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招聘

執筆者: 森 大哉 雇用

 「私は顔認証技術の研究において誰にも引けを取らない。私の能力を最大限に活かせるポジションを、貴社は提供できるのか。」
 東京の理系大学院で研究活動を行う留学生たちが企業に投げかけるのは、こんな質問だ。昨年、年の瀬が押し迫るころに某大学が主催した、中国企業による中国人留学生向けの合同就職説明会での風景である。いま、中国企業は、外国に留学している学生の中から優秀人材を掘り起こそうと、非常にフットワークの良い採用活動を展開している。

 学生からの質問に対する企業側の反応も、日本の合同説明会とはやや様子が異なる。
「当社のAI開発技術は世界でトップクラス、君の顔認証技術研究は必ず当社の戦略に役立つでしょう。CV(履歴書)は持ってきましたか。具体的な条件の話をしましょう。」
「当社が求める人材は、あなたのプロフィールとは異なります。あなたの時間を無駄にしてはいけません。他の会社のブースを訪ねてみてください。」
 試みに、採用担当者のひとりに尋ねた。貴社はいったい何年間、この学生を雇用しようと思うのか。返ってきた答えは、「長く勤めてもらおうと思っている。長ければ長いほどよい。4年でも5年でも・・。」我が国の雇用慣習に比べると、ダイナミクスが違う。

 日本企業の新卒採用では、周知のとおり、終身雇用を前提とする採用が主流である。終身雇用は、新卒学生の40年あまりのキャリアにコミットするということだ。定年退職者が会社を去り、新卒社員を迎える、それ以外の新陳代謝は限られる。晴天に霹靂を聞くような経済環境変化に見舞われようが、雪崩のような技術革新が起ころうが、同じメンバーで何とかやっていかなければならない。だから、日本の企業では入社後に仲間とうまくやっていける能力を重要視する。面接官が最も重要だと考えるチェックポイントは「コミュニケーション能力」だそうだ。

 グローバルな競争に勝ち抜くためには、雇用に関するこうした考え方を変えて行かざるを得ないだろう。各企業の成長段階に合わせて、必要なタイプの人材を過不足無く雇用することが重要課題になってくる。人材が不足すれば競争力を作れない。必要でない人材を抱えれば次の成長への投資余力を稼げない。おまけに、肝心の人材要件が、技術の進歩や社会の変化によって目まぐるしく変わっていく。需要と供給の交点で雇用が決まる「市場型」の雇用システムが主流を占める時代は、私たちが想像するより早いスピードで訪れるのではないかと想像する。このような時代を見据えて、活発な新陳代謝を前提とした人事施策を取り入れていく覚悟が不可欠だ。

 就中、新卒採用活動においては、大きな変化が求められる。有名大学の卒業生ならばおよそ質が確保されているからと、できるだけ偏差値の高い大学に広く募集をかけて、コミュニケーション能力で絞り込み、相対的に良さそうな学生をとりあえず採用する。あとは会社の教育システムとOJTに任せる。こんなやり方では、きっと立ち行かない。
 まずは、「長期的な」という枕詞の後にあやふやな人材像をイメージすることを止め、短期・中期的視点での具体的な能力要件を定義する。そして、あらゆる手段を講じてピンポイントの人材を探しに行き、絶対的にマッチする人材を発掘する。そういった姿勢が必要な時代がやってくるだろう。

 中国企業による留学生向け会社説明会は、盛況のうちに終わった。某先進IT企業の採用担当者は、「いつでも東京に足を運びます。次の機会にも必ず声をかけてください。」と、流ちょうな日本語で言い残した。中国語で「雇用」のことを「招聘」というのだそうだ。

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プロフィール

森 大哉 (もり ひろや)

代表取締役 シニアパートナー

早稲田大学法学部卒業。三菱重工業株式会社に入社し、労務管理・海外調達関連業務に従事。同社在職中にニューヨーク大学経営大学院修了。その後、トーマツコンサルティング株式会社に入社。戦略・組織コンサルティング業務を経て、同社パートナー就任。続いて、朝日アーサーアンダーセン株式会社にて、人事組織コンサルティング部門の部門長として数多くの組織変革を支援。同社パートナーを経て、現職。

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