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社宅制度の現状<br />~物価差補填システムとしての意味合い~ | 関連制度設計

社宅制度の現状~物価差補填システムとしての意味合い~

 「社宅制度」とは、会社が社員の住居を提供する制度です。また、社宅には大きく分けて2種類あります。1つは「借り上げ社宅」で、会社がマンションやアパートなどの賃貸物件を会社名義で借り上げている社宅です。2つ目は「社有社宅」で、会社がマンションやアパートを1棟単位などで購入し、会社の資産として保有している社宅です。  社宅制度の主なメリットとして、例えば転勤する社員にとっては物件探しの手間が削減されて比較的な安価な家賃で入居できるので、スムーズな転勤がしやすくなることです。そして会社としては、例えば社員に対して住居の保証があるので転勤やそれに伴う異動を実施しやすくなります。  ところが社宅制度は減少傾向にあります。 図表1:社宅・寮の保有状況の推移 出典:労政時報 第3911号 参考1「人事労務諸制度実施状況調査」に見る社宅・寮の保有状況推移      注1)本調査は2013年の調査 注2)調査対象:全国証券市場の上場企業(新興市場の上場企業も含む)3432社と上場企業に匹敵する非上場企業(資本金5億円以上かつ従業員500人以上)304社の合計3736社。 注3)調査時期2013年1月7日~3月11日  社有社宅の保有企業数の減少が特に顕著です。社有社宅を保有する企業は90年代は6割を超えていましたが、2000年を境に減少し続け2013年時点では半減しています。社有社宅を保有することで、不動産資産なので固定資産税などの税負担が発生すること、そして老朽化対策のための修繕費や建て替え費といった維持管理費用がかかることなどが減少を加速させている要因です。  一方で借り上げ社宅は、社有社宅ほどの大幅な減少傾向を示していません。借り上げ社宅は、会社にとっては固定資産税や修繕費の要素が無いため、比較的社有社宅より維持管理費用が安価です。借り上げ社宅制度はむしろ近年若干増えています。  社宅制度は転勤や異動に伴う社員の居住地の物価差を補填し、実質賃金の平等性を担保することができるメリットがあります。  物価を考慮した賃金を実質賃金と言います。例えば、物価が低い地域から高い地域へ転勤した際、転勤後も同じ給与である場合は実質的に給与減額になってしまい、社員間の「実質賃金」の平等性が担保されていません。これは「住居」においても同様のことが言えます。  図表2は、2021年度の「消費者物価地域差指数」における、「住居」に関する地域別の物価水準です。消費者物価地域差指数とは、「全国平均を基準(=100)とした場合に、各地域の物価水準を表した指数」です。物価水準が高い東京都と低い香川県を比較すると、「住居」費目に極めて大きな差があります。 図表2:2021年消費者物価差指数の「住居」費目 出典:総務省「消費者物価地域差指数」-小売物価統計調査(構造編)2021年(令和3年)結果-    10大費目別消費者物価地域差指数(都道府県) 注)「住居」費目を抜粋している。(住居の指数値が最も高い東京都と、最も低い香川県を抜粋)  東京をはじめとする都市部への一極集中が再び加速しています。総務省「住民基本台帳人口移動報告」によると、東京都の転入超過数は2022年が始まってから増加傾向にあり、現状、新型コロナウイルス禍前の水準に戻りつつあります。特に東京23区の都心の物件は常に需要が高く、今後も家賃などが上昇していく可能性が高いです。そういった都心部への転勤を伴う異動が発生する場合は、物価差を補填するために社宅制度を整えることが社員にとっては望ましいです。  社宅制度の導入・継続・廃止を検討する際、「社員の実質賃金の平等性が担保されているのか」という観点を持ち合わせることが大事です。また、都市部への一極集中が加速しつつある現状を踏まえると、都市部と地方の物価差がより広がりますので制度の定期的に見直すことを忘れてはなりません。 以上

新卒社員の離職率<br />~企業のキャリア教育に対する責任とは~ | モチベーションサーベイ

新卒社員の離職率~企業のキャリア教育に対する責任とは~

 新卒採用しても一戦力化する前に離職してしまうという課題を抱えている人事担当者の方は多いのではないでしょうか。日本はゼネラリストとして育成することを前提とした採用が中心のため、一人前として成長する前に離職となると企業にとって大きな損失となります。離職防止策として初任給の引き上げが行われることも多いですが、社員がモチベートされる理由は賃金以外にも様々な理由があります。そのため、各企業は賃金以外についても課題がないか実態を把握する必要があります。  新規大学就職者の3年以内離職率は企業規模が大きいほど低くなるものの、最も離職率が低い1,000人以上の企業でも約25%と4人に1人は入社3年以内に退職しており、非常に高い傾向にあります。企業規模が大きくなるほど退職率が低くなる理由としては、大企業ほど社員への雇用責任が強く求められ、雇用者が手厚く守られているということが挙げられます。 (図表1:新規大卒就職者の企業規模別3年以内離職率(平成30年3月卒)) 出典:厚生労働省「令和3年 新規学卒者の事業所規模別・産業別離職状況」を加工して作成  そして、最も離職率の低い大企業でも約25%もの新規大卒就職者が退職しているということは、採用の際に企業側と学生側で職務に関するミスマッチが起きていると考えられます。  現に、自己都合退職した20~24歳の離職理由として、「満足のいく仕事内容でなかったから」が約4人に1人おり、「賃金が低かったから」を若干上回ります。この背景として、日本におけるキャリア教育は不十分であり、実際に働くことを想定した講義は多くないということが挙げられます。キャリア教育が不十分な結果、仕事を通じて実現したいことは何か曖昧なまま就職活動を行い、働くにつれ「想像していた仕事と違う」となった結果、離職に繋がっているのです。企業側も、新卒一括採用で一度に多くの候補者の中からポテンシャルを重視して採用することも多く、その人が本当に適性や業務遂行する十分な能力を有しているのか正確に判断することは難しい状況です。 (図表2:20~24歳における自己都合退職者の離職理由) 出典:厚生労働省「令和2年 雇用の構造に関する実態調査(転職者実態調査)」を加工して作成注)上記データは「最終学歴」「直前の勤め先での就業形態」「現在の勤め先での就業形態」による区分はされておらず、また、新卒者以外も含まれる。  また、20~24歳の転職者が今の勤め先(転職後の勤め先)を選んだ理由として最も多く、約半数を占めるのは「仕事の内容・職種に満足がいくから」です。「自分の技能・能力が活かせるから」が次に続いていることからも、就職前ではなく働き始めてから、自らの適性や仕事を通じた目標などキャリアが明確になり、新たな環境を選択する社員が増えていると推察されます。 (図表3:20~24歳の転職者における今の勤め先を選んだ理由) 出典:厚生労働省「令和2年 雇用の構造に関する実態調査(転職者実態調査)」を加工して作成注) 上記データは「最終学歴」「現在の勤め先での職種」「現在の勤め先での就業形態」「事業所規模」による区分はされていない。  職務に関するミスマッチを減らすために、企業・教育機関は連携して、学生が働くことに対して向き合う機会を積極的に提供しなければなりません。例えば、長期休暇期間だけの補助業務や体験業務のような短期インターンシップだけではなく、より実務に近い業務を担う長期間のインターンシップ制度を充実させることで、企業・学生共に適性を把握することができます。また、学校は働くことを意識した講義の充実に加え、学生がインターンシップで認識した不足しているスキルを補えるような環境を整備しなければなりません。 また、採用担当者は、選考段階から入社後に担う職務と目指すキャリアゴールを説明しなければなりません。説明するためには、どのような方針をもとに人事制度が制定されているのか採用担当者は理解を深める必要があります。そもそも人事制度のコンセプトと会社方針が連動していない場合は人事制度そのものを見直さなければなりません。経営目標を達成するにはどのような人材が求められ、各人材群はどのようなキャリアを描くことができるのかが整理されて初めて、採用すべき人材が明確になります。  新卒社員の離職率を下げるためには賃金以外にも、「どのような能力を発揮し、キャリアを歩んでもらいたいのか」という企業側の思い、そして、社員一人ひとりの「職務を通じて達成したい目標」の双方が合致するよう、採用までの在り方を見直さなければならないのです。 以上

健康寿命とシニア人材<br />~シニアの活躍こそ日本の成長につながる~ | モチベーションサーベイ

健康寿命とシニア人材~シニアの活躍こそ日本の成長につながる~

 ひと昔前までは60歳で定年退職し、退職金をもらいその後の余生はゆっくりすごしたいと思っていた方も多かったのではないでしょうか。高年齢者雇用安定法が令和3年に改定され、70歳までの就業確保措置を講じることが企業の「努力義務」となりました。今後働き続けるためには、本人にとっても、そして企業にとっても健康であることが前提です。今回は健康寿命について解説してまいりたいと思います。  図表1は平均年齢と健康寿命の推移を示しています。「健康な人」というのは、全国から無作為抽出された国民を対象に,「あなたは現在,健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」の質問対して,「ない」と回答した人のことになります。  健康年齢を男女別で時系列に推移をみると、男性は2001年に69.4歳でしたが、2019年には72.68歳上昇、そして女性は2001年には72.65歳でしたが、2019年には75.38歳と75歳を超えています。また男女の差は、女性のほうが健康寿命が長い傾向はかわらないものの、2001年に男女で3.25歳あった差が、現在2.5歳とその差が縮小しています。平均年齢と健康寿命ともに上昇傾向にあり、平均年齢と健康寿命の経年の差に大きな変化は見られませんが、健康寿命に男性は約9歳、女性は約12歳を加えた年齢が平均寿命で推移しています。このままの傾斜で推移すると、2030年の健康寿命は男性が約74歳、女性は約76歳となり、その差が縮まってきていくことが予測されます。 (図表1:日本の男女の平均寿命と健康寿命の推移) 資料:平均寿命については、2010年につき厚生労働省政策統括官付参事官付人口動態・保健社会統計室「完全生命表」、他の年につき「簡易生命表」、健康寿命については厚生労働省政策統括官付参事官付人口動態・保健社会統計室「簡易生命表」、「人口動態統計」、厚生労働省政策統括官付参事官付世帯統計室「国民生活基礎調査」、総務省統計局「人口推計」より算出。    図表2は、WHOが発表した2022年版の世界保健統計(World Health Statistics)による、各国の男女平均の健康寿命になります。最も長い国は男女ともに日本で、トップ3は日本、シンガポールや韓国とアジアの国が占めています。世界全体の健康寿命は平均63.7歳。 そのうち男性が62.5歳、女性が64.9歳となっています。日本は長期に渡わり労働力として社会で活躍できる人材が多いことを意味し、健康先進国といえます。 (図表2:各国の健康寿命ランキング(2019年)) 出典:WHO 世界保健統計2022年版に掲載されている健康寿命統計    日本では労働生産性の低さ、競争力の低下、労働力不足などが課題となっています。健康で長く活躍していくことは、労働力不足の解消にも直結することから、今後シニア人材の活用、活躍が期待されています。社会保障の財源の問題の解決、そしてなにより豊かな生活をするために働き続けなければならない個々人の事情もあります。 企業においては、シニア人材が活躍できる基盤の整備が遅れています。シニア人材は現役を引退し、活用が難しい再雇用者ということではありません。改めてシニア人材に対して求められる役割、スキルセットを明確にし、必要な教育を講じることで、配置の柔軟さを高め、シニア人材にとっても残りのキャリアを充実した時間としていくことが求められています。 以上

テレワークの現実<br />~コロナ禍の応急処置ではなく、働き方改革のためのテレワークへ~ | 人事制度

テレワークの現実~コロナ禍の応急処置ではなく、働き方改革のためのテレワークへ~

 コロナ禍以降、テレワーク活用が推進され多くの企業が導入してきました。しかし最近では、緊急事態宣言などの行動制限もないため、出勤形式に戻している企業も増えてきているとの報道もあります。ワーク・ライフ・バランスの充実や、多様な働き方の実現による労働力の確保、移動コストの削減など、テレワークによる「働き方改革」への理解が浸透してきた一方、出勤してはならない事情がある際の「応急処置」として考えている企業が多いのではないでしょうか。  従業者数別でのテレワーク実施状況を見ると、従業者数による差が顕著です。 特に、100~299人規模では、「導入していないし、具体的な導入予定もない」が約半数を占めます。 大企業であれば、導入に際してのコスト面や、人員が十分にいることなどからスムーズな導入が可能であるが、中小企業においてはコスト面、人材面からも難しいと言われています。 また、テレワークに移行できる仕事だとしても、コロナ以前の業務の進め方をいきなり変更するということは文化的にも難しいという側面があるかもしれません。 (図表1:従業者規模別テレワーク実施状況) 出典:総務省 令和3年通信利用動向調査  テレワークを導入している企業で、テレワークを利用する従業者の割合は、100~299人規模では5%未満が最も多く、そもそものテレワーク導入自体が少ない中、導入していても利用はかなり限定している様子がうかがえます。2000人以上の規模の企業では従業者の10~30%のテレワーク利用が最も多くなっています。テレワークを導入しているからといって、すべての社員がテレワークをしているわけではなく、一部の社員に限定したり、職種によって使い分けている状況でしょう。会社の実情に合わせて適宜適切な利用法の検討の余地はありそうです。 (図表2:従業者規模別テレワークを利用する従業者の割合) 出典:総務省 令和3年通信利用動向調査    テレワークを導入していないと回答した企業で、テレワークを導入しない理由としては、「適した仕事がないから」という理由が最も多いですが、次いで多いのは「業務の進行が難しいから」です。業務進行の難しさを解決するためには、まずは業務プロセスの見直し、標準化やシステム化といったことで解決できる余地はあると考えます。例えば、会議や面接もWEBで行い、紙文化をデジタルに移行し電子印鑑を使用するなど、プロセスの見直し、システム化によって、今まで「テレワークに適していない」と思い込んでいた業務がテレワークでも可能となるかもしれません。 ((図表3: テレワークを導入しない理由) 出典:総務省 令和3年通信利用動向調査  現在、テレワークを導入していない企業は中小企業に多く、また、テレワークを導入している企業においても、今後出勤形態に戻す企業も出てくるでしょう。多様な働き方の実現からの労働力不足の解消、無駄な時間を省くことで生産性を向上し、それが社員の働きやすさにつながる一助にもなることを踏まえ、すべてをテレワークに置き換える必要はなく、テレワークでできること、できないことを精査することが重要です。テレワークへの理解を促進し、適切な利用について、働き方改革の視点から検討する必要があるのではないでしょうか。 以上

コスパに注目して戦略的な人材確保を<br />~給与が下がっても転職する中高年~ | 関連制度設計

コスパに注目して戦略的な人材確保を~給与が下がっても転職する中高年~

 企業の人事担当者からはよく、「離職防止のため、魅力ある給与水準を実現したい」「競合に劣らない給与水準を教えて欲しい」といった相談を受けます。労働者の転職理由に目を向けると、より良い給料が欲しいという経済的動機が強いようです。そこで今回は、給料を求めて離職・転職した労働者が、実際に転職後に高い処遇を得ているのか、調べてみました。  総務省の統計によると、2019年の年間の転職者数は351万人であり、過去の水準を若干上回り、最高値をマークしました。労働人口全体が徐々に少なくなっている中での転職者数の微増ですので、労働市場の流動化がじわじわと進んでいるといえましょう※1。各企業が自社の従業員の離職防止に取り組んだり、新たな人材確保の選択肢として中途採用・経験者採用をより重視したりすることは、今後も重要な施策と言えます。  年代別の動きで特徴があるのは55歳以上です。55歳以上の転職率は年々微増傾向にあり、2019年に過去最高値に達しています。この層は労働人口全体に占めるウエイトが大きく、各企業が高齢化や中高年余剰に悩むようになり、早期退職制度等を活用したセカンドキャリア選択を打ち出しています。今後も、これらの施策による企業からの中高年に対する流出圧力は一定程度かかるものと考えられるため、増加傾向が続くでしょう。 図表1:転職者数の推移 出典:総務省『統計トピックス No.123 増加傾向が続く転職者の状況 ~ 2019 年の転職者数は過去最多 ~」  転職者が転職をする理由を調べると、最も多いのは「より良い条件の仕事を探すため」です。より細かく調べると、最も多いのは「人間関係」次いで「休日等労働条件」「給料」です 。この傾向には業種による差が見受けられます※2 。例えば、建設業・卸売小売り業などでは「給料」を理由とした離職が最も多く出ています。建設業では、建設需要の増加に対応し、各社が給料を上げることで労働者を確保しようとした傾向が影響しています。一方、卸売小売り業では、業界全体の給与水準が高くなく、労働条件も厳しい企業が多いため、どうしても処遇に目が行きがちであり、良い給料を求めて流動する傾向があります。いずれにしても、「給料」は労働者の離職・転職の動機となる重要な項目であると言えます。  そこで、転職により処遇が本当に上がっているのか、調べてみました。年齢を問わず集計すると、転職により賃金が増加した割合が39%、変わらない割合が20%、減少した割合が40%です。処遇改善を求めて転職する労働者は多いものの、実際には賃金が減少している割合の方が若干多いのが実情です。年齢別では、増加した割合と減少した割合の差は、20代~30代前半が多く、40代では拮抗しています。50代以降は減少する割合の方が多く、年齢を重ねる程、良い条件での転職が難しくなることを示しています。 図表2:転職前後の賃金変化 出典:厚生労働省『令和2年雇用動向調査』  少子高齢化が進み、若年層が少なく、中高年が余剰傾向にあることから、需給の関係により若年層が求められがちです。ここで、少し視点を転換し、人材採用の視点で少し議論をしたいと思います。中長期的に安定した経営が見通されるインフラ企業や超大企業では若者を大量に確保し、育成していく採用方針が合うでしょう。しかし、企業のおかれる状況や成長フェーズにもよりますが、変化の激しい時代を生き残るためには、20年30年かけて育成し、雇用し続けることよりも、3~5年の中期的視点で必要なスキルを必要なタイミングで、適切な価格で調達することが重要になるケースも多いでしょう。  若年層は、中高年層との相対的な比較では採用コストが高いうえ、経験が短く育成も必要であり、ランニングコストもかかります。さらに、彼らは再度転職活動をすれば処遇が上がる可能性も高く離職リスクも抱えています。一方、中高年層は、多少賃金が下がる転職も許容している実態から見ると、採用コストが相対的に低く、その時点で持っている経験やスキルを発揮してもらえれば十分と考えれば、育成コストも低く済みます。  もちろん、大前提として年齢にかかわらず、会社が求める素養や能力や経験を見極める必要はありますが、効率的に必要な人材を確保する観点で、中高年層を上手く活用するのも一手でしょう。 以上 ※1.総務省「統計トピックス No.123 増加傾向が続く転職者の状況 ~ 2019 年の転職者数は過去最多 ~」より。定年・契約終了、会社都合、出向など、雇用契約上の理由や会社都合の理由を除く。 ※2.厚生労働省「雇用動向調査 入職者/性、産業(大分類)、就業形態、転職理由別入職者数」(2020年)

副業は増えているのか?<br />~「多様で柔軟な働き方」の幻想~ | 関連制度設計

副業は増えているのか?~「多様で柔軟な働き方」の幻想~

 近年、「副業」というワードをよく耳にするようになりました。2018年に厚生労働省作成のモデル就業規則から「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という副業を禁止する文言が削除されるなど、従来の働き方からの変革が求められています。企業は、従来の働き方や就業管理と真剣に向き合わなければなりません。  日本における副業者数は徐々に増加傾向にあるものの、雇用者全体に占める割合は低く、副業という働き方はまだ一般的ではありません。副業者が増加傾向にある背景の一つには、一つの会社で定年まで勤めあげるという会社中心の考え方から、各自のライフスタイルやキャリアプランに合わせて柔軟に働き方を選択する労働者中心の考え方にシフトしていることが挙げられます。しかし、人数は増えているものの、2017年度における雇用者に占める副業者の割合は2.2%と、まだ副業は浸透していないことが分かります。 図表1:雇用者に占める副業者数 出典:総務省統計局「昭和62年~平成29年 就業構造基本調査」を加工して作成注1)本グラフにおける副業者は、本業・副業どちらも雇用者として従事している者を指し、自営業者もしくは家族従業者として従事する者は含まない。 注2)雇用者には「会社などの役員」である者を含む。 なお、コロナウイルス感染症拡大後に新たに副業を始めた人の割合は2.6%(※注・※注2)と、短期的には増加していますが、長期的な観点からはコロナウイルス感染症をきっかけに副業が広まっているとは言い難い状況です。  そして、所得階層別の副業率には、極めて大きな特徴があります。所得階層別に3区分すると、高い層(1,000万円以上)と低い層(199万円以下)の副業率は高いのです。高い層は、高度な専門技術やスキルを有しており、労働市場で人材不足となっている層であることから、スキルを活かす場が多いことが挙げられます。また、低い層は、非正規社員の占める割合も多く、より収入を得るために複数の仕事を掛け持ちされています。その結果、他の所得階層よりも高い数値となっています。  一方、ボリュームゾーンとなる中間層(200~999万円)の副業率は低く、特に400~599万円において2.1%と低い結果となっています。日本において副業を推進していくには、このボリュームゾーンの人々の副業率をいかに上げることができるかが重要なポイントとなります。 図2:所得階層別の副業者数 出典:総務省統計局「平成29年 就業構造基本調査」を加工して作成注)本グラフにおける副業者は、本業で雇用者として従事している者を指し、自営業者もしくは家族従業者として従事する者は含まない。 注2)雇用者には「会社などの役員」である者を含む。  ボリュームゾーンとなる中間層の副業率が低い理由の一つとして、企業の副業に対する制度の整備が進んでおらず、対応が遅れていることが挙げられます。「平成26年度 兼業・副業に係る取り組み実態調査事業 報告書」(中小企業庁委託事業)では、「副業を推進している」と回答した企業は0%、「推進していないが容認している」と回答した企業は14.7%のみという結果でした。また、2021年に行われた「第4回 コロナウイルス感染症影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(内閣府)では、「副業が許容されている」と回答した就業者は26.7%のみであり、過半数以上の企業において副業制度が整備されていない、もしくは従業員へ制度が浸透しておりませんでした。  副業の対応を進めるにあたり、企業は労働日数や労働時間に柔軟性を持たせるなど、フルタイム雇用に頼る従来の就業管理方法からの脱却が求められています。また、企業側が制度を整えるだけではなく、労働者側も柔軟な働き方に対応できるよう意識改革をしなければなりません。時代に即した就業管理へアップデートできているか、そして、従業員が柔軟な働き方を受け入れることかできるのか、経営方針や事業内容と照らし合わせながら、今一度見直す必要があります。 以上 ※注)出典:内閣府「第2回 コロナウイルス感染症影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」 ※注2)本業・副業ともに雇用者以外の者も含む。

DX人材戦略<br />~IMD世界デジタル競争力ランキングから考える日本企業の課題~ | 関連制度設計

DX人材戦略~IMD世界デジタル競争力ランキングから考える日本企業の課題~

 近年日本ではDX(デジタルトランスフォーメーション)について試行錯誤していますが、まだまだ課題が多いのはご承知の通りだと思います。推進するためのポイントはどこにあるのでしょうか。  海外と比べ、日本はIT・DXについては遅れていると言われています。スイスに拠点を置くビジネススクールIMD(International Institute for Management Development:国際経営開発研究所)が発表した、IMD世界デジタル競争力ランキング2021によると、日本は全64カ国中28位であり、これは過去最低です。 図表1-1:IMD世界デジタル競争力ランキング 出典:「IMD World Digital Competitiveness Ranking」(IMD世界デジタル競争力ランキング)  このランキングは、デジタル競争力に影響を与える要因を「知識」、「技術」、「将来への備え」の3つに分類し、各要因に関する52の基準・指標に基づいて算出されています。 人事領域に関わりが深い「知識」にフォーカスをすると、日本においては特に、国際経験が最下位の64位、デジタル/技術スキル(デジタルスキルを持った人材の割合)は62位で「弱み」と言えます。逆に教育評価、生徒・教師の比率、R&Dへの公的支出といった教育研究面の整備については他国と比較して上位に位置していますが、これが各企業のDX推進につながっていると言えるでしょうか。 DX推進のためには、このランキングを各企業が自社のこととして、「最新のデジタル技術スキルを習得できるよう育成しているか」、「海外経験を踏ませているか」、「外国人技術者を採用しているか」など、推進に向けた自社の人事領域の把握を早急に進めなくてはなりません。 図表1-2:IMD世界デジタル競争力ランキング 要因と基準指標 出典:「IMD World Digital Competitiveness Ranking」(IMD世界デジタル競争力ランキング)  実際に企業はDX推進の課題をどう捉えているのかを見ると、日本では人材不足が過半数を超えており、アメリカ、ドイツと比べても圧倒的に多い状況です。やはり人材不足の問題は深刻なようです。 図表2:DXを進める際の課題 出典:総務省(2021)「デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究」  一括りに「人材」と言っても、具体的にはどのような人材が必要なのか? 以下のアンケート結果によると、「変革リーダー」「業務改革プロセスを牽引できるビジネスパーソン」「ビジネスデザイナー」が上位であり、技術者よりもDXを主導し、デジタル技術を事業に活用できる発想を持つ人材の必要性がここに見えます。 デジタルをどう事業に活かすかという知識、経験を持ち、革新的な発想ができる人材は肝であり、大きな採用・育成課題ということです。 図表3:With/アフターコロナ時代に生き残るため、貴社がDX領域で採用・育成を強化すべき人材像 出典:日経BP総合研究所 イノベーションICTラボ DXサーベイ2   (「With/アフターコロナ時代に生き残るため、貴社がDX領域で採用・育成を強化すべき人材像はどれですか」に対する回答結果)  今後のビジネスモデル構築は、デジタル技術活用、DXありきとなってくるでしょう。それはアナログデータや業務工程のデジタル化だけではなく、デジタル活用による新たな価値創造のことです。自社がDXによって、社会にどのような変革を起こせるのか、そこにはどのような人材が必要となるのかを明確にし、固定概念を打ち砕き、システム部門のみならず全社的に新たな発想ができる人材の育成や、大胆な人材採用推進していく必要があります。 以上

変わる家族手当<br />~支給条件の見直しや廃止~ | 関連制度設計

変わる家族手当~支給条件の見直しや廃止~

 少し前までサラリーマンの家族は、正社員の夫と専業主婦、子ども2人の4人家族モデルが一般的でした。しかし、結婚、出産、働き方など人生の選択が多様化し、家族の姿は大きく変化しています。2022年版の男女共同参画白書では、家族の姿は「もはや昭和ではない」と表現されました。  一世帯あたりの平均人数は、1960年の4人から2020年には2人に激減し、単独家族世帯が全世帯の38%を占め最も多くなりました。また、夫婦と子どもの世帯は、2020年には全世帯の25%まで減少し、家族といえば「夫婦と子ども」という概念が大きく変わってきています。(図1、2) 図表1:一般世帯と平均世帯人員 出典:総務省 国政調査 図表2:家族の姿の変化 出典:総務省 国政調査  企業における家族手当についても廃止や支給条件の見直しが行われています。家族手当は、配偶者や子どもなどの家族がいる社員に対して、その家族構成や人数などの条件に応じて支給される手当です。人事院の調査によると、家族手当制度がある事業所の割合は2021年時点で74.1%、そのうち、配偶者に対する家族手当を支給する事業所の割合は55%(全事業所を100とした場合)となっています。過去からの推移をみると、子どもに対する家族手当は維持されつつ、配偶者に対する家族手当は廃止傾向です。(図3) 図表3:家族手当の採用率 出典:人事院各年の職種別民間給与実態注)調査配偶者に家族手当を支給しない事業所の割合は、家族手当制度がある事業所の従業員数の合計を100とした割合である  制度の変化の背景には、家族の姿の変化とともに、その時々の社会の慣習や経済情勢の変化が影響しています。家族手当は欧米には見られない制度です。日本では大正時代から既にあったとみられ、生活給の一部として普及してきました。その後、核家族化が進み、正社員の夫と専業主婦・子どもの家族モデルのもと、「社員の家族が世間並の生活を」「子ども2人を大学まで卒業できるように」といった福利厚生の要素が加わりました。  1990年代に入って、「賃金は労働の質と量で決まる」という成果主義の広がりから、家族手当見直しの動きが始まります。また、労働人口が減少する中、多様な人材が活躍できる環境の整備が求められるようになります。「世帯主に限定して支給されることが多い家族手当は、女性に不利な賃金である」「家族手当や国の税・社会保障の仕組みが、専業主婦や配偶者の就業調整につながっている」ことが指摘され、配偶者に対する家族手当の支給見直しにつながります。さらに、子どもに対する家族手当については、少子化対策として、配偶者分の原資を振り替え、支給額を増加する企業も現れました。今後も、同一労働同一賃金など社会の要請に合わせて見直しが行われるでしょう。  家族手当が賃金に占める割合は高いものではないですが、その維持・支給条件の見直し・廃止の意思決定は、その時々の社会からの問題提起や社会課題に対する企業の姿勢を示しているものとも言えます。既存制度の見直しは、「かわいそう」という思考が先に立ち、消極的な意思決定になる場合があります。社会の状況を正確に理解しつつ、自社が大切にしたい軸を起点とした意思決定をし、それをきちんと社員にメッセージとして伝えていくことが、社員の共感や会社の魅力につながっていくのではないでしょうか。 以上

望ましい労働時間・生産性に向けて<br />~長時間労働の抑制がなければ生き残れない時代へ~ | 人事アナリシスレポート®

望ましい労働時間・生産性に向けて~長時間労働の抑制がなければ生き残れない時代へ~

 日本のサラリーマンの労働時間は長い、と言われています。OECDが取り纏めているデータベースによると、労働者の1人当たりの年間平均労働時間は、2020年時点で、日本が1,621時間に対して、ドイツでは1,284時間、フランスでは、1,320時間です(※1)。ここで示す労働者にはパート・アルバイトなどの非正規雇用も含まれ、厳密な国際比較はできませんが、日本では非正規割合が他国よりも高いのにも関わらず、年間平均労働時間が長いことから、やはり日本のサラリーマンは長い時間働いている、という感覚の確認はできるでしょう。  残業時間削減に向けた取り組みとして、平成22年(2010年)には、月間60時間を超える法定外超過勤務時間に対して、割増率を1.25倍から1.50倍に引き上げる法改正がなされました。中小企業はこれまで13年間もの間、猶予されてきましたが、令和5年(2023年)4月から対象となります。労働法改正や、各企業の取り組みにより、労働時間は若干の減少をしているものの、正社員1人当たり、年間2時間程度の削減に留まっており、大幅な削減とはいいがたく、継続した取り組みが必要です(※2) 。  企業規模別の時間外労働(平均時間)をみると、いずれの規模においても、30時間未満、10~20時間未満の企業が過半数を占めることが分かります。一方、今回の規制に抵触する60時間以上の割合、ギリギリラインである50~60時間の割合は(図表1、濃い赤・赤)は、1,000名以上規模でも若干みられる他、100~299名未満規模において他の規模より多くなっています。 (図表1:平成28年9月時間外労働(平均時間)(規模別)) 出典:『労働統計要覧(D 労働時間)』厚生労働省 (mhlw.go.jp)  経団連の2020年労働時間等実態調査によれば、時間外労働時間は年々減少傾向にあります。2019年では、年間の時間外労働時間平均が360時間未満(月平均30時間未満)の企業が90%を超えています。ちなみに、製造業と非製造業を比較すると、非製造業の方が残業時間は長い傾向にあるが、非製造業でも84.2%の企業において、年間の時間外労働時間の平均は360時間未満です。 一方で、母集団に占める割合は低い(2019年時点では0.4%)ものの、年間の時間外労働時間平均が720時間以上(月平均60時間以上)の企業も存在し、これらのほぼ全ては中小企業です。2023年4月の法改正による、中小企業における60時間を超える残業代の割増率の猶予期間終了は、これらの企業の人件費単価に対してインパクトを与えます。 図表2:時間外労働時間(一般労働者) 出典: 一般社団法人 日本経済団体連合会『2020年労働時間等実態調査』  中小企業庁による、「長時間労働に繋がる商慣行に関するWEB調査」(平成30年)によると、長時間労働に繋がる主な商慣行上の理由は3つです。①納期のしわ寄せ(前工程の遅れが下請け企業のしわ寄せとなることによって生じる短納期)②受発注方法(川下の取引先に対し過度な要求をすることによって生じる多頻度配送、在庫負荷、即日納入など)③特定業界に依存することによる特定時期の過度な繁忙(売上が特定企業や官公庁に偏重することにより、年末年始などの一時期に業務や納期が集中すること)(※3)  こうした状況に置かれるのは、交渉力が弱い小規模企業である下請け企業が多いです。状況の是正のためには、適正な業務運用ができるだけの交渉力を持つことや、特定の企業・取引先に売上を依存しない取引先のポートフォリオ適正化が必要です。  また、ビジネスモデルの特性上、大きな繁閑の差が生じることが致し方ない場合、人事管理の観点では、現有人材の時間数を長くすること(残業)による業務処理ではなく、短期の有期雇用や人材派遣活用など、人員数・ポートフォリオのコントロールによる業務処理を検討し、現有人員の人件費単価ではなく、人員数による業績連動コントロールも必要です。  日本では、企業数が非常に多く、同業界内で大企業から中小企業へ商流が多重構造になっていることも、下流企業で業務量や納期に無理が生じる主要な要因です。生産性向上のため、統合やM&Aによる業界内の産業構造の見直しも必要でしょう。  生産性向上できない企業は、人件費単価増に苦しむこととなります。また、法整備により他の企業の労働環境が改善されることで、職場・労働環境の魅力の観点から、労働力の流出リスクもあり、改善は急務です。 以上 (※1) OECD Database http://stats.oecd.org/index.aspx?datasetcode=anhrs “Average annual hours actually worked per worker” 2021年11月現在 注:データは一国の時系列比較のために作成されており、データ源及び計算方法の違いから特定年の平均年間労働時間水準の各国間比較には適さない。フルタイム労働者、パートタイム労働者を含む。 (※2) 総労働時間の推移 https://https://www.transtructure.com/hrdata/20201201/ (※3) 中小企業庁『長時間労働に繋がる商慣行に関するWEB調査結果概要と今後の対応』 https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/koyou/2019/190201jinzai01.pdf  

伸びない女性管理職割合・男女差が埋まらない育児休業率<br />~女性活躍推進への一歩は意識改革と即実行~ | モチベーションサーベイ

伸びない女性管理職割合・男女差が埋まらない育児休業率~女性活躍推進への一歩は意識改革と即実行~

 社会における女性活躍を軽視している人はいないでしょう。様々な手で女性が活躍できるようにと努力がなされています。しかし、実際の女性の活躍、男女の雇用機会均等の実現は想像以上に厳しい道のりです。  管理職に占める女性の割合は女性活躍を測る重要な指標の一つです。そして大きなライフイベントの一つである出産・育児についてもキーポイントとしてとらえる必要があります。  管理職に占める女性の割合は緩やかな上昇傾向ではありますが、男女雇用機会均等が実現しているとは言い難いのが現状です。特に実務の中心を担う部長、課長相当職の女性割合の低さが顕著であり、いかに女性管理職が生まれていないのかがわかります。  データで見ると、最も高い係長職に占める割合でも17.9%、部長相当職に占める割合にいたっては6.2%といまだに10%にも満たない状況です。 図表1: 企業規模30人以上における役職別女性管理職割合の推移 出典:厚生労働省「雇用均等基本調査」注1)平成23年度は岩手県、宮城県及び福島県を除く全国の結果  女性の活躍が進まない背景の一つの理由として出産・育児があげられるのではないでしょうか。育児休業を取ることができる労働環境は必須ですが、いまだに男性は育児休業を取りづらい、取るべきではないという意識があるのではないかと推察します。  育児休業者率の推移データを見ると、女性は平成19年度以降、80%を超える水準で推移していますが、男性は平成29年度に5%を超え、そこからやや上昇、令和2年度は12.7%となっています。依然として男女での差が大きい状態が続いており、男性の育児休業取得が進んでいないことがわかります。 図表2:育児休業取得率 出典:厚生労働省「雇用均等基本調査」注1)平成22年度及び平成23年度の比率は、岩手県、宮城県及び福島県を除く全国の結果  また、この育児休業取得率を産業別に見ても、男女の差は明らかです。  金融業,保険業が男性の取得率で最も高く30%を超えていますが、女性のとの差は50%以上です。電気・ガス・熱供給・水道業の男性取得率が最も低く、2.95%という状況です。業種による人材流動性の高低や雇用環境、職種など様々な要因がありますが、男女の差がなく、かつ高い水準であることが理想でしょう。 図表3:産業別育児休業取得率 出典:厚生労働省「雇用均等基本調査」注1)平成30年10月1日~令和元年9月30日に出産した者又は配偶者が出産した者のうち、調査時点(令和2年10月1日)までに育児休業を開始した者(開始の予定の申出をしている者を含む。)の割合  労働力不足の中、多様な人材の活用が必須の現代で、女性が活躍できないことは大きな問題です。これを脱却するポイントは、男性・女性、既婚・未婚、子どもを持つ・持たないに関わらず、優秀な人材の育成と登用、働く環境の整備をしていくことです。育児休業に限って言えば、まずは企業として男女関わらず育児休業を取ることや、復帰後も活躍することはごく普通のことであるという意識改革、そして社員に子どもが生まれたら育児休業を勧めるような、即時実行が必須です。  また、企業側の努力のみならず、働く側の意識改革と実行が重要です。男女の雇用機会均等は、家事分担や育児分担がなされていることが前提です。特に共働き世帯では、家事や育児について家庭でストレートに話し合い、育児をしながらも活躍できる、または活躍するという意識を持つことで、道は拓けていくでしょう。  誰もが平等に活躍できる社会の実現は、意識改革からの実行にあるといえます。 以上

業績好調企業における希望退職制度の導入<br />~頓服薬から常服薬へ~ | 関連制度設計

業績好調企業における希望退職制度の導入~頓服薬から常服薬へ~

 バブル崩壊やリーマンショックなどの急激な景気悪化局面や、コロナ禍のような外部環境の変化に伴う経済活動縮小局面において、企業は頓服薬を服用するように、雇用調整施策、いわゆるリストラを実施してきました。  景気悪化による赤字をいち早く脱却すべく雇用調整をすることは当然ながら、近年特に、予防策的に黒字下であっても人員数や人員構成をコントロールする方策を持っておくことの重要性は高まってきています。  図表1は、失業者のうち、会社都合による失業者の割合を経年で示した折れ線グラフです。会社都合による失業とは、倒産や事業所の閉鎖等による失業の他、退職勧奨など経営上の都合により退職を進められて退職をした場合などが含まれ、セカンドキャリアを自主的に選択することなどを目的に恒常的に設けられている制度などを利用し、労働者が自主的に退職を決断した場合は含まれません。  日本企業において、早期退職に関する議論が最初に興隆したタイミングはバブル崩壊後です。バブル崩壊までは、日本の経済は右肩上がりに成長を続けていました。また、労働市場には団塊世代と呼ばれる人口ボリューム層を中心に労働者の数自体が多かったため、各企業が積極的に雇用拡大をしていたのです。業績拡大に対応すべく数多くの社員を抱えていた状況下で、経済危機に直面し、雇用の在り方や、企業の雇用責任とは何か、ということが議論されるようになったのです。  グラフはその後の失業者の推移を描写していますが、平成21年のリーマンショック時までは右肩下がりです。その後、リーマンショックの影響による倒産や事業整理、応急処置的な経営効率化により会社都合による失業者の割合が急増しました。さらにその後、コロナウイルス感染拡大による人流制限が生じるまでは右肩下がりであり、令和2年には一時的に増加しているものの、かつてよりは低い水準に収まっています。 図表1:失業者のうち会社都合による失業者の割合 出典:厚生労働省「労働力調査(長期時系列データ)」  主要な上場企業における早期退職募集状況を経年で見ると、やはり、リーマンショックが生じた平成21年、コロナウイルス感染が拡大した令和2年は実施社数、募集人数共に突出しています。人員数の圧縮による人件費抑制を目的とした応急処置的な雇用調整だと考えられます。一方で、その間の平常時においても一定数実施されています。  さらに、令和2年に早期退職を実施した企業のうち、凡そ40%超の企業の通期の損益は黒字です。赤字企業が早期退職を募集する主な目的は、業績悪化に対する緊急対応であり、従前から行われてきたものです。一方、黒字企業が早期退職に踏み切るのは、先を見通した上で、先行的な改革を目指しているためです。先行型の早期退職実施の経営上の目的として良く挙げられるのは、人員構成の歪の是正、業務の効率化・生産性向上、年功主義の解消などです。 図表2:主な上場企業 希望・早期退職募集状況 出典:東京商工リサーチ  当社が人事制度設計で携わる企業においても、恒常的な人員数と人員構成のコントロールの施策として、早期退優遇制度(セカンドキャリア支援制度)を設計したいというニーズは強く、これまで以上に重要性・緊急性が高まっているように感じます。  背景には、やはり絶えず変化する経済状況に対する危機感や、業務効率や生産性の向上による人員数の余剰感、ビジネスモデルの高度化により社員に求めるスキルの種類が変化すること、会社内の人員構成の歪みなどがあります。特に、多くの会社で高齢化が進み、中高年の社員に多いのですが、新しいビジネスモデルや環境変化のスピード感についていくことが難しい社員を、このまま活用し続けることが難しいと考える企業も多くなっています。今後10年を見通して現在の歪な人員構成を是正するための、最後のタイミングだと言えるでしょう。  今後は、環境変化についていけない企業にとってはより厳しい時代となるでしょう。各企業は、環境変化になんとか対応しようと、必要なスキルを必要な時に調達せざるを得なくなります。これに伴って、労働市場の流動性もより高まるでしょう。長期雇用を前提とした企業内の人材ポートフォリオを、時代にあった形に是正すべく、雇用調整施策を常備する傾向は今後も続くのではないでしょうか。 以上

人事の数字管理に役立つ人事指標<br />~外部データを活用して継続的観察を~ | 人事アナリシスレポート®

人事の数字管理に役立つ人事指標~外部データを活用して継続的観察を~

 定期的に健康診断を受診することは健康管理上非常に重要です。しかし、医療機関における網羅的・専門的な検診や人間ドックの受診時だけでなく、日々、検温等で自己の体調を管理・把握することも重要です。  企業においても同じであり、定期的に網羅的で専門的な目線でチェックを受けることが望ましいが、日々、自己管理できれば尚良いでしょう。そこで、今回は、人事が自社の状態を把握するために活用できるデータと、その使い方を紹介します。 (図表1:法人企業統計調査の見方) 出典: 財務省 財務総合研究所「法人企業統計調査 財政金融統計月報822号」    財務省の財務総合研究所が発表している、業種別・資本金規模別の資産・負債・純資産及び損益計算書には、付加価値額や人件費、人員数が掲載されています。これらの数字を使って、自社と同規模・同業種の平均的な労働分配率や労働生産性を知ることができます。 労働分配率は、人件費を付加価値額で割ることで求められます。労働生産性は、付加価値額を従業員数で割ることで求められます。  労働分配率・労働生産性は同規模・同業種の企業間であってもビジネスモデルによっては数字の出方が異なることは考えられます。外部データと自社水準の差がある場合、例えば、同業種の中でも特殊な製品を扱っているため他社より○○費が嵩むなど、その理由に説明がつくことが望ましいです。一方、外部水準と乖離している理由が分からない場合、合理的な理由で無い場合には是正施策が必要となります。 (図表2:賃金構造基本統計調査の見方) 出典: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」    労働分配率の高低・労働生産性の高低を把握すると、自社の人件費の単価が妥当なのか否かが気になってきます。そこで活用できるのが、厚生労働省が発表している、賃金構造基本統計調査です。従業員数によって区分された企業規模別、製造業・建設業などの業種別や、男女別、大卒・高卒などの学歴別、年齢別、部長級・課長級などの役職別等、多岐に渡る分類ごとに、月収や賞与の水準が公開されています。 「決まって支給される給与」が、手当や残業代等も含めた月収合計の水準であり、年間賞与等の金額も明らかにされています。決まって支給される給与の12倍に年間賞与額を加算することで、年収水準も知ることができるのです。  こうして求めた外部の水準と、自社の各属性の月収・賞与・年収の水準を比較して自社の給与水準が高いのか低いのか、言い換えれば労働市場に対してプロテクトが効いているのか、把握することができます。  自社の人事の定量的な状況を知るために、まずは入手可能なデータを活用し、簡単な分析を継続的に行うことで自社の状況の観察をしてください。そして、一定期間ごとにより網羅的・専門的な分析をすることで問題課題の発見や施策展開につなげることが望ましいです。  具体的には、例えば今回紹介した外部データと自社内のデータを掛け合わせることで、社員のパフォーマンス別に望ましい処遇ができているかという人事制度上の問題課題を見つける分析や、中長期的に人件費や人員数がどのように推移するのかといった将来予測シミュレーション等さまざまな分析に応用できます。  適切な現状把握は経営判断・健全な人事管理の重要な土台となるものですから、まずはできる範囲で、そしてより多面的・専門的に分析をする必要があるのです。