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大峯 竜次

column
人の成長に必要なこと | 人材開発

人の成長に必要なこと

 皆さんは人の成長には何が必要だと思いますか。  いろいろな答えが浮かびますが、私の答えは、「様々な人と会話をすること」、「会話を通して相手の良さ、自分の良さに気づくこと」の2つです。  なぜ、その2つなのかですが、そう答えた理由は、これまでの自身の経験に基づいています。 私は30代前半で、企業人事の管理職から人事コンサルタントになりました。今でこそ、人事コンサルティング会社のシニアマネージャーという肩書で仕事をしていますが、転職間もないころは、人事コンサルタントの仕事をうまく自分のものにできずに苦しんでいました。上司からは、何度も会議室に呼び出され、「このまま成長の兆しが見えない場合は、この仕事を続けていくのは難しい、別の仕事を考えたほうが君のためだ」と、何度も言われて、途方にくれていたことをよく覚えています。  あるとき、私は東北の建設会社で人事制度見直しの提案を行う機会がありました。その当時、私の上司は多くの案件を抱えていたこともあり、私への最後のチャンスの意味も含めて、この提案を担当させたのだと思います。現地でのプレゼンテーションは、提案内容をしっかり伝えることで精一杯だったせいか、あまり印象に残っていません。しかしプレゼンテーションを終えた後、先方の社長・役員から、プレゼンテーションの内容について、質問を受けて回答したことは鮮明に覚えています。なぜなら、その受け答えについては、自分でもはっきりとこれまでとは違って自信を持って回答でき、お客様に納得いただけたという手ごたえを感じることができたからです。  なぜこのとき私は、自信をもって受け答えができたのでしょうか。  実は、この提案までに、コンサルタントとして思うような活躍ができていない状況を打破するには、どうすればよいのか、ずっと思案していました。しかし、自分だけで考えてもなかなか明快な答えはでてきません。そこで、「学校の先生は授業を通して生徒に教わる」という話を思い出し、それなら「コンサルタントはお客様との関係づくりで成長できる」のではないかと考えました。そこで、その時担当していた他のお客様と、会話をする機会を積極的に増やすことにしました。そして、お客様が望むことは何かを可能な限りキャッチアップしました。会話の際には、情報のキャッチアップだけでなく、会話自体のコントロールの仕方(話の切り出し方、会話の間の取り方、声の強さ、相手の思考を支援する質問内容、会話を今何分しているかといった時間管理等)を、意識して行ったことを覚えています。 改めて振り返ると、この活動を通して、「情報」・「思考」・「受け答え」といった、ビジネスで重要となる要素を、会話という真剣勝負の機会で鍛錬できたことが、提案後の受け答えがしっかりできた理由だと思います。  提案が終わり、空港で上司と反省会を行いました。これまでは反省会ではダメな点を指摘されることがほとんどでしたが、この時は、プレゼンテーションと受け答えについて、特に受け答えがとても素晴らしかったとほめてもらえました。私が今もコンサルタントを続けていられるのは、試行錯誤しながらも周囲との会話からコンサルタントとしてどうあるべきかを学び、実践したことと、その結果、上司にほめてもらうというポジティブなレビューを受けて、自身の強みに気づけたからです。  もう20年以上前の話になりますが、その時に感じた「受け答えの妙が自分の強みになるかもしれない」という思いを信じて、その後も継続して一つ一つの会話を大切な成長機会としてとらえ、自分の仕事の型を確立することができました。今では、お客様からどのような問いかけがあっても、およそ望ましい答えを外さないで的確に話をする自信を持っています。  私は、現在、教育研修の仕事をしています。私の研修では、これまでの自分の経験を踏まえて、研修成果を感じてもらえるように、可能な限り、受講生と直接会話をする機会を設定しています。具体的には30分~1時間ほどの時間枠を使って、受講生一人ずつと個別の面談を行っています。そこでは、会話を通じて受講生の思いの強化や、思考の整理を支援すること、本人の強みにつながる良い点は何かを、なるべく具体的に伝えることを心がけています。多くの方との個別面談は大変ですねと言われますが、当時の私のように、面談の場で伝えたことが、その人の成長につながるかもしれないと思いながら、一つ一つの面談を大事に行っています。