投稿日:2025.01.27 最終更新日:2025.01.27
企業規模別年収水準比較
~令和5年 中小は年収増、大企業は減少傾向~
従業員にいくらの給料を払うべきか、同業他社はどのくらいの給料を払っているのか、は人事管理上非常に重要な論点です。1つの拠り所として、厚生労働省の賃金構造基本統計調査が活用できます。この統計からは、毎年地域別や業種別、職階別、年齢別など様々な角度から月収や賞与の支給実態を把握できます。今回は、令和5年度の調査結果から、企業規模による年収水準の違いや過年度との比較について解説します。
まずは令和5年度の年収水準につき、概観を解説します。図表1では、いずれの年齢階層においても、年収の低い順に10~99名規模、100~999名規模、1000以上規模との順番は過年度から変わりは有りません。企業規模別の年収水準に大きな差が付くのは30~50代です。小規模企業では30代後半以降年収の伸びが鈍化し500万円弱で留まる一方、1,000名以上の大企業では50代後半まで伸び続け約730万円に達します。100~999名規模の中堅企業における年収のピークは50代後半で600万円弱です。
大企業・中堅企業では50代後半の年収が高い一方、60歳以降では大きく落幅しています。今後、シニア活用努力義務による定年延長と同一労働同一賃金によって現役世代と同等の年収水準を求められるようになる場合には、大きくコスト増となる懸念が高いと言えます。

図表2からは、企業規模が大きいほど年収が高いものの月収・賞与では差のつき方が異なることが分かります。月給は差が小さく、中規模企業は大企業の90%ほど、小規模企業でも80%程度です。一方、賞与で大きく差が付いており中規模企業では大企業の75%程度、小規模企業では55%程度です。小規模企業でも最賃や生活水準、採用競争力を考えると月給は下げ難いが、賞与は利益や企業体力に依存するため、生産性が高く利益も高くなりがちな大企業ほど多いと言えます。

出典: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和5年)に基づき作成
注:きま給とは、きまって支給する現金給与額の略であり、基本給、職務手当、精皆勤手当、通勤手当、家族手当などが含まれるほか、超過労働給与額を含む額面である。
続いて、図表3にて前年との比較を参照します。年齢階層により程度に差は有りますが、中規模・小規模企業では押しなべて3%程度年収が増加しており、全体的にベースアップしていると言えます。特に20代前半は初任給水準の改定の影響か、4%と明らかな増加がみられます。55歳以降も増加しており、同一労働同一賃金の意識の高まりや人手不足により雇用延長をするケースなど、シニアの処遇改善の結果だと推察できます。一方、大企業では、年収は年齢階層によっては減少が見られます。月給は微減です。大きく減少したのは賞与で、全年齢平均マイナス3.6%でした。大企業の賞与は、令和3年度から令和4年度の間に5%程度増加しおり、揺り戻しと見ることもできます。賞与は利益連動とすることが多いので、毎年秋に公表される法人統計企業調査など、営業利益等の業績指標の昨対比に注目したいところです。
出典: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和5年、令和4年)に基づき作成
月給は最低賃金や採用市場の競争、生活水準を考慮すると、賞与よりは企業規模による大きな差が付きづらいですが、賞与に関しては企業の体力と利益が直接反映されるため、大きな差が出ます。賃上げ議論が過熱する昨今ですが、健全な企業経営を持続し、利益を確保することが従業員の年収水準を向上させるための唯一の条件であると言えるでしょう。持続可能な成長を目指す企業経営が重要です。
以上