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HR DATA

労働分配率
~市場環境の影響と企業の配分戦略~

2022年11月のレポート(「労働分配率~人への分配の好循環に向けて~」)では、業種や企業規模による労働分配率の水準の違いについて解説しました。今回は、全産業の労働分配率の最新の推移を検証し、特徴的な産業ごとの動向を比較分析します。

まず、直近12年間の全規模・全産業における労働分配率の推移を見てみます。

【図表1:全産業・全業種 労働分配率、付加価値、人件費】

法人企業統計調査 時系列データ 全産業、全規模より筆者作成

2013年から2018年にかけて労働分配率は約66%まで低下しましたが、2020年には71%に上昇しました。その後は再び低下傾向を示し、2023年まで減少が続いています。この変動は、2018年までの世界経済の好調、2020年の新型コロナウイルスの影響、そしてその後の経済回復によるものです。付加価値と労働分配率は逆の動きを見せており、人件費の変動幅は付加価値に比べて小さく、景気上昇期にも関わらず、人件費の増加は抑制されています。

次に、安定成長を示している情報通信業の推移を詳しく見てみましょう。

【図表2 情報通信業の労働分配率、成長率、付加価値、人件費】

出典:法人企業統計調査 時系列データ 情報通信業より筆者作成

集計期間中、全産業の労働分配率の平均は65%であるのに対し、情報通信業は平均62%と、全体平均に近い数値を示しています。付加価値、成長率、人件費のいずれも、基準とする2012年以降で増加しており、情報通信業が成長産業であることが分かります。社会全体での積極的なIT投資の影響で、2020年もコロナ禍の影響を受けずに成長を続けています。人件費の上昇は、AIやデータサイエンス分野の技術者の獲得競争が激化していることが主な要因で、今後もさらに増加が予想されます。このように、情報通信業では人的投資と付加価値が相互に依存する関係にあるといえます。

次は、コロナ禍の影響を大きく受けた娯楽業を検討します。

【図表3 娯楽業の労働分配率、成長率、付加価値、人件費】

出典:法人企業統計調査 時系列データ 娯楽業より筆者作成

娯楽業の労働分配率は平均63%で、情報通信業や全産業の平均に近い水準です。ただし、集計期間全体を通じて各指標の変動が激しく、新型コロナウイルスの影響を大きく受けた不安定な市場であることがわかります。それでも、付加価値に応じた適切な人件費コントロールが行われている点が特徴的です。しかし、人口減少やスマートフォン普及の影響により、娯楽業は産業として縮小傾向にあり、今後も低成長が見込まれます。このような状況下で各企業が付加価値を高めるには、コンテンツ開発、技術インフラ整備、ブランド構築などの取り組みが必要であり、それを推進するための人材採用が重要です。

企業が労働分配率を意識して管理することは、持続可能な経営において重要です。人件費への適切な配分により賃金水準を高め、社員のモチベーションややりがいを向上させるには、そもそも付加価値を高める必要があります。

今回の2つの産業比較から、付加価値を高めるには、不確実性や外部ショックへの耐性を強化することの重要性が明らかになりました。企業は将来を見据え、自社のビジネスモデルやコア領域を見直し、持続的に付加価値を向上させる事業戦略を策定するとともに、それを支える人材ポートフォリオを構築していくべきです。
以上