティング職と、緻密な計画性が求められる経理職では、当然伸ばすべきスキルもキャリアの描き方も異なる。 にもかかわらず、同じ評価項目で比べ、同じ階段を上らせようとする。 これは、QBに「パワーで敵を押しのけろ」と言い、OLに「俊敏なスピードで敵陣を駆け抜けろ」と言っているようなものだ。 それでは勝てるはずがない。  そして、アメリカンフットボールのもう一つの特徴。それは「プレイブック」という戦術マニュアルだ。 状況に応じた複数の選択肢を用意し、選手が自分の役割を瞬時に判断できるようにする。 人的資本経営でも、「社員が自分の成長を描けるプレイブック」が必要だ。 単なる人事制度ではなく、社員が「自分はどこを目指すべきか」「今、何を強化すべきか」を把握できる仕掛け――たとえば、スキルの見える化や、個別のキャリアマップの設計がそれにあたる。  最後に忘れてはならないのが、「ヘッドコーチ」の存在だ。 試合中、選手たちに指示を出し、状況を分析し、最適なプレーを選ぶ。社員を本気で成長させるには、マネージャー自身がコーチとしてのスキルを持っていなければならない。 つまり、社員の成長に本気でコミットするということ。 人的資本経営は、人事部だけの仕事ではない。現場マネージャーも育成のプロであり、育成観と目利き力、これこそが、最も重要な“隠れた資本”なのだ。  このコラムの読者の会社が今、負けが込んでいるとしたら、それは戦略のせいではなく、選手の特性を見抜かずに、全員に同じプレーをさせているからかもしれない。  アメリカンフットボールに勝利の方程式はない。 だが強いチームには共通点がある。 それは、一人ひとりの特性を見極め、最適な育成と戦術で活かす"人事制度の設計"と"運用"が徹底されていることだ。  さて、あなたの会社にとっての「QB」は誰か? 「OL」は?「WR」は? その選手たちに、適したプレイブックは用意されているだろうか? あなたのチームは、勝つ準備ができているだろうか? 本コラムの筆者が登壇するセミナーのアーカイブ配信をしております。ぜひご視聴ください。お申込みはこちら 【アーカイブ配信】シニア人材を活かす人事制度 ~70歳まで雇用を見据えた人事制度のあり方とは~

「“階段”がない家に、住めますか?」~等級と評価の設計が、組織の“骨格”を決める話~(「人事制度設計」を考えるコラム①) | 人事制度

「“階段”がない家に、住めますか?」~等級と評価の設計が、組織の“骨格”を決める話~(「人事制度設計」を考えるコラム①)

あなたがもし、ゼロから家を建てようとしたとき、最初に「ソファの色」や「カーテンの柄」を決めるでしょうか? きっと「間取り」や「階段」「柱」といった、家の“骨格”を設計するはずです。これがなければ、どんなにオシャレな家具を置いてもそもそも住めないからです。 組織も同じです。 「評価制度を先に作ろう」とする会社は少なくありませんが、それはソファから決める家づくりと同じです。まず設計すべきは等級制度、そして評価制度という組織の“骨格”です。  では、どこから始めればよいのでしょうか? 答えは、戦略です。 「人材戦略」は必ず「経営戦略」と同じタイプの戦略でなければなりません。会社としてどの市場に挑み、どんなポジションを狙うのか。そのために必要な人材はどんな人材か?そして何人必要か? ――質と量。この問いが出発点です。  例えば、山登りをするなら登山靴とロープがいりますし、野球をするならバットとグローブが必要です。間違っても、登山にバットは持って行きません。組織でも同じです。戦略に応じた人材設計がなければ、人事制度は飾りで終わります。 そしてこの人材設計は、組織ごとに異なる課題や期待、例えば、ベースアップによる生活保障の強化、シニア層の活性化、成果主義の徹底による成長促進などに応じてカスタマイズされるべきです。  さて、ここからようやく「等級制度」と「評価制度」の話になります。まず等級制度とは、言ってみれば組織の“階段”です。階段の数や幅、勾配が曖昧な家には、誰も住みたくありません。それと同じで、等級制度が曖昧な組織では、人材も成長の階段を上ることができません。  特に管理職層は、組織の階層構造に合わせて設計すべきです。部長が5人もいるのに部が3つしかない、という奇妙な家をたまに見かけます。非管理職層においては、社員の成長段階に応じた等級が必要です。さらに、専門性を武器にする社員には、市場価値に即した等級幅を設定しなければ、すぐに家出(転職)されてしまいます。  では、等級をどう定義するか。等級定義とは、その等級の社員が「何を果たすべきか」を示すものです。入社から上位ポストに至るまでの「成長曲線」を表現することで、キャリアの道筋が見えてきます。そしてその定義は、抽象的であってはなりません。具体化の一つの手法が、PDCAサイクルで定義を組み立てる方法です。 たとえば: Plan:組織が実現すべき方針・目標を描き、達成するための計画を逆算して立てる。 Do:組織目標の進捗状況を適切に管理し、円滑かつ確実に計画を遂行する。 Check:組織で起きている問題課題分析・整理し、妥当性の高い根拠により状況を正確に読み取る。 Action:組織に顕在する問題・課題を明確化した上で、解決策・改善策を検討し方針を決め、重点的に取り組む。  これはあくまで定義を具体化するための“例”であり、他の切り口も存在します。しかしPDCAは、等級定義を評価制度にスムーズに接続するフレームワークとして非常に有効です。  また、よく誤解されるのですが「Do(実行)」が1項目だけでよい、という意味ではありません。たとえば「組織外連携」「人材育成」など、同じ“Do”のカテゴリでも複数の観点を立てて構いません。重要なのは、バランスよく行動全体を捉えることです。定義と評価が地続きであること。これが、評価制度を“後づけの査定”から“成長のマイルストーン”へと進化させるコツです。  そして最後に、昇格の基準について明確にしておきたいのですが、よく「スキルレベルが上がったから昇格」と捉えがちです。しかし、そうではありません。その等級で定義された“評価項目”を、一定水準で実行できているか。つまり「そのレベルの人として安定的に機能し、次のステップに進めること」が、昇格の本質です。  ここで、忘れてはならない前提があります。 人は評価されるために成長するのではありません。成長した事実を評価されるのです。  評価制度とは、誰かを選別するためのものではなく、社員一人ひとりが、自分自身の成長曲線を描き、それを歩んでいくための道標です。だからこそ、「今の組織に必要な成長」と「社員が歩みたい成長」を重ねる制度設計が求められます。”年功か成果か、ではなく、両者をどう融合させるか”それが、制度に命を吹き込む発想です。  ここまで読んで、「そんな細かく決めると、自由がなくなる」と言いたくなるかもしれません。ご安心ください。骨格を決めることは、自由を奪うのではありません。むしろ、成長の自由を保証するためにこそ、骨格が必要なのです。 あなたが今立っている組織には、ちゃんと階段がありますか?それとも、3階建ての家なのに、はしご一本で運用していませんか? *「人事制度設計」を考えるコラム2回シリーズ。  第2回のコラムは2025年7月上旬までに掲載予定です。 本コラムの筆者登壇セミナーのアーカイブ配信お申込み受付中  公開期間2025年6月16日~27日!  ぜひお申込みください。 詳細はこちら  

【アーカイブ配信】シニア人材を活かす人事制度~70歳まで雇用を見据えた人事制度のあり方とは~ | その他

【アーカイブ配信】シニア人材を活かす人事制度~70歳まで雇用を見据えた人事制度のあり方とは~

【アーカイブ配信】 公開期間2025年6月16日~27日 少子高齢化によって今後人口減少が一層進んでいく中で、人手不足が日本経済の構造的課題になっています。 人材の供給制約下において今後は企業間の競争が激しさを増すことが予想されている中でシニア人材の人材活用が各企業の避けることができない経営課題になっています。 特に、2021年4月施行の高齢者雇用安定法の改正に伴い、70歳までの雇用をいかに確保していくかを本格的に検討しなければいけないようになってきています。 当セミナーでは、定年延長を見据えたシニア人材の人事制度設計のポイントについて解説します。 ■本アーカイブ配信は2025年3月開催のWEBセミナーで講演した内容です。  ~こんな方におススメ~  外部環境が大きく変化している企業 シニア層の人事制度の見直しを予定されている企業 定年延長を予定されている企業 シニア人材のモチベーションの問題が発生している企業

鶏が先か、卵が先か ‐経営戦略と人材戦略の関連性‐ | 人事制度

鶏が先か、卵が先か ‐経営戦略と人材戦略の関連性‐

”組織は戦略に従う” ”戦略は組織に従う”  前者は1962年にアルフレッド・チャンドラーが提唱し、後者は1979年にH・イゴール・アンゾフ提唱した考え方である。 各企業が中長期計画を立て、その中長期計画の中には人件費、今後の採用計画等が当然の如く織り込まれている。 戦略を立てる順序としては、先に経営戦略、後に人事戦略を立てる企業が多い。”組織は戦略に従う”と言える。  VUCA時代と言われる今、予測困難な未来に対して経営戦略を立てることは困難を極め、 新型コロナウィルスによるパンデミックは、まさにその象徴と言えるのではないだろうか。  新型コロナウィルスが発生したここ1、2年で、クライアントからの相談は下記の様なものがあった。 ・リモートワーク下でのマネジメント ・設定した目標の下方修正 ・賞与原資の確保 ・雇用調整による人件費の削減 不測の事態への対応が後手に回った反省から、人事制度の設計だけではなく、人事戦略を考えたいという企業の相談が増えてきている。  多くの企業は経営計画を立てたものの、急激な環境の変化までは想定しておらず、経営計画の下方修正を余儀なくされ、それに伴い人事戦略の見直しを図る。中には複数のシナリオをプランニングし、この未曽有の事態に対処している企業もあるだろうが、その数は非常に少ない。“組織は戦略に従う”という考え方であれば経営戦略→人材戦略の構図に違和感はないのだが、VUCA時代において、この構図が正しいと言えるのか。  DX化、AI化が進み、ビジネスの潮流が非常に速く流れる中、競合他社との差別化に成功したとしても、その優位性は瞬く間に埋まってしまう。矢継ぎ早に新しい商品やサービスを企画しなければならないが、企画している間に競合他社が商品、サービスを提供し始めている。 ・MBO(Management by Objectives)では新たな商品やサービスは提供できない。我が社はOKR(Objectives and Key Results)を導入する! ・PDCAサイクルでは間に合わない。変化に対応するためにOODAループを活用する!  この様な声をよく耳にする。経営計画を実現するために、制度や仕組みを変更し、変化に対応していく体制を整えることは重要である。しかし、“経営戦略が下りてくるのを待ち、人事戦略を立てる”では間に合わない。先に記載した通り、長期的な経営戦略はこの様な時代では有り得ず、ビジネス変化に対応するために絶えず経営戦略を練り直さなければならない以上、人事戦略は経営戦略を先読みして作る必要がある。  人事部門に求められるものは、流動的な経営戦略にも対応できる人事戦略を立案することである。 つまり、“戦略は組織に従う”という考え方が非常に重要になってくる。 どちらが鶏でどちらが卵かではなく、人事戦略は経営戦略を実現するために立てられ、経営戦略は人事戦略に基づき立てる必要があると考える。  これからの人事部門の役割は、“経営のパートナー”としての役割が大きくなる。 しかし、企業が人を選ぶ時代は終わり、人が企業を選ぶ時代となった今、 “従業員のパートナー”であることも決して忘れてはならない。

「型破り」と「形無し」の違い | 人材開発

「型破り」と「形無し」の違い

 タイトルの「型破り」と「形無し」の違いを知ったのは、18代目中村勘三郎の言葉からだ。元々は無着成恭(むちゃく せいきょう)という僧侶が、子ども電話相談番組で「型破りと形無しの違いはなんですか?」という質問に対して、型がある人間が型を破ると「型破り」、型がない人間が型を破ったら「形無し」。と回答した内容となる。  歌舞伎の世界、芸事の世界では幼少期のころから徹底的に基礎を叩き込む。おそらく、その弛まぬ習練によって作り上げた基礎があるからこそ、「型破り」は見るものを魅了するのだろう。洗練された「型」の先にしか「型破り」は存在しないのである。  この「型」は人事制度においても存在する。会社1社1社に経営理念があり、事業規模も業種も様々ではあるが、人事制度に共通する点はないのかと問うと、そうではない。  例を挙げると、同業種、事業規模が同等の企業であれば、組織構成は類似し、給与水準は採用競争力の観点から同水準となる。また、社員に求める知識、スキルも同等であることを想定すると、教育体系は相似し、実施しなければならない研修も似るだろう。  では、人事制度の「型」をどの様に構築すればよいのか。それは適切なプロセスに沿って、人事制度を構築することになる。例えば、以下の様なプロセスで行う。 1.現状把握のための多角的な分析の実施 2.分析に基づいた問題・課題の抽出 3.人事制度設計方針及び領域別施策の検討 4.人事制度設計の構築  「ひらめき」や「勘」ではなく、事実に基づき、適切なプロセスに沿って人事制度を検討していくことを推奨する。抽出した問題や課題は企業によって様々ではあるものの、業種、事業規模、現在の人事制度及び人事制度の運用状態などの観点から分析をすると、傾向があることに気が付く。その傾向から方針・施策を検討することで人事制度の「型」に行き着くのである。  人事制度を構築する上でも、この「型」は非常に重要となる。この「型」がなければ、会社の風土や慣習、経営理念に沿ったオリジナリティの高い人事制度を構築しても、それが正しいどうかの判断がつかない。「型」は新旧の人事制度の比較だけでなく、構築した人事制度が正しいか否かを判断するためにも重要な役割を果たすのである。  一方で、他社の人事制度改定の成功事例から、自社に合った人事制度を導入したいと考える企業もあるだろう。インターネットで検索をすれば、他社の成功事例を目にする。オリジナリティに富んだ、様々な人事制度が存在している。ここで注意をしなければならないのは、成功した企業の事例が絶対の正解とはならない点である。成功した企業の事例を後から分析し、成功要因を抽出することは出来ても、再現性があるかどうかに疑問が残る。成功した企業と自社の状況が異なる以上、同じことを実行し、同じ様に成功するとは限らないのではないだろうか。  改めて伝えると、人事制度設計において重要な事は、適切なプロセスを徹底的に実行していくことである。他社の成功事例をそのまま自社に導入する「形無し」人事制度ではなく、現状の問題や課題を改善するための方針、施策に基づいて人事制度の「型」を固めた上で、社員の従業員満足度や勤続意向を向上させるための「型破り」な人事制度を構築していく。  オリジナリティのある人事制度、洗練された人事制度を構築するために、まずは「型」から固めなければならないのである。

その人事制度、機能していますか? | 人事制度

その人事制度、機能していますか?

 Google検索やChat GPTを使用することで、人事制度の設計の仕方、ポイント、様々な人事制度の事例などを知ることができ、人事担当者の皆さまも様々な情報を参考にし、人事制度について調べられているのではないでしょうか。  しかし、人事制度が機能しているかどうかの指標、検証の仕方など、どの指標が上がれば人事制度が機能しているかを教えてくれるサイトは、ほとんど見かけることはなく人事担当者の皆さまを悩ませているものの1つだと思います。  人事制度が機能している状態を検証する指標として、利益、生産性、社員エンゲージメントと、多くの企業はこの3つの指標から、人事制度が機能しているかどうかを判断しています。果たして、この指標が向上すれば人事制度が機能していると言えるのでしょうか。  例えばですが、外的要因によって利益が向上した場合、人事制度が機能した結果と言えるのか?というと、明確に機能したとは言えません。 ヒット商品が生まれたことにより、利益が向上し、その結果1人当たりの生産性が向上するようなケースも同様ですし、利益を賞与として社員に多く分配した結果、エンゲージメントが向上した状態も、人事制度が機能した結果であるとは言えません。  では、どの様な指標を設ければよいのか。この指標の話をする前に、まず、人事制度が機能する土壌が育まれているかが非常に重要となります。  具体的には、3つのポイントがございます。   ・人事制度設計の背景と目的(コンセプト含む)を、社員が理解し、浸透している   ・人事制度の運用に対して、経営層が本気で取り組んでいる    (その姿勢が社員に伝わっている)   ・管理職層(評価者)の教育が行き届いている  この3つが満たされていると、自ずと人事制度は機能します。その上で、人事制度が機能しているかどうかを検証する手段として、相関関係を用いた検証方法があります。  具体的な例として、評価制度が機能しているかどうかにフォーカスを当てて説明を致します。設定条件として、評価制度は、バリュー評価、行動評価(役割評価)、業績評価を実施している企業とし、人事制度の目的を“チャレンジする風土の醸成”とします。  バリュー評価が、チャレンジする風土の醸成につながっている。この場合、バリューを体現しているかどうかから、風土の醸成まで様々な要因があるため、バリュー評価結果の向上=チャレンジする風土の醸成とは言えません。そこで、下記の様な設問を設けて相関関係を検証します。   ≪原因指標:結果の原因がどこにあるかを示唆する指標≫     ①私はバリュー評価に納得している     ②私は行動評価(役割評価など)に納得している     ③私は業績評価に納得している   ≪結果指標:目的を達成するための施策(ここでは評価)の状況を測定する指標≫     ④私は当社で働くことで、自分の可能性を発揮できている   ≪期待効果:チャレンジする風土の醸成を測定する指標≫     ⑤私は難しい課題や今まで経験していなかった新しい業務に取り組めている。  原因指標内、原因指標と結果指標、結果指標と期待効果の間で強い相関関係が認められれば、バリュー評価がチャレンジする風土の醸成に統計的に有意な結果となったと言えます。  実は、人事制度が機能しているかどうかを判断する“単独の指標”は存在しません。今回ご紹介した検証方法や、”ROIEC逆ツリー”(内閣官房 非財務情報可視化研究会,第6回人的資本可視化指針(案),2022,p39)の様に、指標を設けるだけでなく、しっかりと要素分解を行い、論理的、構造的に関係性を説明できるようにすることにより、人事制度が機能しているかどうかを判断することができるのです。  人事制度は設計3割、運用7割とも言われていますので、しっかりと運用を行わなければ、意図した目的から逸れてしまいます。改めてお伝えしますと、人事制度が機能しているかどうかを検証するポイントは、   ・人事制度が機能するための土壌が育まれていること   ・目的を達成するための要素分解を行い、論理的、構造的に関係性を説明できること この2点が重要となります。  それでは最後に。貴社の人事制度は機能していますか?