第4回:動的ポートフォリオに耐える“人事制度” ――雇用、人件費、賃金をどう動かす会社なのか、という経営ポリシー - 株式会社トランストラクチャ

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第4回:動的ポートフォリオに耐える“人事制度” ――雇用、人件費、賃金をどう動かす会社なのか、という経営ポリシー

動的ポートフォリオを前提とした経営においては、事業構成も、人材構成も、固定された前提では成立しない。市場環境や競争条件が変化する中で、経営は常に「どの事業に、どの人材を、どれだけ張るのか」を継続的に見直すことを求められる。経営とは、一度定めた計画を実行する行為ではなく、資源配分を組み替え続ける意思決定の連続へと変化している。

この意思決定の帰結として、必ず問われるのが人件費である。

どの事業に、どの等級帯の人材を、何人配置するのか。その構成に単価を掛け合わせれば、人件費総額は自動的に算出される。人件費は経営判断の外側にある独立した数値ではない。事業構成と人材構成の選択を、そのまま写し取った結果である。したがって、人件費はもはや成り行きで受け止める「結果」ではない。経営としてどの水準を是とするのか、どの程度の変動を許容するのかを、あらかじめ前提として定めた上で管理すべき対象となる。

ここで重要なのは、人件費を「削るか、守るか」という二元論で捉えないことである。問われているのはコスト削減の巧拙ではない。変化の中で、人件費と賃金をどう動かす会社なのかという、より上位のスタンスである。

■人件費は「制度の運用結果」ではなく「経営判断の帰結」

動的な事業運営を行えば、必要とされる役割は必ず変わる。新しい事業に人を張れば、相対的に役割が小さくなる領域が生まれる。役割の重心が移動すれば、期待される貢献も変わる。貢献が変われば、報酬が変わる。この構造自体から逃れることはできない。動的ポートフォリオを本気で回すとは、この因果関係を前提に経営を行うということである。問題は、役割や処遇が変わること自体ではない。その変動を、企業としてどのように引き受けるのかである。

ある企業は、役割がなくなれば人も代謝するという前提に立ち、変動を労働市場に委ねる。ある企業は、雇用の継続を重視し、変動を社内で引き受ける。また、短期的な変動は抑えつつ、時間をかけて調整するという判断もあり得る。さらには、すべての人材に同じ変動を引き受けさせるのではなく、役割や期待水準に応じて引き受け方を分けるという選択もある。重要なのは、どの選択が正しいかではなく、自社はどの前提に立つのかを自覚的に選び、その選択を人材マネジメントポリシーと人件費管理と賃金制度に一貫して反映させているかどうかである。

■雇用・賃金・人件費をどう結びつけるのか

動的ポートフォリオを前提とする経営において、雇用、賃金、人件費管理は切り離して論じることができない。事業環境が変われば、役割が変わり、配置が変わり、人件費に変動圧力がかかる。企業は必ず、その変動をどこで引き受けるのかを決めなければならない。
雇用を維持することと、同一水準の賃金を維持し続けることは、本来、別の判断である。

役割が変わっても賃金を固定すれば、人件費は下方硬直化し、事業構成の変化に対応できなくなる。一方、役割の変化に賃金を連動させれば、人件費は事業構成に応じて調整可能な経営資源となる。ここで重要なのは、処遇の上下動そのものではない。処遇の上下動を、経営として前提条件とするのか、例外事象として扱うのかである。

一般に、給料が下がればモチベーションは下がる。これは個人の意識の問題ではなく、賃金が役割への期待や評価を象徴する以上、避けられない。したがって、「給料が下がってもモチベーションは下がらない」という前提で制度を設計することは現実的ではない。そのため、処遇が下がることによる組織への悪影響を避ける最も単純な解は、社外への移動を促すことである。とりわけ影響力の大きい層においては、この判断が合理的となる場面も少なくない。一方で、雇用維持を選択する企業においては、処遇が下がる人材を組織の中に抱える局面が必ず生じる。このとき賃金制度に求められるのは、処遇を固定することでも、下げることでもない。処遇が下がるという現実を、組織として管理可能な形に変換することである。

‐処遇の変動理由を個人評価ではなく役割の変化に限定すること。
‐賃金を「下げた」のではなく、「別の構成に移行した」と説明できること。
‐変動が不可逆ではない構造を持ち、「戻る余地」を制度として残しておくこと。

これらはすべて、人件費を「最後に帳尻を合わせる数字」としてではなく、事業判断の前提条件として扱うための設計である。

■経営として定めるべきこと

本稿で強調したいのは、制度の巧拙ではない。人件費と賃金を、どのように動かすことを是とする会社なのかという立ち位置を、経営として明確にすることである。この立ち位置が定まらないまま、等級を設計し、評価を整え、賃金制度を議論しても、それらは場当たり的な調整装置にしかならない。

人件費と賃金は、制度の問題である前に、経営判断の結果である。動的組織・動的ポートフォリオに耐える人事制度とは、制度が頻繁に変わることではない。人件費と賃金が、明確な人材マネジメントポリシーのもとで動く状態をつくることである。

その前提があって初めて等級制度、評価制度、賃金制度、キャリアマネジメントは、経営の意図と接続された形で機能し始める。