書籍
books
- 『職はインターネットにあり』
NTT出版 (1996.6) - 『ソシアル・リプレイスメント仮説』
ユー・ピー・ユ - 『人材育成とイノベーションの勘所40』
Independently published(2024.9)
©️ Transtructure Co.,Ltd.All Rights Reserved.
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シニアパートナー
PROFILE
東京教育大学理学部応用物理学科卒業。
ベンチャー企業経営、ウィルソンラーニング・ワールドワイド株式会社コーポレイト・コミュニケーション事業部長等を経験後、株式会社ライトマネジメントジャパンに入社。
人材フローマネジメントとキャリアマネジメントの観点から、日本企業の組織人材開発施策の企画・実行支援に数多く携わる。ライトマネジメントジャパン代表取締役社長を経て、現職。
開かれた場としての企業を
ともに創りたい
2025.09.12
「管理職の登用審査」に使われるアセスメント(=アセスメントセンター方式)を、「管理職候補者の育成」に使うことを前回提案した。アセスメントの利点である客観的な保有能力判断を用いることで、的確に管理職レディネス(=管理職になる準備ができている状態)の醸成が出来る。管理職手前の早い段階で、管理職能力として何が足りないかがわかれば、その後、個別計画的なOJTやOff-JTを組むことで能力伸長や弱点補強ができるからだ。 例えば、把握された強み弱みを踏まえて、上司が、その部下を管理職にすべく育成計画を組み権限移譲を含むOJTをすればいいし、共通して足りないスキルがあれば研修を組む、といった対象者の弱点の実態に即した効果的で計画的な管理職候補者育成が可能になる。 その際にもっとも大事なことは、まずは、本人が自身のアセスメント結果を「自分事」として腹落ちすることである。「分析力」はわりと良い点とれてるが、「創造力」はぜんぜんだめだな。「人材育成力」はイマイチの点だったな、などとテスト結果に一喜一憂するだけでは、まったく意味がない。自分事としての腹落ちとは、①問題に対して自分がどう答えたからこの評価点になったのだと「理解」し、②たしかに日常業務でもこの点は弱みだなと「納得」し、③是正のためにどう「行動」するかがわかっている、ということである。 この、①理解→②納得→③行動、を本人任せにしないで、きっちりとフィードバックを行うこと。いわば、「内省の強制」のイベントとしてのフィードバックが、アセスメント以降の育成の出発点として必須だと強調しておきたい。 それには、二つの方法がある。ひとつは、アセッサーによる個別フィードバック面談。実際の評定者だから、評点の理由はきわめて具体的に説明できる。加えて対話のなかで、本人の違和感や日常の課題感を聞き、演習行動との関係を意味づけさせることで、結果の腹落ちを促す。つまり、自身の業務の文脈でアセスメント結果を再確認させ、具体行動に結びつけることが、フィードバック面談の目的となる。 もう一つは、受検者集合型のフィードバックセッションだ。こちらは、ワークショップ形式なので個別面談のようなきめ細かさには劣るが、グループダイナミクスならではの「気づき」効果の大きさに優れる。たとえば、インバスケット演習であれば、いくつかの案件について、自身の回答を手元にもって、正解に向けてのグループ討議をする。講師の「この案件では何が問われ、どうすべきだったのか」という解説とともに、他者がどう考えどう行動したかを目の当たりにすることで、自身の不足や課題に如実に気づかされる。仮に、同じ管理職を目指す立場として、どうも自分は劣っていると体感したとしたら、その焦りは、以降の自己啓発の原動力にもなるだろう。 このセッションでは最後に、自己確認した能力課題に対して、以降の改善行動方針を作らせるが、そこでも、共有のなかで他者の方針に触れることで、自身に足りない視点に気づき、方針のブラッシュアップの場となるという効用もある。セッションを通じて、他者との考え方や着眼の違いに直面することが、ときに危機感をもった自己課題への気づきをもたらすわけである。 自分の能力課題は何なのか、それをどう解決するか。その切実な理解と自己啓発の意思がなければ、上司が考える計画的な指導も、きちんとした方法論やスキルの教育も、十分な効果は望めない。いま管理職としてなにが足りていないかが自覚できていて、それをどう解消していくかの意思と方針をもつこと。それが、管理職レディネスを高めるために不可欠な第一歩なのである。 「育成のためのアセスメント」を考えるコラム2回シリーズ。 「管理職レディネスをどう高めるか」(育成のためのアセスメント①) 「内省の強制」から始める(育成のためのアセスメント②)→今回 ※育成のためのアセスメント「スマートアセスメント」はこちら 関連セミナー申込受付中 【申込締切】2025年10月3日【公開期間】2025年10月9日~24日 【アーカイブ配信】「人材アセスメントを効果的に運用するには」
2025.07.28
管理職の登用審査には、アセスメントセンター方式が有効だと何回か書いてきたし、実際に使用する企業数も増えつつある。 ■「登用の失敗」はなぜおこるか(アセスメント活用の勘所①) ■外部視点評価を過信するな(アセスメント活用の勘所②) ■VUCAリーダーをどう見極めるか(アセスメント活用の勘所③) ただ、審査の合否判断にだけアセスメントが使われるのは、あまりにもったいないのではないか。いざ管理職になろうかとする際に、「あなたは、能力不足だからダメ」といわれても、能力はすぐにはどうにもならないし、失地挽回には1年後の再審査にかけるしかない。 審査ではなく、管理職「候補者」の育成のために、アセスメントを使ったらどうか。せっかくアセスメントでは「管理職としての能力発揮可能性」を評定できるのだから、もっと早く、たとえば管理職手前の等級に昇格した時点でそれが分かっていれば、審査までのあいだに、管理職へむけての成長に努められるからである。結果、候補者の能力の底上げができることになるわけだが、アセスメント先行実施の、より大きな効用は、「管理職レディネス(=管理職となる準備ができた状態)」が醸成できることだ。 シミュレーションを通じたアセスメントを受けることで、第一に、管理職業務のなんたるかを、きわめて具体的に体感理解できる。第二に、そうした業務における自身の(現在の)能力課題を知ることができる。現在はプレーヤー業務ではあるけれども、将来管理職になった際の「弱み」があきらかになっていれば、現状業務を通じてのその克服を、上司も本人も意識し実践できる。 では、こうしたアセスメント先行実施による育成を意図したとして、登用審査としてもう一度アセスメントをするのかどうか。もちろん、仕上がりをテストで確認するのが効果測定としては確実だが、必ずしもアセスメントを2回する必要はない。たとえば、以下の二つの方法がある。 1.先行アセスメント+社内審査 候補者に対して、審査の1年前にアセスメントを実施、その結果を本人、上司にフィードバック。自身の強み弱みを踏まえて、上位課題(個人ではなく部署の課題)を設定し、その解決のための行動計画を立案・実行。■上位課題のレベル ■計画の実践度合い ■能力課題およびその是正への取り組み、を面接(経営陣による)で審査 2.先行研修(シミュレーション研修)+アセスメント審査 管理職手間の等級への昇格者に対して、「アセスメントの原理を応用した管理職シミュレーション形式」の研修を実施。演習と解説、自己分析により、管理職業務の体感理解と自身の能力課題を把握。結果を上司と共有し、育成にむけたOJT(権限移譲含む)と自己啓発を計画化し実行。登用タイミングでアセスメント審査をうける。 いずれも、プレーヤーの延長ではない管理職という節目だからこそ、❝入学評価❞であるアセスメント(の原理)を管理職レディネスの醸成つまり管理職先行教育に使おうということである。加えて、②のアセスメントの原理を用いる研修は、階層別研修におけるブラッシュアップ研修でもさまざまに実施できることを付記しておきたい。 階層別研修は、通常、階層ごとにエントリー研修とブラッシュアップ研修を用意するが、前者は、当該等級昇格者向け、後者には、目的別に3種類ある。ひとつは、当該等級在籍者の能力・行動課題の是正目的のもの。評価情報分析による共通課題に基づく。もう一つが昇格候補者への研修。次の等級への準備研修であり、こちらは、上記②と同様に、上位等級での期待行動をシミュレーションのなかでの体感理解と自己分析によって、「昇格レディネス」の醸成ができる。併せ研修行動を観察・評価することで、「育成しながら見極める」こともできるので、この手のブラッシュアップ研修を階層別研修に組み込むことは、効果的効率的育成施策として推奨したい。 ちなみに、ブラッシュアップ研修の3つ目は、当該等級滞留者への研修。上位等級への昇格の見込みがない人々を、いかに戦略的にかつモチベーション高く稼働させるか。難易度の高い施策ではあるが方策はさまざまにある。今回のテーマには外れるので、別の機会に紹介したいと思う。 「育成のためのアセスメント」を考えるコラム2回シリーズ。 「管理職レディネスをどう高めるか」(育成のためのアセスメント①) →今回 「内省の強制」から始める(育成のためのアセスメント②) ※育成のためのアセスメント「スマートアセスメント」はこちら
2025.05.19
心理検査においては、被験者を理解するために、複数の検査を行うことを「テストバッテリーを組む」という。たとえば、知能検査と発達検査と性格検査等で多面的に診断することを意味し、性格検査も質問紙で本人が意識しているものだけではなく、よく知られるロールシャッハ検査で無意識領域での性格も把握したりする。被験者の心理特性を全体として正確に測定できなければ、適切な治療や支援ができないからだ。 2回にわたって書いてきたような登用判断における、社内評価の限界やアセスメント手法の効用と限界を踏まえれば、心理検査同様に、登用審査用のテストバッテリーを組むことが望ましい。まずは、自社の管理職者選定として、「何を見極めたいか」を明確にしたうえで、最適の❝テスト❞の組み合わせを用意する。管理職としての能力発揮可能性判断が必須であれば、センター方式アセスメント。加えて、貢献意欲やエンゲージメントレベルや経営に臨む姿勢を見たいのであれば、社内論文審査や役員面接審査も併用する。自社固有の知識の有無も必須であれば、その審査も加える。 ちなみに、社内審査を組むうえで大事なことは、見極めたい要件にあわせ、論文や面接のテーマ(問い)と要件別の評定基準をきちんと設計し、❝テスト❞として仕様化することだ。社内審査でありがちな印象バイアスを排除するためにも、「何を問い、何を判断するか」を面接する役員に任せたりしてはいけないのである。 前回指摘した、対人面の能力把握におけるアセスメントの限界を踏まえれば、審査用のテストバッテリーには、360度診断を組み込むことお勧めする。対人能力については、アセスメント結果と社内評価を比較検討することでもよいが、社内評価もまた「上からの評価」という限界がある。360度診断で集計される、日々直接接している部下たちからの対人能力評価こそがはるかに有効な情報であることは明らかだろう。 テストバッテリーを使う審査で大事なことは、すべてのテストをクリアした人だけが合格といった硬直的な運用をしないことだ。でこぼこがありつつも重要な能力がはっきりと高い人であれば、その弱点を補完する組織的な手立てを含めた登用判断をすればよい。要件別にそのレベルがみれるのでそうした判断をしやすいということが、テストバッテリーのいちばんの効用である。 ただ、ここにもまだ限界がある。あくまでも、判断できるのは「従来型のマネジメント適性」にとどまるということだ。既存の事業と組織を管理統制し、定まったゴールに向け人々を動かし組織成果を上げていくマネジメントであれば、まったく問題はないが、もしVUCA環境下で自ら新しい領域を切り拓くマネジメント能力を測りたいとなれば、これだけでは足りない。 ではVUCA対応能力をどうみるか。そのためには、イノベーティブな思考力を見極めるアセスメントが必要である。たとえば、同じ「課題解決力」と「リーダーシップ力」が高い人材であっても、「A=既存の事業や業務を堅実に遂行しうる組織リーダー」と「B=先が見えず不透明な状況下で新しい発想や従来とは異なる取り組みによる課題解決をリードしうる組織リーダー」を分けるものは、イノベーション適性の有無だからだ。 認知科学や創造性研究の知見によれば、イノベーション適性とは、 ■新しいことを始める能力(概念的に考える能力、創造的に考える能力、構想と現実を結びつける能力) といった思考特性に加えて、 ■人々と共創する能力(考えを語り合い、巻き込む能力) ■面白がる能力(好奇心もってモチベーション高く取り組む能力) といわれる。これらは、「行動」からの推察は難しく、アタマの中の思考過程や内発的動機をのぞかなければならないから、❝テスト❞を組むには工夫がいる。 こうした能力を検出する方法は、3つある。 ① 自在な視座・視野の拡張と思考の柔軟性をみるべくテーマを設計した論文審査 ② 過去の業務における変革や革新の経験を詳細に問う面接審査 ③ イノベーション適性を測る専用アセスメントの併用 上記の①と②は、社内審査では、回答から思考力を正確に測定するのは難しいので、❝専門家(アセッサー)が評定するテスト❞としての設計が必要になる。③については、我々が、イノベーション人材の発見・活用のために使っているツール(イノベーターズ・ディスカバリー)をテストバッテリーに組み込むことを推奨したい。上記のイノベーション適性である発散系の思考力(概念化、類推、発想など)や面白がって新しいことに取り組む資質(知的好奇心、内発的動機など)を評定できるからだ。 3回にわたって、アセスメント活用の留意を書いてきた。まとめれば、 ・「入学審査」たるべき登用審査には、センター方式アセスメントが有効な道具であること ・しかしその効用と限界を踏まえれば、社内審査を含むテストバッテリーを組むべきであること ・それにより、一律的硬直的ではない、個々人の能力プロファイルにあわせた登用判断ができること ・併せ、VUCA対応力を見極めるには、イノベーティブな思考力を測る工夫がいること 通底してもっとも大事なことは、「一般論ではなく自社の」、また「現在ではなくこれからの」、管理職者として何を見極めたいのか、をまず最初に明確にすることである。 ■「登用の失敗」はなぜおこるか(アセスメント活用の勘所①) ■外部視点評価を過信するな(アセスメント活用の勘所②) ■VUCAリーダーをどう見極めるか(アセスメント活用の勘所③)今回